(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
隔壁で仕切られた第1および第2の室を含むハウジングと、前記第1の室内において前記隔壁に沿って回転可能に設けられ、回転時の遠心力によって液体を送るインペラと、前記第2の室内に設けられ、前記隔壁を介して前記インペラを回転駆動させる駆動部とを備えた遠心式ポンプ装置であって、
前記インペラの一方面に設けられた第1の磁性体と、
前記インペラの一方面に対向する前記第1の室の内壁に設けられ、前記第1の磁性体を吸引する第2の磁性体と、
前記インペラの他方面に設けられ、隣接する磁極が互いに異なるように同一の円に沿って配置された複数の第1の永久磁石とを備え、
前記駆動部は、
前記複数の第1の永久磁石に対向して設けられ、各々が円柱状に形成された複数の第3の磁性体と、
それぞれ前記複数の第3の磁性体に対応して設けられて各々が対応の第3の磁性体に巻回され、回転磁界を生成するための複数のコイルとを含み、
前記インペラの回転中において、前記第1および第2の磁性体間の第1の吸引力と前記複数の第1の永久磁石および前記複数の第3の磁性体間の第2の吸引力とは、前記第1の室内における前記インペラの可動範囲の略中央で釣り合い、
前記インペラの一方面またはそれに対向する前記第1の室の内壁に第1の動圧溝が形成され、前記インペラの他方面またはそれに対向する前記隔壁に第2の動圧溝が形成され、
前記第1の室は流出ポートに接続される開口部を設けられ、開口部側のある角度の範囲内における前記第1の磁性体と前記第2の磁性体の吸引力は、前記開口部の反対側における前記第1の磁性体と前記第2の磁性体の吸引力よりも小さく設定される、遠心式ポンプ装置。
前記第1および第2の吸引力によって構成される前記インペラのアキシアル方向への負の支持剛性値の絶対値と、前記インペラのラジアル方向の正の剛性値の絶対値との和は、前記インペラが回転する常用回転数領域において前記第1および第2の動圧溝で得られる正の剛性値の絶対値よりも小さい、請求項1から請求項9までのいずれかに記載の遠心式ポンプ装置。
前記インペラの表面および前記第1の室の内壁の少なくともいずれか一方に摩擦力を低減するためのダイヤモンドライクカーボン膜が形成されている、請求項1から請求項12までのいずれかに記載の遠心式ポンプ装置。
【発明を実施するための形態】
【0032】
[実施の形態1]
図1は、この発明の実施の形態1による遠心式血液ポンプ装置のポンプ部1の外観を示す正面図であり、
図2はその側面図である。
図3は
図2のIII−III線断面図であり、
図4は
図3のIV−IV線断面図であり、
図5は
図3のIV−IV線断面図からインペラを取り外した状態を示す断面図である。
図6は
図3のVI−VI線断面図からインペラを取り外した状態を示す断面図であり、
図7は
図3のVII−VII線断面図である。
【0033】
図1〜
図7において、この遠心式血液ポンプ装置のポンプ部1は、非磁性材料で形成されたハウジング2を備える。ハウジング2は、円柱状の本体部3と、本体部3の一方の端面の中央に立設された円筒状の血液流入ポート4と、本体部3の外周面に設けられた円筒状の血液流出ポート5とを含む。血液流出ポート5は、本体部3の外周面の接線方向に延在している。
【0034】
ハウジング2内には、
図3に示すように、隔壁6によって仕切られた血液室7およびモータ室8が設けられている。血液室7内には、
図3および
図4に示すように、中央に貫通孔10aを有する円板状のインペラ10が回転可能に設けられている。インペラ10は、ドーナツ板状の2枚のシュラウド11,12と、2枚のシュラウド11,12間に形成された複数(たとえば6つ)のベーン13とを含む。シュラウド11は血液流入ポート4側に配置され、シュラウド12は隔壁6側に配置される。シュラウド11,12およびベーン13は、非磁性材料で形成されている。
【0035】
2枚のシュラウド11,12の間には、複数のベーン13で仕切られた複数(この場合は6つ)の血液通路14が形成されている。血液通路14は、
図4に示すように、インペラ10の中央の貫通孔10aと連通しており、インペラ10の貫通孔10aを始端とし、外周縁まで徐々に幅が広がるように延びている。換言すれば、隣接する2つの血液通路14間にベーン13が形成されている。なお、この実施の形態1では、複数のベーン13は等角度間隔で設けられ、かつ同じ形状に形成されている。したがって、複数の血液通路14は等角度間隔で設けられ、かつ同じ形状に形成されている。
【0036】
インペラ10が回転駆動されると、血液流入ポート4から流入した血液は、遠心力によって貫通孔10aから血液通路14を介してインペラ10の外周部に送られ、血液流出ポート5から流出する。
【0037】
また、シュラウド11には永久磁石15が埋設されており、シュラウド11に対向する血液室7の内壁には、永久磁石15を吸引する永久磁石16が埋設されている。永久磁石15,16は、インペラ10をモータ室8と反対側、換言すれば血液流入ポート4側に吸引(換言すれば、付勢)するために設けられている。
【0038】
なお、シュラウド11および血液室7の内壁にそれぞれ永久磁石15,16を設ける代わりに、シュラウド11および血液室7の内壁の一方に永久磁石を設け、他方に磁性体を設けてもよい。また、シュラウド11自体を永久磁石15または磁性体で形成してもよい。また、磁性体としては軟質磁性体と硬質磁性体のいずれを使用してもよい。
【0039】
また、永久磁石16は、1つでもよいし、複数でもよい。永久磁石16が1つの場合は、永久磁石16はリング状に形成される。また、永久磁石16が複数の場合は、複数の永久磁石16は等角度間隔で同一の円に沿って配置される。永久磁石15も、永久磁石16と同様であり、1つでもよいし、複数でもよい。
【0040】
また、
図4に示すように、シュラウド12には複数(たとえば8個)の永久磁石17が埋設されている。複数の永久磁石17は、隣接する磁極が互いに異なるようにして、等角度間隔で同一の円に沿って配置される。換言すれば、モータ室8側にN極を向けた永久磁石17と、モータ室8側にS極を向けた永久磁石17とが等角度間隔で同一の円に沿って交互に配置されている。
【0041】
また、
図7に示すように、モータ室8内には、複数(たとえば9個)の磁性体18が設けられている。複数の磁性体18は、インペラ10の複数の永久磁石17に対向して、等角度間隔で同一の円に沿って配置される。複数の磁性体18の基端は、円板状の1つの継鉄19に接合されている。各磁性体18には、コイル20が巻回されている。
【0042】
ここで、複数の磁性体18の各々は円柱形状に形成されており、複数の磁性体18は互いに同じ寸法である。円柱形状の磁性体18の基端側の端面は継鉄19に接合され、先端側の端面は隔壁6を介してインペラ10の複数の永久磁石17に対向している。また、複数の磁性体18の周囲にはコイル20を巻回するためのスペースが均等に確保されている。
【0043】
一般的にアキシアルギャップ型モータにおいては、磁性体18を三角柱形状、あるいは扇形形状とすることが多い。これは、そのような形状にすることにより、隣接する2つの磁性体18の互いに対向する面を容易に略平行にすることができ、隣接するコイル20同士が干渉して巻回体積が小さくなるのを防止できるからである。
【0044】
しかし、モータ効率を考慮した場合、磁性体18は円柱形状であることが好ましい。たとえば、三角柱形状の磁性体18と円柱形状の磁性体18との各々にコイル20を同じ回数だけ巻回した場合、円柱形状の磁性体18に巻回した方がコイル20の導電線の長さを短くすることができ、コイル20の抵抗値を小さくすることができる。つまり、コイル20で発生する銅損を低減することができ、インペラ10の回転駆動におけるエネルギ効率を高めることができる。
【0045】
なお、複数の磁性体18を囲む外形面(
図7では、複数の磁性体18の外周を囲む円)は、複数の永久磁石17を囲む外形面(
図4では、複数の永久磁石17の外周を囲む円)に一致していてもよいし、複数の磁性体18を囲む外形面が複数の永久磁石17を囲む外形面よりも大きくてもよい。また、磁性体18は、ポンプ1の最大定格(インペラ10の回転駆動トルクが最大の条件)において、磁気的な飽和がないように設計することが好ましい。
【0046】
9個のコイル20には、たとえば120度通電方式で電圧が印加される。すなわち、9個のコイル20は、3個ずつグループ化される。各グループの第1〜第3のコイル20には、
図8に示すような電圧VU,VV,VWが印加される。第1のコイル20には、0〜120度の期間に正電圧が印加され、120〜180度の期間に0Vが印加され、180〜300度の期間に負電圧が印加され、300〜360度の期間に0Vが印加される。したがって、第1のコイル20が巻回された磁性体18の先端面(インペラ10側の端面)は、0〜120度の期間にN極になり、180〜300度の期間にS極になる。電圧VVの位相は電圧VUよりも120度遅れており、電圧VWの位相は電圧VVよりも120度遅れている。したがって、第1〜第3のコイル20にそれぞれ電圧VU,VV,VWを印加することにより、回転磁界を形成することができ、複数の磁性体18とインペラ10の複数の永久磁石17との吸引力および反発力により、インペラ10を回転させることができる。
【0047】
ここで、インペラ10が定格回転数で回転している場合は、永久磁石15,16間の吸引力と複数の永久磁石17および複数の磁性体18間の吸引力とは、血液室7内におけるインペラ10の可動範囲の略中央付近で釣り合うようにされている。このため、インペラ10のいかなる可動範囲においてもインペラ10への吸引力による作用力は非常に小さい。その結果、インペラ10の回転起動時に発生するインペラ10とハウジング2との相対すべり時の摩擦抵抗を小さくすることができる。また、相対すべり時におけるインペラ10とハウジング2の内壁の表面の損傷(表面の凹凸)はなく、さらに低速回転時の動圧力が小さい場合にもインペラ10はハウジング2から浮上し易くなり、非接触の状態となる。したがって、インペラ10とハウジング2との相対すべりによって溶血・血栓が発生したり、相対すべり時に発生したわずかな表面損傷(凹凸)によって血栓が発生することもない。
【0048】
また、インペラ10のシュラウド12に対向する隔壁6の表面には複数の動圧溝21が形成され、シュラウド11に対向する血液室7の内壁には複数の動圧溝22が形成されている。インペラ10の回転数が所定の回転数を超えると、動圧溝21,22の各々とインペラ10との間に動圧軸受効果が発生する。これにより、動圧溝21,22の各々からインペラ10に対して抗力が発生し、インペラ10は血液室7内で非接触状態で回転する。
【0049】
詳しく説明すると、複数の動圧溝21は、
図5に示すように、インペラ10のシュラウド12に対応する大きさに形成されている。各動圧溝21は、隔壁6の中心から若干離間した円形部分の周縁(円周)上に一端を有し、渦状に(換言すれば、湾曲して)隔壁6の外縁付近まで、幅が徐々に広がるように延びている。また、複数の動圧溝21は略同じ形状であり、かつ略同じ間隔に配置されている。動圧溝21は凹部であり、動圧溝21の深さは0.005〜0.4mm程度であることが好ましい。動圧溝21の数は、6〜36個程度であることが好ましい。
【0050】
図5では、10個の動圧溝21がインペラ10の中心軸に対して等角度で配置されている。動圧溝21は、いわゆる内向スパイラル溝形状となっているので、インペラ10が時計方向に回転すると、動圧溝21の外径部から内径部に向けて液体の圧力が高くなる。このため、インペラ10と隔壁6の間に反発力が発生し、これが動圧力となる。
【0051】
なお、動圧溝21を隔壁6に設ける代わりに、動圧溝21をインペラ10のシュラウド12の表面に設けてもよい。
【0052】
このように、インペラ10と複数の動圧溝21の間に形成される動圧軸受効果により、インペラ10は隔壁6から離れ、非接触状態で回転する。このため、インペラ10と隔壁6の間に血液流路が確保され、両者間での血液滞留およびそれに起因する血栓の発生が防止される。さらに、通常状態において、動圧溝21が、インペラ10と隔壁6の間において撹拌作用を発揮するので、両者間における部分的な血液滞留の発生を防止することができる。
【0053】
また、動圧溝21の角の部分は、少なくとも0.05mm以上のRを持つように丸められていることが好ましい。これにより、溶血の発生をより少なくすることができる。
【0054】
また、複数の動圧溝22は、
図6に示すように、複数の動圧溝21と同様、インペラ10のシュラウド11に対応する大きさに形成されている。各動圧溝22は、血液室7の内壁の中心から若干離間した円形部分の周縁(円周)上に一端を有し、渦状に(換言すれば、湾曲して)血液室7の内壁の外縁付近まで、幅が徐々に広がるように延びている。また、複数の動圧溝22は、略同じ形状であり、かつ略同じ間隔で配置されている。動圧溝22は凹部であり、動圧溝22の深さは0.005〜0.4mm程度があることが好ましい。動圧溝22の数は、6〜36個程度であることが好ましい。
図6では、10個の動圧溝22がインペラ10の中心軸に対して等角度に配置されている。
【0055】
なお、動圧溝22は、血液室7の内壁側ではなく、インペラ10のシュラウド11の表面に設けてもよい。また、動圧溝22の角となる部分は、少なくとも0.05mm以上のRを持つように丸められていることが好ましい。これにより、溶血の発生をより少なくすることができる。
【0056】
このように、インペラ10と複数の動圧溝22の間に形成される動圧軸受効果により、インペラ10は血液室7の内壁から離れ、非接触状態で回転する。また、ポンプ部1が外的衝撃を受けたときや、動圧溝21による動圧力が過剰となったときに、インペラ10の血液室7の内壁への密着を防止することができる。動圧溝21によって発生する動圧力と動圧溝22によって発生する動圧力は異なるものとなっていてもよい。
【0057】
インペラ10のシュラウド12と隔壁6との隙間と、インペラ10のシュラウド11と血液室7の内壁との隙間とが略同じ状態でインペラ10が回転することが好ましい。インペラ10に作用する流体力などの外乱が大きく、一方の隙間が狭くなる場合には、その狭くなる側の動圧溝による動圧力を他方の動圧溝による動圧力よりも大きくし、両隙間を略同じにするため、動圧溝21と22の形状を異ならせることが好ましい。
【0058】
なお、
図5および
図6では、動圧溝21,22の各々を内向スパイラル溝形状としたが、他の形状の動圧溝21,22を使用することも可能である。ただし、血液を循環させる場合は、血液をスムーズに流すことが可能な内向スパイラル溝形状の動圧溝21,22を採用することが好ましい。
【0059】
図9は、永久磁石15,16間の吸引力F1と永久磁石17および磁性体18間の吸引力F2との合力の大きさが、インペラ10の血液室7内の可動範囲の中央位置以外の位置P1でゼロとなるように調整した場合にインペラ10に作用する力を示す図である。ただし、インペラ10の回転数は定格値に保たれている。
【0060】
すなわち、永久磁石15,16間の吸引力F1が永久磁石17および磁性体18間の吸引力F2よりも小さく設定され、それらの合力がゼロとなるインペラ10の浮上位置はインペラ可動範囲の中間よりも隔壁6側にあるものとする。動圧溝21,22の形状は同じである。
【0061】
図9の横軸はインペラ10の位置(図中の左側が隔壁6側)を示し、縦軸はインペラ10に対する作用力を示している。インペラ10への作用力が隔壁6側に働くとき、その作用力をマイナスとしている。インペラ10に対する作用力としては、永久磁石15,16間の吸引力F1と、永久磁石17および磁性体18間の吸引力F2と、動圧溝21の動圧力F3と、動圧溝22の動圧力F4と、それらの合力である「インペラに作用する正味の力F5」を示した。
【0062】
図9から分かるように、インペラ10に作用する正味の力F5がゼロとなる位置で、インペラ10の浮上位置はインペラ10の可動範囲の中央位置から大きくずれている。その結果、回転中のインペラ10と隔壁6の間の距離は狭まり、インペラ10に対して小さな外乱力が作用してもインペラ10は隔壁6に接触してしまう。
【0063】
これに対して
図10は、永久磁石15,16間の吸引力F1と永久磁石17および磁性体18間の吸引力F2との合力の大きさが、インペラ10の血液室7内の可動範囲の中央位置P0でゼロとなるように調整した場合にインペラ10に作用する力を示す図である。この場合も、インペラ10の回転数は定格値に保たれている。
【0064】
すなわち、永久磁石15,16間の吸引力F1と永久磁石17および磁性体18間の吸引力F2とは略同じに設定されている。また、動圧溝21,22の形状は同じにされている。この場合は、
図9の場合と比較して、インペラ10の浮上位置に対する支持剛性が高くなる。また、インペラ10に作用する正味の力F5は可動範囲の中央でゼロとなっているので、インペラ10に対し外乱力が作用しない場合にはインペラ10は中央位置で浮上する。
【0065】
このように、インペラ10の浮上位置は、永久磁石15,16間の吸引力F1と、永久磁石17および磁性体18間の吸引力F2と、インペラ10の回転時に動圧溝21,22で発生する動圧力F3,F4との釣り合いで決まる。F1とF2を略同じにし、動圧溝21,22の形状を同じにすることにより、インペラ10の回転時にインペラ10を血液室7の略中央部で浮上させることが可能となる。
図3および
図4に示すように、インペラ10は2つのディスク間に羽根を形成した形状を有するので、ハウジング2の内壁に対向する2つの面を同一形状および同一寸法にすることができる。したがって、略同一の動圧性能を有する動圧溝21,22をインペラ10の両側に設けることは可能である。
【0066】
この場合、インペラ10は血液室7の中央位置で浮上するので、インペラ10はハウジング2の内壁から最も離れた位置に保持される。その結果、インペラ10の浮上時にインペラ10に外乱力が印加されて、インペラ10の浮上位置が変化しても、インペラ10とハウジング2の内壁とが接触する可能性が小さくなり、それらの接触によって血栓や溶血が発生する可能性も低くなる。
【0067】
なお、
図9および
図10の例では、2つの動圧溝21,22の形状は同じであるとしたが、動圧溝21,22の形状を異なるものとし、動圧溝21,22の動圧性能を異なるものとしてもよい。たとえば、ポンピングの際に流体力などによってインペラ10に対して常に一方方向の外乱が作用する場合には、その外乱の方向にある動圧溝の性能を他方の動圧溝の性能より高めておくこととにより、インペラ10をハウジング2の中央位置で浮上回転させることが可能となる。この結果、インペラ10とハウジング2との接触確率を低く抑えることができ、インペラ10の安定した浮上性能を得ることができる。
【0068】
また、永久磁石15,16間の吸引力F1と、永久磁石17および磁性体18間の吸引力F2とによって構成されるインペラ10のアキシアル方向への負の支持剛性値の絶対値をKaとし、ラジアル方向の正の剛性値の絶対値をKrとし、インペラ10が回転する常用回転数領域において2つの動圧溝21,22で得られる正の剛性値の絶対値をKgとすると、Kg>Ka+Krの関係を満たすことが好ましい。
【0069】
具体的には、アキシアル方向の負の剛性値の絶対値Kaを20000N/mとし、ラジアル方向の正の剛性値の絶対値Krを10000N/mとした場合、インペラ10が通常回転する回転数領域で2つの動圧溝21,22によって得られる正の剛性値の絶対値Kgは30000N/mを超える値に設定される。
【0070】
インペラ10のアキシアル支持剛性は動圧溝21,22で発生する動圧力に起因する剛性から磁性体間の吸引力などによる負の剛性を引いた値であるから、Kg>Ka+Krの関係を持つことで、インペラ10のラジアル方向の支持剛性よりもアキシアル方向の支持剛性を高めることができる。このように設定することにより、インペラ10に対して外乱力が作用した場合に、インペラ10のラジアル方向への動きよりもアキシアル方向への動きを抑制することができ、動圧溝21の形成部でのインペラ10とハウジング2との機械的な接触を避けることができる。
【0071】
特に、動圧溝21,22は、
図3および
図5で示したように平面に凹設されているので、インペラ10の回転中にこの部分でハウジング2とインペラ10との機械的接触があると、インペラ10およびハウジング2の内壁のいずれか一方または両方の表面に傷(表面の凹凸)が生じてしまい、この部位を血液が通過すると、血栓発生および溶血の原因となる可能性もあった。この動圧溝21,22での機械的接触を防ぎ、血栓および溶血を抑制するために、ラジアル方向の剛性よりもアキシアル方向の剛性を高める効果は高い。
【0072】
また、インペラ10にアンバランスがあると回転時にインペラ10に振れ回りが生ずるが、この振れ回りはインペラ10の質量とインペラ10の支持剛性値で決定される固有振動数とインペラ10の回転数が一致した場合に最大となる。
【0073】
このポンプ部1では、インペラ10のアキシアル方向の支持剛性よりもラジアル方向の支持剛性を小さくしているので、インペラ10の最高回転数をラジアル方向の固有振動数以下に設定することが好ましい。そこで、インペラ10とハウジング2との機械的接触を防ぐため、永久磁石15,16間の吸引力F1と永久磁石17および磁性体18間の吸引力F2によって構成されるインペラ10のラジアル剛性値をKr(N/m)とし、インペラ10の質量をm(kg)とし、インペラの回転数をω(rad/s)とした場合、ω<(Kr/m)
0.5の関係を満たすことが好ましい。
【0074】
具体的には、インペラ10の質量が0.03kgであり、ラジアル剛性値が2000N/mである場合、インペラ10の最高回転数は258rad/s(2465rpm)以下に設定される。逆に、インペラ10の最高回転数を366rad/s(3500rpm)と設定した場合には、ラジアル剛性は4018N/m以上に設定される。
【0075】
さらに、このωの80%以下にインペラ10の最高回転数を設定することが好ましい。具体的には、インペラ10の質量が0.03kgであり、ラジアル剛性値が2000N/mである場合には、その最高回転数は206.4rad/s(1971rpm)以下に設定される。逆に、インペラ10の最高回転数を366rad/s(3500rpm)としたい場合には、ラジアル剛性値が6279N/m以上に設定される。このようにインペラ10の最高回転数を設定することで、インペラ10の回転中におけるインペラ10とハウジング2の接触を抑えることができる。
【0076】
また、永久磁石15,16間の吸引力F1と、永久磁石17および磁性体18間の吸引力F2とによって構成されるインペラ10のアキシアル方向の負の剛性値よりも動圧溝21,22の動圧力による剛性が大きくなった場合にインペラ10とハウジング2は非接触の状態となる。したがって、この負の剛性値を極力小さくすることが好ましい。そこで、この負の剛性値を小さく抑えるため、永久磁石15,16の対向面のサイズを異ならせることが好ましい。たとえば、永久磁石16のサイズを永久磁石15よりも小さくすることにより、両者間の距離によって変化する吸引力の変化割合、すなわち負の剛性を小さく抑えることができ、インペラ支持剛性の低下を防ぐことができる。
【0077】
また、インペラ10の回転起動前に、インペラ10が隔壁6に接触していることを確認してから、インペラ10を回転起動させることが好ましい。
【0078】
すなわち、インペラ10の非回転時では、動圧溝21,22による非接触支持はされず、さらに、永久磁石15,16間の吸引力F1と、永久磁石17および磁性体18間の吸引力F2によってインペラ10とハウジング2とは高い面圧で接触している。また、このポンプ部1のように、インペラ10をモータ室8内のコイル20および磁性体18とインペラ10の永久磁石17との磁気的相互作用で回転させる場合は、特許文献2の
図3に示すようなインペラを永久磁石間の磁気カップリングで回転駆動させる場合に比べて、起動トルクが小さい。したがって、インペラ10をスムーズに回転起動させることは難しい。
【0079】
しかし、インペラ10のシュラウド12が隔壁6と接触している場合は、インペラ10のシュラウド11が血液室7の内壁に接触している場合に比べ、インペラ10の永久磁石17とモータ室8内の磁性体18とが近接しているので、インペラ10の起動時の回転トルクを高めることができ、インペラ10をスムーズに回転起動させることができる。
【0080】
ところが、上述の通り、インペラ10の回転時には、永久磁石15,16間の吸引力F1と、永久磁石17および磁性体18間の吸引力F2とは、インペラ10の位置がインペラ10の可動範囲の中央付近にて釣り合うように設定されているので、インペラ10の停止時にインペラ10が必ずしも隔壁6に接触しているとは限らない。
【0081】
そこで、この遠心式血液ポンプ装置では、インペラ10を回転起動させる前にインペラ10を隔壁6側に移動させる手段が設けられる。具体的には、永久磁石17および磁性体18間の吸引力F2が大きくなるように複数のコイル20に電流を流し、インペラ10を隔壁6側に移動させる。
【0082】
図11は、ポンプ部1を制御するコントローラ25の構成を示すブロック図である。
図11において、コントローラ25は、モータ制御回路26およびパワーアンプ27を含む。モータ制御回路26は、たとえば120度通電方式の3相の制御信号を出力する。パワーアンプ27は、モータ制御回路26からの3相の制御信号を増幅して、
図8で示した3相電圧VU,VV,VWを生成する。3相電圧VU,VV,VWは、
図7および
図8で説明した第1〜第3のコイル20にそれぞれ印加される。通常の運転時は、これにより、インペラ10が可動範囲の中央位置で所定の回転数で回転する。
【0083】
図12(a)〜(c)は、インペラ10の回転起動時におけるコイル電流I、インペラ10の位置、およびインペラ10の回転数の時間変化を示すタイムチャートである。
図12(a)〜(c)において、初期状態では、永久磁石15,16の吸引力によってインペラ10のシュラウド11が血液室7の内壁に接触しており、インペラ10は位置PAにあるものとする。この状態では、インペラ10が回転し難いので、インペラ10のシュラウド12が隔壁6に接触した位置PBにインペラ10を移動させる。
【0084】
時刻t0において、
図8で示される6パターン(0〜60度,60〜120度,…,300〜360度)の電圧VU,VV,VWのうちのいずれかのパターンの電圧を第1〜第3のコイル20に印加し、予め定められた電流I0をコイル20に流す。コイル20に電流I0を流すと、永久磁石17および磁性体18間の吸引力F2が永久磁石15,16間の吸引力F1よりも大きくなり、インペラ10はほとんど回転することなく隔壁6側の位置PBに移動し、インペラ10のシュラウド12は隔壁6に接触する。インペラ10が位置PBに移動したら、電流I0を遮断する(時刻t1)。
【0085】
なお、インペラ10を回転させずに移動させるのは、インペラ10を回転させながら隔壁6側の位置PBに移動させようとしても、動圧溝21の動圧軸受効果によってインペラ10の移動が妨げられるからである。また、インペラ10の血液室7内の位置を検出するセンサを設け、インペラ10が隔壁6に接触したことを確認した後に、電流I0を遮断することが好ましい。
【0086】
次に、
図8で説明した第1〜第3のコイル20に3相電圧VU,VV,VWを印加し、コイル電流Iを予め定められた定格値まで徐々に上昇させる。このとき、インペラ10は隔壁6に接触しているので、インペラ10はスムーズに回転する。コイル電流Iの上昇に伴って、インペラ10は隔壁6側の位置PBから可動範囲の中央位置に移動する。
【0087】
なお、起動時に6パターン(0〜60度,60〜120度,…,300〜360度)の電圧VU,VV,VWを第1〜第3のコイル20に印加した場合、永久磁石17と磁性体18の吸引力が最大になるパターンは永久磁石17と磁性体18の位置関係によって異なる。したがって、起動時に一定パターンの電圧VU,VV,VWのみを第1〜第3のコイル20に印加する代わりに、6パターンの電圧VU,VV,VWを第1〜第3のコイル20に一定時間ずつ順次印加してもよい。この場合、インペラ10は僅かに回転して(厳密には1/4回転以下、すなわち電気角で360度以下回転して)、隔壁6側の位置PBに移動する。
【0088】
また、6パターンの電圧VU,VV,VWを印加すると、第1〜第3のコイル20のうちのいずれかのコイル20には電流は流れず、9個の磁性体18のうちの6個の磁性体がN極またはS極になり、残りの3個の磁性体18には磁極は発生しない。したがって、第1〜第3のコイル20の全てに電流が流れ、9個の磁性体18の各々がN極またはS極になるような電圧を第1〜第3のコイル20に印加して、永久磁石17と磁性体18の吸引力を強めてもよい。
【0089】
また、
図13は、この実施の形態1の変更例を示すブロック図である。この変更例では、インペラ10の回転起動時とそれ以降で電源が切り換えられる。すなわち
図13において、この変更例では、
図11のパワーアンプ27がパワーアンプ30,31および切換スイッチ32で置換される。
図12の時刻t0〜t1では、モータ制御回路26の出力信号がパワーアンプ30に与えられ、パワーアンプ30の出力電圧が切換スイッチ32を介してコイル20に印加され、コイル20に電流I0が流される。時刻t2以降は、モータ制御回路26の出力信号がパワーアンプ31に与えられ、パワーアンプ31の出力電圧が切換スイッチ32を介してコイル20に印加され、コイル20に電流が流される。
【0090】
また、
図14(a)〜(c)は、この実施の形態1の他の変更例を示すタイムチャートである。
図14(a)〜(c)において、初期状態では、インペラ10のシュラウド11が血液室7の内壁に接触しており、インペラ10は位置PAにあるものとする。時刻t0において、予め定められた電流I1がコイル20に流される。すなわち、モータ制御回路26により、たとえば120度通電方式の3相の制御信号を生成する。パワーアンプ27は、モータ制御回路26からの3相の制御信号を増幅して、
図8で示した3相電圧VU,VV,VWを生成する。3相電圧VU,VV,VWは、
図7および
図8で説明した第1〜第3のコイル20にそれぞれ印加される。
【0091】
したがって、この電流I1によってインペラ10に回転磁界が印加される。この電流I1は、
図12の電流I0よりも大きい電流であり、インペラ10のシュラウド11が血液室7の内壁に接触している場合でもインペラ10を回転起動させることが可能な電流である。回転起動が確認された後、コイル電流Iを低下させ、予め定められた定格値まで徐々に上昇させる。このようにインペラ10が位置PA側にあった場合でも、インペラ10の回転起動時のみにコイル20に過大電流を流すように構成してもよい。
【0092】
また、血液室7の内壁の表面および隔壁6の表面と、インペラ10の表面との少なくとも一方にダイヤモンドライクカーボン(DLC)膜を形成してもよい。これにより、インペラ10と血液室7の内壁および隔壁6との摩擦力を軽減し、インペラ10をスムーズに回転起動することが可能になる。なお、ダイヤモンドライクカーボン膜の代わりに、フッ素系樹脂膜、パラキシリレン系樹脂膜などを形成してもよい。
【0093】
また、
図15は、この実施の形態1のさらに他の変更例を示す断面図であって、
図3と対比される図である。
図15において、この変更例では、対向する永久磁石15,16の対向面のサイズが異なる。
図3では、永久磁石15,16の対向面のサイズが同じである場合が示されているが、永久磁石15,16の対向面のサイズを異ならせることにより、両者間の距離によって変化する吸引力の変化量、すなわち負の剛性を小さく抑えることができ、インペラ10の支持剛性の低下を防ぐことができる。
【0094】
また、
図16は、この実施の形態1のさらに他の変更例を示す断面図であって、
図15と対比される図である。
図16において、この変更例では、各磁性体18の永久磁石17に対向する先端面に磁性体35が設けられる。この磁性体35の永久磁石17に対向する表面の面積は、磁性体18の先端面の面積よりも大きい。また、この磁性体35の永久磁石17に対向する表面は、三角形状、あるいは扇形形状であることが望ましい。また、
図17に示すように、各隣接する2つの磁性体35の互いに対向する側面は略平行に設けられていることが望ましい。
【0095】
図7で説明したように、一般的なアキシアルギャップ型モータにおいては、磁性体18が三角柱形状、あるいは扇形形状にされる場合が多く、また、磁性体35を設けずに磁性体18の先端面を直接永久磁石17に対向させる場合が多い。これは、三角柱形状あるいは扇形形状の磁性体18を使用すると、永久磁石17の磁極の切換わり線(N極とS極の境界線)に対して均一にトルク発生用の磁束を与えることができ、インペラ10の回転駆動におけるエネルギ効率を高めることができるからである。また、磁性体35を設けずに磁性体18の先端面を直接永久磁石17に対向させた方が、モータ構造を簡素化することができ、部品点数が少なくて済むからである。
【0096】
しかし、本実施の形態1では
図7で説明したように、コイル20の銅損を低減してモータ効率を高めるために円柱形状の磁性体18を使用している。この円柱形状の磁性体18の先端面を直接永久磁石17に対向させると、永久磁石17の磁極の切換わり線(N極とS極の境界線)に対するトルク発生用磁束の関与効率が低くなり、インペラ10の回転駆動におけるエネルギ効率を高めることができない。
【0097】
また、本実施の形態1のポンプ装置では、永久磁石15,16側で発生する吸引力と永久磁石17側で発生する吸引力とのバランスを精密に調整する必要がある。その際、円柱形状の磁性体18の先端面を直接永久磁石17に対向させた構成では、この吸引力値の設定(調整)が困難となる。つまり、吸引力値は、磁性体18と永久磁石17の対向面積に依存する割合が大きい。吸引力値を調整するために磁性体18の断面積を変更すると、変更する度にコイル20の巻き直し、モータ本体の組み直しなどが必要となり、手間が大きくなる。
【0098】
これに対して、三角形状、あるいは扇形形状の磁性体35を磁性体18の先端に別途設けると、インペラ10の回転駆動におけるエネルギ効率を高めることでき、さらに磁性体35の面積を調整するのみで、永久磁石15,16側で発生する吸引力とのバランスを容易に設定(調整)することが可能となる。
【0099】
また、
図18はこの実施の形態1のさらに他の変更例を示す断面図であって、
図15と対比される図である。
図18において、この変更例では、継鉄19が継鉄36で置換され、磁性体18が磁性体37で置換される。継鉄36および磁性体37の各々は、インペラ10の回転軸の長さ方向に積層された複数の鋼板を含む。この変更例では、継鉄36および磁性体37で発生する渦電流損失を軽減することができ、インペラ10の回転駆動におけるエネルギ効率を高めることができる。
【0100】
また、
図19に示すように、インペラ10の回転方向に積層された複数の鋼板を含む磁性体38で磁性体37を置換してもよい。また、
図20に示すように、インペラ10の径方向に積層された複数の鋼板を含む磁性体39で磁性体37を置換してもよい。これらの場合でも、
図18の変更例と同じ効果が得られる。
【0101】
また、
図3の継鉄19および磁性体18の各々を、純鉄、軟鉄、または珪素鉄の粉末によって形成してもよい。この場合は、継鉄19および磁性体18の鉄損を軽減することができ、インペラ10の回転駆動におけるエネルギ効率を高めることができる。
【0102】
[実施の形態2]
図21は、この発明の実施の形態2による遠心式血液ポンプ装置のポンプ部の構成を示す断面図であって、
図3と対比される図である。
図21において、シュラウド11には永久磁石15a,15bが埋設されており、シュラウド11に対向する血液室7の内壁には、それぞれ永久磁石15a,15bを吸引する永久磁石16a,16bが埋設されている。
【0103】
永久磁石15a,15bの各々は円環状に形成されており、永久磁石15aの外径は永久磁石15bの内径よりも小さい。永久磁石15a,15bは同軸状に設けられており、永久磁石15a,15bの中心点は、ともにインペラ10の回転中心線に配置されている。図では永久磁石15a,15bの同じ方向の端面は異極になっているが、同極とした構成でもよい。
【0104】
また、永久磁石16a,16bの各々は円環状に形成されており、永久磁石16aの外径および内径は、永久磁石15aの外径および内径と同じである。永久磁石16bの外径および内径は、永久磁石15bの外径および内径と同じである。永久磁石16a,16bは同軸状に設けられており、永久磁石16a,16bの中心点は、ともに血液室7の円筒状の側壁の中心線に配置されている。図では永久磁石16a,16bの同じ方向の端面は異極になっているが、同極とした構成でもよい。永久磁石15aと16a、永久磁石15bと16bは、それぞれ互いに吸引する極配置になって対向している。
【0105】
また、永久磁石15a,15bの間隔(すなわち永久磁石16a,16bの間隔)D1は、インペラ10のラジアル方向の可動距離(すなわち血液室7の内径とインペラ10の外径との差の距離)の2分の1の距離D2よりも大きく設定されている(D1>D2)。これは、D1<D2とした場合、インペラ10がラジアル方向に最大限まで移動したとき、永久磁石15aと16b、永久磁石15bと16aがそれぞれ干渉し、インペラ10をポンプ中心位置に復元させる復元力が不安定になるからである。
【0106】
この実施の形態2では、インペラ10の径方向に2対の永久磁石15a,16aおよび永久磁石15b,16bを設けたので、インペラ10の径方向に1対の永久磁石のみを設けた場合に比べ、インペラ10のラジアル方向の支持剛性を大きくすることができる。
【0107】
図22(a)(b)は、実施の形態2の変更例の要部を示す図であって、永久磁石15a,15b,16a,16bの構成を示す図である。
図22(a)は
図22(b)のXXIIA−XXIIA線断面図である。この変更例では、
図22(a)(b)に示すように、永久磁石15a,15bの各々は円環状に形成されており、永久磁石15aの外径は永久磁石15bの内径よりも小さい。一方、永久磁石16a,16bの各々は円弧状に形成されており、インペラ10の回転方向に2つ配列されている。円環状に配置された2つの永久磁石16aの外径および内径は、永久磁石15aの外径および内径と同じである。円環状に配置された2つの永久磁石16bの外径および内径は、永久磁石15bの外径および内径と同じである。この変更例でも、実施の形態2と同じ効果が得られる。
【0108】
[実施の形態3]
実施の形態1,2の遠心式血液ポンプ装置においてインペラ10を回転させると、血液流入ポート4から開口部7aを介して血液流出ポート5に血液が流れ、血液室7内に血液の圧力分布が発生する。特に、血液の吐出流量が多い場合は、開口部7a側の圧力と開口部7aの反対側の圧力との差が大きくなり、
図23に示すように、インペラ10が開口部7a側に吸引されるとともに、開口部7a側におけるインペラ10と永久磁石16a,16bとの間の距離が開口部7aの反対側におけるインペラ10と永久磁石16a,16bとの間の距離よりも小さくなる状態でインペラ10が傾斜する。
【0109】
図23では、インペラ10の回転中心線L2が血液室7の円筒状の側壁の中心線L1よりも、ある距離Rだけ開口部7a側に移動している状態が示されている。また、隔壁6とインペラ10が平行にならず、隔壁6を含む平面とインペラ10の中心面を含む平面とが開口部7aの反対側で、ある角度θで交差している状態が示されている。
【0110】
図24は、血液室7の側壁の中心線L1と開口部7aとの位置関係を示す図である。
図24において、ハウジング2は、血液室7の側壁の中心線L1と直交し、かつ血液流出ポート5の孔の中心線を含む平面で切断されている。血液室7の側壁は、その平面上の円Cに沿って形成されている。円Cの中心点は、その平面と血液室7の側壁の中心線L1との交点である。血液流出ポート5の孔は、円Cの接線方向に延在している。
図24では、インペラ10は時計の針の回転方向に回転し、血液もその方向に回転する。血液流出ポート5の孔と円Cの接点Pは、血液室7の側壁の開口部7aの上流側(
図24中の左側)の端に位置している。
【0111】
ここで、円Cの中心点(血液室7の側壁の中心線L1)から見て接点P(開口部7aの上流側の端部)の方向を0度とし、その反対方向を180度とする。インペラ10の浮上位置は、血液の流体力、動圧軸受の動圧力、永久磁石15a,15bと永久磁石16a,16bの吸引力、インペラ10側の永久磁石17とモータ側の磁性体18との吸引力などのバランスによって決定される。この実施の形態3では、インペラ10の傾斜を抑制するために、開口部7a側(永久磁石16a,16bの中心点から見て0度±A度の範囲内)における永久磁石15a,15bと永久磁石16a,16bの吸引力が、開口部7aの反対側における永久磁石15a,15bと永久磁石16a,16bの吸引力よりも小さく設定される。ここで、A度は、0度よりも大きく180度よりも小さな所定の角度である。好ましくは、A度は60度である。
【0112】
図25(a)(b)は永久磁石15a,15b,16a,16bの構成を示す図であり、
図24(a)は
図25(b)のXXVA−XXVA線断面図である。
図25(a)(b)では、血液室7の円筒状の側壁の中心線L1と、インペラ10の回転中心線L2とが一致している状態が示されている。永久磁石15a,15bの各々は円環状に形成されており、永久磁石15aの外径は永久磁石15bの内径よりも小さい。永久磁石15a,15bは同軸状に設けられており、永久磁石15a,15bの中心点は、ともにインペラ10の回転中心線L2に配置されている。永久磁石15a,15bのN極は反対方向に向けられている。
【0113】
一方、永久磁石16a,16bの各々も円環状に形成されている。永久磁石16aの外径および内径は、永久磁石15aの外径および内径と同じである。永久磁石16bの外径および内径は、永久磁石15bの外径および内径と同じである。永久磁石16a,16bは同軸状に設けられており、永久磁石16a,16bの中心点は、ともに血液室7の円筒状の側壁の中心線L1に配置されている。永久磁石16a,16bのN極は異なる方向に向けられている。永久磁石15a,15bのS極と永久磁石16a,16bのN極とは、互いに対向している。
【0114】
また、
図24で説明したように、開口部7a側(0度±A度の範囲)における永久磁石15a,15bと永久磁石16a,16bの吸引力を、開口部7aの反対側における永久磁石15a,15bと永久磁石16a,16bの吸引力よりも小さくするため、開口部7a側(0度±A度の範囲)における永久磁石16a,16bの厚みを薄くしている。ここで、A度は、0度よりも大きく180度よりも小さな所定の角度である。好ましくは、A度は60度である。
【0115】
換言すると、永久磁石16a,16bの中心点から見て0度±A度の範囲内において、永久磁石16a,16bの裏面(永久磁石15a,15bと対向する表面の反対側の面)に所定深さの凹部が形成されている。これにより、開口部7a側における永久磁石15a,15bと永久磁石16a,16bの吸引力を、開口部7aの反対側における永久磁石15a,15bと永久磁石16a,16bの吸引力よりも小さくし、回転時においてインペラ10を隔壁6に平行にすることができ、インペラ10が血液室7の内壁に接触するのを防止することができる。
【0116】
なお、この実施の形態3では、インペラ10の回転軸に対する傾斜(角度θ)を抑制するために永久磁石16a,16bの所定部分を薄くしたが、これに限るものではなく、永久磁石16a,16bの所定部分の外周部に切り欠きを入れてもよいし、所定部分の幅を細くしてもよいし、所定部分を欠落させてもよいし、所定部分の面取りをしてもよい。
【0117】
[実施の形態4]
図26は、この発明の実施の形態4による遠心式血液ポンプ装置の要部を示す断面図であって、
図4と対比される図である。
図26を参照して、この遠心式血液ポンプ装置では、複数の永久磁石17は、隣接する磁極が互いに異なるようにして、等角度間隔で同一の円に沿って隙間を開けて配置される。換言すれば、モータ室8側にN極を向けた永久磁石17と、モータ室8側にS極を向けた永久磁石17とが等角度間隔で隙間を開けて同一の円に沿って交互に配置されている。
【0118】
図27(a)は実施の形態4における永久磁石17,17間の磁界を示す図であり、
図27(b)は実施の形態1における永久磁石17,17間の磁界を示す図である。
図27(a)(b)から分かるように、実施の形態4の永久磁石17の重量と実施の形態1の永久磁石17の重量とを同じにすると、永久磁石17,17間の磁束密度は実施の形態4の方が大きくなり、永久磁石17の周辺の磁界は実施の形態4の方が強くなる。したがって、本実施の形態4では、インペラ10の永久磁石17と、モータ室8内の磁性体18およびコイル20との間の磁気的結合力を強めることができる。よって、装置寸法を小型に維持しながら、インペラ10の回転トルクを大きくすることができる。
【0119】
図28は、本実施の形態4の変更例を示す図である。
図28において、この変更例では、シュラウド12に複数の永久磁石17と複数の永久磁石40とが埋設されている。永久磁石40の数は、永久磁石17の数と同じである。永久磁石40は、円周方向(インペラ10の回転方向)に着磁されている。複数の永久磁石17と複数の永久磁石40とは、1つずつ交互に等角度間隔で同一の円に沿ってハルバッハ配列構造で配置されている。
【0120】
換言すると、隔壁6側にN極を向けた永久磁石17と、隔壁6側にS極を向けた永久磁石17とが等角度間隔で隙間を設けて同一の円に沿って交互に配置されている。各永久磁石40のN極は隔壁6側にN極を向けた永久磁石17に向けて配置され、各永久磁石40のS極は隔壁6側にS極を向けた永久磁石17に向けて配置される。複数の永久磁石17同士の形状は同じであり、複数の永久磁石40同士の形状は同じである。永久磁石17の形状と永久磁石40の形状は、同じでもよいし、異なっていてもよい。
【0121】
この変更例では、永久磁石17と磁性体18との吸引力を抑制するとともに、トルクの起因となる磁束を強めることができるので、最も永久磁石を小型化することができる。つまり、インペラ10を最も軽量化することができ、かつモータギャップが広い場合でもエネルギ効率を高めることができる。
【0122】
また、永久磁石17の隔壁6に対向する表面の面積と永久磁石40の隔壁6に対向する表面の面積の比によって、永久磁石17と磁性体18の吸引力、トルクの起因となる磁束を調整することができる。永久磁石17と永久磁石40の総重量を同じにして、永久磁石17に対する永久磁石40の面積比率を変化させた場合の吸引力と発生トルクの関係を
図29に示す。
図29に示すように、永久磁石17に対する永久磁石40の面積比率を1/2以上で2以下の範囲に設定すると、永久磁石17と磁性体18の吸引力を小さく抑制しながら、インペラ10の回転トルクを大きくすることができる。したがって、永久磁石17に対する永久磁石40の面積比率は、1/2以上で2以下の範囲が最適である。
【0123】
なお、一般に、モータのトルク脈動を低減する目的でハルバッハ配列を用いる場合は、永久磁石17と永久磁石40の面積比は5:1から3:1程度に設定される。本願発明では、モータギャップが広い場合は磁界を強めるために、モータ寸法やモータギャップに応じて、永久磁石17と永久磁石40の面積比を2:1から1:2までの範囲に設定することで最適化できる。
【0124】
[実施の形態5]
図30(a)は、この発明の実施の形態5によるアキシアルギャップ型モータのロータ61を隔壁60側から見た下面図であり、
図30(b)はアキシアルギャップ型モータの要部を示す正面図である。
【0125】
図30(a)(b)において、このアキシアルギャップ型モータは、実施の形態1〜4の遠心式血液ポンプ装置のポンプ部1と同様の構成であり、円形の隔壁60で仕切られた第1および第2の室(図示せず)を備える。第1の室内には、隔壁60に沿って回転可能に設けられた円環状のロータ61が設けられ、第2の室内には、隔壁60を介してロータ61を回転駆動させるステータ70が設けられている。
【0126】
ロータ61は、非磁性材料で形成された円環状の支持部材62と、支持部材62に固定された複数(たとえば8個)の永久磁石63とを含む。複数の永久磁石63は、ロータ61の回転方向に互いに隙間を開けて配列されている。各永久磁石63は、ロータ61の回転中心軸の延在方向に着磁されている。隣接する2つの永久磁石63の磁極は互いに異なる。ステータ70は、複数の永久磁石63に対向して配置された複数(たとえば6個)の磁性体71と、それぞれ複数の磁性体71に巻回され、回転磁界を生成するための複数のコイル72とを含む。複数の磁性体71は、円環状の継鉄73に固定されている。複数のコイル72に120度通電方式で電圧を印加することにより、ロータ61を回転させることができる。
【0127】
次に、本実施の形態5の効果について説明する。
図31(a)(b)は、本実施の形態5の比較例を示す図であって、
図30(a)(b)と対比される図である。
図31(a)(b)において、この比較例が実施の形態5と異なる点は、複数の永久磁石63の間に隙間が無い点である。
【0128】
図27(a)(b)で示したように、実施の形態5の永久磁石63の重量と比較例の永久磁石63の重量とを同じにすると、永久磁石63,63間の磁束密度は実施の形態5の方が大きくなり、永久磁石63の周辺の磁界は実施の形態5の方が強くなる。したがって、本実施の形態5では、ロータ61の永久磁石63と、ステータ70の磁性体71およびコイル72との間の磁気的結合力を強めることができる。よって、装置寸法を小型に維持しながら、ロータ61の回転トルクを大きくすることができる。
【0129】
図32(a)(b)は、本実施の形態5の変更例を示す図である。
図32(a)(b)において、この変更例では、ロータ61に複数の永久磁石63と複数の永久磁石67とが設けられている。永久磁石67の数は、永久磁石63の数と同じである。永久磁石67は、円周方向(ロータ61の回転方向)に着磁されている。複数の永久磁石63と複数の永久磁石67とは、1つずつ交互に等角度間隔で同一の円に沿ってハルバッハ配列構造で配置されている。換言すると、隔壁60側にN極を向けた永久磁石63と、隔壁60側にS極を向けた永久磁石63とが等角度間隔で隙間を設けて同一の円に沿って交互に配置されている。各永久磁石67のN極は隔壁60側にN極を向けた永久磁石63に向けて配置され、各永久磁石67のS極は隔壁60側にS極を向けた永久磁石63に向けて配置される。複数の永久磁石63同士の形状は同じであり、複数の永久磁石67同士の形状は同じである。永久磁石63の形状と永久磁石67の形状は、同じでもよいし、異なっていてもよい。この変更例では、永久磁石63と磁性体71との吸引力を抑制するとともに、トルクの起因となる磁束を強めることができるので、最も永久磁石を小型化することができる(
図28参照)。つまり、ロータ61を最も軽量化することができ、かつモータギャップが広い場合でもエネルギ効率を高めることができる。
【0130】
また、永久磁石63の隔壁60に対向する表面の面積と永久磁石67の隔壁60に対向する表面の面積の比によって、永久磁石63と磁性体71の吸引力、トルクの起因となる磁束を調整することができる。
図29で示したように、永久磁石63に対する永久磁石67の面積比率を1/2以上で2以下の範囲に設定すると、永久磁石63と磁性体71の吸引力を小さく抑制しながら、ロータ61の回転トルクを大きくすることができる。したがって、永久磁石63に対する永久磁石67の面積比率は、1/2以上で2以下の範囲が最適である。
【0131】
なお、一般的なモータでは、
図31に示すように、永久磁石17のみで磁極を構成することが多い。しかし、本実施の形態5のように、ステータ70とロータ61間に隔壁60が設けられているキャンドモータ構造では、ラジアルギャップ型であるかアキシアルギャップ型であるかに関わらず、ステータ70とロータ61間の隙間が大きくなるので、高トルク化や高効率化が難しいという課題がある。特に小型モータの場合、寸法の制約などにより設計自由度が低く、局所的な磁気飽和の影響を受け易く、高効率化が難しい。しかし、この変更例のようにハルバッハ型配列を採用することで、ステータ70とロータ61間の隙間が大きい場合でも、永久磁石63の界磁磁束を効率良くステータ70に通すことができる。したがって、ロータ61の質量を増加させることなく、また、広いモータギャップに対してアキシアル方向への負の剛性値を増加させすことなく、モータトルクを増大させることができる。よって、ロータ61を高速で回転させることができ、かつロータ61をスムーズに回転起動させることができる。
【0132】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。