(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6083920
(24)【登録日】2017年2月3日
(45)【発行日】2017年2月22日
(54)【発明の名称】クロスポール式製造方法並びにクロスポール木造構造物
(51)【国際特許分類】
B27M 3/00 20060101AFI20170213BHJP
【FI】
B27M3/00 C
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-203967(P2016-203967)
(22)【出願日】2016年10月17日
【審査請求日】2016年11月18日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 1.公開の事実 ▲1▼ 公開日 平成28年7月26日 ▲2▼ 名称 ウッドデザイン賞2016 ▲3▼ 公開者 ウッドデザイン賞運営事務局 ▲4▼ 公開された発明の内容 本願出願人である有限会社ナベ企画が、発明者である渡辺保が発明したクロスポール式製造方法並びにクロスポール木造構造物についてウッドデザイン賞2016ソーシャルデザイン部門に応募のし、公開したものです。
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】599018952
【氏名又は名称】有限会社ナベ企画
(74)【代理人】
【識別番号】100160657
【弁理士】
【氏名又は名称】上吉原 宏
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 保
【審査官】
田辺 義拓
(56)【参考文献】
【文献】
特開2004−237689(JP,A)
【文献】
特開2003−062812(JP,A)
【文献】
特開昭57−116858(JP,A)
【文献】
特開2004−278220(JP,A)
【文献】
特開2013−052592(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B27M 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
木造構造物30を製造する製造方法であって、
乾燥せずに変形や収縮を伴う未乾燥木材10として製材する未乾燥木材加工工程Aと、
通常行われる製材工程を経て、変形しにくく寸法精度の高い乾燥木材20を得る乾燥木材加工工程Bと、
少なくとも1以上の乾燥木材20を複数の未乾燥木材10の連結穴部11に繊維が略直交方向に挿通して案内するとともに、未乾燥木材10と組み合わせる組立て工程Cと、
前記未乾燥木材10の乾燥に伴う変形によって生ずる締まり羽目効果を利用して前記未乾燥木材10と前記乾燥木材20とが時間の経過とともに固結して一体化されていく固結工程Eと
から成ることを特徴とするクロスポール式製造方法1。
【請求項2】
前記組立て工程Cの後であって固結工程Eの前に、長期間の防腐並びに湿潤状態とすることを目的として防腐剤40を加圧注入する防腐剤加圧注入工程Dを有する構成としたことを特徴とする請求項1に記載のクロスポール式製造方法1。
【請求項3】
前記未乾燥木材加工工程Aで得る前記未乾燥木材10、又は前記乾燥木材加工工程Bで得る乾燥木材20の何れか若しくは両方が、杉又は桧の間伐材を利用したものであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のクロスポール式製造方法1。
【請求項4】
乾燥の際に大きな変形を伴う未乾燥木材10と、
変形しにくく寸法精度の高い乾燥木材20とが、
其々の繊維方向を略直交方向となるように連結穴部11を介して配置される木造構造物30であって、
複数の前記未乾燥木材10と前記乾燥木材20とが前記未乾燥木材10の乾燥に伴って固結していくことを特徴とするクロスポール木造構造物2。
【請求項5】
前記木造構造物30が防腐剤40を含んでいることを特徴とする請求項4に記載のクロスポール木造構造物2。
【請求項6】
前記未乾燥木材10又は前記乾燥木材20の何れか若しくは両方が杉又は桧の間伐材を利用したものであることを特徴とする請求項4又は請求項5に記載のクロスポール木造構造物2。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、国産材を利用した木製パネルの製造方法に関し、詳しくは、小径で乾燥時の変形の大きい未乾燥の国産材の側面に精度の高い穴を明け、これと略同径の丸棒(収縮の無い乾燥した丸棒・樹脂の丸棒・丸鋼等)を挿入して穴の周囲の摩擦力によりパネルを製作し、その後の自然乾燥によって国産材が変形を起し、更に摩擦力を高めるとともに、防腐剤加圧注入処理によって、国産材の屋外利用を促進する木造パネルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
木材の温かみや素材感は、室内で用いられることが中心となってきており、都市化された町並みをみると、無機質なコンクリートや金属等の素材で溢れている。しかしながら、木材を屋外でも利用できれば、町並み等に優しい印象を与え、生活に癒しの空間を創造することとともに、国内に豊富にある人工林(森林資源)の有効利用を促進することが可能になる。但し、屋外に設置される木造の構造物は、雨や風に直接当ると、腐食や変形が激しく、数年で修繕や場合によっては交換が必要となり、屋外での木材使用は敬遠されがちという問題がある。
【0003】
日本の人工林は昭和30年から40年にかけて、わが国の政策として大量に植林され、50年以上経た現在収穫期に入ったことと、地球温暖化が加速し二酸化炭素の削減を目的とした公費での環境間伐が2008年より始まり、国産材は供給過多の時代となった。そのため、木材価格の下落が続く状況であり、特に環境間伐で産出される小径間伐材は、利用価値が少なく、バイオマス発電の燃料としての利用が促進され、樹木が長年かけて貯めた二酸化炭素を瞬時に大気中に戻してしまうという問題がる。
【0004】
また、間伐材は、森林保護のために行なう間伐作業で出る副産物であるが、従来、係る間伐された木々は、製材しても収縮が激しく、ひび割れ捩れ等の変形も大きいため利用することが困難であった。また間伐された木々は小径木が大半を占め、利用価値も極めて少なく、搬出にもコストがかかるため、間伐された山林に放置されたままの状態となっていることが多い。更に、最近ではコストのかかる間伐作業をあきらめる林業従事者も増えている。
【0005】
間伐作業は、木の光合成を促進させるために行なわれるものであり、良質な木材を生産するためには不可欠な作業であって、間伐された木々をそのまま山林へ放置しておくことや、間伐作業を怠ることは、山林の適正な成長を妨げるのみならず、土砂崩れ等の山地災害の起きやすい山林となってしまう恐れもある。従って、間伐材を有効に利用することは、山林の保護及び林業の活性化に不可欠といえる。また、今後、各地の人工林の成熟していく中で、間伐材の建築、土木、外構等への利用促進が課題であるといえる。なお、本発明でいう「間伐材」には、「小径木」を含む概念として用いるものとする。
【0006】
間伐材は成熟した木材と比較し、小径であることから利用範囲が限られ収縮や変形等が大きいという弱点があるため、木チップや合板、ラミナ材として利用されることが多く、角材としての利用は敬遠されてきた。また、角材からパネルを作る場合、乾燥済みの角材を使用することが多く、含水率の高い生の角材を使用してパネルを作ることは非常に困難であるといえる。従来の木パネルは木材同士を接着剤で貼り付ける方法や金物で留める方法が主流であるが、接着剤を使用した木パネルは経年変化による劣化を起こし、徐々に剥離するという問題が生じる。また、接着剤や金物を使用した木パネルはリサイクルやリユースしにくいという問題がある。そこで、間伐材や小径木を利用した木造構造物を屋外に利用するとともに、耐用年数を長期化する技術が求められているといえる。
【0007】
従来からも種々の技術が提案されている。例えば、特許文献1には、発明の名称を「木質複合材及びその製造方法」とする技術が開示され、公知技術となっている(特許文献1参照)。具体的には「複数の木質部材を積層して製造される木質複合材及びその製造方法を提供する」ことを課題とし、その解決手段は、「含水率20質量%以下の木質の曲がり材から形成される外層ラミナと、直通で含水率15質量%以下の複数の木質無垢材を積層接着させて形成した木質製材で、前記外層ラミナよりも短尺とされた内層ラミナと、内層ラミナの長手方向の両端部に配設され、内層ラミナと略同厚で含水率15%質量以下の木質の端部ラミナとからなり、内層ラミナと端部ラミナとが、外層ラミナの間に積層接着され、さらに、一方の前記外層ラミナから他方の前記外層ラミナにまで通じる貫通孔が設けられ、前記貫通孔に補強部材が挿通されている」というものである。しかし、係る技術は、木材同士が積層接着され、接着剤を使用せずに自然乾燥のみで木材を固定するという課題を解決するに至っていない。
【0008】
また、特許文献2には、発明の名称を「構造用集成材」とする技術が開示され、公知技術となっている(特許文献2参照)。具体的には「小断面であっても優れたせん断特性を有し、梁として用いて好適な構造用集成材を提供する」ことを課題とし、その解決手段は、「複数の木製ラミナを積層して集成接着するとともに、棒状とされた複数本のせん断補強材を所定の間隔でかつ上下方向に沿わせた状態で配して前記木製ラミナと一体に集成接着してなる」というものである。しかし、係る技術は、木材同士が積層接着され、接着剤を使用せずに自然乾燥のみで木材を固定するという課題を解決するに至っていない。
【0009】
なお、本願発明者は、発明の名称を「間伐材利用パネルの製造方法及びその製造方法により製造される間伐材利用パネル」とする技術で特許を受けている(特許文献3参照)。具体的には「間伐材がもつ収縮やひび割れ等変形が大きいといった問題点を解消し、有効に間伐材を利用することが可能となる間伐材利用パネルの製造方法及びその方法により製造される間伐材利用パネルの提供を図る」ことを課題とし、その解決手段は、「間伐材を利用した合成パネルの製造方法であって、間伐材を加工してできた略同一の角材を複数本用意し、該複数の角材を並列に配列し、並列に配列された角材2同士を結束するための少なくとも一以上の貫通孔を形成するとともに該貫通孔に金属筋を通し、両端列に配列された角材から内側列に配列された角材方向へ並列に配列された角材同士を加圧しつつ乾燥を行い、乾燥完了後に前記金属筋の両端を締結具で締結するとともに前記加圧を止める」というものである。しかし、係る技術は、角材に金属筋を通すため、金物を使用せずに木材のみで構成するという課題を残しているといえる。
【0010】
そこで本発明者は、国産材をどのような構成にすれば屋外利用を促進を図ることができるかという点に着目し、国産の未乾燥木材及び乾燥木材を組み合せて防腐剤加圧注入処理を行ない、その後の自然乾燥によってローコストで耐久性能の高いパネル化を可能とする本発明を完成させた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2004−237689
【特許文献2】実開平01−159019
【特許文献3】特開2010−43461
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記の問題を解決すべく、未乾燥木材を主として使用し、未乾燥木材が自然に乾燥する過程において変形することによって乾燥木材と固結させ、接着剤や金物等を必要とせず、収縮や変形が大きいことから敬遠されがちであった杉や桧の間伐材の屋外での利用を促進し、衰退している山林及び林業の活性化に資することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係るクロスポール式製造方法は、木造構造物を製造する製造方法であって、乾燥せずに変形や収縮を伴う未乾燥木材として製材する未乾燥木材加工工程と、通常行われる製材工程を経て、変形しにくく寸法精度の高い乾燥木材を得る乾燥木材加工工程と、少なくとも1以上の乾燥木材を複数の未乾燥木材の連結穴部に繊維が略直交方向に挿通して案内するとともに、未乾燥木材と組み合わせる組立て工程と、前記未乾燥木材の乾燥に伴う変形によって生ずる締まり羽目効果を利用して前記未乾燥木材と前記乾燥木材とが時間の経過とともに固結して一体化されていく固結工程とから成る手段を採用する。
【0014】
また、本発明に係るクロスポール式製造方法は、前記組立て工程の後であって固結工程の前に、長期間の防腐並びに湿潤状態とすることを目的として防腐剤を加圧注入する防腐剤加圧注入工程を有する構成とすることもできる。
【0015】
また、本発明に係るクロスポール式製造方法は、前記未乾燥木材加工工程で得る前記未乾燥木材、又は前記乾燥木材加工工程で得る乾燥木材の何れか若しくは両方が、杉又は桧の間伐材を利用したものであることを手段とすることもできる。
【0016】
また、本発明に係るクロスポール式製造方法は、前記未乾燥木材加工工程で得る前記未乾燥木材の含水率がJAS規格で定める樹種毎の含水率を超え、前記乾燥木材加工工程で得る前記乾燥木材の含水率がJAS規格で定める樹種毎の含水率以下であることを手段とすることもできる。
【0017】
また、本発明に係るクロスポール木造構造物は、乾燥の際に大きな変形を伴う未乾燥木材と、変形しにくく寸法精度の高い乾燥木材とが、其々の繊維方向を略直交方向となるように連結穴部を介して配置される木造構造物であって、複数の前記未乾燥木材と前記乾燥木材とが前記未乾燥木材の乾燥に伴って固結していくことを手段とすることもできる。
【0018】
また、本発明に係るクロスポール木造構造物は、前記木造構造物が防腐剤を含んでいることを手段とすることもできる。
【0019】
また、本発明に係るクロスポール木造構造物は、前記未乾燥木材又は前記乾燥木材の何れか若しくは両方が杉又は桧の間伐材を利用したものであることを手段とすることもできる。
【0020】
また、本発明に係るクロスポール木造構造物は、前記未乾燥木材の含水率がJAS規格で定める樹種毎の含水率を超え、前記乾燥木材の含水率がJAS規格で定める樹種毎の含水率以下であることを手段とすることもできる。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係るクロスポール式製造方法により完成するクロスポール木造構造物は、木材の含水率が高いままでの製造が可能で、最も時間を必要とする乾燥工程を必要としない未乾燥木材を主として使用することができ、木材の切断と穴あけは最も簡易な加工なので、加工設備に高額な投資がかからず製品コストを大幅に削減ができ、国産材の価値を高め需要を促進させるという優れた効果を発揮する。
【0022】
また、本発明に係るクロスポール式製造方法により完成するクロスポール木造構造物は、屋内用として素地のまま製造すれば、木の香りと白木の肌を楽しむことができ、機械乾燥での高温による焦げ臭い香りと変色はなく、木本来の良さを残すことができ、屋外用として防腐剤加圧処理を施せば、極めて高い耐久性を有するという優れた効果を発揮する。
【0023】
また、本発明に係るクロスポール式製造方法により完成するクロスポール木造構造物は、製造後に未乾燥木材が自然に乾燥する過程において収縮や変形することによって乾燥木材と定着するため、接着剤や金物等を必要とせずに、高い剛性を得ることが可能になるという優れた効果を発揮する。
【0024】
また、本発明に係るクロスポール式製造方法により完成するクロスポール木造構造物は、乾燥木材が未乾燥木材の乾燥に伴う収縮や変形を規制することにより、完成設置後の変形が生じにくいという優れた効果を発揮する。
【0025】
また、本発明に係るクロスポール式製造方法により完成するクロスポール木造構造物は、収縮や変形が大きいことから敬遠されがちであった杉や桧の間伐材や小径木を有効に利用することができ、コストの軽減のみならず、衰退している山林及び林業の活性化に資するものである。また、板材ではなく角材での国産材利用は、仕上げ材と構造材を兼ねることでもコスト削減効果があるため、国産材の屋外利用を促すことができ、大量の国産材需要を掘り起こすことが可能である。更に、国産材の大量利用は二酸化炭素の大量固定につながり、日本の環境と林業に大きく貢献するとういこうかを発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明に係るクロスポール式製造方法に係る作業工程を示すフローチャートである。
【
図2】本発明に係るクロスポール木造構造物の基本構成を説明する基本説明図である。
【
図3】本発明に係るクロスポール木造構造物の実施例を説明する実施例説明図である。
【
図4】本発明に係るクロスポール木造構造物の他の実施例を説明する実施例説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
なお、本発明は、木造構造物30の製造方法と、その製造方法によって製造される木造構造物30の2つのカテゴリーに属する発明であるため、先ず、本発明に係る木造構造物30の製造方法について説明し、その後に特徴的な構造体を有する木造構造物30について説明する。なお、製造方法と木造構造物の何れにも共通する構成部材の説明は重複する部分について省略する。
【0028】
図1は、本発明の製造方法に係る作業工程を示すフローチャートであり、全体としては、未乾燥木材加工工程Aと、乾燥木材加工工程Bと、組立て工程Cによって製造した木造構造物30を、固結工程Eによってクロスポール木造構造物2を得る製造方法である。以下、各工程毎に説明をする。
【0029】
未乾燥木材加工工程Aは、一般的な木材の製材において、乾燥を行なわずに得られる、水分を十分に含んだ状態で形状及び寸法が整えられた木材を得る工程である。
【0030】
乾燥木材加工工程Bは、一般的な木材の製材工程と同様であり、乾燥させた後に形状及び寸法が整えられた木材を得る工程である。
【0031】
組立て工程Cは、前記未乾燥木材加工工程Aと前記乾燥木材加工工程Bで得られた複数の未乾燥木材10と乾燥木材20を連結穴部11を介して組み立てられる工程であり、金物や接着剤などの結合部材を用いずに組み立てる工程である。連結穴11の内径は、乾燥木材20の外径と略同径の穴とし、未乾燥木材10に乾燥木材20を嵌挿することによって結合するものである。寸法交差としては、締まりばめとなる嵌挿状態が望ましい。
【0032】
固結工程Eは、前記組立み工程Dにおいて組み立てられた木造構造物30が、土地や建築物に設置後、乾燥することによって、未乾燥木材10が当該乾燥による変形から生ずる力の作用により、未乾燥木材10と乾燥木材20が時間の経過とともに固結されて堅固に一体化されていく工程である。
【0033】
防腐剤加圧注入工程Dは、長期間の防腐並びに湿潤状態とすることを目的として防腐剤40を加圧注入する工程であり、特に腐食しやすい杉や桧の間伐材を用いる場合には、本発明の製造方法において、組立て工程Cの後に取り入れることが望ましい。係る防腐剤40を加圧注入する処理は、AQ認定工場でJISK4相当の処理を行う。木造構造物30に薬品を多量に深く侵潤するために、減圧(0.08MPa以上)をしてから加圧(1.3〜1.4MPa)し、その後、その表面に付いた過剰な薬品を排除する為に再び減圧(0.08MPa以上)する。薬品の注入量は1立方メートル当たり200kg以上侵潤するまで長時間加圧する。なお、未乾燥木材10と乾燥木材20とが組み立てられた後に防腐剤40が注入されることによって、木造構造物30が湿潤状態となり、その後の自然乾燥において木材が更に変形することによって摩擦力が高まり、固結力が増すこととなる。結果として、屋外での長期利用が可能な木造パネルを初めとする木造構造物の提供を可能とする。
【0034】
防腐剤加圧注入工程Dを具体的に説明する。防腐剤40には、焼却しても焼却灰中に有害な金属が残留することがなく、通常の木材と同様に処分できる安全なものを用いる。銅化合物とアゾール化合物で有害な重金属を含まないタナリスCY(登録商標)を用いることを例示して説明すると、係る防腐剤40によれば、VOC(揮発性有機化合物:Volatile Organic Compounds)関連で規制されているクロルピリホス、ホルムアルデヒドを使用しておらず、また、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、スチレン、アセトアルデヒドも使用していないため、塀に直接人の肌が触れても悪影響はなく、動物や植物が触れても悪影響のない安全な防腐剤40である。また、防腐剤40は、河川整備の構造物としても使用されている実績などもあり、廃棄に際しても素材と同様に焼却処分できる優れた処理薬剤である。なお、タナリスCY(登録商標)を用いると、やや緑色に着色されるが、杉の雰囲気を害するものではなく、寧ろ、防腐剤40の浸透状態が目視にて確認できるというメリットもある。但し、係る防腐剤40に限定されることなく、例えば、杉の木色をそのまま生かしたいのであれば、無着色で素材と風合いが変わらないヤシ油を原料とするアルキルアンモニウム化合物(AAC)のグループの抗菌剤のひとつであるDDAC(ジデシルジメチルアンモニウムクロライド)を使用薬剤として選択してもよい。また更に、例えば、アゾール化合物とネオニコチノイド化合物のペンタキュア(登録商標)ECO30や、同DDAC系のペンタキュア(登録商標)ニューBMなどもある。
【0035】
本発明の創作の着想は、杉等の間伐材や小径木を特に屋外に有効利用することにあり、係る間伐材や小径木は、そのほとんどが芯持材である。芯持材の芯材の配置構成や芯材と辺材の割合等によって、収縮と変形が多きく木造構造物30として影響を受けるため、本発明に係る木造構造物30の特徴的な各構成部材を説明するために、一般的な木材の特徴について図示していない点も含めて先に説明する。
【0036】
芯材は、樹芯に近い部分であり、辺材に比べて水分が少なく、杉の場合は赤っぽい色をしていることが多い。また、芯材のほうが辺材と比較して収縮と変形が少なく、一般的に良材とされている。
【0037】
辺材は、樹芯から離れた表皮に近い部分であり、芯材に比べて水分が多く、白っぽい色をしていることが多い。また、辺材は若い部分であり、乾燥の際に抜ける水分が多くなり、収縮と変形が大きい。
【0038】
芯持材は、年輪の中心を持っている角材であり、1本の樹木の四周を製材によって落とし、芯材を有する木材である。芯持材は芯のあるほうへ曲がる傾向があり、また、背割りを取らないと、表面にヒビが入りやすい。芯持材は木材の繊維が通っているため、芯去材に比べると曲げ強度が高い。
【0039】
芯去材は、年輪の中心を外して製材した材で、角材が何本も取れるような太い丸太において、樹芯をさけて製材された木材である。大径木でないと、芯去材の角材はとれないため、芯去材は高価であるが、老木であることと、芯がないために、曲げ強度は低い。若い間伐材からは、そのほとんどが小径木であるため、芯去材はほとんど取れない。しかし、本願発明は、芯材の有無や、芯の位置にかかわらず、未乾燥木材10に乾燥木材20を挿通して規制するため、樹芯を芯去材であっても使用可能である。
【0040】
背割りは、フェンスや門のような木造構造物において一般的にされる加工であって、芯持材の略中心まで鋸目を入れ、乾燥の過程でヒビが入りやすい芯持材の表面に、ヒビや割れを出さないために、視界に入らない面に元から末まで、中心部に達する深さに鋸目を入れることであり、必要に応じて設けることが望ましい。
【0041】
図2は、本発明に係るクロスポール木造構造物2の全体構成を説明する全体説明図である。
図2では未乾燥木材10と乾燥木材20とから本発明に係る木造構造物30の構成をパネル状の構造物として例示したものであって、上部に示した図は、未乾燥木材10を上方から見下げた連結穴部11が設置状態を示す平面図である。該平面図の下に示した図は、未乾燥木材10を積み上げた状態の立面を示す立面図である。該立面図の右側に示した図は、未乾燥木材10を積み上げた状態の妻側を示す立面図であり、各未乾燥木材10が芯持材であることを示している。係る2つの立面図の下に示した図は、寸法精度の高い乾燥木材20を下方から上方に向かって挿入する方向を示す、組み立て説明図である。
【0042】
未乾燥木材10は、特に間伐材を利用することが望ましく、伐採後、乾燥工程を経ていない含水率の高い材料を利用する。係る状態の未乾燥木材10を用いる理由には、水分が蒸発する過程において変形しやすいという特性を利用し、乾燥木材20に対して締め付け力や狭持力或いは押圧力を作用させて、所定の形状に構設する基材である。
【0043】
乾燥木材20は、変形しにくい木材であって、該変形しにくい木質を得るために未乾燥の木材を乾燥し、JAS規格で定められた含水量に対しこれを超えない状態へ乾燥された木材である。通常伐採された木材は、水分を多く含むため、重くて作業負担も大きく、変形や収縮の程度が極めて大きいため、一般の木造建築の材料としては用いられない。具体的には、構造用製材及び造作剤の含水率基準を仕上げ材については、20%以下と定められ、枠組み壁工法構造用製材については、19%以下などと定められている。但し、含水率はあくまでも木材の特性として、乾燥による変形領域を大きく持っている木材と持っていない木材とを組み合わせればよく、係る含水率の相違から生じる物理的な接着により一体と成す構成であれば、係る数値に限定されるものではなく、あくまでも臨界としての閾値を、JAS規格を基準として示したものである。
【0044】
従って、通常の木造構造物30においても、乾燥された木材を用いるのが一般的である。本発明では、前記の基準を超えない木材を、本発明に係る乾燥木材20とし、他方、これを超える含水率を有している木材を未乾燥木材10とする。
【0045】
本発明は、未乾燥木材10を水平方向に積み上げて積層し、繊維が垂直に直交(クロス)する方向に乾燥木材20(ポール)を未乾燥木材10の連結穴11に挿通する構成を採用するものであることから、本発明に係る木造構造物30の製造方法をクロスポール式製造方法1ということとする。
【0046】
本願に係るクロスポール式製造方法1は、乾燥木材20と未乾燥木材10とを組み合わせることで木造構造物30を製造することを最大の特徴とするものである。従来、木造構造物において乾燥させた後の木材を使用することが常識であり、未乾燥木材10では大きな変形や収縮をともなうという欠点を回避するために、大掛かりな乾燥装置等を用いて、製材工程を行なっていたため、その負担が大きく、これを軽減させる技術の提供がもとめられていたといえる。
【0047】
また、杉や桧の間伐材や小径木を有効利用することの社会的要請にも応え、乾燥木材20と未乾燥木材10を組み合わせることで、乾燥木材20の精度と未乾燥木材10の変形による嵌合強度を高めて剛体としての強さを向上させることも課題解決の一つである。以下、図面に基づいて係る技術を説明する。なお、図面に示した実施例は、あくまでも例示に過ぎず、これらの構成に限定されるものではなく、乾燥木材20と未乾燥木材10とを組み合わせることによって発揮される効果が共通する範囲において本願発明の効力がおよぶものである。
【0048】
本発明に係る構成部材は、木材の性質上、水分の除去に伴う変形や伸縮などを生じやすく、係る変形や伸縮は節の存在や木目等によっても影響する。従って、従来技術における乾燥木材20のみで製造する木造構造物に対して、変形しやすい未乾燥木材10を用いることは、係る変形や伸縮等を考慮した各部材の配置や向きを適切とすることが必要である。なお、係る変形や伸縮は、隣接する未乾燥木材10との間に隙間12を生じさせ、美観を損なう原因ともなるため、伸縮や変形の際に生ずる割れ等の発生も防止するとともに、その他の多様な変化にも対応する組み立て工程でも配慮する。
【0049】
締まりばめ効果を利用して木造構造物30を製造する本発明に係るクロスポール木造構造物2における連結穴部11について説明する。連結穴部11は、未乾燥木材10に乾燥木材20を挿通して連結させるための穴であって、該穴に挿通された乾燥木材20を案内として未乾燥木材10の変形を規制する。連結穴11の内径は、乾燥木材20の外径と略同径の穴とし、未乾燥木材10と乾燥木材20を嵌挿することによって結合するものである。寸法交差としては、締まりばめとなる嵌挿状態が望ましいが、多少の隙間ばめとなる交差であっても、その後の自然乾燥による変形によって固結状態とすることは可能である。
【0050】
なお、図面には示していないが、未乾燥木材10を互い違いにわずかにずらした位置に連結穴部11を設け、段差が繰り返される造形を備えた、美しい木造構造物30の表面を創出することも可能である。この場合において、係る段差が繰り返される造形の創出方法として、正角の未乾燥木材10を互い違いにする方法もあるが、正角の芯持材を2つ割りにして芯を分割することにより干割れを抑えつつ、2つ割りにすることによる反りや捩れに対しては、乾燥木材20を挿通する本願の製造方法によれば、抑え込むことが可能である。
【0051】
図3は、本発明に係るクロスポール木造構造物2の実施例を説明する実施例説明図である。
図3に示した構造は、未乾燥木材10同士の間に隙間12を開けることによって、通気性を良くしたパネル状のもので、フェンス等の木造構造物30に適した構造といえる。但し、この場合、乾燥木材に負担がかかりやすく、乾燥木材20への負担が大きくなるため、隙間12を開けずに未乾燥木材10をつめる構成と比較して、その太さを大径のものとする。今まで製作した格子とは異なり、裏表が同じリバーシブルな格子となり、この工法で作成したフェンスは、完全に目隠しをせず、視覚的に緩やかに土地を分割する際に適したフェンスとすることが可能である。更に、係る隙間12を有する構造は、水を排出しやすく腐りにくい耐久性の高いウッドデッキの床パネルに使用することもできる。
【0052】
図4は、本発明に係るクロスポール木造構造物2の他の実施例を説明する実施例説明図である。
図4に示した構造は、前記実施例と同様に未乾燥木材10の間に隙間12を設ける構成に、更に該未乾燥木材10の連結穴部11を傾斜して設けることで、組み付けた状態において、壁の面方向に対し、傾斜した未乾燥木材10によって、目隠し効果を高めつつ風通しを得るフェンス等とすることが可能である。但し、この場合、未乾燥木材10に連結穴部11を傾斜した穴構造とするため、穴あけの際の固定用治具等が必要となる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、森林環境保護に必須の間伐作業によって生じた杉等の間伐材や小径木の有効利用を図ることで、林業の分野における産業の発達に貢献し、また、屋外に設置される構造物の材料として、積極的に木を用いることによって、カーボンニュートラルな環境を維持し、地球規模における環境保全に資するものといえ、産業上の利用可能性は高いものと思慮される。
【符号の説明】
【0054】
1 クロスポール式製造方法
2 クロスポール木造構造物
10 未乾燥木材
11 連結穴部
12 隙間
13 足部
20 乾燥木材
30 木造構造物
40 防腐剤
A 未乾燥木材加工工程
B 乾燥木材加工工程
C 組立て工程
D 防腐剤加圧注入工程
E 固結工程
【要約】
【課題】本発明は、未乾燥木材を主として使用し、未乾燥木材が自然に乾燥する過程における変形から乾燥木材と固結させ、接着剤や金物等を必要とせず、杉や桧の間伐材の利用を促進し、衰退している山林及び林業の活性化に資することを目的とするものである。
【解決手段】乾燥せずに変形や収縮を伴う未乾燥木材として製材する未乾燥木材加工工程と、通常行われる製材工程を経て、変形しにくく寸法精度の高い乾燥木材を得る乾燥木材加工工程と、少なくとも1以上の乾燥木材を複数の未乾燥木材の連結穴部に繊維が略直交方向に挿通して案内するとともに、未乾燥木材と組み合わせる組立て工程と、前記未乾燥木材の乾燥に伴う変形によって生ずる締まり羽目効果を利用して前記未乾燥木材と前記乾燥木材とが時間の経過とともに固結して一体化されていく固結工程とから成る手段を採用する。
【選択図】
図1