【実施例】
【0129】
実施例1. PSD-95の二量体阻害剤の合成
【0130】
1.1 Ns-NPEG4-二酸リンカーA乃至Cの合成(スキーム1、
図16)
【0131】
Ns-NPEG4-二酸リンカーA(3、スキーム1)の合成では、2-塩化クロロトリチル樹脂(3mmol、1.90g)をDMF中で洗浄し、膨張させた(20分)。Fmoc-NH-PEG
2-CH
2CH
2COOH(1、スキーム1、Biomatrik社、中国、嘉興)は、DMF(8mL)中の1(2mmol、800mg)を、水切りした樹脂に添加し、その後、DIPEA(10mmol、1.75mL)添加することにより、樹脂上にロードした。60分間の振盪後、メタノール(1mL、25mmol)を加え、更に5分間振盪を継続した。ロード済み樹脂を水切りし、DMFにより完全に洗浄し(10乃至15回の流し洗浄、各10mL)、Fmoc基の脱保護を、DMF中の20%ピペリジンにより5分及び15分、DMF洗浄を間に挟んで行い、その後、DMF及びTHF洗浄を行った。樹脂をDIPEA中(12mmol、2.1mL)及びTHF(8mL)において15分間膨張させ、樹脂を静かに撹拌しつつ、DCM(5mL)中のortho-ニトロベンゼンスルホニルクロリド(NsCl、8mmol、1.78g)をゆっくりと添加した。4時間後、樹脂を水切りし、THF、MeOH、DCM、及びTHFにより連続して洗浄した。樹脂の付着した遊離アミノ基の、アルコールHO-PEG
2-CH
2CH
2COOtBu(2、スキーム1、Biomatrik社、中国、嘉興)によるアルキル化を、反応槽の排気及び窒素風船の追加により開始した。樹脂(1eq、2mmol)を、THF(5mL)中のトリフェニルホスフィン(PPh
3、10mmol、2625mg)及びTHF(5mL)中の2(10mmol、2.34g)により処理した。アゾジカルボン酸ジイソプロピル(DIAD)(10mmol、2.02g、1.97mL)を滴下添加し、風船を除去した後、1時間振盪した。樹脂をTHF及びDCMにより完全に洗浄し、真空中で乾燥させ、TFA/トリイソプロピルシラン/H
2O(90/5/5、20mL)により2.5時間処理した。TFA混合物を収集し、樹脂をTFA及びDCMにより洗浄した後、結合したTFA/DCM画分の蒸発及びエーテルとの共蒸発を行った(2×30mL)。結果的に生じた材料を水/MeCN(75/25、100mL)に溶解し、凍結乾燥させてNs-NPEG4-二酸リンカーA(3、スキーム1)をオレンジ色の油として取得し、二量体NPEG4リガンドの合成に直接使用した。収量:80%。m/z(ESI)540.1(22%)、523.1(M
++H、100)、505.1(11)、433.0(7.3)、365.2(7.4)。
【0132】
Ns-NPEG4-二酸リンカーAの合成に用いた手順は、Ns-NPEG4-二酸リンカーB及びNs-NPEG4-二酸リンカーC(それぞれ6及び9、スキーム1)の合成にも用いた。Ns-NPEG4-二酸リンカーB(6)の作成では、ビルディングブロックとしてFmoc-NH-PEG
3-CH
2CH
2COOH(4、Biomatrik社、中国、嘉興)及びHO-PEG
1-CH
2CH
2COOtBu(5、Biomatrik社、中国、嘉興)を使用した(スキーム1)。収量:54%。m/z(ESI)596.2(22%)、523.2(M
++H、100)、505.1(15)、433.1(8)。
【0133】
Ns-NPEG4-二酸リンカーC(9)の作成では、ビルディングブロックとしてFmoc-β-アラニン(7、Sigma-Aldrich、ミズーリ州セントルイス)及びHO-PEG
4-CH
2CH
2COOtBu(8、IRIS Biotech、ドイツ、マルクトレドヴィッツ)を使用した(スキーム1)。収量:45%。m/z(ESI)596.2(51%)、523.1(M
++H、100)、506.1(14)、433.1(55)。
【0134】
1.2 PSD-95の二量体阻害剤のペプチド部分の合成
【0135】
ペプチド(例えば、IETDV又はIETAV)は、事前にロードしたFmoc-Val-ワング樹脂(0.6-0-7mmol/g、100乃至200mesh)、結合用のHBTU/DIPEA、及び溶媒としての無水DMFを用いたFmocに基づく固相ペプチド科学反応により合成した。各結合は、樹脂/Fmoc-アミノ酸/HBTU/DIPEAの化学量論比を1/4/3.9/8として40分間実施し、ニンヒドリン試験により定性的に評価した。Fmoc脱保護は、DMF中の20%ピペリジンにおいて5分間行った後、DMF洗浄し、2回目のピペリジン/DMF処理を15分間行った。
【0136】
1.3 NPEG4に基づく二量体リガンドAB141、AB144、及びAB147(
図2及び3)の合成
【0137】
Ns-NPEG4-二酸リンカーA(3、スキーム1、0.1eq、0.025mmol)をHBTU(0.2eq、0.05mmol)及びDIPEA(0.4eq、0.1mmol)により事前に活性化し、合計体積4mLのDMF中でFmoc脱保護したワング樹脂結合IETDV(1eq、0.25mmo)に添加した。反応物を45分間振盪し、5回繰り返した。DMF(2mL)中のDBU(0.5mmol)、その後DMF(2mL)中のメルカプトエタノール(0.5mmol)を添加することによりNs基を取り除いた。反応物を30分間振盪し、DMF中で洗浄した。メルカプトエタノール/DBUによる処理を1回繰り返し、樹脂をDMF、DCM、MeOH、及びDCMにより連続して洗浄し、樹脂結合AB141を得た。AB144及びAB147については、CPPの第1のアミノ酸(それぞれL又はD-Arg)を、Fmoc-Arg(Pbf)-OHの6連続結合により、窒素に結合させた。各結合では、Fmoc-Arg(Pbf)-OH(0.5mmol)をDMF(2mL、0.244M)中のHATU及びコリジン(132μL)により活性化した後、水切りした樹脂に添加した。40分間の振盪及びDMF洗浄後、結合及びDMF洗浄を5回繰り返し、続いて完全なDMF洗浄を行った。DMF中の20%ピペリジンによりFmocを取り除き、残りのTat-又はレトロインバーソ-D-Tat配列をペプチド合成について説明したように合成し、最終的なFmocを除去した。
【0138】
1.4 NPEG4に基づく二量体リガンドAB144-B及びAB144-C(
図15)の合成
【0139】
AB144_B及びAB144_Cは、それぞれNs-NPEG4-二酸リンカーB及びNs-NPEG4-二酸リンカーCをNs-NPEG4-二酸リンカーAの代わりに使用したことを除き、AB144について説明したように合成した。
【0140】
1.5 NPEG4に基づく二量体リガンドAB144-D及びAB144-E(
図15)の合成
【0141】
AB144_D及びAB144_Eの合成は、樹脂結合AB141を得るまでは、AB144について説明した通りである。Fmoc-Gly-OHを、ペプチド合成の第1.2節において説明したようなHBTU/DIPEAによる6連続結合により、NPEG4リンカー上の窒素原子に結合させた。ピペリジン/DMFによるFmoc除去後、N-マレオイル-β-アラニン(Sigma-Aldrich、ミズーリ州セントルイス)を樹脂の半分と結合(HBTU/DIPEA)させ、その後、真空中で乾燥させ、切断用混合物TFA/チオアニソール/H
2O/アニソール90/5/3/2(v/v/v/v)により処理し、粗製マレイミド二量体中間物を得た。並行して、12merのペプチドTat-Cys(配列:YGRKKRRQRRRC)を、標準的なFmocに基づくペプチド合成により、Fmoc-Cys(Trt)-OHをロードした2-クロロトリチルクロリド樹脂から開始して調製した後、樹脂から切断した。次に、0.05mmolの粗製マレイミド二量体中間物を0.06mmolの粗製Tat-Cysに、10mLアセトニトリル及び50mLのTBS緩衝液(50mM Tris-HCl、150mM NaCl、pH7.4、脱気)中において室温で混合することにより、AB144_Dを合成し、pHをNaOH(0.2M)により7に調整し、反応混合物を90分間インキュベートした。次に、この混合物を凍結乾燥し、純粋なAB144_DをHPLC精製により得た。
【0142】
AB144_Eについては、Boc-Cys(Npys)-OHをHBTU/DIPEAにより、AB144_DでのN-マレオイル-β-アラニン(上記参照)の代わりに、樹脂結合二量体リガンドのグリシン残基に結合させた。樹脂を真空中で乾燥させ、切断用混合物TFA/チオアニソール/H
2O/アニソール90/5/3/2(v/v/v/v)により処理し、粗製Cys(Npys)二量体中間物を得た。この中間物(0.026mmol)をTat-Cys(0.030mmol)と、50mL Tris-HCl/EDTA緩衝液(0.5M Tris-HCl、5mM EDTA、pH7.5、脱気)中において室温で60分間反応させた。混合物を凍結乾燥し、純粋なAB144_EをHPLC精製により得た。
【0143】
1.6 PEG4に基づく二量体リガンドAB144-H及びAB144-Iの合成
【0144】
化合物AB144_H及びAB144_Iは、事前にロードしたVal-ワング樹脂から合成され、最初に、「ペプチド合成(全般)」の節において説明したように、樹脂結合ペプチド配列K(Dde)ETDV及びK(Dde)IETDVをそれぞれ作成する[E、T、Dの側鎖は、化合物が樹脂結合している状態ではtert-ブチル基により保護される。Kは、Dde:1-(4,4-ジメチル-2,6-ジオキソシクロヘックス-1-イリデン)エチルにより保護される]。樹脂上での二量化プロセスは、以前に記載されているように(WO2010/004003)、PEG4-二酸リンカー(IRIS Biotech、ドイツ、マルクトレドヴィッツ)により実施した。次に、新たに調製したヒドラジン一水和物(DMF中で2%)により樹脂を5分間処理することにより、Ddeを除去した後、DMF洗浄を行い、更にヒドラジン処理を10分間行った。樹脂を、DMF、DMF中の10%DIPEA(5×2分)、DCM、及びDMFにより連続して完全に洗浄した。Tat配列は、HATU/コリジンと、ピペリジン/DMFによるFmocの標準的な除去とを用いて、リジン側鎖において遊離したアミノ基から合成した。
【0145】
実施例2. PSD-95の二量体阻害剤の標識類似体の合成
【0146】
2.1 蛍光標識類似体(AB143、AB145、AB148、MS23)の合成
【0147】
蛍光リガンドは、5-FAM(5-カルボキシフルオレセイン、Anaspec、米国カリフォルニア州サンノゼ)を、最終的なFmoc脱保護したAB144、AB147、又はTat-NR2B9cのN末端アミノ基に対して、樹脂に結合した状態で結合することにより調製し、AB145、AB148、及びMS23をそれぞれ生成した。同様に、5-FAMをNs脱保護した樹脂結合AB141に結合させることにより、AB143を生成した。5-FAMは、N部位樹脂/5-FAM/HATU/コリジンを1/2/2/3の比として、合計2mLのDMF中で、0.07mmolスケール(NPEGリンカーのモル)で結合させた。AB145、AB148、又はMS23については、結合時間を6時間とした。AB143については、5-FAMを、6及び16時間の2連続結合によりそれぞれ結合させた。
【0148】
2.2 PSD-95の
15N,
13C標識二量体リガンドの合成
【0149】
[
15N,
13C]-PEG4(IETAV)
2(AB140)は、完全に
15N,
13C標識したアミノ酸原子(Cambridge Isotope Laboratories社、米国マサチューセッツ州アンドーバ)を含むFmoc保護アミノ酸を用いて合成した。Thr及びGluのアミノ酸ビルディングブロックは、tert-ブチル基により保護された側鎖とした。標識Fmoc-Val-OH(0.125mmol、43mg)をDMF(1.5mL)に溶解させ、DMF(2mL)中で20分間膨張させて水切りした2-クロロトリチルクロリド樹脂(0.1875mmol、119mg)にロードした。DIPEA(0.625mmol、109μL)を添加し、振盪を60分間継続した。MeOH(100μL)を添加し、振盪を15分間継続し、樹脂をDMFにより洗浄した。Fmocをピペリデイン/DMFにより除去し、結合条件及び化学量論比1/2/2/3の樹脂/Fmocアミノ酸/HATU/コリジンを用いて、標識IETAVをDMF(1mL)中で40分間合成した。最終的なFmoc除去後、樹脂をDMF及びDCMにより洗浄し、真空中で乾燥させ、これを更に用いて、以前に記載(WO2010/004003)された(非標識)PEG4-二酸リンカー(IRIS Biotech、ドイツ、マルクトレドヴィッツ)との樹脂上二量化プロセスによりAB140を調製した。
【0150】
実施例3. 二量体PSD-95阻害剤及びその標識誘導体の生成及び特性評価
【0151】
二量体PSD-95阻害剤及びその誘導体を含む合成化合物は、樹脂結合産物をトリフルオロ酢酸(TFA)/トリイソプロピルシラン/H
2O(90/5/5)により(他の指定が無い限り)2時間処理し、真空中で蒸発させ、低温のエーテルにより沈殿させ、凍結乾燥し、調製用の逆相高速液体クロマトグラフィ(RP-HPLC)により精製することにより、TFA塩として取得した。化合物は、分析用HPLC及び質量分析により特性評価した(表1)。
【0152】
【表1】
【0153】
in vivoでの実験用に、化合物のTFA塩を氷温の水性HCl(50mM、TFAに対して3倍モル過剰のHCl)と共に20分間インキュベートした後、凍結乾燥することにより、化合物をHCl塩として調製した。
【0154】
3.1 調製用RP-HPLC:
【0155】
化合物の精製は、Agilent 1200システム上で、C18逆相カラム(Zorbax 300 SB-C18、21.2×250mm)により、H
2O/MeCN/TFAの直線勾配(A:95/5/0.1及びB:5/95/0.1)と20mL/minの流量を用いて行った。
【0156】
3.2 ESI-LC/MS:
【0157】
マススペクトルの取得は、エレクトロスプレーイオン化(ESI)を用いるAgilent 6410 Triple Quadrupole Mass Spectrometer装置に、C18逆相カラム(Zorbax Eclipse XBD-C18、4.6×50mm)を備えたAgilent 1200 HPLCシステム(ESI-HPLC-MS)、蒸発光散乱検出器(ELSD、Sedere Sedex 85)及びダイオードアレイ検出器(UV)を接続し、H
2O/MeCN/ギ酸の直線勾配(A: 95/5/0.1及びB:5/95/0.086)を用いて、1mL/minの流量で行った。
【0158】
3.3 分析用RP-HPLC:化合物の純度は、C18逆相カラム(Zorbax 300 SB-C18カラム、4.6×150mm)を備えたAgilent 1100システムにより、H
2O/MeCN/TFAの直線勾配(A:95/5/0.1及びB:5/95/0.1)及び1mL/minの流量を用いて判定した。
【0159】
3.4 高分解能質量分析(HRMS):HRMSは、AB144及びAB147について、エレクトロスプレーイオン化(ESI)及びMicromass Q-Tof 2装置を用いて取得した。
【0160】
実施例4. PSD-95のPDZ1-2の発現及び精製
【0161】
PSD-95のPDZ1-2タンデム(エクソン4bの無いヒト全長PSD95αにおける残基61乃至249に対応)をコードするcDNAを、逆PCRにより増幅し、改変HisタグpRSETベクター(Invitrogen、米国カリフォルニア州カールズバッド)においてクローン化した。コードされたPDZ1-2ペプチドは、精製用のタグ(Hisタグ)として使用された配列MHHHHHPRGSを更に含んでおり、DNAコード配列及びコードされたタンパク質は次の通りである:HIS-PDZ1-2タンパク質[SEQ ID NO:2]をコードするHIS-PDZ1-2DNA[SEQ ID NO:1]。コンピテントな大腸菌(BL21-DE3、pLysS)をPDZ1-2発現コンストラクトにより形質転換し、アンピシリン(100μg/mL)及びクロラムフェニコール(35μg/mL)を含む寒天平板において37℃で一晩成長させた。コロニを取り出し、細菌培養の植え付けに用いた(アンピシリン50μg/mLを含むLB培地)。37℃でインキュベートしつつ振盪し、培地のA
600が0.45に達した際に、1mMイソプロピルβ-D-1-チオガラクトピラノシドを添加した。誘導した培養物を一晩30℃でインキュベートした(PDZ1-2)。10,000gの回転を10分間4℃で行うことにより細胞を収穫し、溶解緩衝液(50mM Tris/HCL、pH7.5、1mM PMSF、25μg/ml DNAse、40mM Mg
2SO
4)に再懸濁させた。細胞を細胞粉砕装置により26KPsiで破壊した。細胞溶解物を35,000gで1時間遠心沈殿させ、上清を0.45μm及び0.22μmフィルタにより濾過した。発現させたPDZ1-2ペプチドの精製は、最初にTris緩衝液(Tris/HCl緩衝液50mM、pH7.5)により平衡化したニッケル(II)チャージカラム(HisTrap
TM HP、GE Healthcare、英国)により行った後、ゲル濾過を行った。ゲル濾過では、PDZ1-2試料を、Tris緩衝液(20mM Tris/HCL、pH7.5)により平衡化したSuperdex
TM 75HR10/30カラム(GE Healthcare、英国)に0.5mL/minの一定流量でロードした。関連する画分を、標準的な銀染色プロトコルにより染色したSDS-PAGEゲル上で分析した。最終的な精製物は、エレクトロスプレーイオン化液体クロマトグラフィ質量分析(ESI-LC/MS)により分析し、正確な分子量を取得することにより、PDZ1-2ドメインの同一性を検証した。モル吸光係数をアミノ酸解析(Alphalyse、デンマーク、オーデンセ)により見出し、その後、タンパク質濃度の測定に用いた。NMR試験用には、細菌培養物をM-9培地において成長させることにより、均一に標識した[
15N]PDZ1-2を発現させた後、上述したように精製した。
【0162】
実施例5. PSD-95のPDZドメインに対する親和性の向上した二量体PSD-95阻害剤
【0163】
5.1 PSD-95のPDZドメインに対するリガンド(二量体PSD-95阻害剤)の親和性を判定する蛍光偏光(FP)アッセイ
【0164】
合成リガンド(例えば、二量体阻害剤)及びPSD-95のPDZ1-2間の親和定数(K
i値)を得るために、in vitro親和性測定アッセイを蛍光偏光の原理に基づいて開発した。まず、5-FAM標識NPEG4(IETAV)
2プローブ(AB143と名付けた(
図4))及びPDZ1-2間の親和性を、PDZ1-2の濃度を増加させて、一定濃度のプローブ(0.5nM)に添加する飽和結合実験により確立した。アッセイは、黒色の平底384ウェルプレート(Corning Life Sciences、米国ニューヨーク州)において、TBS緩衝液(150mM NaCl、10mM Tris、pH 7.4)中で行った。室温での10分間のインキュベート後、試料の蛍光偏光をSafire2プレートリーダ(Tecan、スイス、メンネドルフ)において、励起/発光値を470/525nmとして測定した。蛍光偏光値を、式Y=B
max×X/(K
d+X)に入れ、ここで、Bmaxは最大蛍光偏光値、XはPDZ1-2濃度、Yは蛍光偏光値である。K
dを、半飽和でのPDZ1-2濃度に等しいものとして飽和曲線から直接導くと、7.8±0.11nMとなり、対応する非蛍光(「コールド」)リガンドAB141について得られたK
i値(K
i=9.3±1nM)との良好な一致が得られる。非蛍光化合物とPDZ1-2との親和性は、上述したものと同じTBS緩衝液及び条件において、化合物の濃度を増加させて、一定濃度のプローブ(0.5nM)及びPDZ1-2(7.8nM)に添加する異種競合により判定した。FP値を一般式:Y=Bottom+(Top-Bottom)/[1+(10
(X-LogIC50*HillSlope))]に入れ、ここで、Xはペプチド濃度の対数値であり、結果的に生じたIC
50値は、競合阻害定数であるK
i値に変換した。報告した全ての値は、少なくとも3回の個別の実験の平均である。リガンドストックを水中で調製し、濃度をアミノ酸分析により検証した。
【0165】
5.2 本発明の二量体PSD-95阻害剤はPDZ1-2ドメインに対して向上した親和性を有する
【0166】
FPアッセイ(5.1参照)を利用して、PSD-95のPDZ1-2ドメインに対する様々な二量体PSD-95阻害剤の親和性を判定した。二量体阻害剤AB141は、PEG4リンカーがNPEG4リンカーにより置換されている点で、AB125と異なる。この差は、PDZ1-2に対する二量体阻害剤の親和性に有意の影響を与えておらず、K
i値は共に約9.5nMである(
図5)。二量体阻害剤AB141へのCPPの追加は、CPPがNPEG4リンカーに付着するものであり、PDZ1-2に対する親和性の驚くべき増加をもたらす。AB144(CPPはTat)及びAB147(CPPはレトロインバーソ-D-Tat)は、AB141と比較して、それぞれ2倍のK
i値=4.6±0.3及び5.1±0.4nMを示し(
図5)、単量体Tat-NR2B9cペプチドと比較して、1000倍の親和性増加を示した(PSD-95のPDZ1-2に対してK
i=4600±300nM、
図5)。
【0167】
5.3 CPP含有二量体PSD-95阻害剤は、PDZ1-2ドメインに対して向上した親和性を有する
【0168】
AB144類似体(実施例1及び
図15参照)AB144_B及びAB144_Cは、NPEGリンカーの窒素原子に対するTat付着点が非対称であり(1個又は2個の「エチルグリコール部分」だけリンカーの中心から離れている)、PSD-95のPDZ1-2に対して示す親和性は、AB144と同じ領域、即ち、低ナノモル領域である(表2)。AB144_Cは、AB144と比較して、2倍大きな親和性を示すが、両化合物は、PDZ1-2ドメインに対する非常に強力なリガンドである。
【0169】
AB144類似体(実施例1及び
図15参照)AB144_D及びAB144_Eでは、Tatは、NPEGリンカー対して対称に付着しているが、AB144_Dにおいて、Tatはマレイミド結合により付着しており、AB144_Eにおいて、Tatはジスルフィド(S-S)結合により付着している。AB144_D及びAB144_Eは、AB144と比較して2乃至3分の1まで低下した親和性を示したが(表2)、K
i値は依然として低ナノモル領域であるため、これらの化合物は、PSD-95のPDZ1-2に対する非常に強力な結合材である。
【0170】
化合物AB144_H及びAB144_I(実施例1及び
図15参照)では、Tat配列は、NPEGリンカーを用いる代わりに、PEG結合二量体ペプチドの1つのアミノ酸側鎖に付着している。AB144_Hにおいて、Tatは、この場合リジンであるP
-4アミノ酸から延びている。通常は、この位置ではイソロイシン(I)が見られるが(AB144)、この場合はリジンが用いられており、Tatの合成が開始可能な官能基(アミノ基)を提供すると共に、イソロイシンの構造類似体としても機能する(アルカンに基づき、第1のTatアミノ酸とのアミド結合形成後に荷電されず、大きさが類似する)。AB144_Hは、PDZ1-2に対するナノモル親和性を維持しているが、最適性は僅かに減じられ、AB144の親和性と比べて5分の1まで低下している(表2)。AB144_Iにおいて、Tatは、ヘキサペプチドのP
-5アミノ酸の側鎖に付着しており、AB144_Hと比較して、PDZ1-2ドメインに対する高い親和性を示すが、AB144と比較すると2分の1となる(表2)。
【0171】
【表2】
【0172】
実施例6. 修飾二量体PSD-95阻害剤は、ヒト血漿において向上した安定性を有する
【0173】
6.1 ヒト血漿安定性アッセイ
【0174】
PSD-95のPDZ領域に対するリガンド(二量体PSD-95阻害剤)を、ヒト血漿(270μL、3H Biomedical、スウェーデン、CAT No.1300-1-P50)に溶解し、濃度0.25mMとし(2.5mMを30μL)、37℃でインキュベートした。一定分量(30μL)を様々な時間間隔(例えば0、5、10、20、40、80、160、320、960、1280、2550、4560、及び7240分)で取り出し、60μLのトリクロロ酢酸(水性、5%)によりクエンチした。一定分量をボルテックスし、15分間4℃でインキュベートした後、18,000gで2分間遠心分離した。上清を分析用RP-HPLC(UV
218)により分析し、時間ゼロと比較して化合物を定量化すると共に、試料中の化合物(m/z)を特定するためにESI-LC/MSによる定性評価を行った。プロカイン(陽性対照)及びプロカインアミド(陰性対照)を50μMで調査し、手順を検証した。沈殿手順後のリガンドの回収率は85乃至95%となった。
【0175】
6.2 Tatペプチドを有する二量体阻害剤の血漿安定性の向上
【0176】
二量体阻害剤AB144(CPPはTat)及びAB147(CPPはレトロインバーソ-D-Tat)をヒト血漿中でインキュベートし、in vitroでの分解をモニタした。それぞれ37±6及び1100±300分の半減期(T
1/2)を示す単量体ペンタペプチドIETDV及びTat-NR2B9cの分解に対する感受性と比較して、AB144はT
1/2=4900±100を示し、これは単量体ペンタペプチドIETDVと比較して100倍を越える安定性の向上に対応している(
図5)。AB147の検出可能な分解は、測定期間(130時間)内では観察されておらず(
図5)、プロテアーゼ安定性のCPPを二量体阻害剤に導入する効果を示している。
【0177】
実施例7. 二量体PSD-95阻害剤はPSD-95のPDZ1及びPDZ2領域の両方に結合する
【0178】
7.1 PSD-95のPDZ1及びPDZ2ドメインの両方に結合するリガンドのNMR分析
【0179】
3.5mMの遊離[
15N,
13C]-PEG4(IETAV)
2(AB140)及び2.2mMの同じ化合物を、非標識PDZ1-2により50mMのKPi、pH7.5において飽和させたものを90%H
2O/10%D
2O中に含むNMR試料を結合の研究用に調製した。全ての実験は、プロトンのラーモア周波数600MHzに対応する静磁場において25℃で記録した。HNCA、HN(CA)CO、及びHSQCの実験は、遊離化合物のペプチド部分の骨格を帰属させるために記録した。結合化合物について、HNCACB、HN(CA)CO、及びHSQCの実験は、帰属の目的で記録した。
【0180】
15N R
1及びR
1ρ緩和率と、
15N-[
1H]NOEを、非標識AB125により飽和させた2.83mM[
15N]-PDZ1-2について、以前に記載されたパルスシーケンスを用いて測定した。試料条件は上述の通りである。R
1の実験には、以下の緩和遅延を用いた:0.01、0.05、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0秒。ピーク強度の不確実性は、5つの重複データ点から推定した。R
1ρの実験は、1661Hzのスピンロックフィールドと、119ppmに位置する無線周波数キャリアと、0.004, 0.008、0.012、0.016、0.0,02、0.024、0.03、0.036、0.04、0.05、0.055、0.06秒の緩和遅延とにより記録した。5つの重複データ点を、ピーク体積の不確実性の推定のために記録した。
15N-[
1H]NOEは、プロトンを飽和させた状態とさせない状態とで記録した実験の比を得ることにより記録した。両方の実験の合計リサイクル遅延は、12秒であり、飽和パルス無しの実験は、不確実性の推定のために重複させた。
【0181】
全てのNMRデータは、NMRpipeにより処理し、Sparky(Goddard及びKneller、カリフォルニア大学サンフランシスコ校)を用いて視覚化した。PDZ1-2の結合形式の帰属は、PDZ1-2/cypinから帰属をトランスファーすることにより得た(Wang et al., J. Am. Chem. Soc. 131, 787, 2009)。この研究では異なる化合物が使用されており、試料条件も異なるため、半分より僅かに多い帰属のみが自信を持ってトランスファー可能となった。スペクトル内の残りのピークは分析しなかった。ピークは統合し、内製プログラムPINTを用いて、体積を緩和率に変換した。同じプログラムを使用して、R
1ρ緩和率をR
2緩和率に変換した。
【0182】
7.2 二量体PSD-95阻害剤はPDZ1及びPDZ2の両方に結合する
【0183】
15N,
13C標識二量体リガンド(AB140)のPDZ1及びPDZ2に対する結合を、7.1に記載した非標識PDZ1-2の存在/不在下でNMR構造を決定することにより分析した。対称リガンド[
15N,
13C]-PEG4(IETAV)
2(AB140)のHSQCスペクトルにおいて5個のピークを検出した。しかしながら、リガンドがPDZ1-2と結合している場合、10個のアミノ酸のそれぞれに対応する10個の異なるピークが観察された(
図6)。これは、両方のリガンド部分がPDZ1-2と相互作用しており、異なるタンパク質環境、即ち、PDZ1及びPDZ2のそれぞれに対応していることを明らかに示している。結合及び非結合二量体リガンドについての化学シフトに基づく2次構造の計算から、非結合リガンドがランダムコイル特性を示し、結合リガンドがβ鎖構造となることが推測できる(
図7)。最後に、R
1及びR
2緩和率の測定により、二量体リガンドとの複合体内のPDZ1-2は、1単位として転回することが確認されたため、2:2の結合化学量論比等の他の潜在的モデルが除外される。したがって、NMR試験により、1:1の結合化学量論比が確認され、二量体リガンドの各リガンド部分が、真の二価結合様式において、PDZ1-2のPDZ1又はPDZ2の何れかと結合していることが疑いなく実証される。
【0184】
【表3-1】
【0185】
【表3-2】
【0186】
実施例8. CPP含有二量体PSD-95阻害剤は血液脳関門を通過する
【0187】
8.1 血液脳関門(BBB)透過性の分析
【0188】
こうした蛍光標識リガンドは、血液脳関門を通過してマウスの脳に入るCPP含有二量体PSD-95阻害剤の能力に関する代替測定に使用した。蛍光リガンドを静脈注射し(3nmol/g)、リガンドの位置を、マウスの冠状脳スライス(n=8)の蛍光顕微鏡検査により検出し、注射2時間後に評価した。前交連前の2つの脳切片及び前交連後の2つ(n=5)をBBB透過性分析用に選択した。前交連(ブレグマ:-0.3)は、解剖学的に同一の脳切片を分析するために、脳内の固定点として使用した。5-FAM蛍光体の強度は、10倍対物レンズ(Olympus 10x/0,15 UPlanApo)を備えた蛍光顕微鏡検査システム(Olympus System Microscope model BX-51、デンマーク)に高解像度顕微鏡デジタルカメラ(Olympus model DP70)を接続し、画像を画像取り込みソフトウェア(Image Pro Plusソフトウェア)に転送して、半定量的に測定した。全ての画像は、同じ顕微鏡設定を用いて、一定のカメラ露出時間により取得した。強度は、ImageJソフトウェアを用いて定量化した。
【0189】
8.2 CPP-二量体PSD-95阻害剤の血液脳関門(BBB)透過性
【0190】
二量体PSD-95阻害剤AB143、AB145、AB148は、それぞれAB141、AB144、AB147の5-FAM標識誘導体である(
図4:AB143及びAB145を例として示す)。Tat-NR2B9cの5-FAM標識誘導体は、MS23と命名される。化合物の注入後、マウスをパラホルムアルデヒドにより灌流し、脳を慎重に取り除き、パラホルムアルデヒド中で後固定し、冠状切片に処理し、蛍光について定量を行う。冠状脳スライスの蛍光顕微鏡検査により、AB145、AB148、及びTat-NR2B9cは脳に到達しているが、AB143は到達していないことが明らかとなった(
図8)。こうした結果に基づいて、Tat又はレトロインバーソ-D-Tatを含む化合物(AB144、AB147、Tat-NR2B9c)は、脳に到達可能だが、CPPを含まないAB125/AB141は到達できないと結論される。
【0191】
実施例9. CPP-二量体PSD-95阻害剤の神経保護特性は、局所脳虚血を有するマウスの梗塞体積を低減する
【0192】
CPP含有二量体PSD-95阻害剤のin vivoの神経保護特性を、マウスの虚血性発作の永久中大脳動脈閉塞(pMCAO)モデルにおいて試験した。
【0193】
9.1 in vivo研究用のマウス
【0194】
pMCAO試験は、164匹の年齢を合わせた若い成体(7乃至8週)である雄のC57BL/6マウス(Taconic、デンマーク)を用いて行った。マウスは、日周性の照明下で別々のケージに入れ、飼料(1314 Altromin、Brogarden、Denmark)及び水を自由に利用させた。マウスは、デンマーク動物倫理委員会が認めた指針(J. no. 2005/561-1068)に従って手術前に7日間順化させた。虚血性脳梗塞の程度は、2つのランダム化二重盲検プラセボ対照試験により測定した。
【0195】
9.2 永久中大脳動脈閉塞
【0196】
手術手順:マウスは、中大脳動脈の永久的閉塞(pMCAO)により局所脳虚血とした。マウスは、Hypnorm
TM(クエン酸フェンタニル0.315mg/mL及びフルアニソン10mg/mL、VectaPharma社)、ミダゾラム(5mg/mL、ハーメルン)、及び蒸留H
2Oの1:1:2混合物を、体重10グラム当たり0.18mL皮下注射することにより麻酔した。マウスを37±0.5℃のヒーティングパッド上に置き、目を軟膏(Viscotears、Novartis、スイス、バーゼル)で覆った。皮膚切開は、眼窩外側部と外耳道との間で行った。耳下腺の上極と側頭筋の上部とを部分切除後に押し避け、MCAの末端枝の真上で0.8mmバールを用いて小さな開頭を行った。硬膜を取り除き、電気外科ユニット(ERBEのICC50、ドイツ)に接続した二極鉗子(Gimmi、ドイツ)を用いてMCAを電気凝固させた。閉塞後、筋肉及び軟組織を整え、4-0ナイロン縫合糸を用いて皮膚を縫合した。手術後の疼痛治療として、Temgesic(0.001mg/20gブプレノルフィン、Reckitt&Coleman、英国)を、手術直後から3回、8時間間隔で与えた。加えて、マウスには、28℃に制御された回復室への移送前に、等張食塩水1mlを皮下注射した。
【0197】
9.3 化合物の投与
【0198】
化合物は、等張(0.9%)食塩水(NaCl)に溶解して濃度を300μMとし、体重1グラム当たり10μlを手術の30分後に静脈内(i.v.)にボーラスとして尾へ投与した(投与量:3nmol/g)。対照マウスには、0.9%NaClを静脈内注射した。
【0199】
9.4 マウスの屠殺及び脳組織処理
【0200】
6時間の手術後生存時間を有するC57BL/6マウスを頸椎脱臼により安楽死させた。48時間の手術後生存時間を有するC57BL/6マウスを、血液及び組織試料を収集するため、ペントバルビタール(コペンハーゲン大学生命科学部薬局、デンマーク)の過剰投与により麻酔した。全ての脳を慎重に取り除き、気体CO
2中で凍結させ、6系列の30μm冠状クリオスタット切片に切り分け、更に使用するまで-80℃で保存した。AB143、AB145、AB148、及びMS23の血液脳関門(BBB)透過性の調査に用いたC57BL/6Jマウスは、深く麻酔し、10mlの冷却セーレンセンリン酸塩緩衝液(SB)(25nM KH
2PO
4、125mM Na
2HPO
4、pH7.4)、続いて20mLのSB含有4%パラホルムアルデヒド(PFA)を用いて、左心室を介して灌流した。脳を慎重に取り除き、4%PFA中で1時間、後固定した後、SB含有20%スクロースに一晩浸漬した。脳を気体CO
2中で凍結させ、16μm冠状クリオスタット切片へと加工した。
【0201】
9.5 梗塞体積の判定
【0202】
各マウスからの一連の新しい凍結脳切片を70%エタノール中において4℃で一晩固定した。切片を、80mmol/LのNa
2HPO
4×2H
2O及び70mmol/Lのクエン酸で希釈したトルイジンブルー溶液(0.01%、Merck、ドイツ)中で再水和及び浸漬した後、H
2O中で3回リンスし、段階的な一連のアルコール(96乃至99%エタノール)中で脱水した。切片をキシレンにより透明化し、Depex(BDH Gurr、英国)を用いてカバーガラスをかけた。切片は、体積を推定するためにコンピュータ支援立体解析試験(CAST)GRIDマイクロ顕微鏡システム(Olympus、デンマーク)及びカヴァリエリの原理を用いた梗塞容量分析に使用した。梗塞の合計体積(Vtotal)は、式:V
total=ΣP*t*a
pointを用いて計算し、ここで、ΣPは、梗塞にヒットした点の合計数、tは、切片間の平均距離、a
pointは、点当たりの面積を表す。
【0203】
9.6 統計分析
【0204】
統計分析は、Windows(登録商標)用のGraphpad Instat 5.0プログラム(GraphPad software、米国カリフォルニア州サンディエゴ)を用いて行った。2群のマウス間における梗塞サイズの平均値の比較は、ノンパラメトリックマンホイットニ検定を用いて行った。両側の対応のあるスチューデントt検定を用いて、同じマウスから手術前後に得た握力値を比較した。ウイルコクソンの符号付順位和検定を、同じマウスからの反復測定に使用した(ロータロッド能力試験)。2元分散分析を用いて、独立変数を調べた(時間及び重量又は温度)。全てのデータは、平均値±SEMとして提示している。統計的有意性は、P<0.05において認めた。
【0205】
9.7 CPP含有二量体PSD-95阻害剤の神経保護作用-短期
【0206】
AB144及びTat-NR2B9cの保護作用を、成体マウスにおける局所脳虚血のpMCAOモデルにおいて、生理食塩水と比較した(n=60)。阻害剤は、損傷の30分後に静脈内投与し(3nmol/g)、その後、5.5時間の手術後生存時間をおいた(
図9)。AB144は、生理食塩水処置マウスと比較して、虚血性組織損傷の有意な40%の減少を示し、一方、Tat-NR2B9cは、梗塞体積の統計的に有意な減少をもたらさなかった(
図10)。したがって、二量体構造による顕著な高親和性と、Tatペプチドにより促進された血液脳関門透過性との組み合わせが、Tat-NR2B9cと比較して優れた活性を有するin vivo神経保護化合物AB144につながった。
【0207】
9.8 CPP含有二量体PSD-95阻害剤の神経保護作用-長期
【0208】
AB144、AB147、及びTat-NR2B9cの長期持続性の神経保護作用を生理食塩水と比較して、pMCAOの48時間後に評価した(n=80)(
図9)。AB144及びAB147は、食塩水処置マウスと比較して、それぞれ37%及び34%の梗塞サイズの減少をもたらしたが、Tat-NR2B9cによる処置では、統計的に有意な梗塞の減少は検出されなかった(
図11及び12)。
【0209】
9.9 pMCAOマウスの生理学的状態
【0210】
マウスの生理学的状態は、観察された二量体PSD-95阻害剤による処置の効果のうち、実験手順により生じた二次的状態(例えば疾患関連)によるものを除外するために、pMCAO手術前及び手術中に注意深く監視した。
【0211】
9.10 体重の監視:各マウスの体重は、事前訓練中、手術前、手術の24及び48時間後に記録し、処置群の間で差は見られなかった(
図13)。
【0212】
9.11 温度の監視:マウスの直腸温は、Model Bat12ユニット(Physitemp)に接続した熱電対プローブを用いて継続的に測定した。温度は、pMCAOの前及び30分後に加え、静脈内注射の30分及び2.5時間後、即ち、pMCAOの1及び3時間後にも測定した。生理食塩水処置マウスと比較して、薬物注入後の体重(
図13)又は生存率(>96%)に差は見られなかった。
【0213】
9.12 血液ガスの分析:静脈血の1試料を、PO
2/PCO
2電解質、グルコース、乳酸塩、及びヘマトクリット値の血液ガス分析用に、化合物投与の30分後(pMCAOの1時間後)に採取した。ヘパリン処理済み毛細管を、目頭に沿って挿入し、回転させて結膜を貫通させた。血液試料(150μl)を採取して氷上で保存した後、GEM Premier 300血液ガス装置(Instrumentation Laboratory)を用いたガス分析を行った。品質管理(QC ContrlIL9)は、IL Sensor Systemsから購入した。ここでも、血液ガスパラメータ(PO
2/PCO
2、pH、電解質、glu/lac)において差は検出されず、群の間では同様であり、操作していない対照マウスと比較して正常範囲内となった(表4)。
【0214】
【表4】
【0215】
実施例10. CPP-二量体PSD-95阻害剤の神経保護特性は、局所脳虚血を有するマウスの運動機能を保護する
【0216】
梗塞サイズには必ずしも現れない可能性のある運動障害を検出し、動物の状態について、より一般的な印象を提供するために、虚血発作の(pMCAO)モデル(実施例9)において48時間の手術後生存期間を有するマウスを以下の3種類の行動試験を用いて調査した。
【0217】
10.1 握力
【0218】
握力メータ(BIO-GT-3、BIOSEB)により、マウスの握りを離させるために必要な最大の力を判定することで、マウスの神経筋機能の研究が可能となる。個別の足の握力は、pMCAOが誘発した非対称性の重症度を測定するために使用した。マウスに金属グリッドを握らせ、水平面で後方へ引く。グリッドに加わった力をピーク張力として記録する。個別の前足の力と合計握力(両足同時)とを、pMCAOの前(ベースライン)と後とに測定した。各マウスは、5回連続の試行により試験し、最も高い握力を最高スコアとして記録した。
【0219】
10.2 ロータロッド能力試験
【0220】
ロータロッド(LE 8200、Panlab)は、齧歯動物の運動活動性、中枢神経系損傷に対する実験の複合作用、又は運動協調性に対する疾患の影響を判断するのに適しており、動物が回転ドラム内を歩き続ける時間により評価される。ロータロッドの回転は、モータ駆動であり、0から40回転毎分(rpm)まで5分間で加速され、この時点で全てのマウスがロッドから落下している。全てのマウスを、20分の間隔(休憩時間)をおいて4回繰り返し試行することにより試験した。手術前、4rpmで30秒間ロッド上に留まるようにマウスに事前訓練を施した。
【0221】
10.3 CPP含有二量体PSD-95阻害剤の神経保護作用は、握力及び運動協調性を保護する
【0222】
AB144及びAB147により処置したpMCAOマウスは、合計握力(両足)において有意の変化を示さなかったが、生理食塩水又はTat-NR2B9cにより処置したマウスは、有意な量の握力を失った(
図14A)。同様に、握力の分析では、AB144及びAB147処置マウスについて、生理食塩水又はTat-NR2B9cにより処置したマウスと比較して、左右の前足間の非対称性は示されず(
図14B)、AB144及びAB147の神経保護作用が明らかに実証された。ロータロッド性能試験では、AB144及びAB147処置マウスは共に、生理食塩水処置マウスよりも顕著な短期学習スキルの向上を示し(
図14C)、マウスがロッド上で費やした合計時間(AB144:83.5±4.1秒、AB147:92.6±4.5秒)は、Tat-NR2B9cにより処置したマウス(65.7±3.6秒)に比べ有意に長くなった(P<0.001)。
【0223】
実施例11. 二量体PSD-95阻害剤は、炎症性疼痛状態を緩和する
【0224】
11.1 動物
【0225】
雌のNMRIマウス(22乃至26グラム)をTaconic M&B(Ry、デンマーク)より入手し、全ての実験に使用しており、実験時8乃至9週齢であった。到着後、マウスは、Macrolon IIIケージ(20×40×18cm)に1ケージ当たり7匹を入れて最短で7日間順化させた。飼料及び水は、午前6時に明かりを付ける12/12時間の明暗周期中に自由に与えた。実験は9:00AM及び16:00PMに温度及び湿度を調節した部屋で行った(22乃至24℃、相対湿度:60乃至70%)。全ての試験手順は、「Principles of Laboratory Animal Care」(NIH publication No. 85-23, revised 1985)及びデンマークの動物実験に関する法律に従って実施し、動物の苦痛を最小限にするためにあらゆる努力を行った。
【0226】
11.2 完全フロイントアジュバントによる炎症性疼痛の導入及び化合物の投与
【0227】
持続的な炎症性疼痛は、20μlの完全フロイントアジュバント懸濁液(CFA、結核菌1mg/ml、Sigma-Aldrich、米国、セントルイス)を、301/2ゲージ針付きのGASTIGHT(登録商標)50μlマイクロシリンジ(Hamilton Company)を用いて、左後足の足底面へ皮下(s.c.)注射することにより誘発した。機械的刺激に対する引っ込め閾値のベースライン測定は、1日1回、CFA注射前に3回行った。媒体(0.9%生理食塩水)又はAB125(3、10、又は30mg/kg)を腹腔内に、注入量10ml/kg(AB125を0.9%生理食塩水に溶解)で与えた。CFA及び媒体/AB125は、少なくとも機械的刺激の試験の24時間前に投与した。
【0228】
11.3 疼痛試験-CFAにより誘発した機械的異痛症/痛覚過敏に対するフォンフライ試験
【0229】
CFA処置により誘発した痛覚過敏/異痛症の度合いを評価するために、機械的刺激に対する50%足引っ込め閾値(PWT)を上げ下げ法(Chaplan et al., J Neuroscience Methods, 1994, 53, 55-63)により測定した。簡単に言えば、金網の床面上に置いた透明な暗赤色のプラスチックの箱にマウスを個別に入れ、少なくとも30分、環境に慣らした。曲げ力が0.008、0.02、0.04、0.07、0.16、0.40、0.60、1.00、及び1.4グラムに等しい一連のフォンフライフィラメント(Stoelting、イリノイ州ウッドデール)を用いて刺激を伝えた。フィラメント0.6から開始し、後足の足底に対して垂直に、4乃至5秒間、フォンフライフィラメントを付与した。刺激に対して陽性反応が生じた時は、次に小さなフォンフライフィラメントを付与した。陰性反応が生じた時は、次に高いフィラメントを用いた。陽性及び陰性反応のパターンを50%閾値に変換し(Chaplan et al., J Neuroscience Methods, 1994, 53, 55-63)、次の式に従ってグラム(g)の値として表現した:50%PWT=10^(G+0.2237*K)。ここでGは、最後のフォンフライフィラメントの曲げ力、Kは、上げ下げ法に基づく標準化表から得た値である。正常な運動行動による足の持ち上げは無視し、熟睡、グルーミング、探索中の試験は避けた。処置は、試験者に分からないようにした。
【0230】
11.4 食物嗜好性社会的伝達試験
【0231】
STFPは、2段階で実施した。第1の段階:4匹の絶食マウスの各ケージから、「デモンストレータ」マウスを別のケージに移送し、1%シナモン又は2%ココアパウダの何れかを混合した粉剤飼料を30分間食べさせた。「デモンストレータ」マウスをそれぞれのホームケージへ30分間戻した。この「プレゼンテーション段階」中、3匹の「オブザーバ」マウスとデモンストレータマウスとの間の交流をスコア化した。最少2回及び最大5回の舐め合い/嗅ぎ合いを、適切な臭いの手掛かりの取得の基準として設定した。この第一の段階後、「デモンストレータ」マウスを取り除き、3匹の「オブザーバ」マウスを清潔なケージに移し、4時間に亘り飼料及び水を自由に利用可能とした後、第2の段階に備えて絶食させた。第2の段階:24時間の保持間隔に続いて、オブザーバマウスを、それぞれシナモン又はココアの香りがする2つの粉砕飼料のトレイを入れたケージに個別に配置した。新規の飼料に対して、手掛かりを与えた飼料から食べた量を、以前に手掛かりを与えた飼料の記憶の指標とした。予備研究では、シナモン及びココア風味の飼料から選択させた際に、マウスは先天的な嗜好性を示さなかった。しかしながら、実験は、各処置群内で等しい数のマウスがシナモン及びココアの手掛かりをそれぞれ得る状態を確保して、バランスの取れた設計とした。
【0232】
11.5 変形Y迷路
【0233】
ランウェイに接続された2本の垂直なアームから成る透明なプレキシガラス性の迷路において試験を実施した。2本のアーム(探索可能)及びランウェイは、長さ50cm、幅8cmであり、高さ30cmの透明なプレキシガラス製の壁により囲まれる。各アームは、黒色の取り外し可能な仕切りの付いた中央プラットホームの位置で合わさり、必要に応じてアームの開閉を可能とした。迷路全体を三角形の黒色プレキシガラス製の箱(1×1×1m)に入れた。この各探索アームを囲む外側の箱の壁は、個別の光学的キュー、例えば、水平又は垂直の線で覆われている。ランウェイを囲む範囲は光学的キューを含まず、黒色とした。迷路の各アームは、不透明な仕切りにより別のアームから区切り、マウスがアームに入った時、その特定のアームの個別の光学的キューのみが見えるようにした。試験は2つの段階から成る:段階1(馴化)では、マウス(n=8乃至10)をランウェイの端に配置し、強制選択により、探索アームの一方にアクセスさせた(即ち、他方のアームは閉鎖)。マウスがアームに入った後、ランウェイへのアクセスを遮断し、マウスにアーム(慣化と呼ぶ)を5分間探索させた。慣化アームは体系的に交代させ、アッセイを混乱させる場所選択性を排除した。その直後、段階2(試験)において、マウスに、ランウェイを除き、慣化及び非慣化探索アームの両方を2分間探索させた。試験セッション中に、各アームで費やした累積時間を自動ビデオ追跡システム(Ethovision、Noldus)により記録した。識別指数(DI)は、新規及び慣化アームで費やした時間の差を、段階2の試験中に新規及び慣化アームで費やした合計時間で割ったものとして定め、即ち、DI=(新規-慣化)/(新規+慣化)とし、各マウスについて計算した。
【0234】
11.6 ロータロッド試験
【0235】
運動機能を加速ロータロッド(MedAssociates社、米国バーモント州)を用いて評価した。ロータロッド(直径3.2cm)の速度は、300秒の間に4から40rpmまで増加させ、ロッド上で費やすことが可能な最短時間を0秒とし、最長の終了時間を310秒に設定した。各マウスを薬物処置(t=0)の直後に試験し、薬物処置の15、30、45、及び60分後に再度試験した。動物が回転ドラムから落ちた際には、光ビームが自動的に途切れ、回転ロッド上で費やした時間量が記録される。
【0236】
11.7 データ分析
【0237】
疼痛データ:ベースライン機械的閾値は、CFA処置前に3日連続で得たフォンフライ測定値の平均として定め、最終のベースライン測定は、CFA処置と同日に行った。統計的分析は、2元反復測定共分散分析(RM-ANCOVA)を用いて行い、処置を独立因子、時間を反復因子、ベースライン機械的閾値を共変量とした。RM-ANCOVAに続いて、予測平均に関する事前比較を行い、限界感度に対する経時的な処置の効果を評価した。分析は、未加工データに対して実行したが、結果は相対値として記載している(例えば、1として定めたベースライン).
【0238】
認知データ:食物嗜好性社会的伝達試験において、手掛かりを与えた飼料に対する嗜好性は、識別指数DI=(手掛かり-新規)/(手掛かり+新規)として表現した。変形Y迷路において、新規アームに対する嗜好性は、識別指数DI=(新規での時間-慣化での時間)/(新規での時間+慣化での時間)として表現した。STFP及びY迷路データは、1元ANOVAにより分析後、事前比較を行って識別指数に対する処置の効果を評価した。
【0239】
運動能力:ロータロッド試験では、運動協調性に対する処置の効果を、2元RM ANOVAにより分析し、処置を独立因子、時間を反復測定とした。事前比較手順を用いて、経時的な処置の効果を評価した。
【0240】
11.8 AB125は、CFAにより誘発した機械的異痛症/痛覚過敏を低減する
【0241】
AB125は、腹腔内に3、10、及び30mg/kg注入した際に、何れもCFA誘発疼痛反応を低減する(
図17)。これは、CFA及びAB125を同時にマウスに注入し、24時間後に機械的異痛症/痛覚過敏を測定することで明らかとなる。この結果は、PSD-95阻害剤が、CPPの付着していない状態で、炎症性(CFA誘発性)の機械的疼痛に対する有効な鎮痛剤となり、したがって、慢性疼痛状態の治療において有望な薬剤となることを示している。
【0242】
11.9 CFA疼痛モデルにおけるMK-801と比較したAB125の鎮痛作用
【0243】
CFAと同時投与した場合、従来のNMDA受容体アンタゴニストであるMK-801とAB125とは、共に処置の1時間及び24時間後においてCFAが誘発する機械的痛覚過敏を防止した(
図18)。
【0244】
11.10 CFA注入の24時間後に与えた際のAB125の持続性鎮痛作用
【0245】
AB125をCFA注入の24時間後に与えた場合、ANCOVA試験は、3及び10mg/kgにおいて1時間後にCFA誘発痛覚過敏の有意な逆転を示した。更に、この逆転は、3mg/kg及び10mg/kg処置群の両方で24時間後にも観察され、72時間の時点において、痛覚過敏は全ての投与量(1、3、及び10mg/kg)で有意に逆転した(
図19)。追加の測定をAB125処置の8日後に行ったが、この時点では、生理食塩水処置の動物が自発的にベースラインレベルまで回復しており、AB125の潜在的な鎮痛作用を検出することは不可能だった。
【0246】
11.11 認知及び運動機能行動試験におけるAB125及びMK-801の試験
【0247】
副作用プロファイルを調べるため、長期記憶に関する食物嗜好性社会的伝達(STFP)試験、注意力に関する変形Y迷路試験、及び運動能力に関するロータロッド試験におけるAB125及びMK-801の効果を比較した。痛覚過敏を低減する投与量において、MK-801は、STFP(
図20)及び変形Y迷路(
図21)試験において認知障害、更にはロータロッド試験(
図22)において運動障害を引き起こした。一方、AB125は、鎮痛投与量、或いは更に高い投与量(60mg/kgまで)において、これらの試験で認知又は運動機能障害を誘発しなかった(
図20乃至22)。したがって、AB125の形態のPSD-95阻害剤は、炎症性(CFA誘発性)の機械的疼痛に対する有効な鎮痛作用をもたらし、更に、NMDA受容体アンタゴニストMK-801において見られるような認知又は運動機能の副作用を伴わない。したがって二量体PSD-95阻害剤は、慢性疼痛の治療において有望な薬剤である。
【0248】
11.12 AB144は、CFAが誘発した機械的異痛症/痛覚過敏を低減する
【0249】
AB144も、腹腔内にCFA注入と同時にAB144を注入し、1及び24時間後に機械的異痛症/痛覚過敏を測定することで明らかになるように、CFA誘発疼痛反応を低減する。統計的ANCOVA試験は、30mg/kg投与の1時間後、10及び30mg/kg投与の24時間後にCFA誘発痛覚過敏の有意な逆転を示した(
図23)。この結果は、PSD-95阻害剤が、CPPの付着した状態で、炎症性(CFA誘発性)の機械的疼痛に対する有効な鎮痛剤となり、したがって、慢性疼痛状態の治療において有望な薬剤となることを示している。
【0250】
実施例12. 二量体PSD-95阻害剤は、脊髄組織に浸入する
【0251】
12.1. PSD-95阻害剤の脊髄検出方法
【0252】
二量体PSD-95阻害剤AB143及びAB145は、それぞれAB141及びAB144の5-FAM標識誘導体である(
図4)。したがって、AB143は、AB125/141の薬物動態特性を調べるための代理化合物の役割を果たし、一方、AB145は、AB144に対する代理化合物の役割を果たす。AB143及びAB145が脊髄組織に浸入可能かを調べるために、これらを腹腔内注射によりマウスに投与した(30mg/kg)。薬物処置したマウスを注射の30分後に断頭し、脊髄を慎重に切り取り、これに5%トリクロロ酢酸(TCA)(組織0.1g当たり300μL)を添加し、超音波ホモジナイザにより組織を均質化した(氷上)。均質化した組織をボルテックスし、10分間遠心分離した(20000g、4℃)。上清を試験管に移して蒸発させ、残留物を水中で戻し、その蛍光強度を蛍光プレートリーダ(励起/発光:470/525nm)を用いて判定した。化合物の定量化のために、均質化の前に既知の量のAB143及びAB145を対照マウスからの脊髄組織にスパイクし、薬物処置マウスと同様に検査及び分析することにより標準曲線を作成した。
【0253】
12.2. PSD-95阻害剤は脊髄に含まれる
【0254】
生理食塩水処置マウスと比較して、AB143及びAB145により処置したマウスからの脊髄組織において、明白且つ明瞭な蛍光の増加が測定された。標準曲線に基づいて、AB143及びAB145の濃度は、それぞれ0.061nmol/g及び0.074nmol/gと判定された。これらの濃度は、PSD-95に対する化合物のK
d値(5乃至10nM)を上回っているため、AB143(したがってAB125)及びAB145(したがってAB144)の両方が、PSD-95を阻害して疼痛を緩和するために、関連する濃度でCNS脊髄組織に浸入可能であることを裏付けている。
【0255】
【表5】