(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
溶接チップを研磨するドレッサーの研磨部のトルクの上昇率または下降率に基づき、前記研磨部が前記溶接チップを研磨している期間である研磨期間および研磨していない期間である非研磨期間を判定する期間判定部と、
前記期間のそれぞれにあらかじめ対応付けられた異常を検出する異常検出部と、
少なくとも片方に前記溶接チップを有する、相対的に近接してワークを挟持する一対の挟持部と、
前記一対の挟持部を有する、前記ワークに対して移動可能な溶接ガンと、
他方の挟持部に対する前記溶接チップの相対的な移動量を検出する移動量検出部と
を備え、
前記異常検出部は、
前記期間判定部によって判定された前記研磨期間においては、前記移動量検出部で検出される所定時間当たりの前記溶接チップの前記移動量と所定の閾値との比較に基づいて異常を検出する処理を実行すること
を特徴とする研磨システム。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して、本願の開示する研磨システムおよびスポット溶接システムの実施形態を詳細に説明する。なお、以下に示す実施形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0011】
まず、実施形態に係る研磨システムが行う異常検出の手順について
図1を用いて説明する。
図1は、実施形態に係る研磨システムの異常検出の手順を示す図である。
【0012】
溶接チップの先端は、溶接実行回数が増えるに伴い加熱されて変形や摩耗したり、溶接屑を付着させたりして、溶接品質の低下がもたらされる。このため、溶接チップは、一定の溶接実行回数ごとに研磨され、形状や表面が一定の状態に維持される必要がある。
【0013】
ここで、従来は、研磨の実行中の研磨部であるカッターの、たとえば、回転トルクや回転数から、溶接チップの研磨の実行にかかる異常が自動的に検出されて報知されてきた。しかしながら、従来の手法では、カッターの刃先に関する異常しか検出できなかった。
【0014】
このため、カッターの刃先以外の異常により、研磨が不十分なまま溶接工程が再開されてワークの溶接不良が引き起こされるおそれがあった。そこで、実施形態に係る研磨システムでは、研磨に関する異常を多面的に検知し、異常が検知された場合に研磨の実行を停止することとした。
【0015】
これにより、研磨不良の溶接チップによる不良品の発生を未然に防ぐことができる。以下では、実施形態に係る研磨システムが溶接チップの研磨の実行にかかる異常を検出する手順について説明する。
【0016】
実施形態に係る研磨システムは、チップ駆動部により可動な可動シャンクの先端に取り付けられた溶接チップを有する。溶接チップは、不図示の他方の電極との間にワークを挟持して溶接する。
【0017】
また、実施形態に係る研磨システムは、ドレッサーをさらに備える。ドレッサーは、研磨駆動部により回転、揺動または振動等して溶接チップを研磨する砥石、研磨布紙や金属製のカッター等の研磨部を有する。
【0018】
また、研磨システムは、期間判定部と、異常検出部とを有する。期間判定部は、研磨システムが研磨の実行中か否かの期間を判定する。異常検出部は、期間判定部で判定される期間のそれぞれにあらかじめ対応付けられた異常を判定する。
【0019】
以下では、研磨システムが、異常の判定を行う手順について説明する。説明をわかりやすくする観点から、研磨部は、たとえば、回転して溶接チップを研磨し、研磨部のトルクや速度は、回転トルクや回転数で検出されるものとする。
【0020】
期間判定部は、溶接チップを研磨するドレッサーの研磨部の回転トルク等に基づき研磨部が溶接チップを研磨している期間である研磨期間(a1)および研磨していない期間である非研磨期間を判定する(b1)。
【0021】
異常検出部は、研磨期間における研磨の実行に関する異常を検出し(c1)、非研磨期間における、たとえば、研磨駆動部の異常等のその他の異常(d1)を検出する。また、異常検出部にて異常が検出された場合は、研磨の実行は停止される。
【0022】
以上のように、実施形態の研磨システムは、研磨期間または非研磨期間に対応する異常を多面的に検知し、異常を検知した場合は自動的に研磨の実行を停止する。これにより、不良品の発生が未然に防止される。
【0023】
続いて、実施形態に係る研磨システム2について、
図2を用いて説明する。
図2は、スポット溶接システムの全体構成を示す図である。なお、説明をわかりやすくする観点から、
図2には、鉛直上向きを正方向とし、鉛直下向きを負方向とするZ軸を含む3次元の直交座標を図示している。したがって、XY平面に沿った方向は水平方向を指す。
【0024】
図2に示すように、研磨システム2を備えたスポット溶接システム1は、ロボット10、ドレッサー20、および、ロボットコントローラ30を備える。また、ロボットコントローラ30は、プログラミングペンダント50を備える。
【0025】
ロボット10は、複数のリンク部材10aが複数の関節10bにより相対的に可動するように取り付けられた多軸構造の多関節ロボットであり、先端にエンドエフェクタである溶接ガン11を備える。
【0026】
ロボットコントローラ30からロボット10へ伸びる給電または信号ケーブル101の一部は、リンク部材10aに沿って取り付けられ、溶接ガン11の有する溶接トランス13に接続される。
【0027】
続いて、溶接ガン11について説明する。溶接ガン11は、ロボット10のアームの先端部のリンク部材10aに取り付けられた、ベース部材12を有する。ベース部材12には、溶接トランス13、アーム14、および、チップガン16が取り付けられる。
【0028】
チップガン16は、溶接チップ15aが先端に取り付けられた可動シャンク16a、チップ駆動部17、および、移動量検出部18を有する。チップ駆動部17は、可動シャンク16aを軸G1に沿って移動させ、溶接チップ15aに後述する溶接チップ15bとで挟持動作を行わせる。
【0029】
アーム14は平板状のU字型のアームであり、平板上におけるU字の開口部を結ぶ線が軸G1と一致する。チップガン16は、U字の開口部の一方の端点に、溶接チップ15aを溶接チップ15bに向い合せて取り付けられる。アーム14の他方の端点には、先端に溶接チップ15bが取り付けられた固定シャンク14aが備えられる。
【0030】
チップ駆動部17としては、たとえば、サーボモータが使用される。移動量検出部18は、たとえば、エンコーダが使用され、チップ駆動部17の動作に基づいて、溶接チップ15aが移動した量が検出される。
【0031】
続いて、ドレッサー20について説明する。ドレッサー20は、本体であるボディ21を床等に固定された支柱25に固定して取り付けられる。ボディ21は研磨駆動部22、ドレッサー検出部23、および、研磨部24を有する。
【0032】
研磨駆動部22は、たとえば、サーボモータが使用され、研磨部24を、たとえば、回転駆動する。溶接チップ15aや溶接チップ15bは、回転する研磨部24に加圧されて押し付けられることで研磨される。
【0033】
なお、ドレッサー検出部23は、たとえば、電流センサおよびエンコーダが使用され、研磨部24の回転トルクや回転数の情報を検出する。ロボットコントローラ30からドレッサー20へ伸びる給電または信号ケーブル201は、ドレッサー20の有する研磨駆動部22やドレッサー検出部23と接続される。
【0034】
プログラミングペンダント50は、ロボットコントローラ30のマンマシンインターフェースを担う入出力装置である。たとえば、このプログラミングペンダント50は、スイッチやボタン、キーといった入力部51と、ディスプレイなどの表示デバイスである報知部52を備える。
【0035】
プログラミングペンダント50は、給電または信号ケーブル501を介してロボットコントローラ30と接続される。ここで、研磨システム2は、溶接ガン11、ドレッサー20、および、ロボットコントローラ30を備える。なお、研磨システム2は、ロボットコントローラ30に内蔵された後述する研磨制御部40により制御されており、同様の機能を有するものであれば、この形態に限られない。この点については
図3Aを用いて後述する。
【0036】
ところで、チップ駆動部17や研磨駆動部22は、サーボモータ以外にも電気や圧搾空気等により動作可能なモータやアクチュエータを使用することができる。また、移動量検出部18は、チップ駆動部17がサーボモータの場合は、位置制御のために組み合わされるエンコーダ、ホール素子やレゾルバ等を使用することができる。サーボモータの速度やトルクをもとに位置を演算する演算装置を使用することもできる。
【0037】
また、移動量検出部18によって取得したチップ駆動部17のエンコーダ値に基づいて溶接チップ15aの移動量を検出する旨の説明を行ったが、他の手法によって移動量を取得することとしてもよい。
【0038】
移動量検出部18の位置検出を行う機能に対しては、たとえば、渦電流式、光学式、超音波式、接触式や画像式といった非接触式の位置センサを用いることができる。たとえば、ドレッサー20等に位置センサを設け、かかる位置センサが検出した溶接チップ15aの位置データの変化量を、移動量検出部18が移動量として取得することとしてもよい。
【0039】
続いて、実施形態に係る研磨システム2について
図3Aを用いて説明する。
図3Aは、研磨システムの異常検出部の構成を示すブロック図である。説明をわかりやすくする観点から、研磨の実行等の一般的な研磨システムが備える機能を省略して説明する。
【0040】
また、溶接チップ15a(
図2参照)にのみに研磨が実行されるとして説明する。さらに、研磨部24(
図2参照)は、回転して溶接チップ15aを研磨し、
図2に示したZ軸方向には動かないものとする。
【0041】
以下の記述において、溶接チップ15aが研磨部24へ加圧されて押し付けられる力を「加圧力」、研磨部24の回転トルクおよび回転数を「回転トルク」および「回転数」とする。
【0042】
また、実施形態では、研磨制御部40および記憶部41が、スポット溶接システム1の有するロボットコントローラ30に内蔵されているが、別体でもよく、ロボット10やドレッサー20に内蔵されてもよい。
【0043】
まず、スポット溶接システム1は、ロボット10と、溶接ガン11と、ドレッサー20と、ロボットコントローラ30とを備える。ロボットコントローラ30は、制御部31を備えており、制御部31は、実行部31aと、研磨制御部40と、記憶部41とをさらに備える。
【0044】
ロボット10は、たとえば、6軸の多軸ロボットであり、終端可動部には、溶接ガン11が設けられる。すなわち、ロボット10は、溶接ガン11などのエンドエフェクタを交換可能な汎用ロボットである。溶接ガン11およびドレッサー20については後述する。
【0045】
制御部31は、ロボットコントローラ30の全体制御を行う制御部である。また、実行部31aは、ロボット10や、チップ駆動部17、研磨駆動部22に所定の動作を実行させる、スポット溶接システム1の全体の動作を実行させる実行部である。具体的には、実行部31aは、ロボット10に溶接ガン11を移動させたり、チップ駆動部17に溶接チップ15aを移動させたり、研磨駆動部22に研磨部24を回転させたりする。
図3Aの例では、実行部31aによってロボット10、チップ駆動部17、研磨駆動部22が同一の制御周期にて制御されるよう構成されている。研磨制御部40および記憶部41については後述する。
【0046】
つづいて、研磨システム2について説明する。
図3Aに示すように、研磨システム2は、溶接ガン11と、ドレッサー20と、研磨制御部40と、記憶部41とを備える。なお、
図3Aにおいて、研磨システム2の備える、研磨制御部40および記憶部41を点線の枠で囲んで示す。
【0047】
溶接ガン11は、チップ駆動部17と、移動量検出部18とを備え、ドレッサー20は、研磨駆動部22と、ドレッサー検出部23とを備える。研磨制御部40は、期間判定部40aと、異常検出部40bと、指示部40cとを備える。記憶部41は、基準値情報41aと、指定値情報41bとを記憶する。
【0048】
まず、溶接チップ15aの移動の実行や移動量の検出を行う部位について説明する。溶接ガン11に備えられたチップ駆動部17は、溶接チップ15aを軸G1(
図2参照)に沿って移動させ、研磨部24に対して加圧しながら研磨を実行する。チップ駆動部17は、たとえば、サーボモータが使用される。
【0049】
移動量検出部18は、チップ駆動部17から取得したデータに基づいて溶接チップ15aが軸G1上を移動した距離を検出する。移動量検出部18は、たとえば、エンコーダが使用される。
【0050】
続いて、ドレッサー20の駆動に関する部位について説明する。研磨駆動部22は、研磨部24を回転駆動し、たとえば、サーボモータが使用される。ドレッサー検出部23は、研磨駆動部22から取得したデータに基づいて研磨部24の回転トルクや回転数を検出し、たとえば、電流センサおよびエンコーダが使用される。
【0051】
続いて、研磨制御部40について説明する。期間判定部40aは、ドレッサー検出部23から回転トルクの情報を得る。期間判定部40aは、さらに、溶接チップ15aが研磨部24に加圧された際の回転トルクの上昇率を算出して、基準値情報41aと比較する。
【0052】
ここで、基準値情報41aは、研磨の実行が正常になされている時の、回転トルクの上昇率等の、研磨量以外の研磨の実行時の各条件値の基準値や基準となる値の範囲である。期間判定部40aは、この回転トルクの上昇率が基準値以上であれば、研磨の実行の工程が、研磨が実行されていない非研磨期間から研磨が実行されている研磨期間に移行したことを判定する。一方で、期間判定部40aは、回転トルクの上昇率が基準値以下の場合、異常が発生したとして異常検出部40bに信号を送る。
【0053】
続いて、異常検出部40bについて説明する。異常検出部40bは、以下に述べる3つの異常を含む異常の検出を行う。まず、第一の異常検出機能について説明する。異常検出部40bは、非研磨期間における回転トルクを基準値情報41aと比較することで、研磨駆動部22の異常を検出する。
【0054】
また、第二の異常検出機能として、研磨期間における回転トルクを基準値情報41aと比較することで、研磨の実行に関する異常を検出する。この点については、
図5Aおよび
図5Bを用いて後述する。
【0055】
第三の異常検出機能として、移動量検出部18から取得した研磨の実行前後の研磨量を、指定値情報41bと比較することで研磨駆動部22等の異常を検出する。ここで、指定値情報41bは、あらかじめ研磨量を指定する指定値である。この点は、
図6を用いて後述する。
【0056】
異常検出部40bは、異常を検出した場合や、期間判定部40aから異常を伝える信号を受信した場合、指示部40cに研磨の実行の停止にかかる信号を渡す。指示部40cは、異常検出部40bから研磨の実行の停止に関する信号を受け取った場合に、受け取った信号に対する動作を、実行部31aを経由してロボット10や、チップ駆動部17、研磨駆動部22に指示する処理を行う。また、指示部40cは、報知部52(
図2参照)に異常の発生や異常の原因を報知させてもよい。
【0057】
記憶部41は、ハードディスクドライブや不揮発性メモリといった記憶デバイスである。基準値情報41aおよび指定値情報41bの内容については既に説明したので、ここでの説明を省略する。
【0058】
続いて、
図3Aに示した例の変形例について説明する。
図3Bは、研磨システムの異常検出部の変形例の構成を示すブロック図である。なお、
図3Bでは、
図3Aに示した構成要素には同一の符号を付している。また、以下では
図3Aと重複する説明については省略することとする。
【0059】
図3Bに示すように、研磨システム2に、通信部43を設けることとしてもよい。かかる通信部43はLANボードなどの通信デバイスであり、移動量検出部18やドレッサー検出部23から受信したデータを研磨制御部40に渡す処理を行う。また、この通信部43は研磨制御部40から受け取ったデータを、チップ駆動部17や研磨駆動部22へ送信する処理を行う。
【0060】
続いて、
図3Aに示した期間判定部40aや異常検出部40bによって行われる異常検出処理の具体例について
図4を用いて説明する。
図4は、研磨の実行時の溶接チップの位置と諸条件との関係を示すタイムチャートであり、正常に研磨が実行された状態を表す。なお、
図4の例では予め定めた時間(後述の時間T3からT4まで)だけ研磨を実行するものとする。
【0061】
また、溶接チップのZ軸上の位置を表す「チップ位置」は、溶接チップ15a(
図2参照)の研磨に関わらない部分の位置を意味し、チップ位置の変化量は、溶接チップの移動量すなわち研磨量に等しくなるものとする。また、加圧力は、Z軸負の方向で正となるように定義する。
【0062】
なお、加圧力や回転トルクの立ち上がりや立ち下り等の変化時に、初期値から目的値に到達するまでの応答時間が存在するが、研磨の実行のタイムスケールからすると微小なものとして無視することができる。
【0063】
時間T0において、研磨駆動部22(
図2参照)は、研磨部24(
図2参照)の回転を開始する。異常検出部40bは、時間T0から時間T1までの回転トルクq1の、たとえば、平均値や振幅値を基準値情報41aと比較して研磨駆動部22の異常を判定する(判定A)。
【0064】
たとえば、時間T0から時間T1における回転トルクq1の平均値や振幅値が基準値情報41aより大きい場合、研磨駆動部22の動力伝達部位が異物を噛みこんで過負荷になった事等が原因として挙げられる。
【0065】
続いて、判定Aが正常と判断されて回転数がr1で一定になると、時間T1において溶接チップ15aが加圧力f1で加圧され、チップ位置Z0から研磨部24に向かって移動を開始する。溶接チップ15aは時間T2で研磨部24に接触する。
【0066】
溶接チップ15aは、研磨部24に接触した後さらに加圧され、時間T3で加圧力はf2に到達する。この時、チップ位置はZ1となる。回転トルクは、回転数を一定に保つために加圧力の増加に伴い調整されてq2に上昇する。
【0067】
期間判定部40aは、回転トルクの上昇率、すなわち(q2−q1)/(T3−T2)を基準値情報41aと比較する。回転トルクの上昇率が基準値以上の場合、期間判定部40aは、非研磨期間から研磨期間に移行したことを判定する(判定B)。
【0068】
判定Bにおいて、回転トルクの上昇率が、基準値情報41aに満たない場合、期間判定部40aは、異常検出部40bに異常の発生を知らせる信号を渡す。この異常の発生を知らせる信号を受け取った異常検出部40bは、指示部40cに研磨の実行を停止させ、異常を報知部52(
図2参照)に報知させる。
【0069】
判定Bで検出される異常としては、ロボット10の誤作動または指示部40cのプログラムの不備等により、溶接チップ15aが研磨部24に接触していないこと、または、加圧力の設定が不適切であること等が挙げられる。
【0070】
判定Bにおいて異常がなければ、時間T3からT4までは、加圧力f2および回転トルクq2にて略一定の状態で研磨が行われる。溶接チップ15aは先端から研磨されながらチップ位置Z1からチップ位置Z2へ移動する。
【0071】
異常検出部40bは、時間T3から時間T4における回転トルクの平均値または振幅値を基準値情報41aと比較して異常を判定する(判定C)。この点については
図5Aおよび
図5Bを用いて後述する。
【0072】
また、異常検出部40bは、時間T3から時間T4における研磨の実行前後のチップ位置の変化量、すなわち研磨量であるZ1−Z2に基づいて異常を判定する(判定D)。この点について、
図6を用いて後述する。
【0073】
時間T4にて、研磨の実行が正常に終了すれば、チップ駆動部17が研磨の場合と逆方向に動作することで溶接チップ15aはチップ位置Z0に戻される。なお、この際、溶接チップ15aが研磨部24から離脱するとともに、時間T5で回転トルクがq3に低下する。なお、回転トルクq3は、回転トルクq1と略同値となる。
【0074】
時間T5で非接触状態になった溶接チップ15aが時間T6にてチップ位置Z0に戻ると、研磨部24の回転が停止される。なお、時間T5から時間T6の期間において加圧力が負の値となるのは、加圧力がZ軸負の方向で正となるように定義したためである。
【0075】
時間T7における研磨部24の回転の停止とともに、溶接チップ15aの研磨の実行に係る一連の処理が終了する。ここで、時間T4から時間T5の回転トルクの下降率は(q3−q2)/(T5−T4)となる。
【0076】
回転トルクの下降率と基準値情報41aとの比較から、研磨期間から非研磨期間に移行したか否かを判定する判定Eを設けてもよい。なお、判定Eで検出される異常としては、たとえば、チップガン16の誤作動や指示部40cのプログラムの不備等が挙げられる。
【0077】
また、回転トルクq3は、溶接チップ15aと接触していない研磨部24の回転トルクであり、時間T5から時間T6の期間に、判定Aと同様の異常検出である判定Fを設けてもよい。
【0078】
また、時間T1から時間T2、または、時間T5から時間T6等の非研磨期間における加圧力の平均値や振幅値等から、チップ駆動部17の異常を検出する判定Gを設けることも可能である。チップ駆動部17の異常としては、たとえば、チップ駆動部17がサーボモータの場合、モータのコイルの短絡や断線、または、動力伝達部位の破損、または移動量検出部18やサーボアンプの故障等の異常が挙げられる。
【0079】
続いて、
図5Aおよび
図5Bを用いて、研磨期間における異常の判定である判定C(
図4参照)について説明する。
図5Aは、正常な研磨期間の時間に対する回転トルクの関係を示す図である。異常検出部40bは、たとえば、回転トルクの平均値を平均値μや振幅値を標準偏差σで評価する。この場合、基準値情報41aには、正常な研磨期間の回転トルクの平均値μ1や標準偏差σ1が記憶される。
【0080】
なお、
図4における回転トルクq2は平均値μ1に等しい。また、
図5Aにおけるデータは、実生産に先立ちあらかじめ取得されることが好ましい。個々の異常に対応する回転トルクの変化のデータを得ておくことがさらに好ましい。
【0081】
続いて、
図5Bを用いて説明する。
図5Bは、異常が発生した研磨期間の時間に対する回転トルクの関係を示す図である。
図5Bに示される回転トルクは、研磨部24(
図2参照)に取り付けられた不図示の「研磨部材」が、回転方向に対して逆に取り付けられ、適切な研磨がなされない状態における研磨期間のものである。
【0082】
なお、
図5Aと
図5Bとの差異は、研磨部材の取り付け方向のみであり、他の条件はすべて略同一である。
図5Bにおける研磨期間の回転トルクの平均値をμ2、標準偏差をσ2とする。
【0083】
平均値μ1と平均値μ2を比較すると、逆向きに取り付けられた研磨部材が溶接チップ15a(
図2参照)の表面を滑ることにより研磨が適切に行われないため、平均値μ2は平均値μ1よりも小さくなる。
【0084】
また、回転トルクが周期的に大きく変動し、標準偏差σ2は標準偏差σ1より大きくなる。このように、異常が生じると、研磨期間中の回転トルクの平均値μまたは標準偏差σに変化が生じる。
【0085】
異常検出部40bは、研磨の実行中に検出された回転トルクの平均値μや標準偏差σを算出し、基準値情報41aと比較する。平均値μや標準偏差σが基準値情報41aの範囲内に納まらなければ、異常と判定される。
【0086】
平均値μが基準値情報41aの下限値よりも小さい場合、たとえば、研磨部材の摩耗や、取り付け部の緩みや取り付け方向の間違え等の取り付けに関する過誤、切粉の詰り、または、加圧力の設定値の不備等の異常が挙げられる。
【0087】
平均値μが基準値情報41aの上限値よりも大きい場合、たとえば、研磨駆動部22の故障や加圧力の設定値の不備等の異常が挙げられる。また、標準偏差σが基準値情報41aの上限値よりも大きい場合は、たとえば、研磨部材の取り付けに関する過誤、または、研磨駆動部22の故障等の異常が挙げられる。
【0088】
なお、平均値としては、算術平均値、中央値(メディアン値)、または、最頻値(モード)のいずれも使用することができる。また、平均値を算出するための時間は、T4−T3より短いサンプリング時間でもよく、その場合、移動平均値を使用することも可能である。
【0089】
平均値の算出に移動平均値を使用した場合、研磨期間中の移動平均値の変動値から異常を検出することも可能である。また、変動係数σ/μにて回転トルクの振幅を評価してもよい。
【0090】
さらに、時間に対する回転トルクを高速フーリエ変換等のアルゴリズムを用いてフーリエ変換し、得られたスペクトルを基準値情報41aからのスペクトルと比較することで異常の判定を行ってもよい。
【0091】
また、基準値情報41aの基準値を多段階に設定し、異常の進行程度がわかるようにしてもよい。この基準値の設定は、たとえば、基準値情報41aに対する比率で決定される。なお、
図4に示した判定A、判定F、または、判定G等の判定についても、判定Cと同様の手法で異常を検出することが可能である。
【0092】
続いて、
図6を用いて研磨量に基づく異常の判定である判定D(
図4参照)について説明する。
図6は、研磨期間の時間に対する溶接チップの位置を示す図である。異常検出部40bは、研磨の実行前後の研磨量であるチップ位置の変化量Z1−Z2を指定値情報41bと比較して異常を判定する。
【0093】
研磨量Z1−Z2が指定値情報41bよりも大きい場合、研磨駆動部22の動作が不良であったり、加圧力が過大であったりといった異常が挙げられる。移動量Z1−Z2が指定値情報41bよりも小さい場合、加圧力が過小であったり、研磨部材が摩耗していたりといった異常が挙げられる。
【0094】
また、研磨を実行中の溶接チップ15aが一定時間ΔTの間に移動した量ΔZから、研磨速度ΔZ/ΔTを算出し、基準値情報41aと比較して同様の異常判定を行うことも可能である。
【0095】
このように、実施形態の研磨システム2は、研磨の実行中の回転トルクや研磨の実行前後の研磨量等を、基準値情報41aや指定値情報41bと比較することで、研磨に関する異常を多面的に検知することができる。
【0096】
また、検出される異常は、異常検出部40bが実行する異常の判定ごとに重複するものが多い。このため、一つの異常に対して異なる観点から複数回の検出が行われ、遺漏のない異常検出が実施されることになる。
【0097】
ところで、研磨期間中は加圧力や回転トルクが略一定の状態で研磨が実行される旨の説明を行ったが、研磨期間における溶接チップ15aの研磨部24への加圧は、たとえば、以下に述べる三つの工程を含む多段階で行われることもある。
【0098】
研磨部材の溶接チップ15aへの過大な食い込みや、研磨部材の損傷を防ぐために比較的に低い加圧力で加圧する第一加圧工程。
【0099】
さらに加圧力を大きくして、主に溶接チップ15aの側面の切削と先端の粗加工を行う第二加圧工程。最後に、加圧力を下げて溶接チップ15aのバリや段差をなくす仕上げを行う第三加圧工程。
【0100】
研磨期間が、このような多段階の加圧工程を含む場合においても、期間判定部40aは、研磨期間中の各加圧工程の開始または終了時の回転トルクの上昇率や下降率から加圧工程の移行に関する異常の判定を行うことができる。
【0101】
続いて、実施形態の研磨システム2によって実行される研磨の実行手順について
図7を用いて説明する。
図7は、異常検出の実行手順を示すフローチャートである。なお、説明を簡単にする観点から、溶接チップ15aのみが研磨されるものとする。
【0102】
図7に示すように、ステップS101では、溶接チップ15aまたは研磨部材が新品か否かが判断され、新品の場合(ステップS101,Yes)、研磨の実行に先立ち基準値情報41aを取得する(ステップS102)。溶接チップ15aまたは研磨部材が新品ではない場合(ステップS101,No)、ステップS102は省略される。期間判定部40aは、回転トルク、回転数や加圧力が略零等で研磨システム2が待機状態であることから非研磨期間か否かを判定する(ステップS103)。
【0103】
ステップS103で研磨システム2が待機状態にない場合(ステップS103,No)、後に述べるステップS110以降の動作を行う。ステップS103で非研磨期間と判定されたら(ステップS103,Yes)、指示部40cは、研磨部24の回転を指示する(ステップS104)。
【0104】
異常検出部40bは、溶接チップ15aと非接触の状態で回転する研磨部24の回転トルクを基準値情報41aと比較して異常を判定する(ステップS105)。ステップS105にて異常が判定された場合(ステップS105,No)、指示部40cは報知部52にて異常を報知する(ステップS112)。
【0105】
ここで、ステップ105で検出される異常としては、研磨駆動部22の故障等が挙げられる。続いて、指示部40cは、研磨部24の回転を停止させて(ステップS111)研磨の実行を終了する。
【0106】
ステップS105にて異常が判定されなかった場合(ステップS105,Yes)、指示部40cは溶接ガン11を所定の位置に移動させ、チップガン16は、溶接チップ15aを軸G1に沿って研磨部24の方向へ移動させる(ステップS106)。
【0107】
溶接チップ15aが研磨部24に接触したら、チップ駆動部17は溶接チップ15aをさらに加圧する。期間判定部40aは、加圧がなされた期間の回転トルクの上昇率を基準値情報41aと比較して、非研磨期間から研磨期間への移行を検出し(ステップS107)、以降を研磨期間と判定する。
【0108】
ここで、ステップS107で異常が判定された場合(ステップ107,No)、この異常としては、ロボット10の誤作動、指示部40cのプログラムの不備や加圧力の設定が不適切であること等が挙げられる。
【0109】
ステップ107で異常が判定されなかった場合(ステップS107,Yes)、溶接チップ15aの研磨が実行される。異常検出部40bは、研磨期間中の回転トルクの平均値や振幅値等に基づいて異常を判定する(ステップS108)。
【0110】
ステップS108で異常が判定された場合(ステップ108,No)、この異常としては、研磨部材の摩耗や取り付けに関する過誤、切粉の詰り、加圧力の設定が不適切であることや研磨駆動部22の故障等が挙げられる。
【0111】
研磨期間中の回転トルクに異常が判定されなかった場合(ステップS108,Yes)、異常検出部40bは、溶接チップ15aの研磨量に基づいて異常を判定する(ステップS109)。
【0112】
ステップS109で異常が判定された場合(ステップ109,No)、この異常としては、研磨部材の摩耗、加圧力の設定が不適切であることや研磨駆動部22の故障等が挙げられる。
【0113】
研磨の実行前後の溶接チップ15aの研磨量が、基準値情報41aの範囲内であり、異常が判定されなかった場合(ステップS109,Yes)、指示部40cは、溶接チップ15aを研磨部24から解放するように指示する(ステップS110)。
【0114】
続いて、指示部40cは、研磨部24の回転を停止して(ステップS111)、処理を終了する。ステップ107、ステップ108、および、ステップ109のいずれか一つのステップにおいて異常と判定された場合、指示部40cは、報知部52にて異常を報知する(ステップS112)。
【0115】
続いて、指示部40cは、溶接チップ15aを研磨部24から解放するように指示し(ステップS110)、研磨部24の回転を停止させて(ステップS111)、研磨の実行を終了する。
【0116】
上述してきたように、実施形態の一態様に係る研磨システムは、期間判定部と異常検出部を備える。期間判定部は、溶接チップを研磨するドレッサーの研磨部のトルクに基づき、研磨部が溶接チップを研磨している期間である研磨期間および研磨していない期間である非研磨期間を判定する。異常検出部は、期間のそれぞれにあらかじめ対応付けられた異常を検出する。
【0117】
さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。このため、本発明のより広範な態様は、以上のように表しかつ記述した特定の詳細および代表的な実施形態に限定されるものではない。したがって、添付の特許請求の範囲およびその均等物によって定義される総括的な発明の概念の精神または範囲から逸脱することなく、様々な変更が可能である。