(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1リンク機構は、前記鍵盤蓋に固定された第1リンクと、当該第1リンクに回動自在に連結された第2リンクと、当該第2リンクに回動自在に連結されるとともに、前記第1ロータに固定された第3リンクと、を有しており、
前記第2リンク機構は、前記鍵盤蓋に固定された第4リンクと、当該第4リンクに回動自在に連結された第5リンクと、当該第5リンクに回動自在に連結されるとともに、前記第2ロータに固定された第6リンクと、を有しており、
前記第1リンクと前記第4リンク、前記第2リンクと前記第5リンク、及び前記第3リンクと前記第6リンクはそれぞれ、互いに同じ形状及び寸法で構成されており、
前記第1及び第2ロータリーダンパの構成は、互いに同じであることを特徴とする、請求項1に記載の鍵盤蓋の開閉装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、この従来の開閉装置では、単一のロータリーダンパを用いるにすぎないので、鍵盤蓋が全開・全閉になる直前に、鍵盤蓋を十分に制動できず、それにより、鍵盤蓋が、その開放時には上前板に、閉鎖時には口棒に、それぞれ強く衝突するおそれがある。また、鍵盤蓋の開閉の初期においても、ロータリーダンパの制動力が鍵盤蓋に作用するので、鍵盤蓋の開閉動作を円滑に行うことができないおそれがある。
【0006】
本発明は、以上のような課題を解決するためになされたものであり、鍵盤蓋の開度位置に応じて、第1及び第2ロータリーダンパの制動力を鍵盤蓋に適切に作用させることができ、それにより、鍵盤蓋を適切に制動することができる鍵盤蓋の開閉装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、請求項1に係る発明は、鍵盤を開放する全開位置と閉鎖する全閉位置との間で楽器本体に回動自在に取り付けられた鍵盤蓋を開閉するための鍵盤蓋の開閉装置であって、回転自在の第1ロータを有するとともに、楽器本体に設けられ、第1ロータが所定の第1方向に回転するときにのみ、第1ロータに制動力を発生させる第1ロータリーダンパと、鍵盤蓋及び第1ロータに連結され、鍵盤蓋の回動に伴い、鍵盤蓋が全開位置と全閉位置との間の所定の第1開度位置から全開位置側に回動するとき、及び、鍵盤蓋が第1開度位置から全閉位置側に回動するときに、第1ロータを第1方向に回転させるように構成された第1リンク機構と、回転自在の第2ロータを有するとともに、楽器本体に設けられ、第2ロータが所定の第2方向に回転するときにのみ、第2ロータに制動力を発生させる第2ロータリーダンパと、鍵盤蓋及び第2ロータに連結され、鍵盤蓋の回動に伴い、鍵盤蓋が全開位置と全閉位置との間の第1開度位置よりも開度の小さい所定の第2開度位置から全開位置側に回動するとき、及び、鍵盤蓋が第2開度位置から全閉位置側に回動するときに、第2ロータを第2方向に回転させるように構成された第2リンク機構と、を備えることを特徴とする。
【0008】
この構成によれば、第1ロータリーダンパが、その第1ロータが第1方向に回転するときにのみ、第1ロータに制動力を発生させるように構成されている。また、第1リンク機構が鍵盤蓋及び第1ロータに連結されており、第1リンク機構は、鍵盤蓋の回動に伴い、鍵盤蓋が第1開度位置から全開位置側に回動するとき、及び、第1開度位置から全閉位置側に回動するときに、第1ロータを第1方向に回転させる。それに伴って発生した第1ロータリーダンパの制動力は、第1リンク機構を介して鍵盤蓋に伝達される。また、第2ロータリーダンパが、その第2ロータが第2方向に回転するときにのみ、第2ロータに制動力を発生させるように構成されている。さらに、第2リンク機構が鍵盤蓋及び第2ロータに連結されており、第2リンク機構は、鍵盤蓋の回動に伴い、鍵盤蓋が第1開度位置よりも開度の小さい第2開度位置から全開位置側に回動するとき、及び、第2開度位置から全閉位置側に回動するときに、第2ロータを第2方向に回転させる。それに伴って発生した第2ロータリーダンパの制動力は、第2リンク機構を介して鍵盤蓋に伝達される。
【0009】
上述した動作から明らかなように、鍵盤蓋が全閉位置から第2開度位置側に回動するときには、第1及び第2ロータが第1及び第2方向にそれぞれ回転しないので、第1及び第2ロータリーダンパの制動力がいずれも鍵盤蓋に作用しない。また、鍵盤蓋が第2開度位置から開度の大きい第1開度位置側に回動するときには、第2ロータリーダンパの制動力のみが鍵盤蓋に作用し、第1開度位置から全開位置側に回動するときには、第2ロータリーダンパの制動力に加え、第1ロータリーダンパの制動力が鍵盤蓋に作用する。さらに、鍵盤蓋が全開位置から第1開度位置側に回動するときには、第1及び第2ロータが第1及び第2方向にそれぞれ回転しないので、第1及び第2ロータリーダンパの制動力がいずれも鍵盤蓋に作用しない。また、鍵盤蓋が第1開度位置から開度の小さい第2開度位置側に回動するときには、第1ロータリーダンパの制動力のみが鍵盤蓋に作用し、第2開度位置から全閉位置側に回動するときには、第1ロータリーダンパの制動力に加え、第2ロータリーダンパの制動力が鍵盤蓋に作用する。
【0010】
以上のように、鍵盤蓋が全開・全閉になる直前に、前述した従来の場合と異なり、第1及び第2ロータリーダンパの制動力の双方を鍵盤蓋に作用させることができるので、鍵盤蓋を十分に制動することができる。この場合、鍵盤蓋に、鍵盤蓋の開閉の初期から第1及び第2ロータリーダンパの双方による大きな制動力を作用させるのではなく、一旦、両者の一方の制動力を作用させた後に、両者の制動力を作用させる。これにより、例えば鍵盤蓋を急に開閉した場合でも、鍵盤蓋に作用する制動力を段階的に増大させることができるので、この急な開閉に伴って非常に大きな制動力が急激に作用することによる鍵盤蓋や第1・第2リンク機構の破損を、防止することができる。
【0011】
また、鍵盤蓋の開閉の初期に、第1及び第2ロータリーダンパの制動力をいずれも鍵盤蓋に作用させないので、鍵盤蓋の開閉動作を円滑に行うことができる。さらに、第1及び第2ロータリーダンパとして、制動力が可変の高価なロータリーダンパを用いずに、一般的な一方向ダンパを用いて、上述した効果を得ることができる。
【0012】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の鍵盤蓋の開閉装置において、第1リンク機構は、鍵盤蓋に固定された第1リンクと、第1リンクに回動自在に連結された第2リンクと、第2リンクに回動自在に連結されるとともに、第1ロータに固定された第3リンクと、を有しており、第2リンク機構は、鍵盤蓋に固定された第4リンクと、第4リンクに回動自在に連結された第5リンクと、第5リンクに回動自在に連結されるとともに、第2ロータに固定された第6リンクと、を有しており、第1リンクと第4リンク、第2リンクと第5リンク、及び第3リンクと第6リンクはそれぞれ、互いに同じ形状及び寸法で構成されており、第1及び第2ロータリーダンパの構成は、互いに同じであることを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、第1リンクと第4リンクが、互いに同じ形状及び寸法で構成されているので、例えば両者を製造するための金型を共通化でき、それにより、装置の製造コストを削減することができる。同様に、第2リンクと第5リンク、及び第3リンクと第6リンクがそれぞれ、互いに同じ形状及び寸法で構成されているので、装置の製造コストをさらに削減することができる。また、第1及び第2ロータリーダンパの構成が互いに同じであるので、両ロータリーダンパとして安価なものを採用することにより、装置の製造コストをさらに削減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。
図1及び
図2に示すように、本実施形態による鍵盤蓋の開閉装置1を適用した電子ピアノは、鍵盤(図示せず)などを収容するためのピアノ本体2と、鍵盤を開放・閉鎖するための鍵盤蓋3を備えている。以下の説明では、演奏者から見て手前側(
図1の左側、
図2の右側)を「前」、奥側(
図1の右側、
図2の左側)を「後」とし、さらに左側および右側をそれぞれ「左」および「右」とする。
【0016】
ピアノ本体2は、その左端部及び右端部にそれぞれ設けられた腕木4、4と、両腕木4、4の上面の後部に固定された屋根5を、一体に有している。各腕木4は、鉛直に立設されており、前後方向に延びている。腕木4の内側面の前部には、拍子木6が固定されており、左右の拍子木6、6の間に、鍵盤が設けられている。また、腕木4の内側面の前後方向のほぼ中央には、鍵盤蓋3を全開位置に保持するためのストッパ7が固定されている。上記の屋根5は、平面で見て、横長の矩形状に形成されており、その前端部には、鍵盤蓋3が全開位置(
図4及び
図6参照)に回動するのを許容するための凹部5aが形成されている。凹部5aは、左右方向に延びており、その側面形状は、上端部が長い台形状になっている。また、屋根5の下面の左端部及び右端部にはそれぞれ、後述する第1リンク13及び第4リンク23をそれぞれ収容するための収容凹部5b、5bが形成されており(
図1〜
図6にはそれぞれ、一方のみ図示)、各収容凹部5bは前後方向に延びている。
【0017】
鍵盤蓋3は、例えばMDF及びムク材の組合わせで構成され、平面で見て横長の矩形状に、かつ板状に形成されており、左右の腕木4、4に載置されている。また、鍵盤蓋3の後端部は、ヒンジ8を介して、屋根5に取り付けられており、ヒンジ8は、左右方向に水平に延びるピン8aを有している。鍵盤蓋3は、
図1及び
図2に示す全閉位置と、
図4及び
図6に示す全開位置との間で、ヒンジ8のピン8aを中心として回動自在である。鍵盤蓋3が全閉位置にあるときには、鍵盤蓋3の上面は、屋根5の上面と面一になっており、鍵盤蓋3の下面の左端部及び右端部は、腕木4、4の上面にそれぞれ当接している。また、鍵盤蓋3の下面の前端部には前付け9が、鍵盤蓋3の下面の後部には譜面台10が、それぞれヒンジを介して取り付けられている。
【0018】
開閉装置1は、鍵盤蓋3を適切に開閉するために制動力を鍵盤蓋3に作用させるものであり、ピアノ本体2の左端部に設けられた第1ロータリーダンパ11及び第1リンク機構12と、ピアノ本体2の右端部に設けられた第2ロータリーダンパ21及び第2リンク機構22を備えている。
【0019】
第1ロータリーダンパ11は、いわゆる油圧式の一方向ダンパであり、本体部11aと、本体部11aに回転自在に設けられた第1ロータ11bを有している。本体部11aは、左腕木4の内側面の後部に、埋め込まれた状態で固定されている。また、第1ロータリーダンパ11は、外力により第1ロータ11bが本体部11aに対して時計方向に回転しているときに、第1ロータ11bに制動力を発生させる一方、反時計方向に回転しているときには制動力を発生させないように、構成されている。
【0020】
第1リンク機構12は、鍵盤蓋3の回動を第1ロータ11bに伝達するとともに、第1ロータリーダンパ11の制動力を鍵盤蓋3に伝達するためのものであり、第1リンク13、第2リンク14及び第3リンク15の組合わせで構成されている。第1リンク13は、細長い金属板で構成されており、鍵盤蓋3の左端部の後端部に固定されている。鍵盤蓋3が全閉位置にあるときには、第1リンク13は、鍵盤蓋3から後方に延びており、前述した屋根5の収容凹部5bに収容されている。また、第1リンク13の後端部には、切欠き13aが形成されており、第1リンク13の中央部には、第1支点13bが設けられている。
【0021】
第2リンク14は、細長い金属板で構成されており、その長さは、第1リンク13よりも長い。また、第2リンク14は、その一端部が上述した第1リンク13の第1支点13bに、他端部が第3リンク15の後述する第2支点15aに、それぞれ回動自在に連結されており、上下方向に延びている。第3リンク15は、合成樹脂で構成され、細長い矩形状に、かつ板状に形成されており、その長さは、第1リンク13よりも短い。また、第3リンク15は、第1ロータリーダンパ11の第1ロータ11bに固定されており、その端部が、第1ロータ11bよりも外方に突出している。この端部に、上記の第2支点15aが設けられている。
【0022】
また、鍵盤蓋3の回動中心であるピン8a、第1ロータリーダンパ11、第1及び第2支点13b、15aの間の位置関係と、第1〜第3リンク13〜15の形状及び寸法は、後述する鍵盤蓋3の開閉に伴う動作を適切に行うことができるように、設定されている。上記の第1ロータリーダンパ11の位置の設定により、第1ロータ11bの回転中心は、ピン8aよりも前方にかつ下方に位置している。また、鍵盤蓋3が全閉位置にあるときには、第1支点13bは、ピン8aよりも後方に、かつ、ピン8aと上下方向のほぼ同じ位置に位置しており、第2支点15aは、ピン8aよりも前方に、かつ、第1支点13bよりも下方に位置している。さらに、第2リンク14は、第1支点13bから下方の第2支点15aに向かって、前方に斜めに延びている。
【0023】
前記第2ロータリーダンパ21及び第2リンク機構22は、基本的には、第1ロータリーダンパ11及び第1リンク機構12と左右対称にそれぞれ設けられており、前者11及び後者12とそれぞれ同様に構成されている。具体的には、第2ロータリーダンパ21は、第1ロータリーダンパ11と同じ油圧式の一方向ダンパであり、本体部21aと、回転自在の第2ロータ21bを有している。本体部21aは、右腕木4の内側面の後部に、埋め込まれた状態で固定されている。また、第2ロータリーダンパ21は、外力により第2ロータ21bが本体部21aに対して時計方向に回転しているときに、第2ロータ21bに制動力を発生させる一方、反時計方向に回転しているときには制動力を発生させないように、構成されている。
【0024】
第2リンク機構22は、鍵盤蓋3の回動を第2ロータ21bに伝達するとともに、第2ロータリーダンパ21の制動力を鍵盤蓋3に伝達するためのものであり、第4リンク23、第5リンク24及び第6リンク25の組合わせで構成されている。第4リンク23は、第1リンク機構12の前述した第1リンク13と同じ材質、形状及び寸法で構成されており、鍵盤蓋3の右端部の後端部に固定されている。鍵盤蓋3が全閉位置にあるときには、第4リンク23は、鍵盤蓋3から後方に延びており、前述した屋根5の収容凹部5bに収容されている。また、第4リンク23の後端部には、切欠き23aが形成されており、第4リンク23の中央部には、第1支点23bが設けられている。
【0025】
第5リンク24は、第1リンク機構12の前述した第2リンク14と同じ材質、形状及び寸法で構成されており、その一端部が上述した第4リンク23の第1支点23bに、他端部が第6リンク25の後述する第2支点25aに、それぞれ回動自在に連結されていて、上下方向に延びている。第6リンク25は、第1リンク機構12の前述した第3リンク15と同じ材質、形状及び寸法で構成されており、第2ロータリーダンパ21の第2ロータ21bに固定されている。また、第6リンク25の端部は、第2ロータ21bよりも外方に突出しており、この端部に、上記の第2支点25aが設けられている。
【0026】
また、ピン8a、第2ロータリーダンパ21、第1及び第2支点23b、25aの間の位置関係と、第4〜第6リンク23〜25の形状及び寸法は、後述する鍵盤蓋3の開閉に伴う動作を適切に行うことができるように、設定されている。前述したように、第4〜第6リンク23〜25の形状及び寸法はそれぞれ、第1リンク機構12の第1〜第3リンク13〜15の形状及び寸法と同じである。また、
図2と
図1の比較から明らかなように、第2ロータ21bの回転中心は、第1ロータ11bの回転中心と対称の関係になっており、ピン8aよりも前方にかつ下方に位置している。さらに、第1支点23bの位置は、第1リンク機構12の第1支点13bの位置と対称の関係になっており、鍵盤蓋3が全閉位置にあるときには、第1支点23bは、ピン8aよりも後方に、かつ、ピン8aと上下方向のほぼ同じ位置に位置している。
【0027】
一方、第2支点25aの位置は、第1リンク機構12の第2支点15aの位置と対称の関係になっていない。具体的には、鍵盤蓋3が全閉位置にあるときには、第2支点25aは、ピン8aと前後方向のほぼ同じ位置に、かつ、第1支点23bよりも下方に位置しており、第1リンク機構12の第2支点15aよりも後方にかつ下方に位置している。また、第5リンク24は、第1支点23bから下方の第2支点25aに向かって、前方に斜めに延びており、第4リンク23に対する第5リンク24の角度は、第1リンク機構12の第1リンク13に対する第2リンク14の角度よりも大きくなっている。
【0028】
次に、
図1、
図3及び
図4を参照しながら、鍵盤蓋3の開閉時における第1ロータリーダンパ11及び第1リンク機構12の動作について説明する。鍵盤蓋3が全閉位置(
図1)から
図3に示す所定の第1開度位置に向かって回動すると、それに伴い、第1リンク13が鍵盤蓋3と一緒に回動するとともに、第2リンク14が、第1リンク13の第1支点13b及び第3リンク15の第2支点15aに対して回動しながら、両支点13b、15aと一緒に下方にかつ前方に斜めに移動する。これにより、第3リンク15と一体の第1ロータ11bが、本体部11aに対して反時計方向に回転する。
【0029】
前述したように、第1ロータリーダンパ11は、第1ロータ11bが反時計方向に回転するときには、制動力を第1ロータ11bに発生させないように構成されている。以上により、鍵盤蓋3が全閉位置から第1開度位置側に回動するときには、第1ロータリーダンパ11の制動力は発生しない。また、鍵盤蓋3が第1開度位置にあるときの鍵盤蓋3の開度である第1開度A1は、例えば約87°に設定されている。その理由については後述する。さらに、鍵盤蓋3が第1開度位置にあるときには、ピン8a、第1及び第2支点13b、15aは、同一の直線上に位置している。
【0030】
また、鍵盤蓋3が第1開度位置(
図3)から、
図4に示す全開位置に向かって回動すると、それに伴い、第1リンク13が鍵盤蓋3と一緒に回動するとともに、第2リンク14が、第1及び第2支点13b、15aに対して回動しながら、両支点13b、15aと一緒に上方にかつ前方に斜めに移動する。これにより、第1ロータ11bが、本体部11aに対して時計方向に回転する。前述したように、第1ロータリーダンパ11は、第1ロータ11bが時計方向に回転するときに、制動力を第1ロータ11bに発生させるように構成されている。以上により、鍵盤蓋3が第1開度位置から全開位置側に回動するときには、第1ロータリーダンパ11の制動力が、第1リンク機構12を介して鍵盤蓋3に伝達される。
【0031】
また、鍵盤蓋3が全開位置にあるときには、第1リンク13の前述した切欠き13aがストッパ7の背面に後方から当接しており、それにより、鍵盤蓋3が全開位置に保持される。また、この状態では、鍵盤蓋3の後端部が屋根5の凹部5aに当接しており、前付け9が折りたたまれて鍵盤蓋3に当接するとともに、譜面台10が起立している。
【0032】
さらに、鍵盤蓋3が全開位置から第1開度位置に向かって回動すると、
図3及び
図4を参照して上述した動作と逆の動作が行われ、それにより、第1ロータ11bが反時計方向に回転する結果、第1ロータリーダンパ11の制動力が発生しない。また、鍵盤蓋3が第1開度位置から全閉位置に向かって回動すると、
図1及び
図3を参照して前述した動作と逆の動作が行われ、それにより、第1ロータ11bが時計方向に回転する結果、第1ロータリーダンパ11の制動力が発生し、第1リンク機構12を介して鍵盤蓋3に伝達される。
【0033】
次に、
図2、
図5及び
図6を参照しながら、鍵盤蓋3の開閉時における第2ロータリーダンパ21及び第2リンク機構22の動作について説明する。鍵盤蓋3が全閉位置(
図2)から
図5に示す所定の第2開度位置に向かって回動すると、それに伴い、第4リンク23が鍵盤蓋3と一緒に回動するとともに、第5リンク24が、第4リンク23の第1支点23b及び第6リンク25の第2支点25aに対して回動しながら、両支点23b、25aと一緒に下方にかつ前方に斜めに移動する。これにより、第6リンク25と一体の第2ロータ21bが、本体部21aに対して反時計方向に回転する。
【0034】
前述したように、第2ロータリーダンパ21は、第2ロータ21bが反時計方向に回転するときには、制動力を第2ロータ21bに発生させないように構成されている。以上により、鍵盤蓋3が全閉位置から第2開度位置側に回動するときには、第2ロータリーダンパ21の制動力は発生しない。また、鍵盤蓋3が第2開度位置にあるときの鍵盤蓋3の開度である第2開度A2は、前述した第1開度A1よりも小さな開度、例えば約70°に設定されている。その理由については後述する。さらに、鍵盤蓋3が第2開度位置にあるときには、ピン8a、第1及び第2支点23b、25aは、同一の直線上に位置している。
【0035】
また、鍵盤蓋3が第2開度位置(
図5)から、
図6に示す全開位置に向かって回動すると、それに伴い、第4リンク23が鍵盤蓋3と一緒に回動し、第5リンク24が、第1及び第2支点23b、25aに対して回動しながら、その上半部が第1支点23bと一緒に上方にかつ前方に斜めに移動するとともに、下半部が第2支点25aと一緒に上方にかつ後方に斜めに移動する。これにより、第2ロータ21bが、本体部21aに対して時計方向に回転する。前述したように、第2ロータリーダンパ21は、第2ロータ21bが時計方向に回転するときに、制動力を第2ロータ21bに発生させるように構成されている。以上により、鍵盤蓋3が第2開度位置から全開位置側に回動するときには、第2ロータリーダンパ21の制動力が、第2リンク機構22を介して鍵盤蓋3に伝達される。
【0036】
さらに、鍵盤蓋3が全開位置から第2開度位置に向かって回動すると、
図5及び
図6を参照して上述した動作と逆の動作が行われ、それにより、第2ロータ21bが反時計方向に回転する結果、第2ロータリーダンパ21の制動力が発生しない。また、鍵盤蓋3が第2開度位置から全閉位置に向かって回動すると、
図2及び
図5を参照して前述した動作と逆の動作が行われ、それにより、第2ロータ21bが時計方向に回転する結果、第2ロータリーダンパ21の制動力が発生し、第2リンク機構22を介して鍵盤蓋3に伝達される。
【0037】
以上のように、上述した実施形態によれば、第1及び第2ロータリーダンパ11、21が、それらの第1及び第2ロータ11b、21bが時計方向に回転するときにのみ、第1及び第2ロータ11b、21bに制動力を発生させるように、それぞれ構成されている。また、第1リンク機構12が鍵盤蓋3及び第1ロータ11bに連結されており、第1リンク機構12は、鍵盤蓋3の回動に伴い、鍵盤蓋3が第1開度位置から全開位置側に回動するとき、及び、第1開度位置から全閉位置側に回動するときに、第1ロータ11bを時計方向に回転させる。さらに、第2リンク機構22が鍵盤蓋3及び第2ロータ21bに連結されており、第2リンク機構22は、鍵盤蓋3の回動に伴い、鍵盤蓋3が第1開度位置よりも開度の小さい第2開度位置から全開位置側に回動するとき、及び、第2開度位置から全閉位置側に回動するときに、第2ロータ21bを時計方向に回転させる。
【0038】
さらに、前述した鍵盤蓋3の開閉時における開閉装置1の動作から明らかなように、鍵盤蓋3が全閉位置から第2開度位置側に回動するときには、第1及び第2ロータリーダンパ11、21の制動力がいずれも鍵盤蓋3に作用しない。また、鍵盤蓋3が第2開度位置から第1開度位置側に回動するときには、第2ロータリーダンパ21の制動力のみが作用し、第1開度位置から全開位置側に回動するときには、第2ロータリーダンパ21の制動力に加え、第1ロータリーダンパ11の制動力が作用する。さらに、鍵盤蓋3が全開位置から第1開度位置側に回動するときには、第1及び第2ロータリーダンパ11、21の制動力がいずれも鍵盤蓋3に作用しない。また、鍵盤蓋3が第1開度位置から第2開度位置側に回動するときには、第1ロータリーダンパ11の制動力のみが鍵盤蓋3に作用し、第2開度位置から全閉位置側に回動するときには、第1ロータリーダンパ11の制動力に加え、第2ロータリーダンパ21の制動力が作用する。
【0039】
以上のように、鍵盤蓋3が全開・全閉になる直前に、前述した従来の場合と異なり、第1及び第2ロータリーダンパ11、21の制動力の双方を鍵盤蓋3に作用させることができるので、鍵盤蓋3を十分に制動することができる。したがって、鍵盤蓋3が屋根5及び腕木4、4に、第1及び第4リンク13、23がストッパ7に、それぞれ強く衝突するのを、防止することができる。また、この場合、鍵盤蓋3に、鍵盤蓋3の開閉の初期から第1及び第2ロータリーダンパ11、21の制動力の双方を作用させるのではなく、一旦、両者11、21の一方の制動力を作用させた後に、両者11、21の制動力を作用させる。これにより、例えば鍵盤蓋3を急に開閉した場合でも、鍵盤蓋3に作用する制動力を段階的に増大させることができるので、この急な開閉に伴って非常に大きな制動力が急激に作用することによる鍵盤蓋3や第1及び第2リンク機構12、22の破損を、防止することができる。
【0040】
さらに、鍵盤蓋3の開閉の初期に、第1及び第2ロータリーダンパ11、21の制動力をいずれも鍵盤蓋3に作用させないので、鍵盤蓋3の開閉動作を円滑に行うことができる。また、第1及び第2ロータリーダンパ11、21として、制動力が可変の高価なロータリーダンパを用いずに、一般的な一方向ダンパを用いて、上述した効果を得ることができる。
【0041】
さらに、
図1〜
図6を用いて説明した鍵盤蓋3の開放動作から明らかなように、鍵盤蓋3の開放動作の初期には、重力に抗して、鍵盤蓋3を持ち上げながら開かなければならない。また、鍵盤蓋3の開放動作中、鍵盤蓋3の開度が約90°よりも大きくなると、上記とは逆に、重力が鍵盤蓋3を全開位置側に回動させるように作用する。
【0042】
これに対して、実施形態によれば、前述したように、鍵盤蓋3の開放動作中に第2ロータリーダンパ21の制動力が作用し始める鍵盤蓋3の開度である第2開度A2(第2開度位置)が、90°に近い70°に設定されている。また、鍵盤蓋3の開放動作中に第1及び第2ロータリーダンパ11、21の制動力の双方が作用し始める鍵盤蓋3の開度である第1開度A1(第1開度位置)が、87°に設定されている。さらに、第1及び第2開度A1、A2は、実験などにより、鍵盤蓋3の開放動作中に第1及び第2ロータリーダンパ11、21の制動力がバランスよく得られるような角度に、設定されている。以上により、鍵盤蓋3を開放する際の初期動作を円滑に行えるという上述した効果と、鍵盤蓋3が屋根5に強く衝突することなどを防止できるという上述した効果を、有効に得ることができる。
【0043】
また、
図1〜
図6を用いて説明した鍵盤蓋3の閉鎖動作から明らかなように、鍵盤蓋3の閉鎖動作中、鍵盤蓋3の開度が約90°になるまでの間は、重力が鍵盤蓋3を全開位置側に回動させるように作用する。また、鍵盤蓋3の閉鎖動作中、鍵盤蓋3の開度が約90°よりも小さくなると、重力が鍵盤蓋3を全閉位置側に回動させるように作用する。
【0044】
これに対して、実施形態によれば、鍵盤蓋3の閉動作中に第1ロータリーダンパ11の制動力が作用し始める鍵盤蓋3の開度である第1開度A1が、87°に設定されている。また、鍵盤蓋3の閉鎖動作中に第1及び第2ロータリーダンパ11、21の制動力の双方が作用し始める鍵盤蓋3の開度である第2開度A2が、70°に設定されている。さらに、第1及び第2開度A1、A2は、実験などにより、鍵盤蓋3の閉鎖動作中に第1及び第2ロータリーダンパ11、21の制動力がバランスよく得られるような角度に、設定されている。以上により、鍵盤蓋3を閉鎖する際の初期動作を円滑に行えるという前述した効果と、鍵盤蓋3が腕木4、4に強く衝突することを防止できるという前述した効果を、有効に得ることができる。
【0045】
さらに、第1及び第2ロータリーダンパ11、21の構成が互いに同じであるとともに、第1リンク13と第4リンク23、第2リンク14と第5リンク24、及び第3リンク15と第6リンク25がそれぞれ、互いに同じ形状及び寸法で構成されているので、開閉装置1の製造コストを削減することができる。
【0046】
なお、本発明は、説明した実施形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、実施形態では、第1ロータリーダンパ11及び第1リンク機構12をピアノ本体2の左端部に、第2ロータリーダンパ21及び第2リンク機構22をピアノ本体2の右端部に、それぞれ設けているが、これとは逆に、第1ロータリーダンパ11及び第1リンク機構12をピアノ本体2の右端部に、第2ロータリーダンパ21及び第2リンク機構22をピアノ本体2の左端部に、それぞれ設けてもよい。あるいは、これらの四者11、12、21、22を、ピアノ本体2の他の適当な部位に設けてもよい。例えば、第1及び第2ロータリーダンパ11、21並びに第1及び第2リンク機構12、22を、ピアノ本体2の左部(右部)などに集中して設けてもよい。
【0047】
また、実施形態では、第1及び第2ロータリーダンパ11、21として、油圧式の一方向ダンパを用いているが、他の適当な一方向ダンパを用いてもよい。さらに、実施形態では、第1及び第2ロータリーダンパ11、21の第1及び第2方向は、時計方向であるが、反時計方向でもよい。また、実施形態では、第1及び第2ロータリーダンパ11、21の構成は互いに同じであるが、両ロータリーダンパ11、21として、互いに制動力が異なるロータリーダンパや、制動力が可変のロータリーダンパを用いてもよい。さらに、実施形態では、第1リンク13と第4リンク23、第2リンク14と第5リンク24、及び第3リンク15と第6リンク25を、互いに同じ材質でそれぞれ構成しているが、異なる材質で構成してもよい。
【0048】
また、実施形態では、第2リンク機構22の第1支点23b及びピン8aに対する第2支点25aの位置と、第1リンク機構12の第2支点15aのそれとを互いに異ならせることによって、第2開度位置を第1開度位置よりも開度の小さい開度位置に設定しているが、例えば、当該設定を次のようにして行ってもよい。すなわち、第1リンク13と第4リンク23、第2リンク14と第5リンク24、及び第3リンク15と第6リンク25の少なくとも一組の形状や寸法を互いに異ならせたり、第1リンク機構12の第2支点15a及びピン8aに対する第1支点13bの位置と、第2リンク機構22の第1支点23bのそれとを互いに異ならせたり、ピン8aに対する第1及び第2ロータリーダンパ11、21の位置関係を互いに異ならせたりすることによって、行ってもよい。この場合、実施形態による設定手法と、上述した3つの設定手法を適宜、組み合わせて用いてもよいことは、もちろんである。
【0049】
さらに、実施形態では、第1及び第2開度位置の第1及び第2開度A1、A2を、87°及び70°にそれぞれ設定しているが、他の適当な開度に設定してもよい。また、実施形態では、3つのリンクを有する第1及び第2リンク機構12、22を用いているが、他の適当なリンク機構を用いてもよい。さらに、実施形態は、本発明による開閉装置1を電子ピアノに適用した例であるが、本発明はこれに限らず、鍵盤を有する他の適当な鍵盤楽器、例えばグランドピアノや、アップライトピアノ、電子オルガンなどに適用可能である。その他、本発明の趣旨の範囲内で、細部の構成を適宜、変更することが可能である。