特許第6083251号(P6083251)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6083251地下の電気的特性を得るための分散型探査システムおよびこれを用いた分散型探査方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6083251
(24)【登録日】2017年2月3日
(45)【発行日】2017年2月22日
(54)【発明の名称】地下の電気的特性を得るための分散型探査システムおよびこれを用いた分散型探査方法
(51)【国際特許分類】
   G01V 3/02 20060101AFI20170213BHJP
【FI】
   G01V3/02 C
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-28734(P2013-28734)
(22)【出願日】2013年2月18日
(65)【公開番号】特開2014-157105(P2014-157105A)
(43)【公開日】2014年8月28日
【審査請求日】2015年8月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000121844
【氏名又は名称】応用地質株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096862
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 千春
(72)【発明者】
【氏名】山下 善弘
(72)【発明者】
【氏名】島 裕雅
(72)【発明者】
【氏名】佐野 康
【審査官】 田中 秀直
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−304343(JP,A)
【文献】 特開2010−156695(JP,A)
【文献】 特表2000−513809(JP,A)
【文献】 特表2011−508205(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01V 3/00−3/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1以上の通電点と当該通電点から地中に通電する通電手段および/または1以上の計測点と各々の上記計測点からの上記通電による応答信号を計測する計測手段とを備えた複数の探査ユニットを、地下の電気的特性を得る地域に分散配置するとともに、
各々の上記探査ユニットに、相互の上記通電手段および上記計測手段の操作を同期させて、上記複数の通電点から共分散がゼロになるように符号化された波形の電流を通電するとともに、当該通電による応答信号を上記計測手段によって計測させる同期制御手段を配置してなり、かつ上記同期制御手段は、1以上の上記探査ユニットにおける上記通電手段が少なくとも単位送信周期の通電および通電遮断を完了した後に、他の上記探査ユニットにおける上記通電手段の通電操作を実施させることを特徴とする地下の電気的特性を得るための分散型探査システム。
【請求項2】
請求項1に記載の電気的特性を得るための分散型探査システムを用いて、上記同期制御手段によって同期された上記通電手段および計測手段により、2以上の上記探査ユニットの上記通電点から異なる振幅の電流を通電し、かつ特定の上記電流の振幅に対する他の上記電流の振幅の比を乗じた電流値と、各々の上記電流に対して計測された上記計測点における電位値とを用いて、比抵抗法により上記地下の電気的特性を求めることを特徴とする地下の電気的特性を得るための分散型探査方法
【請求項3】
請求項1に記載の電気的特性を得るための分散型探査システムを用いて、単位送信周期に実施された複数回の通電および通電遮断に対して、各々の上記通電および通電遮断における当該通電時の上記電流値と測定された電圧との共分散値Cik(A)を求めるとともに、上記通電遮断後においては上記通電が行われていたと仮定して上記電流値と測定された電圧との共分散値Cik(B)を求め、これら共分散値Cik(A)およびCik(B)を上記単位送信周期の全区間にわたって合算して、得られた共分散値の比Ci(B)/Ci(A)によって、強制分極法によるIP効果の指標Miを得て上記地下の電気的特性を求めることを特徴とする地下の電気的特性を得るための分散型探査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、比抵抗法、強制分極法(IP法)または電磁法等の各種探査法によって地下の電気的特性を解析する際に用いられる分散型探査システムおよびこれを用いた分散型探査方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
周知のように、粘土分の多い土は、砂分の多い土よりも比抵抗値が小さくなり、また含水率が大きい土ほど比抵抗値は小さくなる。このため、地下の地盤内の状況は、その電気的特性を知ることによって推定することができる。
【0003】
そこで、従来より、地表若しくは地中に通電点および計測点を設け、上記通電点から所定の振幅の電流を流して、上記計測点においてその応答電位や通電に伴う磁場応答などを測定することにより地下の電気的特性を求める各種の探査法が実用に供されている。
【0004】
ところで、この種の探査法においては、通電点と計測点との間隔が大きくなるに従って、より地表から深い位置の電気的特性が得られる。このため、地下の電気的特性を正確に把握するには、1箇所の通電点からの通電のみでは不十分な場合が多い。そこで、通常は、通電点を複数箇所に移動させて電流を流したり、あるいはケーブルを繋ぎ変えて別の場所から通電を行ったりして探査深度を変更することにより、地下の電気的特性を所定の深度範囲において探査する方法が採用されている。
【0005】
しかしながら、このように多数回の通電を行う従来の探査方法にあっては、作業効率が極めて悪く、特に広域にわたって地下の電気的特性を得ようとする際には、その作業に長期間を要するという問題点があった。このため、測定時間の短縮を図るべく、多点から同時に通電する方法として、通電時点毎に異なる通電周波数を用いる周波数分割多元接続(FDMA)タイプの技術を用いる試みもなされたが、地下の電気的特性は周波数特性を有しているために、探査精度に問題があった。
【0006】
このような問題を解決すべく、下記特許文献1においては、電気探査比抵抗法および電気検層比抵抗法において、複数の通電地点から異なった通電波形で同時に通電し、別途設けられた電位測定地点で観測された電位波形から数学的処理によって任意の通電地点で単独に通電した場合の応答を分離する測定方法が提案されている。この方法は、図7に示すように、探査対象領域に複数(図ではそのうちの7点を示す。)の通電点C1〜C7および複数(同上)の電位測定点P1〜P7を設け、通電点C1〜C7からの通電波形として互いの通電波形間の共分散をゼロとする符号化された波形を用いたものである。
【0007】
上記測定方法によれば、M系列符号等の通電波形間の共分散がゼロになるような波形を選んで通電することにより、電位測定点P1〜P7において観測された電位波形から容易に単位電流あたりの応答を求めることができるために、測定時間を大幅に短縮することができて作業効率に優れるという利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−304343号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記従来の測定方法は、通電点C1〜C7および電位測定点P1〜P7の全てを設置してから、これら通電点C1〜C7への通電や電位測定点P1〜P7での測定を1箇所において制御して行うものであるため、現実の探査において、通電点C1〜Cnを広い範囲に設置する場合や、特に通電点C1〜Cnの間に山間部や湖等の障害が存在する場合には、全ての設置作業が完了するまでの待機時間が長くなり、逆に探査効率を低下させるとともに、計測作業にも困難を極めるという問題点があった。しかも、ケーブル長も膨大となることから、実用的とは言い難かった。
【0010】
また、上記測定方法にあっては、通電電流および電位波形を1つのタイムウインドウで測定するために、比抵抗法の測定に供することはできても、強制分極法(IP法)や電磁法による測定には供することができないという問題点もあった。
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、探査目的や探査地域の地理的条件等にフレキシブルに対応することができ、よって従来よりも短期間かつ効率的に地下の電気的特性を得ることができるとともに、比抵抗法のみならず強制分極法や電磁法等にも対応することができる地下の電気的特性を得るための分散型探査システムおよびこれを用いた分散型探査方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の本発明に係る地下の電気的特性を得るための分散型探査システムは、1以上の通電点と当該通電点から地中に通電する通電手段および/または1以上の計測点と各々の上記計測点からの上記通電による応答信号を計測する計測手段とを備えた複数の探査ユニットを、地下の電気的特性を得る地域に分散配置するとともに、各々の上記探査ユニットに、相互の上記通電手段および上記計測手段の操作を同期させて、上記複数の通電点から共分散がゼロになるように符号化された波形の電流を通電するとともに、当該通電による応答信号を上記計測手段によって計測させる同期制御手段を配置してなり、かつ上記同期制御手段は、1以上の上記探査ユニットにおける上記通電手段が少なくとも単位送信周期の通電および通電遮断を完了した後に、他の上記探査ユニットにおける上記通電手段の通電操作を実施させることを特徴とするものである。
【0014】
請求項に記載の本発明に係る地下の電気的特性を得るための分散型探査方法は、請求項1に記載の電気的特性を得るための分散型探査システムを用いて、上記同期制御手段によって同期された上記通電手段および計測手段により、2以上の上記探査ユニットの上記通電点から異なる振幅の電流を通電し、かつ特定の上記電流の振幅に対する他の上記電流の振幅の比を乗じた電流値と、各々の上記電流に対して計測された上記計測点における電位値とを用いて、比抵抗法により上記地下の電気的特性を求めることを特徴とするものである。
【0016】
さらに、請求項に記載の発明は、請求項1に記載の電気的特性を得るための分散型探査システムを用いて、上記同期制御手段によって同期された上記通電手段および計測手段により、単位送信周期に実施された複数回の通電および通電遮断に対して、各々の上記通電および通電遮断における当該通電時の上記電流値と測定された電圧との共分散値Cik(A)を求めるとともに、上記通電遮断後においては上記通電が行われていたと仮定して上記電流値と測定された電圧との共分散値Cik(B)を求め、これら共分散値Cik(A)およびCik(B)を上記単位送信周期の全区間にわたって合算して、得られた共分散値の比Ci(B)/Ci(A)によって、強制分極法によるIP効果の指標Miを得て上記地下の電気的特性を求めることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0017】
請求項1に記載の地下の電気的特性を得るための分散型探査システム、およびこれを用いた請求項2または3に記載の分散型探査方法によれば、複数の通電点から互いの通電波形間の共分散がゼロになるような波形の電流を通電しているために、複数の測定点において観測された応答電位波形から、容易に各々の通電点からの電流に対する応答を求めることができる。この結果、測定時間を大幅に短縮することができて作業効率に優れる。
【0018】
加えて、本発明においては、1以上の通電点と当該通電点から地中に通電する通電手段および/または1以上の計測点と各々の上記計測点からの上記通電による応答信号を計測する計測手段とを備えた複数の探査ユニットを、地下の電気的特性を得る地域に分散配置して、複数の探査ユニットの通電手段および計測手段を同期制御手段によって同期させて操作しているために、広範囲の地下の電気的特性を探査する場合や、探査地域内に山間部や湖等の障害が存在する場合にも、各探査ユニットの設置と併行して、当該地域の探査を実施することができる。
【0019】
これにより、無駄な待機時間を排除して、短期間で効率的に広範囲の地域における地下の電気的特性を探査することが可能になる。
しかも、各々の探査ユニットの構成や配置を適宜選択することにより、探査目的や探査地域の地理的条件等にフレキシブルに対応することができる。
【0020】
また、複数の探査ユニットを、広い範囲の地域に分散配置して測定を行うに際して、例えば配置される地域における接地抵抗が大きく異なる結果、配置場所によっては通電点に大きな電流を流せない場合も生じる。また、各探査ユニットは、独立して構成することができるために、通電手段間において通電可能な電流値が異なる場合も想定される。
【0021】
このような場合に、請求項に記載の発明によれば、探査ユニットの通電点から異なる振幅の電流を通電して、これら電流値の差異を相殺したうえで計測された電位波形との共分散を求めることにより、全ての通電点から同一の振幅の電流を流した場合と同じように、比抵抗法による地下の電気的特性を求めることが可能になる
【0022】
さらに、請求項に記載の発明によれば、複数の通電点から共分散がゼロになるように符号化された波形の電流を通電した場合においても、単位送信周期に実施された複数回の通電および通電遮断の各々に対して、上記通電遮断後における電圧の応答波形を考慮することにより、充電率を評価するための指標を算出することができ、よって地下の電気的特性の1つであるIP効果も評価することができる。
【0023】
この結果、従来のような同一振幅の電流による比抵抗法のみならず、当該振幅の大きさが異なる電流を流した比抵抗法や、強制分極法あるいは電磁法等にも対応することができ、よって地下の様々な電気的特性を探査することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明に係る分散型探査システムの一実施形態を示す概略構成図である。
図2図1の分散型探査システムにおいて時間差を設けて複数の探査ユニットにおいて通電する場合を示すタイムチャートである。
図3図1の分散型探査システムにおいて複数の通電点に同一の振幅の電流を通電した場合と、異なる振幅の電流を通電した場合とにおける結果を対比して示す図である。
図4】従来の強制分極法による演算方法を示す概念図である。
図5】本実施例における単位送信周期の通電波形および応答電圧波形を示すタイムチャートである。
図6図5の通電波形および応答電圧波形から強制分極法によるIP効果の指標を算出する方法を示す概念図である。
図7】従来の測定方法を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1は、本発明に係る地下の電気的特性を得るための分散型探査システムの一実施形態を示すものである。
この分散型探査システムは、広域あるいは地下深部までの電気的特性を求めるに必要な地域に、複数の探査ユニット(1、2、3、…(N−1)、N)を分散して配置したものである。ここで、各々の探査ユニットは、地表または地中に設置した1以上の通電点TXと当該通電点TXから地中に通電する通電手段、および同様に地表または地中に設置した1以上の計測点RXと各々の計測点RXからの上記通電による応答信号を計測する計測手段のいずれか一方または両方を備えたものである。
【0026】
ちなみに、図1において、探査ユニット2は、計測点RXとその計測手段のみを備えたものであり、探査ユニット3は、通電点TXとその通電手段のみを備えている。
そして、全ての探査ユニット(1、2、3、…(N−1)、N)は、それぞれ相互の探査ユニットの通電手段および計測手段の操作を同期させて、複数の通電点TXから共分散がゼロになるように符号化された波形の電流を通電するとともに、当該通電による応答信号を計測手段によって計測させる同期装置、およびデータ収集/制御装置等からなる同期制御手段が配置されている。
【0027】
ここで、上記同期制御手段によって探査ユニット(1、2、3、…(N−1)、N)の通電点TXおよび計測点RXの操作を行うに際しては、全ての探査ユニットの通電点TXから同時に通電するとともに、計測点RXにおいて同時に計測することも可能であるが、先ず1以上の探査ユニットの通電点TXからの通電を行った後に、他の探査ユニットの通電点TXからの通電を行うこともできる。
【0028】
この際に、最も重要な要件は、それぞれの探査ユニットにおいて通電するタイミングを正しくとることである。すなわち、ある探査ユニットにおいて通電している途中で、他の探査ユニットにおける通電が実施されることを避ける必要がある。ただし、ここでいう途中で通電を実施するとは、例えば1つの探査ユニットから符号化した電流波形を何回か繰り返して通電するような場合、少なくとも単位送信周期の通電および通電遮断を完了する前に他の探査ユニットにおいて通電を実施することをいう。
【0029】
換言すれば、どの探査ユニットにおける通電も、他の探査ユニットにおける単位送信周期の切れ目以外で始まらないようにさえすれば、任意の時刻に通電することが可能である。
このようにして、通電開始時刻のタイミングを正しく保つ方法としては、それぞれの探査ユニット(1、2、3、…(N−1)、N)が、時刻を正しく計測することにより自らの同期機能でタイミングを計って起動する方法や、ある地点から基準となる信号を発信して、それぞれのユニットがその信号を参照して通電のタイミングを知る方法を採用することができる。また、時刻を正しく計測する方法としては、例えば図1に示すように、GPS信号を利用する方法や、それぞれの探査ユニットに正確なクロックを内蔵してそれを参照する方法などを採用することができる。
【0030】
上述したように、探査ユニット間において、単位送電周期の途中で重ねて通電しないようにするためには、基準信号を利用する場合にはそれと同期して通電する方法をとることができる。また、正確な時刻を利用する方法においては、例えば、予め通電開始時刻がどの探査ユニットも単位送電周期の途中で重なることがないように、各探査ユニットに定まった時間間隔でのみ起動するトリガ機能を設けることにより達成できる。
【0031】
さらに、当該機能を備えていない場合においても、互いの探査ユニット間で連絡を取り合って通電が重ならないようにしたり、予め通電時間についてのルールを定めておいたりすることによって実現することができる。ただし、いずれの場合においても、それぞれの通電点TXから通電した時刻と、計測点RXで電位波形を計測している時刻を記録しておくことが必要である。
【0032】
次に、上記構成からなる分散型探査システムを用いて、比抵抗法により地下の応答電位を計測する本発明の分散型探査方法の一実施形態について説明する。
図2は、7箇所の通電点TXおよび7箇所の測定点RXを備えた上記分散型探査システムにおいて、比抵抗法により応答電位波形を測定した結果を示すものである。この実施形態においては、先ず、通電点TX1、3、5、7から通電し、すべての測定点RXにおいて応答波形を測定し、次にTX2、4、6から通電して、すべての測定点RXにおいて応答波形を測定した。なお、この時の通電の振幅はすべて同じである。
【0033】
また、この分散型探査システムにおいては、共分散がゼロになる符号を用いて複数の探査ユニットの通電点TXから通電するに際して、通電電流の振幅を変えて通電することもできる。すなわち、上述したように分散型探査システムにおいては、配置される地域における接地抵抗が大きく異なる等の理由から、必ずしも同じ振幅の電流で通電することが簡単ではないこともある。
【0034】
一方、通電電流の波形の共分散がゼロになる条件は、原理的には通電電流の振幅が異なっても保たれるので通電点によって異なる電流値となっても実施可能である。しかしながら、このような場合には演算処理を行う段階でそれを考慮した方法に改める必要がある。通電電流の振幅は、通電波形を記録することによって正確に求められるため、以下のように特定の通電電流の振幅に対する他の通電電流の振幅の比を乗じた電流値と、各々の通電電流に対して計測された計測点RXにおける電位値とを用いて演算処理することにより、正しい結果を得ることができる。
【0035】
先ず、i番目の通電点から流す電流波形をSij、それに対する電位応答をRi、j番目の電位観測点で観測される電位波形をPjとすると、Pjは次式で表される。
【0036】
【数1】
【0037】
ここに、測定点RXで観測される電位波形Pjと通電電流波形Sijの共分散Ciは、次式に示すように、電位波形Pjと通電電流波形Sijのそれぞれの平均値を引いた後に、乗算して総和を取ることによって求められる。
【0038】
【数2】
【0039】
これが通電点TXごとに異なるものであることを表すために、単位ベクトルの要素を小文字sijであらわし、通電点iにおける電流の振幅をaiで表すとsijは次式で表せる。
【0040】
【数3】
【0041】
(3)式を(2)式に代入すると、
【0042】
【数4】
【0043】
【数5】
となる。
【0044】
また、(1)式は、次のように書き換えることができる。
【0045】
【数6】
【0046】
(6)式を(5)式に代入すると、
【0047】
【数7】
【0048】
(7)式において、通電波形どうしの共分散は0なので、k=iの場合だけが残ることになり、Ciは次式で求められる。
【0049】
【数8】
従って、
【0050】
【数9】
となる。
【0051】
図3は、多点同時通電による電気探査において、各通電点TXからの通電電流値が同一の場合と、各通電点TXによって通電電流値が異なる場合を比較したモデル計算結果を示すものである。このモデル計算においては、地盤の比抵抗を100Ω・mの均質とし、7点の通電点TXから、すべて20mAで同時通電した場合と、各々の通電点TXから、20mA、16mA、14mA、12mA、10mA、4mA、2mAと異なる電流値を用いた場合とを比較した。この結果、各通電点TXにおいて異なる通電電流値を用いた場合においても、求められるRi(V/I)の値は、同等の結果が得られることが分かる。
【0052】
次に、上記構成からなる分散型探査システムを用いて、強制分極法により地下のIP効果を計測する本発明に係る分散型探査方法の他の実施形態について説明する。
先ず、図4に示すように、地下の電気特性の1つであるIP効果を測定する従来技術として、地下に流した電流を遮断した後の測定電位の応答から指標を得る方法がある。
【0053】
すなわち、図4aに示すように、ある時間だけ地下に電流を流すと、ある地点で測定される電位は図4bに示すように次第に一定電圧に近づく(1次電位)。そして、上記電位が一定電圧に近づいた後に電流を遮断すると、電位は指数減衰する。このときの減衰形状を特徴付ける値として減衰区間を積分した値(2次電位)を求め、これを1次電位で除することにより充電率と呼ばれる指標を求める。
【0054】
この際に、上記従来技術においては、通電点は1箇所に限定されているために、測定される電位は当該通電に対する応答であることが明らかであり、よって充電率は測定電位だけに注目して計算することができる。
しかしながら、上記分散型探査システムにおいては、任意の複数の通電点TXで同時に通電できることが要求されるために、このような計算を行うことができない。
【0055】
さらに、上記分散型探査システムにおいては、図5に示すように、複数の通電点で同時に通電して測定するために、異なる通電点TXごとに互いに共分散がゼロとなるように符号化された電流波形を用い、得られた測定電位波形と演算処理して求めている。このような電流波形において、上記実施形態において示したように、比抵抗を求めるには電流と電位の共分散を計算する際には、電流値がゼロの部分は共分散もゼロになるが、比抵抗の値を求めるには支障がない。
【0056】
これに対して、本実施形態の分散型探査方法においては、IP効果の指標である充電率は、通電電流がゼロの部分での電位応答が重要であり、単純に共分散を計算する手法は適用できない。ちなみに、IP効果の指標を求める際に計算対象となるのは通電電流が遮断される前後であり、たとえば、図5に示した波形においては、16箇所になる。
【0057】
そこで、本実施形態においては、図6に示すように、1回の通電および通電遮断の周期に対して、先ず上記通電時の電流値と測定された電圧との共分散値Cik(A)を求めるとともに、上記通電遮断後においては、図中点線で示す電流遮断後の電位応答が続く区間Lにおいて、直前の電流値が継続していたとして上記通電が行われていたと仮定して上記電流値と測定された電圧との共分散値Cik(B)を求める。
【0058】
すなわち、同図中の通電電流区間Tにおいて、共分散値Cik(A)は下式で表される。
【0059】
【数10】
【0060】
次いで、IP効果区間T2において、共分散値Cik(B)は下式で表される。
【0061】
【数11】
【0062】
なお、計算式中のSiは、全ての対象区間を含めた平均値である。
また、それぞれの区間について、計算を開始する位置(n1、n3)と、終了する位置(n2、n4)は、波形の状況等に応じて変更可能である。
そして、このようにしてCik(A)および、Cik(B)を、全て対象区間について計算して、下式に示すように、その結果を加え合わせる。
【0063】
【数12】
【0064】
そして、IP効果の指標Mは、下式に示すように、これらの比で求められる。
【0065】
【数13】
【0066】
ここで、添字iは、i番目の通電点に対するものであることを示す。
【0067】
以上説明したように、上記構成からなる地下の電気的特性を得るための分散型探査システム、およびこれを用いた分散型探査方法によれば、複数の通電点TXから互いの通電波形間の共分散がゼロになるような波形の電流を通電しているために、複数の測定点RXにおいて観測された応答電位波形から、容易に各々の通電点からの電流に対する応答を求めることができる。この結果、測定時間を大幅に短縮することができて作業効率に優れる。
【0068】
加えて、1以上の通電点TXとこれから地中に通電する通電手段および/または1以上の計測点RXと各計測点RXからの上記通電による応答信号を計測する計測手段とを備えた複数の探査ユニット(1、2、3、…(N−1)、N)を、地下の電気的特性を得る地域に分散配置して、複数の探査ユニットの通電手段および計測手段を同期制御手段によって同期させて操作しているために、広範囲の地下の電気的特性を探査する場合や、探査地域内に山間部や湖等の障害が存在する場合にも、各探査ユニットの設置と併行して、当該地域の探査を実施することができる。
【0069】
これにより、無駄な待機時間を排除して、短期間で効率的に広範囲の地域における地下の電気的特性を探査することが可能になるとともに、各々の探査ユニット(1、2、3、…(N−1)、N)の構成や配置を適宜選択することにより、探査目的や探査地域の地理的条件等にフレキシブルに対応することが可能になる。
【0070】
さらに、図3に示したように、通電点TXから互いの通電電流として振幅が異なっているものを用いた場合には、上記充電率を求める際に、Vp2/Vp1=(I2/I12から、求められる1次電位は通電電流の比の2乗に比例する。したがって、通電電流の比の2乗を補正係数として用いるか、従来の周知技術のように2次電位積分値の1次電位積分値に対する比を求めることで、通電電流が異なっている場合でも正規化された値として評価できる。
【符号の説明】
【0071】
TX 通電点
RX 測定点
図5
図6
図7
図1
図2
図3
図4