(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記耐力設定手段は、建築物における基本設計プラン毎に対応して設定された基礎接合部の耐力のデータが集積されたデータベースによるデータの中から決定した値(Q)を前記基礎接合部の耐力として設定する請求項1に記載の建築物の構造設計装置。
前記基本設計プラン毎に設定された前記建築物の一階部分における層せん断力(Q1’)及び上階における層せん断力(Q2’)のデータが集積されたデータベースによるデータに基づいて、前記一階部分における層せん断力に対する上階における層せん断力の比率(α’;α’≦1)が算出される請求項2に記載の建築物の構造設計装置。
前記建築物本体が各々ラーメン構造を成す複数の建物ユニットで構成され、上下に配置された建物ユニットで前記層せん断力比が算出され、前記建物ユニット毎に前記仕様選定手段によって前記構成部材の仕様が選定可能となる請求項4に記載の建築物の構造設計装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、この構造計算フローによって建物本体における保有水平耐力の検討を行った後、使用するアンカーボルトが当該アンカーボルトの許容応力を超えていた場合、アンカーボルト及び基礎仕様を変更する必要が生じる。この場合、配管の納まり等も変更しなければならなくなり、設計が煩雑となり、作業効率が悪く、結果的にコストが上がってしまう。
【0005】
本発明は、上記の事実を考慮し、設計の作業効率を高め、かつ基礎接合部の耐力に対して適切な建築物を提案することが可能となる建築物の構造設計装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の建築物の構造設計装置は、建築物本体を支持する基礎における前記建築物本体との接合部となる基礎接合部の耐力を予め設定する耐力設定手段と、前記耐力設定手段により設定された耐力(Q)による前記建築物本体の許容せん断力に基づいて、設計しようとする建築物本体の構造設計の可否を検証する検証手段と、を有している。
【0007】
請求項1に記載の建築物の構造設計装置では、耐力設定手段によって、建築物本体を支持する基礎における当該建築物本体との接合部となる基礎接合部の耐力(Q)が予め設定される。
【0008】
このように、建築物の基本設計プランに関係なく、基礎接合部の耐力を設定することによって、予め基礎の形状を決めることができる。これにより、建築物の基本設計プランに関係なく、建築物本体と基礎とを接合させるアンカーボルトの長さや本数等を統一することができる。また、予め基礎の形状を決めることで、配管設備等を統一することができる。
【0009】
また、本発明では、この耐力により求められる建築物本体の許容せん断力に基づいて、検証手段によって、設計しようとする建築物本体の構造設計の可否が検証される。一般的に建築物本体を構成する構成部材として、柱、梁などが挙げられるが、これらの断面形状、板厚などを変えることによって建築物本体の剛性は変わるため、設計しようとする建築物本体の構造設計の可否が検証されることで、当該建築物本体に必要な剛性に合った構成部材の仕様になっているか否かが分かる。
【0010】
請求項2に記載の建築物の構造設計装置は、請求項1に記載の建築物の構造設計装置において、前記耐力設定手段は、建築物における基本設計プラン毎に対応して設定された基礎接合部の耐力のデータが集積されたデータベースによるデータの中から決定した値(Q)を前記基礎接合部の耐力として設定する。
【0011】
請求項2に記載の建築物の構造設計装置では、基本設計プラン毎に対応して設置された基礎接合部の耐力のデータが集積されたデータベースによるデータの中から決定した値(Q)が、建築物の基礎接合部の耐力として耐力設定手段によって設定される。これにより、複数の基本設計プランに対して基礎の形状(仕様)を1種類にすることができる。すなわち、どの基本設計プランを選択しても基礎の形状は変わらない。
【0012】
請求項3に記載の建築物の構造設計装置は、請求項2に記載の建築物の構造設計装置において、前記基本設計プラン毎に設定された前記建築物の一階部分における層せん断力(Q1’)及び上階における層せん断力(Q2’)のデータが集積されたデータベースによるデータに基づいて、前記一階部分における層せん断力に対する上階における層せん断力の比率(α’;α’≦1)が算出される。
【0013】
請求項3に記載の建築物の構造設計装置では、基本設計プランにおいて、各階における層せん断力のデータはデータベースに集積されている。このため、建築物の一階部分における層せん断力(Q1’)に対する上階における層せん断力(Q2’)の比率(α’;α’<1)が算出される
【0014】
請求項4に記載の建築物の構造設計装置は、請求項3に記載の建築物の構造設計装置において、前記検証手段は、前記基礎接合部の耐力(Q)により算出される前記建築物の一階部分における負担せん断力の最大値(Q1max)に対する上階において許容できる許容せん断力(Q2a)の比率(α’a;a>1)を算出する許容せん断力比算出手段と、前記基本設計プランに基づいて設計しようとする建築物において、一階部分における層せん断力(Q1)に対する上階部分における層せん断力(Q2)の比率(α)を算出する層せん断力比算出手段と、前記層せん断力比算出手段によって算出される層せん断力比(α)が前記許容せん断力比算出手段により算出された許容せん断力比(α’a)よりも小さくなるように、設計しようとする建築物本体の構成部材の仕様を選定可能にする仕様選定手段と、を含んで構成されている。
【0015】
請求項4に記載の建築物の構造設計装置では、検証手段は、許容せん断力比算出手段と、層せん断力比算出手段と、仕様選定手段と、を備えている。許容せん断力比算出手段では、まず、基礎接合部の耐力(Q)により一階部分における負担せん断力の最大値(Q1max)が算出され、当該負担せん断力の最大値に対する上階において許容できる許容せん断力(Q2a)の比率(α’a;a>1)が算出される。
【0016】
次に、層せん断力比算出手段では、基本設計プランに基づいて設計しようとする建築物において、一階部分における層せん断力(Q1)に対する上階部分における層せん断力(Q2)の比率(α)が算出される。
【0017】
そして、仕様選定手段では、層せん断力比算出手段によって算出された層せん断力比(α)が許容せん断力比算出手段により算出された許容せん断力比(α’a)よりも小さくなるように、設計しようとする建築物本体の構成部材の仕様(形状、板厚等)が選定可能となる。
【0018】
これにより、過剰品質を抑制して建築物における構造設計のスリム化を図ることができる。
【0019】
請求項5に記載の建築物の構造設計装置は、請求項4に記載の建築物の構造設計装置において、前記建築物本体が各々ラーメン構造を成す複数の建物ユニットで構成され、上下に配置された建物ユニットで前記層せん断力比が算出され、前記建物ユニット毎に前記仕様選定手段によって前記構成部材の仕様が選定可能となる。
【0020】
請求項5に記載の建築物の構造設計装置では、建築物本体が各々ラーメン構造を成す複数の建物ユニットで構成されており、上下に配置された建物ユニットで層せん断力比を算出する。これにより、建物ユニット毎に構成部材の仕様(形状、板厚等)が選定されることで、建築物における構造設計において、さらにスリム化を図ることができる。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように、請求項1に記載の建築物の構造設計装置は、設計の作業効率を高め、かつ基礎接合部の耐力に対して適切な建築物を提案することができる、という優れた効果を有する。
【0022】
請求項2に記載の建築物の構造設計装置は、基本設計プランに合わせて基礎の形状を変える必要がないので、結果的にコストダウンを図ることができる、という優れた効果を有する。
【0023】
請求項3に記載の建築物の構造設計装置は、データベースによるデータに基づいて構成部材の仕様を選定することができる、という優れた効果を有する。
【0024】
請求項4に記載の建築物の構造設計装置は、過剰品質を抑制してコストダウンを図ることができる、という優れた効果を有する。
【0025】
請求項5に記載の建築物の構造設計装置は、必要に応じてさらにコストダウンを図ることができる、という優れた効果を有する。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を用いて、本発明の一実施形態に係る建築物としての建物10について説明する。
【0028】
図1には、複数個(本実施形態では12個)の同一形状の建物ユニット12からなる2階建ての建物10が示されている。なお、
図1に示す建物10において、窓、ドア等の図示を省略している。また、建物本体14(基礎40を除く)の外周にはパネル状の外装材16が設けられるが、ここでは説明の便宜上、建物ユニット12のみが図示された状態となっている。
【0029】
この建物ユニット12は、矩形枠状に組まれた天井フレーム18と床フレーム30とを備えており、天井フレーム18と床フレーム30との間には、4本の柱22が立設されている。天井フレーム18は互いに平行に配置された長短二組の天井梁24、26と含んで構成されている。また、天井フレーム18の四隅には、天井仕口部28が設けられておち、当該天井仕口部28には、長さが異なる天井梁24、26の長手方向の端部がそれぞれ溶接されている。
【0030】
一方、床フレーム30は天井梁24、26に対して上下に平行に配置された長短二組の床梁32、34と、を含んで構成されている。また、床フレーム30の四隅には、床仕口部36が設けられており、当該床仕口部36には、長さが異なる床梁32、34の長手方向の端部がそれぞれ溶接されている。
【0031】
また、上下に対向して配置された天井仕口部28と床仕口部36との間には、柱22が配置されており、当該柱22の上下端部が、天井仕口部28、床仕口部36にそれぞれ溶接又はボルト接合された状態で、建物ユニット12がラーメン構造として構成されている。
【0032】
本実施形態では、天井梁24、26、及び床梁32、34に、断面コ字形状のチャンネル鋼(溝形鋼)が用いられており、柱22には、断面ロ字形状(正方形)の角型鋼管が用いられている。
【0033】
一方、
図2には、
図1のA部分について、建物ユニット12の内側から見た建物10の基礎40の構成を示す分解斜視図が示されている。この建物10の基礎40では、例えば、布基礎が用いられており、基礎40の延在方向に対して直交する方向に切断した基礎40の断面形状は凸字状とされている。そして、当該基礎40は、地盤(図示省略)内に埋設されて水平部分を構成するフーチング40Aと、このフーチング40Aの中央から鉛直方向に立ち上げられて垂直部分を構成する立上部(地中梁)40Bと、によって構成されている。
【0034】
フーチング40Aを構成する部分には、基礎40の延在方向に沿って所定の間隔で複数の鉄筋42が平行に配筋されており、これらの鉄筋42上の両端部には、複数の鉄筋44が直交した状態で互いに平行に配筋されている。そして、これらの鉄筋42、44が埋設されるように型枠を組んでコンクリート46が打設されることにより、フーチング40Aが構成されるようになっている。
【0035】
一方、立上部40Bを構成する部分には、基礎40の延在方向に沿って延びるように複数の鉄筋48(上端筋、下端筋、中間筋)が平行に配筋(シングル配筋)されており、さらにこれらの鉄筋48には基礎40の延在方向と直交する方向(上下方向)に複数の鉄筋50が所定の間隔で平行に配筋されている。そして、これらの鉄筋48、50が埋設されるように型枠を組んでコンクリート52が打設されることにより、立上部40Bが構成されるようになっている。
【0036】
さらに、立上部40Bの上端部には、建物ユニット12の床梁32における柱22側に位置する下端部から下方へ突出したアンカーボルト54が挿入されるアンカーホール部56が形成されている。このアンカーホール部56に対応してアンカーボルト54は、床梁32の下フランジに溶接によって固定されたナット58に螺合される。これにより、建物ユニット12が基礎40に固定される。なお、アンカーボルト54と建物ユニット12の床梁32との接合部が本実施形態における基礎接合部60となる。
【0037】
(本実施形態の説明)
ところで、一般的に、
図2に示されるように、建物10の基礎40に用いられるアンカーボルト54の長さや本数、或いはコンクリート62の断面積等によって、基礎接合部の耐力は設定される。
【0038】
いわゆる注文住宅では、一般的に、ユーザは家族構成やライフスタイルに応じて複数種ある基本設計プランの中から自分にあった建物を選択することができるが、建物の質量は基本設計プランにより異なるため、建物によって必要となる基礎接合部の耐力は異なる。その一方で、そもそも住宅の場合、基本設計プランでは所定の平米数内において設定されるため、基礎接合部の耐力も所定の範囲内で収まってしまう。
【0039】
このため、本実施形態における構造設計装置64(
図3参照)では、詳細は後述するが、耐力設定手段66(
図3参照)によって、建物本体14を支持する基礎40における当該建物本体14との接合部となる基礎接合部60の耐力(Q)が設定される。耐力は、一般的に、地震力や風圧力による水平力が作用してもせん断破断されない程度に設定されるが、ここでの「耐力」は、ラーメン構造が持つ最大の耐力をいう。
【0040】
一方、
図1に示す建物本体14を構成する建物ユニット12における構成部材68としての柱22や梁(天井梁24、26、床梁32、34)などの断面形状、板厚などを変えることによって建物本体14の剛性は変わる。このため、耐力設定手段66(
図3参照)によって設定された基礎接合部60(
図2参照)における耐力(Q)により求められる建物本体14の許容せん断力に基づいて、検証手段70(
図3参照)によって、設計しようとする建物本体14の構造設計の可否が検証される。
【0041】
以下に、
図3に示す構造設計装置64の一例について説明する。なお、実際にはオペレータによるパソコン入力により当該構造設計装置64による構造設計がなされる。
【0042】
まず、
図3に示されるように、ステップ10において、基本設計プラン毎に対応して設置された基礎接合部の耐力(Qn)のデータが集積されたデータベース72によるデータの中から最大となる値(Q)が、建物100の基礎接合部の耐力として設定(決定)される(耐力設定手段66)。
【0043】
なお、ここでの「最大となる値」は、必ずしも全ての建物の基本設計プランによるものではなく、販売実績の多い基本設計プランの中から当該基礎接合部の耐力として最大となる値を設定しても良い。また、データベース72によるデータに基づく値よりも大きい値に設定しても良い。
【0044】
次に、基本設計プラン毎に対応して各階における層せん断力(Q1’n、Q2’n)のデータが集積されたデータベース72によるデータに基づき、ステップ20では、
図4(A)に示す建物100の一階部分における層せん断力(Q1’)に対する上階における層せん断力(Q2’)の比率(α’;α’<1)が算出される。
【0045】
そして、ステップ30では、基礎接合部60の耐力(Q)により算出される
図4(B)に示す建物100の一階部分における負担せん断力の最大値(Q1max)に対する上階において許容できる許容せん断力(Q2a)の比率(α’a;a>1)が算出される(許容せん断力比算出手段74)。以上のフローまでが建物10の基本設計プランに関係なく事前に設定されるものである。
【0046】
次に、ステップ40において、実際にユーザが選択した基本設計プランに基づいて設計しようとする
図4(C)に示す建物10において、一階部分における層せん断力(Q1)に対する上階部分における層せん断力(Q2)の比率(α)が算出される(層せん断力比算出手段76)。
【0047】
そして、ステップ50において、ステップ40において算出された層せん断力比(α)がステップ30において算出された許容せん断力比(α’a)よりも小さくなっているか否かの検証が行われる。
【0048】
ステップ50において、層せん断力比(α)が許容せん断力比(α’a)よりも大きくなっている場合、ステップ60において、層せん断力比(α)が許容せん断力比(α’a)よりも小さくなるようにする。具体的には、
図1に示されるように、建物10の建物本体14を構成する建物ユニット12において、構成部材68(柱22、天井梁24、26、床梁32、34など)における仕様(形状、板厚等)が選定可能とされる(仕様選定手段78)。
【0049】
ここで、当該建物10は各々ラーメン構造を成す複数の建物ユニット12で構成されている。この場合、上下に配置された建物ユニット12で層せん断力比を算出し、建物ユニット12毎に仕様選定手段78によって、例えば構成部材68の板厚が選定されるようにする。
【0050】
(本実施形態による効果)
本実施形態では、
図3に示されるように、基本設計プラン毎に対応して設置された基礎接合部の耐力のデータが集積されたデータベース72によるデータの中から最大となる値(Q)を建物10(
図1参照)の基礎接合部60の耐力として設定(決定)している。これにより、建物10の基本設計プランに関係なく、基礎接合部60の耐力を設定することによって、予め基礎40(
図2参照)の形状を決めることができる。
【0051】
したがって、複数の基本設計プランに対して基礎40の形状(仕様)を1種類にすることができる。すなわち、どの基本設計プランを選択しても基礎40の形状は変わらない。このため、建物10の基本設計プランに関係なく、建物本体14と基礎40とを接合させるアンカーボルト54(
図2参照)の長さを統一することができ、大量発注によるコストダウンを図ることができる。また、どの基本設計プランを選択しても基礎40の形状は変わらないため、配管設備等を統一することができ、コストダウンを図ることができる。
【0052】
また、本実施形態では、この耐力により求められる建物本体14のせん断力に基づいて、建物本体14を構成する構成部材68の仕様が選定可能とされる。ここでは当該構成部材68(
図1参照)として、柱22、天井梁24、26、床梁32、34などが挙げられるが、これらの断面形状、板厚などを変えることによって建物本体14の剛性は変わる。このため、当該建物本体14に必要な剛性に合わせて構成部材68の仕様を選定することでコストの削減を図ることができる。したがって、本実施形態によれば、設計の作業効率を高め、かつ基礎接合部60の耐力に対して適切な建物10を提案することができる。
【0053】
また、本実施形態では、
図3に示すステップ60において、ステップ40において算出された層せん断力比(α)が、ステップ30において算出された許容せん断力比(α’a)よりも小さくなるように構成部材68の仕様が選定可能とされる。これにより、過剰品質を抑制して建物10における構造設計のスリム化を図ることができ、コストダウンを図ることができる。
【0054】
なお、本実施形態では、2階建ての建物として説明したが、本発明は、3階建ての建物でも適用可能である。また、本実施形態では、ユニット工法による建物10について説明したが、これ以外の工法(例えば、鉄骨軸組み工法)による建物であっても勿論良い。
【0055】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明はこうした実施形態に限定されるものでなく、一実施形態及び各種の変形例を適宜組み合わせて用いても良いし、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。