(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1乃至請求項3の内の一に記載の永久磁石埋込型モータにおいて、前記補助永久磁石の保持力が、前記磁極を作るための前記主永久磁石の保持力より小さい、ことを特徴とする永久磁石埋込型モータ。
請求項4に記載の永久磁石埋込型モータにおいて、前記補助永久磁石の保持力が、前記磁極を作るための前記主永久磁石の保持力に対して0.75倍から0.85倍の範囲にある、ことを特徴とする永久磁石埋込型モータ。
請求項1乃至請求項3の内の一に記載の永久磁石埋込型モータにおいて、前記補助永久磁石の保持力が、前記磁極を作るための前記主永久磁石の保持力より大きい、ことを特徴とする永久磁石埋込型モータ。
【発明を実施するための形態】
【0017】
〔IPMモータ1の構造について〕
図1は本発明の一実施例であるIPMモータ1の構造を説明するための正面図であり、
図2は
図1に示すIPMモータ1のA−A断面の構造を示す断面図である。
図1および
図2を用いて本発明の一実施例であるIPMモータ1の構造および動作、効果を説明する。この実施例は内転型モータの例であり、積層鋼板で形成された固定子100の内側に前記固定子同様の積層鋼板で形成された回転子150が設けられている。また本実施例では、回転子150は、回転シャフトを備え前記回転シャフトを機械的に支持する構造のモータではなく、磁気力により回転子150を回転可能に支持する構成を備えている。
しかし、本発明は回転子150が機械的軸受けにより支持されるモータに適用しても、同様な効果が期待できる。すなわち本発明の基本的な作用や動作は機械的軸受けを有するモータであっても同じである。回転子150を機械的な軸受けにより支持するモータや磁気的に支持するモータのどちらにも本発明が適用できるが、これらを代表して回転子150を磁気的に支持する構造のモータを用いて説明する。
【0018】
〔固定子100の構造について〕
固定子100は、回転子150の外周に等間隔に配置された12個のティース110を有している。各ティース110およびティース110をつなぐ固定子コアー102は、それぞれ積層鋼板を打ち抜いて作られており、各ティース110に固定子巻線120が巻回されている。本実施例のIPMモータは3相12スロットのモータであり、回転子150は4極である。もちろんこれらスロット数や回転子150の磁極数は一例であり、これに限られるものではない。またこの実施例では固定子巻線120は集中巻であるが、分布巻でも本発明を適用することができ、同様に大きな効果を得ることができる。本発明の基本的な原理や作用および効果は集中巻であっても分布巻であっても同じであり、これらを代表して集中巻の例で以下説明する。
【0019】
固定子100は回転子150に回転トルクを発生させるだけでなく、固定子100に対して回転子150の回転軸(以下Z軸)や径方向軸(以下X軸)が所定の位置や所定の角度となるように磁束を発生する。このため固定子100は、回転子150の外周面にエアーギャップを介して対向するティース110だけでなく、回転子150のZ軸方向の各側面とエアーギャップを介して対向する補助ティース112や補助ティース114を有している。
【0020】
固定子100は固定子巻線120や径方向制御巻線132、回転軸方向制御巻線134、傾斜制御巻線136を有している。固定子巻線120は回転磁界を発生して回転子150に回転トルクを発生し、径方向制御巻線132はZ軸の位置が径方向であるX軸方向において所定の位置となるように制御する。また回転軸方向制御巻線134は、回転子150がZ軸方向において所定の位置となるように制御する。さらに傾斜制御巻線136は、回転子150の固定子100に対する傾きが所定の傾きとなるように、つまり回転子150の回転軸であるZ軸がティース110の中心でしかもティース110の内側開口の中心軸と一致するように、回転子150のZ軸の傾きを制御する。
【0021】
なお、回転軸方向制御巻線134と傾斜制御巻線136の配置を径方向において逆にしても良い。さらに、固定子巻線120や径方向制御巻線132、回転軸方向制御巻線134、傾斜制御巻線136が作る磁束を一つの巻線で発生させても良い。例えば径方向制御巻線132の位置に共通の巻線を設け、固定子巻線120や径方向制御巻線132、回転軸方向制御巻線134、傾斜制御巻線136供給する電流を重ねあわせた電流を前記共通の巻線に供給することにより、同じような制御を行うことができる。もちろん固定子巻線120や回転軸方向制御巻線134、傾斜制御巻線136の巻線位置が変わるので、巻線位置の変更による電流値の調整が必要となるが、基本的な制御概念は同じである。
【0022】
回転子150を磁気的に支持し、機械的な軸受けを不要にすることにより、モータの体積をさらに小さくすることが可能となる。また機械部分のメンテナンスが不要となる効果がある。例えば体内に埋め込まれる人工心臓用ポンプモータでは機械部分の磨耗等のメンテナンスが不要となり医療用装置として非常に有利となる。
一方、回転子150を磁気力ではなく機械的な軸受けで保持する場合には、補助ティース114は不要であり、さらに径方向制御巻線132や回転軸方向制御巻線134、傾斜制御巻線136も不要となるため固定子構造は簡単になるが軸受けの磨耗を考慮しなければならず、機械的寿命或いは機械部品のメンテナンスを考慮する必要がある。
【0023】
〔回転子150の構造および磁極の構造について〕
図3は、回転子150を
図2に示すZ軸に垂直な面で切った状態の断面図である。回転子150は4極の構造であり、各磁極を磁極Aや磁極B、磁極C、磁極Dで示す。磁極は、回転子鉄心152に貫通して埋め込まれた長方形状の4個の主永久磁石162により形成される。
図3においてのみ特別に4個の主永久磁石162を主永久磁石162A、主永久磁石162B、主永久磁石162C、主永久磁石162D、として記載する。これら主永久磁石162は基本動作が同じであり、他の図では主永久磁石162A〜主永久磁石162Dをそれぞれ単に主永久磁石162として記載する。磁極Aや磁極Cではこれらの磁極を形成するための主永久磁石162Aや主永久磁石162Cは、固定子100の側である外周側がN極で回転子150の中心側がSとなるように磁化されている。また磁極Bや磁極Dではこれらを形成するための主永久磁石162Bや主永久磁石162Dは、逆方向である固定子側すなわち外周側がS極で、回転子150の中心側がN極となるように磁化されている。すなわち回転子150の回転方向に於いて、磁極毎に埋設されている主永久磁石162の磁化方向が反転するように主永久磁石162が磁化されている。回転子150の磁極が4極より多くなった場合も同様であり、回転子150の回転方向に於いて、磁極毎に主永久磁石162の磁化方向が反転するように主永久磁石162が磁化されている。
【0024】
磁極A〜磁極Dの各主永久磁石162の外周側の回転子鉄心152はそれぞれ磁極片184として作用し、これら磁極片184を介して磁束が出入りする。例えば主永久磁石162Aに基づく磁束は磁極Aの磁極片184から出て、固定子に導かれ、固定子100の内部を通り、固定子100から磁極Bあるいは磁極Dの磁極片184に導かれ主永久磁石162Bや主永久磁石162Dを介して主永久磁石162Aに戻る。この磁束と固定子100に設けられた固定子巻線120を流れる電流との作用により力が発生し、回転トルクとして回転子150に作用し、回転子150が回転する。主永久磁石162Cに付いても同じであり、磁極Cの磁極片184から固定子100の固定子巻線120に磁束が導かれ、磁極Bあるいは磁極Dの磁極片184には固定子100から磁束が導かれ、主永久磁石162Bや主永久磁石162Dを介して主永久磁石162Cに磁束が戻る。磁極が多くなっても上述した磁束の流れは、同じであり、磁極Aの磁極片184から固定子に導かれた磁束は、固定子を通り回転子150の両隣の磁極、
図3の場合は磁極Bと磁極Dの磁極片184に戻る。上記説明は主永久磁石162が発生する磁束と固定子巻線120を流れる電流により発生する力で回転子150の回転トルクを説明したが、固定子巻線120を流れる電流が作る固定子100の回転磁界と回転子150の主永久磁石162との磁気的関係で回転トルクが回転子150に発生すると考えても良い。
【0025】
〔回転子150の漏れ磁束の低減構造について〕
隣同士の磁極片184の間で磁束が漏れて、固定子に導かれない磁束(以下漏れ磁束と記す)が生じる場合、漏れ磁束は回転トルクの発生に寄与しない。このため、隣同士の磁極片184の間の漏れ磁束を抑制することが望ましい。本実施例では、隣同士の磁極片184の間にはそれぞれ端部磁石174が設けられている。端部磁石174は漏れ磁束を低減するように、端部磁石174の磁石面が向いている磁極と同じ極性に磁化されている。磁極Aと磁極Bとの間の端部磁石174で説明すると、端部磁石174の磁極A側の面が磁極Aと同じN極となり、端部磁石174の磁極B側の面が磁極Bと同じS極となるように、端部磁石174は磁化されている。このことにより、磁極Aの磁極片184から磁極Bの磁極片184への漏れ磁束が大幅に低減される。このような磁化方法に従って全ての端部磁石174が磁化されている。なお本実施例は、端部磁石174として永久磁石を使用した、漏れ磁束を極めて少なくする理想的な構成を示している。端部磁石174の代わりに非磁性体を配置しても漏れ磁束を低減することができる。また、非磁性体の代わりに空隙にしても良い。以下非磁性体を使用した場合の前記非磁性体を空気の場合だけでなく総称して磁気空隙と記す。
【0026】
端部磁石174の外周側には、前記磁極片間をつなぐブリッジ部186がそれぞれ回転子鉄心成形時に打ち抜きによって設けられている。このブリッジ部186は回転子150が回転すると各磁極の主永久磁石162や磁極片184、その他後述する補助磁石172に遠心力が発生し、この遠心力に耐える機械的な構造をとっている。すなわち最高回転速度で発生する上述の遠心力に対して十分耐えられる形状を成している。なお、ブリッジ部186を介して磁束が漏えいするが、ブリッジ部186が作る磁気回路の断面積が限られているため、ブリッジ部186は磁気的に飽和状態となり、漏えい磁束量は少ない。このためブリッジ部186が存在しても、回転トルクが大きく減少するようなことは生じない。
図3に示す全てのブリッジ部186に対して上記説明が成り立ち、さらに回転子150の極数が増えた場合に、各磁極間にブリッジ部186がそれぞれ設けられるが、これらブリッジ部186の全てに対して上記説明が成り立つ。
【0027】
〔回転子150のコギングトルクの低減について〕
固定子100の各巻線にまったく電流が供給されていない固定子100の非励磁状態での磁気吸引力に基づくトルク、すなわちコギングトルクについて次に説明する。コギングトルクはトルク脈動の要因となる。本実施例ではコギングトルクを低減するために各磁極片184に補助磁石172が設けられている。補助磁石172を用いてコギングトルクを低減する構成は、
図3の構造に限定されるものではなく、補助磁石172の位置や補助磁石172の形状、さらに補助磁石172の数などに付いて色々考えられるが、代表的な例として
図3に示す、2個の補助磁石172を使用した例を説明する。この補助磁石172は磁極片184から固定子100に入り込む磁束の分布あるいは固定子100から磁極片184に戻る磁束の分布を理想的な分布に近づける作用をする。望ましい磁束の分布は、ブリッジ部186の近傍の磁束密度がゼロとなり、回転方向に於ける磁極片184の中央すなわち電気角の90度の位置の磁束密度が最も高くなる、正弦波の状態である。なお磁極Aや磁極Cにおける電気角の90度の位置を軸線Cで示している。
【0028】
今仮に従来技術である磁極片184に補助磁石172が無い状態と仮定する。この場合例えば磁極Aの磁極片184の磁束は、
図4(A)に示す如く隣接する他の磁極の影響を受ける。隣接する他の磁極BやDがそれぞれ逆極性であるため、磁極Aの中央部の磁束が減少し、磁極Bや磁極Dに近い方の磁束密度が増大する傾向となる。
【0029】
図5は、固定子の突極構造を無視して単に均一な鉄心と仮定して、回転子150の各磁極において、固定子100側表面の回転方向に沿った電気角あるいは機械角における磁束密度の変化を示したグラフである。特性Aは、補助磁石172が無いと仮定した従来の構造における磁束密度の変化を示す。この特性Aでは、隣接する磁極の逆極性の影響を受け、電気角20度や160度の付近に磁束密度の頂点であるピークGやピークFが生じる。一方電気角の90度付近では、中央部磁束密度Eとして示した如く、前記2つの頂点の間で最も低い磁束密度を示す。このように従来構造では、電気角20度や160度の付近に磁束密度のピークが表れ、さらにグラフの中央部磁束密度EがピークG7やピークFの間において最も磁束密度が低くなっている、特性Aの磁束密度の状態は、理想である正弦波の状態とは程遠く、大きなコギングトルクを発生する。
【0030】
図5の特性Aに示す如く、電気角20度や160の付近に磁束密度のピークであるピークG7やピークFが表れ、一方電気角90度付近の磁束密度が低くなる原因は、上述した如く隣接する逆極性の磁極の影響である。具体的に説明すると、
図4(A)に示す如く、主永久磁石162が発生した磁束がそのまま固定子100に導かれるのではなく、磁束208や磁束210として示す如く、主永久磁石162が作る磁束が、両側に隣接する他磁極の方にそれぞれ引かれ漏洩するためである。
【0031】
各磁極片184に設けた補助磁石172は、
図4(A)に示す漏洩しようとする磁束210や磁束208を逆に磁極片184の中央部に、磁極Aや磁極Cでは軸線Cの方向に、磁束を集めようとする作用をする。
図4(B)はこの様子を模式的に示している。補助磁石172は、主永久磁石162から外周側に延びるように配置されている。この実施例では主永久磁石162に垂直に配置されている、しかし垂直に限るものではない。磁極Aを例として説明すると、補助磁石172は2つの面172Aと172Bを有していて、磁極片184の中央の方を向いている面172Aは、補助磁石172が置かれている磁極と同じ極性に磁化されている。また隣接する他の磁極の方を向いている面172Bは隣接する他の磁極と同じ極性に磁化されている。磁極片184に設けられた2つの補助磁石172が上記のように磁化されていることにより、磁極片184の中央部の磁束が隣接する磁極の方に片寄るのを阻止し、
図4(B)の磁束202で示す如く磁極片184の中央部に磁束を集める作用をする。また隣接する磁極の方の磁束を
図4(B)の磁束204で示す如く、磁極片184の中央側に引き寄せる作用をする。
【0032】
図5の特性Bは、2つの補助磁石172を設けた
図3の実施例における磁極片184外周面の磁束密度の状態を示す。電気角20度および160度の部分に生じたピークがピークKやピークJで示す如く減少している。一方磁極片184の中央部である電気角90度付近の磁束密度が、中央磁束密度Eから中央磁束密度Hに大きくなっている。特性Aで示す磁束密度の状態に対して特性Bで示す磁束密度の状態の方が大幅に改善されており、コギングトルクの低減に大きく貢献する。
【0033】
〔補助磁石172の配置に付いて〕
2個の補助磁石172の配置は、
図3に示す如く、各磁極片184の回転方向の中央すなわち電気角90度に対して略対象の位置になるようにしている。代表して磁極Aに付いて具体的に説明する。磁極片184の回転方向の中央すなわち電気角90度の位置に軸線Cを記載した。2個の補助磁石172は主永久磁石162に対して垂直でしかも軸線CからL1/2離れ、軸線Cに対して対称の位置に設けられている。
【0034】
なお2個の補助磁石172は主永久磁石162に対して垂直に構成しなくても良く、主永久磁石162から固定子に向かって伸びている成分があれば、磁極片184の磁束密度を改善する作用をする。すなわち、磁極片184の回転角における中央部分の磁束が隣接する他の磁極に引かれるのを抑制する効果がある。また磁極片184における両端側、すなわち隣接する他の磁極に近い位置の磁束を中央すなわち軸線Cの方向に集める効果がある。
図4(B)の磁束204の如く補助磁石172より他磁極側の部分の磁束を中央の方に集める作用をする。
【0035】
また
図3において、2個の補助磁石172間の距離をL1とし、磁極Bに近い方の補助磁石172と主永久磁石162の磁極B側の端部との距離をL2とし、磁極Dに近い方の補助磁石172と主永久磁石162の磁極D側の端部との距離をL3とした場合、距離L1は距離L2や距離L3より大きい。また距離L2と距離L3は略等しい。このような配置とすることで、
図5に示す特性AのピークFおよびピークGを、特性BのピークJやピークKの如く低く抑えることができる。また特性Aの中央部磁束密度Eを、特性Bの中央部磁束密度Hで示す如く、高くすることができる。特性AのピークFおよびピークGを低く抑えるためには2個の補助磁石172を隣接する他の磁極に接近させ、距離L1を距離L2や距離L3より大幅に、例えば2倍程度に大きくすることが望ましい。特性AのピークFおよびピークGを、特性BのピークJやピークKの如く低く抑えることで、コギングトルクを大幅に改善することができる。また特性Aの中央部磁束密度Eを、特性Bの中央部磁束密度Hで示す如く高くすることで、コギングトルクを大幅に改善することができる。
【0036】
〔補助磁石172として永久磁石を使用したことによる効果について〕
本実施例では補助磁石172として永久磁石を使用している。このことにより前述の如くコギングトルクを大幅に改善することができる。
図4(B)で説明すると、2個の補助磁石172が有する起磁力が主永久磁石162の磁束を助ける方向の磁束を発生し、磁極片184の中央部分の磁束密度を高くする作用をしている。この作用はコギングトルクの改善に大きく貢献しているがそれだけでなく、この磁束は回転トルクを発生する磁束として作用するので、本実施例のモータが発生する回転トルクの増大に大きく貢献している。今N極である磁極Aで具体的に説明したが、
図3の磁極Bや磁極Dで示すS極の磁極であっても同様であり、磁極片184の回転角における中央部の磁束密度を増大してコギングトルクを改善する作用に加え、モータが発生する回転トルクを増大する効果を奏する。
【0037】
〔補助磁石172と主永久磁石162の保持力にいて〕
主永久磁石162はモータに回転トルクを与えるための永久磁石である。一方補助磁石172は回転子150の磁極の外周面、すなわち固定子のティース110に対向する面の回転方向の磁束の分布を改善するための永久磁石である。この考えから主永久磁石162の保持力より補助磁石172の保持力を小さくすることが1つの考え方である。なお、シミュレーションなどによる解析結果では、主永久磁石162の保持力に対して補助磁石172の保持力を0.7〜0.9程度とすることでコギングトルクを大幅に低減できるとの結果がえられた。
【0038】
積層された固定子鉄心で作られた12個のティース110が回転子150の外周に等間隔に配置された状態で、
図3に示す構造の回転子を回転させた場合のコギングトルクの状態をシミュレーションした結果を
図6に示す。
図6は1つのティース110におけるコギングトルクの状態を表しており、各ティース110に対して略同様のシミュレーション結果である。
図6のグラフは、横軸が各ティース110に対応した機械角を表し、縦軸はコギングトルクを表している。グラフG1は、
図3に記載された各磁極に設けられている2つの補助磁石172が全く無い場合のコギングトルクを示す。グラフG2〜グラフG6は、本発明の実施例である
図3に示す構造の回転子150を回転させた場合のグラフである。グラフG2〜グラフG6では、2つの補助磁石172が無い場合のグラフG1に対してコギングトルクが大きく改善されている。
【0039】
グラフG2〜グラフG6は、主永久磁石162の保持力に対する補助磁石172の保持力を変えた場合のコギングトルクの大きさをシミュレーションにより求めた結果である。グラフG2は主永久磁石162の保持力に対する補助磁石172の保持力が0.5倍の状態のコギングトルクの大きさを表す。グラフG3は主永久磁石162の保持力に対する補助磁石172の保持力が0.75倍の状態のコギングトルクの大きさ、グラフG4は主永久磁石162の保持力に対する補助磁石172の保持力が0.8倍の状態のコギングトルクの大きさ、グラフG5は主永久磁石162の保持力に対する補助磁石172の保持力が0.85倍の状態のコギングトルクの大きさ、グラフG6は主永久磁石162の保持力に対する補助磁石172の保持力が1.0倍の状態のコギングトルクの大きさ、すなわち同じ保持力の状態のコギングトルクの大きさ、をそれぞれ表している。
【0040】
2つの補助磁石172が無い場合のグラフG1では、機械角の5度と25度においてコギングトルクの大きなピークが存在する。一方グラフG2〜グラフG6では、機械角の5度と25度におけるコギングトルクのピークが大きく改善されている。このように、磁極片184に補助磁石172を設けることにより、
図3に示すように回転子150の各磁極の磁束密度の状態が改善され、
図6に示すように固定子の各突極すなわちティース110に対するコギングトルクの大きさが大きく改善される。
【0041】
図7は、
図1に示すIPMモータ1において、補助磁石172が無い状態の回転子を使用した場合の回転トルクの変動状態を表す。グラフG1は
図6に示すグラフG1と同じグラフであり、固定子巻線120に電流を供給していない状態のトルク変動、すなわちコギングトルクを示す。一方G12は、固定子巻線120に2(A)の電流を供給した場合のトルク変動を示す。IPMモータ1をスムーズに始動するには回転トルクがすべての機械角において常に正であることが望ましく、特に人工心臓用ポンプモータでは、30〔mN・m〕より大きいトルクがすべての機械角において常に得られることが望ましい。グラフG12に示すグラフは、2(A)の電流を固定子巻線120に供給している状態の回転トルクの変動を示す。機械角5度付近で回転トルクが負の状態であり、また機械角0度〜機械角10の間は30〔mN・m〕の大きさの回転トルクを発生することが困難である。上述のとおり、機械角5度付近で回転トルクが負であり、この角度付近でモータを始動させようとしても全く回転トルクが得られない。このため指導することが困難である。さらに30〔mN・m〕の大きさの回転トルクが得られない範囲が大きく、滑らかな回転が不可能である。
【0042】
図8は、
図3に記載の補助磁石172を備える本発明が適用された回転子150を使用した場合のトルク変動であり、
図8に示すグラフG6は、
図6のグラフG6と同じである。
図8に示すグラフG6は
図1に記載の固定子巻線120に供給される電流がゼロ(A)の状態のトルク変動すなわちコギングトルクを表し、一方グラフG16は固定子巻線120に2(A)の電流を供給した場合のトルク変動である。上述したとおり、
図8に示すグラフG6はコギングトルクが小さく、グラフG16は全ての機械角において正の回転トルクが正の状態で、しかも機械角15度付近を除いて30〔mN・m〕の大きさの回転トルクが発生している。また機械角15度付近であっても30〔mN・m〕に近い回転トルクが発生している。このためどの機械角においてもスムーズにモータが始動でき、しかも安定した大きな回転トルクが得られ、滑らかな回転が得られる。
【0043】
〔端部磁石174の作用および効果について〕
端部磁石174の作用については既に簡単に説明したが、
図4(B)に基づいてここで再び説明する。端部磁石174の磁極A側の面は、磁極Aと同じ極性に磁化されている。一方端部磁石174の磁極B側の面あるいは磁極D側の面は磁極Bあるいは磁極Dの極性と同じ極性に磁化されている。この構成により隣接する磁極間の漏れ磁束を大幅に低減できる。また、ブリッジ部186は主永久磁石162の漏れ磁束ではなく、端部磁石174の磁束で十分に飽和状態となるため、主永久磁石162の磁束はブリッジ部186を通らない。このようなことから漏れ磁束が大幅に低減され、回転トルクの発生に寄与する磁束が効率よくトルク発生に利用される。さらに端部磁石174の起磁力自身が回転トルクを発生する方向に作用する。
【0044】
さらに磁極間にそれぞれ端部磁石174として永久磁石を配置し、各端部磁石174の磁化方向が上述の方向であるため、各磁極の外周面の磁束の分布状態を改善でき、コギングトルクの低減にも効果がある。これらのことから、端部磁石174を設けることで漏れ磁束の低減効果に加え、さらに回転トルクの増大やコギングトルクの低減の効果が得られる。
【0045】
なお、端部磁石174の代わりに非磁性体で構成される空隙を設けてもよい。この空隙により隣接する磁極間の磁束の漏れをある程度低減することができる。しかし本実施例では前記空隙の代わりに端部磁石174を設けているので、隣接する磁極間の磁束の漏れをさらに低減できる。さらに、上述したコギングトルクの低減や回転トルクの増大の効果がある。以上のことから端部磁石174を使用することで大きな効果を得ている。
【0046】
〔他の実施例について〕
比較的小型のモータではリラクタンストルクを利用しなくても、回転子150に埋設された永久磁石に基づくトルクで十分な回転トルクを作り出すことができる。一方自動車の駆動用モータあるいはより大きなモータでは、大きな回転トルクが必要であり、このため多くの永久磁石を必要とする。モータに使用する永久磁石にはネオジムを始めとし、温度特性の改善などの理由からの色々なレアメタルを使用することとなる。このような理由から永久磁石の使用量をできるだけ抑制することが好ましく、永久磁石に基づくトルク以外にリラクタンストルクを利用して永久磁石の使用量を抑えることか行われている。本願発明はリラクタンストルクを利用したモータにも適用できる。リラクタンストルクを利用したモータへの本発明の適用例を
図9および
図10を用いて説明する。なお
図10は
図9の部分拡大図である。
【0047】
図3に記載の実施例では各磁極間には端部磁石174が配置され、固定子100で発生した磁束を通す磁気通路が上述の実施例には存在しなかった。言い換えると永久磁石の磁気抵抗は真空の磁気抵抗に近く非常に大きい値を有している。このため端部磁石174の部分は固定子100が発生する時速を通すことができなかった。さらに磁極片184においても補助磁石172が存在するため、固定子100で発生した磁束を通す磁気通路がほとんど存在しなかった。このため
図3に記載の実施例ではリラクタンストルクがほとんど発生しなかった。
他の実施例である、
図9や
図10に示す回転子150の断面図では、隣接する磁極間に固定子100の固定子巻線120が発生する磁束を通す磁気通路が設けられている。このため
図10に示す磁束214が各磁極間を通り、各磁極間に補助磁極192が形成される。これら補助磁極192を通る固定子100の固定子巻線120が発生する磁束214の磁気回路は回転子鉄心で構成されており、磁気抵抗が非常に小さい。一方磁束214が通る磁気回路に対して電気角で90度の位相を持つ磁気回路、例えば磁束212が通る磁気回路は、磁極Aを作る主永久磁石162と磁極Bを作る主永久磁石162の2個の永久磁石を横切ることとなる。このため固定子100の固定子巻線120が発生する磁束に対しては非常に大きな磁気抵抗を有することとなる。磁束214が通る磁気回路と磁束212が通る磁気回路の磁気抵抗の差が非常に大きく、このためリラクタンストルクが発生する。このリラクタンストルクと、回転子150の磁極を作る主永久磁石162および補助磁石172により発生する磁石トルクの合成により、
図9および
図10に示す回転子150の回転トルクが生じる。
図9や
図10に示す補助磁石172は、
図3および
図4を使用して説明した作用および効果と同じであり、コギングトルクの低減大きな効果を奏し、また回転トルクに増大にも大きく貢献する。
図9や
図10に示す他の実施例は、上述のとおりリラクタンストルクを利用するモータに、本発明を適用した例である。
【0048】
図9や
図10に示す他の実施例では、端部磁石174の代わりに磁気空隙176を有している。磁気空隙176は空気が存在する空隙であっても良いし、樹脂などの非磁性体を有していても良い。磁気空隙176は非磁性体で作られているため磁気抵抗が大きく、漏えい磁束を低減できる。また磁気空隙176と回転子外周との間にはブリッジ部188が設けられており、回転子150の高速回転時の、主永久磁石162や補助磁石172、磁極片184などに発生する遠心力に対して十分に耐えられる構造となっている。一方漏れ磁束に対しては、ブリッジ部186と同様磁気飽和し、漏えい磁束を低減する。なお、すべての前記ブリッジ部に符号を付すと煩雑と成る為、代表して一部のブリッジ部にのみ符号186を付しているが、全磁気空隙176の外周側には全て前述のブリッジ部188が存在し、漏れ磁束を低減している。なお、全磁気空隙176の部分にそれぞれ
図3および
図4に示す永久磁石を設けても良い。但し
図3および
図4との違いは隣接する磁極間にそれぞれ配置される2つの磁気空隙176の位置に代わりにそれぞれ永久磁石が配置され、2つの永久磁石の間にリラクタンストルクを発生するための補助磁極192か存在することである。