特許第6084170号(P6084170)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6084170腫瘍発生細胞を認識する抗体及び抗原並びにそれらの使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6084170
(24)【登録日】2017年2月3日
(45)【発行日】2017年2月22日
(54)【発明の名称】腫瘍発生細胞を認識する抗体及び抗原並びにそれらの使用
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/30 20060101AFI20170213BHJP
   C12N 5/20 20060101ALI20170213BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20170213BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20170213BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20170213BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20170213BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20170213BHJP
【FI】
   C07K16/30
   C12N5/20
   C12N15/00 A
   C12P21/08
   A61K39/395 T
   A61K31/7088
   A61P35/00
【請求項の数】21
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2013-553769(P2013-553769)
(86)(22)【出願日】2012年2月22日
(65)【公表番号】特表2014-507150(P2014-507150A)
(43)【公表日】2014年3月27日
(86)【国際出願番号】CN2012000227
(87)【国際公開番号】WO2012113266
(87)【国際公開日】20120830
【審査請求日】2015年1月30日
(31)【優先権主張番号】201110042166.6
(32)【優先日】2011年2月22日
(33)【優先権主張国】CN
【微生物の受託番号】CGMCC  4416
(73)【特許権者】
【識別番号】513210415
【氏名又は名称】北京市腫瘤防治研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】張 志謙
(72)【発明者】
【氏名】趙 威
(72)【発明者】
【氏名】王 力民
(72)【発明者】
【氏名】韓 海勃
(72)【発明者】
【氏名】▲シン▼ 宝才
【審査官】 宮岡 真衣
(56)【参考文献】
【文献】 特表2010−536852(JP,A)
【文献】 特表2006−524049(JP,A)
【文献】 Neuroscience,2008年,Vol.155,p.510-521
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 16/30
A61K 31/7088
A61K 39/395
A61P 35/00
C12N 5/20
C12N 15/09
C12P 21/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
寄託番号CGMCC番号4416のハイブリドーマによって産生される抗体、又はその抗原結合フラグメントであって、以下の特性を有する抗体又はその抗原結合フラグメント:
(a)腫瘍細胞上のCACNA2D1に結合すること、
(b)腫瘍発生細胞の特性を有する腫瘍細胞と結合すること、及び
(c)生体内においてCACNA2D1発現腫瘍細胞の成長を阻害すること
【請求項2】
寄託番号CGMCC番号4416のハイブリドーマ細胞株。
【請求項3】
単離されたハイブリドーマ細胞である、請求項2に記載のハイブリドーマ細胞株。
【請求項4】
請求項1に記載の抗体又はその抗原結合フラグメントを含む組成物であって、さらに試薬を含む組成物。
【請求項5】
請求項1に記載の抗体又はその抗原結合フラグメントをコードするポリヌクレオチドを含む核酸分子。
【請求項6】
前記ポリヌクレオチドが、ハイブリドーマCGMCC番号4416に存在するものである、請求項に記載の核酸分子。
【請求項7】
請求項1に記載の抗体と結合する少なくとも1つの腫瘍発生細胞と請求項1に記載の抗体又はその抗原結合フラグメントを含む組成物。
【請求項8】
前記腫瘍発生細胞が、肝臓がんの腫瘍発生細胞である、請求項に記載の組成物。
【請求項9】
さらに非腫瘍発生細胞を含む、請求項又はに記載の組成物。
【請求項10】
被験体からの試料を含む、請求項のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
請求項に記載の核酸分子を含むキットであって、CACNA2D1と結合すること若しくは結合を欠くことを検出するための少なくとも1つの薬剤をさらに含む、キット。
【請求項12】
CACNA2D1が、CACNA2D1のアイソフォーム5である、請求項11に記載のキット。
【請求項13】
請求項1に記載の抗体又はその抗原結合フラグメントを含む、腫瘍の診断薬。
【請求項14】
請求項1に記載の抗体若しくはその抗原結合フラグメント、又は請求項に記載の核酸分子を含む、腫瘍の治療薬。
【請求項15】
他の抗癌剤と共に被験体に投与される、請求項14に記載の治療薬。
【請求項16】
前記他の抗癌剤が、化学療法剤又は生物療法剤である、請求項15に記載の治療薬。
【請求項17】
放射線療法及び/又は手術を適用される被験体に投与される、請求項1416のいずれか一項に記載の治療薬。
【請求項18】
前記腫瘍が固形腫瘍である、請求項1417のいずれか一項に記載の治療薬。
【請求項19】
前記腫瘍が肝臓がん、結腸がん、直腸がん、腎臓がん、食道がん、胃がん、肺がん、乳がん、前立腺がん又は腫瘍の表面にCACNA2D1が存在することを伴う他の腫瘍である、請求項1417に記載の治療薬。
【請求項20】
前記腫瘍が肝細胞がんである、請求項19に記載の治療薬。
【請求項21】
請求項又はに記載のハイブリドーマ細胞株に抗体を産生させる工程を含む、抗体の調製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は製薬バイオテクノロジーの分野に関する。具体的には、本発明は、腫瘍発生細胞のマーカー及び/又は腫瘍治療の標的分子を探索する方法、更には腫瘍発生細胞のマーカー及び/又は腫瘍治療の標的分子を標的とする治療薬を開発及びスクリーニングする方法に関する。本発明は、腫瘍診断、腫瘍予後診断及び腫瘍治療のためのモノクローナル抗体又はその抗原結合フラグメントと、該モノクローナル抗体又はその抗原結合フラグメントを含む診断キット又は医薬組成物と、腫瘍等の診断、予後診断又は治療における該モノクローナル抗体又はその抗原結合フラグメントの使用とに更に関する。本発明は、腫瘍の診断又はがんの転帰予測における抗体の標的とされる抗原又は抗体によって認識される標的分子の使用に更に関し、この抗原又は標的分子は腫瘍発生細胞(又は腫瘍幹細胞と称される)のマーカーとして使用される。加えて、本発明は、腫瘍治療のための試薬及び薬物の開発における分子標的としての抗体の標的とされる抗原又は抗体によって認識される標的分子の使用を開示する。
【背景技術】
【0002】
腫瘍組織が種々の機能及び形態を有する不均一な細胞集団からなることが以前から知られている。腫瘍/がん幹細胞(TSC/CSC)仮説では、腫瘍が正常な組織及び器官と同様の腫瘍幹細胞の進行性の増殖及び分化によって形成され、不均一性がもたらされることが仮定される。正常幹細胞と同様の特性を有することから命名された腫瘍幹細胞は、腫瘍組織における含量が比較的低く、無限の自己複製能並びに腫瘍の形成及び成長を開始する能力を有する細胞群を指す。しかしながら、TSCは対応する正常幹細胞に確実に由来するわけではなく、又は必ずしも正常幹細胞と関連するわけではない。この点を考慮して、これらの細胞は誤解を避けるために腫瘍発生細胞(TIC)又は腫瘍増殖細胞(TPC)とも呼ばれる。腫瘍幹細胞は動物において強い腫瘍原性/発がん性を示し(かかる細胞は100個又は更には数個で免疫不全マウスにおいて腫瘍/がんの形成を誘導し得る)、強い薬物耐性及び浸潤性成長を示す。これらの細胞は、腫瘍原性でない細胞に分化する可能性も有する。これらの腫瘍幹細胞の存在は腫瘍の生成、腫瘍の発達及び治療の失敗の実質的な原因とみなされる。
【0003】
腫瘍幹細胞が初めて血液から単離され、同定されて以来、腫瘍幹細胞が脳がん、乳がん、前立腺がん及び結腸がん等の固形腫瘍中に存在することが確認されている。肝臓がんに関しては、幾つかの研究グループが異なる戦略を採用し、同様に培養細胞株又は臨床検体に由来する肝臓がん幹細胞を発見した。例えば、Huh7細胞から単離されたサイドポピュレーション(SP)細胞は、連続接種による動物実験によって腫瘍を誘導することができた。また、CD133をHuh7細胞株及びPLC8024細胞株における肝臓がん幹細胞のマーカーとして使用することができることが報告されている。近年、CD90、EpCAM、OV6、CD133/ALDHを肝臓がん幹細胞の分離に使用することにも成功している。幹細胞様の特性を有する腫瘍細胞が種々の方法で同定されているが、既に発見されている腫瘍幹細胞のマーカーが良好な特異性を示さなかったため、同じマーカーを用いて異なる起源の腫瘍から分離された様々なタイプの細胞は、生物学的特性が大きく異なる。これに関して、腫瘍幹細胞が存在するか否か、及び腫瘍幹細胞が実際にどのようなものであるかについては議論中である。実際は、「腫瘍幹細胞」若しくは「腫瘍発生細胞」又は更には「腫瘍増殖細胞」という用語は操作的(operational)用語に過ぎず、その性質は更に調査する必要がある。それにもかかわらず、共通の結論は、免疫不全動物において放射線療法及び化学療法に耐性を示し、強い腫瘍原性を有する細胞群が腫瘍組織に存在するということである。それらの細胞群は、どのように命名されようと、治療の失敗及び腫瘍の再発の主要な原因である。これらの細胞の分離及び同定は、腫瘍の診断及び治療に新たな認識をもたらす。従来の治療は主に、腫瘍集団において多量に存在する低悪性度の細胞に重点を置くものであった。しかしながら、腫瘍発生細胞は割合が低いにも関わらず、従来の放射線療法及び化学療法に対する耐性のために生き残り、徐々に成長し、他の部位へと移動して、腫瘍の再発及び転移を引き起こし得る。これに関し、腫瘍発生細胞の排除を目的とする薬物は、腫瘍の再発及び転移を根本的に阻止することができる。これらの薬物は、単独で又は従来の外科手術、放射線療法又は化学療法と組み合わせることで、腫瘍の完全な治癒にとって新たな幕開けとなる。これらの腫瘍発生細胞は腫瘍の診断、治療及び予後診断の標的として治療されるものとする。
【0004】
近年、腫瘍幹細胞を標的とすることによる腫瘍治療に対する実験は大きな進展を遂げている。例えば、結腸直腸がんにおいては、CD133陽性腫瘍幹細胞は高レベルのIL−4を発現することによりアポトーシスを阻害するため、IL−4の阻害剤を用いたCD133陽性腫瘍幹細胞の処理は、薬物に対するそれらの感受性を高める。抗CD44抗体の使用が急性白血病において腫瘍幹細胞を排除し、かかる病態を治癒し得ることも研究により示されている。
【0005】
腫瘍幹細胞に対する薬物の開発は、腫瘍幹細胞の自己複製、薬物耐性又は浸潤性成長に関与するシグナル伝達経路の鍵分子に狙いを定めるものであり得る。この薬物開発は、細胞表面上に位置するマーカー、及び細胞が存在し、生存するニッチに焦点を合わせるものでもあり得る。これらの主要プロセスに関与する分子が、腫瘍幹細胞の単離及び同定、並びに悪性の生物学的特性の本質並びに根底にある調節機構の深い理解に基づいて発見されている。一般に言及される腫瘍関連抗原と比較して、腫瘍幹細胞に関連する分子が通常は比較的低レベルに発現されることに留意されたい。このため、これらの分子の発見は主に、腫瘍幹細胞様集団におけるこれらの分子の過剰発現ではなく、特異的発現に基づく。
【0006】
現在の薬物開発技術の進歩に伴い、コンピューターシミュレーションを用いて特異的分子に対する特異的拮抗薬を設計することができ、主要薬物の既存のライブラリから候補薬物をスクリーニングすることができる。また、拮抗作用を有する抗体を作製することができ、ファージ提示法等の他の分子バイオテクノロジー及び細胞バイオテクノロジーを用いて標的薬物をスクリーニングすることができる。
【0007】
モノクローナル抗体技術は、特異的抗原又は特定の細胞を標的とする抗体を作製する従来の技術として用いられている。多くの抗体が、悪性潰瘍等の幾つかの臨床疾患を治療するために直接、又は遺伝子工学によりキメラマウス−ヒト抗体若しくは更には完全ヒト化抗体へと修飾されて使用されている。これまで、抗体による腫瘍幹細胞を標的とする治療に関する実験は、CD44、P糖タンパク質1、ヒアルロン酸受容体、EpCAM、CD326、CXCR4、IL−4、DLL4、ALDH等に関わるものであった。
【0008】
腫瘍発生細胞の特異的な同定に使用することができるマーカーが、かかる細胞をスクリーニング及び同定するために当分野において必要とされている。さらに、このマーカーは臨床診断及び予後診断において使用することができる。このマーカーは、これらの細胞の悪性の生物学的挙動及び調節の分子機構に関する研究にも使用することができる。一方、腫瘍発生細胞に指向性を有する薬物を開発することにより、腫瘍を治療し、腫瘍の再発及び転移を根本的に阻止することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の一目的は、腫瘍発生細胞の単離、同定及び治療のための分子標的を探索、識別又は同定することである。
【0010】
本発明の別の目的は、腫瘍又はCACNA2D1タンパク質に関連する疾患若しくは障害を診断、治療及び予防する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、腫瘍発生細胞のマーカー及び/又は腫瘍治療の標的/分子標的を探索、識別又は同定する方法であって、腫瘍発生細胞に富んだ再発性腫瘍源に由来する細胞を用いて動物を免疫化する工程を含む、方法を提供する。
【0012】
本発明は、腫瘍を診断、治療及び予防する方法であって、本発明における腫瘍発生細胞のマーカー及び/又は腫瘍治療の標的/分子標的を探索、識別又は同定する方法を採用する工程と、
マーカー及び/又は標的/分子標的に基づいて抗体若しくは抗原結合フラグメント、一本鎖オリゴヌクレオチド若しくは二本鎖オリゴヌクレオチド、核酸、短ペプチド又はその低分子配合剤を開発及び/又はスクリーニングする工程(ここで、抗体若しくは抗原結合フラグメント、一本鎖オリゴヌクレオチド若しくは二本鎖オリゴヌクレオチド、核酸、短ペプチド又はその低分子配合剤が、マーカー若しくは標的/分子標的の遺伝子発現及び/又はタンパク質活性を低減するか、又はマーカー又は標的/分子標的を標的化した後に細胞傷害性反応を引き起こす)、続いて治療的に有効な量の少なくとも1つの抗体若しくは抗原結合フラグメント、一本鎖オリゴヌクレオチド若しくは二本鎖オリゴヌクレオチド、核酸、短ペプチド又はその低分子配合剤を、それを必要とする被験体に投与する工程を含む、方法を更に提供する。
【0013】
本発明は、腫瘍又はCACNA2D1タンパク質に関連する疾患若しくは障害の診断又は治療のためのモノクローナル抗体又はその抗原結合フラグメントを更に提供する。
【0014】
本発明は、腫瘍又はCACNA2D1タンパク質に関連する疾患若しくは障害の診断、予後診断及び治療におけるモノクローナル抗体又はその抗原結合フラグメントの使用を更に提供する。
【0015】
本発明者らは、電位依存性カルシウムチャネルα2δ−1サブユニット(CACNA2D1と称される、GenBank番号NM_000722.2)が、腫瘍発生細胞の分子マーカー及び腫瘍治療の分子標的又は標的であることを見出した。CACNA2D1の核酸又はタンパク質に対する診断用試薬及び治療薬を開発することは有用である。本発明者らは、Hep−11細胞株(原発性肝細胞がん組織に由来する)及びHep−12細胞株(再発性肝細胞がん組織に由来する)を、それぞれ単一のHCC(肝細胞がん)患者の原発病変及び再発病変から確立した。本発明者らは、集団分析及びクローニング分析に基づいて、再発性HCC組織由来のHep−12細胞の大半(80%超)が、腫瘍発生細胞としての特性を有することが見出された一方で、原発性HCC組織由来のHep−11細胞が最大で10細胞の注射後6ヶ月にわたって非腫瘍形成性であることも発見した。Hep−12細胞を用いてbalb/cマウスに接種し、ハイブリドーマを作製すると、Hep−12細胞を特異的に認識する特異的抗体1B50−1を得ることができる。本発明者らは、5つの肝臓がん細胞株及び4つの肝臓がんの臨床検体からフローサイトメトリーによって分類される100個〜1000個の1B50−1陽性細胞が、NOD/SCIDマウスにおいて皮下腫瘍を発生させるのに十分であることを見出した。遺伝子発現及び細胞分化から、これらの抗体陽性細胞が腫瘍発生細胞としての特性を有することが示された。一方、本発明者らは、かかる抗体をHep−12腫瘍及びHuh7腫瘍を保有するNOD/SCIDマウスに腹腔内注射すると、移植腫瘍を用量依存的に阻害することができ、阻害率がそれぞれ80.4%及び65.5%である(重量により測定、IgG対照群と比較した)ことを見出した。免疫沈降及び質量分析(MS)から、1B50−1によって認識される抗原が150kdのイオンチャネルタンパク質であることが示された。イオンチャネルタンパク質の遺伝子の発現をRNA干渉によって阻害することで、ヌードマウスにおけるHep−12細胞の成長も阻害することができる。これら全ての結果から、1B50−1によって認識される抗原が肝臓がんに対する新規の腫瘍発生細胞のマーカー、更には腫瘍治療の分子標的であることが示唆された。
【0016】
本発明の一実施の形態によると、本発明は、腫瘍発生細胞のマーカー又は腫瘍治療の標的/分子標的を探索、識別又は同定する方法を提供する。本発明は、腫瘍発生細胞の単離、同定及び治療において使用することができる分子標的を探索、識別又は同定する方法を更に提供する。上記方法は、腫瘍発生細胞に富んだ再発性腫瘍源に由来する細胞で動物を免疫化する工程を含む。本発明の腫瘍発生細胞のマーカー及び/又は治療の標的/分子標的を探索する方法の特定の実施の形態では、腫瘍は肝臓がん、結腸がん、直腸がん、腎臓がん、食道がん、胃がん、肺がん、乳がん、前立腺がん又はCACNA2D1の遺伝子を高度に発現する他の腫瘍であり得る。本発明の別の実施の形態では、腫瘍は肝臓がんであり、腫瘍発生細胞に富んだ再発性腫瘍源に由来する細胞は、再発性肝臓がんに由来し、腫瘍発生細胞に富んだHep−12細胞である。本発明における腫瘍発生細胞のマーカー及び/又は治療の標的を探索する方法では、方法は、単一のHCC患者の原発性肝臓がん組織及び再発性肝臓がん組織にそれぞれ由来するHep−12細胞及びHep−11細胞を、スクリーニング用の細胞対として使用することを更に含む。
【0017】
本発明の一実施の形態によると、本発明は、腫瘍を治療する方法であって、
1)腫瘍発生細胞に富んだ再発性腫瘍源に由来する細胞(Hep−12細胞等)を用いて動物(balb/cマウス等)を免疫化するとともに、腫瘍発生細胞のマーカー及び/又は腫瘍治療の標的/分子標的(CACNA2D1等)を探索、識別又は同定する工程、
2)工程1)において探索、識別又は同定したマーカー及び/又は標的/分子標的(CACNA2D1等)に基づいて、抗体若しくは抗原結合フラグメント、一本鎖オリゴヌクレオチド若しくは二本鎖オリゴヌクレオチド、核酸、短ペプチド又はその低分子配合剤を開発及び/又はスクリーニングする工程(ここで、抗体若しくは抗原結合フラグメント、一本鎖オリゴヌクレオチド若しくは二本鎖オリゴヌクレオチド、核酸、短ペプチド又はその低分子配合剤が、マーカー又は標的/分子標的の遺伝子発現及び/又はタンパク質活性を低減するか、又はマーカー又は標的/分子標的を標的化した後に細胞傷害性反応を引き起こす)、
3)治療的に有効な量の少なくとも1つの工程2)において開発又はスクリーニングした抗体若しくは抗原結合フラグメント、一本鎖オリゴヌクレオチド若しくは二本鎖オリゴヌクレオチド、核酸、短ペプチド又はその低分子配合剤を、それを必要とする被験体に投与する工程、
を含む、方法を提供する。
【0018】
本発明の一実施の形態によると、上記に記載の工程1)は、腫瘍発生細胞に富んだ再発性腫瘍源に由来する細胞(Hep−12細胞等)で動物(balb/cマウス等)を免疫化して、ハイブリドーマを作製し、モノクローナル抗体(1B50−1等)を得ることによって行うことができる。得られる抗体(1B50−1等)によって特異的に認識される細胞(Hep−12細胞等)を、腫瘍幹細胞の分化及び同定に対する候補細胞として使用する。動物実験(例えば、100個〜1000個の細胞でNOD/SCIDマウスにおいて皮下腫瘍を誘導することができるか否か)、遺伝子発現及び細胞分化並びに他の研究を行い、抗体陽性細胞が腫瘍幹細胞の特性を有するか否かを決定する。本発明の方法によって得られるモノクローナル抗体(1B50−1等)によって特異的に認識される腫瘍幹細胞の抗原は、本発明によって探索される腫瘍発生細胞のマーカー及び/又は治療の標的/分子標的である。本発明の特定の実施の形態によると、本発明者らはCACNA2D1タンパク質を見出し、それが腫瘍発生細胞のマーカー及び/又は腫瘍/がん治療の標的/分子標的であると決定した。
【0019】
本発明の一実施の形態によると、マーカー、標的若しくは分子標的の遺伝子発現及び/又はタンパク質活性を低減するか、又はマーカー若しくは標的/分子標的を標的化した後に細胞傷害性反応を引き起こす、工程2)において開発又はスクリーニングされる抗体又はその抗原結合フラグメントは、腫瘍発生細胞を探索、識別又は同定する工程1)において得られる抗原(腫瘍/がん治療のマーカー、標的/分子標的)の抗体(1B50−1等)であり得る。それらは探索、識別又は同定したマーカー、標的/分子標的(CACNA2D1タンパク質/抗原等)に基づいて開発又はスクリーニングした他の抗体であってもよい。
【0020】
抗原CACNA2D1に対する新規の抗体及びその誘導体は、本発明において提供される腫瘍発生細胞の抗原であるCACNA2D1に基づいて、様々な抗体作製技術によって得ることができる。これらの技術は、CACNA2D1を様々な発現系によって発現させるか、又はこの抗原を精製するとともに、マウス、ウサギ又は他の動物(遺伝子組み換え動物系統を含む)を免疫化することによって抗原に特異的な抗血清を得ることと、免疫化したマウスに由来する脾臓細胞をSP2/0骨髄腫細胞と融合することと、次いでCACNA2D1抗原に特異的なモノクローナル抗体を、CACNA2D1を用いてスクリーニングすることとを含み、マウス抗CACNA2D1モノクローナル抗体の可変領域をコードする遺伝子をクローニングすることと、次いでヒト−マウスキメラ抗体又はモノクローナル抗体を、直接又はヒト化後に、可変領域を対応するヒト化抗体の定常領域のコード遺伝子に正確に連結することによって原核細胞発現系及び/又は真核細胞発現系において発現させることを更に含むが、これらに限定されない。この遺伝子に特異的な完全ヒト抗体を、ヒト抗体ファージディスプレイライブラリにおいてCACNA2D1を用いてスクリーニングを行うことによって、又はヒト末梢血単核細胞とマウス細胞とを融合するキメラ技術によっても得ることができる。
【0021】
本発明の一実施の形態によると、CACNA2D1タンパク質の量は、本発明の抗体を用いて高感度で定量することができる。CACNA2D1タンパク質をin vivoで定量する方法によって、腫瘍又は様々なCACNA2D1タンパク質に関連する疾患の診断に本発明のモノクローナル抗体又はその抗原結合フラグメントを使用することができる。このため、本発明は、腫瘍又はCACNA2D1タンパク質に関連する疾患若しくは障害を診断する方法であって、有効量の少なくとも1つの本発明のモノクローナル抗体又はその抗原結合フラグメントを、それを必要とする被験体に投与することを含む、方法を更に提供する。in vivo診断に必要とされる用量は、治療に必要とされる用量よりも低い場合があり、当業者であれば従来の手順によって決定することができる。モノクローナル抗体又はその抗原結合フラグメントは、体液、組織等の試験液中に存在するCACNA2D1タンパク質を特異的にアッセイするためにも使用することができる。
【0022】
本発明の一実施の形態によると、本発明は、電位依存性カルシウムチャネルα2δ−1サブユニット(CACNA2D1)を特異的に認識することができるモノクローナル抗体又はその抗原結合フラグメントを提供する。CACNA2D1を特異的に認識する上記モノクローナル抗体又はその抗原結合フラグメントは、
(i)重鎖(以下、H鎖と称する)(重鎖の可変領域は相補性決定領域(CDR)CDRH1(配列番号1)、CDRH2(配列番号2)及びCDRH3(配列番号3)を含む)、又は、
(ii)軽鎖(以下、L鎖と称する)(軽鎖の可変領域は相補性決定領域CDRL1(配列番号4)、CDRL2(配列番号5)及びCDRL3(配列番号6)を含む)、又は、
(iii)(i)及び(ii)の両方、
を含む。
【0023】
本発明の一実施の形態では、上記のモノクローナル抗体又はその抗原結合フラグメントは、以下の1つ又は複数の特性を有する:(1)CACNA2D1タンパク質に結合すること、(2)モノクローナル抗体又はその抗原結合フラグメントによって認識される陽性細胞が、腫瘍発生細胞の特性を有すること、(3)動物においてCACNA2D1発現腫瘍細胞の成長を阻害すること。上述の腫瘍は肝臓がん、結腸がん、直腸がん、腎臓がん、食道がん、胃がん、肺がん、乳がん、前立腺がん又はCACNA2D1の遺伝子を高度に発現する他の腫瘍であり得る。
【0024】
本発明において提供される一実施の形態では、本発明のモノクローナル抗体又はその抗原結合フラグメントは重鎖を含み、重鎖の可変領域は、CDRH1、CDRH2及びCDRH3と少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%又は99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。本発明において提供される一実施の形態では、本発明のモノクローナル抗体又はその抗原結合フラグメントは軽鎖を含み、軽鎖の可変領域は、CDRL1、CDRL2及びCDRL3と少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%又は99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。本発明において提供される一実施の形態では、抗体又はその抗原結合フラグメントは上述の重鎖及び軽鎖の両方を含み得る。別の実施の形態では、本発明の抗体又はその抗原結合フラグメントは、上記のCDRのいずれか又はその組合せと少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%又は99%の配列同一性を有する1つ又は複数のCDRを更に含み得る。
【0025】
本発明の一実施の形態では、本発明は、上述のモノクローナル抗体又はその抗原結合フラグメントを含む、腫瘍又はCACNA2D1タンパク質に関連する疾患若しくは障害の診断、予後診断及び治療のためのモノクローナル抗体又はその抗原結合フラグメントを提供する。上記の腫瘍又は疾患若しくは障害は、肝臓がん、結腸がん、直腸がん、腎臓がん、食道がん、胃がん、肺がん、乳がん、前立腺がん又はCACNA2D1の遺伝子を高度に発現する他の腫瘍であり得る。
【0026】
本発明はハイブリドーマ細胞株を提供し、このハイブリドーマ細胞株は、2010年12月8日に中国微生物菌種保蔵管理委員会普通微生物センター(China General Microbiological Culture Collection Center)に寄託されたマウスハイブリドーマ(CGMCC番号4416)である。
【0027】
本発明の特定の実施の形態では、上記のモノクローナル抗体は、ハイブリドーマ細胞株(CGMCC番号4416)によって産生されるモノクローナル抗体1B50−1である。
【0028】
更なる実施の形態では、本発明は、抗原の特異的エピトープを認識する抗体フラグメントを上述の抗体に基づき既知の技術によって生成することを更に含むが、これに限定されない。例えば、免疫グロブリン分子を、パパイン(Fabフラグメントを生成する)又はペプシン(F(ab’)フラグメントを生成する)等の酵素を用いてタンパク分解的切断に供し、Fabフラグメント及びF(ab’)フラグメントを生成することができる。F(ab’)フラグメントは、L鎖及びH鎖の完全な可変領域、CH1領域及びヒンジ領域を含有する。誘導体配列(例えば異なるシグナルペプチドを用いるか、又はバイオインフォマティクス分析に基づきヒト化によって修飾した)を、既知の公開情報(例えばGenbank、文献又は従来のクローニング及び配列分析による情報)を用い、抗体のヌクレオチド配列又はアミノ酸配列に基づいて更に得ることができる。上記免疫グロブリンをコードする核酸は化学的に合成することができる。代替的には、免疫グロブリンをコードする核酸を、適当な供給源(例えば、抗体のcDNAライブラリ、又はこの抗体を発現する任意の組織若しくは細胞から単離された核酸、例えば、好ましくはmRNAライブラリ又はそれから作成されたcDNAライブラリからスクリーニングされた、抗体を発現するハイブリドーマ)から3’末端及び5’末端の配列に適合する合成プライマーを用いたPCR増幅によって得ることができる。免疫グロブリンをコードする核酸を、例えばcDNAライブラリから特定の遺伝子配列に特異的なオリゴヌクレオチドプローブを用いてスクリーニングすることもできる。次いで、当該技術分野で既知の任意の方法を用いて、PCR増幅によって作製される核酸を、本発明の抗体と同様の生物活性を有する遺伝子組み換え抗体又はその抗原結合フラグメントを発現する、種々の発現系(原核細胞発現系及び真核細胞発現系、無細胞翻訳系等)において発現させることができる複製可能なベクターに導入することができる。
【0029】
本発明において提供される一実施の形態では、本発明の抗体又はその抗原結合フラグメントを、抗体を合成する当該技術分野で既知の任意の他の方法、例えば組換え発現又は化学合成によって作製することができる。
【0030】
本発明は、本発明のモノクローナル抗体又はその抗原結合フラグメントを含有する医薬組成物も提供する。本発明の更なる実施の形態では、この医薬組成物は薬学的に許容される担体を更に含有し得る。加えて、本発明は、本発明のモノクローナル抗体又はその抗原結合フラグメントと、薬学的に許容される担体とを含む、腫瘍又はCACNA2D1タンパク質に関連する疾患若しくは障害の治療のための医薬組成物を提供する。本発明の特定の実施の形態では、本発明の医薬組成物は、上記疾患又は障害を相加的又は相乗的に改善することができる他の活性化合物を更に含む。活性化合物としては、上記疾患又は障害を治療するための他の化学療法化合物及び毒素が挙げられるが、これらに限定されない。活性化合物は、低分子化合物及び他の抗体又はその抗原結合フラグメントを更に含む。具体的には、上記の腫瘍又はCACNA2D1タンパク質に関連する疾患若しくは障害は、肝臓がん、結腸がん、直腸がん、腎臓がん、食道がん、胃がん、肺がん、乳がん、前立腺がん又はCACNA2D1の遺伝子を高度に発現する他の腫瘍であり得る。
【0031】
有利には、経口投与又は非経口投与用の上記の医薬組成物は、活性成分の適当な固定用量に好適な単位剤形に調製される。かかる単位剤形としては、例えば錠剤、丸薬、カプセル剤、注射剤、坐剤等が挙げられる。
【0032】
一実施の形態によると、本発明は、CACNA2D1の遺伝子又はタンパク質に指向性を有するキットを提供する。ここで、このキットは、腫瘍又はCACNA2D1タンパク質に関連する疾患若しくは障害を診断又は治療又は予防するために使用することができ、このキットは上述のモノクローナル抗体若しくはその抗原結合フラグメント、又はCACNA2D1に指向性を有するDNA及びmRNA等の核酸を含み得る。このキットは肝臓がん、結腸がん、直腸がん、腎臓がん、食道がん、胃がん、肺がん、乳がん、前立腺がん等の腫瘍又はCACNA2D1の遺伝子を高度に発現する他の腫瘍の診断、治療又は予防において使用することができる。当業者の知識によると、定量的RT−PCR等の方法によって抗原をmRNAレベルで試験することができ、この遺伝子に指向性を有する抗体又はそれに特異的に結合する小分子を用いてELISA(酵素結合免疫吸着法)、フローサイトメトリー、免疫組織化学的試験(細胞化学的試験)等の既知の技術によって抗原を試験することができる。使用される検体は患者の血液、組織、剥離細胞等に由来し得る。
【0033】
別の実施の形態によると、本発明は、腫瘍又はCACNA2D1タンパク質に関連する疾患若しくは障害の診断、治療又は予防のための薬物の調製における、本明細書中で言及されるモノクローナル抗体又はその抗原結合フラグメントの使用を提供する。上記腫瘍又は疾患若しくは障害は肝臓がん、結腸がん、直腸がん、腎臓がん、食道がん、胃がん、肺がん、乳がん、前立腺がん又はCACNA2D1の遺伝子を高度に発現する他の腫瘍であり得る。本発明のモノクローナル抗体又はその抗原結合フラグメントは、がん及び他のCACNA2D1タンパク質に関連する疾患若しくは障害の診断(例えば、腫瘍発生細胞が患者の組織又は血清中に含有されているか否か、並びに予後診断及び治療感度の予測)のための診断用薬として使用することができる。本発明のモノクローナル抗体又はその抗原結合フラグメントは、CACNA2D1抗原を特異的に認識することが可能であるため、試験液中のCACNA2D1タンパク質を、例えば二抗体サンドイッチアッセイ、競合測定(competitive determination)及びイムノアッセイ等の当該技術分野の従来の方法によって定量するために使用することができる。
【0034】
別の態様では、本発明は、腫瘍又はCACNA2D1タンパク質に関連する疾患若しくは障害を治療する方法であって、治療的に有効な量の少なくとも1つの本発明のモノクローナル抗体又はその抗原結合フラグメントを、かかる治療を必要とする被験体に投与することを含む、方法を提供する。
【0035】
異なる態様では、本発明は、腫瘍又はCACNA2D1タンパク質に関連する疾患若しくは障害を予防する方法であって、予防的に有効な量の少なくとも1つの本発明のモノクローナル抗体又はその抗原結合フラグメントを、かかる治療を必要とする被験体に投与することを含む、方法を提供する。
【0036】
上記の診断、治療及び予防の方法のために、本発明のモノクローナル抗体又はその抗原結合フラグメントを、モノクローナル抗体又はその抗原結合フラグメントの生物学的効果を向上させる他の作用物質と組み合わせて使用することができる。かかる治療用の作用物質の例としては、別の種類の抗体、細胞成長を阻害するか又は細胞を死滅させる細胞毒素、放射性元素及び/又は抗炎症剤を含有する他の治療剤、抗生物質等が挙げられる。
【0037】
本発明のモノクローナル抗体又はその抗原結合フラグメントは、適切な溶媒中で直接液体調製物として混合するか、又は経口若しくは非経口投与される適当な剤形の医薬組成物として調製することができる。
【0038】
本発明のモノクローナル抗体又はその抗原結合フラグメントを薬学的に許容される担体、希釈剤又は賦形剤と混合して、経口投与又は非経口投与に好適となるように医薬組成物を調製することができる。本発明のモノクローナル抗体若しくはその抗原結合フラグメント又は医薬組成物は、リポソームカプセル化、微小粒子、マイクロカプセル等の様々な既知の送達システムによって投与することができる。投与方法としては、皮内投与、筋肉内投与、腹腔内投与、静脈内投与、皮下投与、鼻腔内投与、硬膜外投与及び経口投与が挙げられるが、これらに限定されない。化合物は注入若しくはボーラス注入等の任意の方法で投与することができるか、又は上皮若しくは粘膜(例えば、口腔粘膜又は直腸等)を介した吸収によって投与することができる。これらの化合物は、他の生物活性物質とともに投与することができる。投与は全身的又は局所的に行うことができる。本発明のモノクローナル抗体又はその抗原結合フラグメントは静脈内投与するのが好ましい。本発明のモノクローナル抗体は、かかる治療を必要とする領域に局所投与することもできる。組成物は既知の方法によって調製することができ、薬物調製の分野において一般に使用される担体、希釈剤又は賦形剤を含有する。錠剤に使用される担体又は賦形剤の例としては、ラクトース、デンプン、スクロース、ステアリン酸マグネシウム等が挙げられる。
【0039】
注射用調製物は、静脈注射、皮下注射、皮内注射及び筋肉内注射並びに点滴に使用することができる剤形を含み得る。これらの注射用調製物は既知の方法によって調製することができる。注射用調製物は、例えば上記の抗体又はその塩を従来の注射用の滅菌水性媒体又は油性媒体に溶解、懸濁又は乳化することによって調製することができる。注射用の水性媒体は、例えば生理食塩水、グルコース及び他の副成分を含有する等張液であり得る。媒体は、アルコール(エタノール等)、ポリオール(プロピレングリコール及びポリエチレングリコール等)、非イオン性界面活性剤(ポリソルベート80等)等の適切な可溶化剤と併用することができる。直腸投与用の坐剤は、上記の抗体又はその塩と従来の坐剤用基剤とを混合することによって調製することができる。
【0040】
一実施の形態によると、本発明は、腫瘍又はCACNA2D1タンパク質に関連する疾患若しくは障害を治療するための薬物を調製及びスクリーニングする方法であって、CACNA2D1を標的として用いて抗体若しくは抗原結合フラグメント、一本鎖オリゴヌクレオチド若しくは二本鎖オリゴヌクレオチド、核酸、短ペプチド又はその低分子配合剤を開発及びスクリーニングすることであって、抗体若しくは抗原結合フラグメント、一本鎖オリゴヌクレオチド若しくは二本鎖オリゴヌクレオチド、核酸、短ペプチド又はその低分子配合剤が、CACNA2D1の遺伝子発現及び/又はタンパク質活性を低減するか、又は上記分子を標的化した後に細胞傷害性反応を引き起こすことを含む、方法を更に提供する。
【0041】
好ましくは、上記の本発明のスキームは主に肝細胞がんに指向性を有するが、胃がん、結腸がん、直腸がん、腎臓がん、食道がん、肺がん、乳がん、前立腺がん等も含まれる。
【0042】
さらに、本発明において提供される腫瘍発生細胞のCACNA2D1抗原に基づいて、その抗原に特異的な低分子化合物阻害剤を、主要化合物の既存のライブラリからコンピューターシミュレーション又はスクリーニングによって容易に得ることができる。
【0043】
本発明の具体例によると、CACNA2D1の遺伝子に対する干渉RNA、ShRNA1(配列番号7)及びShRNA2(配列番号8)を設計及び合成した。これを後にレンチウイルス発現ベクターに搭載する。かかるレンチウイルスは上記遺伝子の発現を阻害し、免疫不全動物におけるHep−12細胞の成長に対する顕著な阻害効果を示す。提示したshRNA配列に基づき、適合した配列をコアとして用いて、当業者の常識に従って化学合成及び修飾することによって種々の一本鎖RNAを得ることができる。代替的には、これらのコア配列を、種々のプロモーターを有する遺伝子組換え用の従来のベクター及びクローニングベクターに担持させることができる。
【0044】
定義
本発明において使用される幾つかの用語を以下に規定する。
【0045】
「腫瘍発生細胞」、「腫瘍幹細胞」及び「腫瘍増殖細胞」という用語は、本明細書中で互換的に使用され得る。これらの用語は、実用上の細胞のタイプを指すために使用され、これらの細胞の生物学的特性は更に研究する必要がある。これらの細胞は概して、以下の特性を有するが、これらに限定されない:(1)高度に悪性である:僅かな細胞(100個又はそれ以下)であっても免疫不全マウスにおいて腫瘍を誘導することができ、かかる腫瘍原性が極めて安定である、(2)従来の治療に耐性を示す:従来の放射線療法及び化学療法に耐性を示すか、又はそれらに反応しない。
【0046】
本発明において使用される「抗体」という用語は、標的ポリペプチド又は標的配列に特異的に結合することが可能な抗体分子を指す。この用語は、完全抗体又はその抗原結合フラグメントを含むそのフラグメントも包含する。
【0047】
本発明において使用される「その抗原結合フラグメント」は、一本鎖抗体、Fabフラグメント、F(ab’)フラグメント、ジスルフィド結合(複数の場合もあり)によって連結した一本鎖抗体(sFv)、軽鎖可変領域(VL)及び/又は重鎖可変領域のいずれか1つを含有するフラグメント、又は標的のタンパク質、ポリペプチド若しくは配列に特異的に結合するCDR(複数の場合もあり)を含有するフラグメントを含む、標的のタンパク質、ポリペプチド又は配列に特異的に結合する能力を維持する任意の抗体フラグメントを指す。これらの抗体フラグメントを得る様々な方法が当該技術分野で既知である。
【0048】
本発明において使用される「相補性決定領域(CDR)」という用語は、抗体の特異性又は抗原に対する抗体の結合活性を直接決定する特異的アミノ酸配列を含有する、抗原を認識し、該抗原と結合する抗体の領域を指す。
【0049】
本発明において使用される「特異的に認識する」という用語は、標的のタンパク質、ポリペプチド又は配列に特異的に結合する抗体又はその抗原結合フラグメントの能力を指す。抗体は他のポリペプチド又はタンパク質に非特異的には結合しない。CACNA2D1を特異的に認識する抗体又はその抗原結合フラグメントは、他の抗原と交差反応しないことが好ましい。
【0050】
本発明において使用される「有効量」という用語は、「増殖を阻害するのに治療的に有効な量」又は「増殖を阻害するのに予防的に有効な量」を指す。この用語は、所望の結果を達成するのに必要な、例えば細胞増殖疾患を治療するのに十分な投与量及び期間で有効な量を含む。本発明の化合物の有効量は、被験体の疾患状態、年齢及び体重、並びに被験体において所望の応答を引き出す本発明の化合物の能力等の因子に応じて異なり得る。投与計画は最適な治療反応をもたらすように調整することができる。有効量は、本発明の化合物の任意の毒性作用又は有害作用(例えば副作用)を、治療的に有益な効果が上回る量でもある。
【図面の簡単な説明】
【0051】
図1】肝臓がん幹細胞に富んだHep−12細胞における抗体1B50−1の免疫蛍光染色を示す図である。1b50−1抗体によって認識される抗原が細胞膜上に位置することが示される。大半のHep−12細胞は陽性であるが、大半のHep−11細胞は陰性である。
図2】動物における接種実験の結果を示す図である。1B50−1陽性細胞が腫瘍発生細胞としての特性を有することが実証される。図2(A)は、種々の供給源に由来する1B50−1陽性細胞によって誘導された、NOD/SCIDマウスにおいて形成された腫瘍を示す。図2(B)は、NOD/SCIDマウスにおいて1B50−1陽性細胞によって形成された腫瘍のエオシン−ヘマトキシリン染色を示し、これらの腫瘍の形態が、これらの1B50−1陽性細胞を提供する患者における腫瘍組織と同様であることを示している。図2(C)はフローサイトメトリー分析の結果を示し、精製1B50−1陽性細胞が1B50−1陽性細胞及び1B50−1陰性細胞に分化することができることを示している。図2(D)はリアルタイム蛍光定量RT−PCRの結果を示し、1B50−1陽性細胞が幹細胞に関連する幾つかの遺伝子を高度に発現することを示唆している。
図3】1B50−1によって認識されるCACNA2D1の同定を示す図である。図3Aは免疫沈降分析の結果を示す。図3Bは、CACNA2D1−mycを発現するプラスミドをトランスフェクトした1B50−1陰性細胞を示し、Myc染色及び1B50−1染色が細胞膜上に共局在化することを示している。マージパネルは、Myc染色と1B50−1染色とを重ね合わせた結果を示す。
図4】肝臓がん検体における1B50−1の免疫組織化学染色の結果を示す図である。1B50−1陽性細胞が腫瘍組織に分布することが示される。図4(A)は、がん組織、側がん(paracancerous)組織及び正常な肝組織における1B50−1の代表的な免疫組織化学染色の結果を示す写真である。矢印は陽性細胞を示す。図4(B〜E)は、86対の肝臓がん検体における1B50−1染色プロファイルのカプランマイヤー生存曲線を示し、切除縁(incisal edge)の側がん組織(C及びE)における1B50−1陽性細胞の存在が、患者の外科手術後の無病生存率及び全生存率と逆相関するが、肝臓がん組織(B及びD)では逆相関しないことを示唆している。図4(F)は多因子分析の結果を示し、切除縁の側がん組織における1B50−1陽性細胞の存在が、肝臓がん予後診断の独立した有害因子であることを示している。カイ二乗検定。略語:4y、4年;Ca、がん組織;CI、信頼区間;DFS、無病生存率;OS、全生存率;PCa、側がん組織;RR、相対危険度。
図5】様々な腫瘍細胞株におけるCACNA2D1遺伝子の発現を示す図である。図5Aは、種々の細胞株におけるCACNA2D1遺伝子発現のRT−PCR分析を示す。図5Bは、種々の細胞株における1B50−1の免疫蛍光染色を示す。
図6】ヒト腫瘍組織(T)及び正常な一対の側がん組織(N)の検体におけるCACNA2D1発現の分析を示す図である。左パネルはウエスタンブロットの結果を示す。右パネルは定量的結果を示し、スキャンしたバンドのグレースケールはβ−アクチンを用いて校正する。Ca、がん組織;CaP、側がん組織。
図7】ヒトHep−12細胞によって誘導される、NOD/SCID(非肥満糖尿病/重症複合免疫不全)マウスにおける移植腫瘍の成長に対する1B50−1抗体の阻害効果を示す図である。図7Aは、種々の群の細胞によって誘導される腫瘍を示す。図7Bは、NOD/SCIDマウスにおける種々の群の腫瘍の成長曲線を示す。図7Cは、解剖時の種々の群の腫瘍の重量を示す。図7Dは、解剖時の種々の群の腫瘍の体積を示す。
図8】ヒトHuH7細胞によって誘導される、NOD/SCIDマウスにおける移植腫瘍の成長に対する1B50−1抗体の阻害効果を示す図である。図8Aは、種々の群の細胞によって誘導される腫瘍を示す。図8Bは、NOD/SCIDマウスにおける種々の群の細胞の成長曲線を示す。図8Cは、解剖時の種々の群の腫瘍の重量を示す。図8Dは、解剖時の種々の群の腫瘍の体積を示す。
図9】NOD/SCIDマウスにおけるHep−12細胞の成長に対する、CACNA2D1遺伝子へのRNA干渉の阻害効果を示す図である。図9Aは、RNA干渉後の1B50−1の染色を示し、細胞CACNA2D1の大幅な減少を示唆している。図9Bは、RNA干渉後の動物における腫瘍の成長曲線を示す。図9Cは解剖時の腫瘍の体積を示す。図9Dは解剖時の腫瘍の重量を示す。
図10】QM−7細胞において発現された一本鎖抗体が、CACNA2D1遺伝子陽性細胞に結合し得ることを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0052】
以下の実施例を提示することによって本発明を更に説明する。しかしながら、本発明はこれらの実施例に限定されないものとする。
【0053】
以下の実施例で用いられる実験方法は、他に具体的に指定されない限り全て従来のものである。
【0054】
以下の実施例で使用される材料及び試薬は、他に具体的に指定されない限り全て市販のものである。
【0055】
試薬及び材料
単一患者の原発性及び再発性の肝臓がん組織に由来する細胞株Hep−11及びHep−12を、初代培養によって確立した(Zhang Z, Xu X, Xing B, Wang Y, Han H, Zhao W. Identification and characterization of tumor-initiating cells with stem-like properties from a recurrent hepatocellular carcinoma [abstract], Proceedings of the 100th Annual Meeting of the American Association for Cancer Research, 2009 Apr 18-22、Denver, CO. Philadelphia (PA): AACR, 2009. Abstract nr 190、Xu XL, Xing BC, Han HB, Zhao W, Hu MH, Xu ZL, Li JY, Xie Y, Gu J, Wang Y, Zhang ZQ. The properties of tumor-initiating cells from a hepatocellular carcinoma patient's primary and recurrent tumor, Carcinogenesis, 2010; 31(2):167-74.の細胞対に関する詳細な背景を参照されたい)。肝臓がん細胞株HuH7(日本学術振興会)、HepG2(ATCC)、SMMC−7721;乳がん細胞株ZR−75(ATCC)、MCF−7(ATCC)、MDA−MB−231(ATCC)、BICR−H1(北京がん病院(Beijing Cancer Hospital)のXinfu Huang教授より提供);肺がん細胞株A549(ATCC)、Calu−3(ATCC)、Calu6(ATCC)、PG(北京大学医学部基礎医学院のBingquan Wu教授より提供);食道がん細胞株KYSE150、KYSE510(北京大学医学部基礎医学院のFengmin Lu教授より提供);胃がん細胞株BGC823、MGC803、SGC7901;前立腺がん細胞株PC3M1E7、PC3M2B4は一般的な細胞株であったため、本発明者らの研究室に保存されている。
【0056】
臨床組織検体は北京がん病院において外科手術で摘出された検体に由来し、病理タイプは病理学医師によって同定された。
【0057】
ハイブリドーマの作製
a)マウスの免疫化及び細胞融合:
Hep−11細胞及びHep−12細胞を用いて、6週齢の雌性Balb/Cマウス(Vital River Laboratory Animal Technology Co., Ltd.(Beijing))を、サブトラクティブ免疫化(Brooks, P. C., Lin, J. M., French, D. L., and Quigley, J. P.. Subtractive immunization yields monoclonal antibodies that specifically inhibit metastasis. J Cell Biol,1993, 122, 1351-1359、Rasmussen, N., and Ditzel, H. J.. Scanning the cell surface proteome of cancer cells and identification of metastasis-associated proteins using a subtractive immunization strategy. J Proteome Res, 2009, 8:5048-5059)によって免疫化した。ほぼ飽和密度のHep−11細胞をPBSで3回洗浄した後、セルスクレーパーによって細胞を回収した。これらの細胞を遠心分離後に滅菌PBSに懸濁した(約5×10細胞/ml)。その後、4週〜6週齢の雌性Balb/cマウスに、調製した懸濁液を動物1匹当たり0.5ml、合計で4匹の動物に腹腔内接種した。Hep−11細胞の接種後2日目及び4日目に、シクロホスファミド(Sigma-Aldrich(St Louis,MO))をマウスに腹腔内注射した(200mg/kg(体重))。Hep−12細胞を、Hep−11細胞について上記に記載したものと同じ手順で18日目に調製した。各々のマウスにHep−12細胞(2.5×10細胞/0.5ml PBS)を腹腔内接種した。免疫化を、3週間毎に同じ量のHep−12細胞を用いて合計で3回強化した。最後の免疫化強化の3日後に脾臓を分離して、細胞懸濁液を調製した。これらの細胞を10個のSP2/0細胞(ATCC)と混合した。無血清RPMI1640培地(Invitrogen)によって2回洗浄した後、混合細胞を50%PEG4000(Sigma-Aldrich)中で従来のプロトコルに従って融合させた。細胞を、HAT(Sigma-Aldrich)及び15%仔ウシ血清を含有する1640培地に再懸濁した。次いで、細胞を96ウェル細胞培養プレートにプレーティングし、COインキュベーター内で培養した。5日後、培養培地を、HAT及び15%仔ウシ血清を含有する新たな1640培地と交換した。細胞融合の約2週間後に(ハイブリドーマの成長に応じて異なる)、上清をサンプリングして、特異的抗体を分泌するハイブリドーマクローンを試験し、スクリーニングした。
【0058】
b)サブクローンをハイブリドーマクローンから試験し、スクリーニングした:
15%仔ウシ血清を含有する1640培地中のHep11肝臓がん細胞株及びHep12肝臓がん細胞株を、それぞれ96ウェル細胞培養プレート上にプレーティングした。細胞が壁に接着して収束した(converged)後、上清を捨て、0.125%グルタルアルデヒドを含有する予冷したPBSを添加した。プレートを室温で5分間静置した後、液体を捨てた。細胞をPBSで3回洗浄した。次いで、5%脱脂粉乳を含有するPBSをプレートに添加し、プレートを4℃で一晩ブロッキングした。ブロッキング溶液を除去した後、培養したハイブリドーマクローンを含む上清を添加し、プレートを室温で1時間静置した。上清を除去し、プレートをPBSで2回洗浄した。ホースラディッシュペルオキシダーゼ標識ヤギ抗マウス抗体を、5%脱脂粉乳を含有するPBSで希釈し、均一に混合した。次いで、混合物を96ウェル細胞培養プレートに添加し、プレートを室温で1時間インキュベートした。次いで、上清を捨て、プレートをPBSで5回洗浄した。ELISAの基質溶液を添加した後、反応を遮光下、室温で30分間継続してから、元の溶液と同一体積の12.5%硫酸を添加して反応を停止した。プレートをELISAリーダーに入れ、光学密度を492nmで測定した。Hep11に陰性かつHep12に陽性のハイブリドーマクローンを選抜し、限界希釈法を用いてサブクローニングした。3回の連続サブクローニング後に安定して陽性のハイブリドーマクローンをより大幅に培養し、得られた細胞を冷凍状態で保管した。
【0059】
サブクローニング及び同定後に30個を超えるハイブリドーマ細胞系統が得られ、そのうち1つを1B50−1と命名した。この系統を、2010年12月8日にCGMCC番号4416という寄託番号で中国微生物菌種保蔵管理委員会普通微生物センター(CGMCC)に寄託した。
【0060】
抗体の作製及び精製
拡大培養の後、特異的抗体1B50−1を分泌するハイブリドーマクローンを、プリスタン(Sigma-Aldrich)で前処理した雌性Balb/cマウスに腹腔内接種した(2×10細胞/マウス)。マウスを約1週間後に屠殺し、腹水を更なる試験のために採取した。プロテインGアフィニティークロマトグラフィーを常法により行い、1B50−1を精製した。精製した1B50−1の濃度を、以下の方程式に従って算出した:抗体(mg/ml)=OD280×0.6868。SDS−PAGEを用いて抗体の純度を分析し、純度が電気泳動グレードに達した抗体を関連実験に使用した。
【0061】
抗体のサブタイプの決定
1B50−1ハイブリドーマから分泌された抗体のサブタイプを、Mouse Monoclonal Antibody Isotyping Reagents(カタログ番号Iso2−1KT、Sigmal-Aldrich(St Louis,MO,USA))の使用説明書で推奨される手順に従って決定した。サブタイプ特異的抗体をPBSで1000倍に希釈した後、96ウェル試験プレートに1ウェル当たり100μL、2連(two replicates)で添加した。プレートを37℃で1時間インキュベートした後、PBSで3回洗浄した。その後、1B50−1ハイブリドーマの上清を添加し、プレートを1時間インキュベートしてから、PBSで3回洗浄した。ホースラディッシュペルオキシダーゼ標識ヤギ抗マウス抗体を、5%脱脂粉乳を含有するPBSで希釈した後、試験プレートに添加した。プレートを室温で1時間インキュベートした後、PBSで5回洗浄した。ELISAの基質溶液を添加した後、反応を遮光下、室温で30分間継続してから、元の溶液と同一体積の12.5%硫酸を添加して反応を停止した。
【0062】
抗体1B50−1の決定に従うと、反応はサブタイプIgG3では強陽性である一方で、他のサブタイプでは陰性又は弱陽性であり、抗体1B50−1がサブタイプIgG3に属することが示唆された。
【0063】
抗体の重鎖可変領域及び軽鎖可変領域のクローニング及び同定
全細胞RNAを1B50−1ハイブリドーマ細胞からTrizol法によって抽出し、逆転写酵素Superscript III(Invitrogen)を用いてcDNAに逆転写した。1B50−1の重鎖可変領域及び軽鎖可変領域をそれぞれ、重鎖可変領域用の5’末端縮重プライマー5’−CTTCCGGAATTCSARGTNMAGCTGSAGSAGTC−3’+5’−CTTCCGGAATTCSARGTNMAGCTGSAGSAGTCWGG−3’、重鎖可変領域用の3’末端プライマー5’−GGAGGATCCAGGGACCAAGGGATAGACAGATGG−3’、軽鎖可変領域用のフォワードプライマー5’−GGAGCTCGAYATTGTGMTSACMCARWCTMCA−3’及び軽鎖可変領域用のリバースプライマー5’−TATAGAGCTCAAGCTTGGATGGTGGGAAGATGGATACAGTTGGTC−3’を用いたPCRによって増幅した。増幅産物をPCR−bluntベクター(Invitrogen)にクローニングした。陽性クローンを選択し、双方向にシークエンシングした。Chothiaの標準ドメイン(Morea V, Tramontano A, Rustici M, Chothia C, Lesk AM. Antibody structure, prediction and redesign. Biophys Chem. 1997 Oct;68(1-3):9-16. Al-Lazikani B, Lesk AM, Chothia C. Standard conformations for the canonical structures of immunoglobulins. J Mol Biol. 1997; 273(4):927-48.)を、重鎖及び軽鎖について、得られたアミノ酸配列に基づき、http://www.bioinf.org.uk/abs/chothia.htmlで提供されるツールによって決定した。このようにして、重鎖及び軽鎖のCDR配列を決定した。
【0064】
1B50−1の可変領域の一本鎖抗体を発現するベクターの構築及び発現
クローニングされた可変領域を同定するために、ベクターを構築して、シグナルペプチドMMP−3によって誘導される一本鎖抗体を発現させた。このベクターを用いて、QM−7筋芽細胞にトランスフェクトした。分化を誘導した後、培地をHep−12細胞とともにインキュベートし、続いて、トランスフェクト細胞がHep−12細胞に特異的に結合し得るか否かを観察することができるように、MYCタグ付き抗体を用いた間接免疫蛍光染色を行った。
【0065】
1B50−1によって認識される抗原の同定
培地をHep−11細胞及びHep−12細胞の培養物から除去した後、得られた細胞に1B50−1ハイブリドーマ培養物の上清をそれぞれ添加した。37℃で2時間インキュベーター内でインキュベートした後、培養培地を捨て、細胞をPBSで3回洗浄した。セルスクレーパーを用いて細胞を採取し、遠心分離した。次いで、これらの細胞を5mlの脱イオン水に再懸濁し、超音波処理に供した。2×細胞溶解液を添加した後、これらの細胞を超音波で再度処理した。溶液を4℃で10分間、10000rpmで遠心分離した。上清を採取し、予め平衡化したSepharose 4B−protein G(Pharmacia(Uppsala,Sweden))アフィニティークロマトグラフィーカラムに添加した。室温で1時間維持した後、カラムをPBSでパージした。0.1M グリシン−HClバッファー(pH2.5)を用いて、結合した抗原を溶出させた。得られた溶液を、1M Tris−HCl(pH9.0)を添加することによってpH7.0に調整した。次いで、同量の2×SDS−PAGEサンプリングバッファーを添加して、SDS−PAGE分析を行った。クマシーブリリアントブルーR250で染色した後、Hep−12細胞において特異的発現を示し、1B50−1によって免疫沈降したバンドを切り出し、トリプシン消化後にMALDI−TOF−MS分析に使用した。
【0066】
逆転写−CACNA2D1の遺伝子発現を分析するPCR
培養培地を除去した後、ほぼ飽和密度の細胞をPBSで洗浄し、全細胞RNAをTrizol法によって抽出した。1×逆転写バッファー(50mM Tris−HCl(pH8.3)、75mM KCl及び3mM MgCl)、20UのRNアーゼ阻害剤(Promega(Madison,WI,USA))、10mM DTT、50mM dNTP、0.5μgのoligo−(dT)15(Promega)及び200Uの齧歯類白血病ウイルス逆転写酵素(M−MLV−RT;Invitrogen)を含む20μlの反応系において、3μgの全細胞RNAを逆転写に供し、第1の鎖のcDNAを合成した。1μLのcDNAに対して、CACNAの遺伝子用のフォワードプライマー:5’−ACAGCAAGTGGAGTCAATCA−3’及びリバースプライマー:5’−ACTGCTGCGTGCTGATAAGA−3’を用いて、Taq DNAポリメラーゼによりPCRを行った。PCRは以下のように行った:94℃×5分間(前変性);94℃×45秒間;56℃×45秒間;72℃×1分間、合計で25サイクル;72℃×10分間(伸長)。産物をアガロースゲル電気泳動に供した後、エチジウムブロマイドで染色し、続いて産物を紫外線下で観察し、撮影した。
【0067】
リアルタイム蛍光定量RT−PCR分析
cDNAを、全細胞RNAから齧歯類白血病ウイルス逆転写酵素(M−MLV−RT;Invitrogen)によって転写した後、ABIの7500 PCRシステムにおいてSYBR Green PCR蛍光色素混合物(東洋紡株式会社(日本、大阪))を用いてリアルタイムPCR増幅を行った。プライマーを表1に挙げた。遺伝子発現の倍率変化は、GAPDHを内部対照(internal control reference)として2−ΔΔCt法によって算出した(Pfaffl, M. W.. A new mathematical model for relative quantification in real-time RT-PCR. Nucleic Acids Res 2001,29:e45)。
【0068】
【表1】
【0069】
CACNA2D1遺伝子のクローニング及び発現ベクターの構築
CACNA遺伝子(NM_000722.2;電位依存性カルシウムチャネルα2/δサブユニット1)は、Genebankに記載の配列に従って3つの部分に分けられ、3対のプライマーを以下のように設計した:
パート1のフォワードプライマー:5’−CCGgaattcTATGGCTGCTGGCTGCCTGCTGG−3’、
パート1のリバースプライマー:5’−AACCATTAGGATCGATTGCAAAG−3’、
パート2のフォワードプライマー:5’−TGTGTACCTGGATGCATTGGAACTG−3’、
パート2のリバースプライマー:5’−ACCATCATCCAGAATCACACAATC−3’、
パート3のフォワードプライマー:5’−AGAGACATATGAGGACAGCTTC−3’、
パート3のリバースプライマー:5’−GTCGACTACTTGTCATCGTCATCCTTGTAATCCTCGAGTAACAGGCGGTGTGTGCTG−3’。
【0070】
この遺伝子の完全長を含む3つのフラグメントを、上記に挙げたプライマーを用いたPCRによって、Hep−12細胞のcDNAを鋳型として用いて増幅した。産物をアガロースゲル電気泳動によって精製した後、シークエンシング用のPCR−bluntベクターに導入した。3つのフラグメントを適切な酵素によって切断し、中間ベクター(複数の場合もあり)によって連結し、最終的に完全な完全長遺伝子CACNAを得た。完全長CACNA遺伝子を、ベクターpcDNA3.0−mychis(InvitrogenのpcDNA3.0に基づき本発明者らによって構築された)にクローニングした。
【0071】
遺伝子トランスフェクション
細胞を播種し、翌日、飽和密度(80%〜90%)まで成長させた。これらの細胞に、構築したベクターCACNA2D1mychis/pcDNA3.0を、推奨プロトコルに従いLipofectamine 2000(Invitrogen)によってトランスフェクトした。トランスフェクションの24時間後及び48時間後に、遺伝子発現を免疫蛍光染色細胞化学によって分析した。
【0072】
細胞の免疫蛍光染色
培養細胞をトリプシン:EDTAで消化して、単一細胞懸濁液を調製した。2×10細胞の懸濁液をとり、精製抗体1B50−1を添加した(100倍に希釈、原液は1mg/mlとした)。混合物を37℃で1時間インキュベートし、PBSで3回洗浄した。次いで、FITC標識ヤギ抗マウスIgG二次抗体(Jackson ImmunoResearch Laboratories(USA)、0.5mg/ml;100倍希釈)を添加し、1時間反応させた。PBSで洗浄した後、細胞をLeicaのSP5共焦点レーザー顕微鏡下で観察するか、又はAriaフローサイトメーターによって分析し、分類した。CACNA2D1mychis/pcDNA3.0をトランスフェクトした細胞を、モノクローナル1b50−1及びウサギポリクローナルmyc抗体を用いて二重染色した。ローダミン標識ヤギ抗マウスIgG及びFITC標識ヤギ抗ウサギIgGを、それぞれ二次抗体として使用した。
【0073】
免疫組織化学的染色
臨床側がん組織及び肝臓がん組織のクリオスタット切片を、メタノールで30秒間固定した後、5%脱脂粉乳でブロッキングした。切片を、モノクローナル抗体1B50−1(100倍希釈、5%BSAを含有する)とともに4℃で一晩インキュベートした後、PBSで洗浄した。その後、FITC標識ヤギ抗マウスIgGとの反応を室温で2時間行った。切片をPBSで洗浄し、核小体をDAPI(2000倍)で5分間染色した。グリセロール中の2%DABCOを用いて切片を封入し、LeicaのSP5共焦点レーザー顕微鏡下で観察した。
【0074】
ウエスタンブロット分析
組織又は培養細胞を、1mM PMSF、完全プロテアーゼ阻害剤カクテル及びホスファターゼ阻害剤カクテル(Roche(Mannheim,Germany))の混合物を含有する放射性免疫沈降アッセイバッファー(Beijing Solarbio Science & Technology Co., Ltd)中で溶解した。10%SDS−PAGEでの電気泳動の後、タンパク質をImmobilon−Pメンブレン(Millipore)に転写した。メンブレンを5%脱脂粉乳でブロッキングした後、タンパク質を一次抗体CACNA2D1(Abcam(Cambridge,MA))又は内部標準であるβ−アクチン(Roche Applied Science)に特異的な抗体、次いでHRP標識ヤギ抗マウス二次抗体(Jackson ImmunoResearch Laboratories Inc.(West Grove,PA,USA))と反応させた。陽性シグナルを、Immobilon(商標)Western Chemiluminescent HRP基質(Millipore)により化学発光(chemical luminance)法で検出した。バンドをChemiImagerスキャナ(Alpha Innotech)によってシグナルについてスキャンし、AlphaEaseFCソフトウェアを用いてグレースケールを定量し、分析した。内部標準としてのβ−アクチンのグレースケールを用いることによってCACNA2D1の相対量を算出した。
【0075】
CACNA遺伝子へのRNA干渉のためのレンチウイルスベクターの構築、パッケージング及び感染
CACNA遺伝子の干渉のためのRNA配列は、Origeneによって設計され、合成された。レトロウイルスベースのベクターを、プロモーターとしてU6プロモーターを用いて構築した。ここで、配列1は、CACNA2D1のコード配列中のヌクレオチド546〜574に対するACTCAACTGGACAAGTGCCTTAGATGAAGであり、配列2は、コード配列のヌクレオチド116〜144に対するAGATGCAAGAAGACCTTGTCACACTGGCAであった。Origeneによって無作為に合成された同じ長さの核酸を、対照配列として使用した。これらの配列を保有するベクターを、EcoR I及びSal Iによってそれぞれ切断し、U6プロモーター及びこれらのオリゴヌクレオチドを含有するフラグメントをアガロースゲル電気泳動で分離し、精製した。精製したフラグメントを、同じエンドヌクレアーゼによって切断したPlenti6−リンカーベクター(多重クローニング部位を有するリンカーを、Cla I及びAge Iによって切断し、本発明者らの研究室に保管されているInvitrogenのplenti6ベクターに導入することによって得られる)とライゲーションした。決定の後、レンチウイルスプラスミドベクターplenti6U6CACNA2D1ShRNA−1、plenti6U6CACNA2D1ShRNA−2及びplenti6U6−対照が得られた。レンチウイルスのパッケージングを、Invitrogenによって提示される推奨プロトコルに厳密に従って行った。レンチウイルス粒子を有する上清を、直接Hep−12細胞の感染に使用した。48時間後、6μg/mlのブラストサイジン(Invitrogen)を添加して、レンチウイルスが感染した細胞をスクリーニングし、培地を3日毎に更新した。このようにして、上記のレンチウイルスが感染した細胞集団が得られ、6μg/ml含有されるブラストサイジンを実験の間中連続的に使用して、細胞に対するスクリーニング圧を維持した。遺伝子CACNAに対する阻害効果を、感染細胞においてRT−PCR及び免疫蛍光細胞化学染色によって更に観察した。また、腫瘍の形成及び成長に対する阻害効果を、免疫不全動物における腫瘍原性実験によって観察した。
【0076】
動物における腫瘍発生及び腫瘍に対する抗体の阻害効果
腫瘍発生実験:
腫瘍発生及び腫瘍発生細胞の自己複製能をアッセイする実験において、種々の供給源に由来し、フローサイトメトリーによって分類された異なる量(10個、10個、10個)の1B50−1陽性細胞又は1B50−1陰性細胞を、同体積のMatrigel(BD Biosciences)(1:1)と混合し、混合物を用いて4週〜6週齢のNOD/SCIDマウス(Vital River Laboratories Animal Technology Co., Ltd.(Beijing,SPF))に皮下接種した(抗体陰性細胞をマウスの片側に接種し、抗体陽性細胞を同じマウスのもう片側に接種した)。各々の群は5匹の動物からなるものであった。腫瘍の成長を毎週観察した。次いで、CACNAを阻害した後の動物における腫瘍形成及び腫瘍成長の変化を観察する実験において、2×10個の細胞をNOD/SCIDマウスに皮下接種した。腫瘍を目に見える大きさまで成長させてから、腫瘍の長径及び短径を3日毎に測定した。腫瘍の大きさを、「腫瘍の大きさ=長径×短径/2」という方程式に基づいて算出することができ、データを用いて成長曲線を作成した。
【0077】
腫瘍に対する抗体の阻害効果:
4週〜6週齢のNOD/SCIDマウスに、2×10個の肝臓がん細胞を皮下接種した。腫瘍を目に見える大きさ(約0.02cm〜0.03cm)まで成長させてから、動物を幾つかの群に無作為に分けた(1群当たり6匹の動物)。これらの動物に、PBS、対照IgG(動物1匹当たり800μg、Zhongshan Golden Bridge Biotechnology)及び1B50−1(動物1匹当たりそれぞれ200μg、400μg及び800μg)をそれぞれ1日おきに腹腔内注射した。各注射の前に長径及び短径をノギスによって測定し、腫瘍の大きさを「腫瘍の大きさ=長径×短径/2」という方程式に基づいて算出した。合計で7回の投与の後、動物を最後の投与の翌日に屠殺した。腫瘍を解剖し、これらの腫瘍について湿重量及び大きさを測定した。
【0078】
適用効果
効果実施例1:1B50−1は膜上の抗原を認識し、陽性率は肝臓がん細胞株によって異なっていた
ハイブリドーマをサブトラクティブ免疫化によって作製し、Hep−11細胞及びHep−12細胞によってスクリーニングした。3回の融合の後、Hep−12細胞に特異的な可能性がある37個のモノクローナル抗体が1回目に得られた。これらの抗体を更なるサブクローニング及び予備分析に供した。細胞膜上に位置する抗体を分泌する1つのハイブリドーマを1B50−1と命名した(図1)。1B50−1陽性細胞の比率を、種々の肝臓がん細胞株及び肝臓がんの臨床検体の初代培養物に由来する細胞においてフローサイトメトリーによって分析した。結果を表2に挙げた。腫瘍発生細胞に富んだ再発性肝細胞がんに由来するHep−12細胞は比較的高い1B50−1陽性率を有し、他の細胞の陽性率は低かった。
【0079】
【表2】
【0080】
効果実施例2:1B50−1によって認識される陽性細胞は、腫瘍発生細胞としての特性を有していた
1B50−1陽性/陰性細胞を、Hep−11、Hep−12、HuH7、HepG2及びSMMC−7721を含む、肝細胞がんを有する5つの細胞株からフローサイトメーターによって分類した。NOD/SCIDマウスに100個又は1000個の選択した細胞を皮下注射した(抗体陰性細胞をマウスの片側に接種し、抗体陽性細胞を同じマウスのもう片側に接種した)。12週間〜18週間後、100個〜1000個の1B50−1陽性細胞が皮下腫瘍を発生させるのに十分であったが、陰性細胞は成長しないか、又は小結節までしか成長せず(表2、図2)、1B50−1陽性細胞が腫瘍発生細胞としての特性を有することが示された。臨床肝臓がん組織の初代培養物から分類された1B50−1陽性/陰性細胞を用いた腫瘍発生実験でも、同様の結果が得られた(表2)。1B50−1陽性細胞を、1B50−1陽性HuH7細胞によって誘導された腫瘍からフローサイトメーターによって分類した後、NOD/SCIDマウスに皮下接種した。これらの1B50−1細胞の100%(5/5)が腫瘍を形成することが可能であることが見出され、1B50−1細胞が自己複製能を有することが示唆された。1B50−1陽性細胞及び1B50−1陰性細胞における幹細胞関連遺伝子の発現を、リアルタイム蛍光定量的RT−PCRを用いて分析した。Nanog、Sox−2、AFP及びABCG2等の幹細胞関連遺伝子が、1B50−1細胞において高レベルに発現されることが見出された(図D)。1B50−1陽性細胞を、10%ウシ胎仔血清を含有する培地中で培養し、1B50−1陽性細胞の割合を分析した。1B50−1細胞の割合が親細胞において測定されたレベルまで減少することが判明し(図2C)、1B50−1陽性細胞が1B50−1陽性細胞及び1B50−1陰性細胞の両方に分化し得ることが示された。これらの結果から、1B50−1陽性細胞が腫瘍発生細胞としての特性を有することが示唆された。
【0081】
効果実施例3:1B50−1によって認識される抗原はCACNA2D1であった
約150KDの特異的バンドが、Hep−12細胞における1B50−1による免疫沈降から得られた(図3の左パネル、矢印はバンドを示す)。MS分析から、このタンパク質がCACNA2D1であることが明らかになった。対応する遺伝子を、Hep−12細胞のcDNAを鋳型として用いるPCRによって増幅した。従来のDNA組換えによって、増幅遺伝子のC末端にMYCタグペプチドのコード配列を付加した。次いで、遺伝子を真核細胞発現ベクターpcDNA3.0mychisに導入し、これを続いて、かかる遺伝子を発現しない細胞にトランスフェクトした。その後、ポリクローナルMYC抗体及び1B50−1を用いて二重染色を行った。MYCタグ及び1B50−1に特異的な抗体がトランスフェクト細胞の細胞表面上に一貫して位置し、1B50−1がCACNA2D1を認識することが示された(図3の右パネル)。
【0082】
効果実施例4:臨床肝臓がん検体における遺伝子CACNA2D1の発現
クリオスタット切片を、臨床肝細胞がん症例(合計で86人の患者)の新鮮検体のがん又は一対の側がん組織から得た。固定後、これらの切片を免疫蛍光組織化学によって1B50−1で染色した。結果を図4及び表2に示した。これらの症例の72.1%(62症例/86症例)で、1B50−1陽性細胞が病変に分布していた(図4)。側がん組織における陽性細胞の検出率は46.5%(40/86)であり、がん組織における検出率よりも低かった。5つの正常肝臓検体(血管腫に関連する外科手術で摘出された検体に由来する)では、1B50−1陽性細胞は存在が検出されなかった。がん病変及び側がん組織において、1B50−1陽性細胞の存在を、患者の臨床指標と組み合わせて統計的に分析した(表3)。がん病変における1B50−1陽性細胞の存在は、年齢、性別及び肝硬変の発症等の指標とは無関係であった。しかしながら、側がん組織中の1B50−1陽性細胞は肝硬変の発症、外科手術後4年未満の生存及び2年以内の再発と正に相関していた。カプランマイヤー曲線及びコックス回帰モデルを用いた多変量分析から、肝臓がん患者の側がん組織における1B50−1陽性細胞の存在によって、患者の外科手術後の無病生存率及び全生存率が、側がん組織に1B50−1陰性細胞を有する患者よりも不良であることが予測されると示された(図4)。側がん組織は実際に除去されるがんの辺縁部に由来するため、側がん組織における1B50−1陽性細胞の存在の有無は、患者における再発の予測及び予後診断に使用することができる。すなわち、側がん組織における1B50−1陽性細胞の存在は、HCC予後指標として使用することができる。
【0083】
【表3】
【0084】
効果実施例5:胃がん、食道がん、乳がん、肺がんの細胞株におけるCACNA2D1遺伝子の発現
肝臓がん以外の一般的ながん、例えば胃がん、肺がん、乳がん及び前立腺がんの細胞株におけるCACNA2D1遺伝子の発現を、RT−PCRによって検出した。結果を図5Aに示した。胃がん細胞の中でもMGC−803及びSGC7901、肺がん細胞の中でもPG及びA549、乳がん細胞の中でもBICR−H1及びMDA−MB−231で陽性バンドが見られた。この遺伝子は、高転移性のPC3M1E7前立腺がん細胞で高度に発現されたが、低転移性のPC3M2B4細胞ではバンドは検出されなかった。結果から、全ての細胞が陽性であるわけではないが、上記遺伝子が実際に大半のがんについて部分的な細胞で陽性に発現され、肝臓がん症例において観察されたものと同様の結果を示すことが明らかになった。上記の高転移性の陽性細胞によって、上記遺伝子が腫瘍の転移と正に相関し得ることが示唆された。さらに、1B50−1を一部の細胞の免疫蛍光細胞化学染色に使用した。CACNA2D1がSGC7901胃がん細胞、KYSE−510食道がん細胞及びKYSE−150食道がん細胞並びにZR−75乳がん細胞において陽性に発現され、細胞膜上に位置することが見出された。陽性細胞の数は種々の細胞株によって大きく異なっており、陽性細胞がこれら全ての細胞株のうち僅かな割合しか占めなかった(図5B)。上記の結果は肝臓がんにおいて観察された結果と同様であり、肝臓がんにおける発見が他の腫瘍にも適用され得ることを示している。すなわち、CACNA2D1を腫瘍診断及び腫瘍治療の分子標的として使用することが可能であり得る。
【0085】
効果実施例6:他の腫瘍組織検体における1B50−1陽性細胞の分布及びウエスタンブロット分析
肝臓がん組織において得られた結論が他のタイプの腫瘍にも適用可能であるか否かを更に解明するために、免疫組織化学染色を臨床的な結腸直腸がん、腎臓がん、肺がん及び食道がん並びにそれらの一対の側がん組織(各がんタイプについて10対)に対して行った。1B50−1陽性細胞の分布は、肝臓がんにおいて観察されたものと同様であった。結果を表4に示した。がん組織に1B50−1陽性細胞を有する症例は、側がん組織に1B50−1陽性細胞を有する症例よりも多かった。しかしながら、症例は統計分析を行うには少な過ぎた。免疫組織化学において得られた結果を、臨床組織検体に対してCACNA2D1に特異的な市販の抗体を用いたウエスタンブロットを行うことによって更に検討した。図6に示されるように、一部のがん組織におけるCACNA2D1の発現は、側がん組織における発現よりも明らかに高く(CACNA2D1の発現レベルは、種々の腫瘍タイプによって異なっていた)、がんが発生した場合にCACNA2D1がより高レベルに発現されることを示している。CACNA2D1の高発現が肝臓がん及び他のがんにおいて認められた。このため、CACNA2D1に指向性を有する薬物及び分子マーカーは、肝臓がん以外のがんに使用することができる。
【0086】
【表4】
【0087】
効果実施例7:肝臓に腫瘍を保有する肝臓がんのマウスの成長に対する1B50−1の阻害効果
Hep−12肝臓がん細胞及びHuH7肝臓がん細胞を、それぞれ免疫不全動物に皮下接種した。腫瘍を0.02cm〜0.03cmの大きさまで成長させてから、種々の投与量の1B50−1を動物に腹腔内注射した。表及び図面に示されるように、腫瘍阻害率は、800μg/マウス1B50−1処理群において、Hep−12肝臓がん細胞株及びHuH−7肝臓がん細胞株(重量により測定)のそれぞれについて80.4%及び65.5%にまで達した。かかる阻害率は投与量に依存し、PBS対照群及びIgG処理群とは統計的に有意に異なっていた。
【0088】
効果実施例8:ShRNAは、Hep−12細胞におけるCACNA2D1の発現を阻害し、更に細胞の成長を阻止した
1B50−1によって認識される抗原CACNA2D1が腫瘍治療の標的分子となるか否かを確認するために、CACNA2D1に干渉するRNAを発現するレンチウイルスベクターplenti6U6CACNA2D1shRNA−1及びplenti6U6CACNA2D1shRNA−2を構築し、対照であるplenti6U6をレンチウイルスに被包させた(enveloped)。これらのベクターを用いてHep−12細胞を感染させ、ブラストサイジン(Invitrogen)を用いて感染細胞をスクリーニングした。1B50−1の免疫蛍光細胞化学染色(図9A)から、細胞にCACNA2D1干渉RNAを含有する2つのレンチウイルスが感染した場合に、CACNA2D1の発現が明らかに抑制され、細胞膜中に見られる陽性蛍光ドットが極めてまばらであることが示された。蛍光強度は対照群で極めて高く、大半の細胞でシグナルが認められた。上記に記載のレンチウイルスが感染した細胞を、NOD/SCIDマウスに皮下接種した(2×10細胞/マウス、1群当たり5匹のマウス)。腫瘍の形成を観察した。図9Bに示されるように、CACNA2D1干渉RNAを担持する2つのレンチウイルスを感染させた細胞は、動物における成長が対照ベクターを有する細胞よりも遅かった。腫瘍阻害率はそれぞれ57.5%及び59.6%(重量により測定)であった。t検定のp値は、対照群と比較してそれぞれ0.0164及び0.014であった。これらの結果から、CACNA2D1の発現の阻害が、実際にin vivoでHep−12細胞の成長を抑制することが示唆された。このため、CACNA2D1は腫瘍治療の分子標的とされた。
【0089】
効果実施例9:真核細胞において発現された一本鎖抗体は、Hep−12細胞を認識することができた
QM−7細胞によって発現された1B50−1の可変領域の一本鎖抗体を含有する上清を、Hep−12細胞とともにインキュベートした。染色にはMYCタグ付き9E10を一次抗体として使用し、FITCタグ付きヤギ抗マウス抗体を二次抗体として使用した。染色を蛍光顕微鏡下で観察した。Hep−12細胞の細胞表面上のタンパク質は、MYCタグ付き9E10によって認識されることができた(図10)。蛍光染色パターンは1B50−1を用いた場合と一致し、発現された一本鎖抗体が1B50−1と同様の結合活性を有することが示唆された。また、この結果から、1B50−1の軽鎖可変領域及び重鎖可変領域が正確な配列でクローニングされることが更に確認された。抗体−薬物の更なる修飾を、これらの配列に基づき遺伝子工学によって行うことができた。
【0090】
本発明の特定の実施形態を記載したが、当業者であれば本発明の原理又は趣旨を逸脱することなく、これらの実施形態に様々な変更及び修正を行うことができることを理解するであろう。このため、本発明は、添付の特許請求の範囲及びその均等物に規定される範囲内のこれら全ての変更及び修正を包含することを意図する。
【産業上の利用可能性】
【0091】
腫瘍発生細胞のマーカーを本発明によって探索、識別又は同定することができる。また、本発明の方法によって同定されたマーカーは、腫瘍の診断、治療及び予防に使用することができる。具体的には、本発明は、腫瘍発生細胞に特異的なマーカーを同定するために使用することができ、該マーカーを、腫瘍発生細胞に対する治療剤を調製し、診断、治療及び予後診断の戦略を確立するために使用することができる。これらは全て、腫瘍の再発及び転移等の問題を解決するのに有用であり、腫瘍の克服に有望な戦略をもたらし得る。さらに、本発明において提供されるCACNA2D1を特異的に認識するモノクローナル抗体又はそのモノクローナルフラグメントは、腫瘍又はCACNA2D1タンパク質に関連する疾患若しくは障害の治療又は予防に直接使用することができる。また、該モノクローナル抗体又はそのモノクローナルフラグメントは、医薬組成物及び診断キットの作製に使用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]