(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
車両の駆動システムにおいては、1両の車両に1台のモータを備え、このモータの動力を、減速機及びディファレンシャルギヤを介して車輪に伝える、いわゆる1モータ方式が主流である。
【0003】
一方、車両の駆動システムにおいて、各輪をそれぞれ個別のモータで駆動する多数台方式も検討されている。この場合には、各モータをトルク制御するために、モータとインバータを1対1で組み合わせて、それぞれのモータをインバータで可変速制御を行うことが一般的である。
つまり、例えば4つの車輪を持つ車両では、モータとインバータの組み合わせを4セット備え、各インバータで各モータを個別に制御する。
【0004】
また、簡単で安価な駆動システムとするために、1台のインバータに複数台の誘導電動機を接続して、並列運転を行うシステムも多く提案されている。
【0005】
ここで、1台のインバータに2台の誘導電動機を並列に接続して、ベクトル制御により誘導電動機の可変速運転を行う手法の一例を、
図9を参照して説明する。
図9に示す誘導電動機の駆動システムは、本願発明の発明者が、本願発明に至る前提として案出して検討したシステムである。
【0006】
図9に示す誘導電動機の駆動システムでは、ベクトル制御部1から三相電圧指令V
u*,V
v*,V
w*がインバータ2に送られると、インバータ2は三相電圧指令V
u*,V
v*,V
w*に応じた値の三相電流I
u,I
v,I
wを出力する。
【0007】
定格及び定数が同じになるように設計された2つの誘導電動機M
A,M
Bは、並列接続されている。即ち、誘導電動機M
A,M
Bのそれぞれの固定子巻線は、相ごとに並列に接続されている。
この誘導電動機M
A,M
Bに三相電流I
u,I
v,I
wが供給されて、誘導電動機M
A,M
Bが回転駆動する。
【0008】
エンコーダ3aは、誘導電動機M
Aの回転速度を示すモータ角速度ω
raを出力し、エンコーダ3bは、誘導電動機M
Bの回転速度を示すモータ角速度ω
rbを出力する。
角速度検出器4は、モータ角速度ω
raとモータ角速度ω
rbを基に求めた角速度検出値ω
rを出力する。角速度検出値ω
rは、モータ角速度ω
raとモータ角速度ω
rbのうちの一方を選択したものであったり、モータ角速度ω
raとモータ角速度ω
rbの平均値であったりする。
【0009】
ベクトル制御部1には、トルク電流指令I
q*、励磁電流指令I
d*が入力されると共に、角速度検出値ω
rと、三相電流I
u,I
v,I
wの電流値がフィードバックされる。
なお、トルク電流指令I
q*の値は、アクセル踏込量に応じた値になっている。また、励磁電流指令I
d*の値は、モータ速度が予め決めた設定速度になるまでは一定値であるが、モータ速度が予め決めた設定速度を越えると、速度が増加していくに従い減少していくように設定されている。
【0010】
本願発明者は、
図9に示す誘導電動機の駆動システムにおいて、2つの誘導電動機M
A,M
Bに速度差が生じた場合のトルク特性について、種々の試験・検討をした。
【0011】
なお、特許文献1(特開2011−130525号公報)には、2台の三相永久磁石型電動機(同期電動機)を1台の三相インバータで駆動する電動機駆動システムにおいて、一方の永久磁石型電動機の固定子の各相巻線と、他方の永久磁石型電動機の固定子の各相巻線を相ごとに直列接続し、三相インバータにより一方の永久磁石型電動機の固定子に電力を供給する技術が開示されている。
【0012】
特許文献2(実開昭53−153611号公報)には、2台の誘導電動機の固定子巻線を、開放スイッチを介して、相ごとに直列接続または並列接続し、この誘導電動機に対してインバータから電力を供給する技術が開示されている。
【0013】
特許文献3(特開2003−18887号公報)には、2台の永久磁石電動機(同期電動機)を1台のインバータで駆動する電動機制御装置において、2台の永久磁石電動機のそれぞれの固定子巻線を相ごとに直列に接続すると共に、この直列接続の一端にインバータを接続し、且つ、直列接続の他端を各相間で短絡接続する技術が開示されている。
【0014】
しかし、各特許文献1〜3には、1台のインバータで2台の誘導電動機をベクトル制御により駆動するシステムにおいて、ステアリング動作等により2つの誘導電動機の回転速度に差が生じた場合であっても、誘導電動機の性能を十分に発揮させることができる駆動システムは示されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
ところで、
図9に示す誘導電動機の駆動システム、即ち、1台のインバータに2台の誘導電動機を並列に接続して、ベクトル制御により可変速運転を行うシステムにおいて、2台の誘導電動機に回転速度差が生じた場合に、以下の問題が発生することが判明した。
【0017】
(1) インバータの出力電流が誘導電動機M
Aと誘導電動機M
Bに分流するが、2台の誘導電動機に回転速度差が生ずると、この電流分担がくずれる。この結果、どちらか一方の電流値がモータ許容電流を超過し、温度的に厳しくなることがある。
(2) 角速度検出値ω
rとして、モータ角速度ω
raとモータ角速度ω
rbのうち速度の高い方を選択した場合、他方の回転速度が低下するときには、比較的広い速度差まで対応できる。しかしこの場合には、総合トルクの減少割合が大きく、電気車に利用した場合は減速することになる。
(3) また上記(2)の場合、回転速度が低下する誘導電動機の方のトルクが高くなる傾向にあり、電気車に利用した場合にはステアリングに悪影響を与える。
(4) 以上の現象は滑りが小さい誘導電動機(二次抵抗が小さいもの)ほど顕著となるので、二次抵抗を低減して高効率化をした誘導電動機での適用は困難となる。
【0018】
このように、
図9に示す誘導電動機の駆動システムでは、両誘導電動機の回転速度に差が生じた場合には、
・ トルク分担や電流分担が均一ではなくなり、十分な性能が発揮できないことや、
・ 電圧制限や電流制限などから運転可能な回転数差に制限が生まれる、
という課題がある。
【0019】
本発明は、上記従来技術に鑑み、1台のインバータで2台の誘導電動機をベクトル制御により駆動するシステムにおいて、両誘導電動機の回転速度に差が生じた場合であっても、必要なトルクを発生しつつ電圧制限を受けることなく、誘導電動機を駆動することができる、誘導電動機の駆動システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記課題を解決する本発明の構成は、
三相電圧指令に応じた三相電流を出力する1台のインバータと、
前記三相電流が供給されることにより駆動する、第1の誘導電動機及び第2の誘導電動機と、
前記第1の誘導電動機の回転速度に応じた第1のモータ角速度を出力する第1の速度検出器、及び、前記第2の誘導電動機の回転速度に応じた第2のモータ角速度を出力する第2の速度検出器と、
前記第1のモータ角速度及び前記第2のモータ角速度を基に、角速度検出値を求めて出力する角速度検出器と、
トルク電流指令及び励磁電流指令が入力されると共に、前記三相電流の電流値及び前記角速度検出値がフィードバックされて、前記三相電圧指令を出力するベクトル制御部とを有し、
前記第1の誘導電動機の固定子巻線の一方の端子には前記インバータが接続されると共に、前記第1の誘導電動機の固定子巻線の他方の端子と前記第2の誘導電動機の固定子巻線の一方の端子は相ごとに直列に接続され、
前記第1の誘導電動機及び前記第2の誘導電動機を駆動運転する際には、前記角速度検出器は、前記第1のモータ角速度と前記第2のモータ角速度を平均演算し、この平均演算したものを前記角速度検出値として出力することを特徴とする。
【0021】
また本発明の構成は、
三相電圧指令に応じた三相電流を出力する1台のインバータと、
前記三相電流が供給されることにより駆動する、第1の誘導電動機及び第2の誘導電動機と、
前記第1の誘導電動機の回転速度に応じた第1のモータ角速度を出力する第1の速度検出器、及び、前記第2の誘導電動機の回転速度に応じた第2のモータ角速度を出力する第2の速度検出器と、
前記第1のモータ角速度及び前記第2のモータ角速度を基に、角速度検出値を求めて出力する角速度検出器と、
トルク電流指令及び励磁電流指令が入力されると共に、前記三相電流の電流値及び前記角速度検出値がフィードバックされて、前記三相電圧指令を出力するベクトル制御部とを有し、
前記第1の誘導電動機の固定子巻線の一方の端子には前記インバータが接続されると共に、前記第1の誘導電動機の固定子巻線の他方の端子と前記第2の誘導電動機の固定子巻線の一方の端子は相ごとに直列に接続され、
前記第1の誘導電動機及び前記第2の誘導電動機を駆動運転する際には、前記角速度検出器は、前記第1のモータ角速度と前記第2のモータ角速度のうち速い方を前記角速度検出値として出力することを特徴とする。
【0022】
また本発明の構成は、
三相電圧指令に応じた三相電流を出力する1台のインバータと、
前記三相電流が供給されることにより駆動する、第1の誘導電動機及び第2の誘導電動機と、
前記第1の誘導電動機の回転速度に応じた第1のモータ角速度を出力する第1の速度検出器、及び、前記第2の誘導電動機の回転速度に応じた第2のモータ角速度を出力する第2の速度検出器と、
前記第1のモータ角速度及び前記第2のモータ角速度を基に、角速度検出値を求めて出力する角速度検出器と、
トルク電流指令及び励磁電流指令が入力されると共に、前記三相電流の電流値及び前記角速度検出値がフィードバックされて、前記三相電圧指令を出力するベクトル制御部とを有し、
前記第1の誘導電動機の固定子巻線の一方の端子には前記インバータが接続されると共に、前記第1の誘導電動機の固定子巻線の他方の端子と前記第2の誘導電動機の固定子巻線の一方の端子は相ごとに直列に接続され、
前記第1の誘導電動機及び前記第2の誘導電動機を駆動運転する際には、前記角速度検出器は、
前記第1の誘導電動機に対する前記第2の誘導電動機の回転速度変化率が、予め決めた範囲にあるときには、前記第1のモータ角速度と前記第2のモータ角速度を平均演算し、この平均演算したものを前記角速度検出値として出力し、
前記第1の誘導電動機に対する前記第2の誘導電動機の回転速度変化率が、予め決めた範囲を外れるときには、前記第1のモータ角速度と前記第2のモータ角速度のうち大きいものを前記角速度検出値として出力することを特徴とする。
【0023】
また本発明の構成は、
三相電圧指令に応じた三相電流を出力する1台のインバータと、
前記三相電流が供給されることにより駆動する、第1の誘導電動機及び第2の誘導電動機と、
前記第1の誘導電動機の回転速度に応じた第1のモータ角速度を出力する第1の速度検出器、及び、前記第2の誘導電動機の回転速度に応じた第2のモータ角速度を出力する第2の速度検出器と、
前記第1のモータ角速度及び前記第2のモータ角速度を基に、角速度検出値を求めて出力する角速度検出器と、
トルク電流指令及び励磁電流指令が入力されると共に、前記三相電流の電流値及び前記角速度検出値がフィードバックされて、前記三相電圧指令を出力するベクトル制御部とを有し、
前記第1の誘導電動機の固定子巻線の一方の端子には前記インバータが接続されると共に、前記第1の誘導電動機の固定子巻線の他方の端子と前記第2の誘導電動機の固定子巻線の一方の端子は相ごとに直列に接続され、
前記第1の誘導電動機及び前記第2の誘導電動機を回生運転する際には、前記角速度検出器は、前記第1のモータ角速度と前記第2のモータ角速度のうち遅い方を前記角速度検出値として出力することを特徴とする。
【0024】
また本発明の構成は、
直列接続された前記第1の誘導電動機の固定子巻線と前記第2の誘導電動機の固定子巻線の結線状態は、Y結線またはΔ結線となっていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明の誘導電動機の駆動システムによれば、2つの誘導電動機に速度差が生じた場合でも、必要なトルクを発生させて、且つ、インバータの電圧制限を越えることなく、誘導電動機を安定して運転することができる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明に係る誘導電動機の駆動システムを、実施例に基づき詳細に説明する。
【0028】
〔実施例1〕
図1は本発明の実施例1に係る、誘導電動機の駆動システムを示す構成図である。本実施例は、この駆動システムを車両に適用したものである。
【0029】
この誘導電動機の駆動システムは、ベクトル制御部10と、インバータ20と、モータ群30と、角速度検出器40を主要部材として構成されている。
詳細は後述するが、ベクトル制御部10とインバータ20は、一般的に使用されている通常のものであり、モータ群30と角速度検出器40は、独特なものとなっている。
【0030】
ベクトル制御部10には、トルク電流指令I
q*、励磁電流指令I
d*が入力されると共に、角速度検出器40から出力される角速度検出値ω
r(詳細は後述)と、インバータ20から出力される三相電流I
u,I
v,I
wの電流値がフィードバックされる。
なお、トルク電流指令I
q*の値は、アクセル踏込量に応じた値になっている。また、励磁電流指令I
d*の値は、モータ速度が予め決めた設定速度になるまでは一定値であるが、モータ速度が予め決めた設定速度を越えると、速度が増加していくに従い減少していくように設定されている。
【0031】
滑り角速度算出部11は、トルク電流指令I
q*と励磁電流指令I
d*などを基に、すべり周波数ω
s を求める。
すべり周波数ω
s は、角速度検出器40から出力される角速度検出値ω
r と加算されて一次角速度ωに変換される。この角速度ωは積分演算部12によって積分されて位相角θ
として求められる。角速度ωは電流制御系14に送られ、位相角θは座標変換部13,15に送られる。
【0032】
座標変換部13は、インバータ20から出力される三相電流I
u,I
v,I
wの電流値を座標変換して、回転座標系のトルク電流検出値I
qFB と励磁電流検出値I
dFB に変換する。
【0033】
電流制御系14は、トルク電流指令I
q * とトルク電流検出値I
qFBとの偏差、及び、励磁電流指令I
d * と励磁電流検出値I
dFB との偏差、に対してそれぞれ比例積分演算などを行い、回転座標系のトルク軸電圧制御信号V
q と励磁軸電圧制御信号V
d を得る。
【0034】
電流制御系14から出力された電圧制御信号V
q ,V
d は、座標変換部15によって固定座標系の三相電圧指令V
u*,V
v*,V
w*に変換され、インバータ20に送られる。
【0035】
インバータ20は、ベクトル制御部10から送られてくる三相電圧指令V
u*,V
v*,V
w*に応じて、バッテリー21の直流電流を三相交流電流に変換した三相電流I
u,I
v,I
wを、モータ群30に向けて出力する。
【0036】
モータ群30は、誘導電動機31と誘導電動機32とエンコーダ33とエンコーダ34を有している。
誘導電動機31は、車両の例えば右輪を駆動するものであり、誘導電動機32は、車両の例えば左輪を駆動するものである。両誘導電動機31,32は、その定格及び定数が同じになるように設計されたものである。
エンコーダ33は、誘導電動機31の回転速度を示すモータ角速度ω
raを出力し、エンコーダ34は、誘導電動機32の回転速度を示すモータ角速度ω
rbを出力する。
【0037】
誘導電動機31は固定子巻線U
1,V
1,W
1を備えている。このとき、固定子巻線U
1,V
1,W
1の一方の端子を端子U
1in,V
1in,W
1in、他方の端子を端子U
1out,V
1out,W
1outとする。
誘導電動機32は固定子巻線U
2,V
2,W
2を備えている。このとき、固定子巻線U
2,V
2,W
2の一方の端子を端子U
2in,V
2in,W
2in、他方の端子を端子U
2out,V
2out,W
2outとする。
【0038】
誘導電動機31の固定子巻線U
1,V
1,W
1の一方の端子U
1in,V
1in,W
1inは、インバータ20の出力端子(三相電流I
u,I
v,I
wを出力する端子)に接続されている。
このため、インバータ20から、誘導電動機31の固定子巻線U
1,V
1,W
1の一方の端子U
1in,V
1in,W
1inに、三相電流I
u,I
v,I
wが供給される。
【0039】
誘導電動機31の固定子巻線U
1,V
1,W
1の他方の端子U
1out,V
1out,W
1outと、誘導電動機32の固定子巻線U
2,V
2,W
2の一方の端子U
2in,V
2in,W
2inは、相ごとに直列に接続されている。つまり、誘導電動機31の固定子巻線U
1,V
1,W
1と、誘導電動機32の固定子巻線U
2,V
2,W
2は、相ごとに直列に接続されている。
【0040】
誘導電動機32の固定子巻線U
2,V
2,W
2の他方の端子U
2out,V
2out,W
2outは、中性点として接続されている。これにより直列接続された固定子巻線U
1,V
1,W
1及び固定子巻線U
2,V
2,W
2の結線状態は、Y結線になっている。
【0041】
このようにして、直列接続された固定子巻線U
1,U
2,V
1,V
2,W
1,W
2の一方の端子(つまり固定子巻線U
1,V
1,W
1の一方の端子U
1in,V
1in,W
1in)には、インバータ20から三相電流I
u,I
v,I
wが供給される。
【0042】
角速度検出器40は、エンコーダ33から出力されたモータ角速度ω
raと、エンコーダ34から出力されたモータ角速度ω
rbを基に、角速度検出値ω
rを演算して出力する。
角速度検出値ω
rを求める演算手法としては、下記の第1〜第3の3つの手法がある。そこで、各演算手法と、そのときの運転状況を、それぞれの手法ごとに説明する。
【0043】
なお、誘導電動機31と誘導電動機32が直列に接続されているため、インバータ20からみたモータ群30の定数は、2つの誘導電動機31,32の定数を合成したものとして設定している。
つまり、ベクトル制御部10及びインバータ20にとっては、2台の誘導電動機31,32を、各誘導電動機の2倍の定数を持った1台の誘導電動機に置き換えて、ベクトル制御により駆動しているのと等価な状態になる。
【0044】
なお、車両でステアリング動作をすると、2つの誘導電動機31,32の回転速度に差が生じる。
【0045】
<第1の演算手法>
第1の演算手法では、角速度検出器40は、角速度検出値ω
rを、モータ角速度ω
raとモータ角速度ω
rbの平均値として求める。つまり、
ω
r=(ω
ra+ω
rb)/2
という演算をする。
なお、モータ角速度ω
raとモータ角速度ω
rbに、それぞれ異なる重み係数を掛けて演算をすることもできる。この場合、各重み係数は、変更することができる。
【0046】
図2は、誘導電動機31,32の平均速度を基準値一定として、最大トルク発生時で且つ回転速度が定速(3000min
-1)のときの、速度変化率に対するトルクの特性を示している。なお、変化率が−のときは、誘導電動機31の速度が変化率分だけ減少し、誘導電動機32の速度が変化率分だけ増加している状態である。変化率が+のときは、誘導電動機31の速度が変化率分だけ増加し、誘導電動機32の速度が変化率分だけ減少している状態である。
また、
図2において、T
1は誘導電動機31のトルクを、T
2は誘導電動機32のトルクを、Tは誘導電動機31,32の合計トルクを、T
*は目標トルクを表している。トルク特性としては、合計トルクTが目標トルクT
*に一致することが理想であるが、実用的には合計トルクTが目標トルクT
*に近ければよい。
【0047】
図3は、誘導電動機31,32の平均速度を基準値一定として、最大トルク発生時で且つ回転速度が定速(3000min
-1)のときの、速度変化率に対する電圧の特性を示している。
なお、変化率が−のときは、誘導電動機31の速度が変化率分だけ減少し、誘導電動機32の速度が変化率分だけ増加している状態である。変化率が+のときは、誘導電動機31の速度が変化率分だけ増加し、誘導電動機32の速度が変化率分だけ減少している状態である。
また、
図3において、V
1は誘導電動機31の電圧を、V
2は誘導電動機32の電圧を、Vは誘導電動機31,32の合計電圧を表している。インバータ20の耐電圧により規定される電圧制限は、この例では120〔ボルト〕になっている。
【0048】
図2及び
図3の特性から、回転速度変化率が−3%〜+3%の範囲であれば、
(1) 必要なトルクを発生させて(
図2において合計トルクTが目標トルクT
*に近くなり)、且つ、
(2) インバータの電圧制限を越えることなく(
図3において合計電圧Vがインバータ20により規定される電圧制限よりも小さくなり)、
2つの誘導電動機31,32に速度差が生じた場合でも、誘導電動機31,32を安定して駆動運転可能であることがわかる。
【0049】
このため、第1の演算手法を採用した場合には、誘導電動機31,32の回転速度変化率が、誘導電動機31,32の平均速度(基準値である予め決めた一定速度)に対して、−3%〜+3%となる運転状態で、誘導電動機31,32の駆動運転の制御をする。
【0050】
<第2の演算手法>
第2の演算手法では、角速度検出器40は、誘導電動機31,32を駆動するときには、モータ角速度ω
raとモータ角速度ω
rbのうち、速い方を選択し、選択したものを角速度検出値ω
rとして出力する。つまり、
ω
ra≧ω
rbのときには、角速度検出値ω
r=ω
raとし、
ω
ra<ω
rbのときには、角速度検出値ω
r=ω
rbとする
という演算をする。
【0051】
図4は、B機(誘導電動機32)の速度を基準値一定として、最大トルク発生時で且つ回転速度が定速(3000min
-1)のときの、A機(誘導電動機31)の速度変化率に対するトルクの特性を示している。
なお、変化率が−のときは、A機(誘導電動機31)の速度が変化率分だけ減少し、B機(誘導電動機32)の速度が変化率分だけ増加している状態である。変化率が+のときは、A機(誘導電動機31)の速度が変化率分だけ増加し、B機(誘導電動機32)の速度が変化率分だけ減少している状態である。
また、
図4において、T
1はA機(誘導電動機31)のトルクを、T
2はB機(誘導電動機32)のトルクを、Tは誘導電動機31,32の合計トルクを、T
*は目標トルクを表している。トルク特性としては、合計トルクTが目標トルクT
*に一致することが理想であるが、実用的には合計トルクTが目標トルクT
*に近ければよい。
なお、A機を誘導電動機32とし、B機を誘導電動機31としても、A機及びB機のトルク特性としては、
図4のものと同じ特性が得られる。
【0052】
図5は、B機(誘導電動機32)の速度を基準値一定として、最大トルク発生時で且つ回転速度が定速(3000min
-1)のときの、A機(誘導電動機31)の速度変化率に対する電圧の特性を示している。
なお、変化率が−のときは、A機(誘導電動機31)の速度が変化率分だけ減少し、B機(誘導電動機32)の速度が変化率分だけ増加している状態である。変化率が+のときは、A機(誘導電動機31)の速度が変化率分だけ増加し、B機(誘導電動機32)の速度が変化率分だけ減少している状態である。
また、
図5において、V
1はA機(誘導電動機31)の電圧を、V
2はB機(誘導電動機32)の電圧を、Vは誘導電動機31,32の合計電圧を表している。インバータ20の耐電圧により規定される電圧制限は、この例では120〔ボルト〕になっている。
なお、A機を誘導電動機32とし、B機を誘導電動機31としても、A機及びB機の電圧特性としては、
図5のものと同じ特性が得られる。
【0053】
図4及び
図5の特性から、モータ角速度ω
raとモータ角速度ω
rbのうち速い方を角速度検出値ω
rとすれば、
(1) 必要なトルクを発生させて(
図4において合計トルクTが目標トルクT
*に近くなり)、且つ、
(2) インバータの電圧制限を越えることなく(
図5において合計電圧Vがインバータ20により規定される電圧制限よりも小さくなり)、
2つの誘導電動機31,32に速度差が生じた場合でも、誘導電動機31,32を安定して駆動運転可能であることがわかる。
【0054】
つまり
図4,
図5の特性から、B機を基準としてA機の回転速度変化率が−となるとき、換言するとA機よりもB機の回転速度が速いときには、回転速度が速いB機が、トルク特性及び電圧特性の観点から良好な運転ができることがわかる。
【0055】
このため、第2の演算手法を採用して駆動する場合には、誘導電動機31のモータ角速度ω
raと誘導電動機32のモータ角速度ω
rbのうち、速い方を角速度検出値ω
rとして、誘導電動機31,32の駆動運転の制御をする。
【0056】
更に第2の演算手法では、角速度検出器40は、誘導電動機31,32を回生するときには、モータ角速度ω
raとモータ角速度ω
rbのうち、遅い方を選択し、選択したものを角速度検出値ω
rとして出力する。つまり、
ω
ra≧ω
rbのときには、角速度検出値ω
r=ω
rbとし、
ω
ra<ω
rbのときには、角速度検出値ω
r=ω
raとする
という演算をする。
【0057】
図6は、B機(誘導電動機32)の速度を基準値一定として、最大回生トルク発生時で且つ回転速度が定速(3000min
-1)のときの、A機(誘導電動機31)の速度変化率に対する回生トルクの特性を示している。
なお、変化率が−のときは、A機(誘導電動機31)の速度が変化率分だけ減少し、B機(誘導電動機32)の速度が変化率分だけ増加している状態である。変化率が+のときは、A機(誘導電動機31)の速度が変化率分だけ増加し、B機(誘導電動機32)の速度が変化率分だけ減少している状態である。
また、
図6において、T
1はA機(誘導電動機31)の回生トルクを、T
2はB機(誘導電動機32)の回生トルクを、Tは誘導電動機31,32の合計回生トルクを、T
*は目標回生トルクを表している。トルク特性としては、合計回生トルクTが目標回生トルクT
*に一致することが理想であるが、実用的には合計回生トルクTが目標回生トルクT
*に近ければよい。
なお、A機を誘導電動機32とし、B機を誘導電動機31としても、A機及びB機のトルク特性としては、
図6のものと同じ特性が得られる。
【0058】
図7は、B機(誘導電動機32)の速度を基準値一定として、最大回生トルク発生時で且つ回転速度が定速(3000min
-1)のときの、A機(誘導電動機31)の速度変化率に対する電圧の特性を示している。
なお、変化率が−のときは、A機(誘導電動機31)の速度が変化率分だけ減少し、B機(誘導電動機32)の速度が変化率分だけ増加している状態である。変化率が+のときは、A機(誘導電動機31)の速度が変化率分だけ増加し、B機(誘導電動機32)の速度が変化率分だけ減少している状態である。
また、
図7において、V
1はA機(誘導電動機31)の電圧を、V
2はB機(誘導電動機32)の電圧を、Vは誘導電動機31,32の合計電圧を表している。インバータ20の耐電圧により規定される電圧制限は、この例では120〔ボルト〕になっている。
なお、A機を誘導電動機32とし、B機を誘導電動機31としても、A機及びB機の電圧特性としては、
図7のものと同じ特性が得られる。
【0059】
図6及び
図7の特性から、モータ角速度ω
raとモータ角速度ω
rbのうち遅い方を角速度検出値ω
rとすれば、
(1) 必要な回生トルクを発生させて(
図6において合計回生トルクTが目標回生トルクT
*に近くなり)、且つ、
(2) インバータの電圧制限を越えることなく(
図7において合計電圧Vがインバータ20により規定される電圧制限よりも小さくなり)、
2つの誘導電動機31,32に速度差が生じた場合でも、誘導電動機31,32を安定して回生運転可能であることがわかる。
【0060】
つまり
図6,
図7の特性から、B機を基準としてA機の回転速度変化率が+となるとき、換言するとA機よりもB機の回転速度が遅いときには、回転速度が遅いB機が、回生トルク特性及び電圧特性の観点から良好な運転ができることがわかる。
【0061】
このため、第2の演算手法を採用して回生する場合には、誘導電動機31のモータ角速度ω
raと誘導電動機32のモータ角速度ω
rbのうち、遅い方を角速度検出値ω
rとして、誘導電動機31,32の回生運転の制御をする。
【0062】
<第3の演算手法>
第3の演算手法では、誘導電動機31,32を駆動制御する場合において、
(1) 誘導電動機31,32の一方の回転速度変化率が、誘導電動機31,32の他方の回転数に対して、−3%〜+3%となる運転状態では、前述した第1の演算手法を採用し
(2) 誘導電動機31,32の一方の回転速度変化率が、誘導電動機31,32の他方の回転数に対して、−3%〜+3%となる運転状態を外れるときには、前述した第2の演算手法を採用する。
【0063】
つまり、第3の演算手法では、
・ 第1の演算手法を採用したときには、
図2に示すように、誘導電動機31,32の回転数差が小さいときに、合計トルクTが目標トルクT
*に近くなり、
・ 第2の演算手法を採用したときには、
図4に示すように、誘導電動機31,32の回転数差が大きくなっても、合計トルクTが目標トルクT
*に近くなる、
というトルク特性に鑑み、第1と第2の演算手法の良いところを選択して、組み合わせたものである。
【0064】
〔実施例2〕
図8は本発明の実施例2に係る、誘導電動機の駆動システムを示す構成図である。
実施例2では、誘導電動機31の固定子巻線U
1,V
1,W
1と、誘導電動機32の固定子巻線U
2,V
2,W
2は、相ごとに直列に接続されており、この直列接続された固定子巻線U
1,V
1,W
1及び固定子巻線U
2,V
2,W
2の結線状態は、Y結線ではなく、Δ結線になっている。
他の部分の構成・動作は、
図1に示すものと同じである。
【0065】
結線状態を詳述すると、誘導電動機31は固定子巻線U
1,V
1,W
1を備えている。このとき、固定子巻線U
1,V
1,W
1の一方の端子を端子U
1in,V
1in,W
1in、他方の端子を端子U
1out,V
1out,W
1outとする。
誘導電動機32は固定子巻線U
2,V
2,W
2を備えている。このとき、固定子巻線U
2,V
2,W
2の一方の端子を端子U
2in,V
2in,W
2in、他方の端子を端子U
2out,V
2out,W
2outとする。
【0066】
固定子巻線U
1,V
1,W
1の一方の端子U
1in,V
1in,W
1in及び固定子巻線U
2,V
2,W
2の他方の端子U
2out,V
2out,W
2outは、インバータ20の出力端子(三相電流I
u,I
v,I
wを出力する端子)に接続されている。
このため、インバータ20から、固定子巻線U
1,V
1,W
1の一方の端子U
1in,V
1in,W
1in及び固定子巻線U
2,V
2,W
2の他方の端子U
2out,V
2out,W
2outに、三相電流I
u,I
v,I
wが供給される。
【0067】
誘導電動機31の固定子巻線U
1,V
1,W
1の他方の端子U
1out,V
1out,W
1outと、誘導電動機32の固定子巻線U
2,V
2,W
2の一方の端子U
2in,V
2in,W
2inは、相ごとに直列に接続されている。つまり、誘導電動機31の固定子巻線U
1,V
1,W
1と、誘導電動機32の固定子巻線U
2,V
2,W
2は、相ごとに直列に接続されている。
【0068】
誘導電動機32の固定子巻線U
2,V
2,W
2の他方の端子U
2out,V
2out,W
2outは、誘導電動機31の固定子巻線U
1,V
1,W
1の一方の端子U
1in,V
1in,W
1inに、相をずらしてΔ結線されるように接続されている。
【0069】
このようにして、直列接続された固定子巻線U
1,U
2,V
1,V
2,W
1,W
2の一方の端子(つまり固定子巻線U
1,V
1,W
1の一方の端子U
1in,V
1in,W
1in及び固定子巻線U
2,V
2,W
2の他方の端子U
2out,V
2out,W
2out)には、インバータ20から三相電流I
u,I
v,I
wが供給される。
【0070】
角速度検出器40では、実施例1で説明した第1の演算手法,第2の演算手法及び第3の演算手法のいずれかを用いて、角速度検出値ω
rを求めている。
【0071】
実施例2においても、実施例1と同様に、2つの誘導電動機31,32に速度差が生じた場合でも、必要なトルクを発生させて、且つ、インバータ20の電圧制限を越えることなく、誘導電動機31,32を安定して運転することができる。