(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
第一マイクロチャネルと、第二マイクロチャネルと、流入ポートおよび流出ポートを含むバルブと、を含むマイクロ流体デバイスであって、前記ポートはそれぞれ前記第一マイクロチャネル、前記第二マイクロチャネルに連結され、前記バルブは前記ポートによって定められた流れ方向に沿った液体の流量を制御するよう設計され、
前記バルブは、前記ポートを結合し、前記流れ方向と直角の方向で前記マイクロチャネルの各々より幅が広い空洞チャンバを画定する、一つ以上の壁部をさらに含み、前記壁部は、前記流れ方向と交差する変形方向(−y)に沿って少なくとも部分的に変形可能であり、前記壁部には、少なくとも第一変形状態と第二変形状態とを付与することができ、前記第二変形状態においては前記第一変形状態よりも、前記流れ方向に沿って多くの前記液体を引くことができ、
前記第一変形状態および前記第二変形状態が、それぞれ、前記液体に対する第一毛細管圧および第二毛細管圧を誘起し、前記第一毛細管圧は、前記第二毛細管圧よりも高く、前記第一毛細管圧は、前記第一マイクロチャネルの上流部分において誘起された毛細管圧と同じオーダーであり、前記上流部分は、前記デバイス中に液体を投入するための投入パッドを含む部分に相当する、デバイス。
前記空洞チャンバの特性寸法は、前記第一および前記第二マイクロチャネルの各々の特性寸法よりも大きく、前記特性寸法は、前記変形方向に直角な同じ平面(x,z)内で測定される、請求項1または2に記載のデバイス。
前記ポートのところの前記第一マイクロチャネルおよび前記第二マイクロチャネルの各々の少なくとも一部は、第一層の上面上に開口した溝であり、前記空洞チャンバは、前記第一層の前記上面上に開口した凹部によって画定され、前記溝および前記凹部は、第二層の下面によって閉じられており、前記第一層もしくは前記第二層またはその両方は、少なくとも部分的に変形可能であり、1から60Mpaの間の抗張力を示す、請求項1〜4のいずれか一つに記載のデバイス。
前記空洞チャンバの最小の長さ/幅比率は3/1から1/1の間にあり、前記長さは前記流れ方向に沿って測定され、前記幅は、前記長さおよび前記変形方向の両方に直角に測定される、請求項1〜7のいずれか一つに記載のデバイス。
前記バルブは、前記バルブの下部壁部から上部壁部に延在する濡れ性柱体をさらに含み、前記柱体の分布は、前記バルブの中央よりも、前記ポートのところの方が濃密である、
請求項1〜9のいずれか一つに記載のデバイス。
前記マイクロ流体デバイスは、前記第一マイクロチャネルの上流に設けられた投入パッド、前記バルブの下流に設けられた反応チャンバ、あるいは、前記第一マイクロチャネルおよび前記第二マイクロチャネルの液体流路の中にそれぞれ挿入された、試薬ゾーンおよび毛細管ポンプのいずれか、または、これらの組み合わせをさらに含む、請求項1〜11のいずれか一つに記載のデバイス。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
能動マイクロバルブは、通常、作製の複雑性が増し、作製のコストが高く、作動に動力が必要である。これらは、外部周辺機器を必要とし、また、「オン」または「オフ」状態の維持のために動力が必要である。一例に「階段接合受動マイクロバルブ」がある。かかるマイクロバルブは、疎水性構造体内部の水性液体をポンピングするための能動的なポンピングを必要とし、該構造体は収縮状態で固定することが可能である。ポンピング圧力の増加によって、液体がバルブを押し通される。しかしながら、推知できるように、かかるソリューションは、毛管現象駆動のマイクロフルイディクスに適合しない。上記のマイクロバルブは能動的ポンピングおよび作動、すなわち追加の周辺機器をさらに必要とする。さらに、収縮の前に大量の液体が出がちである。
【0009】
次に、受動マイクロバルブは、通常、インタラクティブ性に欠け(すなわち、これらは所定の開閉条件を強いる)、化学物質の統合のため複雑な作製を必要とする。さらに、初期が閉状態にある受動バルブは、通常、排気に関する問題を有する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第一態様によれば、本発明は、第一マイクロチャネルと、第二マイクロチャネルと、流入ポートおよび流出ポートを少なくとも含むバルブと、を含むマイクロ流体デバイスとして具現化され、前記ポートはそれぞれ第一マイクロチャネル、第二マイクロチャネルに連結され、バルブはこれらポートによって定められた流れ方向に沿った液体の流量を制御するよう設計され、該バルブは、ポートを結合し流れ方向と直角の方向でマイクロチャネルの各々より幅が広い空洞チャンバを画定する、一つ以上の壁部をさらに含み、前記壁部は、流れ方向と交差する変形方向に沿って少なくとも部分的に変形可能であり、該壁部には、少なくとも第一変形状態と第二変形状態とを付与することができ、第二変形状態においては第一変形状態よりも、流れ方向に沿って実質的に多く液体を引くことができるようにする。
【0011】
他の諸実施形態において、前記マイクロ流体デバイスには以下の特徴の一つ以上を含めることができる。
− 第一変形状態および第二変形状態が、それぞれ、液体に対する第一毛細管圧および第二毛細管圧を誘起し、第一毛細管圧は、第二毛細管圧よりも実質的に、典型的には差が1000N/m
2より高く、第一毛細管圧は、望ましくは、第一マイクロチャネルの上流の部分において誘起された毛細管圧と同じ桁を有し、前記上流部分は、望ましくは、デバイス中に液体を投入するための投入パッドを含む部分に相当する;
− 第一変形状態は実質的には非変形の状態であり、第二状態は実質的には変形した状態であって、空洞チャンバの変形方向沿いの平均寸法は、第二変形状態と第一変形状態との間の比率を示し、これは0.1と0.9との間、望ましくは0.5と0.75との間にあり、少なくとも部分的に変形可能な壁部は、望ましくは非永続的に変形可能であり、さらに望ましくは弾性的に変形可能である;
− 空洞チャンバの特性寸法は、第一および第二マイクロチャネルの各々の特性寸法よりも実質的に大きく、前記特性寸法は、変形方向に直角な同じ平面内で測定され、望ましくは、変形方向および流れ方向の両方に対し直角な方向で測定される;
− 変形方向に沿って測定された、マイクロチャネルの各々および空洞チャンバの深さはほぼ等しい;
− ポートのところの第一マイクロチャネルおよび第二マイクロチャネルの各々の少なくとも一部は、第一層の上面上に開口した溝であり、空洞チャンバは、第一層の上面上に開口した凹部によって画定され、これら溝および凹部は、第二層の下面によって閉じられており、第一層もしくは第二層またはその両方は、少なくとも部分的に変形可能であり、望ましくは1から60Mpaの間の、さらに望ましくは20からの60Mpaの間の抗張力を示す;
− 流れ方向と、流入ポートで空洞チャンバの境界を定めている前記一つ以上の壁部の部分との間で測定された、流入ポートのところでのチャンバの開口角度θ
addは、90°から180°の間、望ましくは110°から160℃の間であり、さらに望ましくは、ほぼ135°に等しい;
− 流れの方向の反対方向と、流出ポートで空洞チャンバの境界を定めている前記一つ以上の壁部の部分との間で測定された、流出ポートのところでのチャンバの開口角度θ
outは、0°から90°の間、望ましくは20°から70℃の間であり、さらに望ましくは、ほぼ35°に等しく、望ましくは、流れ方向沿いのバルブのプロフィールは、実質的には涙形である;
− 空洞チャンバの最小の長さ/幅比率は3/1から1/1の間にあり、該長さは流れ方向に沿って測定され、該幅は長さおよび変形方向の両方に直角に測定される;
− バルブは、少なくとも部分的に刻刻(ギザギザ)を有する側壁を含み、刻刻を有する側壁は外部に突き出た突起部を示す;
− バルブは、バルブの下部壁部から上部壁部に延在する濡れ性柱体をさらに含み、この柱体の分布は、実質的に、バルブの中央よりも、ポートの一つまたは望ましくはポートの各々のところの方が濃密である;
− マイクロ流体デバイスは、空洞チャンバに連結する一つ以上の貯留部をさらに含む;
− マイクロ流体デバイスは、第一マイクロチャネルの上流に投入パッドをさらに含み、望ましくは、バルブの下流に反応チャンバを含み、さらに望ましくは、第一マイクロチャネルおよび第二マイクロチャネルの液体流路の中にそれぞれ挿入された、試薬ゾーンおよび毛細管ポンプを含む。
【0012】
さらなる態様によれば、本発明は、n個のセット(n≧2)を含むマイクロ流体デバイスとして具現化され、これらセットの各々が、前述の実施形態のいずれか一つによるデバイスの前記第一マイクロチャネル、前記第二マイクロチャネル、および前記バルブと同様に構成された、第一マイクロチャネル、第二マイクロチャネル、およびバルブを含む。
【0013】
最後の態様によれば、本発明は前述の実施形態のいずれか一つによるデバイス中の液体流を制御する方法として具現化され、該方法は、
− 第一マイクロチャネルを液体で満たすステップと、
− 少なくとも部分的に変形可能な前記一つ以上の壁部を、第一マイクロチャネルから空洞チャンバを通って第二マイクロチャネルに液体を引くように、変形するステップと、を含む。
【0014】
以降に、非限定の例示を目的として、添付の図面を参照しながら本発明を具現化するデバイスおよび方法を説明する。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下の説明に対する導入部として、まず、液体流を制御するよう設計されたバルブを備えたマイクロ流体デバイスを対象とする本発明の一般的な態様を示す。かかるバルブは、通常、それぞれがマイクロチャネルに連結された2つのポートの間に空洞チャンバを有する。このチャンバは流路が拡大され、(流れ方向と直角方向に)マイクロチャネルよりも幅広い。次に、チャンバの境界を定めている壁部は、ポートによって定まる流れ方向に対し直角方向に、少なくとも部分的に変形可能である。通常、壁部の少なくとも一部には可撓性材料が使われ、(例えば、ロッドまたはスタイラスなど使って)壁部を圧迫し、毛細管圧を(絶対項で)上昇させ、液体をバルブを通して引くようにすることが可能である。したがって、バルブの変形によって、液体を、毛管現象により流れ方向に沿ってどのように引くのかが決まることになる。本発明は、簡単な外部作動手段と、毛管現象駆動流の単純性および効率性とに依存している。本バルブは、簡単な作製によるさらなる利点があり、バルブを「オン」または「オフ」状態に保つために動力の必要がなく、バルブの変形のためごく小さな動力が必要なだけで、これはオペレータ自身によって簡単に遂行することができる。
【0017】
以降に具体的な諸実施形態を詳細に説明するものとし、これらは、通常、死容積なし(または無視可能)、および高速な切り替え時間の達成を可能にする。さらに、かかる実施形態は、通常、以下の使用を必要としない。
− 熱感受性材料(例えば、ワックス)、
− 光感受性材料(光トリガ湿潤)、
− サンプル反応性物質(例えば、pH感受性ヒドロゲル)、または
− 疎水性バリアを濡れ性ゾーンに変換するためのサンプルの化学組成。
さらに、液体の注入によって空気が圧縮されないので、排気の必要がない。その上に、他の既知のソリューションに比べて作製の難度が低い。実際上、本実施形態は、相異なる深さおよび傾斜側壁、または相補的な合わせ形状を備えた構造体を設ける必要がない。また、これらは、流路を閉鎖するためのはめ合い部品を作製して組み立てる必要もない。最後に、本諸実施形態によるバルブのメカニズムは、シーリング、ボンディングなどが非常に重要である異質な要素からなる構造体に基づく既知のほとんどのバルブの概念と対照的に、実際上、粒子または塵埃などに対して大きな脆弱性はない。
【0018】
図1A〜2Cを参照すると、諸実施形態によるマイクロ流体デバイス100は、典型的には、第一マイクロチャネル31と、第二マイクロチャネル32と、流入ポート51および流出ポート52(簡潔化のため2つのポートだけを記載する)を含むバルブ50とを含む。ポート51、52は、それぞれ流入/流出マイクロチャネル31、32に連結されている。このバルブは、一般に、ポートによって定まる流れ方向沿いの液体Lの流量を制御するように設計される。
【0019】
さらに詳しくは、このバルブは、例えば、空洞チャンバまたはキャビティ53を画定するなどのための、ポートに結合する一つ以上の壁部54、56、58、20を有する。該チャンバは、例えば流路が拡大されるように、流れ方向zに直角の方向である方向xなど少なくとも一つの方向において、マイクロチャネルより幅広くなっている。これらの壁部の少なくとも一部(通常、上部壁部20)は変形可能なまたは可撓性の材料で作られる。これら壁部が、流れ方向zと交差する方向(望ましくは方向zに直角)に、マイクロチャネルに比べて流路を拡大し、且つ少なくとも部分的に変形可能である限り、壁部の正確な幾何学的形状は重要ではない。図示の例では、4つの別個の壁部54、56、58、20(上部、底部、および側部)がある。
【0020】
但し、代替案では、空洞チャンバは、流れ方向と交差する変形方向に沿って少なくとも部分的に変形が可能な、ポートに結合する電球形状の壁部(できれば単一で連続する壁部)によって画定されることも可能であろう。その場合、例えば流路が方向zと直角に拡大されるように、チャンバは、どの半径方向に対してもマイクロチャネルより幅広となろう(チャンバは、通常、流れ方向zの主軸でもあるその主軸に対し円筒対称性を示すことになろう)。これらの壁部は、どの半径方向(すなわち、方向zと直角方向)に沿っても変形可能な可撓性材料で作ることができよう。当業者ならよく理解しているように、例えば、上記で定義した2つの形態の間の中間の形態など、多くの他の形態が同様に定義可能であろう。
【0021】
全ての場合において、バルブは、2つの(またはそれより多い)変形状態、とりわけ、第一変形状態S1とそれとは全く異なる第二変形状態S2とを呈することが可能である。
図1A〜2Cに示されるように、これら状態の一つにおいては(ここでは状態S2)他の状態(S1)よりも、流れ方向に沿って実質的に多くの液体を引くことができる。流量制御の差異の程度は、(原則として)完全なオン−オフ切り替えまで実現可能であり、これについては後述する。
【0022】
本バルブの動作原理は、デバイス100を通って伝播する液体が受ける毛細管圧の観点からよりうまく説明される。慣例通り、熱力学の基準に従って「誘引」毛細管圧は負圧と見なす。
図2A〜Cに示されるように、全く異なる変形状態は、デバイス100を満たす液体Lに対し全く異なる毛細管圧を誘起し、これにより、チャンバ53を通る液体Lの引き込み方を変更することが可能になる。
【0023】
例示のために、以下のように仮定する。
− 液体は左側から注入される(すなわち、第一マイクロチャネル31から、
図2、4、および5から13までを参照)、および
− 第二変形状態S2は変形された状態(
図1Bのように実質的な圧力が印加される)であり、一方、第一状態S1は、実質的に変形されていない非変形状態(特定の圧力の印加がない、
図1B)に相当する。2つの状態S1、S2によって対比される変形の程度は、(非変形の状態S1によって誘起される)第一毛細管圧P1が、バルブが変形状態S2のときに液体が受ける毛細管圧P2よりも必ず実質的に高くなるようにされる。これは、後記で例として数値化するものとする。
【0024】
典型的なデバイスは、以下のように作動することができる。(
図1〜2を参照):
− 第一に、
図2A(非変形状態S1、時間t1):液体Lがマイクロチャネル31から注入され、それがポート51に達する。そこで、液体は、非変形状態S1によって誘起された大きな毛細管圧P1のため、減速し、停止することもある。バルブのチャンバ53の内部は、この時点まで、例えば
図1Aに示された状態である。この点に関し、バルブは、例えば、マイクロチャネル31からチャンバ53に進む際に濡れ性流路が(例えば急に)拡大するように、好適に構成される。この拡大は、少なくともチャンバが変形されていないときには、毛細管圧の増大(絶対項では低下)をもたらし、これが、液体を十分に減速させ、おそらく停止させる。液体の正確な挙動は、液体の性質、流入ポート51のところでのチャンバの正確な幾何学的形状、化学的な表面状態など多くのパラメータに左右され、これについては後記でさらに詳細に説明する。
− 第二に、
図1B(状態S2、時間t2>t1)に示されるように、例えば、プッシュ・ロッドなどによって中央部で−yに向けて押されて、バルブが変形される。バルブの壁部が、流れ方向zと交差する軸である変形軸yに沿って変形されるので、チャンバの(yに沿う)局部寸法が低減され、これが毛細管効果を高める。しかして、バルブは、一方の状態において他方よりも毛管現象の活性が高いと見なすことができる。
− 変形の結果として(
図2B)、毛細管圧が低下し、液体は流れ方向に沿って引っぱられ、すなわち、変形状態S2において、少なくとも当初の状態S1よりも実質的に多く引っぱられる。
図1Bにおいて、2本の矢印は、チャンバが変形されたときであっても、中央部に比較してまだ高い毛細管圧を示す領域を指している。結果として、液体は、まず中央部に、すなわち、毛細管圧が最低(負の値を想定している)である最も変形された領域に向けて伝播する(時間t2)。
− 最終的には(状態S2、時間t2’>t2、
図2C)、液体は、より高い毛細管圧を有する、チャンバの他の領域にも伝播する。変形を維持することによって、液体が、ポート51に向かい第二マイクロチャネル32(図示せず)に達するまで進むことが可能になる。
【0025】
望ましくは、バルブの壁部は、例えば非変形状態に復帰可能なように、非永続的に変形可能である。さらに望ましくは、これらは弾性的に変形可能であり、バルブの再使用が可能である。但し、例えば一回だけのバルブ使用が求められているなど、一部の用途については、バルブの壁部が非永続的に(または弾性的に)変形可能である必要はない。それどころか、安全上の理由から、デバイス(使い捨て試験用チップなど)の再使用を防止するために、永続的に変形可能なバルブが望まれることがある。別の可能性として、可撓性材料ではあるが、例えば、チャンバが一旦変形されるとその当初の幾何学的形状には簡単には戻れない、スナッピング効果を示すよう構成された材料を利用することもあろう。
【0026】
前述のように、例示のために、第一状態が非変形状態であって、第二状態が変形状態であると仮定した。しかし当業者にとって当然のことながら、さまざまな構成/シナリオが、前述したのと同じ原理、すなわち、液体が、一つの状態において他方の状態よりも実質的に多く流れ方向に沿って引っぱられるという原理に該当する。例えば、チャンバを当初から変形させておき(例えば、zに沿った平均高さを増やすため側面が押されているなど)、この変型状態で維持し、毛管現象を不活性にして液体がバルブを流通するのを阻止することなどができよう。バルブを非変形の状態に戻せば、バルブの毛管現象が活性になり液体の流通が促進されよう。これは、実際上は、変形方向VS(対)流れ方向、およびチャンバの全般的な幾何学的形状の如何によって決まる。
【0027】
次いで、変形の方向に関して、これまで、この方向が流れ方向zと交差していなければならない、すなわち非ゼロの角度でなければならない、とだけ仮定した。さらに望ましくは、変形方向(y)が流れ方向zに直角である構成にすれば最も単純な諸設計が得られる。この点に関し、
図1〜2の例において、バルブ50は、x軸に沿って、すなわち、流れ方向zおよび変形方向yの両方に対し直角な軸に沿って、濡れ性流路を拡大することによって作られる。ここで、x軸沿いのチャンバ53の(例えば、チャンバ53の主平面で測定された)特性寸法は、同じ軸x沿いのマイクロチャネルの特性寸法よりも実質的に大きい。この場合、実質的にyに沿って(実際は−y方向に)バルブを変形することによって、液体は、下部および上部の壁部58、11の両方により容易に接触することができ、毛管現象により流出ポート53に向かって伝播する。但し、側壁部54、56が、相互に十分近接して液体を伝播させることができるほど、十分に変形ができるということを前提として、xに沿ってバルブを変形しても原理的には同じことが可能になり得る。しかして、変形方向は、流れ方向zに対し直角の(例えばxまたはyに沿う)成分を持たなければならないことが分かる。これが、バルブ(すなわち、その壁部)が、流れ方向zと交差する変形方向に沿って少なくとも部分的に変形可能でなければならない理由である。
【0028】
さらに望ましくは、
図1〜2の例におけるように、バルブは、実質的には(xよりもむしろ)yに沿って変形可能であり、変形方向yが、流れ方向zおよび拡大方向xの両方と交差するようにする。これは、作製工程に関して利点になる。なぜなら、この例ではマイクロチャネルおよびチャンバの深さは、機械加工工具の精度が得られれば実質的には同一であるからである。これは、
図3A〜3B(ワイヤフレーム図)に示されており、マイクロチャネル31、32およびチャンバ53は、単一の層10中の溝/凹部として設けられているのが示されている。さらに正確には、マイクロチャネル31、32の各々(または、少なくとも、それぞれのポート51、52のところのそれらチャネルの終端部分)は、第一層10の上面11上で開口した溝である。同様に、空洞チャンバは、実質的には、上面11上で開口した凹部53によって境界を定められる。
図3Bに見られるように、これらの溝および凹部は、第二層20の下面(すなわち、
図1Aの下面21)によって閉じることが可能である。かかる設計は、単一の機械加工深さがここでは必要なだけなので製造が容易である。
【0029】
ちなみに、全ての壁部54、56、58、20が変形可能である必要はない。例えば、(
図1Bに示されるように)上部壁部20が変形可能な必要があるだけである。これに換えて(または加えて)、壁部54、56、または少なくともそれらの一部を変形可能にすることもできよう。同様に、下部壁部58だけを変形可能にすることなども可能であろう。
【0030】
2層の製造工程を考えた場合、層10、20の少なくとも一つを変形可能材料で作製することができる。層10、20の一つ(または両方)を可撓性材料で作れば、作製ステップがより簡単になる。
【0031】
変形可能層は、望ましくは、1から60MPaの間の抗張力を呈する。例えば、これを、ポリ(ジメチルシロキサン)エラストマで作ることが可能で、この典型的な抗張力は1から10MPaまで様々である。そのほか、これらは、プラスチック材料で有利に作製することも可能である。一つの好適な例は、ポリオレフィン共重合体であり、射出成型またはエンボス加工技法を用いて大量に作製するのがより容易である。熱可塑性材料は適切な候補材料であり、通常、20から60MPaの間の抗張力を有する(例えば、「the Polymer Data Handbook」、Oxford University Press、1999年を参照)。適切な材料の別の例に、Sylgard(R)184ポリ(ジメチルシロキサン)があり、これは約2.5MPaのヤング率を有する。選択される材料は、望ましくは脆性でないのが良い。
【0032】
図4は、デバイス100を通って伝播する液体が受ける毛細管圧の変化を表したグラフである。毛細管圧は、N/m
2で表されている。各種の曲線は、バルブの「閉」状態(実線)、「開」状態(点線)、および部分的に変形した中間状態(破線)を表す。
図1〜3の実施形態では一貫して、これら閉/開状態は、それぞれ非変形/変形状態に対応する。これらの曲線は全て、デバイス100の理論モデルから得られたものであり、該デバイスも同じ図の中に描かれている。デバイス中の液体の位置はmm単位で表されている。このデバイス100は、
− デバイスの中に液体を投入するための投入パッド60(区域R1)と、
− 液体を狭細チャネルに移動させるための投入チャネル(区域R2)と、
− それ自体が第一マイクロチャネルにつながっている狭細チャネル(区域R3)と、
− 第一マイクロチャネル(区域R4)と、
− その後、バルブ50のチャンバに入ると急に大きくなり、最大幅(すなわち、その特性x寸法)に至る流路部分区域(R5)と、
− 次いで、おおむね一定の傾きで、下記のセクションに達するまで連続して幅が減少する流路部分(区域R6)と、
− 流路の幅はまだ減少しているが今や傾きが小さくなった、バルブのチャンバの次のセクション(53’)(区域R7)であって、かかるセクションは、区域R6と次の区域R8との間に有用な中間プロフィールを提供し、区域R7は流出マイクロチャネルに対応している、該セクションと、
− 流出マイクロチャネル(区域R8)と、
を含む。
【0033】
このモデルでは、カバー(すなわち、
図3Bの層20)は、例えばSylgard(R)184などの可撓性材料で作られる。マイクロ流体チップ(すなわち、
図3A〜3B中の層10)は、シリコンの中に微細加工され、水に対し45°の前進接触角を持つように処理された自然酸化物を有する。このカバーは、通常、水に対し110°の前進接触角を有する。これらの曲線から分かるように、液体(典型的には水)が受ける毛細管圧は、通常、狭細のセクションで低下する。注釈としては、毛細管圧は、キャビティの寸法(深さおよび幅)が大きくなれば、ゼロに近い値に達することになり、(理論的には)深さおよび幅が無限大になればゼロに達することになる。毛細管圧は、通常、マイクロチャネル(区域R4およびR8)のところで最小に達する。区域R5〜R7において、毛細管圧は、バルブのチャンバの急な拡大によって突然増大する。閉じた状態(非変形、実線)において、毛細管圧は、投入パッド(区域R1)の毛細管圧と同程度(すなわち、同じ桁)のレベル(典型的には、>−1000N/m
2)に達し、これは、投入チャネル(区域R2)より高く、流入・マイクロチャネル(区域R4)よりも大幅に高い。結果として、液体は、実質的に流入ポートで停止する。通常、PDMSカバー(層20)は、変形のないとき、層面58の60μm上に位置する。
【0034】
次に、バルブを開く(すなわち、それを−y方向に変形する)ことによって、それに続く変形状態の実現が可能になり、毛細管圧は大幅に減少する(破線および点線)。「開」状態において、PDMS層20は、典型的には、下部層10の上20μm(平均)まで押し下げられ、これはλ=1/3の伸張比に相当する。しかして、空洞チャンバ内の(変形軸に沿った)変形の桁の大きさは、典型的にはe=λ−1=−2/3となる。実際上、適切な伸張比は、対象の液体に対し、チャンバが、明らかに毛管現象不活性の状態から、明らかに毛管現象活性の状態に移ることを可能にする伸張比である。しかして、典型的な伸張比は、上記で例示したように、より一般的には0.1から0.75の間、でき得れば0.1から0.5の間となろう。
【0035】
図示のように、毛細管圧の閉状態の最大値と開状態の最大値との間の差は、2000N/m
2にまで大きくなり得る。通常、これは1000N/m
2より大きい。このとき、低減した毛細管圧は区域R1〜R2で受ける毛細管圧よりも低いので、液体は、そのポテンシャル・エネルギを低減させようとして、引っぱられ、バルブを通り、区域R8に達することになる。
【0036】
ちなみに、デバイス100の正確な構成(それが投入パッド、投入チャネルなどを含むかどうか)およびデバイスを通り伝播する液体が受ける毛細管圧の正確の値に関係なく、バルブに対し(変形交差軸zによって)はっきりと異なった変形状態が定義できる限り、液体は、これらの状態の一つにおいて他方よりも多く、流れ方向に沿って必然的に引っぱられることになる。実際上は、変形軸沿いの幾何学的形状を変更することによって、毛管効果は、一つの状態において他方の状態よりもさらに効果的となる。したがって、
図1〜3に戻って参照すると、本発明の中核となる着想は、流路が拡大され、流れ方向と交差する方向に沿って変形可能な空洞チャンバ53を備えたバルブを設けることである。このようにバルブのメカニズムが得られ、これによって流路沿いの液体の流量の制御が可能となる。
【0037】
好適な諸実施形態において、チャンバには、単に液体流動力学に影響を与える手段でなく、例えば、効果的な「ストップ・バルブ」を実現するなど、バルブをさらに効果的にするためのさらなる幾何学的な特徴が設けられる。この点に関し、
図5Aに表されるような、流入ポートのところで流路の拡大が見られる電球型設計では、液体を流入ポートではっきりと停止させるのでなく、減速させる(すなわちチャンバを変形させる前に)ことが分かる。当然ながら、液体の実際の挙動は、前述したように、チャンバの正確な幾何学的特徴、液体の性質、流路の化学的表面状態などの如何によって決まる。
【0038】
次いで、チャンバ53の、すなわち流入ポート51のところでの入り口開口角度θ
addは、液体が流入ポートにおいて流路を濡らす傾向、ひいてはその流動力学に影響することが分かる。したがって、本発明の諸実施形態は、「負」の入り口開口角度θ
addを提供する。さらに正確には、流れ方向zと、流入ポート51でチャンバの境界を定めているバルブの部分との間で、この入り口角度θ
addを測定した場合、この角度は望ましくは90°から180°の間に定まる(
図6Aの流入ポート部分を拡大表示している
図6Bを参照)。望ましくは、この角度は110°から160°の間となり、適切な値は典型的には135°である。しかして、液体が前進接触角θ
advによってマイクロチャネルを満たしている状況を考慮すると、拡大、すなわちチャンバの入り口での広がりは、バルブのチャンバ中へのメニスカスの伝播を促す(challenge)角度成分θ
addを加えることになる。これは、バルブの遮断状態における安定性を増大する。
【0039】
同様に、流出の幾何学的形状も流動力学に影響する。流出ポートのところの角度θ
outは、開口角度θ
addより小さくする必要がある。なお、このときのθ
outは、−z方向(すなわち、流れ方向zの反対向き)と、流出ポートでチャンバの境界を定めているバルブの部分との間で測定されたものである。しかして、θ
outは0°から90°の間にある。望ましくは、20°から70°の間に定められ、典型的で適切な値は35°である。
【0040】
好適な角度の値およびx方向の広がりの結果として、流れ方向沿いのバルブのプロフィールは、
図5〜9に示された好適な例に示されるように、実質的に涙形状となる。
【0041】
さらに一般的には、注入口の幾何学的形状はさまざまな仕方で最適化することができ、液体をバルブの入り口に留め、液体がコーナおよび側壁に沿って徐々に伝わるのを防止することが可能である。このことは、バルブの壁部が親水性の場合、あるいは液体が界面活性剤を含む、またはより低い表面張力を有する場合に特に当てはまる。前述のように、開口角度θ
addおよびθ
outに対し、なんらかの最適化を行うことが可能である。
【0042】
他の幾何学的パラメータも、バルブの効率に影響を与えることになる。特に、内部チャンバ53の最小の長さ/幅比率は、
図5A〜5Cに示されるように、望ましくは3/1から1/1の間にあるべきことが分かり、図ではこの比率はおおよそ1/1から3/1までとなっている。なお、ここで、「内部チャンバ」はチャンバ53を表すが、
図5Aに破線で示された、流出チャネルに至る中間のセクション53’は除外されている。最小の長さ/幅比率が大きくなるほど、流出チャネルに向かうプロフィールはより漸進的となり、これにより死容積および空気閉じ込めのリスクの低減が可能になる。ちなみに、チャンバの幅は、通常、200〜1800μmであり、望ましくは約600μmである。上記の例において、長さおよび幅は、それぞれz方向およびx方向に沿って測定される。さらに一般的には、チャンバの特性幅は、変形方向に直角な平面(x,z)において測定される。
【0043】
しかして、
図1〜6を参照しながら上記で説明したように、バルブの3つの重要なパラメータは、バルブの深さ(y軸)、その幅(あるいは、例えばx軸に沿った特性横方向寸法)、および長さ(z軸)である。当然ながら、かかるパラメータの実際の数は、チャンバに付与された対称性の如何による。例えば、幅と深さとは、チャンバが円筒対称性を有するように制約されれば、一つの(半径)パラメータに減らされる。同様に、球対称であれば半径パラメータ一つだけになる。次いで、かかるパラメータ(すなわち、
図1〜6中の深さおよび幅)と変形可能な壁部(すなわちカバー)のヤング率とを組み合わせれば、臨界作動圧力が定まる。この圧力は、注入口から排出口への流れをトリガするために、バルブが配置されている箇所のカバーに加える必要がある圧力である。上記で言及したように、構造体が全て同一の深さを有するマイクロ流体チップを生成するのはより容易で経済的なので、臨界圧力を設定するのに、深さよりむしろ幅を変える方がとりわけ都合がよい。通常、特性横方向寸法はバルブの最大幅に合致する。さらに、モデリングのために、バルブの断面を円に近似させることが可能で、この場合、特性横方向寸法はバルブの直径となる。カバーは、典型的には、Sylgard(R)184などのポリ(ジメチルシロキサン)(またはPDMS)で作られ、これは約2.5MPaのヤング率を有する。
【0044】
次に、コーナおよび表面沿いの薄い液膜の伝播は、特に、バルブが長期に亘り液体を遮断することが望まれる場合、もしくは温度および圧力の変化がある場合、またはその両方の場合、阻止が困難となり得る。液体が徐々に伝わるのをさらに減らすには、
図7A〜7C、8A、8B、および9C、9Dに示されるように、バルブの側壁部54、56に沿って刻刻(突起部または歯状部72、74)を作れば、実現することが可能である。かかる刻刻72、74は外側に突出している、すなわちこれらはx方向に主要部を有する。刻刻のある流路にすると、液体に差し出される周囲面が増え、典型的には4/3倍となる(
図7A、7B)。排出口近辺の刻刻(
図7A、7B、8A、8B、9C、および9D)は、これらが濃縮液体の小滴を捕捉し、減速することができるので、特に有用である。
図7Cでは、流路は、バルブの周辺のほとんどに刻刻が付されている。
図8B、9C、および9Dでは、高い値の「追加」角度を有する入り口角度を設けるなどのため、テーパ状の刻刻が設けられている。さらに一般的には、刻刻の形状は、
図8Aに示すように、開口角θ
addもしくはθ
outまたはその両方と一緒に最適化することができる。
【0045】
次に、バルブ50には、濡れ性柱体86(または、
図9〜10中の白点で表された滞留構造体)をさらに含めることが可能である。かかる柱体は、通常、バルブ50の下部壁部10、58から上部壁部20に延び出している。これら柱体の分布は、ポートの一つ(すなわち流入ポート)、あるいはポートの各々(流入および流出ポート)のところで、バルブの中央部よりも実質的に高密度である。
【0046】
滞留構造体は、必要に応じ、正確な位置において、液体が濡れ性チャネル中の前部を満たすのを防止するのに役立てることができる。一例は、チャネルを形成する、線形体または間隔が狭い複数の長方形棒体である。構造体を満たす液体が狭細なチャネルの排出口に達すると、進行する液体のメニスカスは、液体の表面張力によって対抗される。液体のメニスカスが、チャネル幅の半分の曲率半径でチャネルから退いたとき、エネルギ的に最も好ましい状態に達する。さらに具体的には以下を参照する。
−
図9Aでは、長方形棒体が入り口(流入ポート)に設けられている。半円状になった長方形棒体群が、液体を多くの滞留チャネルに分配している。棒体の寸法は、典型的には40×40μm
2で、20μmの間隔取りである。
−
図9Bでは、円形棒体が、滞留円形棒体群の単一のライン(滞留ライン)に液体を分配する。円形棒体の直径は、例えば70μmである。
−
図9Cでは、前部を満たす液体を分配し留めるための構造体が設けられている。これは(追加角度を備えた)刻刻のある壁部と組み合わされて、液体がコーナに沿って徐々に伝わるのを防止する。
−
図9Dでは、長方形棒体が液体を滞留ラインに分配する。必要に応じ、チャネル壁部で液体が徐々に伝わるのを防止するために、追加角度を備えた、波形の壁部および刻刻のある壁部を加えることが可能である。
【0047】
さらに、マイクロ流体デバイス100には、
図10A〜Cに示されるように、例えばそれぞれのポートを通って、空洞チャンバ53に連結する一つ以上の貯留部90、92をさらに含めることができる。
【0048】
追加角度、滞留構造体、および貯留部は、本発明によるデバイスを最適化するために組み合わせることが可能な同じ数だけの任意の特徴である。例えば、
図10A〜Bにおいて、バルブの側壁部は、側部貯留部90、92を作ることによって、チャンバの中央域から離して配置される。
図10Aおよび10Bでは、柱体、追加角度、および側部キャビティを使って、前部を満たした液体を留めることによって、バルブの壁部沿いに液体が徐々に伝わることをさらに低減する。
図10Cでは、この原理に基づいて、(濡れ性)柱体を用いて、液体の流れをバルブ域に向かう狭細な流入路に制約することさえ可能である。このように制限した場合、バルブが特に安定することが判明した。さらに詳しくは、この場合、チップを満たす液体の流路は、例えば円形棒体86(典型的な直径および間隔は約100μm)などの柱体によって画定されるので、該流路は柱体の構造に大きく左右される。液体は、構造体の左側から入り、棒体の間の容積を液体で満たす。柱体がないストップ・バルブの中央部では毛細管圧はゼロに近くなり、液体はそれ以上進むことができず、充填は停止される。液体を他方側に通過させるため、前述のように、チャンバ53が変形される。
【0049】
次に、諸実施形態によるマイクロ流体デバイスには、以下のようないくつかの追加の特徴をさらに含めることができる。
− 投入パッド60(
図4、11、12)、すなわち第一マイクロチャネルの上流にあってデバイスに液体を投入するための投入パッド;
− バルブ50の下流の反応チャンバ70(
図11);
− 例えば投入パッドと第一マイクロチャネルとの間に挿入された、試薬ゾーン82(
図11);
− バルブ50の下流に挿入され、望ましくは反応チャンバ70の後に挿入される毛細管ポンプ(84);
− その他。
【0050】
図11は、前述の、2μLの液体を受けることが可能な投入パッド、試薬ゾーン82、機械的ストップ・バルブ50、反応チャンバ70、および毛細管ポンプ84を有するマイクロ流体チップの設計を示す。この設計は、例えば、反応性イオン・エッチングを使ってシリコンに移すことができる(シリコン・チップ中のチャネルの典型的な深さ:60μm)。チャネルおよびポンプを覆うために、PDMSカバーが上部に配置される(図示せず)。反応チャンバのエリアにおいて、PDMSカバーは、生物学的受容体分子(例えば、アビジンまたは他の生体分子)の複数のラインを含み、これらは反応チャンバを直角に横切り、反応チャンバの内腔に面している。このチップでは、バルブの後側で且つ毛細管ポンプの前側に配置された反応チャンバでアッセイを行うことができる。
【0051】
但し、本実施形態は、生物学的受容体分子または他の受容体分子を用いる用途に全く限定されない。例えば、(クエン酸塩または他の代謝生成物のような)人体内に存在するが生物学的でない代謝生成物を試験するためにマイクロ流体チップの使用が望まれることがある。さらに、先の例の代謝生成物を保ちながら、例えば、リガンド−受容体結合でなく、酵素反応を使って検出を行うことができよう。当業者であれば分かることであるが、本明細書で提供されるマイクロ流体デバイスを用いる、さまざまな他の用途を検討することができるであろう。
【0052】
さらに一般的には、本明細書で開示されたバルブを有するチップを使った実験のための周辺機器には、
− 試薬ゾーンの下の加熱ステージ(一部のアッセイは、さまざまな温度を用いて検体を標識したり、検体分子を解離することが必要であるため);
− 投入パッドの下の冷却ステージ(例えば、蒸発を制限するため、特に、非常に少量のサンプルが用いられる場合、または試薬/検体の安定性を向上するため);
− 蛍光リーダ、例えば、(カバーを通してアッセイ信号を読み取るためには)反応チャンバの上側にあるか、または、プラスチック・チップの場合は、反応チャンバの下側にある)蛍光リーダ;
− ピストン(例えば、所与の時間にバルブ上に正確な圧力を加えるようプログラムが可能なソレノイド);
− (投入パッドもしくは試薬ゾーンまたはその両方へサンプルおよび試薬を自動投入するための)ピペット作業用ロボット。
【0053】
ただし、かかる周辺機器は、本明細書に記載したバルブ・メカニズムに対する必要事項ではない。
【0054】
次に、前述した概念の一部は並行化することが可能である。例えば、諸実施形態において、マイクロ流体デバイスには、各セットが前述のように構成された第一マイクロチャネル、第二マイクロチャネル、およびバルブを含む、n個のセット(n≧2)を含めることが可能である。
【0055】
例えば、検体の並行検出のために9つのチャネルを備えたマイクロ流体チップを
図12に開示する。該チップの寸法は、おおよそ52×47mm
2である。このチップの流れ方向は左から右である。該チップは、10μLのサンプルをピペットで移すことのできる共用の投入パッドを含む。チャネルのシステムは、パッドから液体を引いて、それを9つの別個の流路に等しく分配する。全流路は、通常、蛇行を利用して(長さ、従って水圧耐性が)等しくなるように作られる。各流路は、試薬ゾーンに導かれ、該ゾーンは0.5μLの容積の液体を保持することができる。各試薬ゾーンの後側には、液体がチップを満たすのを妨げるための機械的ストップ・バルブ50を含むマイクロチャネルが続く。各バルブの後には反応チャンバが続く。9つの反応チャンバは、光学システムを用いて信号を読み取るのを容易にするため、近接し且つ平行に保たれる。各反応チャンバは、1μLの容積の液体を保持可能な毛細管ポンプに連結される。
【実施例】
【0056】
前述したようなマイクロ流体デバイスは、とりわけ、生物学的アッセイに利用される。例えば、
図13A〜13Dは、ビオチン化された997bpのdsDNAのPCR生成物をBryt Green(R)染料(二本鎖DNA中にインターカレートされると蛍光を発する)とともに含む分子グレードの水がバルブを(左から右へ)通過するのを示す、時系列の蛍光顕微鏡画像を示す。例として、ヌクレオチド(二本鎖DNA、各々が997の塩基を有する)から成るPCR生成物の検出を取り上げ、
図11に示すバルブおよびチップを用いて、サンプル中の当該PCR生成物を検出するためのアッセイが行われた。第一に、1μLのBryt Green(R)染料と、2μMのビオチン化された20塩基の一本鎖DNAプローブの1μLとを、(カバーが配置されていない)チップの試薬ゾーン82中にピペットで移し、乾燥した。第2に、Tris−EDTA緩衝溶液中に10nMの997bpのPCR生成物を含む1μLのサンプルを、投入パッド60中にピペットで移した。液体のメニスカスが、ハイブリダイゼーション・チャンバ81、第一マイクロチャネル31を満たし、流入ポート51で停止した。投入パッドから流入ポートまでサンプルで満たすのに約30秒かかり、サンプルが試薬ゾーンに達したときは、サンプルは、Bryt Green(R)染料およびビオチン化された20塩基の単鎖DNAプローブを溶かしていた。第三に、チップの試薬ゾーン域を95℃に加熱し、室温に冷却した。試薬ゾーンで液体を加熱すると、試薬ゾーン中に気泡が形成されることが時々あった。特注の加圧チャンバを使って、(周囲圧よりもおよそ1バール(10
5パスカル)高い)圧力を加えることによって気泡を除去できることが判明した。加熱ステップの間、二本鎖PCR生成物は融解(鎖が分離)し、冷却の間に、ビオチン化一本鎖DNAが、PCR生成物中の該DNAの相補配列と結合した。このプロセスは、通常、約10分を要し、その間、バルブ50では液体を止めておいた。第四に、キャビティ53の上側のPDMSの上部でプッシュ・ノッド110を(例えば、鉛筆の先を使って)押すことによって、PDMSはチャネル内側に変形し、液体はキャビティの中に引っぱられた。第五に、次いで液体は、第二マイクロチャネル32を通過し、反応チャンバ70を通って毛細管ポンプ84に到達した。反応チャンバ70において、PCR生成物にアニールされたビオチン化プローブは、反応チャンバの内腔に面したPDMS面上にパターン形成されたアビジン受容体に捕捉された。捕捉されたPCR生成物の検体は、蛍光顕微鏡を用い、表面蛍光によって定量化した。
【0057】
しかしながら、用途は生物学的アッセイに限定されない。試薬の種類、液体の組成、温度、およびインキュベーション時間は変えることが可能である。検出対象検体を含む多くの種類のサンプルを投入パッドに加えることができ、多くの異なる種類の試薬(化学物質、染料、酵素、オリゴヌクレオチド、抗体など)を試薬ゾーン中に加えることができる。本チップ中の微細構造体の容積、タイプ、チップのサイズ、チップおよびカバーに使われる材料は変えることが可能である。カバーの種々の機械的特性に合わせてバルブの幾何学的形状を変えることも可能である。バルブおよびマイクロ流体チップは、周囲条件下での使用のほか、加圧チャンバ内の使用が可能である。
【0058】
いくつかの実施形態を参照しながら本発明を説明してきたが、当業者は、本発明の範囲を逸脱することなく、さまざまな変更を加えることができ、均等物で代替が可能なことを理解していよう。さらに、本発明の範囲から逸脱することなく、特定の状況または材料を本発明の教示に適応させるため、多くの変更を加えることが可能である。従って、本発明は開示された特定の実施形態に限定されるものでなく、本発明は、添付の請求項の範囲に包含される全ての実施形態を含むものとする。例えば、本デバイスは、
図3A〜3Bの重ね合わされた層10、20の各々を通って反対または同じ方向に挿入される複数の導管、可能であればマイクロチャネルを介して連結された導管を用いて具現化することも可能である。マイクロチャネルのいくつかの設計を考えることができよう。2枚以上の層を通って挿入された複数の導管およびいくつかの境界部にはめ込まれたマイクロチャネルを備え、例えば3枚以上の層の間を液体連通が可能なようにされた、層10、20に類似したいくつかの重ね合わせ層を作製することができる。層10、20のペアなどの間にインターフェース層をさらに設けることも可能であろう。