特許第6084105号(P6084105)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6084105メチル分岐を有する脂肪族アルデヒドおよび香料におけるその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6084105
(24)【登録日】2017年2月3日
(45)【発行日】2017年2月22日
(54)【発明の名称】メチル分岐を有する脂肪族アルデヒドおよび香料におけるその使用
(51)【国際特許分類】
   C07C 47/02 20060101AFI20170213BHJP
   C11B 9/00 20060101ALI20170213BHJP
【FI】
   C07C47/02CSP
   C11B9/00 J
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-89050(P2013-89050)
(22)【出願日】2013年4月22日
(65)【公開番号】特開2014-210751(P2014-210751A)
(43)【公開日】2014年11月13日
【審査請求日】2016年3月24日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成24年10月27日に第56回香料・テルペンおよび精油化学に関する討論会にて発表
(73)【特許権者】
【識別番号】000201733
【氏名又は名称】曽田香料株式会社
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 慎也
(72)【発明者】
【氏名】高岡 秀明
(72)【発明者】
【氏名】木村 公子
(72)【発明者】
【氏名】佐無田 靖
【審査官】 水島 英一郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開平02−243638(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 47/02
C11B 9/00
CAplus(STN)
REGISTRY(STN)
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の化学式1
【化1】
で示される5−メチルウンデカナール。
【請求項2】
下記の化学式2
【化2】
で示される6−メチルウンデカナール。
【請求項3】
請求項1および請求項2記載のメチル分岐を有する脂肪族アルデヒドから選ばれる少なくとも1種の化合物を添加してなる香料組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は香料化合物などとして有用なメチル分岐を有する新規脂肪族アルデヒドおよび、該新規脂肪族アルデヒドと10−メチルウンデカナールを有効成分として含有する新規な香料組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、脂肪族アルデヒド類は香料素材として有用な化合物が数多く知られている。例えば、直鎖の脂肪族アルデヒドの例としてはn−デカナール、n−ウンデカナール、n−ドデカナールなどがあり、n−デカナールは油っぽいオレンジ果皮様の香気を有することが知られている。また、メチル分岐を有する脂肪族アルデヒドに関する研究も行われており、
6−メチルオクタナール、8−メチルノナナール、8−メチルデカナールがユズの果皮から見出されている(非特許文献1)。他にも末端付近にメチル基を有するオクタナール、ノナナール、デカナールの香気に関する研究も行われており、これらのアルデヒドはメチル基を持たない直鎖のアルデヒドと比較して、柑橘様、花様の香りが増強されることが報告されている(特許文献1)。
【0003】
しかしこれらアルデヒドの香気は、単体では報告がなされているが、メチル基がα位から末端まで移動した際の、一連の香気を比較した事例は見受けられない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2604630号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Tajima, K. et al. J. Agric. Food Chem., 1990, 38, 1544−1548.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、香料化合物に有用なメチル分岐を有する新規脂肪族アルデヒドを提供すること、また、該新規脂肪族アルデヒドおよび10−メチルウンデカナールを添加した香料組成物、およびそれを添加した飲食品類、香粧品類、保健衛生材料、医薬品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、高級脂肪族アルデヒド類にメチル基を導入した際のメチル基の位置と 香気との関係について検討した。検討の対象としてメチル分岐を有するウンデカナールを選定し、全9化合物の香気についてn−デカナールやn−ドデカナールと比較して評価した結果、5−メチルウンデカナール、6−メチルウンデカナールおよび10−メチルウンデカナールが優れた香気特性を有することを見出し、本発明を完成するに至った。なお、5−メチルウンデカナール、6−メチルウンデカナールは新規化学物質である。また、10−メチルウンデカナールは既知の化合物であるが、その香気についてはこれまで知られていない。
【0008】
すなわち、本発明のメチル分岐を有する新規脂肪族アルデヒドは、下記の化学式1
【0009】
【化2】
で示される5−メチルウンデカナール、および下記の化学式2
【0010】
【化2】
で示される6−メチルウンデカナールである。
【0011】
また、本発明の好ましい態様は、これらのメチル分岐を有する新規脂肪族アルデヒドおよび10−メチルウンデカナールを添加してなる香料組成物であり、そしてその香料組成物を添加してなる飲食品類、香粧品類、保健衛生材料、医薬品である。
【0012】
本発明のメチル分岐を有する脂肪族アルデヒドは、例えば次の反応式1に従って製造することができる。
【0013】
【化3】
(式中、a、b、およびcはa+b+c=8となる数を示し、aは4〜5の数を示し、bは0〜1の数を示す)
【0014】
すなわち、式(1)で示されるブロモアルカンを用いて式(2)で示されるグリニャール試薬を調製し、式(3)で示されるブロモクロロアルカンと反応させて式(4)で示される化合物を得、次いでこれを用いてグリニャール試薬を調製しジメチルホルムアミドと反応させて式(5)で示される該メチル分岐を有する新規脂肪族アルデヒドを製造することができる。なお、上記反応は工業的に使用できる製造方法であり、原料も入手容易である。
【発明の効果】
【0015】
本発明のメチル分岐を有する新規脂肪族アルデヒドおよび10−メチルウンデカナールは、それらの構造の類似性に反して異なる香気特性を有しており、柑橘系フレーバー素材として汎用されているn−デカナールやn−ドデカナールと比較してシトラス感やスイート感、ピール感を増強し、より天然に近い優れた香気特性を有している。したがって、本発明の新規脂肪族アルデヒドおよび10−メチルウンデカナールを有効香気成分とした香料組成物を適宜選択し添加するか、これら化合物の組み合わせや配合比率を調整することで従来困難であった香気イメージの調整が可能である。また、該化合物やその香料組成物を飲食品類、香粧品類、保健衛生材料、医薬品に添加することによってそれらの香気を増強するとともにより複雑な天然感を有する香気を付与することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のメチル分岐を有する新規脂肪族アルデヒドは、下記の化学式1
【0017】
【化4】
で示される5−メチルウンデカナール、および下記の化学式2
【0018】
【化5】
で示される6−メチルウンデカナールである。
また、本発明の香料組成物は、下記の化学式1
【0019】
【化6】
で示される5−メチルウンデカナール、および下記の化学式2
【0020】
【化7】
で示される6−メチルウンデカナール、および10−メチルウンデカナールを1種または2種以上含有する香料組成物である。
【0021】
本発明のメチル分岐を有する新規脂肪族アルデヒドおよび10−メチルウンデカナールや、それらの香料組成物が添加される好適な使用対象品としては、飲食品類、香粧品類、保健衛生材料、医薬品などに用いることができる。例えば飲食品類としては果汁飲料、炭酸飲料、甘味果実酒、リキュール、冷菓、ジャム、チューインガムなどに特徴的な香気香味を付与できる。また、香粧品類としては、例えば食器用洗剤、洗濯用洗剤、柔軟剤、芳香剤、シャンプー、リンス、化粧品、石鹸などに特徴的な香気を付与できる。
【0022】
本発明のメチル分岐を有する新規脂肪族アルデヒドおよび10−メチルウンデカナールを他の香料と調合する場合は、香料組成物の総量に対して該新規脂肪族アルデヒドおよび10−メチルウンデカナールの濃度が0.001〜20%の割合で配合することが好ましく、より好ましくは0.01〜10%である。
【0023】
次に、本発明のメチル分岐を有する新規脂肪族アルデヒドの調製法を実施例に基づいて説明する。ただし、以下の内容についていかなる意味でも、本発明を限定的に解釈してはならない。
【実施例1】
【0024】
1−クロロ−4−メチルデカンの合成
マグネシウムを0.87g(35.8mol)量り取り、系内を窒素置換してTHF21.3gを加えた。これに、2−ブロモオクタン6.91g(35.8mol)をTHF21.3gで希釈した溶液を室温で1時間かけて滴下し、その後60℃で3時間反応させてグリニャール試薬を調製した。続いて、別の容器に塩化リチウム0.015g(0.36mmol)と塩化銅(II)0.024g(0.18mmol)を量り取り、THF12.9gおよび1−ブロモ−3−クロロプロパン2.83g(18.0mmol)仕込んで系内を窒素置換し、−10℃以下で先ほど調製したグリニャール試薬を45分かけて滴下した。滴下終了後、そのままの温度を保って3時間撹拌した。その後、反応液に20%塩化アンモニア水溶液7.7gを加えて失活し、酢酸エチル30gで抽出した。有機相を20%食塩水30gで洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、エバポレーターで溶媒を除去し、反応クルードを3.42g得た。GC分析したところ、目的の1−クロロ−4−メチルデカンが84.0%含まれていた。
【実施例2】
【0025】
5−メチルウンデカナールの合成
マグネシウムを0.76g(31.3mol)量り取り、系内を窒素置換してTHF7.1gを加えた。これに実施例1で得られた反応クルード2.98gをTHF7.1gで希釈した溶液を室温で1時間かけて滴下し、その後60℃で3時間反応させてグリニャール試薬を調製した。続いて、N,N−ジメチルホルムアミド1.37g(18.8mmol)をTHF7.1gで希釈した溶液を室温で10分かけて滴下し、その後40℃で2時間撹拌した。その後10℃まで冷却して10%硫酸水溶液を38.7g滴下し、酢酸エチル30gで抽出した。有機相を5%炭酸水素ナトリウム水溶液30gで洗浄した後、さらに20%食塩水30gで洗浄した。無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、エバポレーターで溶媒を除去して反応クルード2.58gを得た。これをシリカゲルカラムクロマトで精製し、GC純度96.7%の精製物0.25gを得た。
【0026】
以下に、1H−NMR、MSのスペクトルデータを示す。
1H−NMR(400MHz,CDCl3)δ0.80(3H,d),0.80(3H,t),1.00−1.11(2H,m),1.19−1.29(9H,m),1.29−1.33(2H,m),1.477−1.622(2H,m),2.34(2H,t),9.70(1H,t)
MS:184(M+),96(94),81(89),71(99),70(85),57(98),56(54),55(98),43(100),41(72)
【実施例3】
【0027】
1−クロロ−5−メチルデカンの合成
マグネシウムを0.87g(35.8mol)量り取り、系内を窒素置換してTHF21.3gを加えた。これに、2−ブロモへプタン6.45g(35.8mol)をTHF21.3gで希釈した溶液を室温で1時間かけて滴下し、その後60℃で3時間反応させてグリニャール試薬を調製した。続いて、別の容器に塩化リチウム0.015g(0.36mmol)と塩化銅(II)0.024g(0.18mmol)を量り取り、THF12.9gおよび1−ブロモ−4−クロロブタン3.09g(18.0mmol)仕込んで系内を窒素置換し、−10℃以下で先ほど調製したグリニャール試薬を45分かけて滴下した。滴下終了後、そのままの温度を保って3時間撹拌した。その後、反応液に20%塩化アンモニア水溶液7.7gを加えて失活し、酢酸エチル30gで抽出した。有機相を20%食塩水30gで洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、エバポレーターで溶媒を除去し、反応クルードを3.90g得た。GC分析したところ、目的の1−クロロ−4−メチルデカンが96.0%含まれていた。
【実施例4】
【0028】
6−メチルウンデカナールの合成
マグネシウムを0.82g(33.6mol)量り取り、系内を窒素置換してTHF7.1gを加えた。これに実施例3で得られた反応クルード3.20gをTHF7.1gで希釈した溶液を室温で1時間かけて滴下し、その後60℃で3時間反応させてグリニャール試薬を調製した。続いて、N,N−ジメチルホルムアミド1.47g(20.2mmol)をTHF7.1gで希釈した溶液を室温で10分かけて滴下し、その後40℃で2時間撹拌した。その後10℃まで冷却して10%硫酸水溶液を38.7g滴下し、酢酸エチル30gで抽出した。有機相を5%炭酸水素ナトリウム水溶液30gで洗浄した後、さらに20%食塩水30gで洗浄した。無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、エバポレーターで溶媒を除去して反応クルード2.65gを得た。これをシリカゲルカラムクロマトで精製し、GC純度98.5%の精製物0.85gを得た。
【0029】
以下に、1H−NMR、MSのスペクトルデータを示す。
1H−NMR(400MHz,CDCl3)δ0.77(3H,d),0.81(3H,t),0.98−1.08(2H,m),1.13−1.34(11H,m),1.50−1.1.58(2H,m),2.35(2H,t),9.69(1H,t)
MS:184(M+),98(24),96(33),95(55),82(21),69(40),57(100),55(29),43(38),41(38)
【実施例5】
【0030】
メチル分岐を有するウンデカナール全9化合物およびn−ドデカナールの香気を比較するため、専門パネル8名で香気評価を行った。その結果、表1の通りであった。
【0031】
【表1】
【0032】
以上より、本発明の5−メチルウンデカナール、6−メチルウンデカナール、10−メチルウンデカナールを添加することにより、シトラス感、スイート感、ピール感をそれぞれ強調することが可能であることを確認した。これにより、前記化合物を適宜選択することにより、シトラス感、スイート感、ピール感の強さを所望のバランス調整により複雑で天然感を有するフレーバーを製造することができる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の5−メチルウンデカナール、6−メチルウンデカナールおよび10−メチルウンデカナールは、それぞれにシトラス感、スイート感およびピール感などを増強する特性を持っている。これにより、前記化合物を適宜選択するか複数を組み合わせて配合比を調整することにより、シトラス感、スイート感、ピール感の強さを所望のバランスに調整しより複雑で天然感を有するフレーバーを製造することができる。例えば飲食品類、香粧品類、保健衛生材料、医薬品などの香気賦与又は香味増強剤として上記化合物の香料組成物が利用可能である。