【実施例】
【0024】
以下、本発明の理解を助けるために、実施例を示して具体的に説明する。
【0025】
(実施例1)カプランマイヤー法を用いた生存解析
本実施例では、独立行政法人国立病院機構京都医療センターの倫理委員会の承認を得た後、511名の患者(eGFR 15 mL/min/1.73 m
2未満の腎不全患者は含まれていない)におけるCKDの有無及び血中sFlt-1量を計測し、3年間追跡した後、カプランマイヤー法により心血管イベントの生存解析を行った。採血した血液検体から通常の方法に従って、臨床検査用血清試料を調製した。sFlt-1量は、市販のELISA用キット(Quantikine
(R)Human Soluble VEGF R1/Flt-1 Immunoassay Catalog # DVR100B, R&Dシステムズ社)を用いて測定した。
【0026】
生存解析の主要評価項目(Primary Outcome)は、全死亡(心血管死亡を含む)、非致死性心筋梗塞を含む急性冠症候群、脳卒中、うっ血性心不全、大動脈疾患、冠動脈及び末梢血行再建で定義される主要有害心血管イベント(Major Adverse Cardiovascular Events:MACEs)であった。フォローアップ日数の中央値は、994日(405-1,080 IQR)であった。これらのうち、MACEsは合計59例(11.5%)に発症した。MACEsの内訳は全死亡2.5%(その内、心血管病死 1.4%)、非致死性脳梗塞 2.5%、急性冠症候群 2.3%(その内、血行再建 1.2%)、心不全 2.3%、末梢動脈イベント 1.8%と、偏りなく全般に渡るものであった。非心血管死亡を除いた場合でも結果はほとんど変わりがなかった。
【0027】
ここで、sFlt-1について最適なカットオフ値を110 pg/mLとし、110 pg/mL未満をlow sFlt-1とし、110 pg/mL以上をhigh sFlt-1とした。CKDの有無については、推定糸球体濾過率(eGFR)60 mL/分/1.73m
2未満のものをCKD患者と判断し、CKD(+)とした。また、CKD患者でないものをCKD(-)とした。
【0028】
患者を以下の4つのグループに分類した。
(1)CKD(+) /high sFlt-1(N = 36、年齢71±8、男性:69%)
(2)CKD(+) /low sFlt-1(N = 58、年齢71±8、男性:62%)
(3)CKD(-) /high sFlt-1(N = 83、年齢66±13、男性:60%)
(4)CKD(-) /low sFlt-1(N = 334、年齢60±12、男性:45%)
【0029】
推定糸球体濾過率(eGFR)は、CKD(-)で(4)81±15及び(3)82±16、CKD(+)で(2)(48±9)及び(1)(48±10)であり、CKD(-)間、又はCKD(+)間でほとんど差を認めなかった。しかしながら、MACEs発症率は、(1)39%で有意に高く、その他のグループでは(2)16%、(3)15%、(4)7%であった。確立された危険因子である、年齢、性別(男性)、高血圧、糖尿病、高脂血症、肥満で調整した後、(4)に対するハザード比(95%CI)は、各々(3)1.4 (0.7-2.9)、(2)1.2 (0.5-2.8)、(1)4.7 (2.3-9.6, P<0.0001)であり、(1)のグループがMACEsの危険性が最も高いことが確認された。
【0030】
図1の結果より、CKD(+)の患者においてsFlt-1が高い場合に、他のグループに比べて有意にMACEsの危険性が高いことが確認された。また、CKD(-)の場合では、sFlt-1が高い場合でもMACEsの発症率は15%であり、CKD(+)の場合と明らかに違いが認められた。また、CKD(+)の場合でsFlt-1が低い場合でもMACEsの発症率は16%でありsFlt-1が高い場合と明らかに違いが認められた。
従って、CKD(+)の患者特異的に、sFlt-1を測定することで、MACEsの発症を予測することができると考えられた。
【0031】
(実施例2)有害心血管イベント(MACEs)の危険性分析
本実施例では、独立行政法人国立病院機構京都医療センターの倫理委員会の承認を得た後、511名の患者におけるCKDの有無及び血中sFlt-1量を計測し、前向きに3年間追跡して、MACEsの危険性分析を行った。採血した血液検体から通常の方法に従って、臨床検査用血清試料を調製した。sFlt-1量は、市販のELISA用キット(Quantikine
(R)Human Soluble VEGF R1/Flt-1 Immunoassay Catalog # DVR100B, R&Dシステムズ社)を用いて測定した。
【0032】
実施例1と同様に、sFlt-1について最適なカットオフ値を110 pg/mLとし、110 pg/mL未満をlow sFlt-1とし、110 pg/mL以上をhigh sFlt-1とした。CKDの有無については、推定糸球体濾過率(eGFR)60 mL/分/1.73m
2未満のものをCKD患者と判断し、CKD(+)とした。また、CKD患者でないものをCKD(-)とした。
【0033】
患者を、実施例1と同様にCKD(-) /low sFlt-1(対照)、CKD(-) /high sFlt-1、CKD(+) /low sFlt-1及びCKD(+) /high sFlt-1の4つのグループに分類した。CKD(-) /low sFlt-1(対照)に対する他の3グループのハザード比(危険性)を、(A)年齢、性別(男性)、高血圧、糖尿病、高脂血症、喫煙、肥満等の危険因子で調整しない場合、(B)年齢、性別(男性)、高血圧、糖尿病、高脂血症、喫煙、肥満について調整した場合(すなわち、これらの危険因子の影響を排除した場合)、(C)年齢、性別(男性)、高血圧、糖尿病、高脂血症、喫煙、肥満、蛋白尿、ステージ4のCKD、心筋梗塞(myocardial infarction)の既往、脳卒中(stroke)の既往、血行再建(revascularization)の既往、心不全入院の既往で調整した場合(すなわち、これらの考え得るすべての危険因子・交絡因子の影響を排除した場合)について検討した。その結果、表1に示すように、CKD(+) /high sFlt-1グループにおいて、MACEsのハザード比(危険性)が有意に高いことが確認され、その差は、あらゆる危険因子・交絡因子の影響を排除した場合でも、有意であることが確認された。
【0034】
【表1】
【0035】
(比較例1)カプランマイヤー法を用いた生存解析
本比較例では、独立行政法人国立病院機構京都医療センターの倫理委員会の承認を得た後、確立された危険因子である高血圧、高脂血症、糖尿病、喫煙の内、少なくとも1つを有する患者、もしくは、すでに心血管病を有する患者490名におけるCKDの有無及び血中sFlt-1量を計測し、3年間追跡して、有害心血管イベント(MACEs)の診断能を評価した。採血した血液検体から通常の方法に従って、臨床検査用血清試料を調製した。sFlt-1量は、市販のELISA用キット(Quantikine
(R)Human Soluble VEGF R1/Flt-1 Immunoassay Catalog # DVR100B, R&Dシステムズ社)を用いて測定した。比較例として心不全マーカーとして確立されており、なおかつCKDの心血管イベントのマーカーとして微量アルブミン尿よりも優れていることが報告されているヒト脳性ナトリウム利尿ペプチド前駆体N端フラグメント(NT-proBNP)(JAMA 2005; 293:1609-16)と、炎症マーカーであるとともに心血管イベントのマーカーとして注目されている高感度C反応性蛋白(hsCRP)を測定した。NT-proBNPは市販の免疫測定法(Roche Diagnostics, NT-proBNP測定用「エクルーシスproBNP」)で、hsCRPは市販のELISAキット(CircuLex
TM High-Sensitivity CRP ELISA Kit, Code No. CY-8071, Medical & Biological Laboratories Co., Ltd.)を用いて測定した。
【0036】
実施例1と同様に、sFlt-1について最適なカットオフ値を110 pg/mLとし、110 pg/mL未満をlow sFlt-1とし、110 pg/mL以上をhigh sFlt-1とした。同様に、NT-proBNPについては、カットオフ値を230 pg/mLとし、230 pg/mL未満をlow NT-proBNPとし、230 pg/mL以上をhigh NT-proBNPとした。hsCRPについては、カットオフ値を0.3μg/mLとし、0.3μg/mL未満をlow hsCRPとし、0.3μg/mL以上をhigh hsCRPとした。
CKDの有無については、推定糸球体濾過率(eGFR)60 mL/分/1.73m
2未満のものをCKD患者と判断し、CKDとした。また、CKD患者でないものをNon-CKDとした。
【0037】
上記の結果、
図2に示すようにCKD患者で血中sFlt-1量を指標とした場合に、心血管イベントの生存率曲線においてもっとも大きな有意差を認めた。
【0038】
確立された危険因子である高血圧、高脂血症、糖尿病、喫煙の内、少なくとも1つを有する患者、もしくは、すでに心血管病を有する患者490名におけるCKDの有無及び血中sFlt-1量を計測し、3年間追跡して、MACEsの診断能を評価した。
ステップワイズCox比例ハザード解析を実施した。CKD患者(396名)も非CKD患者(94名)も全て含んだ490名全体(Total)で解析した場合、表2に示すように、MACEsの独立した予測因子は、心血管疾患歴(History of Cardiovascular Disease)、高NT-proBNP(230 pg/mL以上)、高sFlt-1(110 pg/mL以上)であった。非CKD患者のみで解析した場合、MACEsの独立した予測因子は、心血管疾患歴、高NT-proBNP、収縮期血圧、性別(男性)であった。しかしながら、CKD患者のみで解析した場合、MACEsの独立した予測因子は、高sFlt-1と喫煙であった。
【0039】
【表2】
【0040】
(比較例2)感度及び特異度について
本比較例では、独立行政法人国立病院機構京都医療センターの倫理委員会の承認を得た後、確立された危険因子である高血圧、高脂血症、糖尿病、喫煙の内、少なくとも1つを有する患者、もしくは、すでに心血管病を有する患者490名におけるCKDの有無及び血中sFlt-1量を計測し、1年後、及び2年後の時点における有害心血管イベント(MACEs)の発症率に関し、Receiver operating characteristic curve analysis (ROC解析)を行いMACEs予測診断能を確認した。
【0041】
採血した血液検体から通常の方法に従って、臨床検査用血清試料を調製した。sFlt-1は、市販のELISA用キット(Quantikine
(R)Human Soluble VEGF R1/Flt-1 Immunoassay Catalog # DVR100B, R&Dシステムズ社)を用いて定量した。CKDの心血管イベントのマーカーとして微量アルブミン尿よりも優れていることが報告されているNT-proBNPを定量した。ここでは、各マーカー量を測定して、その値と、1年後又は2年後の時点におけるMACEsの発症との関連を解析し、各マーカーの予測診断能を評価した。
【0042】
上記の結果、CKD患者で血中sFlt-1をマーカーとして定量した場合に、1年後、2年後のいずれの時点においても、NT-proBNPの場合と比較して、曲面下面積(area under the curve)が有意に大きいことが確認された。これにより、sFlt-1をマーカーとした場合のほうが、NT-proBNPをマーカーとした場合よりも、心血管イベントの予測診断能が優れていることが明らかとなった。