特許第6084169号(P6084169)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6084169
(24)【登録日】2017年2月3日
(45)【発行日】2017年2月22日
(54)【発明の名称】フィコシアニンの調製方法
(51)【国際特許分類】
   C09B 61/00 20060101AFI20170213BHJP
   C09B 67/54 20060101ALI20170213BHJP
【FI】
   C09B61/00 Z
   C09B67/54 Z
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-553241(P2013-553241)
(86)(22)【出願日】2012年12月25日
(86)【国際出願番号】JP2012083471
(87)【国際公開番号】WO2013105430
(87)【国際公開日】20130718
【審査請求日】2015年9月9日
(31)【優先権主張番号】特願2012-4013(P2012-4013)
(32)【優先日】2012年1月12日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000228
【氏名又は名称】江崎グリコ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】312007962
【氏名又は名称】グリコ栄養食品株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小島 岩夫
(72)【発明者】
【氏名】大段 光司
(72)【発明者】
【氏名】西川 正洋
【審査官】 緒形 友美
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−154333(JP,A)
【文献】 特開平06−277075(JP,A)
【文献】 特開平07−310023(JP,A)
【文献】 特開平09−296124(JP,A)
【文献】 特開2004−027041(JP,A)
【文献】 特開2006−230272(JP,A)
【文献】 746/DEL/2005,2009年
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09B 61/00
C09B 67/54
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィコシアニンを含有する藍藻類の懸濁液にキトサンを0.075〜1重量%の濃度になるように加え、濾過により目詰まりを生じる成分を除去することを特徴とする、フィコシアニンの調製方法。
【請求項2】
ろ過に供する懸濁液が緩衝液を含む、請求項1に記載のフィコシアニンの調製方法。
【請求項3】
前記緩衝液がリン酸緩衝液もしくは酢酸緩衝液である、請求項2に記載のフィコシアニンの調製方法。
【請求項4】
フィコシアニンを含有する藍藻類の懸濁液にキトサンと活性炭を加え、濾過することを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のフィコシアニンの調製方法。
【請求項5】
ろ過に供する懸濁液におけるキトサンの濃度が0.075〜1重量%であり、活性炭の濃度が0.1〜10重量%である、請求項4に記載のフィコシアニンの調製方法。
【請求項6】
キトサンと活性炭を同時に加えた後ろ過することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のフィコシアニンの調製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィコシアニンの調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スピルリナ等の藍藻類にはフィコシアニンが含まれ、健康食品等の機能性素材や食品用色素として利用されてきた。
藍藻類からのフィコシアニンの調製方法として、特許文献1〜2の方法が知られている。
【0003】
特許文献1、2は、リン酸カルシウムを凝集剤として用いる方法を開示しているが、この方法では濾過速度が非常に遅くなり、純度は十分ではなかった。遠心分離により不純物を除去することも考えられるが、この場合には不純物が十分に除去できない。
分離後のフィコシアニン含有液中に不純物の割合が高く目詰まりを起こすため、ろ過による固液分離工程に困難が生じることや、フィルターによる無菌化工程を組み入れることができなかった。
【0004】
フィコシアニンは熱に不安定なため工程中で加熱による殺菌ができず、フィルターによる無菌化もできないため、早急に製品を乾燥させ乾燥後に製品を殺菌せざるを得なかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4677250号
【特許文献2】特許第4048420号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、藍藻類に含まれるフィコシアニンを高効率かつ高純度で調製する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の、フィコシアニンの調製方法を提供するものである。
項1. フィコシアニンを含有する藍藻類の懸濁液にキトサンを加え、濾過することを特徴とする、フィコシアニンの調製方法。
項2. ろ過に供する懸濁液におけるキトサンの濃度が0.01〜1重量%である、項1に記載のフィコシアニンの調製方法。
項3. ろ過に供する懸濁液が緩衝液を含む、項1又は2に記載のフィコシアニンの調製方法。
項4. 前記緩衝液がリン酸緩衝液もしくは酢酸緩衝液である、項3に記載のフィコシアニンの調製方法。
項5. フィコシアニンを含有する藍藻類の懸濁液にキトサンと活性炭を加え、濾過することを特徴とする、項1〜4のいずれかに記載のフィコシアニンの調製方法。
項6. ろ過に供する懸濁液におけるキトサンの濃度が0.01〜1重量%であり、活性炭の濃度が0.1〜10重量%である、項5に記載のフィコシアニンの調製方法。
項7. キトサンと活性炭を同時に加えた後ろ過することを特徴とする項1〜6のいずれかに記載のフィコシアニンの調製方法。
【発明の効果】
【0008】
フィコシアニンの乾燥品あるいは液状品を製造する場合に、不純物の少ない高品質のフィコシアニン色素を製造することができるようになった。また色素成分の回収率が向上した。更に、液状品製造の場合、乾燥後に殺菌を行った後再溶解するという無駄な工程を経ることなく無菌化した液状品を製造することができた。
製造工程中の凝集工程に使用する凝集剤としてキトサンを用い、その配合量を最適化することで、良好なろ過スピードを保ったろ過によるフィコシアニンと藍藻残渣との分離を実現できた。
【0009】
凝集工程の改良により膜の目詰まりを引き起こす不純物(核酸成分など)をも凝集工程で除去できたため、その後工程中に無菌化工程を組み入れてフィコシアニン含有液を無菌化することができた。製造工程の早い段階で無菌化できたため、製造工程中の雑菌汚染による品質低下を防止できた。また、製品を乾燥する必要がなく、無駄な工程をなくして液状品(現在の流通品で大半を占める)を容易に製造できるようになった。さらに、液状品を製造するにあたり、これまでは、乾燥させた製品を再度水に溶解させる際、激しい泡立ちを防ぐ目的で消泡剤(脂肪酸エステルなどが主成分)を添加する必要があったが、本発明により、消泡剤を添加することなく液状品を製造することが可能となった。
【0010】
さらに、キトサン凝集工程において、活性炭を併用して不純物除去効果を促進してろ過性を著しく改良すると同時に、実製造時に使用するろ布や精密ろ過膜の洗浄負担を軽減することが可能となった。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明において、藍藻類としては、スピルリナ(Spirulina)属、アルスロスピラ(Arthrospira)属、アファニゾメノン(Aphanizomenon)属、フィッシェレラ(Fisherella)属、アナベナ(Anabaena)属、ネンジュモ(Nostoc)属、シネコキスチス(Synechocystis)属、シネココッカス(Synechococcus)属、トリポスリクス(Tolypothrix)属、スイゼンジノリ(Aphanothece)属、マスティゴクラディス(Mastigoclaus)属、プルロカプサ(Pleurocapsa)属等が挙げられるが、工業的規模で生産され、その安全性が確認されているスピルリナおよびアルスロスピラに属するものが好ましく例示される。
フィコシアニン調製の原料として、生の藍藻類を使用することもできるし、乾燥処理した藍藻類を使用してもよい。藍藻類の乾燥品は、生の藍藻類を常法に従い乾燥品としてもよく、市販の乾燥品を使用することもできる。
【0012】
本発明の方法では、藍藻類の懸濁液を調製する。例えば藍藻類の乾燥品を使用する場合には、藍藻類の固形分(乾燥品)として0.1〜20重量%の乾燥品の懸濁液とすればよい。生の藍藻類を使用する場合には、これに準ずる程度の固形分の懸濁液を調製すればよい。
【0013】
藍藻類の懸濁液は、水に藍藻類を懸濁させる。懸濁液は水と藍藻類から構成されてもよいが、pHを調製するために緩衝液に藍藻類を懸濁してもよい。緩衝液としては、リン酸緩衝液や酢酸緩衝液が好ましく使用されるが、これらの緩衝液に限定はされない。懸濁液のpHとしては、4〜8程度、好ましくは5〜7程度が挙げられる。pHを一定にするための塩は、固体のまま添加しても良いし、水溶液とした状態で藍藻類もしくはその懸濁液に添加しても良い。緩衝液の塩(緩衝剤)の種類は特に限定されないが、好ましくはリン酸塩、酢酸塩、クエン酸塩、さらに好ましくはリン酸塩、酢酸塩である。塩の種類がリン酸塩の場合、溶液として懸濁液に添加してもよく、固体としてリン酸塩を添加してもよい。リン
【0014】
酸塩としては、例えば、リン酸ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム等のリン酸ナトリウム;リン酸カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム等のリン酸カリウム;リン酸二水素アンモニウム等の水溶性リン酸塩が挙げられる。リン酸緩衝液は、リン酸とアルカリ金属(ナトリウム、カリウム、リチウムなど)の緩衝液が好ましく、たとえばリン酸二水素ナトリウムとリン酸水素二ナトリウムの緩衝液、リン酸二水素カリウムとリン酸水素二カリウムの緩衝液などが挙げられる。リン酸緩衝液は、リン酸三ナトリウムとリン酸などの他の材料を使用してもよい。リン酸緩衝液は、リン酸二水素ナトリウムとリン酸水素二ナトリウムを含む緩衝液が好ましい。
【0015】
酢酸塩としては、例えば、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸リチウム、酢酸アンモニウム等の水溶性酢酸塩が挙げられる。酢酸緩衝液は、酢酸とアルカリ金属(ナトリウム、カリウム、リチウムなど)の緩衝液が好ましく、たとえば酢酸と酢酸ナトリウムの緩衝液、酢酸と酢酸カリウムの緩衝液などが挙げられる。酢酸緩衝液は、酢酸カルシウムもしくは酢酸マグネシウムと酢酸などの他の材料を使用してもよい。
【0016】
クエン酸塩としては、例えば、クエン酸ナトリウム、クエン酸二水素ナトリウム、クエン酸水素二ナトリウム、クエン酸三ナトリウム等のクエン酸ナトリウム;クエン酸カリウム、クエン酸二水素カリウム、クエン酸水素二カリウム、クエン酸三カリウム等のクエン酸カリウム;クエン酸二水素アンモニウム等の水溶性クエン酸塩が挙げられる。クエン酸緩衝液は、クエン酸とアルカリ金属(ナトリウム、カリウム、リチウムなど)の緩衝液が好ましく、たとえばクエン酸二水素ナトリウムとクエン酸水素二ナトリウムの緩衝液、クエン酸二水素カリウムとクエン酸水素二カリウムの緩衝液、クエン酸とクエン酸三ナトリウムの緩衝液などが挙げられる。クエン酸緩衝液は、クエン酸カルシウムとクエン酸などの他の材料を使用してもよい。
【0017】
緩衝液は、緩衝剤の濃度が懸濁液中で0.1〜10重量%の濃度になるように添加するのが好ましく、0.3〜3重量%の濃度がより好ましい。
【0018】
たとえば、リン酸緩衝液は、リン酸+リン酸塩の濃度が懸濁液中で0.1〜10重量%の濃度になるように添加するのが好ましく、0.3〜3重量%の濃度がより好ましい。
【0019】
酢酸緩衝液は、酢酸+酢酸塩の濃度が懸濁液中で0.1〜10重量%の濃度になるように添加するのが好ましく、0.3〜3重量%の濃度がより好ましい。
【0020】
クエン酸緩衝液は、クエン酸+クエン酸塩の濃度が懸濁液中で0.1〜10重量%の濃度になるように添加するのが好ましく、0.1〜1重量%の濃度がより好ましい。
【0021】
藍藻類の懸濁液には、キトサンを加える。キトサンは、藍藻類由来の不純物を効果的に吸着し、ろ過により容易に不純物を除去することができる。キトサンを加えることで、ろ過速度は格段に向上する。キトサンの配合量は、懸濁液に対し0.01〜1重量%程度、好ましくは0.03〜0.8重量%程度、より好ましくは0.05〜0.5重量%程度である。キトサンの配合量が少なすぎると、目詰まりにより濾過速度が低下し、キトサンの配合量が多すぎても濾過速度が低下する。すなわち、キトサンには最適な配合量が存在する。
【0022】
最適なキトサン濃度は、リン酸緩衝液と酢酸緩衝液とで相違する。酢酸緩衝液を用いた場合のキトサンの好ましい配合量は、0.05〜0.3重量%程度であり、クエン酸緩衝液を用いた場合のキトサンの好ましい配合量は、0.1〜0.6重量%程度である。
【0023】
また、最適なキトサン濃度は、緩衝液の濃度に依存する。すなわち、緩衝液の濃度が濃くなればキトサンの配合量を多くするのが好ましく、緩衝液の濃度が薄くなればキトサンの配合量を少なくするのが好ましい。
好ましい実施形態では、キトサンと活性炭を藍藻類の懸濁液に加え、濾過する。キトサンと活性炭の添加順序は問わず、キトサンを添加後活性炭を添加してもよく、活性炭を添加後キトサンを添加してもよく、キトサンと活性炭を同時に添加してもよい。キトサンと活性炭の存在下で濾過することが好ましい。活性炭の配合量は特に限定されないが、好ましい配合量は、0.05〜5重量%程度であり、より好ましい配合量は、0.1〜2重量%程度である。
【0024】
好ましい1つの実施形態では、キトサンと活性炭を同時に加えた後ろ過する。ここで、「同時」とは、同一の溶液中に共に存在していることを意味し、添加の順番やタイミングに制限はない。
【0025】
懸濁液の調製及び濾過を行う際の水懸濁液の温度は5〜50℃程度が好ましく、10〜35℃程度がより好ましい。
【0026】
フィコシアニン色素の調製液を得る際に水懸濁液に対して超音波処理や撹拌処理を行ってもよい。攪拌は非常にゆっくりでもよいし、懸濁液の泡立ちが甚だしく激しくならない程度に攪拌速度を上げて行ってもよい。また、攪拌を間欠的に行ってもよい。キトサン、必要に応じて活性炭を加えて一定時間撹拌した後、濾過することができる。撹拌等の時間としては、1分〜24時間、好ましくは15分〜5時間程度が挙げられる。キトサン、活性炭が懸濁液中に一様に混ざった後、濾過を行う。ろ過が完了するまで懸濁液は攪拌を行ってもよいし、静置しておいてもよい。ろ過が完了するまでの時間は、1分〜64時間、好ましくは3分〜24時間程度が挙げられる。
【0027】
このようにして得られたフィコシアニンは、溶液状態(ろ液)で使用に供することも可能であるが、更に濃縮しても良い。濃縮方法としては、溶液に夾雑している低分子性色素、有機不純物、及び無機イオン含量を低下させ、精製度を向上することができるため、限外濾過による濃縮が好ましい。限外濾過に用いる限外濾過膜は、分画分子量が1,000〜30,000のものが好ましく、5,000〜20,000のものがより好ましい。
【0028】
無菌化は、溶液状態で加熱することにより色素が分解するので、メンブランフィルター(MF膜)により行うのが好ましい。キトサンおよび活性炭の使用により、目詰まりを生じる成分は除去されているので、メンブランフィルターで問題なくろ過できる。
本発明の調製方法で得られるフィコシアニンは、糖類(トレハロース、グリセリン等)、塩類(例えばクエン酸塩)等を加えて安定化させ水溶液として、あるいは乾燥工程を経ることにより、乾燥粉末として提供することができる。乾燥方法は、フィコシアニンが変性劣化しない条件であれば何れでも良いが、噴霧乾燥、減圧乾燥、凍結乾燥が好ましい。
【0029】
本明細書中では用語「キトサン」とは、カニ、エビなどの甲殻類の外骨格を無機物(カルシウム化合物)とともに形成している成分であるキチンを脱アセチル化した、酸性水溶液に溶けるものをいう。キトサンの化学構造は、キチンが脱アセチル化したグルコサミンで分子内に多くのアミノ構造を有するのが特徴である。
【0030】
本発明において使用される「活性炭」としては、特に限定されることなく、市場に流通している活性炭全般を広く使用することができる。活性炭は粉末状であっても顆粒状であってもよい。活性炭の原料としては、椰子殻、パーム椰子、果実の種、鋸屑、ユーカリ、松などの植物系、石炭系、石油系のコークス及びそれらを原料としたピッチの炭化物、フェノール樹脂、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂などをあげることができるが、好ましくは椰子殻、パーム椰子、果実の種、鋸屑、ユーカリ、松などの植物系材料由来のものが用いられる。活性炭の比表面積が500〜3000m/g程度、好ましくは800〜2500m/g程度のものが好適である。
【0031】
本発明において使用されるキトサンは、なるべく不純物を含まないことが好ましい。不純物の含有量は、好ましくは約10重量%以下、より好ましくは約5重量%以下、さらに好ましくは約1重量%以下である。
【0032】
本発明において使用されるキトサンは、水溶液として使用されてもよいし、水以外の溶媒に溶解して使用してもよい。またキトサンは水や溶媒に溶かさず粉体もしくは固体のまま直接藻類の懸濁液中に添加されてもよい。
【実施例】
【0033】
以下、本発明を実施例に基づきより詳細に説明する。
(使用した凝集剤)
・ポリ塩化アルミニウム(PAC;カチオン系高分子凝集剤)
製品名 タイパック(大明化学工業株式会社製)
・ジメチルアミノエチルメタクリラートメチルクロリド塩ホモポリマー(カチオン系高分子凝集剤)
製品名 タイポリマーTC-580(大明化学工業株式会社製)
・アクリルアミド-アクリル酸ソーダ共重合物(アニオン系高分子凝集剤)
製品名 タイポリマーTA945(大明化学工業株式会社製)
・キチンキトサン(カチオン系高分子凝集剤)
・活性炭
製品名 フジ活性炭 花F1-W50(セラケム株式会社製)
【0034】
実施例1
(方法)
スピルリナ乾燥藻体をリン酸ナトリウム溶液(0.82%リン酸二水素ナトリウム+0.84%リン酸水素二ナトリウム)に懸濁し、20℃16時間ゆっくり攪拌してフィコシアニン成分を抽出した。本抽出液に、各種凝集剤を添加し、ろ紙を用いたろ過(100mlスケール)を行い、最初の1分間のろ液量の測定ならびにろ液の分析を行った。フィコシアニンの吸収ピークはA618nm、不純物の指標として、A618値に対するA260nm(核酸の吸収極大)値を計算した。色価残存率(ろ過工程の回収率)は、未処理(凝集剤処理を行っていないろ液)のA618値に対する相対値で表した。
【0035】
(結果)
表1、表2に示すとおり、キトサン処理のろ過速度が最も速く、ろ液中の不純物の割合が最も低かった。色価残存率も、キトサン処理が最も高かった。さらに、無菌化用フィルターのろ液通過量もキトサン処理が最も多かった。
【0036】
【表1】
【0037】
【表2】
【0038】
得られたフィコシアニン溶液は、260nm付近の核酸等の不純物の極大吸収が凝集剤未処理およびリン酸カルシウム処理の従来法と比較して大きく低減されており、本発明の色素液がスピルリナ由来の不純物をほとんど含まないことが明らかになった。
【0039】
実施例2
(方法)
スピルリナ乾燥藻体をリン酸ナトリウム溶液(リン酸二水素ナトリウムとリン酸水素二ナトリウムの重量比は変えず、濃度を変えたそれぞれの溶液)もしくは酢酸ナトリウムと酢酸の混合液に懸濁し、20℃16時間ゆっくり攪拌してフィコシアニン成分を抽出した。本抽出液に、キトサン(フローナックC)を添加し、ろ紙を用いたろ過(100mlスケール)を行い、最初の1分間のろ液量の測定ならびにろ液の分析を行った。フィコシアニンの吸収ピークはA618nm、不純物の指標として、A618値に対するA260nm(核酸の吸収極大)値を計算した。色価残存率(ろ過工程の回収率)は、未処理(凝集剤処理を行っていないろ液)のA618値に対する相対値で表した。
【0040】
(結果)
表3に示すとおり、塩濃度0%(水道水)、もしくは各濃度のリン酸緩衝液、あるいは酢酸緩衝液にスピルリナ乾燥藻体を懸濁したいずれの場合においても、キトサン処理によって良好なろ過速度をもってろ過を行うことができ、ろ液中の不純物の割合も低かった。また無菌化用フィルターのろ液通過量も十分に確保できた。
【0041】
【表3】
【0042】
実施例3及び比較例1
以下のプロトコールに従って、フィコシアニンの調製を遠心分離(比較例1)又はろ過(実施例3)により行った。
【0043】
(i)抽出 :リン酸Buffer(0.86%リン酸二水素ナトリウム+ 0.88%リン酸水
素二ナトリウム)にスピルリナ粉末を3%分散させ、15h撹拌抽
出する。
(ii)凝集 :抽出液に水溶性キトサンを0.3%添加し、凝集させる。
(iii)固液分離:ろ過はろ紙を用い、ろ液を回収する。
遠心は440〜10,000xgの条件で10分間遠心分離を行い、上澄
液を回収する。
(iv)分析 :0.45μmメンブレンフィルターにて各回収液の通液量を測定
する。
ろ紙:ADVANTEC No.2定性ろ紙を使用
遠心機:日立 SCR20B、アングルローター(50F-6A)を使用
結果を以下の表4に示す。
【0044】
【表4】
【0045】
ろ過により得られたフィコシアニン調製液の方が、遠心分離により得られたフィコシアニン調製液よりも、0.45μmメンブレンフィルターの通液量が多かった。この結果から、ろ過の方が目詰まりを起こす不純物が少ないことが明らかになった。
【0046】
この結果により、本発明により、実製造においてろ過後の精密ろ過工程の膜への負担を減らし、目詰まりによる膜の再生工程を減らすことが可能となる。
【0047】
以上のことより、キトサンを用いたフィコシアニンの調製には遠心分離よりもろ過の方が優れている。
【0048】
実施例4
以下のプロトコールに従って、フィコシアニンの調製を「キトサンと活性炭の同時処理」あるいは 「キトサンと活性炭の別処理」により行った。
別処理工程:「抽出」→「凝集(キトサン)処理」→「ろ過」→「活性炭処
理」→「ろ過」
同時処理工程:「抽出」→「キトサン+活性炭処理」→「ろ過」
(i)抽出 :リン酸Buffer(0.86%リン酸二水素ナトリウム+ 0.88%
リン酸水素二ナトリウム)にスピルリナ粉末を3%分散させ、
15h撹拌抽出する。
(ii)キトサン処理 :抽出液に水溶性キトサンを0.4%添加し、凝集させる。
(iii)活性炭処理 :抽出液に活性炭を0.5%添加し、1h撹拌する。
(iv)ろ過 :ろ紙を用い、ろ液を回収する。
(v)分析 :0.45μmメンブレンフィルターにて各回収液の通液量を
測定する。
結果を表5に示す。
【0049】
【表5】
【0050】
同時処理工程の方が別処理工程よりも0.45μmメンブレンフィルターの通液量が多かった。同時処理工程の方が目詰まりを起こす不純物が少ないことが明らかになった。
【0051】
キトサンと活性炭の同時処理を行うことで、実製造においてろ過後の精密ろ過工程の膜への負担を減らし、目詰まりによる膜の再生工程を減らすことが可能となる。
【0052】
以上のことより、キトサンと活性炭を用いたフィコシアニンの調製には別処理工程よりも同時処理工程の方が優れている。
【0053】
実施例5及び比較例2
以下のプロトコールに従って、キトサンと活性炭の同時処理によるフィコシアニンの調製を遠心分離(比較例2)又はろ過(実施例5)により行った:
(i)抽出 :リン酸Buffer(0.86%リン酸二水素ナトリウム+ 0.88%リン
酸水素二ナトリウム)にスピルリナ粉末を3%分散させ、
15h撹拌抽出する。
(ii)凝集 :抽出液に水溶性キトサンを0.3%添加し、凝集させる。
:活性炭処理:抽出液に活性炭を0.5%添加し、1hゆっくりと
攪拌する
(iii)固液分離 :ろ過はろ紙を用い、ろ液を回収する。
遠心は10,000xgの条件で10分間遠心分離を行い、上澄液を
回収する。
(v)分析 :0.45μmメンブレンフィルターにて各回収液の通液量を
測定する。
ろ紙:ADVANTEC No.2定性ろ紙を使用
遠心機:日立 SCR20B、アングルローター( 50F-6A)を使用
結果を表6に示す。
【0054】
【表6】
【0055】
同時処理条件において、ろ過と遠心分離で0.45μmフィルターの通液量はろ過処理の方が明らかに良好な結果を得た。
【0056】
表6の結果より、フィコシアニンの調製において、キトサンと活性炭を同時処理し、かつ、遠心分離ではなくろ過法を用いることで、0.45μmメンブレンを目詰まりさせる不純物を除去することができる。
【産業上の利用の可能性】
【0057】
本発明に係るフィコシアニン調製方法は、藍藻類の懸濁液からフィコシアニンを高純度かつ速やかに調製することができ、藍藻類残渣、不要タンパク質、核酸などを非常に効率的に除去することができる。さらに本発明は、従来のリン酸カルシウム反応を用いた凝集ろ過あるいは遠心分離によるフィコシアニン調製方法の問題点であった、精密ろ過非透過性不純物を、精密ろ過工程前に除去することを可能にし、その結果、フィコシアニンの液状品の製造をも可能とするものである。また、凝集時の活性炭の併用により実製造時における以下のような工程上の作業軽減を期待することができる。
【0058】
<ろ過工程>
・ケーキの圧搾が十分にできることより、ろ液の回収量が向上する。
・フィルタープレス等のろ布が目詰まりし難いことにより、処理できる液量
が大きく増加する。
・使用後のろ布の洗浄が容易となる。
・ケーキのろ布離れが良い。さらに全自動プレスろ過機による自動運転制御が可能となる。
【0059】
<精密ろ過工程>
・精密膜透過速度が増え、処理できる液量が大きく増加する。
・膜の目詰まりが著しく軽減し、洗浄(再生)が簡便になる。