(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6083797
(24)【登録日】2017年2月3日
(45)【発行日】2017年2月22日
(54)【発明の名称】鉛含有石膏中の鉛除去方法
(51)【国際特許分類】
C02F 11/00 20060101AFI20170213BHJP
C04B 7/60 20060101ALI20170213BHJP
【FI】
C02F11/00 JZAB
C04B7/60
【請求項の数】7
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-36598(P2013-36598)
(22)【出願日】2013年2月27日
(65)【公開番号】特開2014-161820(P2014-161820A)
(43)【公開日】2014年9月8日
【審査請求日】2015年10月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106563
【弁理士】
【氏名又は名称】中井 潤
(72)【発明者】
【氏名】千葉 裕己
【審査官】
岡田 三恵
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−148681(JP,A)
【文献】
特開2000−119761(JP,A)
【文献】
特開2009−233611(JP,A)
【文献】
特開2011−051840(JP,A)
【文献】
国際公開第2009/110357(WO,A1)
【文献】
国際公開第2006/035631(WO,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2008/0092739(US,A1)
【文献】
特開2008−093567(JP,A)
【文献】
特開2011−147882(JP,A)
【文献】
特開2002−001429(JP,A)
【文献】
特開2007−301491(JP,A)
【文献】
特開2006−299394(JP,A)
【文献】
特表2013−500566(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 11/00
C04B 7/60
B09B 3/00
B01D 53/14
B01D 53/50
C22B 7/00
C22B 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛含有石膏、カルボン酸塩及び水を混合することで、該鉛含有石膏に含まれる鉛成分を前記カルボン酸塩と反応させてキレート錯体を形成すると共に該キレート錯体を前記水に溶解させ、
得られたスラリーを固液分離することで、前記鉛含有石膏から前記鉛成分を除去することを特徴とする鉛含有石膏中の鉛除去方法。
【請求項2】
鉛含有石膏にカルボン酸塩水溶液を添加するか、鉛含有石膏を含むスラリーにカルボン酸塩を添加するか、鉛含有石膏にカルボン酸塩を添加した後スラリー化することを特徴とする請求項1に記載の鉛含有石膏中の鉛除去方法。
【請求項3】
前記鉛含有石膏は、脱硫塔で生成したものであって、該脱硫塔で前記カルボン酸塩水溶液を添加することを特徴とする請求項2に記載の鉛含有石膏中の鉛除去方法。
【請求項4】
前記鉛含有石膏は、脱硫塔で生成したものであって、該脱硫塔の下流側に設置された該鉛含有石膏を溶解させる溶解槽で前記カルボン酸塩を添加することを特徴とする請求項2に記載の鉛含有石膏中の鉛除去方法。
【請求項5】
前記鉛含有石膏の重量に対して5倍以上20倍以下の重量のカルボン酸塩水溶液を添加することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の鉛含有石膏中の鉛除去方法。
【請求項6】
前記カルボン酸塩水溶液の濃度を10質量%以上30質量%以下とすることを特徴とする請求項2乃至5のいずれかに記載の鉛含有石膏中の鉛除去方法。
【請求項7】
前記鉛含有石膏は、セメント製造設備の塩素バイパスシステムにおいて生成されたことを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の鉛含有石膏中の鉛除去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛含有石膏中の鉛除去方法に関し、特に、セメント製造設備の塩素バイパスシステム等で生成した鉛含有石膏から鉛を除去する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、セメント製造におけるリサイクル資源の活用量の増加や、廃棄物のセメント原料化又は燃料化によるリサイクル推進に伴い、塩素バイパスダストの発生量もさらに増加することが予測されるため、その有効利用方法の開発が求められていた。
【0003】
そこで、例えば、特許文献1に記載のセメントキルン抽気ガスの処理方法では、塩素バイパスダストを脱塩処理する際の設備コストを低く抑えると共に、セメントキルンの入口フード付近より抽気した燃焼ガスに含まれる硫黄分を除去して有効利用するため、抽気ガス中の二酸化硫黄を水酸化マグネシウムと消石灰とに反応させて脱硫して石膏を回収し、セメントの塩素濃度規格値200ppm以下の範囲では、塩水を含む石膏スラリーをそのままセメントミルへ供給し、200ppmを超える場合には、塩素が過剰となる部分の塩水のみを分離し、排水処理・脱塩装置に供給する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−292350号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記特許文献1に記載の方法等では、塩素バイパスダストに含まれる鉛成分が難溶性の硫酸鉛として回収石膏に含まれるため、回収石膏をセメントに添加する際に硫酸鉛を予め除去する必要がある。この鉛成分は、回収石膏の細粒側に存在するため、例えば、湿式サイクロンによって分級することも考えられるが、鉛成分を十分に分離することは難しく、実用化は困難であった。
【0006】
そこで、本発明は、上記従来技術における問題点に鑑みてなされたものであって、塩素バイパスシステム等で生成した鉛含有石膏から低コストで鉛成分を除去し、回収石膏の純度を高め、用途の拡大に繋げることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明は、
鉛含有石膏中の鉛除去方法であって、鉛含有石膏、カルボン酸塩及び水を混合することで、該鉛含有石膏に含まれる鉛成分を
前記カルボン酸塩
と反応させてキレート錯体を形成すると共に該キレート錯体を前記水に溶解させ、
得られたスラリーを固液分離することで、前記鉛含有石膏から
前記鉛成分を除去することを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、カルボン酸塩を含む液体に鉛成分を溶解させるだけで、鉛含有石膏から鉛成分を除去することができるため、低コストで鉛成分を除去することができ、回収石膏の純度を高めて用途の拡大を図ることができる。
【0009】
上記鉛含有石膏中の鉛除去方法において、鉛含有石膏にカルボン酸塩水溶液を添加するか、鉛含有石膏を含むスラリーにカルボン酸塩を添加するか、鉛含有石膏にカルボン酸塩を添加した後スラリー化することができる。
【0010】
また、前記鉛含有石膏を脱硫塔で生成したものとすることができ、該脱硫塔で前記カルボン酸塩水溶液を添加することができる。脱硫塔で鉛含有石膏にカルボン酸塩水溶液を添加するだけで石膏中の硫酸鉛を除去することができる。
【0011】
さらに、前記鉛含有石膏を脱硫塔で生成したものとし、該脱硫塔の下流側に設置された該鉛含有石膏を溶解させる溶解槽で前記カルボン酸塩水溶液を添加することができる。溶解槽で鉛含有石膏にカルボン酸塩水を添加することで、より効果的に石膏中の硫酸鉛を除去することができる。
【0012】
鉛含有石膏の重量に対して5倍以上20倍以下の重量のカルボン酸塩水溶液を添加することでさらに効果的に石膏中の硫酸鉛を除去することができる。
【0013】
また、前記カルボン酸塩水溶液の濃度を10質量%以上30質量%以下とすることでさらに効果的に石膏中の硫酸鉛を除去することができる。
【0014】
さらに、前記鉛含有石膏をセメント製造設備の塩素バイパスシステムにおいて生成されたものとすることができ、塩素バイパスシステムから回収した鉛含有石膏から低コストで鉛成分を除去し、回収石膏の純度を高め、用途の拡大に繋げることができる。
【発明の効果】
【0015】
以上のように、本発明によれば、塩素バイパスシステム等で生成した鉛含有石膏から低コストで鉛成分を除去し、回収石膏の純度を高め、用途の拡大を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明に係る鉛含有石膏中の鉛除去方法を適用した鉛除去装置の一例を示す概略図である。
【
図2】回収石膏に濃度の異なるギ酸ナトリウム水溶液を添加した試験の結果を示すグラフである。
【
図3】本発明に係る鉛含有石膏中の鉛除去方法を適用した鉛除去装置の他の例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本発明を実施するための形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0018】
図1は、本発明に係る鉛含有石膏中の鉛除去方法を適用した鉛除去装置の一例を示し、この鉛除去装置1は、燃焼排ガスを脱硫する脱硫塔2と、脱硫塔2から排出された石膏スラリーS1にカルボン酸塩を添加する溶解槽3と、溶解槽3から排出された石膏スラリーS2を固液分離する固液分離機4とで構成される。
【0019】
脱硫塔2は、例えば、セメントキルンの入口フード付近より抽気した燃焼ガスに含まれる二酸化硫黄を水酸化マグネシウムと消石灰とに反応させて脱硫するために備えられる。脱硫塔2では、燃焼ガス中のダストに含まれる鉛成分を含有する石膏スラリーS1が排出される。
【0020】
溶解槽3は、脱硫塔2から排出された石膏スラリーS1と、カルボン酸塩とを反応させるために備えられる。溶解槽3において、石膏スラリーS1に含まれる難溶性の硫酸鉛はカルボン酸と反応して鉛(II)キレート錯体を形成し、水に溶解する。
【0021】
固液分離機4は、溶解槽3から排出された石膏スラリーS2を固液分離するために備えられ、石膏スラリーS2をろ液F1とケーキC1とに分離する。ろ液F1には、上述のように溶解した錯体が含まれ、排水処理後に放流する。ケーキC1は、硫酸鉛等の鉛成分が除去されて純度が高められた石膏であって、セメント製造等に利用される。
【0022】
次に、本発明に係る鉛含有石膏中の鉛除去方法の試験例について説明する。
【0023】
塩素バイパスシステムから回収した石膏を、実施例1〜3として1%、5%、20%のギ酸ナトリウム溶液と混合撹拌した場合、及び比較例として水のみと混合した場合について、混合撹拌後に生成されたPbO、CaO、SO
3の各々の濃度(質量%)を比較した。その結果を表1及び
図2に示す。
【0025】
表1及び
図2に示すように、ギ酸ナトリウムの添加により、回収石膏中の鉛が液体側に除去され、ギ酸ナトリウム溶液の濃度が高いほどその効果が大きいことが分かる。すなわち、
図2(a)によると、ギ酸ナトリウム水溶液の濃度が高くなるにつれてケーキ重量が減少し、さらに、
図2(b)より、ギ酸ナトリウム水溶液の濃度が高くなるにつれて回収石膏中のPbOの濃度が低下している。これらより、回収石膏中に存在していた鉛成分がギ酸ナトリウム水溶液に溶解し、回収石膏から除去されたことが分かる。
【0026】
図3は、本発明に係る鉛含有石膏中の鉛除去方法を適用した鉛除去装置の他の例を示し、この鉛除去装置10は、燃焼排ガスを脱硫する脱硫塔11と、脱硫塔11から排出された石膏スラリーS3を固液分離する固液分離機12とで構成される。
【0027】
脱硫塔11は、
図1に示した脱硫塔2と同様、例えば、セメントキルンの入口フード付近より抽気した燃焼ガスに含まれる二酸化硫黄を水酸化マグネシウムと消石灰とに反応させて脱硫するために備えられるが、
図3では、脱硫塔11にカルボン酸塩を添加している。
【0028】
固液分離機12は、脱硫塔11から排出された石膏スラリーS3を固液分離するために備えられ、この石膏スラリーS3は、脱硫塔11でのカルボン酸塩の添加により鉛成分が液体に溶解している。そのため、溶解した硫酸鉛等の鉛成分がろ液F2側に回収される。ろ液F2は、排水処理後に放流する。一方、固液分離機12で分離されたケーキC2は、鉛成分が除去されて純度が高められた石膏であって、セメント製造等に利用される。
【0029】
図3に示す構成では、脱硫塔11にカルボン酸塩を添加するため、
図1の溶解槽3が不要になり、装置構成が簡略化され装置コストが削減される。
【0030】
尚、上記実施の形態においては、本発明に係る鉛含有石膏中の鉛除去方法を、セメント製造設備の塩素バイパスシステムで生成した鉛含有石膏から鉛を除去する場合を例にとって説明したが、他の製造工程で生成された鉛含有石膏から鉛を除去する場合にも本発明に係る鉛含有石膏中の鉛除去方法を用いることができる。
【0031】
また、鉛含有石膏に含まれる鉛成分をカルボン酸塩を含む液体に溶解させることができれば、そのために用いる方法は限定されず、鉛含有石膏にカルボン酸塩水溶液を添加したり、鉛含有石膏を含むスラリーにカルボン酸塩を添加したり、鉛含有石膏にカルボン酸塩を添加した後スラリー化してもよい。
【0032】
さらに、実施例として回収石膏にギ酸ナトリウム水溶液を添加した場合を示したが、酢酸ナトリウム等その他のカルボン酸塩を用いることもできる。
【符号の説明】
【0033】
1 鉛除去装置
2 脱硫塔
3 溶解槽
4 固液分離機
10 鉛除去装置
11 脱硫塔
12 固液分離機
S1〜S3 スラリー
F1、F2 ろ液
C1、C2 ケーキ