特許第6084103号(P6084103)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6084103
(24)【登録日】2017年2月3日
(45)【発行日】2017年2月22日
(54)【発明の名称】磁気デバイス
(51)【国際特許分類】
   H01F 27/28 20060101AFI20170213BHJP
   H01F 17/00 20060101ALI20170213BHJP
   H01F 17/04 20060101ALI20170213BHJP
   H01F 37/00 20060101ALI20170213BHJP
【FI】
   H01F27/28 K
   H01F17/00 B
   H01F17/04 A
   H01F37/00 S
   H01F37/00 D
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-85586(P2013-85586)
(22)【出願日】2013年4月16日
(65)【公開番号】特開2014-207406(P2014-207406A)
(43)【公開日】2014年10月30日
【審査請求日】2015年12月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】510123839
【氏名又は名称】オムロンオートモーティブエレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101786
【弁理士】
【氏名又は名称】奥村 秀行
(72)【発明者】
【氏名】古井 崇介
(72)【発明者】
【氏名】中林 幸一
(72)【発明者】
【氏名】竹内 俊之
【審査官】 池田 安希子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−280230(JP,A)
【文献】 特開平07−086755(JP,A)
【文献】 特開2003−272929(JP,A)
【文献】 特開平08−107023(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/069403(WO,A1)
【文献】 特開2007−059839(JP,A)
【文献】 国際公開第00/011687(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 27/28
H01F 17/00
H01F 17/04
H01F 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性体から成るコアと、
絶縁体から成り、前記コアが貫通する基板と、
前記コアの周囲に巻回されるように前記基板に設けられた、導体から成るコイルパターンと、を備えた磁気デバイスにおいて、
前記基板にある2つの層に、幅が太い前記コイルパターンと幅が細い前記コイルパターンとがそれぞれ設けられ、
前記2つの層にある前記幅が細いコイルパターン同士は、前記基板の板面に投影した場合にそれぞれの投影パターンが一致するように形成され、かつ並列に接続されており、
前記2つの層にある前記幅が太いコイルパターン同士は、直列に接続されており、
前記2つの層のうち一方の層において、前記幅が細いコイルパターンと前記幅が太いコイルパターンとは、直列に接続されており、
前記基板を貫通する導体から成り、前記2つの層にある前記幅が細いコイルパターン同士を並列に接続する第1接続部と、
前記基板を貫通する導体から成り、前記2つの層にある前記幅が太いコイルパターン同士を直列に接続する第2接続部と、をさらに備えた、ことを特徴とする磁気デバイス。
【請求項2】
請求項1に記載の磁気デバイスにおいて、
前記幅が細いコイルパターンを部分的に拡張することにより、放熱部が設けられている、ことを特徴とする磁気デバイス。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の磁気デバイスにおいて、
前記2つの層にある前記コイルパターンの形状が一致している、ことを特徴とする磁気デバイス。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の磁気デバイスにおいて、
前記幅が太いコイルパターンの断面積と、並列に接続された前記幅が細いコイルパターンの合計断面積とが、同等である、ことを特徴とする磁気デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性体から成るコアと、コイルパターンが設けられた基板とを備えた、チョークコイルやトランスなどの磁気デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば、高電圧の直流をスイッチングして交流に変換した後、低電圧の直流に変換するスイッチング電源装置がある。このスイッチング電源装置には、チョークコイルやトランスなどの磁気デバイスが使用されている。
【0003】
たとえば、特許文献1〜10には、コイルの巻線を基板に設けた磁気デバイスが開示されている。
【0004】
特許文献1〜7では、磁性体から成るコアが、基板を貫通している。基板は、絶縁体から成り、複数の層を有している。各層には、コアの周囲に巻回されるように、コイルパターンが設けられている。異なる層のコイルパターン同士を、スルーホールなどで接続することで、コイルを構成している。コイルパターンやスルーホールは、銅などの導体から成る。
【0005】
特許文献8では、長方形板状のシートを多数積層して、積層体を形成している。最上および最下にある表面シートは磁性体から成る。表面シートに挟まれた各積層シートは、所定パターンに形成された内部導体層と、内部導体層の余白を埋める磁性体層とで構成されている。隣接する積層シートの内部導体層の一部または全部を、積層方向から見て重複させることで接続して、コイルを構成している。
【0006】
特許文献9では、基板が、一対の絶縁層と、該絶縁層に挟持された磁性体層とから構成されている。磁性体層には、導体から成るコイルパターンが形成されている。コイルパターンは、基板の板面や厚み方向に複数回巻回されている。
【0007】
特許文献10では、基板上に設けられたドーナツ状の絶縁層の中に、スパイラル状の平面コイルが埋め込まれている。絶縁層の外側は、磁性膜で覆われている。
【0008】
磁気デバイスのコイルに電流が流れると、該コイルから熱が発せられて、基板の温度が上昇する。これに対し、特許文献1、3、8、9、10には、以下の熱対策が講じられている。
【0009】
特許文献1では、コイルパターンを基板の各層のほぼ全域に広げて、放熱させ易くしている。特許文献3では、基板の各層のコイルパターンの一部の幅を広げることで、放熱パターン部を設けて、放熱させ易くしている。特許文献8では、隣接する積層シートの内部導体層同士を重複させることにより、コイル部と引き出し部の導体断面積を大きくして、該導体から発する熱を抑制している。
【0010】
特許文献9では、コイルパターンの内側に磁性体層と下方の絶縁層とを貫通する伝熱用貫通導体を設け、基板の下面に伝熱用貫通導体と接続された放熱用導体層を設けることで、放熱させ易くしている。特許文献10では、平面コイルの線幅を中心から離れるに従って増加させることで、平面コイルの各部分から発する熱を均一にしている。
【0011】
一方、放熱に関する言及はないが、特許文献2では、各層のコイルパターンの幅を一定にしている(特許文献9も同様)。特許文献4では、各層のコイルパターンを複数に分割し、該分割されたコイルパターンを直列に接続している。特許文献5〜7では、幅が細くて巻き数が多いコイルパターンを設けた層と、幅が太くて巻き数が少ないコイルパターンを設けた層とを、複数積層している。
【0012】
また、特許文献7の実施形態8、9では、2つの層にコイルパターンを複数形成し、異なる層にあるコイルパターン同士を直列に接続することで、2つの層に渡って2ターン巻回される経路を、2つ設けている。この2つの経路は、並列に接続され、断面積が同等であり、基板の板面に投影した場合にほぼ一致している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2008−205350号公報
【特許文献2】特開平7−38262号公報
【特許文献3】特開平7−86755号公報
【特許文献4】再表WO2010/026690号公報
【特許文献5】特開平8−69935号公報
【特許文献6】米国特許第7332993号明細書
【特許文献7】特開2010−56175号公報
【特許文献8】特開2010−183007号公報
【特許文献9】特開2008−177516号公報
【特許文献10】特開平7−37728号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
コイルの所定の性能を達成するため、基板の層数を増やしたり、各層でコイルパターンを複数回巻回したりすると、コイルの巻き数を増やすことができる。しかし、サイズが大きくなるなどの弊害がある。
【0015】
また、コイルパターンの幅を細くすると、基板の板面に広がるように、コイルパターンを複数回巻回しても、サイズが大きくなるのを抑えられる。しかし、コイルパターンの直流抵抗が高くなるため、コイルパターンの発熱量が多くなり、基板の温度が上昇して、特性の変動や性能の劣化を招いてしまう。
【0016】
特に、大電流が流れる直流−直流変換装置(DC−DCコンバータ)などで使用される磁気デバイスでは、コイルに大電流が流れるので、コイルの線幅が細すぎると、発熱量がより多くなって、所定の特性や性能が得られない。また、同一基板上に他のICチップなどの電子部品が実装されている場合、電子部品の誤動作や破壊を生じるおそれがある。
【0017】
本発明の課題は、サイズが大きくなるのを抑えながら、コイルの巻き数を多くし、かつ発熱を抑制することができる磁気デバイスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明による磁気デバイスは、磁性体から成るコアと、絶縁体から成り、コアが貫通する基板と、コアの周囲に巻回されるように基板に設けられた、導体から成るコイルパターンとを備えている。基板にある2つの層に、幅が太いコイルパターンと幅が細いコイルパターンとがそれぞれ設けられている。2つの層にある幅が細いコイルパターン同士は、基板の板面に投影した場合にそれぞれの投影パターンが一致するように形成され、かつ並列に接続されている。2つの層にある幅が太いコイルパターン同士は、直列に接続されている。2つの層のうち一方の層において、幅が細いコイルパターンと幅が太いコイルパターンとは、直列に接続されている。また、基板を貫通する導体から成り、2つの層にある幅が細いコイルパターン同士を並列に接続する第1接続部と、基板を貫通する導体から成り、2つの層にある幅が太いコイルパターン同士を直列に接続する第2接続部とが設けられている。
【0019】
このようにすると、磁気デバイスのコイルが、基板の複数の層にそれぞれ設けられた幅が太いコイルパターンと幅が細いコイルパターンとから構成されるので、該各層にコイルパターンが複数回巻回されて、コイルの巻き数を多くすることができる。また、基板の層数を少なくしたり、基板の面積を小さくしたりして、基板のサイズが大きくなるのを抑えることができる。また、幅の太いコイルパターンの間に、複数の幅の細いコイルパターンを並列に接続することで、コイルの全体に渡って、直流抵抗をある程度の大きさにとどめて、コイルの発熱を抑制することができる。よって、磁気デバイスのサイズが大きくなるのを抑えながら、コイルの巻き数を多くして、発熱を抑制することが可能となる。
【0020】
また、本発明では、上記磁気デバイスにおいて、幅が細いコイルパターンを部分的に拡張することにより、放熱部が設けられていてもよい。
【0021】
また、本発明では、上記磁気デバイスにおいて、2つの層にあるコイルパターンの形状が一致していてもよい。
【0022】
また、本発明では、上記磁気デバイスにおいて、幅が太いコイルパターンの断面積と、並列に接続された幅が細いコイルパターンの合計断面積とが、同等であるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、サイズが大きくなるのを抑えながら、コイルの巻き数を多くし、かつ発熱を抑制することができる磁気デバイスを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】スイッチング電源装置の構成図である。
図2】本発明の実施形態による磁気デバイスの分解斜視図である。
図3図2の磁気デバイスの基板の各層の平面図である。
図4図3の基板のコイルパターンを示す図である。
図5図2の磁気デバイスの断面図である。
図6】コイルパターンの電気的接続を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態につき、図面を参照しながら説明する。各図において、同一の部分または対応する部分には、同一符号を付してある。
【0027】
図1は、スイッチング電源装置100の構成図である。スイッチング電源装置100は、電気自動車(またはハイブリッドカー)用のDC−DCコンバータであり、高電圧の直流をスイッチングして交流に変換した後、低電圧の直流に変換する。以下で詳述する。
【0028】
スイッチング電源装置100の入力端子T1、T2には、高電圧バッテリ50が接続されている。高電圧バッテリ50の電圧は、たとえばDC220V〜DC400Vである。入力端子T1、T2へ入力される高電圧バッテリ50の直流電圧Viは、フィルタ回路51でノイズが除去された後、スイッチング回路52へ与えられる。
【0029】
スイッチング回路52は、たとえばFET(Field Effect Transistor:電界効果トランジスタ)を有する公知の回路からなる。スイッチング回路52では、PWM駆動部58からのPWM(Pulse Width Modulation:パルス幅変調)信号に基づいて、FETをオンオフさせて、直流電圧に対してスイッチング動作を行う。これにより、直流電圧が高周波のパルス電圧に変換される。
【0030】
そのパルス電圧は、トランス53を介して、整流回路54へ与えられる。整流回路54は、一対のダイオードD1、D2によりパルス電圧を整流する。整流回路54で整流された電圧は、平滑回路55へ入力される。平滑回路55は、チョークコイルLおよびコンデンサCのフィルタ作用により整流電圧を平滑し、低電圧の直流電圧として出力端子T3、T4へ出力する。この直流電圧により、出力端子T3、T4に接続された低圧バッテリ60が、たとえばDC12Vに充電される。低圧バッテリ60の直流電圧は、図示しない各種の車載電装品へ供給される。
【0031】
また、平滑回路55の出力電圧Voは、出力電圧検出回路59により検出された後、PWM駆動部58へ出力される。PWM駆動部58は、出力電圧Voに基づいてPWM信号のデューティ比を演算し、該デューティ比に応じたPWM信号を生成して、スイッチング回路52のFETのゲートへ出力する。これにより、出力電圧を一定に保つためのフィードバック制御が行なわれる。
【0032】
制御部57は、PWM駆動部58の動作を制御する。フィルタ回路51の出力側には、電源56が接続されている。電源56は、高電圧バッテリ50の電圧を降圧し、制御部57に電源電圧(たとえばDC12V)を供給する。
【0033】
上記のスイッチング電源装置100において、平滑回路55のチョークコイルLとして、後述の磁気デバイス1が用いられる。チョークコイルLには、たとえばDC150Aの大電流が流れる。チョークコイルLの両端には、電力入出力用のリード端子6i、6oが設けられている。
【0034】
次に、磁気デバイス1の構造を、図2図5を参照しながら説明する。
【0035】
図2は、磁気デバイス1の分解斜視図である。図3は、磁気デバイス1の基板3の各層の平面図である。図4は、図3の基板3のコイルパターンを示す図である。図5は、磁気デバイス1の断面図であって、図3のX−X断面を示している。
【0036】
図2に示すように、コア2a、2bは、E字形の上コア2aとI字形の下コア2bの、2個1対で構成されている。コア2a、2bは、フェライトまたはアモルファス金属などの磁性体から成る。
【0037】
上コア2aは、下方へ突出するように、3つの凸部2m、2L、2rを有している。中央の凸部2mに対して、左側の凸部2Lと右側の凸部2rの方が、突出量が多くなっている。
【0038】
図5に示すように、上コア2aの左右の凸部2L、2rの下端を、下コア2bの上面に密着させて、該コア2a、2bは組み合わされる。この状態では、直流重畳特性を高めるため、上コア2aの凸部2mと下コア2bの上面には所定の大きさの隙間が設けられている。これにより、磁気デバイス1(チョークコイルL)に大電流を流したときでも、所定のインダクタンスを実現することができる。コア2a、2b同士は、図示しないねじや金具などの固定手段により固定される。
【0039】
下コア2bは、ヒートシンク10の上側に設けられた凹部10k(図2)に嵌め込まれる。ヒートシンク10の下側には、フィン10fが設けられている。
【0040】
基板3は、絶縁体から成る薄板状の基材の各層に、厚みの厚い銅箔(導体)でパターンが形成された厚銅箔基板から構成されている。本実施形態では、基板3に他の電子部品や回路が設けられていないが、実際に磁気デバイス1を図1のスイッチング電源装置100で使用する場合、同一基板上に磁気デバイス1とスイッチング電源装置100の他の電子部品や回路が設けられる。
【0041】
基板3の表面(図2および図5で上面)には、図3(a)に示すような第1層L1が設けられている。基板3の裏面(図2および図5で下面)には、図3(c)に示すような第3層L3が設けられている。第1層L1と第3層L3の間には、図3(b)に示すような第2層L2が設けられている。つまり、基板3は、回路を形成可能な2つの外面層L1、L3と、1つの内層L2を有した、3層基板から成る。
【0042】
基板3には、複数の開口部3m、3L、3rが設けられている。各開口部3m、3L、3rには、図2図5に示すように、上コア2aの各凸部2m、2L、2rがそれぞれ挿入される。これにより、上コア2aは基板3を貫通する。
【0043】
また、基板3には複数の貫通孔3aが設けられている。各貫通孔3aには、図2に示すように、各ねじ11が挿入される。基板3の裏面をヒートシンク10の上面(フィン10fと反対側)と対向させる。そして、各ねじ11を基板3の表面側から各貫通孔3aに貫通させて、ヒートシンク10の各ねじ孔10aに螺合する。これにより、図5に示すように、基板3の第3層L3側にヒートシンク10が近接状態で固定される。基板3とヒートシンク10の間には、伝熱性を有する絶縁シート12が挟み込まれる。
【0044】
図3に示すように、基板3には、複数のスルーホール8a、8d、9a〜9dが形成されている。スルーホール8a、8d、9a〜9dは、銅などの導体から成り、基板3を貫通している。
【0045】
一対の大径のスルーホール8aのうち、一方のスルーホール8aには、電力入力用のリード端子6iが埋設されている。他方のスルーホール8aには、電力出力用のリード端子6oが埋設されている。リード端子6i、6oは、銅などの導体から成り、基板3を貫通している。第1層L1と第3層L3のリード端子6i、6oの周囲には、スルーホール8aのパッド8bが設けられている。パッド8bは銅箔から成る。リード端子6i、6oやパッド8bの表面には、銅めっきが施されている。端子6i、6oの下端は、絶縁シート12と接触している(図示省略)。
【0046】
図3(a)に示すように、第1層L1には、複数のスルーホール9a〜9dを形成し易くするため、4つの小パターン4gが設けられている。各小パターン4gは、銅箔から成り、表面に絶縁加工が施されている。各小パターン4gと各スルーホール9a〜9dは接続されている。スルーホール9a〜9dの表面には銅めっきが施され、内側は銅などの導体で埋められている。
【0047】
第1層L1には、小パターン4g以外のパターンが設けられていない。これにより、第1層L1に他の電気回路や電子部品を自由に配置できるようになっている。
【0048】
第2層L2と第3層L3には、図3および図4に示すように、幅が太いコイルパターン4a、4b、4d、4e、幅が細いコイルパターン4c、4f、および放熱パターン5L〜5L、5r〜5rが形成されている。これらのパターン4a〜4f、5L〜5L、5r〜5rは銅箔から成る。
【0049】
コイルパターン4a〜4fの幅、厚み、断面積、および巻き数は、コイルの所定の性能を達成しつつ、所定の大電流(たとえばDC150A)を流しても、コイルパターン4a〜4fの発熱量をある程度に抑えられるように設定されている。
【0050】
図4および図5に示すように、コイルパターン4a、4b、4d、4eは、同一の太い幅W2で形成されている。コイルパターン4c、4fは、同一の細い幅W1で形成されている。コイルパターン4a、4b、4d、4eの幅W2は、コイルパターン4c、4fの幅W1の2倍になっている(W2=W1×2)。
【0051】
コイルパターン4a〜4fの厚みは同等になっている。このため、コイルパターン4a、4b、4d、4eの幅W2部分の断面積S2は、コイルパターン4c、4fの幅W1部分の断面積S1の2倍になっている(S2=S1×2)。つまり、各コイルパターン4a、4b、4d、4eのそれぞれの幅W2部分の断面積S2と、コイルパターン4c、4fの幅W1部分の合計断面積(S1+S1)とが、同等になっている。
【0052】
図3(b)および図4(b)に示すように、第2層L2において、コイルパターン4aは、コア2aの左側の凸部2Lの周囲4方向に1回巻回されている。コイルパターン4bは、コア2aの右側の凸部2rの周囲4方向に1回巻回されている。コイルパターン4cは、コイルパターン4aの外側でかつ凸部2Lの周囲3方向に1回巻回されてから、凸部2mの周囲3方向を経由して、コイルパターン4bの外側でかつ凸部2rの周囲3方向に1回巻回されている。
【0053】
図3(c)および図4(c)に示すように、第3層L3において、コイルパターン4dは、凸部2Lの周囲4方向に1回巻回されている。コイルパターン4eは、凸部2rの周囲4方向に1回巻回されている。コイルパターン4fは、コイルパターン4dの外側でかつ凸部2Lの周囲3方向に1回巻回されてから、凸部2mの周囲3方向を経由して、コイルパターン4eの外側でかつ凸部2rの周囲3方向に1回巻回されている。
【0054】
図3および図4に示すように、第2層L2のコイルパターン4aの一端は、スルーホール8aによりリード端子6iと接続されている。コイルパターン4aの他端は、スルーホール9aにより第3層L3のコイルパターン4dの一端と接続されている。
【0055】
第3層L3において、コイルパターン4dの他端とコイルパターン4fの一端とは、接続されている。また、コイルパターン4dの他端は、スルーホール9cにより第2層L2のコイルパターン4cの一端と接続されている。
【0056】
第3層L3において、コイルパターン4fの他端とコイルパターン4eの一端とは、接続されている。また、コイルパターン4eの一端は、スルーホール9dにより第2層L2のコイルパターン4cの他端と接続されている。
【0057】
第3層L3のコイルパターン4eの他端は、スルーホール9bにより第2層L2のコイルパターン4bの一端と接続されている。コイルパターン4bの他端は、スルーホール8aによりリード端子6oと接続されている。
【0058】
図6は、上述したコイルパターン4a〜4fの電気的接続を示す模式図である。図6(a)は、コイルパターン4a〜4fの立体的な配置図で、便宜上、スルーホール9a〜9dは破線で表してある。図6(b)は、コイルパターン4a〜4fにより構成される、リード端子6i、6o間の電気回路図である。
【0059】
図6からわかるように、異なる層L2、L3にある、幅W2が太いコイルパターン4a、4d同士、および幅W2が太いコイルパターン4e、4b同士は、スルーホール9a、9bにより直列に接続されている。異なる層L2、L3にある幅W1が細いコイルパターン4c、4f同士は、スルーホール9c、9dによりコイルパターン4d、4eの間に並列に接続されている。第3層L3において、幅W1が細いコイルパターン4fと、幅W2が太いコイルパターン4d、4eとは、直列に接続されている。
【0060】
スルーホール9a、9bは、本発明の「第2接続部」の一例である。スルーホール9c、9dは、本発明の「第1接続部」の一例である。
【0061】
コイルパターン4a〜4fを基板3の板面に投影した場合、幅W1が細いコイルパターン4c、4fは、それぞれの投影パターンが一致する(つまりパターン同士が完全に重なり合う)ように形成されている。また、第2層L2にあるコイルパターン4a〜4cの形状と、第3層L3にあるコイルパターン4d〜4fの形状は、大部分で一致するようになっている。
【0062】
上記コイルパターン4a〜4fにより、磁気デバイス1のコイルが構成されている。つまり、磁気デバイス1のコイルは、基板3の第2層L2で、起点であるリード端子6iから、凸部2Lの周囲に1回目が巻かれた(コイルパターン4a)後、スルーホール9aを経由して、第3層L3に接続される。
【0063】
次に、コイルは、第3層L3で、凸部2Lの周囲に2回目が巻かれる(コイルパターン4d)。そして、コイルは、第3層L3で、凸部2Lの周囲に3回目が巻かれて、凸部2mの周囲を経由して、凸部2rの周囲に4回目が巻かれる(コイルパターン4f)。また、これと並列に、スルーホール9cを経由して接続された第2層L2で、凸部2Lの周囲に3回目が巻かれて、凸部2mの周囲を経由して、凸部2rの周囲に4回目が巻かれた(コイルパターン4c)後、スルーホール9dを経由して、第3層L3に接続される。
【0064】
次に、コイルは、第3層L3で、凸部2rの周囲に5回目が巻かれた(コイルパターン4e)後、スルーホール9bを経由して、第2層L2に接続される。そして、コイルは、第2層L2で、凸部2rの周囲に6回目が巻かれた(コイルパターン4b)後、終点であるリード端子6oに接続される。
【0065】
電流も上記の経路で流れる。つまり、図6(a)で説明すると、電流は、リード端子6iから、コイルパターン4a、スルーホール9a、およびコイルパターン4dに順に流れた後、コイルパターン4fに流れるとともに、スルーホール9cを介してコイルパターン4cに流れる。そして、電流は、コイルパターン4fからコイルパターン4eに流れ、また、コイルパターン4cからスルーホール9dを介してコイルパターン4eに流れた後、スルーホール9b、コイルパターン4b、およびリード端子6oの順で流れる。
【0066】
図3(b)および図4(b)に示すように、第2層L2では、幅が太いコイルパターン4a、4bを部分的に基板3の板面上で拡張することにより、放熱部4L、4rが設けられている。また、幅W1が細いコイルパターン4cを部分的に基板3の板面上で拡張することにより、放熱部4L、4L、4r、4rが設けられている。
【0067】
図3(c)および図4(c)に示すように、第3層L3では、幅W1が細いコイルパターン4fを部分的に基板3の板面上で拡張することにより、放熱部4L、4L、4r、4rが設けられている。各放熱部4L〜4L、4r〜4rは、銅箔から成る。
【0068】
図3に示すように、第2層L2と第3層L3のコイルパターン4a〜4fの周辺の空き領域には、放熱パターン5L〜5L、5r〜5rが設けられている。放熱パターン5L〜5L、5r〜5rは、コイルパターン4a〜4fと電気的に別体になっている。左側の放熱パターン5L〜5L、および右側の放熱パターン5r〜5r同士も別体になっている。
【0069】
図3(b)に示すように、第2層L2において、放熱パターン5L〜5L、5r〜5rと、コイルパターン4a〜4cとは絶縁されている。また、放熱パターン5L〜5L、5r〜5r同士も絶縁されている。
【0070】
図3(c)に示すように、第3層L3において、放熱パターン5L〜5L、5r〜5rと、コイルパターン4d〜4fとは絶縁されている。また、放熱パターン5L〜5L、5r〜5r同士も絶縁されている。
【0071】
放熱パターン5L〜5L、5r〜5rに対して、ねじ11、パッド8b、スルーホール8a、およびリード端子6i、6oは絶縁されている。
【0072】
複数の大径のスルーホール8dには、放熱ピン7a〜7fがそれぞれ埋め込まれている。放熱ピン7a〜7fは、銅などの導体から成る。第1層L1と第3層L3の放熱ピン7a〜7fの周囲には、スルーホール8dのパッド8cが設けられている。パッド8cは銅箔から成る。放熱ピン7a〜7fやパッド8cの表面には、銅めっきが施されている。放熱ピン7a〜7fの下端は、絶縁シート12と接触している(図5参照)。
【0073】
図3(b)に示すように、第2層L2において、コイルパターン4aの放熱部4Lには、スルーホール8dを介して放熱ピン7cが接続されている。また、コイルパターン4bの放熱部4rには、スルーホール8dを介して放熱ピン7dが接続されている。さらに、コイルパターン4cの各放熱部4L、4L、4r、4rには、スルーホール8dを介して放熱ピン7e、7a、7f、7bがそれぞれ接続されている。
【0074】
図3(c)に示すように、第3層L3において、左側の放熱パターン5L、5L、5Lに対して、放熱ピン7c、7e、7aとこれらの周囲のパッド8cおよびスルーホール8dがそれぞれ接続されている。また、右側の放熱パターン5r、5r、5rに対して、放熱ピン7d、7f、7bとこれらの周囲のパッド8cおよびスルーホール8dが接続されている。
【0075】
つまり、放熱ピン7cにより、第2層L2のコイルパターン4aと、第3層L3の放熱パターン5Lが接続されている。また、放熱ピン7dにより、第2層L2のコイルパターン4bと、第3層L3の放熱パターン5rが接続されている。さらに、放熱ピン7e、7a、7f、7bにより、第2層L2のコイルパターン4cと、第3層L3の放熱パターン5L、5L、5r、5rが接続されている。
【0076】
コイルパターン4a〜4fには大電流が流れるため、コイルパターン4a〜4fが発熱して、基板3の温度が上昇する。一般に、コイルパターン4a〜4fの幅が細いほど、発熱量は多くなる。然るに、幅W1の細いコイルパターン4c、4fは並列に接続されていて、該コイルパターン4c、4fの合計断面積S1+S1が、他の幅W2の太いコイルパターン4a、4b、4d、4eのそれぞれの断面積S2と同等になっている。このため、幅W1の細いコイルパターン4c、4fの合計発熱量が、幅W2の太いコイルパターン4a、4b、4d、4eのそれぞれの発熱量とほぼ同等となる。
【0077】
第2層L2にあるコイルパターン4a〜4cで発生した熱は、放熱部4L〜4L、4r〜4rに拡散されて、放熱ピン7a〜7fを介して第3層L3の放熱パターン5L〜5L、5r〜5rに伝わる。そして、放熱パターン5L〜5L、5r〜5rに拡散された熱は、絶縁シート12を介してヒートシンク10に伝わり、ヒートシンク10で放熱される。
【0078】
第3層L3にあるコイルパターン4d〜4fで発生した熱は、放熱部4L、4L、4r、4rに拡散されて、コイルパターン4d〜4fの表面と放熱部4L、4L、4r、4rの表面から、絶縁シート12を介してヒートシンク10に伝わり、ヒートシンク10で放熱される。
【0079】
また、基板3にこもった熱は、第3層L3にある放熱パターン5L〜5L、5r〜5rの表面から絶縁シート12を介してヒートシンク10に伝わり、ヒートシンク10で放熱される。
【0080】
上記実施形態によると、基板3の複数の層L2、L3に、幅W1が細いコイルパターン4c、4fと、幅W2が太いコイルパターン4a、4b、4d、4eとが、それぞれ設けられている。そして、異なる層L2、L3にある幅W1が細いコイルパターン4c、4fは、基板3の板面に投影した場合にそれぞれの投影パターンが一致し、かつ並列に接続されている。また、異なる層L2、L3にある幅W2が太いコイルパターン4a、4b、4d、4e同士が、直列に接続されている。さらに、第3層L3において、幅W1が細いコイルパターン4fと幅W2が太いコイルパターン4d、4eとが、直列に接続されている。
【0081】
このため、磁気デバイス1のコイルが、各層L2、L3に設けられた幅W2が太いコイルパターン4a、4b、4d、4eと、幅W1が細いコイルパターン4c、4fとから構成されるので、各層L2、L3にコイルパターン4a〜4fが複数回巻回されて、コイルの巻き数を多くすることができる。
【0082】
また、たとえば、1つの層にコイルパターンを1回だけ巻回する場合より、基板3の層数を少なくすることができる。また、たとえば、幅が太いコイルパターンだけを複数回巻回する場合や、コイルパターン4c、4fの形成位置をずらした場合(投影パターンが不一致の場合)より、基板3の面積を小さくすることができる。特に、異なる層L2、L3にあるコイルパターン4a〜4fの形状が大部分で一致しているので、コイルパターン4a〜4fが基板3の板面上で広がるのを抑えて、基板3および磁気デバイス1の小型化を実現することができる。
【0083】
また、幅W2の太いコイルパターン4d、4eの間に、幅W1の細いコイルパターン4c、4fを並列に接続しているので、コイルの全体に渡って、直流抵抗をある程度の大きさにとどめて、コイルの発熱を抑制することができる。特に、幅W1の細いコイルパターン4c、4fを直列に接続した場合より、該コイルパターン4c、4fでの発熱を抑えることができる。
【0084】
よって、磁気デバイス1のサイズが大きくなるのを抑えながら、コイルの巻き数を多くして、発熱を抑制することが可能となる。またこの結果、磁気デバイス1において、各コイルパターン4a〜4fの発熱を許容することができる。
【0085】
また、幅W1が細いコイルパターン4c、4fを部分的に拡張することにより、放熱部4L〜4L、4r〜4rを設けているので、該コイルパターン4c、4fで発生した熱を放熱部4L〜4L、4r〜4rに拡散させて、放熱させ易くすることができる。
【0086】
また、幅W2が太いコイルパターン4a、4b、4d、4eのそれぞれの断面積S2と、並列に接続された幅W1が細いコイルパターン4c、4fの合計断面積S1+S1とが、同等になっている。このため、コイルパターン4c、4fの合計発熱量を、コイルパターン4a、4b、4d、4eのそれぞれの発熱量と同程度に抑えることができる。
【0087】
さらに、基板3を貫通するスルーホール9a〜9dにより、異なる層L2、L3にあるコイルパターン4a〜4f同士を接続しているので、基板3の製造を容易にすることができる。
【0088】
本発明では、以上述べた以外にも種々の実施形態を採用することができる。たとえば、以上の実施形態では、基板3の内部にある第2層L2と、裏面にある第3層L3に、コイルパターン4a〜4fを設けた例を示したが、本発明はこれのみに限定するものではない。これ以外に、たとえば、基板の表面にある層と裏面にある層に、幅が太いコイルパターンと幅が細いコイルパターンをそれぞれ設けてもよい。また、3層以上を有する多層基板において、3層以上に幅が太いコイルパターンと幅が細いコイルパターンをそれぞれ設けてもよい。
【0089】
また、以上の実施形態では、コア2aの3つの凸部2m、2L、2rに巻回されるように、基板3にコイルパターン4a〜4fを形成した例を示したが、本発明はこれのみに限定するものではない。コイルパターンは、コアの少なくとも1つの凸部に巻回されていればよい。
【0090】
また、以上の実施形態では、第2層L2のコイルパターン4a〜4cの形状と、第3層L3のコイルパターン4d〜4fの形状とが大部分で一致する例を挙げたが、各層のコイルパターンの形状が完全に一致するようにしてもよい。
【0091】
また、以上の実施形態では、図5に示したように、コイルパターン4a〜4fの厚みが同等になっている例を示したが、本発明はこれのみに限定するものではなく、コイルパターン4a〜4fの厚みは異なっていてもよい。
【0092】
また、以上の実施形態では、第1および第2接続部としてスルーホール9a〜9dを基板3に設けた例を示したが、本発明はこれのみに限定するものではない。これ以外に、端子やピンやはんだなどの他の導体から成る接続部を基板に設けて、異なる層にあるコイルパターン同士を接続するようにしてもよい。
【0093】
また、以上の実施形態では、厚銅箔基板を用いた例を示したが、本発明はこれのみに限定するものではなく、一般的な樹脂製のプリント基板や金属製の基板などのような、他の基板を用いてもよい。金属製の基板の場合は、基材とコイルパターンとの間に絶縁体を設ければよい。
【0094】
また、以上の実施形態では、E字形の上コア2aにI字形の下コア2bを組み合わせた例を示したが、本発明は、2つのE字形コアを組み合わせた磁気デバイスにも適用することができる。
【0095】
さらに、以上の実施形態では、車両用のスイッチング電源装置100における、平滑回路55のチョークコイルLとして使用される磁気デバイス1に本発明を適用した例を挙げたが、トランス53(図1)として使用される磁気デバイスに対しても、本発明を適用することは可能である。また、車両以外の、たとえば電子機器用のスイッチング電源装置で使用される磁気デバイスにも本発明を適用することは可能である。
【符号の説明】
【0096】
1 磁気デバイス
2a 上コア
2b 下コア
3 基板
4a、4b、4d、4e 幅の太いコイルパターン
4c、4f 幅の細いコイルパターン
4L、4L、4L、4L、4r、4r、4r、4r 放熱部
L2 第2層
L3 第3層
W1、W2 コイルパターンの幅
S1、S2 コイルパターンの断面積
図1
図2
図3
図4
図5
図6