(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6083772
(24)【登録日】2017年2月3日
(45)【発行日】2017年2月22日
(54)【発明の名称】マスク検査装置及びマスク検査方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/956 20060101AFI20170213BHJP
G03F 1/84 20120101ALI20170213BHJP
G03F 1/24 20120101ALI20170213BHJP
【FI】
G01N21/956 A
G03F1/84
G03F1/24
【請求項の数】4
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-24905(P2016-24905)
(22)【出願日】2016年2月12日
【審査請求日】2016年4月22日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成23年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「次世代半導体微細加工・評価基盤技術の開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000115902
【氏名又は名称】レーザーテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(74)【代理人】
【識別番号】100129953
【弁理士】
【氏名又は名称】岩瀬 康弘
(74)【代理人】
【識別番号】100166501
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 潔
(72)【発明者】
【氏名】武久 究
(72)【発明者】
【氏名】宮井 博基
【審査官】
蔵田 真彦
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−080810(JP,A)
【文献】
特表2005−536899(JP,A)
【文献】
特開2010−186995(JP,A)
【文献】
特開2005−244015(JP,A)
【文献】
特開2012−235043(JP,A)
【文献】
特開2012−134372(JP,A)
【文献】
特開2009−295800(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/84−21/958
G03F 1/00−1/92
G01B 11/00−11/30
H01L 21/027、21/30、21/46、
21/64−21/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多層膜が設けられた反射面を有する落とし込み鏡を備え、
前記落とし込み鏡は、前記反射面に入射した照明光を反射してマスクを照明し、
前記反射面の面積は、前記反射面における前記照明光が入射する部分の照明スポットの面積よりも大きく、
前記落とし込み鏡は、可動であり、
真空ポンプで排気された装置内に配置される前記落とし込み鏡の移動により、前記反射面における前記照明スポットの位置が移動し、
前記反射面における前記照明スポットであった部分であって、前記落とし込み鏡の移動により、前記照明スポットの外部に移動した部分に対して、前記照明光とは異なる波長の光を含むクリーニング光が照射され、前記装置内に酸素、オゾンまたは水素等のガスを注入しないで前記落とし込み鏡をクリーニングするマスク検査装置。
【請求項2】
EUV光及びDUV光を含む光を生成する光源と、
前記光を、前記EUV光を含む前記照明光及び前記DUV光を含む前記クリーニング光に分光する回折格子と、
をさらに備えた請求項1に記載のマスク検査装置。
【請求項3】
前記クリーニング光を前記部分に集光する集光レンズをさらに備えた請求項1または2に記載のマスク検査装置。
【請求項4】
多層膜が設けられた反射面を有する落とし込み鏡を用いて、
前記反射面に入射した照明光を反射してマスクを照明し、
前記反射面の面積を、前記反射面における前記照明光が入射する部分の照明スポットの面積よりも大きくし、
前記落とし込み鏡を、可動にし、
真空ポンプで排気された装置内に配置される前記落とし込み鏡を移動させることにより、前記反射面における前記照明スポットの位置を移動させるとともに、
前記反射面における前記照明スポットであった部分であって、前記落とし込み鏡の移動により、前記照明スポットの外部に移動した部分に対して、前記照明光とは異なる波長の光を含むクリーニング光を照射し、前記装置内に酸素、オゾンまたは水素等のガスを注入しないで前記落とし込み鏡をクリーニングするマスク検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、EUVL(Extremely Ultraviolet Lithography)用のマスク検査装置及びマスク検査方法に関し、特に、露光波長と同じ波長13.5nmのEUV光を照明光に用いたアクティニック(Actinic)検査と呼ばれるマスク検査装置及びマスク検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体の微細化を担うリソグラフィ技術に関しては、現在、露光波長193nmのArFエキシマレーザを露光光源としたArFリソグラフィが量産適用されている。また、露光装置の対物レンズとウエハとの間を水で満たして、解像度を高める液浸技術(以下、ArF液浸リソグラフィと呼ぶ。)も量産に利用され始めている。さらに一層の微細化を実現するために、露光波長13.5nmのEUVLの実用化に向けた技術開発が広く行われている。
【0003】
EUVLで用いられるマスク(以下、EUVマスクと呼ぶ。)は、低熱膨張性ガラスから成る基板の上に、極端紫外線(以下、EUVLで用いられる極端紫外線をEUV光と呼ぶ。)を反射させるための多層膜が形成された層状構造となっている。多層膜は、通常、モリブデン(Mo)とシリコン(Si)を交互に数十層積み重ねた構造になっており(Mo/Si多層膜と表記されることが多い。)、これによって波長13.5nmのEUV光を垂直で約65%反射させることができる。
【0004】
この多層膜の上にEUV光を吸収する吸収体(例えば、タンタル・ボロン・ナイトライド(TaBN))がデポされてブランク(パターン無しマスク)が形成される。ただし、吸収体と多層膜の間には保護膜が形成されている。ブランク形成後、レジストプロセスを用いて、吸収体をパターン状に成形する。これにより、パターン付きEUVマスクが完成する。
【0005】
EUV光源を用いてブランクの欠陥を検査するブランクス検査装置は、ABI(Actinic M blank inspection )装置と呼ばれている。従来のABI装置900の光学系の基本的な構成を
図6に示す。
【0006】
図6に示すように、検査対象であるマスクM901に対して、EUV光源901から放射された波長13.5nmのEUV光を含む照明光EUV901は、大型の楕円面鏡902a及び902bで反射すると、照明光EUV902のように絞られながら進む。このため、落とし込み鏡903aでマスクM901側に反射させることで、照明光EUV903はマスクM901のマスクブランクの表面上の微小領域に、ほぼ垂直入射する。マスクM901から反射する正反射光は、照明光EUV903とは逆方向に進むが、この微小領域内に欠陥が存在する場合は、散乱光S901が発生する。
【0007】
散乱光S901は、正反射光より大きな角度で広がるように進む。このため、散乱光S901は、落とし込み鏡903aの周囲を素通りするように上方に進み、シュバルツシルト光学系904を構成する凹面鏡905に入射して反射する。凹面鏡905で反射した散乱光S901は、凸面鏡906に入射して反射する。凸面鏡906で反射した散乱光S902は、上方に進んでCCD検出器907に入射する。
【0008】
シュバルツシルト光学系904は、マスクM901のマスクブランクにおける照明光EUV903が照明する微小領域を約26倍に拡大して、CCD検出器907に投影するように設計されている。これによって、マスクM901のマスクブランクの表面に存在する欠陥を観察することができる。ABI装置900に関しては、例えば、下記非特許文献1等に説明されている。
【0009】
以上のように、ABI装置900では、欠陥が存在する場合だけ、CCD検出器907にマスクM901の表面から発生する光が到達することになる。このため、欠陥が存在しない場合は、CCD検出器907から信号が出ない。よって、欠陥が存在しない場合は暗い像になる。したがって、
図6に示すような検査を暗視野検査という。
【0010】
一方、
図7に示すように、マスクM901に欠陥が検出された場合、その欠陥の形状や大きさを調べるために、欠陥を含む微小領域を照明した照明光EUV903の正反射光910bがCCD検出器907に入射するようにして検査を行う。これを明視野検査という。つまり、照明光EUV903がマスクM901の表面に入射する際に、明視野照明用の落とし込み鏡903bを調整することにより、約6°の斜入射角で照明するようしている。その結果、正反射光910bが発生する。
【0011】
正反射光910bは、シュバルツシルト光学系904内に入射することで、最終的にはCCD検出器907に到達することになり、欠陥の形状を観察することができる。ただし、欠陥は小さいため、シュバルツシルト光学系904の26倍程度の拡大では、形状が正確には判らない。そこで、平面鏡908及び凹面鏡909によって、さらに数十倍に拡大し、総合的に数百倍から1200倍程度の高い倍率に拡大する。これにより、欠陥の形状を正確に把握することができるようになる。なお、ABI装置900において、このような高倍率のEUV用拡大光学系に切り替えられる機能に関しては、例えば、下記特許文献1に示されている。
【0012】
ところで、一般的に、EUV光は、大気中では吸収されて強度が小さくなる。よって、EUV光を用いた露光及び検査は真空中で行われる。この場合に、EUV光のパワーが大きいと、EUV光を反射するミラーの反射面に炭素化合物(カーボンコンタミ)等の汚れが付着し、反射率が低下するということが問題になっていた。ミラーに付着したカーボンコンタミ等の汚れを除去するクリーニング方法として、例えば、以下のようなものが提案されている。
【0013】
酸素やオゾン雰囲気中でVUV(Vacuum UV)ランプからのVUV光を照射する方法は、まず、酸素やオゾンをVUV光で励起させて原子状の酸素(酸素ラジカル)を生成する。生成された酸素ラジカルにより、カーボンコンタミ等の汚れを分解するというものである。なお、カーボンコンタミのクリーニング手法に関しては、例えば、下記非特許文献2、3等に記載されている。
【0014】
あるいは別の方法は、装置内に水素ガスを流入させ、露光光または検査光のEUV光によって水素ラジカルを生成させる。生成させた水素ラジカルによって、カーボンコンタミ等の汚れを分解するというものである。水素によるEUV光の吸収は、酸素等他の気体に比べて小さい。よって、露光を行いながらクリーニングを行うことができるという点が、水素ラジカルを用いる方法の利点となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特許第5008012号公報
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】Takashi Yamane, et al, “Actinic EUVL M blank inspection and phase defect characterization,” Proceedings of SPIE, Vol. 7379, 73790H (2009).
【非特許文献2】Toshihisa Anzawa, et al, “Novel Ozone-based Cleaning Technique for EUV Ms and Optics Carbon Contamination,” International Symposium on Extreme Ultraviolet Lithography (2009).
【非特許文献3】Ryo Shibata, et al, “Development of low-pressure UV cleaning technique for carbon contaminated EUV optics,” International Symposium on Extreme Ultraviolet Lithography (2010).
【非特許文献4】Michael Kriese, et al, “Development of EUVL Collector Technologies for Infrared Radiation Suppression,” International Symposium on Extreme Ultraviolet Lithography (2013).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
従来のABI装置900における問題点の1つは、
図6及び
図7に示したABI装置900に基づいて説明すると、落とし込み鏡903a及び903bの反射面に汚れが堆積しやすいということである。汚れは、例えば、炭素化合物を含んでいる。炭素化合物を含んだ汚れを、カーボンコンタミという。汚れは、EUV光の反射率を低下させ、反射光のパワーの低下を引き起こす。この原因の一つとしては、真空のABI装置900内に微量に存在する炭素化合物がEUV光の照射で分解して反射面に付着するためと考えられている。特に反射面に入射するEUV光の強度が高いほど、カーボンコンタミ等の汚れの生成速度が大きくなる。
【0018】
例えば、
図6のABI装置900では、落とし込み鏡903aに入射する照明光EUV902のスポット(照明スポット)のサイズは、楕円面鏡902a及び902bに比べると、面積比で2桁程度も小さい。よって、照明スポットの照明光の強度は非常に高くなる。これにより、カーボンコンタミ等の汚れの生成速度が大きくなっている。このように、マスク検査装置において、落とし込み鏡903aに短時間でカーボンコンタミ等の汚れが生じることが問題となっていた。
【0019】
また、
図7に示すように、微小な欠陥を観察するために実施される明視野検査では、高倍率の拡大光学系が適用される。ところが、倍率の二乗に反比例して、CCD検出器907に届く光の強度が低下してしまうことから、CCD検出器907において十分な強度の光が入射するように、照明光の強度を桁違いに高める必要がある。
【0020】
当然のことながら、照明光の強度が低いままでも高倍率の観察は可能ではあるが、CCD検出器907における露光時間を非常に長くする必要が生じる。このため、その間に振動等の環境の影響を受けやすくなる。したがって、短時間に欠陥を観察するためには、照明光のパワーを大きくする必要がある。しかしながら、照明光のパワーを大きくした結果、カーボンコンタミ等の汚れがさらに短い時間で生じることとなり、頻繁に反射面をクリーニングしなければならないことが問題となっていた。
【0021】
また、従来から用いられているEUV露光装置のミラークリーニング方法として、水素ラジカルを利用する方法では、露光を行いながらクリーニングを行うことができるという特徴がある。ところが、この方法では、水素ラジカルを生成するために、極めて高いパワーのEUV光が必要になり、EUV光のパワーが桁違いに低いマスクの検査装置に適用することは困難であった。
【0022】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、EUV光源を用いたアクティニック検査装置において、落とし込み鏡のクリーニングによる検査の中断を抑制することができる検査装置及び検査方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明に係る検査装置は、多層膜が設けられた反射面を有する落とし込み鏡を備え、前記落とし込み鏡は、前記反射面に入射した照明光を反射してマスクを照明し、前記反射面の面積は、前記反射面における前記照明光が入射する部分の照明スポットの面積よりも大きく、前記落とし込み鏡は、可動であり、前記落とし込み鏡の移動により、前記反射面における前記照明スポットの位置が移動し、前記反射面における前記照明スポットであった部分であって、前記落とし込み鏡の移動により、前記照明スポットの外部に移動した部分に対して、前記照明光とは異なる波長の光を含むクリーニング光が照射される。このような構成とすることにより、落とし込み鏡のクリーニングによる検査の中断を抑制することができる。
【0024】
また、EUV光及びDUV光を含む光を生成する光源と、前記光を、前記EUV光を含む前記照明光及び前記DUV光を含む前記クリーニング光に分光する回折格子と、をさらに備える。このような構成により、落とし込み鏡のカーボンコンタミによる反射率の低下を抑制することができる。
【0025】
さらに、前記落とし込み鏡は、真空ポンプで排気された装置内に配置される。このような構成とすることにより、反射光の光量を大きくし、明視野観察における画像のコントラストを向上させ、画質を向上させることができる。
【0026】
また、前記クリーニング光を前記部分に集光する集光レンズをさらに備える。このような構成により、落とし込み鏡におけるカーボンコンタミをムラなく分解除去することができる。
【0027】
本発明に係る検査方法は、多層膜が設けられた反射面を有する落とし込み鏡を用いて、前記反射面に入射した照明光を反射してマスクを照明し、前記反射面の面積を、前記反射面における前記照明光が入射する部分の照明スポットの面積よりも大きくし、前記落とし込み鏡を、可動にし、前記落とし込み鏡を移動させることにより、前記反射面における前記照明スポットの位置を移動させるとともに、前記反射面における前記照明スポットであった部分であって、前記落とし込み鏡の移動により、前記照明スポットの外部に移動した部分に対して、前記照明光とは異なる波長の光を含むクリーニング光を照射する。このような構成とすることにより、マスクの端部に付着している異物が検査用の照明光を吸収して周囲に飛散することを抑制することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、落とし込み鏡のクリーニングによる検査の中断を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】実施形態1に係るマスク検査装置を例示した図であり、(a)は、断面図を示し、(b)は、(a)における方向Aから見た図である。
【
図2】実施形態1に係るマスク検査装置のクリーニング機構を例示した図であり、(a)は、断面図を示し、(b)は、(a)における方向Bから見た図を示す。
【
図3】実施形態1の変形例に係るマスク検査装置を例示した図であり、(a)は、断面図を示し、(b)は、(a)における方向Cから見た図である。
【
図4】実施形態1の変形例に係るマスク検査装置のクリーニング機構を例示した図であり、(a)は、断面図を示し、(b)は、(a)における方向Dから見た図を示す。
【
図5】実施形態2に係るマスク検査装置の光学系の一部を例示した図であり、(a)は、側面図を示し、(b)は、(a)における方向Eから見た図である。
【
図6】従来の暗視野検査によるABI装置の光学系の基本的な構成を例示した図である。
【
図7】従来の明視野検査によるABI装置の光学系の基本的な構成を例示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本実施形態の具体的構成について図面を参照して説明する。以下の説明は、本発明の好適な実施の形態を示すものであって、本発明の範囲が以下の実施の形態に限定されるものではない。以下の説明において、同一の符号が付されたものは実質的に同様の内容を示している。
【0031】
実施形態1.
本実施形態は、マスクの検査装置についての実施形態である。まず、本実施形態にかかるマスク検査装置の構成について説明する。
図1は、実施形態1にかかるマスク検査装置を例示した図であり、(a)は、断面図を示し、(b)は、(a)における方向Aから見た図である。
【0032】
図1(a)及び(b)に示すように、マスク検査装置100は、落とし込み鏡103、凹面鏡105、凸面鏡106を備えている。マスク検査装置100は、さらに、図示しないEUV光源、CCD(Charge Coupled Device)検出器、その他の光学素子を備えている。
図1に示した光学素子以外の構成は、EUV光源も含めて、例えば、
図6及び
図7に示すようなABI装置900の構成と同様であるので、
図1では省略している。落とし込み鏡103を含めて、光学素子は、真空ポンプで排気された装置内に配置されることが好ましい。
【0033】
マスクM101は、例えば、EUVマスクである。マスクM101は、基板上に多層膜を介して吸収体が形成されたものである。吸収体は、例えば、タンタル・ボロン・ナイトライド(TaBN)のデポにより形成される。吸収体は、EUVLを用いたレジストプロセスにより、パターン状に成形される。よって、マスクM101は、EUVLによるパターンが形成された吸収体を有している。マスクM101は、マスク検査装置100のステージ(図示しない)上に載置される。
【0034】
落とし込み鏡103は、マスクM101の上方に配置されている。落とし込み鏡103は、例えば、一方向に延びた板状の部材である。落とし込み鏡103は、基板及び多層膜を含んでいる。基板は、例えば、低膨張性ガラスである。多層膜は、基板上に形成されている。多層膜は、例えば、Mo/Si多層膜である。多層膜は、EUV光を反射する。落とし込み鏡103における多層膜が形成された面は、照明光の反射面103aとなっている。したがって、落とし込み鏡103は、多層膜が設けられた反射面を有している。落とし込み鏡103は、反射面103aをマスクM101側、例えば、下方に向けて配置されている。落とし込み鏡103は、反射面103aに入射した照明光を反射してマスクM101を照明するように、マスクM101のマスク面に対して傾いている。
【0035】
落とし込み鏡103は、反射面103aに入射する照明光EUV102の光軸及び反射面103aから反射する照明光EUV103の光軸を含む面に垂直な方向に延びている。図示しないモータ等により、落とし込み鏡103を、落とし込み鏡103が延びた方向Move1にスライド移動させることができる。これにより、反射面103aに対する照明光EUV102の光軸の中心入射角及び中心反射角を維持したまま、落とし込み鏡103を移動させることができる。
【0036】
図1(a)及び(b)に示すように、凹面鏡105は、マスクM101のマスク面側に、マスク面から離れて配置されている。凹面鏡105の反射面は、マスクM101側に向いている。凸面鏡106は、凹面鏡105とマスクM101との間に配置されている。凸面鏡106の反射面は凹面鏡105側を向いている。凸面鏡106とマスクM101との間に、落とし込み鏡103の反射面103aの一部が配置されている。
【0037】
次に、本実施形態のEUVマスク検査装置100の動作を説明する。
図1(a)及び(b)に示すように、図示しないEUV光源から照明光EUV102が取り出される。照明光EUV102は、例えば、EUV光を含んでいる。取り出された照明光EUV102は、落とし込み鏡103の反射面103a、例えば、反射面103aにおけるマスクM101側の周縁近傍に入射する。落とし込み鏡103は、反射面103aにより、入射した照明光EUV102を反射してマスクM101を照明する。すなわち、反射面103aで反射した照明光EUV103は、マスクM101側に進む。
【0038】
照明光EUV103のマスクM101に対する中心入射角は、例えば、6°である。マスクM101における照明光EUV103が照明した部分からの正反射光S101は、シュバルツシルト光学系を構成する凹面鏡105及び凸面鏡106に反射されて、図示しないCCD検出器に入射する。
【0039】
落とし込み鏡103の反射面103aにおける照明光EUV102が入射する部分を照明スポットSpot101という。反射面103aの面積は、照明スポットSpot101の面積よりも大きい。照明スポットSpot101の面積は、約1cm
2と小さい。このため、照明スポットSpot101における光の強度は高く、カーボンコンタミ等の汚れの生成速度は速い。したがって、検査の実施中において、照明スポットSpot101には、炭素化合物を含む汚れ(カーボンコンタミ)等を含む汚れが形成される。これにより、落とし込み鏡103の反射面103aの反射率が低下する。具体的には、1時間のEUV照射によって、約0.5%の反射率の低下を引き起こすことがある。したがって、例えば、一日24時間検査を行うと、約10%もの反射率低下を引き起こす。
【0040】
そこで、本実施形態では、落とし込み鏡103を、例えば、1日に1回、所定の距離だけスライド移動させている。具体的には、照明スポットSpot101の位置が約1cmシフトするように移動させる。これにより、1回の移動で、反射面103aにおける照明スポットSpot101の部分が完全に移動する。
【0041】
このように、本実施形態では、落とし込み鏡103は可動であり、落とし込み鏡103の移動により、反射面103aにおける照明スポットSpot101の位置が移動する。また、反射面103aに対する照明光EUV102の光軸の中心入射角及び中心反射角を維持したまま、落とし込み鏡103を移動させることができる。
【0042】
本実施形態のマスク検査装置100によれば、落とし込み鏡103が移動可能に取り付けられている。これにより、落とし込み鏡103の反射面103aにおける照明スポットSpot101に、カーボンコンタミ等の汚れが生じたとしても、反射率の低下が検査に影響を及ぼす前に、落とし込み鏡103を移動させる。よって、反射率が低下した照明スポットSpot101の位置を移動させることができる。
【0043】
また、反射面103aに対する照明光の光軸の中心入射角及び中心反射角を維持したまま、落とし込み鏡103を移動させることができる。したがって、検査を継続しながら、落とし込み鏡103を移動させることができる。また、落とし込み鏡103を長期間交換せずに、マスク検査装置100を連続稼動させることができる。
【0044】
図2は、実施形態1に係るマスク検査装置のクリーニング機構を例示した図であり、(a)は、断面図を示し、(b)は、(a)における方向Bから見た図を示す。
【0045】
図2(a)及び(c)に示すように、マスク検査装置100は、さらに、カーボンコンタミ等の汚れを除去するためのクリーニング機構を備えている。すなわち、マスク検査装置100は、シリンドリカルレンズ112、ミラー113の他、図示しないクリーニング用光源を備えている。
【0046】
クリーニング用光源は、DUV光(Deep UV光)、好ましくは、波長157nmのVUV光(Vacuum UV光)を含むレーザ光を生成する。クリーニング用光源は、例えば、F
2レーザ(フッ素分子レーザ)またはArFエキシマレーザである。ミラー113は、落とし込み鏡103とマスクM101との間に配置されている。ミラー113の反射面は、反射面103a側を向いている。ミラー113とクリーニング用光源の間に、集光レンズ、例えば、シリンドリカルレンズ112が配置されている。
【0047】
マスク検査装置100では、落とし込み鏡103に入射するEUV光EUV102によって、反射面103aにおける照明スポットSpot101にカーボンコンタミC101等の汚れが次第に堆積していく。落とし込み鏡103はスライド移動可能に取り付けられている。そのため、方向Move1が示す方向にスライド移動させることで、カーボンコンタミC101が付着した部分が照明スポットSpot101の外部に移動する。
【0048】
一方、クリーニング用レーザから取り出された波長157nmのVUV光を含むクリーニング光114は、シリンドリカルレンズ112を通過して、一方向に絞られながら進む。そして、ミラー113で反射して、落とし込み鏡103における照明スポットSpot102のように細長い領域に集光する。これによって、カーボンコンタミC101等の汚れは分解・除去される。
【0049】
なお、カーボンコンタミC101等の汚れに対して照射され、汚れを分解・除去する光をクリーニング光と呼ぶ。また、DUV光は波長300nm以下の光をいい、VUV光は波長200nm以下の光をいう。
【0050】
本実施形態によれば、落とし込み鏡103の反射面103aにおける照明スポットであった部分であって、落とし込み鏡103の移動により、照明スポットの外部に移動した部分に対して、照明光とは異なる波長の光を含むクリーニング光が照射される。これにより、反斜面103aに形成されたカーボンコンタミC101等の汚れを分解・除去することができ、カーボンコンタミC101等の汚れによる落とし込み鏡の反射率の低下を抑制することができる。
【0051】
また、従来の露光装置等のように、装置内に酸素、オゾンまたは水素等のガスを注入しなくてもカーボンコンタミ等の汚れをクリーニングすることができる。したがって、酸素等のガスによる照明光の吸収を抑制することができる。よって、照明光のパワーの低下を抑制することができる。また、検査とクリーニングを同時に行うことができ、極めて長期間の連続稼動を実現することができる。
【0052】
ArFエキシマレーザまたはF
2レーザにより生成されたVUVレーザ光の光子エネルギーは、それぞれ618.6kJ/mol及び759kJ/molと高い。このため、多くの有機化合物におけるC-H間、C-C間の結合乖離エネルギーよりも高い。従って、ArFエキシマレーザまたはF
2レーザ等からのVUVレーザ光により、カーボンコンタミC101等の汚れを分解・除去することができる。
【0053】
特に、これらのVUVレーザ光は高いピークパワーのパルスレーザであるため、反射面103aに集光させることにより、光子密度を非常に高くすることができる。よって、有機化合物のC-H結合やC-C結合を乖離させることができる。これに対して、例えば、VUVランプを用いた従来のクリーニング手法では、酸素やオゾンを導入する必要があるとともに、酸素やオゾンはEUV光を吸収する。このため、照明光のパワーが激しく減衰する。したがって、検査とクリーニングを同時に行うことは困難である。
【0054】
また、酸素やオゾン等のガスを利用せずに波長126nmのAr
2ランプや波長172nmのXe
2ランプのみにより、クリーニングするとしても、ランプを用いる手法では、クリーニングする多層膜鏡のごく近傍までランプを近付ける必要がある。そのため、検査とクリーニングを同時に行うことは困難である。
【0055】
これに対して、本発明では、クリーニングにレーザ光を利用するため、使用中の多層膜鏡におけるカーボンコンタミ等の汚れの部分のみに選択的に照射させることができる。よって、検査用の照明光を遮らないように、クリーニング用レーザ光を多層膜鏡に照射させることができる。また、細い線状のスポットに集光することもできるので、カーボンコンタミ等の汚れをムラなく分解除去することができる。
【0056】
本実施形態によれば、酸素、オゾン、または水素等のガスを注入しなくてもカーボンコンタミ等の汚れをクリーニングすることができる。したがって、検査用の照明光のパワーの低下を抑制することができる。また、検査とクリーニングを同時に行うことができ、極めて長期間の連続稼動を実現することができる。よって、落とし込み鏡103のクリーニングによる検査の中断を抑制することができる。
【0057】
変形例1.
次に、実施形態1の変形例を説明する。
図3は、実施形態1の変形例に係るマスク検査装置を例示した図であり、(a)は、断面図を示し、(b)は、(a)における方向Cから見た図である。
【0058】
図3に示すように、マスク検査装置100aにおける落とし込み鏡1103は、例えば、直径200mm、厚さ約0.75mmの円板状の部材である。落とし込み鏡1103は、基板及び多層膜を含んでいる。基板は、例えば、シリコンウエハである。そして、落とし込み鏡1103には、中央部に回転軸111を通すための穴が設けられている。また、落とし込み鏡1103の反射面1103a側には、穴を囲むように円筒状のギア108aが固定されている。落とし込み鏡1103の穴と、ギア108aの円筒の内部とは連通している。保持板107は落とし込み鏡1103の反射面1103a側に配置されている。保持板107の落とし込み鏡1103側には回転軸111が固定されている。そして、保持板107に固定された回転軸111に、円筒状のギア108aと共に落とし込み鏡1103の穴が勘合されている。したがって、図示しないモータに接続されたギアを、ギア108aに噛み合わせることにより、落とし込み鏡1103を回転させることができる。このように、落とし込み鏡1103及びギア108aは、回転軸111を有し、回転軸111を中心軸として回転移動する。
【0059】
次に、マスク検査装置100aのクリーニング機構を説明する。
図4は、実施形態1の変形例に係るマスク検査装置のクリーニング機構を例示した図であり、(a)は、断面図を示し、(b)は、(a)における方向Dから見た図である。
【0060】
図4(a)及び(b)に示すように、マスク検査装置100aは、さらに、カーボンコンタミ等の汚れを除去するためのクリーニング機構を備えている。すなわち、マスク検査装置100aは、シリンドリカルレンズ112、ミラー113の他、図示しないクリーニング用光源を備えている。クリーニング用光源は、例えば、F
2レーザまたはArFエキシマレーザである。ミラー113は、落とし込み鏡1103とマスクM101との間に配置されている。ミラー113の反射面は、反射面1103a側を向いている。ミラー113とクリーニング用光源の間に、集光レンズ、例えば、シリンドリカルレンズ112が配置されている。
【0061】
マスク検査装置100aにおいても、落とし込み鏡1103に入射するEUV光EUV102によって、反射面1103aにおける照明スポットSpot101にカーボンコンタミC101等の汚れが次第に堆積していく。そこで、本変形例においても、実施形態1と同様に、クリーニング光によりカーボンコンタミC101等の汚れを分解除去する。変形例では、落とし込み鏡1103は、回転移動可能に取り付けられている。そのため、方向Move2が示す方向に回転させることで、カーボンコンタミC101が付着した部分が照明スポットSpot101の外部に移動する。
【0062】
そして、クリーニング用レーザから取り出された波長157nmのVUV光を含むクリーニング光114を、シリンドリカルレンズ112を通過させることにより、一方向に絞る。さらに、クリーニング光114をミラー113で反射して、落とし込み鏡1103におけるスポットSpot102のように細長い領域に集光する。これにより、カーボンコンタミC101は分解・除去される。
【0063】
本変形例では、落とし込み鏡1103を、例えば、1日に1回、所定の角度だけ回転させている。具体的には、照明スポットSpot101の位置が約1cmシフトするように回転させる。これにより、1回の回転で、照明スポットSpot101が完全に移動する。
【0064】
さらに、落とし込み鏡1103を回転させることにより、反射面1103aにおける照明スポットであった部分であって、照明スポットの外部に移動した部分に対して、クリーニング光が照射される。これにより、落とし込み鏡1103のカーボンコンタミC101等の汚れによる反射率の低下を抑制することができる。その他の構成、動作及び効果は実施形態1と同様である。
【0065】
実施形態2.
次に、実施形態2に係る検査装置を説明する。
図5は、実施形態2に係るマスク検査装置の光学系の一部を例示した図であり、(a)は、側面図を示し、(b)は、(a)における方向Eから見た図である。
図5(a)及び(b)に示すように、マスク検査装置300は、楕円面鏡302、落とし込み鏡303及びシリンドリカルレンズ304を備えている。また、検査装置300は、図示しないEUV光源、楕円面鏡及びCCD検出器を備えている。
【0066】
EUV光源は、EUV光及びDUV光を含む光を生成する。EUV光源から取り出された光は、楕円面鏡によって反射され、楕円面鏡302に入射する。楕円面鏡302に入射した光には、EUV光及びDUV光が含まれている。
【0067】
楕円面鏡302は、回折格子型のミラーになっている。楕円面鏡302は、光に含まれるEUV光及びDUV光を、EUV光を含む光及びDUV光を含む光に分光する。楕円面鏡302は、分光された光のうち、DUV光DUV302を、EUV光EUV302とは異なる方向に回折するように設計されている。このため、
図5(b)に示すように、楕円面鏡302から進むDUV光DUV302は、EUV光EUV302とは異なる方向に偏向して進む。その結果、DUV光DUV302は、クリーニング光として、反射面303aにおける照明スポットSpot301であった部分であって、落とし込み鏡303の移動により、照明スポットSpot301の外部に移動した部分の照明スポットSpot302に対して照射される。
【0068】
従って、落とし込み鏡303においてカーボンコンタミC301等の汚れが堆積しても、落とし込み鏡303を方向Move3が示す方向にシフトさせることにより、カーボンコンタミC301等の汚れが照明スポットSpot302の位置に進む。よって、照明スポットSpot302に対して、DUV光を含むクリーニング光が照射されることにより、カーボンコンタミ等の汚れは分解・除去される。
【0069】
このようなEUV用の多層膜鏡を回折格子型で構成し、EUV光と波長の異なる長波長側の近赤外光に偏向させる多層膜鏡に関しては、例えば、非特許文献4に示されている。
【0070】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明はその目的と利点を損なうことのない適宜の変形を含み、更に、上記の実施形態よる限定は受けない。
【0071】
例えば、落とし込み鏡として、板状の部材及び円板状の部材以外の部材を用いた場合においても、クリーニング光によりカーボンコンタミ等の汚れを分解・除去してもよい。
【符号の説明】
【0072】
100、100a、300 マスク検査装置
103、303、1103 落とし込み鏡
103a、303a、1103a 反射面
105 凹面鏡
106 凸面鏡
107 保持板
108a ギア
111 回転軸
112 シリンドリカルレンズ
113 ミラー
114 クリーニング光
302 楕円面鏡
304 シリンドリカルレンズ
305 ミラー
900 ABI装置
901 EUV光源
902a、902b 楕円面鏡
903a、903b 落とし込み鏡
904 シュバルツシルト光学系
905、909 凹面鏡
906 凸面鏡
907 CCD検出器
908 平面鏡
910b 正反射光
EUV102、EUV103、EUV301、EUV302 照明光
EUV901、EUV902、EUV903 照明光
M101、M301、M901 マスク
S101 正反射光
S901、S902 散乱光
VUV301 レーザ光
【要約】
【課題】落とし込み鏡のクリーニングによる検査の中断を抑制することができる検査装置及び検査方法を提供する。
【解決手段】本発明に係るマスク検査装置100は、多層膜が設けられた反射面103aを有する落とし込み鏡103を備え、落とし込み鏡103は、反射面103aに入射した照明光を反射してマスクM101を照明し、反射面103aの面積は、反射面103aにおける照明光が入射する部分の照明スポットの面積よりも大きく、落とし込み鏡103は、可動であり、落とし込み鏡103の移動により、反射面103aにおける照明スポットの位置が移動し、反射面103aにおける照明スポットであった部分であって、落とし込み鏡103の移動により、照明スポットの外部に移動した部分に対して、照明光とは異なる波長の光を含むクリーニング光が照射される。
【選択図】
図1