【実施例】
【0015】
図1〜
図15に実施例を示す。
図1は実施例のニットデザイン装置2を示し、ニットデザイン装置2はコンピュータから成り、バス4を備えている。6は入力部で、少なくともマウス、キーボード、トラックボール、スタイラス等の手動入力部を備え、他にネットワークからの入力部、リムーバブルディスクからの入力部等を備えていても良い。8は出力部で、ネットワークへの出力部、あるいはリムーバブルディスクへの出力部である。10はモニタでデザイン過程での編地等を表示し、12はカラープリンタ、14はプログラムメモリで、コンピュータをニットデザイン装置2として機能させるためのプログラムを記憶している。
【0016】
入力部6から編地の外形とその中心、即ち複数個のハギの頂点が集まる位置、を指定し、さらにハギの枚数を指定すると、ハギ生成部16は編地を三角形から成る複数個のハギに分割するように、複数個のハギを生成する。なおポンチョ等では、前記の中心がネックホール等の孔内にあるため、中心自体は編成しないことがある。この場合は、例えば孔の周囲に沿って伏目を行うように、ハギを生成する。従って実際のハギ形状は、3角形の頂点付近を孔に沿って切り取って伏せ目する台形状となることがある。
【0017】
編地の外形は、円に限らず、楕円、あるいは
図14に示すような多角形でも良い。またパーツの頂点が集まる中心は、円形の編地の場合、円の中心から外れた位置に指定できる。楕円の場合、楕円の長軸と短軸との交点あるいは焦点に限らず、例えば楕円の長軸上で作業者に指定された適宜の位置が、前記の中心となる。この発明での中心は、編地の図形的な形状に対する中心ではなく、複数個のハギの頂点が集まる位置のことである。
【0018】
ハギの形状は、楕円形の編地の場合、2等辺三角形から外れ、円形の編地でも中心を円の中心からシフトさせると、2等辺三角形から外れる。ハギ生成部16は、例えば編地の中心から45°〜30°等の一定角度で、編地の周縁へ向けて放射状に複数個の線を引く。これらの線がハギの境界で、ハギの2側片となり、これらの線で区切られた編地の周縁がハギの底辺である。編地に長軸あるいは直径がある場合、中心はこれらの軸上に指定することが好ましく、編地をこれらの軸に沿って2分し、2分した編地をそれぞれ複数個のハギに分割することが好ましい。編地がこれらの軸に対して対称な場合、ハギをこれらの軸に対して対称に配置すると、2分した編地の一方のみを処理するだけでよい。また編地を長軸に沿って2分すると、長軸はハギの側辺を兼ねる。
【0019】
ハギ評価部18は、ハギの底辺の長さをコース方向の目数に換算し、ハギの高さをウェール方向の目数に換算する。そしてハギの底辺の目数を、ハギの側辺を編成する間に減らすことができるかどうかを評価する。減らしには、4コース毎にハギの左右で各2目ずつ減らす、等の好ましい条件があり、この条件を充たすか否かを、ハギ評価部18が評価する。ウェール方向の目数は、ハギの底辺から頂点までのウェール方向に沿った編目の数である。ハギ評価部18で、減らしの条件を充たさないと評価した場合、ハギ生成部16は減らしの条件を充たすように、ハギの形状あるいは枚数を変更し、減らしの条件を充たすかどうか、ハギ評価部18で再評価する。
【0020】
引き返し処理部20は、引き返しライン(引き返し編成を行うライン)をコース方向に沿って、1個のハギ内に制限されずに、コース方向に平行に編地中に発生させる。ハギが2等辺三角形でないと、2側片の目数が一致しないので、ハギの途中あるいはハギの端部で引き返す引き返し編成を行うことにより、2側片の目数が一致しなくても、ハギを編成できるようにする。なお引き返しの1ラインは2コースの編成に相当し、引き返し編成を単に引き返しという。引き返しラインは、複数個のハギでの、ウェール方向の目数が最大の側片から、最小の側片へ向けて引き、引き返しラインの多くは複数個のハギを通過してから引き返す。実際の編成としては、1個の引き返しラインは、ラインの終了点で引き返す2コースの編成に相当し、またハギの端部で引き返しても良い。
【0021】
引き返しラインは、編地のウェール方向に沿ってほぼ均一に発生させることが好ましい。なおこの明細書で、減らしコース及び引き返しラインを、ほぼ均一に発生あるいは配置するとは、外観上不均一と感じられないように配置するとの意味である。ウェール方向の目数は、引き返しラインの数では割り切れず、また減らしコースの数でも割り切れないことが多い。このため完全に均一に配置することは困難である。
【0022】
減らし処理部は、各ハギに対して減らしコース(減らしを行うコース)を指定する。なお隣接するハギで減らしコースの位置が異なっていても良く、この点で引き返しラインとは異なる。また減らしコースはハギ内にウェール方向に沿ってほぼ均一に、かつ引き返しラインを避けるように配置することが好ましい。減らしは例えばハギの左右で4コース毎に各2目ずつの2目減らしが好ましい。例えば三角形のハギの底辺の目数が80目、高さが20目で、ハギの頂部をカットして台形とし、ハギのトップ(台形の上辺)にコース方向に4目あるとする。そしてハギの底辺からトップまでの高さが19目(頂点まででは20目)とする。19コース編成する間に、76目減らすと、全コースで減らしを行うことになり、編成が難しい。
【0023】
左右2目ずつ合計1コースで4目の減らしを行い、1回の引き返しで2コース編成するので、ハギを生成する際に、2側辺の目数の差は偶数、底辺の目数は4の倍数となるように、ハギの2側辺の位置を、ハギ生成部で修正することが好ましい。
【0024】
その他処理部24は、編成に関するその他の処理、例えば編み始めの処理、編み終わり等で伏目が必要な場合は伏目、組織柄、インターシャ柄等の追加、編地が身頃で袖がある場合の両袖のデザイン等、を行う。データ変換部26は、編地のデザインが完了した後に、編地のデザインデータを横編機で実行できる編成データに変換する。
【0025】
図1〜
図9、特に
図2を参照して、編地のデザインを説明する。なおデザイン過程での編地のデザインデータは
図1のモニタ10に常時表示されている。作業者は入力部6から編地の外形を入力し(ステップ1)、ハギの頂点が集まる中心を例えば編地の長軸上に入力し、ハギの枚数を入力する(ステップ2)。
図3,
図4に、同じ編地の外形30に対する、ハギ32〜39と、ハギ42〜49とを示す。A−Aは編地の外形30の長軸で、
図3では位置Cを中心とし、
図4では位置C’を中心とする。ハギ32〜35とハギ36〜39は対称で、ハギ42〜45とハギ46〜49も対称である。中心をCからC’へ変更するとハギの形状が変化し、長軸の中点からの中心のシフトが大きくなるほど、ハギの形状が不均一になり、かつハギが2等辺三角形から外れる。なお
図4のC''のように、中心を編地の長軸A−Aから外しても良い。また
図3,
図4の破線の矢印は、編成の方向(ウェール方向)を示し、編地の外形30の周縁が編み始めである。実施例では長軸A−Aに関して対称な筒状編成を示すが、筒状編成ではなく、例えば
図3,
図4の下から上向き等に成型編みを行っても良い。
【0026】
編地の外形が定まり、中心の位置とハギの枚数が定まると、ハギ生成部16でハギを生成する。例えばハギの頂角を共通にするように、外形30の内部を分割して、複数個のハギとして、各ハギの底辺の長さdと高さhとを求めて、底辺の目数と高さ方向の目数とに換算する。また作業者に、寄せの方向(各ハギの頂点が集まるように、ハギを寄せる方向)を入力するように求める(ステップ3)。なおハギの枚数が入力されなかった場合、8枚〜12枚等の標準値をハギの枚数としても良い。また寄せの方向が入力されなかった場合も、寄せでの目移しの距離の総和を小さくする等の条件に従って、寄せの方向を自動的に生成しても良い。
【0027】
ハギ評価部18は、ハギの底辺の編目を中心までに、減らしの条件を充たしながら減らせるかどうかを評価する(ステップ4)。減らしの条件を充たさない場合(ステップ5)、ハギの数を増すか、減らしの条件を充たさないハギの底辺を短くするように、ハギの境界を変更する。ハギの数を増すと、円形、楕円形等の曲線の周縁をより正確に近似できるが、ハギの両側での2目ずつの減らしを、1目ずつの減らしにする等が必要になり、編成効率が低下することがある。
【0028】
図5のa)で、編地の外形50の長軸A−A上に中心Cが作業者により指定され、
図5b)で、複数個のハギが生成されている。長軸A−Aに接するハギ51,55では頂角をα/2、他のハギ52〜54では頂角をαとするようにハギを生成し、ハギ51’〜55’はハギ51〜55と長軸A−Aに関し対称である。ハギの高さをh、底辺の長さをdで表す。
図5c)で、寄せの方向を指定し、例えば寄せの中心bとなる位置を指定すると、各ハギの頂点がその位置へ移動するように寄せが指定され、
図5c)での矢印が寄せの方向である。寄せの中心bが入力されない場合、ハギの頂点を寄せる距離の総和が最小になる等の条件に従い、寄せの中心bをハギ生成部16で指定する。なお寄せの中心bは、ハギを寄せる方向を指定するための点で、寄せの中心bをどのように指定するかは編み易さに影響する。そして寄せの中心bをどこに指定しても、横編機から外すと、編地はハギの頂点が
図2のステップ2で指定した中心Cへ集まるように変形する。
【0029】
全てのハギが減らしの条件を充たす場合、
図6a)に示すように、ウェール方向に沿って引き返しラインをほぼ均一に配置する。図の右上部の円内の線60が引き返しラインで、例えばハギ53の右端からハギ54側へ向いている。ハギで引き返す引き返しラインの数は、ほぼハギの2側辺の目数の差÷2に等しい。右中央部の円内に示すように、引き返しは2コースの編成から成り、引き返しの次のウェールとの間で2目の目数の差が生じるため、引き返しラインの終わりの位置で、例えばニットに代えて1目のタックを行う(ステップ6)。
【0030】
減らしを行うコース(減らしコース)を各ハギにウェール方向に沿ってほぼ均一に配置し、底辺の目数分の編目が中心(ハギの頂点が集まる位置)までに減らされるようにする。タックを行ったコースは目移しに適さないので、引き返しでタックを行ったコースを減らしコースから除外することが好ましい。
図6b)に減らしライン(減らし目のウェール方向に沿った列)62を示す。寄せの方向に沿ってモニタ10上で各ハギを寄せると、
図6c)のようになり、64は外形の周縁の編み出しラインである。
【0031】
編地に立体的な形状、例えば盛り上がりを付加するには、平面的な編地のデザインよりも、ウェールの長さ(ウェールの目数)を増せばよい。また中心にネックホール等を設ける場合、ネックホールに沿って各ハギを伏せ目すればよい。このような例を
図7に示し、ウェール方向に沿って編目を増すことで立体的な形状を付加し、ネックホールを設けている。
【0032】
図7のハギのデザインに対応するポンチョの平面図が
図8で、
図9は側面図である。80はポンチョ、82はネックホールで、rはその半径、84,84はアームホールの予定位置で、編成後に裁断等により設けるが、成型編みにより実現しても良い。以上のようにハギ以降の他の処理を入力し(
図2のステップ8)、ステップ9で横編機での編成データに変換する。横編機は2枚以上の針床を持ち、編地外形の長軸を境に一方を前針床で、他方を後針床で編成する。
【0033】
図10〜
図13はトップハット90のデザインを示し、
図10に示すように中心Cが偏った位置にあり、
図11に示すように高さh'の盛り上がりがある。これに対して
図2と同様の手順で、長軸A−Aの一方にハギ91〜95を配置し、他方にハギ91’〜95’を配置する(
図12)。次ぎに盛り上がりに対応して、ハッチングを施した高さh'分のエリアを各ハギに追加する(
図13)。以降は
図2と同様にして、トップハット90の編成データを得ることができる。64は編み出しラインである。
【0034】
図14,
図15は六角形の編地100のデザインを示し、101〜106はハギで、長軸A−Aの反対側に対称なハギ101’〜106’がある。ハギ101〜105を
図2と同様にデザインすると、
図15のようになり、ハギ101〜103とハギ104〜106を、図の矢印のように寄せる。64は編み出しラインである。
【0035】
実施例には以下の特徴がある。
1) 複雑な外形の編地、及び中心が外形の中心からシフトした編地に対しても、編成が可能な編地をデザインできる。
2) 編地の外形とハギの頂点が集まる位置である中心、ハギの枚数、及び寄せの方向(寄せの中心bとなる位置)を指定すると、ほぼ自動的に複数個のハギを生成し、減らしが可能かどうか評価できる。なおハギの枚数と寄せの方向は入力を省略できる。
3) ハギが2等辺三角形でなくても編成できる。
4) 引き返しラインでの減らしを避けるので、減らしに伴う目移しで引き返しラインのタックが外れることがない。
5) 減らしコースと引き返しラインとを、ウェール方向に沿ってほぼ均等に配置するので、編地の外観が良い。またネックホール等を設ける場合も、ネックホールまでの減らしと引き返しとをそのまま使えば良く、減らしコースと引き返しラインを再配置する必要がない。
6) 編地の長軸上に中心を指定すると、長軸の一方に対してハギの生成、減らし、引き返し、寄せ等を行い、得られたデザインデータを長軸の他方にコピーすればよい。
7) 編地はボレロ、ポンチョ等の衣類、敷物等、任意である。またハギから成る部分とハギ以外の部分とを有する編地でも良い。