(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6084231
(24)【登録日】2017年2月3日
(45)【発行日】2017年2月22日
(54)【発明の名称】非理想的なセンサ挙動を補正するX線回折測定用の多重サンプリングCMOSセンサ
(51)【国際特許分類】
G01N 23/207 20060101AFI20170213BHJP
【FI】
G01N23/207
【請求項の数】22
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-540010(P2014-540010)
(86)(22)【出願日】2012年10月30日
(65)【公表番号】特表2014-533358(P2014-533358A)
(43)【公表日】2014年12月11日
(86)【国際出願番号】US2012062521
(87)【国際公開番号】WO2013066843
(87)【国際公開日】20130510
【審査請求日】2015年9月8日
(31)【優先権主張番号】13/285,089
(32)【優先日】2011年10月31日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】507291604
【氏名又は名称】ブルカー・エイエックスエス・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Bruker AXS, Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】特許業務法人 谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ロジャー ディー.ダースト
(72)【発明者】
【氏名】グレゴリー エー.ウェヒター
(72)【発明者】
【氏名】ジョージ ケルヒャー
【審査官】
越柴 洋哉
(56)【参考文献】
【文献】
特開平07−171142(JP,A)
【文献】
特開平07−275235(JP,A)
【文献】
特開2004−112077(JP,A)
【文献】
特開2010−082254(JP,A)
【文献】
特開2011−101359(JP,A)
【文献】
特開2010−245891(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00−23/227
G01T 1/00− 7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線回折システムのCMOSセンサにおける非理想的な挙動に関してピクセル電荷データを補正するための方法であって、前記センサ内の各ピクセルについて、
(a)センサフレーム時間期間中に複数回で前記ピクセル内に蓄積された電荷を非破壊でサンプリングし、利得変動および非線形性に関して各サンプル値を補正するステップと、
(b)前記ピクセルについて固定パターンおよび暗電流ノイズを推定し、前記推定された固定パターンおよび暗電流ノイズを各補正済みサンプル値から減算するステップと、
(c)前記ピクセルについてリセットノイズを推定し、前記推定されたリセットノイズをステップ(b)で補正された各サンプル値から減算して、複数の補正済みサンプル値を生成するステップと、
(d)時間に対する電荷のモデル基底関数をステップ(c)で生成された前記補正済みサンプル値にフィッティングするステップと、
(e)前記フレーム時間期間の終了時に前記フィッティングされたモデル基底関数を評価するステップと
を備えたことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記ステップ(d)は、所定の数の出力較正画像が前記センサによって生成されたことに応答して前記ピクセルの出力を測定し、前記ピクセル応答を時間に対する電荷のモデル基底関数にフィッティングするステップを含むことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
各出力較正画像は、X線源と前記センサとの間に物体が存在せず、かつ、X線シャッタが開いた状態で取得されるフラッドフィールド画像であることを特徴とする請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記ステップ(b)は、所定の数のノイズ較正画像が前記センサによって生成されたことに応答して前記ピクセルの出力を測定し、前記ピクセルの前記出力をノイズ較正画像の前記数にわたって平均するステップを含むことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記ノイズ較正画像は、同一の暗画像であることを特徴とする請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記ステップ(b)は、前記センサによって生成され前記ピクセルを含む画像に対して空間周波数ろ過を実行して、前記画像の各列内でゼロ空間周波数を有する成分を決定し、
前記ゼロ空間周波数成分を前記推定された固定パターンノイズおよび暗電流ノイズとして使用するステップを含むことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記空間周波数ろ過は、ブラッグ共振信号を検出およびマスクし、その後、高速フーリエ変換を前記画像に適用し、その後に低域通過ろ過が続くステップを含むことを特徴とする請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記ステップ(b)は、前記センサの縁部にそのすべてが位置する所定の数のピクセルによって生成された信号を平均し、前記平均を前記推定された固定パターンおよび暗電流ノイズとして使用するステップを含むことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項9】
前記ステップ(d)において、時間に対する電荷の前記モデル基底関数は、時間に対する電荷の三次式であることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項10】
前記ステップ(e)で決定された最適な推定値を隣接するフレーム時間にわたって合計し、前記合計を平均変換利得で除算するステップをさらに備えたことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項11】
X線源と、
CMOSセンサと、
前記センサ内の各ピクセルについて、
(a)センサフレーム時間期間中に複数回で前記ピクセル内に蓄積された電荷を非破壊でサンプリングし、利得変動および非線形性に関して各サンプル値を補正し、
(b)前記ピクセルについて固定パターンおよび暗電流ノイズを推定し、前記推定された固定パターンおよび暗電流ノイズを各補正済みサンプル値から減算し、
(c)前記ピクセルについてリセットノイズを推定し、前記推定されたリセットノイズをステップ(b)で補正された各サンプル値から減算して、複数の補正済みサンプル値を生成し、
(d)時間に対する電荷のモデル基底関数をステップ(c)で生成された前記補正済みサンプル値にフィッティングし、
(e)前記フレーム時間期間の終了時に前記フィッティングされたモデル基底関数を評価するピクセル処理ユニットと
を備えたことを特徴とするX線回折システム。
【請求項12】
前記ピクセル処理ユニットによって実行されるステップ(d)は、所定の数の出力較正画像が前記センサによって生成されたことに応答して前記ピクセルの出力を測定し、前記ピクセル応答を時間に対する電荷のモデル基底関数にフィッティングするステップを含むことを特徴とする請求項11記載のシステム。
【請求項13】
各出力較正画像は、前記X線源と前記センサとの間に物体が存在せず、かつ、X線シャッタが開いた状態で取得されるフラッドフィールド画像であることを特徴とする請求項12記載のシステム。
【請求項14】
前記ピクセル処理ユニットによって実行されるステップ(b)は、所定の数のノイズ較正画像が前記センサによって生成されたことに応答して前記ピクセルの出力を測定し、前記ピクセルの前記出力をノイズ較正画像の前記数にわたって平均するステップを含むことを特徴とする請求項11記載のシステム。
【請求項15】
前記ノイズ較正画像は、同一の暗画像であることを特徴とする請求項14記載のシステム。
【請求項16】
前記ピクセル処理ユニットによって実行されるステップ(b)は、前記センサによって生成され前記ピクセルを含む画像に対して空間周波数ろ過を実行して、前記画像の各列内でゼロ空間周波数を有する成分を決定し、前記ゼロ空間周波数成分を前記推定された固定パターンノイズおよび暗電流ノイズとして使用するステップを含むことを特徴とする請求項11記載のシステム。
【請求項17】
前記空間周波数ろ過は、ブラッグ共振信号を検出およびマスクし、その後、高速フーリエ変換を前記画像に適用し、その後に低域通過ろ過が続くステップを含むことを特徴とする請求項16記載のシステム。
【請求項18】
前記ピクセル処理ユニットによって実行されるステップ(b)は、前記センサの縁部にそのすべてが位置する所定の数のピクセルによって生成された信号を平均し、前記平均を前記推定された固定パターンおよび暗電流ノイズとして使用するステップを含むことを特徴とする請求項11記載のシステム。
【請求項19】
前記ピクセル処理ユニットによって実行されるステップ(d)において、時間に対する電荷の前記モデル基底関数は、時間に対する電荷の三次式であることを特徴とする請求項11記載のシステム。
【請求項20】
前記ピクセル処理ユニットによって実行されるステップ(e)で決定された最適な推定値を隣接するフレーム時間にわたって合計し、前記合計を平均変換利得で除算するステップをさらに備えたことを特徴とする請求項11記載のシステム。
【請求項21】
前記ピクセル処理ユニットは、固定型ゲートアレイ、および前記CMOSセンサの読出し電子回路と一体化されるデジタル信号プロセッサのうちの1つを含むことを特徴とする請求項11記載のシステム。
【請求項22】
前記ピクセル処理ユニットは、前記CMOSセンサからピクセルデータを受け取るコンピュータを含むことを特徴とする請求項11記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線回折システムに関する。X線回折は、一般に単結晶の形態で提供される結晶性材料試料の定性分析および定量分析のための非破壊技法である。この技法によれば、X線ビームは、固定陽極を有するX線管によって、従来の回転陽極X線源によって、またはシンクロトロン源によって生成され、調査中の材料試料に向かって送られる。X線は、試料に当たったとき、試料の原子構造に従って回折される。
【背景技術】
【0002】
単結晶回折実験を実行するための典型的な研究室システム100は、通常、
図1に示されている5つの構成要素からなる。これらの構成要素は、必要とされる放射エネルギー、焦点サイズ、および強度を有する一次X線ビーム104を生成するX線源102を含む。X線光学系106が設けられ、一次X線ビーム104を、必要とされる波長、ビーム焦点サイズ、ビームプロファイル、および発散を有する、調整されたまたは入射ビーム108に調整する。ゴニオメータ110を使用し、入射X線ビーム108と、結晶試料112と、X線センサ114との幾何学的関係を確立し操作する。入射X線ビーム108は結晶試料112に当たり、散乱X線116を生成し、この散乱X線116がセンサ114内で記録される。試料位置合わせおよびモニタアセンブリは、試料112を照明する試料イルミネータ118、典型的にはレーザと、試料のビデオ画像を生成し、ユーザが試料を計器中心で位置決めし試料状態および位置を監視するのを助ける試料モニタ120、典型的にはビデオカメラとを備える。
【0003】
ゴニオメータ110は、結晶試料112をいくつかの軸周りで回転させることを可能にする。精密な結晶学は、試料結晶112がゴニオメータ110の中心と位置合わせされ、データ収集中にゴニオメータ回転軸周りで回転されたときその中心内で維持されることを必要とする。露出中、試料(注目の化合物の単結晶)は、X線ビーム108内で、正確な角度範囲を通って正確な角速度で回転される。この回転の目的は、試料の各原子面からのブラッグ角反射を、入射ビーム108と同じ時間期間の間予測可能に共振させることである。電荷積分時間と呼ばれるこの時間中、センサのピクセルはX線信号を受け取り、積分する。
【0004】
結晶学に使用される現行世代のX線エリアセンサ114は、電荷結合デバイス(CCD)、イメージプレート、およびCMOSセンサを含む。CMOSアクティブピクセルセンサ(APS)は、X線検出における応用例に関して、CCD検出器に比べていくつかの利点を有する。それらの利点は、高速読出し、高い量子利得、および大きなアクティブエリアを含む。しかし、これらのデバイスの読出しノイズ(一般にkTCノイズ、1/fノイズ、および暗電流ショットノイズと呼ばれる、主にキャパシタ上の熱雑音で構成される)は、一般に、CCDの読出しノイズより約1桁大きい。
【0005】
CMOSセンサにおける実効読出しノイズを低減するための1つの従来の方法は、ピクセル部位に蓄えられた電荷をオーバーサンプリングすることである。より具体的には、多数のCMOS APSデバイスは非破壊で読み出すことができ、これは、所与のピクセル内の電荷が、電荷の値をリセットすることなしに複数回時間サンプリングされることを意味する。論文(非特許文献1参照)は、ノイズを低減するために、
図1に概略的に示されているように、電荷積分後、アレイが非破壊でN回読み出される技法について記載している。
【0006】
図2は、水平軸上の時間に対して垂直軸上のピクセルiにおける電荷を示す概略
図200である。フレーム開始時間202では、ピクセル内の電荷はゼロである。次いで、フレーム露出時間中には、時間204でのフレームの終了まで電荷が線形に増大し、時間204では、それ以降X線がピクセルを充電するのを防止するためにシャッタが閉じられる。次いで、この例では、3つの非破壊読出し206、208、210が実行される。最後に、次の露出に備えてピクセル内の電荷をゼロにリセットするために、破壊的読出し212が実行される。
【0007】
理論的には、同じランダム変数をN回観察することによって、ノイズを
【0008】
【数1】
【0009】
に低減することができる。上述の論文では、ファウラー(Fowler)らは、この理論的に予想される係数に非常に近い係数によって実効ノイズが低減されることを実験的に示した。また、同じ技法が、非破壊読出し能力を有する特殊CCDに関して特許文献1に記載されている。しかし、このようにしてノイズを低減することは、読出し不感時間がアレイ読出し時間のN倍に増大されるという明らかな欠点を有する。たとえば、アレイが9倍オーバーサンプリングされる場合には、読出しノイズは約
【0010】
【数2】
【0011】
倍まで低減されるが、総読出し不感時間は9倍に増大される。上述のどちらの従来技術の場合にも、この技法は、主に読出し不感時間の増大が許容可能である天体観測のために提案された。しかし、より動的な応用例については、読出し不感時間のこの増大は、ほとんどの場合、許容できないものである。
【0012】
異なる手法が、論文に記載されている(非特許文献2参照)。「多重サンプル相関」と呼ばれるこの技法によれば、CMOSピクセルが、電荷積分中(すなわち、センサがX線に露出されている間)にN回サンプリングされる。このサンプリングが
図3に概略的に示されており、
図3は、やはり水平軸上の時間に対して垂直軸上のピクセルiにおける電荷を示す概略
図300である。フレーム開始時間302では、ピクセル内の電荷はゼロである。次いで、フレーム露出時間中には、時間304でのフレームの終了まで電荷が線形に増大し、時間304では、それ以降X線がピクセルを充電するのを防止するためにシャッタが閉じられる。しかし、先の技法と異なり、この例では、ピクセル積分時間中に8回の非破壊読出し306が行われる。最後の破壊的読出し308がフレーム時間304の終了時に行われ、次のフレームに備えてピクセル電荷をゼロにリセットする。
【0013】
また、同様の技法が論文に記載されていた(非特許文献3参照)。この後者の技法によれば、CMOSイメージャの出力がN回サンプリングされる。次いで、得られる信号がD/Aコンバータを通じて読出し回路内にフィードバックされる。この技法は、アレイをN回読み出すことなしに(したがって、外部データ転送速度を低減して)先の技法と同じ種類の
【0014】
【数3】
【0015】
ノイズ低減を可能にする。
【0016】
複数の非破壊読出しを使用し、センサのノイズまたはダイナミックレンジ性能を改善する一般的な手法は十分に確立されているが、従来技術は、照明源が時間と共に不変である、または予測可能に変動すると仮定する。具体的には、積分中にサンプリングする前述の従来技術の技法は、撮像されるシーンが静的なものであると仮定する。すなわち、各ピクセルに入射する光子束がピクセル積分時間中一定である。当然ながら、これは回折X線が照明源として働くX線回折システムには当てはまらない。
【0017】
また、積分中にサンプリングする前述の従来技術の技法は、センサ応答が別段理想的なものであると仮定する。具体的には、センサ応答が完璧に線形であると仮定する。しかし、実際のCMOSセンサでは、出力は線形でなく、典型的には数パーセントの非線形性を示す。したがって、従来技術の技法を単純に適用することは、センサの非線形性によって誘発される誤差によりCMOSセンサ出力内のノイズを低減することにならない。また、従来技術は、暗電流ノイズおよび固定パターンノイズの寄与を軽視している。
【0018】
CMOSデバイスのノイズを、他の利点を保存しながら低減することが強く望まれるはずである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】米国特許第5250824号明細書
【非特許文献】
【0020】
【非特許文献1】「Demonstration of an Algorithm for Read−Noise Reduction in Infrared Arrays」、A.M.Fowler and Ian Gatley、The Astrophysical Journal、353:L33−L34、(1990)
【非特許文献2】「Far−infrared focal plane development for SIRT」、E.T.Young,M.Scutero,G.Rieke,T.Milner,F.J.Low,P.Hubbard,J.Davis,E.E.Haller,and J.Beeman、Infrared Readout Electronics、Proceedings SPIE、v.1684、pp.63−74.(April 1992)
【非特許文献3】「A low− noise oversampling signal detection technique for CMOS image sensors」、N.Kawai,S.Kawahito,and Y.Tadokoro、Proceedings of IEEE Instrumentation and Measurement Technology Conference、Anchorage、Alaska、v.1、pp.256−268(May 2002)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
本発明では、非理想的なセンサ挙動を補正するX線回折測定用の改善された多重サンプリングCMOSセンサを提供すること。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明の原理によれば、CMOSアクティブピクセルセンサにおける読出しノイズが5つのステップのプロセスによって低減され、このプロセスでは、最初にセンサからのピクセル電荷データが、利得変動および非線形性に関して補正される。次いで、固定パターンおよび暗電流ノイズが推定され、補正済みピクセル電荷データから減算される。次に、リセットノイズが推定され、ピクセル電荷データから減算される。ステップ4では、電荷対時間のモデル関数が、補正済みピクセル電荷データにフィッティングされる。最後に、フレーム境界時間において、フィッティングされたモデル関数が評価される。
【0023】
一実施形態では、最初に、多数の較正画像に応答して各ピクセルの出力を測定し、ピクセル応答を曲線にフィッティングすることによって、ピクセル電荷データが利得変動および非線形性に関して補正される。他の実施形態では、較正画像は、フラッドフィールド画像である。
【0024】
他の実施形態では、多数の較正画像に応答して各ピクセルの出力を測定し、その数の較正画像にわたって各ピクセルの出力を平均することによって、固定パターンおよび暗電流ノイズが推定される。他の実施形態では、較正画像は、同一の暗画像である。
【0025】
他の実施形態では、画像に対して空間周波数ろ過を実行し、各列内でゼロ空間周波数を有する成分を決定することによって、各画像からリセットノイズが推定される。周波数ろ過のこのプロセスでは、明信号(ブラッグ反射など)が検出されマスクされる。次いで、高速フーリエ変換が画像に適用され、その後に低域通過ろ過が続く。
【0026】
他の実施形態では、センサの縁部でいくつかのピクセルをマスクし、これらのピクセルにおける信号を平均することによって、各画像からリセットノイズが推定される。
【0027】
他の実施形態では、各フレームの読出し時間における各ピクセル内の電荷の最適な推定値が、利得変動、非線形性、固定パターンノイズ、暗電流ノイズ、およびリセットノイズに関して補正されたピクセル内の電荷のフレーム積分時間期間中に複数の非破壊測定から計算される。他の実施形態では、最適な推定値は、補正済み測定値を時間の基底関数にフィッティングすることによって計算される。他の実施形態では、基底関数は、時間の三次式である。
【0028】
他の実施形態では、ピクセルでの積分されたX線フルエンスの最適な推定値は、フレーム境界時間でフィッティングされた基底関数を評価し、隣接するフレーム時間にわたって最適な推定値を合計し、次いでその合計を平均変換利得で除算することによって得られる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】従来の研究室X線回折システムの概略図である。
【
図2】電荷がフレーム時間にわたって積分され、X線を遮断するためにシャッタが閉じられ、次いでピクセル内の蓄えられた電荷が非破壊で読み出されるシステム内の時間に対するピクセル内の蓄えられた電荷を示すグラフである。
【
図3】ピクセル内の蓄えられた電荷がフレーム積分時間中に非破壊で読み出され、次いでフレーム時間の終了時に他の破壊的読出しが実行されるシステム内の時間に対するピクセル内の蓄えられた電荷を示すグラフである。
【
図4A】いくつかのフレーム時間期間にわたってとられたサンプルの時間に対するピクセルにおけるX線束を示すグラフである。
【
図4B】各フレーム中に、
図4Aに示されているピクセルにおける蓄積された電荷の複数のサンプルが取得され、次いでフレームの終了時にピクセルがリセットされる1組のフレームを示すグラフである。
【
図5】非理想的なセンサ挙動を補正するための例示的なプロセスにおけるステップを示す流れ図である。
【
図6】最適な基底関数がサンプルにフィッティングされた、ピクセル内の蓄積されたX線束のいくつかのサンプルのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
X線回折実験では、典型的には試料が一定の角速度で回転され、一方、回折X線画像を生成するためにX線ビームに露出される。CMOSセンサは、X線束に直接露出し、またはシンチレータスクリーンを介して結合させ、これらの回折X線画像を記録することができることは周知である。
図4Aは、水平軸上の時間に対して垂直軸上のセンサ上の特定のピクセルiにおける典型的な回折X線束を示す。試料の回転により試料が入射X線ビームとブラッグ共振状態になるとき、線束400が時間と共に増大し、次いで試料が共振を通過したとき再び時間と共に減少することがわかる。この信号パターンは、一般に試料の「ロッキング曲線」と呼ばれる。
【0031】
X線回折システムがいわゆる「限定フレーム(narrow frame)」または「微細スライシング(fine slicing)」モードで動作するとき、フレーム読出し間の時間は、典型的には、フレームj、j+1、J+2、J+3のフレーム開始時間(402、404、406、408)が点線で示されている
図4Aに概略的に示されているように、このロッキング曲線がいくつかの隣接するフレームに及ぶように十分に小さくなるように選択される。各フレームのこの期間(フレーム「積分時間」と呼ばれる)中、入射X線が電荷をピクセルiに関連付けられたキャパシタに蓄積させる。この蓄積された電荷の複数のサンプルが取得される場合には、
図4Bに示されている信号(信号410など)が観察される。黒い方形によって表された各信号は、単にそれぞれのサンプリング時間に非破壊で読み出されたピクセルi内の電荷の時間積分の値である。新しいフレーム積分時間の開始時には、黒い円によって示されているように、蓄積された電荷がゼロにリセットされる。ピクセルiについてサンプリング時間tでサンプリングされた、蓄積された電荷信号q
i(t)がフレームjについて与えられる(t
j<t<t
j+1)。すなわち、
【0033】
式中、F
iは、ピクセルi上の入射X線束であり、g
iは、ピクセルiの量子変換利得(すなわち、X線から電子への変換利得)であり、i
darkは、ピクセルiに関連する暗電流であり、n
FPN,i、n
reset,i、およびn
read,iは、ピクセルiに関連する主要ノイズ源、すなわち、いわゆる固定パターンノイズ(n
FPN)、リセットノイズ(n
reset)、および、ピクセルのkTCノイズと読出し電子回路によって誘発されるノイズとを含む読出しノイズ(n
read)とである。
【0034】
必要とされるものは、
図4Bに示されているように、いくつかのフレームにわたって測定されたピクセルi内の電荷の一連の測定値に基づくピクセルiにおけるX線の総フルエンス(fluence)の最適な推定値である。
【0036】
本発明の原理によれば、この推定値を計算するためのプロセスが
図5に示されている。このプロセスは、ステップ500で始まり、各ピクセルの出力が、利得の差および非線形性に関して補正されるステップ502に進む。理想的なセンサ内の各ピクセルは一定の量子利得g(入力X線束に対するピクセルの出力)を有することになるが、実際のCMOSセンサでは、各ピクセルの応答が他のピクセルの応答とはわずかに異なる。具体的には、各ピクセルは、わずかに異なる線形量子利得を有することになり、ピクセル出力もまた、小さな非線形性を示すことになる。これらの作用のどちらも、何らかの他の動作が実行される前に補正しなければならない。
【0037】
補正は、多数(たとえば、100)の較正画像に応答して各ピクセルの出力を測定することによって実行される。各較正画像は、X線源とX線センサの間に物体がなく、またX線シャッタが広く開いた状態で取得される(「フラッドフィールド」画像と呼ばれる)が、画像は異なる露出時間を有する。次いで、各ピクセルの応答が、下式の形態の曲線にフィッティングされる。すなわち、
【0039】
式中、q
lin,iは、ピクセルi内の補正(線形化)された電荷であり、q
m,iは、時間tでのピクセルi内の測定された電荷であり、a
0からa
nは、ピクセル電荷が露出時間と線形に蓄積すると仮定し、時間に対する蓄積された電荷の最良の線形近似を生成するように係数を調整することによって決定された最もよくフィットする係数である。CMOSセンサの場合、適度に正確な線形化は、n=3で得られることが判明した。
【0040】
次に、ステップ504で、ピクセル出力が、固定パターンノイズおよび暗電流ノイズに関して補正される。固定パターンノイズおよび暗電流もまた、較正を介して補正される。この場合、(X線シャッタが閉じられた状態で)一連の同一の較正用暗画像が、注目の積分時間に取得される。各ピクセルについて、同一の較正用暗画像のセットにわたって各暗画像における電荷が平均され、したがって、ピクセルiについて得られる平均電荷は、q
dark,iは、下式によって与えられるように、固定パターンノイズn
FPNおよび積分された暗電流を共に含む。すなわち、
【0042】
次いで、これらのノイズの寄与の両方を、線形化された電荷からq
dark,iを減算することによって、線形化された電荷から除去することができる。
【0043】
次いで、ステップ506で、リセットノイズが補正される。CMOS X線センサの各列が読み出された後で、列内のピクセルが基準電圧値にリセットされる。理想的には、各列内のピクセルは、同じ基準電圧値にリセットされることになる。リセットノイズは、列内のピクセルがランダムオフセット値によって基準電圧値からわずかに異なる値にリセットするとき発生する。このノイズは、所与の列内の各ピクセルが同じランダムオフセット値を有するので、画像内で水平の「横線(striping)」として現れる。しかし、各ピクセル列ごとのランダムオフセットは、各リセット後に変化し、したがって、リセットノイズは、暗電流または固定パターンノイズのように較正によって補正することができない。したがって、画像に対して周波数ろ過を実行し、各列内でゼロ周波数を有する成分を決定することによって、各画像からリセットノイズを推定しなければならない。この周波数ろ過のプロセスでは、明信号(ブラッグ反射など)が検出されマスクされる。次いで、高速フーリエ変換が画像に適用され、その後に低域通過ろ過が続く。あるいは、リセットノイズは、単純に、センサの縁部でいくつかのピクセルをマスクし、これらのピクセルにおける信号を平均することによって推定することができる。これらの技法のどちらでも、特定の画像内のピクセルiについてリセットノイズ補正q
reset,iをもたらす。
【0044】
上記のノイズ補正を適用した後、ピクセルiについての補正済み電荷q
c,iは、下式によって与えられる。すなわち、
【0046】
したがって、ピクセルiでの積分された総X線束(読出しノイズは無視する)は、単純に、平均線形量子変換利得gによって正規化された各ピクセル内の補正済み電荷の合計である。すなわち、
【0048】
次のステップ508では、時間t
jでの(すなわち、フレームjの読出し時間での)各ピクセル内の電荷の最適な推定値が、フレーム積分時間期間中、そのピクセル内の電荷のN個の測定値を与えられて計算される。上記のヤング(Young)によって述べられた方法において詳細に論じられているように、この計算は、(次元の数がNよりはるかに小さい)低次のモデル関数を測定された電荷にフィッティングすることに等しい。しかし、X線強度が時間的に一定でないので、この低次のモデル関数は一次関数(ヤングによって使用されたように)になることができない。
【0049】
しかし、より高次の関数を使用することができる。いくつかの可能な基底関数がある。具体的には、三次式が大抵の「微細スライシング」されたデータセットについてロッキング曲線に良好にフィットすることが判明している。この計算は、周知の最小化の問題に変形される。
【0051】
式中、P
i(t)=C
0+C
1t+C
2t
2+C
3t
3+...C
mt
mは、m(一般にm=3)次の多項式関数であり、q
c,i(t)は、フレーム積分時間間隔中、N回で収集され、上述のようにノイズに関して補正された電荷測定値の集まりである。
【0052】
この式は、たとえば特異値分解の周知の技法によって、多項式係数の最適な値に関して解くことができる。Pが測定された電荷に関して良好な基底関数である場合には、最適なフィットが、単一の測定値よりも、ピクセルi内の積分された電荷の良好な推定値をもたらすことになる(N>>mである限り、約
【0055】
フィッティングプロセスが
図6に示されており、
図6は、水平軸の時間に対する垂直軸上の蓄積されたピクセル電荷のグラフを示す。図のように、電荷は、時間618で開始し時間620で終了するフレーム積分時間中、非線形的に増大する。フレーム積分期間中、蓄積された電荷の測定値606ないし614が非破壊読出しによってとられる。各測定値は、サンプル値の変動を示すエラーバー(error−bar)を含む。フレーム積分期間の終了時には、蓄積された電荷が、破壊的読出し616によってゼロにリセットされる。フィッティングされた基底曲線が602で示されている。
【0056】
多項式P内にオフセット項C
0を含むことによって、リセットノイズおよび/または固定パターンノイズ補正が完璧ではないということを補正するために、各ピクセルについて(おそらくは小さい)残留オフセットのための許容差604を加えることができる。
【0057】
最後に、ステップ510で、フレーム境界でモデル関数を評価し、これを隣接するフレームにわたって合計し、次いで変換利得によって除算することによって、ピクセルiでの積分されたX線フルエンスの最適な推定値を得ることができる。すなわち、
【0059】
次いで、プロセスは、ステップ512で終了する。
【0060】
上述の補正のすべては、原理上、データ収集後にオフラインで実行されてもよい。しかし、オフライン処理は、データ伝送負荷、またデータ記憶要件を著しく増大する。したがって、好ましい実施形態は、上記の手順を(フィールドプログラマブルゲートアレイまたは専用デジタル信号プロセッサを使用して)センサハードウェア内に実装する。
【0061】
本発明について、そのいくつかの実施形態を参照して示しおよび記述したが、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の精神および範囲から逸脱することなしに、形態および詳細における様々な変更が本明細書において加えられることを、当業者によって理解されるであろう。