(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6083100
(24)【登録日】2017年2月3日
(45)【発行日】2017年2月22日
(54)【発明の名称】落雷抑制型避雷装置
(51)【国際特許分類】
H05F 3/04 20060101AFI20170213BHJP
H02G 13/00 20060101ALI20170213BHJP
【FI】
H05F3/04 F
H02G13/00 040
【請求項の数】8
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-137157(P2016-137157)
(22)【出願日】2016年7月11日
【審査請求日】2016年7月26日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】511019144
【氏名又は名称】株式会社落雷抑制システムズ
(74)【代理人】
【識別番号】100137338
【弁理士】
【氏名又は名称】辻田 朋子
(72)【発明者】
【氏名】松本 敏男
【審査官】
安井 寿儀
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭51−080949(JP,A)
【文献】
特開平03−293920(JP,A)
【文献】
実開昭48−030772(JP,U)
【文献】
特開2003−304631(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05F 3/04
H02G 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
間隔をおいて立設された支持体間に架設される第2電極体と、この第2電極体を被覆する電気絶縁性材料によって形成された絶縁被覆体と、この絶縁被覆体の表面を覆って設けられた第1電極体とを備え、前記第2電極体は接地されており、前記第1電極体は接地されていないことを特徴とする落雷抑制型避雷装置。
【請求項2】
前記支持体間には送電線が配設されており、
前記第2電極体は、前記送電線に沿ってこの送電線の上部に架設されていることを特徴とする、請求項1に記載の落雷抑制型避雷装置。
【請求項3】
前記支持体が導電性材料によって形成されているとともに、この支持体に前記第2電極体が電気的に接続されていることにより、前記第2電極体が前記支持体を介して接地されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の落雷抑制型避雷装置。
【請求項4】
前記第2電極体に導電性材料によって形成された接地線が接続されており、この接地線を介して前記第2電極体が接地されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の落雷抑制型避雷装置。
【請求項5】
前記第1電極体および前記第2電極体は、電気絶縁性を有する連結具を介して前記支持体に連結されていることを特徴とする請求項4に記載の落雷抑制型避雷装置。
【請求項6】
前記第1電極体が、複数の素線からなる撚り線によって筒状に形成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項5の何れかに記載の落雷抑制型避雷装置。
【請求項7】
前記第1電極体が、複数の素線を筒状に編み込んで形成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項5の何れかに記載の落雷抑制型避雷装置。
【請求項8】
前記支持体は、ビルの屋上に立設されていることを特徴とする、請求項1ないし請求項7の何れかに記載の落雷抑制型避雷装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、落雷を抑制することで、雷害から建築物や設備機器等の被保護体を保護するための落雷抑制型避雷装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
落雷は大気中で起こる放電現象であり、雷放電には雲内放電、雲間放電、雲―大地間放電等がある。雷放電で大きな被害を出すのは雲―大地間放電(以下落雷)である。落雷は雷雲(雲底)と大地または大地等に建設された構造物との間の電界強度が非常に大きくなり、その電荷が飽和状態となって大気の絶縁を破壊したときに発生する現象である。
【0003】
落雷の現象を詳細に観察すると、夏季に起こる一般的な落雷(夏季雷)の場合、雷雲が成熟すると雷雲からステップトリーダが大気の放電しやすいところを選びながら大地に近づいてくる。
ステップトリーダが大地とある程度の距離になると大地または建築物(避雷針)、木などからステップトリーダに向かって、微弱電流の上向きストリーマ(お迎え放電)が伸びてくる。
このストリーマとステップトリーダが結合すると、その経路を通って、雷雲と大地間に大電流(帰還電流)が流れる。
これが落雷現象である。
【0004】
このような落雷現象に対し、従来の雷保護概念では、落雷は防止できないものとの観点から、落雷を突針型避雷針(フランクリンロッド)に受けて大地に流す方式が大半であった。
【0005】
これに対し、本発明者等は、落雷の発生を極力抑制することによって被保護体を保護すべく、特許文献1に示される落雷抑制型避雷装置を提案した。
【0006】
この落雷抑制型避雷装置は、絶縁体を挟んで配置される上部電極体及び下部電極体を有し、下部電極体のみを接地して構成したものである。
【0007】
そして、たとえばマイナス電荷が雲底に分布した雷雲が近づくと、それとは逆の電荷(プラス電荷)が大地の表面に分布し、接地されている下部電極体にもプラス電荷が集まる。
【0008】
すると、絶縁体を介して配置されている上部電極体は、コンデンサの作用でマイナス電荷を帯びることとなる。
【0009】
この作用により、避雷装置とその周辺における上向きストリーマの発生を起こりにくくして落雷の発生を抑制するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第5839331号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
前述した本発明者等による先の提案によって、避雷装置を中心とした円状の保護領域において落雷を抑制できるようになった。
【0012】
しかしながら、落雷に対する被保護体は多様化しており、この被保護体の多様化に対応して、最適な保護領域を形成する必要があるとの知見に至った。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、前述した知見に基づいてなされたもので、間隔をおいて立設された支持体間に架設される第2電極体と、この第2電極体を被覆する電気絶縁性材料によって形成された絶縁被覆体と、この絶縁被覆体の表面を覆って設けられた第1電極体とを備え、前記第2電極体が接地されていることを特徴としている。
【0014】
このような構成とすることにより、前記第1電極体と前記第2電極体とが、これらの全長に亙って、前記絶縁被覆体により所定の間隔に保持されるとともに、電気的に絶縁状態に保持される。
【0015】
そして、たとえばマイナス電荷が雲底に分布した雷雲が近づくと、それとは逆の電荷(プラス電荷)が大地の表面に分布し、接地された前記第2電極体にも、雲底のマイナス電荷に引き寄せられてプラス電荷が集まるようになる。
【0016】
すると、前記第2電極体に前記絶縁被覆体を介して配置されている前記第1電極体は、コンデンサの作用でマイナス電荷を帯びる。
この作用により、前記第1電極体とその周辺における上向きストリーマの発生を起こりにくくし、落雷の発生を抑制することができる。
すなわち、雲底のマイナス電荷に引き寄せられて第2電極体にプラス電荷が集まると、その第2電極体の表面にもプラス電荷が分布する。すると第1電極体の内側表面にマイナス電荷が帯電するに伴い、第1電極体の外側表面にはプラス電荷が帯電する。このとき、大気中にはマイナスに帯電した雨粒や微粒子が多く含まれ、第1電極体の外側表面のプラス電荷は少量のプラス電荷なので中和されてしまい、以降はマイナス電荷に帯電される。この第1電極体の外側表面の電荷がプラスからマイナスに変化する現象はごく短い時間で生じ、以降はマイナスになるものと考えられている。
この作用により、前記第1電極体とその周辺における上向きストリーマの発生を起こりにくくし、落雷の発生を抑制することができる。
【0017】
一方、前記第1電極体および第2電極体が線状に形成されていることから、前述した落雷の発生を抑制する保護領域が、前記第1電極体の両側で、この第1電極体の長さ方向に延びるように帯状に形成される。
【0018】
したがって、前記第1電極体および第2電極体の架設形態、たとえば、架設長さや、平面視での架設形状等を調整することにより、これらによって形成される前述した保護領域を自由に形成することができる。
【0019】
この結果、前記保護領域を、保護すべき被保護体に合わせて設定することができ、この被保護体に最適な保護領域を形成することができる。
【0020】
また、前記第1電極体、前記第2電極体、および、前記絶縁被覆体が、同心円状に積層された一体的な構成となっていることから、その取り扱いが容易で、高い施工性を確保することができる。
【0021】
一方、一般的な送電設備は、送電線を多数の鉄塔で支持した送電路を備えており、この送電路においては、落雷を、鉄塔を経て大地に導くために、隣接する前記鉄塔の頂部間に架空地線を架設している。
【0022】
そこで、前記鉄塔間に、前記架空地線に換えて本発明の落雷抑制型避雷装置を架設することにより、送電路を落雷から保護することができる。
【0023】
ここで、前記第2電極体を前記鉄塔に接続することによって、本発明の落雷抑制型避雷装置を架設することができるとともに、前記第2電極体の接地を行なうことができる。
【0024】
あるいは、接地線を別途用意して、この接地線を用いて第2電極体を接地することもできる。
【0025】
一方、前記第1電極体を、複数の素線をより合わせて筒状に形成することにより、前記絶縁被覆体をその長さ方向に順次被覆することができる。
これによって、連続したケーブル状の落雷抑制型避雷装置を得ることができる。
【0026】
そして、前述したように第1電極体を撚り線とすることにより、この第1電極体に可撓性を与えることができる。
これによって、落雷抑制型避雷装置をボビン等に巻回しておくことができ、長尺化が可能となるばかりでなく、保管や運搬が容易となる。
【0027】
前述した可撓性の付与は、前記第1電極体を、複数の素線を筒状に編み込んで形成することによっても可能である。
【発明の効果】
【0028】
本発明の落雷抑制型避雷装置によれば、多様な被保護体に対応した落雷保護領域を容易に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本発明の第1の実施形態が適用された送電路の概略正面図である。
【
図2】本発明の第1の実施形態を示すもので、第1電極体の形成方法を示す概略図である。
【
図3】本発明の第1の実施形態を示すもので、架設構造の一例を示す要部の拡大図である。
【
図4】本発明におけるストリーマ発生抑制作用を説明するための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の第1の実施形態について、図面を参照して説明する。
図1において、符号1は本実施形態に係わる落雷抑制型避雷装置(以下、避雷装置と略称する)を示し、電力の送電路に適用したものである。
【0031】
この避雷装置1は、支持体を構成する前記送電路の鉄塔2間に設けられたもので、これらの鉄塔2の頂部間に連結具3を介して架設されている。
【0032】
詳述すれば、避雷装置1は、前記連結具3を介して鉄塔2の頂部に連結される第2電極体5と、この第2電極体5を被覆する電気絶縁性材料によって形成された絶縁被覆体6と、この絶縁被覆体6の表面を覆って設けられた第1電極体4とを備え、前記第2電極体5には、一端が大地Gに埋め込まれた接地線7の他端が接続されて、この接地線7を介して前記第2電極体5が接地されている。
【0033】
前記第2電極体5は、
図2に示すように、複数の素線を撚り込んで形成した撚り線であり、その表面を所定の厚みを有する前記絶縁被覆体6によって被覆されている。
【0034】
前記絶縁被覆体6は、たとえば、架橋ポリエチレンやビニル等の合成樹脂が用いられており、押し出し成形等の手段により前記第2電極体5の表面を覆って一体化されている。
【0035】
前記第1電極体4は、複数の素線4aを、前記絶縁被覆体6を包み込むように撚り込むことによって、前記絶縁被覆体6表面を覆って一体化されている。
【0036】
このように一体化された前記第1電極体4、前記第2電極体5、および、絶縁被覆体6は、前記第1および第2電極体4・5が撚り線によって形成されていること、また、前記絶縁被覆体6が架橋ポリエチレンやビニル等の合成樹脂によって形成されていることから、全体的に可撓性を有する構成となされている。
【0037】
前記連結具3は、たとえば、がいしによって形成され、前記第2電極体5のそれぞれの端部を、前記一対の鉄塔2の頂部に連結することにより、前記第2電極体5を前記両鉄塔2間に電気絶縁状態で架設している。
【0038】
これは、前記第1電極体4や前記第2電極体5と前記鉄塔2とを電気的に絶縁して、落雷時において前記鉄塔2が放電経路とならないようにし、この鉄塔2を雷撃から保護するためである。
【0039】
ついで、このように設置された本実施形態の避雷装置1による落雷抑制機能について、
図4に示す概略図を用いて説明する。
【0040】
マイナス電荷が雲底に分布した雷雲Cが近づくと、それとは逆の電荷(プラス電荷)が大地Gの表面に分布し、雲底のマイナス電荷に引き寄せられて、接地されている前記第2電極体5にもプラス電荷が集まるようになる。
【0041】
一方、前記第2電極体5に前記絶縁被覆体6を介して対峙されている前記第1電極体4は、コンデンサの作用でマイナス電荷を帯びる。
この作用により、前記第1電極体4とその周辺における上向きストリーマの発生が起こりにくく、この結果、落雷の発生を抑制する。
図4は、第1電極体4の表面がマイナス電荷を帯びている状態を説明する図である。
この第1電極体4がマイナス電荷を帯びる過程を考察してみると、次のような現象によるものと考える。
雲底のマイナス電荷に引き寄せられて第2電極体5にプラス電荷が集まると、その第2電極体5の表面にもプラス電荷が分布する。すると第1電極体4の内側表面にマイナス電荷が帯電するに伴い、第1電極体4の外側表面にはプラス電荷が帯電する。このとき、大気中にはマイナスに帯電した雨粒や微粒子が多く含まれ、第1電極体4の外側表面のプラス電荷は少量のプラス電荷なので中和されてしまい、以降はマイナス電荷に帯電される。この第1電極体4の外側表面の電荷がプラスからマイナスに変化する現象はごく短い時間で生じ、以降はマイナスになるものと考えられている。
この作用により、前記第1電極体4とその周辺における上向きストリーマの発生を起こりにくくし、落雷の発生を抑制することができる。
【0042】
このように前記第1電極体4によって落雷の発生を抑制する領域、すなわち、落雷保護領域は、平面視で、前記第1電極体4の両側の所定範囲で、この第1電極体4の長さ方向に延びる帯状に形成される。
【0043】
このように、前記落雷保護領域は、前記第1電極体4の架設形態に基づいて形成される。
【0044】
したがって、前記第1電極体4の架設形態を、被保護体に対応して設定することにより、この被保護体に最適な落雷保護領域を設定することができる。
【0045】
たとえば、前記第1電極体4の長さを変えたり、平面視で屈曲させ、あるいは、ジグザグに架設したりすることによって、前記落雷保護領域を自由に設定することができる。
【0046】
一方、前記第1電極体4や前記第2電極体5の構造を適宜選択してこれらに可撓性を与えることにより、ボビン等への巻き付けを可能にして、長尺状態での保管や運搬等を可能にすることができる。
【0047】
なお、前記各実施形態において示した各構成部材の諸形状や寸法等は一例であって、設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0048】
たとえば、前記実施形態においては、避雷装置1を送電路の鉄塔2間に設置した例について示したが、これに代えて、たとえば、ビルの屋上に設けられている腰壁に支持体を立設して、これらの支持体間に設置することも可能である。
【0049】
また、前記第2電極体5は、接地線7を介して接地した構成としたが、この接地線7を用いず、連結具3を導電性材料によって形成することにより、第2電極体5を、鉄塔2を介して設置することも可能である。
【0050】
また、合成樹脂の押し出し成型等の手段により第2電極体5の表面を所定の厚みを有する絶縁被覆体6により被覆することで、第1電極体4と第2電極体5との間の空間を絶縁体で充満させる構成としたが、他の構成を採用することもできる。
例えば、合成樹脂等により形成した線状又は帯状の絶縁体を、第2電極5の表面に螺旋状に巻き付けて絶縁被覆体6とする構成としても良い。この場合には、線状又は帯状の絶縁体の巻き付けピッチを調整することで、第1電極体4と第2電極体5との間に絶縁体が充満されていない螺旋状の空間を形成することができる。この螺旋状の空間により、軽量化や柔軟性の向上等を図ることができる。
【0051】
なお、前記第1電極体4は、複数の素線4aを、絶縁被覆体6を包み込むように撚り込むことによって、絶縁被覆体6表面を覆って一体化されているが、例えば、この第1電極体4を、導電性塗料や導電性樹脂層などによって形成してもよい。導電性塗料の場合、絶縁被覆体6の表面に塗布することにより形成することができる。導電性樹脂層の場合、絶縁被覆体6の表面に導電性樹脂を押し出し成型することにより形成することができる。
【符号の説明】
【0052】
1 (落雷抑制型)避雷装置
2 鉄塔(支持体)
3 連結具
4 第1電極体
5 第2電極体
6 絶縁被覆体
7 接地線
C 雷雲
G 大地
【要約】
【課題】落雷保護領域を、被保護体に合わせて形成することの可能な落雷抑制型避雷装置を提供する。
【解決手段】間隔をおいて立設された支持体(2)間に架設される第2電極体5と、この第2電極体5を被覆する電気絶縁性材料によって形成された絶縁被覆体6と、この絶縁被覆体6の表面を覆って設けられた第1電極体4とからなり、前記第2電極体5が接地されていることを特徴とする。
【選択図】
図1