(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記駆動機構は、前記粒子線ビームの進行方向に沿った第1の方向と、前記粒子線ビームの進行方向に垂直な第2の方向と、前記第1の方向および前記第2の方向に垂直な第3の方向との少なくとも何れかの方向に、前記第2の線量検出器を移動させる
ことを特徴とする請求項1から請求項4のうちの何れか一項に記載の線量分布測定システム。
粒子線ビームの照射方向に対して前記ファントムの上流に設置される第1の線量検出器と、前記ファントム内を移動する第2の線量検出器と、該第2の線量検出器を移動させるための駆動機構と、前記第2の線量検出器の位置を監視する位置監視手段と、線量計算手段とを備え、照射された前記粒子線ビームの生体組織を模したファントム内での線量分布を測定する線量分布測定システムの線量分布測定方法であって、
前記第1の線量検出器は、照射中の前記前記粒子線ビームの線量を連続的に検出し、
前記第2の線量検出器は、前記駆動機構により移動されながら連続的に照射中の前記粒子線ビームの線量を検出し、
前記位置監視手段は、前記第2の線量検出器の位置を示す位置情報を出力し、
前記線量計算手段は、
移動しつつある前記第2の線量検出器の位置情報、および、前記第1および前記第2の線量検出器からのそれぞれの線量情報を取得し、
当該取得される情報を用いて前記ファントム内の位置に対する前記粒子線ビームの線量分布データを算出する
ことを特徴とする線量分布測定システムの線量分布測定方法。
粒子線ビームの照射方向に対して前記ファントムの上流に設置される第1の線量検出器と、前記ファントム内を移動する第2の線量検出器と、該第2の線量検出器を移動させるための駆動機構と、前記第2の線量検出器の位置を監視する位置監視手段と、デジタル信号処理計算機とを備え、前記照射された粒子線ビームの生体組織を模したファントム内における線量分布を測定する線量分布測定システムの線量分布測定方法であって、
前記第1の線量検出器は、照射中の前記粒子線ビームの線量を連続的に検出し、
前記第2の線量検出器は、前記駆動機構により移動されながら連続的に照射中の前記粒子線ビームの線量を検出し、
前記位置監視手段は、移動しつつある前記第2の線量検出器の位置を示す信号を、前記デジタル信号処理計算機に出力し、
前記アナログ信号処理装置は、
前記第1および前記第2の線量検出器からのそれぞれの線量を示す出力信号を、デジタル信号に変換して前記デジタル信号処理計算機に出力し、
前記デジタル信号処理計算機は、
前記第2の線量検出器からの線量の情報と、前記第1の線量検出器からの線量の情報と、前記第2の線量検出器の位置を示す信号とを用いて、前記ファントム内の位置に対する前記粒子線ビームの線量分布データを算出する
ことを特徴とする線量分布測定システムの線量分布測定方法。
前記駆動機構は、前記第2の線量検出器を、前記粒子線ビームの進行方向に沿った第1の方向と、前記粒子線ビームの進行方向に垂直な第2の方向と、前記第1の方向および前記第2の方向に垂直な第3の方向との少なくとも何れかの方向に移動させる
ことを特徴とする請求項6から請求項9のうちの何れか一項に記載の線量分布測定システムの線量分布測定方法。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照して説明する。
図1は、粒子線照射装置Tを用いて患者の腫瘍に粒子線を照射している状態を示す概念図である。
図1では、粒子線照射装置Tを上方から見た状態を示している。
【0023】
本発明の実施形態の線量分布測定システムを適用する粒子線照射装置Tは、典型的な粒子線照射装置である。粒子線照射装置Tは、電子を除去した陽子、炭素、シリコン、アルゴンなどの荷電粒子を高速に加速して陽子線、重粒子線の粒子線として、スキャニング照射などで照射対象の患部(患者の腫瘍)に所定線量照射する装置である。
なお、炭素、シリコン、アルゴンなどの質量が大きな各イオンは重粒子と呼称される。
【0024】
粒子線照射装置Tは、炭素などの原子から電子を除きイオン(荷電粒子)を供給する入射ビーム輸送ライン2Aと、該荷電粒子を高エネルギまで加速し粒子線(陽子線、重粒子線)のビームとして周回させるシンクロトロン1と、シンクロトロン1から取り出した粒子線のビームを輸送する出射ビーム輸送ライン2Bとを具備している。
【0025】
なお、実際の粒子線照射装置Tには、
図1に示す機器に加え、シンクロトロン1の線量を測定するビームプロファイルモニタ、出射ビーム輸送ライン2Bの粒子線ビームbの線量を測定するビームプロファイルモニタなどがあるが、
図1では割愛している。
【0026】
粒子線照射装置Tの制御は、図示しない制御手段によって行われる。制御手段は、コンピュータ、各種回路、つまりインターフェース回路、アクチュエータ回路、センサ回路、電源回路などで構成される。
【0027】
<入射ビーム輸送ライン2A>
入射ビーム輸送ライン2Aは、イオン源2aと線形加速器2bと入射セプタム電磁石2cとを有している。
イオン源2aでは、炭素、シリコン、アルゴンなどの原子から電子の一部を除去し、荷電粒子を創成する。
線形加速器2bでは、イオン源2aで電子の一部が取り除かれた荷電粒子を加速し、炭素の薄膜を通して残りの電子を全部除去する。
【0028】
入射セプタム電磁石2cは、入射ビーム輸送ライン2Aの上流を通過した入射ビーム(荷電粒子)をシンクロトロン1の周回軌道の向きに磁場に起因する力によって変更する。この際、入射セプタム電磁石2cは、入射ビームとシンクロトロン1の周回軌道を周回する蓄積ビームとの間を反磁性体のセプタム板(銅板など)で区切り、シンクロトロン1を周回する蓄積ビームに影響を及ぼさないようにしている。
【0029】
<シンクロトロン1>
シンクロトロン1は、環状に構成され、粒子線のビームに付与する加速高周波電場の周期を粒子回転周期に同期させることにより、陽子や重粒子などの荷電粒子を高エネルギまで加速する。そのため、シンクロトロン1は「加速器」に相当する。
【0030】
シンクロトロン1は、主要構成機器として、静電インフレクタ3と高周波加速空洞4と偏向電磁石5と四極電磁石6と静電デフレクタ7とを備えている。
静電インフレクタ3は、入射ビーム輸送ライン2Aから送られるビーム(荷電粒子)を、電場によってシンクロトロン1の周回軌道に偏向させる。
高周波加速空洞4は、シンクロトロン1内の荷電粒子を加速または減速するための高周波電場を発生させる。
【0031】
具体的には、高周波加速空洞4は、制御手段により、シンクロトロン1内に高周波電力を投入することにより、荷電粒子が加速ギャップ(図示せず)に差し掛かった際に、丁度加速または減速されるように高周波加速空洞4内に発生させる高周波電圧の位相と荷電粒子の位置とを同期させて、荷電粒子にエネルギを供給する。これにより、荷電粒子にエネルギが供給され、荷電粒子の加速または減速が行われる。
【0032】
偏向電磁石5は、シンクロトロン1内を進む粒子線のビームを周回軌道に保つための磁場を付与する。
四極電磁石6は、磁界の強弱により、シンクロトロン1の周回軌道上における粒子線のビームの広がりを収束させたり、当該ビームの狭まりを発散させる。
静電デフレクタ7は、シンクロトロン1を周回する粒子線のビームを、電場によって外側に蹴りだして出射ビーム輸送ライン2Bに向けて出射する。
【0033】
その他、図示しないが、シンクロトロン1には、ビームのベータトロン振動の三次共鳴を励起し、位相空間上で安定周回領域と共鳴領域を分割・形成するセパラトリクス生成用六極電磁石や、クロマティシティ補正用六極電磁石、周回軌道を進行するビームに水平方向(
図1の紙面方向)かつ垂直方向(
図1の紙面に垂直方向)にベータトロン振動に共鳴する周波数変調および振幅変調されたRF−KO電圧による電場を印加して周回軌道を進む粒子線のビームの幅を広げるRF−KO電極などが設けられる。
【0034】
<シンクロトロン1からの粒子線の取り出し>
図1に示すシンクロトロン1内の周回軌道を周回している多数の粒子(荷電粒子)は、水平方向(
図1の紙面方向)または鉛直方向(
図1の紙面に垂直方向)に振動しながら周回している。この振動をベータトロン振動といい、ベータトロン振動は、四極電磁石6などにより制御している。
【0035】
シンクロトロン1内の周回軌道を周回する粒子(荷電粒子)は、高周波加速空洞4によって加速され最大エネルギに達する。その後、粒子線のビームにRF−KO電極を用いてRF−KO電圧による電場を印加することによりベータトロン振幅を増大させる。そして、シンクロトロン1内で周回している多数の粒子(荷電粒子)の一部を、静電デフレクタ7を用いて、出射ビーム輸送ライン2Bへ向けて出射させる。
【0036】
詳細には、シンクロトロン1内の粒子線のビームをシンクロトロン1外の出射ビーム輸送ライン2Bに向けて取り出すため、シンクロトロン1の管の中心付近に分布する粒子線のビームに、その周回軌道に対し垂直かつ水平方向にRF−KO電極で挟んでRF−KO電圧による電場を印加する。これにより、粒子線のビームサイズを水平方向(
図1の紙面方向)に広げる。この粒子の出射は、シンクロトロン1内の周回軌道を進む粒子(荷電粒子)のベータトロン振動の共鳴を利用して行われる。
【0037】
すなわち、RF−KO電極は、シンクロトロン1の周回軌道を進むビームに対して、周回軌道に垂直(
図1の紙面に垂直方向)かつ水平方向(
図1の紙面方向)に、ベータトロン振動に共鳴する周波数変調および振幅変調されたRF−KO電圧による電場を印加し、周回軌道を進む粒子線のビームの幅を広げる。これにより、粒子線のビームの一部を静電デフレクタ7の電極間に入れる。
【0038】
なお、RF−KO電圧がオフのときには、この粒子のビームサイズの増加が止まるために、粒子線が静電デフレクタ7から取り出されなくなるので、出射ビーム輸送ライン2Bへの照射を止めることが可能となる。
出射ビーム輸送ライン2Bには、出射セプタム電磁石2dは、出射輸送ライン2Bに入った粒子線のビーム(荷電粒子)を磁界に起因する力によって出射ビーム輸送ライン2Bに沿った方向に変更する。
【0039】
出射ビーム輸送ライン2Bの下流には、ビーム照射ポート2B1が接続され、ビーム照射ポート2B1により、照射室において照射対象(治療台上の患者の腫瘍)に、取り出した粒子線(陽子線や重粒子線)ビームbを照射する。
【0040】
<線量分布測定システムS>
本実施形態(本発明)の線量分布測定システムSは、粒子線照射装置Tのビーム照射ポート2B1から出射される粒子線(陽子線や重粒子線)ビームbの線量の分布を測定するシステムである。
図2は、実施形態の線量分布測定システムSの構成を示す斜視図である。
図3は、線量分布測定装置10の水ファントム12廻りを拡大して示す拡大斜視図である。
【0041】
本実施形態の線量分布測定システムSは、線量分布測定装置10と、後記する信号処理フローを行う線量分布測定制御装置9とを具備し構成されている。
線量分布測定装置10は、ビーム照射ポート2B1から出射される粒子線ビームbの元の線量を検出する校正用の固定される固定式の線量検出器11と、水wの中で駆動機構Kによって移動される移動式の線量検出器13が設けられる水ファントム12とを備えている。水ファントム12は、水が人の生体組織を模したものとして使用できることから、用いられる。
なお、校正用の固定式の線量検出器11は、出射ビーム輸送ライン2B内に設けてもよい。
【0042】
移動式の線量検出器13は、水ファントム12内を移動しつつ人体を模した水wの中の粒子線ビームbの線量を測定することで、粒子線の線量の分布を測定する。
そこで、水ファントム12内の水wの中を移動式の線量検出器13を移動させるべく、駆動機構Kが水ファントム12の外郭に設けられた支持構造12a、12a(
図3参照)に取り付けられている。なお、駆動機構Kの深さ方向駆動機構K1を水ファントム12の外郭の深さ方向に延在する面に沿って設けられる支持構造12a、12に取り付けることで、直方体状の水ファントム12の外郭の深さ方向に延在する面と、駆動機構Kの深さ方向駆動機構K1の軸方向とを一致させることができ、水ファントム12の外郭の深さ方向に延在する面に垂直な他の2面と水平・垂直方向駆動機構K2、K3の軸方向とを一致させることができる。
【0043】
駆動機構Kは、移動式の線量検出器13を、粒子線ビームbに沿った深さ方向(
図3のX方向)に移動させる深さ方向駆動機構K1と、粒子線ビームbに垂直な水平方向(
図3のY方向)に移動させる水平方向駆動機構K2と、粒子線ビームbに沿った深さ方向(
図3のX方向)および水平方向(
図3のY方向)に垂直な方向(
図3のZ方向)に移動させる垂直方向駆動機構K3とを有している。
【0044】
深さ・水平・垂直方向駆動機構K1、K2、K3は、それぞれステッピングモータや、ウォームギア、ウォームホイール、ラック、ピニオンなどの回転運動を直線運動に変換する減速機構を用いて構成される。
なお、深さ・水平・垂直方向駆動機構K1、K2、K3は、これ以外にコイルを直線方向(X・Y・Z方向)に並べ、流す電流を切り換えることで直線方向(X・Y・Z方向)に移動させるリニアモータを使用して実現してもよい。
【0045】
駆動機構Kは、深さ方向駆動機構K1の固定スライド部K11が、支持構造12a、12aの上端部に固定されている。深さ方向駆動機構K1は、固定スライド部K11に対して、深さ方向(
図3のX軸方向)に可動部K12がスライド自在に取り付けられている。
水平方向駆動機構K2は、深さ方向駆動機構K1の可動部K12に対して、水平方向(
図3のY軸方向)にスライド自在に取り付けられている。
垂直方向駆動機構K3は、水平方向駆動機構K2に対して、垂直方向(
図3のZ軸方向)にスライド自在に取り付けられている。
【0046】
線量分布測定制御装置9の駆動制御装置9c(
図4参照)から制御信号を駆動機構Kのモータに送信し、深さ・水平・垂直方向駆動機構K1、K2、K3をそれぞれ稼働させることで、移動式の線量検出器13を、水ファントム12内の水wの中で3次元の所望の位置に配置させることができる。
【0047】
<粒子線ビームbの軸と水ファントム12の駆動機構Kの深さ方向の軸(
図3のX軸)との位置・角度調整>
ビーム照射ポート2B1から出射される粒子線ビームbの正確な線量分布を測定するために、ビーム照射ポート2B1からの粒子線ビームbの軸と水ファントム12の深さ方向の軸(
図3の駆動機構Kの深さ方向駆動機構K1の軸(X軸))との位置・角度誤差を小さくするため、以下の調整が行われる。
ビーム照射ポート2B1の軸と水ファントム装置12の深さ方向の軸(
図3の駆動機構Kの深さ方向駆動機構K1の軸(X軸))とは、セオドライトやレーザー水準器などを用いた測量により精密にアライメント(一直線状に)調整される。
【0048】
また、ビーム照射ポート2B1に設置されている不図示のビーム位置モニタも同様に、ビーム照射ポート2B1の軸にアライメント調整されている。
さらに、ビーム照射ポート2B1から出射される粒子線ビームbは、ビーム位置モニタでそのビーム重心が測定され、ビーム照射ポート2B1の軸に対してビーム軌道が中心にくるようにステアリング電磁石などで調整される。
【0049】
その結果、粒子線ビームbの入射軸と水ファントム装置12の深さ方向の軸(駆動機構Kの深さ方向駆動機構K1の軸(
図3のX軸))とが精密にアライメントされる。
これにより、ビーム照射ポート2B1からの粒子線ビームbの軸と水ファントム装置12の軸(駆動機構Kの深さ方向駆動機構K1の軸(
図3のX軸))とは精密に一致させられる。
【0050】
<線量分布測定制御装置9>
図4は、線量分布測定制御装置9と、固定式の線量検出器11、移動式の線量検出器13、および駆動機構Kとの信号の授受を示すブロック図である。
線量分布測定制御装置9は、水ファントム12内の水wの中の粒子線ビームbの線量分布を測定するための制御を担う装置である。
【0051】
線量分布測定制御装置9は、アナログ信号処理装置9aとアナログ信号処理装置9bと駆動制御装置9cとデジタル信号処理計算機9dとを備えている。
アナログ信号処理装置9aは、固定式の線量検出器11からアナログ信号を受信し、粒子線ビームbの原線量(元の線量)を測定するための装置である。
【0052】
アナログ信号処理装置9aは、線量検出器11からの線量を示す電流信号を電圧信号に変換した後、デジタル信号に変換し、デジタル信号処理計算機9dに出力する。
アナログ信号処理装置9aは、線量を表す電流信号を電圧信号に変換するI/V変換回路、A/D・D/A変換器などを有している。
【0053】
アナログ信号処理装置9bは、移動式の線量検出器13からアナログ信号を受信し、水ファントム12内の水wの中の粒子線ビームbの線量を測定するための装置である。アナログ信号処理装置9bは、線量検出器13からの線量を示す電流信号を電圧信号に変換した後、デジタル信号に変換し、デジタル信号処理計算機9dに出力する。
【0054】
アナログ信号処理装置9bは、線量を表す電流信号を電圧信号に変換するI/V変換回路、A/D・D/A変換器などを有している。
アナログ信号処理装置9a、9bは、それぞれ線量を表す電流を、パルス信号に変換するパルス信号発生回路を有する構成としてもよい。
【0055】
駆動制御装置9cは、制御信号を駆動機構Kのモータに送信し、深さ・水平・垂直方向駆動機構K1、K2、K3をそれぞれ稼働させることで、水ファントム12内の水wの中で移動式の線量検出器13を制御信号で指示した位置に配置させる。つまり、駆動制御装置9cは、デジタル信号処理計算機9dからの駆動指令を受信し、深さ・水平・垂直方向駆動機構K1、K2、K3のモータに駆動制御信号を出力する。
【0056】
また、駆動制御装置9cは、深さ・水平・垂直方向駆動機構K1、K2、K3により移動した移動式の線量検出器13の位置を検出する。つまり、駆動制御装置9cは、モータの回転速度を表すアナログ信号をパルス信号に変換し、デジタル信号処理計算機9dに出力する。
駆動制御装置9cは、駆動機構Kのモータを稼働するアクチュエータ制御回路、深さ・水平・垂直方向駆動機構K1、K2、K3での移動式の線量検出器13の位置を表す信号を変換するロータリーエンコーダ、A/D・D/A変換器などを有している。
【0057】
移動式の線量検出器13の位置は、駆動機構Kのモータの回転速度(回転数)の信号から、デジタル信号処理計算機9dで、各深さ・水平・垂直方向駆動機構K1、K2、K3の減速比を用いて求めることとしている。或いは、回転速度(回転数)に代えて、位置を示す光、うず電流、超音波の変化などから位置を検出する位置センサを、深さ・水平・垂直方向駆動機構K1、K2、K3にそれぞれ設けて移動式の線量検出器13の位置を検知する構成としてもよい。この場合、駆動制御装置9cは位置センサからのセンサ信号の増幅回路を有する。
【0058】
デジタル信号処理計算機9dは、ソフトウェア処理を実行するコンピュータであり、線量分布測定システムSにおいて、水ファントム12内の水w中の粒子線ビームbの線量分布の測定の処理を司る装置である。
デジタル信号処理計算機9dは、ROM(Read Only Memory)などのメモリに格納されるソフトウェア、つまりC言語などで記述されたプログラムを実行することで、処理が遂行される。
【0059】
<線量分布の測定>
線量分布測定システムSでは、
図1に示す粒子線照射装置Tから照射される粒子線ビームbを、水ファントム12内で複数の駆動軸(
図3のX、Y、Z軸方向)を有する駆動機構Kにより移動する移動式の線量検出器13を用いて、三次元の水ファントム12の空間での線量分布を、リアルタイムでデジタル処理して測定する。
【0060】
この際、
図2に示すように、水ファントム12の上流に設置された固定式の線量検出器11で線量を測定しながら、駆動制御装置9cによって水ファントム12内を移動している移動式の線量検出器13の位置情報も同時に得ることで、後記の
図6に示す信号処理フローを介して、粒子線ビームbの線量分布データの取得を行う。
【0061】
図5は、水ファントム12内で移動式の線量検出器13を深さ方向(
図3のX軸方向)に移動しつつある状態を示す
図3のA方向矢視断面図である。
以下で説明するのは、
図5に示すように、移動式の線量検出器13を駆動機構Kの深さ方向駆動機構K1で、水ファントム12内の水w中で深さ方向(X方向)に移動させた場合のビーム照射ポート2B1から出射される粒子線ビームbの水ファントム12内の水wの中での線量分布である。
【0062】
次に、デジタル信号処理計算機9dにおける粒子線ビームbの三次元の水ファントム12の空間での線量分布の測定の処理について、
図6に従って説明する。
図6は、実施形態の線量分布測定システムSでの線量分布の測定のシーケンスにおけるデジタル信号処理を示すフロー図である。
デジタル信号処理計算機9dによるデジタル信号処理は、
図6のフロー図のようにして行われる。
【0063】
まず、デジタル信号処理計算機9dは、駆動制御装置9cに、水ファントム12内での粒子線ビームbの線量分布を測定するために移動式の線量検出器13を初期位置から距離X
0まで動かすように駆動指令を出力する(
図6のS101)。
次に、デジタル信号処理計算機9dは、変数iに“0”を設定する(
図6のS102)。
【0064】
その後、デジタル信号処理計算機9dは、駆動制御装置9cからの現在の移動式の線量検出器13の位置Xの情報と、アナログ信号処理装置9aからの固定式の線量検出器11の線量Yの情報と、アナログ信号処理装置9bからの移動式の線量検出器13の線量Y’の情報とを読み込む(取得する)(
図6のS103)。
【0065】
そして、デジタル信号処理計算機9dは、固定式の線量検出器11の線量Yが既定の閾値Y
0以上か否か判定する(
図6のS104)。ここで、デジタル信号処理計算機9dは、固定式の線量検出器11の線量Yを示す信号の信号雑音比(SN比)やアナログ−デジタル変換での分解能を考慮して、固定式の線量検出器11の線量Yに閾値Y
0を設定し、線量Yが閾値Y
0以上の場合のみ以降の演算を行うようにしている。
【0066】
S104で、固定式の線量検出器11の線量Yが閾値Y
0以上でないと判定された場合(S104でNo)、S103に移行し、X、Y、Y’の情報を読み込む。なお、X、Y、Y’の情報は、時間で同期をとることができる。
一方、S104で、固定式の線量検出器11の線量Yが閾値Y
0以上と判定された場合(S104でNo)、デジタル信号処理計算機9dは、
i=i+1、D
i=Y’/Y、Z
i=X の演算を行う。
【0067】
ここで、“i=i+1”は測定数を演算している。
“D
i=Y’/Y”は、測定された移動式の線量検出器13の線量Y’を測定された固定式の線量検出器11の線量Yで除算し、水ファントム12内の水wの中の粒子線ビームbの線量を校正している。何故なら、粒子線ビームbの線量は時間変動するので、固定式の線量検出器11の線量Yで、移動式の線量検出器13で測定した線量の校正を行うこととしている。
“Z
i=X”は、測定時の移動式の線量検出器13の移動距離Xを後に線量の情報と結びつけるため、i回目の移動式の線量検出器13の移動距離Xを変数Z
iに設定している(S105)。
【0068】
続いて、デジタル信号処理計算機9dは、 A
i=(D
i+D
i−1+D
i−2+……+D
i−N+1)/N の演算を行う。この演算は、下記の理由で行われるものである。
測定したいデータは、移動式の線量検出器13の出力の線量Y’を固定式の線量検出器11の出力の線量Yで規格化した値Dであるが、信号ノイズやアナログ/デジタル変換(A/D変換)分解能の影響をさらに減らすため、D
iに直近N個の移動平均化したものを最終的な値A
iとしている。通常、演算処理速度は移動式の線量検出器13の駆動速度に比べて非常に速いため、移動平均化を行っても位置分解能を十分に高く保つことが可能である(
図6のS106)。
【0069】
続いて、デジタル信号処理計算機9dは、 X>=X
0 であるか否か判定する。つまり、移動距離Xが設定した初期位置から距離X
0に至ったか否か判定する(
図6のS107)。
なお、S107では、移動距離Xが設定した初期位置から距離X
0に至ったか否かを判定するので、X=X
0を判定してもよいが、処理がループすることがないように、X>=X
0 であるか否か判定している。
X>=X
0 でない、すなわち移動距離Xが設定した初期位置から距離X
0に至っていないと判定された場合(
図6のS107でNo)、移動式の線量検出器13が、
図6のS101で設定した距離X
0まで移動してないので、
図6のS103に移行し、線量の測定を継続する。
【0070】
一方、
図6のS107で、X>=X
0 である、すなわち移動距離Xが設定した初期位置から距離X
0に至っていると判定された場合(
図6のS107でYes)、デジタル信号処理計算機9dは、測定データの配列(Z
m,A
m)をファイルに出力する(S108)。
出力される測定データの配列(Z
m,A
m)の情報は、不図示の表示装置に表示ファイルを用いて表示されたり、不図示のプリンタにより印刷ファイルを用いて印刷される。或いは、測定データの配列(Z
m,A
m)のファイルは他システムにファイル転送して、他システムに送る構成としてもよい。或いは、測定データの配列(Z
m,A
m)の情報は、テキストデータとして、データベースなどの記憶部に記憶する構成としてもよい。
【0071】
以上の線量分布測定システムSのデジタル信号処理(
図6参照)の結果、
図7に示す水ファントム12内の水wの深さ位置(
図5のX軸方向)に対する線量の分布が得られる。
図7は、線量分布測定システムSで測定した水ファントム12内の水wの深さ方向の線量分布を示す図である。なお、
図7の深さ位置“0”とは、
図5のX軸方向の水ファントム12内の水wの深さ“0”を示す。
【0072】
以上、本実施形態(本発明)に係わる線量分布測定システムSの構成をまとめると、
本実施形態(本発明)に係わる線量分布測定システムSは、粒子線照射装置Tから水ファントム12に照射される粒子線ビームbの線量分布を測定するための移動式の線量検出器13、この移動式の線量検出器13を水ファントム12内で移動するための複数の駆動軸(
図3のX、Y、Z軸方向)を有する駆動機構K、水ファントム12より上流側に設置された照射線量校正用の固定式の線量検出器11、水ファントム12内の移動式の線量検出器13の駆動装置を制御・監視する駆動制御装置9c、固定式・移動式の線量検出器11、13とアナログ信号処理装置9a、9bを介して送受信するとともに駆動制御装置9cと送受信するデジタル信号処理計算機9dを備えたものである。
【0073】
粒子線を照射しながら水ファントム12内で測定したい軸方向(
図3のX、Y、Z軸方向)に移動式の線量検出器13を駆動制御装置9cによって移動することで、デジタル信号処理計算機9dは、時間に対して連続的な線量データを照射線量校正用の固定式の線量検出器11と水ファントム12内の水w中の移動式の線量検出器13から得られる。同時に、デジタル信号処理計算機9dは、移動式の線量検出器13の駆動制御装置9cから移動式の線量検出器13の座標データも取得できる。
【0074】
デジタル信号処理計算機9dでは、駆動制御装置9cから得られる移動式の線量検出器13の座標(位置)をモニタしながら、移動式の線量検出器13の出力信号を固定式の線量検出器11の出力信号で除算して校正した測定線量を高速演算により求めることで、位置分解能が高い線量分布データを短時間で取得する。
【0075】
従って、本実施形態の線量分布測定システムSによれば、水ファントム12と複数の駆動軸(
図3のX、Y、Z軸参照)を有する駆動機構Kに取り付けられた移動式の線量検出器13を用いた粒子線の線量分布測定において、位置分解能の高い線量分布データが得られる。
また、短時間で位置分解能が高い線量分布データを取得できる。例えば、従来、30cmの距離の線量データをとるのに、10分〜20分かかっていたものが、約1分で測定できる。
【0076】
また、水ファントム12内の水w中で連続的に線量データをとることができ、線量データの取り逃がしがない。これに対し、従来の方法では、間歇的に線量データを測定する方法であったので、前記したように、測定点間の線量が、理論値、シミュレーション、回帰法などのフィッティング等の予測となっていた。しかし、本線量分布測定システムSによれば、連続的に線量データをとることができ、この問題が解消する。
【0077】
<その他の実施形態>
なお、前記実施形態では、水ファントム12内の水wの深さ方向(
図3のX軸方向)に移動式の線量検出器13を移動しつつ、線量を測定する場合を例示したが、
図3のY軸方向または
図3のZ軸方向に移動式の線量検出器13を移動しつつ、線量を測定してもよいのは勿論である。或いは、
図3のX軸およびY軸方向、または、
図3のZ軸およびY軸方向または、
図3のX軸およびZ軸方向、または、
図3のX軸およびY軸およびZ軸方向に、同時に移動式の線量検出器13を移動しつつ、測定してもよい。
【0078】
或いは、前記実施形態では、粒子線ビームbの位置を固定して線量を測定する場合を例示したが、粒子線ビームbの位置を移動しつつ、移動式の線量検出器13を移動して、線量を測定してもよい。なお、この場合も、移動式の線量検出器13は任意方向に移動できる。
なお、前記実施形態では、水ファントム12内の水wを用いて粒子線ビームbの線量を測定する場合を例示したが、水w以外の生体組織を模した他のファントムを用いて粒子線ビームbの線量を測定してもよい。
【0079】
例えば、水ファントム12の水槽を密封容器に変更し気体(例としては組織等価ガスなど)を封入する方法や、水以外の体組織に近い液体、例えば、コロイド溶液などの牛乳を使用してもよい。
【0080】
また、前記実施形態では、線量分布測定システムSでは、ソフトウェアを用いて処理を行う場合を例示したが、線量分布測定システムSの機能の少なくとも一部を、IC(Integrated Circuit)、LSI(Large Scale Integration)などのハードウェアを使用して行うように構成してもよい。
【0081】
以上、本発明の種々の実施形態を述べたが、その説明は典型的であることを意図している。従って、本発明の範囲内で様々な修正と変更が可能である。すなわち、本発明は発明の趣旨を変更しない範囲において変更可能である。