特許第6083384号(P6083384)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6083384
(24)【登録日】2017年2月3日
(45)【発行日】2017年2月22日
(54)【発明の名称】起泡性水中油型乳化油脂組成物
(51)【国際特許分類】
   A23D 7/00 20060101AFI20170213BHJP
   A23L 9/20 20160101ALI20170213BHJP
【FI】
   A23D7/00 508
   A23L9/20
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-547141(P2013-547141)
(86)(22)【出願日】2012年11月26日
(86)【国際出願番号】JP2012080494
(87)【国際公開番号】WO2013080924
(87)【国際公開日】20130606
【審査請求日】2015年10月13日
(31)【優先権主張番号】特願2011-263854(P2011-263854)
(32)【優先日】2011年12月1日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】100074561
【弁理士】
【氏名又は名称】柳野 隆生
(74)【代理人】
【識別番号】100124925
【弁理士】
【氏名又は名称】森岡 則夫
(74)【代理人】
【識別番号】100141874
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 久由
(74)【代理人】
【識別番号】100163577
【弁理士】
【氏名又は名称】中川 正人
(72)【発明者】
【氏名】柳田 崇至
(72)【発明者】
【氏名】久多里 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】山本 章博
【審査官】 長谷川 茜
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−276887(JP,A)
【文献】 特開平05−276888(JP,A)
【文献】 特開昭60−062951(JP,A)
【文献】 特開2010−207190(JP,A)
【文献】 特表2007−500516(JP,A)
【文献】 社団法人日本油化学協会編,改訂三版 油脂化学便覧,丸善株式会社,1990年 2月28日,第490頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D 7/00
A23L 9/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
起泡性水中油型乳化油脂組成物全体中、下記乳化剤(A)を0.04〜1.0重量%、下記乳化剤(B)を0.06〜1.0重量%、下記乳化剤(C)を0.03〜1.0重量%含有する起泡性水中油型乳化油脂組成物。
乳化剤(A):HLBが4以下のショ糖脂肪酸エステル及び/又はHLBが4以下で重合度が3〜10のポリグリセリン脂肪酸エステルで、且つ乳化剤(A)全体中の構成脂肪酸の飽和脂肪酸/不飽和脂肪酸(重量比)が0〜5.0である。
乳化剤(B):HLBが4を超え且つ10以下のレシチン及び/又はHLBが4を超え且つ10以下のショ糖脂肪酸エステル及び/又はHLBが4を超え且つ10以下で重合度が3〜6のポリグリセリン脂肪酸エステルで、且つ乳化剤(B)全体中の構成脂肪酸の飽和脂肪酸/不飽和脂肪酸(重量比)が0.25〜5.0である。
乳化剤(C):HLBが10を超えるショ糖脂肪酸エステル及び/又はHLBが10を超え且つ重合度が6〜10のポリグリセリン脂肪酸エステルで、且つ乳化剤(C)全体中の構成脂肪酸の飽和脂肪酸/不飽和脂肪酸(重量比)が0.2〜5.0である。
【請求項2】
起泡性水中油型乳化油脂組成物に含まれる油脂全体中、パーム核ステアリン硬化油脂を5〜60重量%含有する請求項1記載の起泡性水中油型乳化油脂組成物。
【請求項3】
起泡性水中油型乳化油脂組成物全体中、ジェランガム及び/又はグアガム0.03〜0.10重量%とキサンタンガム0.03〜0.10重量%とを含有する請求項1又は2に記載の起泡性水中油型乳化油脂組成物。
【請求項4】
起泡性水中油型乳化油脂組成物全体中、油脂の含有量が20〜50重量%である請求項1〜3のいずれかに記載の起泡性水中油型乳化油脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の起泡性水中油型乳化油脂組成物を、5〜10℃の温度でホイップを開始して製造してなるホイップドクリーム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホイップドクリームなどに用いられる起泡性水中油型乳化油脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ケーキのトッピングやナッペなどに使用されるホイップドクリームには、生乳から脂肪分を濃縮した生クリームと、乳脂肪や植物油脂等を水中油型に乳化した起泡性水中油型乳化油脂組成物がある。前記起泡性水中油型乳化油脂組成物としては、液状安定性、ホイップ物性、ホイップ後のクリームの保型性、口溶け、風味などを改善するために、原料油脂の脂肪酸組成を調整したり、乳化剤の組み合わせなどの各種試みが行われていた。
【0003】
例えば、特許文献1には、液状安定性、ホイップ物性、保型性、凍結耐性などの基本物性及び口溶け、風味などの官能特性に優れたホイップドクリームを提供することを目的として、SUS型トリグリセリドを50重量%以上含有する油脂(A)と、総炭素数36、38、40、48、50、52のトリグリセリドをそれぞれ6重量%以上含有し且つ酪酸とカプロン酸の合計量が2重量%以上である油脂(B)とからなる油脂組成物(X)を含有する起泡性水中油型乳化油脂組成物が開示されている。また、特許文献2には、ホイップ時間が短く、造花時に荒れ・先切れを起こさない、耐熱保形性に優れた起泡性水中油型乳化物を提供することを目的として、HLB8以上のポリグリセリン不飽和脂肪酸エステル0.02〜0.5重量%、ソルビタン脂肪酸エステル及びグリセリン脂肪酸エステルのうち少なくとも1種0.02〜0.5重量%、HLB5以上のショ糖脂肪酸エステル及びポリグリセリン飽和脂肪酸エステルのうち少なくとも1種0.01〜0.4重量%、さらにレシチンを0.01〜0.3重量%含有する起泡性水中油型乳化物が開示されている。
【0004】
上記のように油脂の脂肪酸組成や乳化剤の組み合わせを工夫することで、起泡性水中油型乳化油脂組成物のホイップ物性や得られるクリームの官能特性などは、それなりに改善された。しかし、起泡性水中油型乳化物を起泡(ホイップ)する場合、起泡時の乳化物の温度により、ホイップ時間やオーバーランなどの品質が変化するため、温度管理が必須である。しかしながら、実際に起泡性水中油型乳化物を使用する際には、主にユーザーにおいて厳格な温度管理をすることが困難な場合があり、特に夏場では起泡時の乳化物温度の違いによる品質変化が起こるケースがよく見られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−207190号公報
【特許文献2】特開平10−84900号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明は、起泡性水中油型乳化油脂組成物を使用する際、ホイップ開始時の原液の温度変化(5℃〜10℃程度)があっても、ホイップ時間や含気率(オーバーラン)などの品質が変化しにくい起泡性水中油型乳化油脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、従来のホイップ構造は、クリームを攪拌することで脂肪球の乳化が壊れて内部の油滴同士が合一することで形成されていたため、温度によって油脂結晶の状態が変化すると脂肪球の乳化の壊れ易さが変化し、ホイップ性が変化すること、そこで、HLBの大きく異なる(低、中、高の3タイプ)乳化剤をそれぞれ併用して乳化剤による厚い界面を形成し、これらの乳化剤を介した油滴同士の合一によるホイップ構造を適度に形成させることで、温度が変化してもホイップ性が変化しにくいことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明は、起泡性水中油型乳化油脂組成物全体中、下記乳化剤(A)を0.04〜1.0重量%、下記乳化剤(B)を0.06〜1.0重量%、下記乳化剤(C)を0.03〜1.0重量%含有する起泡性水中油型乳化油脂組成物に関する。
乳化剤(A):HLBが4以下のショ糖脂肪酸エステル及び/又はHLBが4以下で重合度が3〜10のポリグリセリン脂肪酸エステルで、且つ乳化剤(A)全体中の構成脂肪酸の飽和脂肪酸/不飽和脂肪酸(重量比)が0〜5.0である。
乳化剤(B):HLBが4を超え且つ10以下のレシチン及び/又はHLBが4を超え且つ10以下のショ糖脂肪酸エステル及び/又はHLBが4を超え且つ10以下で重合度が3〜6のポリグリセリン脂肪酸エステルで、且つ乳化剤(B)全体中の構成脂肪酸の飽和脂肪酸/不飽和脂肪酸(重量比)が0.25〜5.0である。
乳化剤(C):HLBが10を超えるショ糖脂肪酸エステル及び/又はHLBが10を超え且つ重合度が6〜10のポリグリセリン脂肪酸エステルで、且つ乳化剤(C)全体中の構成脂肪酸の飽和脂肪酸/不飽和脂肪酸(重量比)が0.2〜5.0である。
【0009】
好ましい実施態様では、起泡性水中油型乳化油脂組成物に含まれる油脂全体中、パーム核ステアリン硬化油脂を5〜60重量%含有する。また、別の好ましい実施態様では、起泡性水中油型乳化油脂組成物全体中、ジェランガム及び/又はグアガム0.03〜0.10重量%とキサンタンガム0.03〜0.10重量%とを含有する。
【0010】
また、好ましい実施態様では、起泡性水中油型乳化油脂組成物全体中、油脂の含有量が20〜50重量%である
【0011】
また、本発明は、上記のような本発明に係る起泡性水中油型乳化油脂組成物を、5〜10℃の温度でホイップを開始して製造してなるホイップドクリームに関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ホイップ開始時の温度を厳密に管理しなくても、得られるホイップドクリームの品質が大きく異なるという問題がなく、ホイップの開始温度が通常の作業環境条件下である5〜10℃において変動したとても、ホイップ時間と含気率がほとんど変化しない品質の安定したホイップドクリーム用の起泡性水中油型乳化油脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係る起泡性水中油型乳化油脂組成物は、HLBの大きく異なる、低HLBの乳化剤(A)、中HLBの乳化剤(B)及び高HLBの乳化剤(C)を、それぞれ特定量含有することを特徴とする。
【0014】
前記低HLBの乳化剤(A)は、HLBが4以下のショ糖脂肪酸エステル及び/又はHLBが4以下で重合度が3〜10のポリグリセリン脂肪酸エステルからなり、且つ乳化剤(A)全体中の構成脂肪酸の飽和脂肪酸/不飽和脂肪酸(重量比)が0〜5.0である。乳化剤(A)中の飽和脂肪酸としてはステアリン酸、パルミチン酸が好ましい。また、乳化剤(A)中の不飽和脂肪酸としてはオレイン酸、エルカ酸が好ましい。乳化剤(A)としては、HLBが4以下の飽和脂肪酸系の乳化剤とHLBが4以下の不飽和脂肪酸系の乳化剤を組み合わせて用いてもよいし、HLBが4以下で、構成脂肪酸の飽和脂肪酸/不飽和脂肪酸(重量比)が0〜5.0である乳化剤を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることもできるが、飽和脂肪酸系の乳化剤と不飽和脂肪酸系の乳化剤を組み合わせることが好ましい。これにより、ホイップドクリームに要求される一般的な性能を満たしたホイップドクリームを得やすくなる。乳化剤(A)として用いられる乳化剤の具体例としては、例えば、テトラグリセリンペンタステアレート、ヘキサグリセリンヘキサステアレート、HLBが4以下のショ糖ステアリン酸エステル、テトラグリセリンペンタオレエート、HLBが4以下のショ糖オレイン酸エステル等が挙げられる。
【0015】
また、前記中HLBの乳化剤(B)は、HLBが4を超え且つ10以下のレシチン及び/又はHLBが4を超え且つ10以下のショ糖脂肪酸エステル及び/又はHLBが4を超え且つ10以下で重合度が3〜6のポリグリセリン脂肪酸エステルからなり、且つ乳化剤(B)全体中の構成脂肪酸の飽和脂肪酸/不飽和脂肪酸(重量比)が0.25〜5.0である。乳化剤(B)中の飽和脂肪酸としてはステアリン酸、パルミチン酸が好ましい。また、乳化剤(B)中の不飽和脂肪酸としてはオレイン酸、エルカ酸が好ましい。乳化剤(B)としては、HLBが4を超え且つ10以下の飽和脂肪酸系の乳化剤とHLBが4を超え且つ10以下の不飽和脂肪酸系の乳化剤を組み合わせて用いてもよいし、HLBが4を超え且つ10以下で、構成脂肪酸の飽和脂肪酸/不飽和脂肪酸(重量比)が0.25〜5.0である乳化剤を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることもできるが、飽和脂肪酸系の乳化剤と不飽和脂肪酸系の乳化剤を組み合わせることが好ましい。これにより、ホイップドクリームに要求される一般的な性能を満たしたホイップドクリームを得やすくなる。乳化剤(B)として用いられる乳化剤の具体例としては、例えば、ヘキサグリセリンペンタステアレート、テトラグリセリンモノステアレート、HLBが4を超え且つ10以下のショ糖ステアリン酸エステル、レシチン、ヘキサグリセリンペンタオレエート、テトラグリセリンモノオレエート、HLBが4を超え且つ10以下のショ糖オレイン酸エステル等が挙げられる。また、レシチンとしてはHLBが4を超え且つ10以下のレシチンであれば良く、レシチンの種類も特に限定されないが、例えば、大豆レシチン、卵黄レシチン、酵素処理レシチン、酵素分解レシチン等が挙げられる。
【0016】
更に、前記乳化剤(C)は、HLBが10を超えるショ糖脂肪酸エステル及び/又はHLBが10を超え且つ重合度が6〜10のポリグリセリン脂肪酸エステルからなり、且つ乳化剤(C)全体中の構成脂肪酸の飽和脂肪酸/不飽和脂肪酸(重量比)が0.2〜5.0である。前記飽和脂肪酸としてはステアリン酸、パルミチン酸が好ましい。また、前記不飽和脂肪酸としてはオレイン酸、エルカ酸が好ましい。乳化剤(C)としては、HLBが10を超える飽和脂肪酸系の乳化剤とHLBが10を超える不飽和脂肪酸系の乳化剤を組み合わせて用いてもよいし、HLBが10を超え、構成脂肪酸の飽和脂肪酸/不飽和脂肪酸(重量比)が0.2〜5.0である乳化剤を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることもできるが、飽和脂肪酸系の乳化剤と不飽和脂肪酸系の乳化剤を組み合わせることが好ましい。これにより、ホイップドクリームに要求される一般的な性能を満たしたホイップドクリームを得やすくなる。乳化剤(C)として用いられる乳化剤の具体例としては、例えば、ヘキサグリセリンモノステアレート、デカグリセリンモノステアレート、HLBが10を超えるショ糖ステアリン酸エステル、ヘキサグリセリンモノオレエート、デカグリセリンモノオレエート、HLBが10を超えるショ糖オレイン酸エステル等が挙げられる。
【0017】
上記のような乳化剤の含有量は、起泡性水中油型乳化油脂組成物全体中、それぞれ0.02〜1.0重量%が好ましい。乳化剤の含有量は、より好ましくは、起泡性水中油型乳化油脂組成物全体中、乳化剤(A)は0.04〜1.0重量%、乳化剤(B)は0.06〜1.0重量%、乳化剤(C)は0.03〜1.0重量%である。乳化剤(A)、(B)、(C)の含有量が、下限値を下回ると、乳化剤を介した油滴同士の合一によるホイップ構造が得られず、5℃でホイップした時と10℃でホイップした時のホイップ時間(ホイップタイム)や含気率(オーバーラン)の差が大きくなる場合があり、上限値を上回ると、乳化剤の風味が強く出てしまう場合があり、好ましくない。
【0018】
本発明の起泡性水中油型乳化油脂組成物に用いる油脂としては、食用油脂であれば、いずれの油脂でもよいが、例えばパーム核油、ヤシ油、大豆油等の植物性油脂、乳脂肪、牛脂等の動物性油脂が例示できる。また上記油脂類の単独または混合油脂、あるいはそれらの硬化、分別、エステル交換等を施した加工油脂も使用できる。好ましい油脂配合としては、パーム核油、パーム核ステアリン、パーム核ステアリン硬化油脂、ヤシ油などのラウリン系油脂に加えて、液状油を配合する。前記液状油としては、例えば、ナタネ油、ハイオレイックナタネ油、コーン油、綿実油、大豆油、ひまわり油、ハイオレイックひまわり油、サフラワー油、オリーブ油等の植物性油脂、乳脂肪、魚油等の動物性油脂が挙げられ、これらに適宜、硬化、分別、エステル交換等の加工処理を行ったものを用いることができる。なお、本発明で前記液状油とは、5℃において液状である油脂をいう。
【0019】
本発明では、油脂として、パーム核ステアリン硬化油脂を用いることが好ましい。ホイップしたクリームの口溶けと保型性の点から、パーム核ステアリン硬化油脂の配合量は、起泡性水中油型乳化油脂組成物に含まれる油脂全体中で5〜60重量%が好ましく、10〜50重量%がより好ましい。
【0020】
更に、前記本発明の起泡性水中油型乳化油脂組成物に用いる油脂には、パーム油とラウリン系油脂とのエステル交換油脂を配合することもできる。前記ラウリン系油脂としては、ヤシ油、パーム核油、それらの分別油脂、エステル交換油脂又は硬化油脂等が挙げられる。前記パーム油とラウリン系油脂とのエステル交換油脂は、油脂結晶状態の変化を抑える効果があり、ホイップ時の温度が変化しても品質が変化しにくくなる傾向があるため、油脂全体中に5重量%以上配合することが好ましい。
【0021】
本発明の起泡性水中油型乳化油脂組成物においては、前記油脂の含有量が、20〜50重量%であることが好ましく、20〜40重量%であることがより好ましく、25〜35重量%であることが更に好ましい。油脂の含有量が20重量%を下回ると風味、ホイップ性が低下し、またホイップしたクリームの保型性が悪くなり、離水等の現象が生じるため好ましくない場合がある。一方、油脂の含有量が50重量%を超える範囲では液状安定性が低下し、ホイップしたクリームのキメが悪く、シマリ易くなるため好ましくない場合がある。
【0022】
更に、本発明の起泡性水中油型乳化油脂組成物には、前記のような油脂及び乳化剤の他に、増粘多糖類を配合することが好ましい。増粘多糖類としては、例えば、ジェランガム、グアガム、キサンタンガム、寒天、ペクチン、アルギン酸ナトリウム、カラギーナン、ローカストビーンガム、アラビアガム又はカルボキシメチルセルロース等を挙げることができる。これらの中でも、ネイティブ型のジェランガム、グアガム、キサンタンガムが好ましく、ホイップタイムの適正化と、ホイップドクリームの保型性向上と離水抑制の点から、その配合量は、起泡性水中油型乳化油脂組成物全体中、ジェランガム及び/又はグアガム0.03〜0.10重量%とキサンタンガム0.03〜0.10重量%の範囲内が好ましい。
【0023】
更に、本発明の起泡性水中油型乳化油脂組成物には、タンパク質、糖類、塩類などを必要に応じて配合することができる。
【0024】
タンパク質としては、食品に用いることのできるものであれば、いずれのものでもよいが、風味の点で乳由来のタンパク質が好ましく、例えば、カゼイン、ホエータンパク質、全脂粉乳、脱脂粉乳、バターミルクパウダー等が挙げられる。また、タンパク質を供給する目的で、生乳、全脂濃縮乳、脱脂乳、脱脂濃縮乳、バターミルク、ホエー、生クリーム、加糖練乳、無糖練乳、バター、ヨーグルト又はチーズ等を用いてもよく、さらに、UF膜やイオン交換樹脂処理等によりタンパク質を分離、分画したものを用いてもよい。また、カゼインナトリウムのような、乳タンパク質の塩類も同様に使用できる。
【0025】
糖類としては、例えば、砂糖、異性化糖、液糖、澱粉糖化物又は糖アルコール等が挙げられる。
【0026】
塩類としては、例えばリン酸のナトリウム塩、カリウム塩、重合リン酸のナトリウム塩、炭酸のナトリウム塩又はクエン酸のナトリウム塩等が挙げられる。また、必要に応じて着色料や香料などを使用してもよい。着色料や香料は、食品用であれば特に限定はなく、必要に応じて適宜使用することができる。
【0027】
本発明の起泡性水中油型乳化油脂組成物は、既存の方法で製造することができる。例えば、油脂、油溶性乳化剤等の油系原料を混合して50〜80℃に加温溶解した油相部と、水溶性乳化剤やタンパク質、塩類などの水系原料を50〜70℃の温水に攪拌溶解した水相部とを予備乳化し、その後、均質化、殺菌、均質化、冷却、エージングなどの通常行われる各処理を行うことにより、本発明の起泡性水中油型乳化油脂組成物を得ることができる。
【0028】
本発明の起泡性水中油型乳化油脂組成物は、ケーキのトッピングやナッペなどに使用されるホイップドクリーム用として用いられる。
【実施例】
【0029】
以下に実施例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0030】
<ホイップタイムの評価>
ホイップタイムは、カントーミキサー(CS型20:関東混合機工業株式会社製)に、実施例及び比較例で得られた起泡性水中油型乳化油脂組成物の品温を、5℃と10℃に調整しそれぞれ4kg、グラニュー糖400gを入れ、高速撹拌条件(380rpm)でホイップし、トッピングするのに適度な硬さに到達するまでの時間を評価値とした。その際の評価基準は以下の通りである。
5点:5℃と10℃の評価値の差が30秒未満。
4点:5℃と10℃の評価値の差が30秒以上1分未満。
3点:5℃と10℃の評価値の差が1分以上1分30秒未満。
2点:5℃と10℃の評価値の差が1分30秒以上3分未満。
1点:5℃と10℃の評価値の差が3分以上。
【0031】
<オーバーランの評価>
オーバーランとは、ホイップドクリームに含まれる空気の割合を%で示したものであり、カントーミキサー(CS型20:関東混合機工業株式会社製)に、実施例及び比較例で得られた起泡性水中油型乳化油脂組成物の品温を、5℃と10℃に調整しそれぞれ4kg、グラニュー糖400gを入れ、高速撹拌条件(380rpm)でトッピングするのに適度な硬さに到達するまでホイップし、次式で求め評価値とした。
オーバーラン(%)=[(一定容積の起泡性水中油型乳化油脂組成物の重量)−(一定容積のホイップドクリームの重量)]÷(一定容積のホイップドクリームの重量)×100
その際の評価基準は以下の通りである。
5点:5℃と10℃の評価値の差が5%未満。
4点:5℃と10℃の評価値の差が5%以上10%未満。
3点:5℃と10℃の評価値の差が10%以上20%未満。
2点:5℃と10℃の評価値の差が20%以上30%未満。
1点:5℃と10℃の評価値の差が30%以上。
【0032】
<総合評価>
総合評価は、上記のホイップタイム、オーバーランの評点の平均を評価結果とした。
【0033】
(製造例1)
[パーム核オレインとパーム油のランダムエステル交換油脂の作製]
パーム核オレイン55重量部とパーム油45重量部を、ナトリウムメチラートを用いた化学触媒法によりランダムエステル交換した後、精製し、上昇融点29℃の油脂を得た。
【0034】
実施例及び比較例で用いた乳化剤を表1に示す。
【0035】


【表1】
【0036】
(実施例1)
表2に示す配合により、起泡性水中油型乳化油脂組成物を製造した。
先ず、パーム核ステアリン硬化油脂8.8重量%、パーム核油8.8重量%、製造例1で得られたパーム核オレインとパーム油のランダムエステル交換油脂5.5重量%、ナタネ油4.5重量%の混合油脂に、テトラグリセリンペンタオレエート(HLB3.0)0.1重量%、ヘキサステアリンヘキサステアレート(HLB4.0)0.1重量%、レシチン(JレシチンCL、株式会社Jオイルミルズ製、HLB5.0)0.16重量%、テトラグリセリンモノステアレート(HLB8.4)0.08重量%を添加し、65℃で溶解して油相部を調製した。
一方、バターミルクパウダー3.0重量%、ホエイパウダー2.0重量%、グアガム0.05重量%、キサンタンガム0.05重量%、ヘキサメタリン酸ナトリウム0.2重量%、ヘキサグリセリンモノステアレート(HLB11.6)0.1重量%、ヘキサグリセリンモノオレエート(HLB11.6)0.04重量%を60℃の水66.52重量%に溶解して水相部を調製した。
上記の油相部と水相部を20分間予備乳化後、高圧ホモジナイザーを用いて4MPaの圧力で処理した後に、UHT殺菌機を用いて142℃で4秒間殺菌処理し、その後、再び高圧ホモジナイザーを用いて6MPaの圧力で処理し、その後、冷却機で5℃まで冷却したものを容器に充填し、起泡性水中油型乳化油脂組成物を得た。
【0037】
(実施例2)
乳化剤の種類及び添加量を表2に示す通りに変更し、それに伴い水の配合量を調整した以外は、実施例1と同様にして起泡性水中油型乳化油脂組成物を得た。
【0038】
(実施例3)
表2に示す通り、乳化剤Aのうち、テトラグリセリンペンタオレエート(HLB3.0)をショ糖脂肪酸エステル(HLB1.0)0.1重量%に変更した以外は、実施例1と同様にして起泡性水中油型乳化油脂組成物を得た。
【0039】
(実施例4)
表2に示す通り、乳化剤Aのうち、ヘキサグリセリンヘキサステアレート(HLB4.0)を配合せず、それに伴い水の配合量を調整した以外は、実施例1と同様にして起泡性水中油型乳化油脂組成物を得た。
【0040】
(実施例5)
表2に示す通り、グアガムをジェランガム0.05重量%に変更した以外は、実施例1と同様にして起泡性水中油型乳化油脂組成物を得た。
【0041】
(実施例6)
表2に示す通り、混合油配合をパーム核ステアリン硬化油脂15.0重量%、パーム核油15.0重量%、製造例1で得られたパーム核オレインとパーム油のランダムエステル交換油脂8.0重量%、ナタネ油6.0重量%に変更し、それに伴い水の配合量を調整した以外は、実施例1と同様にして起泡性水中油型乳化油脂組成物を得た。
【0042】
(実施例7)
グアガムとキサンタンガムの配合量を、グアガム0.01重量%、キサンタンガム0.06重量%に変更し、それに伴い水の配合量を調整した以外は、実施例1と同様にして起泡性水中油型乳化油脂組成物を得た。
【0043】
(実施例8)
表2に示す通り、混合油配合をパーム核油20.0重量%、製造例1で得られたパーム核オレインとパーム油のランダムエステル交換油脂5.0重量%、パーム核硬化油脂5.0重量%に変更し、グアガムをジェランガム0.05重量%に変更し、それに伴い水の配合量を調整した以外は、実施例1と同様にして起泡性水中油型乳化油脂組成物を得た。
【0044】
以上の実施例で得られた起泡性水中油型乳化油脂組成物の品温を5℃と10℃に調整したものをホイップし、それぞれのホイップタイムとオーバーランを測定した。各実施例の起泡性水中油型乳化油脂組成物の配合と評価結果を表2に示す。なお、表2中の飽和脂肪酸/不飽和脂肪酸(重量比)は、各乳化剤の分子量並びに脂肪酸構成及び構成脂肪酸の分子量に基づく計算値である。
【0045】
【表2】
【0046】
(比較例1)
乳化剤A、Bを、表3に示す通りに変更し、それに伴い水の配合量を調整した以外は、実施例1と同様にして起泡性水中油型乳化油脂組成物を得た。
【0047】
(比較例2)
乳化剤B、Cを、表3に示す通りに変更した以外は、実施例1と同様にして起泡性水中油型乳化油脂組成物を得た。
【0048】
(比較例3)
乳化剤B、Cを、表3に示す通りに変更した以外は、実施例1と同様にして起泡性水中油型乳化油脂組成物を得た。
【0049】
(比較例4)
乳化剤B、Cを、表3に示す通りに変更し、それに伴い水の配合量を調整した以外は、実施例1と同様にして起泡性水中油型乳化油脂組成物を得た。
【0050】
(比較例5)
乳化剤B、Cを、表3に示す通りに変更した以外は、実施例1と同様にして起泡性水中油型乳化油脂組成物を得た。
【0051】
以上の比較例1〜5で得られた起泡性水中油型乳化油脂組成物の品温を5℃と10℃に調整したものをホイップし、それぞれのホイップタイムとオーバーランを測定した。各比較例の起泡性水中油型乳化油脂組成物の配合と評価結果を表3に示す。なお、表3中の飽和脂肪酸/不飽和脂肪酸(重量比)は、各乳化剤の分子量並びに脂肪酸構成及び構成脂肪酸の分子量に基づく計算値である。
【0052】
【表3】
【0053】
表2に示す実施例の起泡性水中油型乳化油脂組成物の評価結果及び表3に示す比較例の起泡性水中油型乳化油脂組成物の評価結果から明らかなように、本願発明によれば、ホイップ開始時の原液温度が5〜10℃において変化しても、ホイップ時間(ホイップタイム)と含気率(オーバーラン)がほとんど変化しないホイップドクリーム用起泡性水中油型乳化油脂組成物が得られることが分かった。