【文献】
J. Health. Popul. Nutr., 2007, vol.25, No.3, p.278-284
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
α−メチル−D−グルコピラノシド(AMG)、3−O−メチルグルコース(3−OMG)、デオキシ−D−グルコース、またはα−メチル−D−グルコースを含有していない、請求項2記載の組成物。
【発明を実施するための形態】
【0016】
詳細な開示
本発明は、下痢のような胃腸の疾患および状態の処置、補液の提供、電解質および体液の不均衡の修正、ならびに/または小腸機能の改善のための治療用組成物および方法を提供する。
【0017】
一つの態様において、本発明は、グルコースを含有していない、経腸投与用に製剤化された組成物を提供する。好ましい態様において、組成物は、経口補液飲料(ORD)として製剤化される。もう一つの好ましい態様において、組成物は、粉末形態をとっており、ORDとして使用するため水で再構成され得る。
【0018】
一つの態様において、本発明の組成物は、遊離アミノ酸;電解質;ジペプチドおよび/またはオリゴペプチド;ビタミン;ならびに、任意で、水、治療的に許容される担体、賦形剤、緩衝剤、香味剤、着色剤、および/または保存剤から選択される1種または複数種の成分を含む。一つの態様において、組成物の総モル浸透圧濃度は、約100ミリオスモル〜250ミリオスモルである。一つの態様において、組成物は約2.9〜7.3のpHを有する。一つの態様において、本発明は、有効量の本発明の組成物を、経腸経路を介して、そのような処置を必要とする対象へ投与する工程を含む、処置を提供する。組成物は、1日1回または複数回投与され得る。好ましい態様において、組成物は経口投与される。
【0019】
好ましい態様において、本発明は、ロタウイルス感染および/またはNSP4によって誘導された下痢の処置を提供する。もう一つの好ましい態様において、本発明は、Cl
-および/もしくはHCO
3-の分泌の減少、ならびに/または体液吸収の改善をもたらす。
【0020】
グルコースによる陰イオン分泌の誘導
本発明に従って、管腔側グルコースが小腸における正味のイオン分泌を誘導することが見出された。具体的には、グルコースは、細胞内のcAMPおよびCa
2+のレベルの増加によって媒介される能動性の塩素イオン分泌を誘導する。また、小腸における正味のNa
+輸送は、高いグルコース濃度では吸収性である。さらに、グルコースは、小腸における炭酸水素分泌をもたらす。
【0021】
本発明者らは、細胞内cAMPレベルの増加が、Cl
-および/またはHCO
3-の分泌を媒介することを示した。Cl
-および/またはHCO
3-の分泌は、多数の(およそ20種の)可能性のあるセリンおよびトレオニンリン酸化部位を有する嚢胞性線維症膜コンダクタンス制御因子(CFTR)イオンチャネルによって主として媒介される。プロテインキナーゼA(PKA)およびプロテインキナーゼC(PKC)は、CFTR陰イオンチャネルを活性化することが公知である。パッチクランプ研究において、CFTRチャネルが、PKAによって継続的に活性化されない限り迅速に不活化されること(「ランダウン」)が示されており、このことは、CFTRの活性化におけるPKAの重要性を意味している。この観察と一致して、強力なPKA阻害剤H89による小腸細胞の前処理は、グルコースによって刺激されるIscの正味の増加の有意な低下をもたらす。
【0022】
PKAアンタゴニストは、グルコース曝露後のSGLT1タンパク質発現を阻害することが示された(Dyer et al.(2003)Eur.J.Biochem.270(16):3377-3388)。CFTRチャネルは、cAMP依存性プロテインキナーゼ(PKA)によって活性化され、陰イオン分泌をもたらす。小腸におけるグルコースによって刺激されるI
scの増加は、CFTRによって媒介されるイオン輸送によって部分的に媒介される。
【0023】
グルコースも(cAMPのような)PKAアゴニストも、刷子縁膜へのSGLT1の運搬を増加させることが示されている(Wright et al.(1997)J.Exp.Biol.200(Pt 2):287-293;Dyer el al.(2003)Eur.J.Biochem.270(16):3377-3388)。Vmaxの減少は、電流の全体としての減少を示し、それは、グルコース輸送の減少を表す。Vmaxの減少は、絨毛上皮細胞に主に見出されるグルコーストランスポーターSGTL1の総数の低下に起因し得る。絨毛の損失は、細胞内へグルコースを取り込むための利用可能なトランスポーターの有意な損失をもたらす。
【0024】
腸細胞をグルコースと共にインキュベートすることによって、細胞内cAMPレベルが増加することが見出された。絨毛細胞においては、腺窩細胞より、グルコースによって誘導される細胞内cAMPレベルの大きな増加が観察される。腸細胞をフォルスコリンと共にインキュベートすることによって、腺窩細胞および絨毛細胞の両方において細胞内cAMPレベルが増加する(
図3A)。絨毛領域の方が腺窩領域より多数のSGLT-1が位置しているため、SGLT1によって媒介されるグルコース輸送は、腺窩細胞ではなく絨毛細胞において主に起こる(Knickelbein et al.(1988)J Clin.Invest.82(6):2158-2163)。従って、腺窩細胞におけるグルコース濃度の増加は、cAMP応答の増加をもたらさない(
図3B)。
【0025】
低濃度(例えば、V
maxのおよそ半分である0.6mMグルコース)ですら、管腔側グルコースは、正味の陰イオン分泌を誘導する。より高いグルコース濃度では、ナトリウム吸収が優勢である。管腔側グルコース濃度の増加は、細胞内のcAMPおよびCa
2+のレベルを増加させる。以前の研究は、Na
+共役グルコース輸送についてのK
mが、0.2〜0.7mMの範囲内にあることを示した(Lo & Silverman(1998)J.Biol.Chem.273(45):29341-29351)。
【0026】
H-89によって前処理された細胞に残存するグルコースによって媒介されるIscの増加の存在は、グルコースによって誘導される陰イオン分泌において、PKA非依存性経路が存在することを示す。小腸にわたる起電性陰イオン分泌は、イオンチャネルによって媒介され、それらは、cAMP、Ca
2+、細胞体積、および膜電位による活性化のような活性化の機序に基づき分類され得る。
【0027】
管腔側グルコースが細胞内Ca
2+レベルの増加を誘導することも見出された。また、グルコースによって誘導されるCl
-分泌は、PKA依存性経路によってもPKA非依存性経路によって媒介される。これは、CFTRに加えて、カルシウム活性化塩素イオンチャネル(CaCC)も、グルコースによって誘導される陰イオン分泌において役割を果たすことを示す。
【0028】
さらに、グルコースは起電性HCO
3-分泌を刺激する。グルコースと共にインキュベートされた小腸細胞は、管腔側Cl
-含有溶液において、管腔側Cl
-不含溶液より高いHCO
3-分泌レベルを示す(
図4Aおよび4B)。これらの結果は、陰イオンチャネルが、グルコースの存在下でのHCO
3-を媒介することを示す。また、グルコースの添加は、グルコース添加なしの細胞と比較した時、Cl
--HCO
3-交換のわずかな減少をもたらす。この減少は、グルコースによる細胞内cAMPレベルの増加による二次的なものであり得る。これは、グルコースが、陰イオンチャネルによって媒介される分泌を誘導し、電気的中性のCl
--HCO
3-交換を阻害することも示している。
【0029】
さらに、小腸細胞を、陰イオンチャネルブロッカー(100mM NPPB)および陰イオン交換阻害剤(100mM DIDS)と共にそれぞれインキュベートした。グルコースによって誘導される、陰イオンチャネルによって媒介されるHCO
3-分泌の、NPPB(100mM)による有意な阻害が存在した(4.2±0.7対7.6±1.5mEq.h
-1.cm
-2)。
【0030】
陰イオンチャネル阻害剤の存在下でも、残存するHCO
3-分泌が未だ観察される。これは、グルコースによって媒介される分泌において、Cl
--HCO
3-交換が存在することを示す。これは、細胞内カルシウムレベルの上昇が、正常な消化機能においても、ある種の疾患状態においても、ナトリウム水素交換輸送体3(NHE3)活性を阻害し得ることも示す。これは、SGLT1が、ナトリウム吸収の制御において、時には、分泌および/または吸収の欠陥の刺激において、二重の役割を果たすことも示す。
【0031】
グルコースによって誘導される分泌機序の発見は、下痢を含む胃腸疾患の処置において使用され得る。急性下痢性疾患を有する患者は、一般的に、上部消化管において起こるグルコース吸収不良を有する。未吸収の炭水化物の存在は、腸内で浸透圧効果を及ぼし、下痢をもたらし得る。さらに、グルコースは、細胞内のCa
2+および/またはcAMPのレベルを増加させ、陰イオン分泌を誘導する。グルコースの分泌効果は、以前には、十分に研究されていなかったか、または同時に起こるNa
+-グルコース吸収によって隠されていた。また、その分泌効果のため、グルコース投与は、絨毛の短縮、従って、極度に損なわれた吸収に関連した、クローン病および放射線または化学療法によって誘導される腸炎のような、Na
+-グルコース吸収不良を伴う胃腸疾患を特に悪化させる。
【0032】
ロタウイルス感染においては、小腸において、絨毛細胞に主に発現しているナトリウム依存性グルコース共輸送体(SGLT-1)を介して、優勢なグルコース共役Na
+吸収が存在するが、カルシウム活性化塩素イオンチャネル(CaCCまたはTMEM-16a)を介して、カルシウムによって活性化される有意なCl
-分泌が存在する。さらに、細胞内グルコースが、カルシウムによって活性化される塩素イオンおよび体液の分泌を活性化する。非構造タンパク質(NSP4)は、ロタウイルスによって産生されるエンテロトキシンである。グルコースおよびNSP4は、共に投与された時、細胞において持続的な塩素イオン分泌をもたらすことが発見されている。その結果として、相当量のグルコースを含有する既存のORD製剤は、カルシウムによって刺激される塩素イオン分泌をさらに増加させ、それによって、ロタウイルスによって誘導された下痢を悪化させる。
【0033】
治療用組成物
一つの局面において、本発明は、下痢のような胃腸の疾患および状態の処置、補液の提供、電解質および体液の不均衡の修正、ならびに/または小腸機能の改善のための治療用組成物を提供する。
【0034】
一つの態様において、組成物は、経腸投与用に製剤化され、グルコースを含有していない。好ましい態様において、組成物は、経口補液飲料として製剤化される。もう一つの好ましい態様において、組成物は、粉末形態をとっており、経口補液飲料として使用するため水で再構成され得る。
【0035】
さらなる態様において、組成物は、グルコーストランスポーターの基質を含有していない。さらに具体的な態様において、組成物は、グルコース類似体(例えば、SGLT-1に対する代謝不可能なグルコースアゴニスト)および(糖のような)その他の炭水化物を含むが、これらに限定されない、ナトリウム依存性グルコース共輸送体(SGLT-1)のアゴニストを含有していない。
【0036】
α-メチル-D-グルコピラノシド(AMG)、3-O-メチルグルコース(3-OMG)、デオキシ-D-グルコース、およびα-メチル-D-グルコースのような代謝不可能なグルコース類似体;ならびにガラクトースを含むが、これらに限定されない、SGLT-1の様々な基質が、当技術分野において公知である。グルコーストランスポーター(例えば、SGLT-1)の基質は、当技術分野において公知であるようなアゴニストアッセイに基づき、選択され得る。グルコーストランスポーター(例えば、SGLT-1)の基質を入手するため、グルコースおよび(糖のような)その他の炭水化物の構造的な修飾を行うこともできる。
【0037】
一つの態様において、組成物はグルコースを含有していない。さらなる態様において、組成物は、(二糖、オリゴ糖、もしくは多糖のような)炭水化物、またはグルコースもしくはグルコーストランスポーター(例えば、SGLT-1)の基質へ加水分解可能なその他の化合物を含有していない。
【0038】
一つの態様において、組成物は、遊離アミノ酸;電解質;ジペプチドおよび/またはオリゴペプチド;ビタミン;ならびに、任意で、水、治療的に許容される担体、賦形剤、緩衝剤、香味剤、着色剤、および/または保存剤から選択される1種または複数種の成分を含むか、から本質的になるか、またはからなる。
【0039】
もう一つの代替的な態様において、組成物は、遊離アミノ酸;電解質;ジペプチドおよび/またはオリゴペプチド;ビタミン;ならびに、任意で、水、治療的に許容される担体、賦形剤、緩衝剤、香味剤、着色剤、および/または保存剤から選択される1種または複数種の成分を含むか、から本質的になるか、またはからなり、(グルコース、グルコース類似体のような)グルコーストランスポーター(例えば、SGLT-1)基質、および/またはグルコーストランスポーター(例えば、SGLT-1)の基質へ加水分解可能な(炭水化物のような)化合物が、組成物中に存在する場合、0.05mM未満、または0.04mM未満、0.03mM未満、0.02mM未満、0.01mM未満、0.008mM未満、0.005mM未満、0.003mM未満、0.001mM未満、0.0005mM未満、0.0003mM未満、0.0001mM未満、10
-5mM未満、10
-6mM未満、もしくは10
-7mM未満を含むが、これらに限定されない0.05mM未満の任意の濃度の総濃度で存在する。一つの態様において、抗下痢組成物は、糖を含有していない。もう一つの態様において、抗下痢組成物は、(グルコース、グルコース類似体のような)グルコーストランスポーター(例えば、SGLT-1)基質、および/またはグルコーストランスポーター(例えば、SGLT-1)の基質へ加水分解可能な(炭水化物のような)化合物を含有していない。
【0040】
本発明の抗下痢組成物のために有用なアミノ酸には、アラニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、アスパラギン酸、グルタミン酸、フェニルアラニン、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、リジン、ロイシン、メチオニン、プロリン、グルタミン、アルギニン、セリン、トレオニン、バリン、トリプトファン、およびチロシンが含まれるが、これらに限定されない。
【0041】
一つの態様において、本発明は、遊離アミノ酸、リジン、グリシン、トレオニン、バリン、チロシン、アスパラギン酸、イソロイシン、トリプトファン、およびセリン;ならびに、任意で、リジン、グリシン、トレオニン、バリン、チロシン、アスパラギン酸、イソロイシン、トリプトファン、およびセリンから選択される遊離アミノ酸のうちの1種または複数種から作成されたジペプチドまたはオリゴペプチド、治療的に許容される担体、電解質、緩衝剤、保存剤、および香味剤を含むか、から本質的になるか、またはからなる抗下痢組成物を提供する。
【0042】
一つの態様において、抗下痢組成物に含有されているアミノ酸は、L型である。一つの態様において、治療用組成物に含有されている遊離アミノ酸は、中性形態または塩形態で存在していてよい。
【0043】
一つの態様において、治療用組成物は、Na
+、K
+、Ca
2+、HCO
3-、およびCl
-から選択される1種または複数種の電解質をさらに含む。一つの態様において、治療用組成物は、塩化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、塩化カルシウム、および/または塩化カリウムを含む。
【0044】
ある種の態様において、各遊離アミノ酸は、4mM〜40mMの濃度、またはその間の任意の値で存在していてよく、組成物の総モル浸透圧濃度は、約100ミリオスモル〜250ミリオスモルである。「から本質的になる」という用語は、本明細書において使用されるように、特定の材料または工程、ならびに本発明の基本的かつ新規の特徴、例えば、胃腸の疾患および状態の処置(ある種の態様において、ロタウイルスによって誘導された下痢のような下痢の処置)、補液の提供、電解質および体液の不均衡の修正、ならびに/または小腸機能の改善のための組成物および方法に実質的に影響しないものへ、成分および工程の範囲を限定する。例えば、「から本質的になる」を使用することによって、治療用組成物は、胃腸の疾患および状態の処置(ある種の態様において、ロタウイルスによって誘導された下痢のような下痢の処置)、補液の提供、電解質および体液の不均衡の修正、ならびに/または小腸機能の改善に対する直接の有益なまたは有害な治療効果を有する、不特定の遊離アミノ酸、ジペプチド、オリゴペプチド、ポリペプチド、もしくはタンパク質;単糖、二糖、オリゴ糖、もしくは多糖;または炭水化物を含むが、これらに限定されない、不特定の成分を含有していない。
【0045】
また、「から本質的になる」という用語を使用することによって、組成物は、胃腸の疾患および状態の処置(ある種の態様において、ロタウイルスによって誘導された下痢のような下痢の処置)、補液の提供、電解質および体液の不均衡の修正、ならびに/または小腸機能の改善に対する治療効果を有しない物質を含んでいてもよく、そのような成分には、胃腸の疾患および状態の処置(ある種の態様において、下痢の処置)、補液の提供、電解質不均衡の修正、ならびに/または小腸機能の改善に影響しない担体、賦形剤、香味剤、着色剤、および保存剤等が含まれる。
【0046】
「オリゴペプチド」という用語は、本明細書において使用されるように、3〜20アミノ酸からなるペプチドをさす。
【0047】
「オリゴ糖」という用語は、本明細書において使用されるように、3〜20単糖からなる糖類をさす。「炭水化物」という用語は、本明細書において使用されるように、C
n(H
2O)
n[nは1から始まる整数である]という一般式を有する化合物をさし;単糖、二糖、オリゴ糖、および多糖を含む。
【0048】
一つの態様において、組成物の総モル浸透圧濃度は、約100ミリオスモル〜250ミリオスモル、または120ミリオスモル〜220ミリオスモル、150ミリオスモル〜200ミリオスモル、および130ミリオスモル〜180ミリオスモルを含むが、これらに限定されない、その間の任意の値である。
【0049】
もう一つの態様において、組成物の総モル浸透圧濃度は、約230ミリオスモル〜280ミリオスモル、またはその間の任意の値である。好ましくは、総モル浸透圧濃度は、約250〜260ミリオスモルである。もう一つの態様において、組成物は、280ミリオスモル未満の任意の値である総モル浸透圧濃度を有する。
【0050】
ある種の態様において、組成物は、3.3〜6.5、3.5〜5.5、および4.0〜5.0のpHを含むが、これらに限定されない、約2.9〜7.3のpHまたはその間の任意の値を有する。
【0051】
ある種の態様において、組成物は、約7.1〜7.9のpHまたはその間の任意の値を有する。好ましくは、組成物は、約7.3〜7.5、より好ましくは、約7.2〜7.4、またはより好ましくは、約7.2のpHを有する。
【0052】
ある種の態様において、組成物は、オリゴ糖もしくは多糖もしくは炭水化物;オリゴペプチドもしくはポリペプチドもしくはタンパク質;脂質;短鎖、中鎖、および/もしくは長鎖脂肪酸;ならびに/または1種もしくは複数種の前記栄養素を含有する食物から選択される1種または複数種の成分を含有していない。
【0053】
胃腸の疾患および状態の処置
本発明のもう一つの局面は、胃腸の疾患および状態の処置の方法を提供する。ある種の態様において、本発明は、下痢を処置するため、補液を提供するため、電解質および体液の不均衡を修正するため、かつ/または小腸機能を改善するため、使用され得る。好ましい態様において、本発明は、ロタウイルスによって誘導された下痢の処置を提供する。もう一つの好ましい態様において、本発明は、NSP4によって誘導された下痢の処置を提供する。
【0054】
一つの態様において、方法は、有効量の本発明の組成物を、経腸経路を介して、そのような処置を必要とする対象へ投与する工程を含む。組成物は、1日1回または複数回投与され得る。一つの態様において、組成物は経口投与される。
【0055】
好ましい態様において、本発明は、Cl
-および/もしくはHCO
3-の分泌の減少、ならびに/または体液吸収の改善を提供する。
【0056】
「処置(treatment)」という用語またはその文法的語尾変化(例えば、処置する(treat)、処置すること(treating)、および処置等)には、本明細書において使用されるように、疾患もしくは状態の症状の緩和もしくは寛解;および/または疾患もしくは状態の重症度の低下が含まれるが、これらに限定されない。ある種の態様において、処置には、以下のうちの一つまたは複数が含まれる:下痢を有する対象における下痢の緩和もしくは寛解、下痢の重症度の低下、下痢の期間の短縮、腸治癒の促進、補液の提供、電解質不均衡の修正、小腸粘膜治癒の改善、および絨毛長の増加。
【0057】
「有効量」という用語は、本明細書において使用されるように、疾患もしくは状態を処置するかもしくは寛解させることができるか、またはその他の意図された治療効果を生じることができる量をさす。
【0058】
「対象」または「患者」という用語は、本明細書において使用されるように、本発明に係る組成物による処置の提供を受けることができる、霊長類のような哺乳動物を含む、生物を意味する。開示された処置の方法から利益を得ることができる哺乳動物種には、類人猿、チンパンジー、オランウータン、ヒト、サル;イヌ、ネコのような飼育された動物;ウマ、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ニワトリのような家畜;ならびにマウス、ラット、モルモット、およびハムスターのようなその他の動物が含まれるが、これらに限定されない。
【0059】
一つの態様において、ヒト対象は、1歳未満、または10ヶ月齢、6ヶ月齢、および4ヶ月齢のような1歳未満の任意の月齢の乳児である。もう一つの態様において、ヒト対象は、5歳未満、または4歳、3歳、および2歳のような5歳未満の任意の年齢の子供である。一つの態様において、本発明の処置を必要とする対象は、下痢に罹患している。
【0060】
一つの態様において、本発明は、下痢を処置するために使用され得る。ある種の態様において、本発明は、ロタウイルス、ノーウォークウイルス、サイトメガロウイルス、および肝炎を含むが、これらに限定されないウイルス;カンピロバクター、サルモネラ、シゲラ、コレラ菌(Vibrio cholerae)、および大腸菌(Escherichia coli)を含むが、これらに限定されない細菌;ランブル鞭毛虫(Giardia lamblia)およびクリプトスポリジウムを含むが、これらに限定されない寄生虫による感染を含むが、これらに限定されない、病原体感染によって引き起こされた下痢を処置するために使用され得る。好ましい態様において、本発明は、ロタウイルスによって誘導された下痢を処置するために使用され得る。
【0061】
ある種の態様において、本発明は、例えば、感染、毒素、化学物質、アルコール、炎症、自己免疫疾患、癌、化学療法、放射線治療、プロトン治療、および胃腸手術によって引き起こされた小腸の損傷によって引き起こされた下痢を処置するために使用され得る。
【0062】
ある種の態様において、本発明は、クローン病および潰瘍性大腸炎を含む炎症性腸疾患(IBD);過敏性腸症候群(IBS);自己免疫性腸症;全腸炎;ならびにセリアック病を含むが、これらに限定されない疾患によって引き起こされた下痢の処置において使用され得る。
【0063】
ある種の態様において、本発明は、胃腸手術;胃腸切除;小腸移植;術後外傷;ならびに放射線治療、化学療法、およびプロトン治療によって誘導された腸炎によって引き起こされた下痢の処置において使用され得る。
【0064】
もう一つの態様において、本発明は、アルコールに関連する下痢を処置するために使用され得る。もう一つの態様において、本発明は、旅行者下痢および/または食中毒によって引き起こされた下痢を処置するために使用され得る。
【0065】
ある種の態様において、本発明は、小腸粘膜の損傷によって引き起こされた下痢、例えば、絨毛長の短縮、小腸内の粘膜表面積の減少、ならびに絨毛委縮、例えば、絨毛領域および刷子縁の部分的なまたは完全な衰弱が存在する下痢状態の処置において使用され得る。ある種の態様において、本発明は、十二指腸、空腸、および回腸の粘膜層を含む小腸粘膜上皮細胞の損傷によって引き起こされた下痢の処置において使用され得る。
【0066】
一つの態様において、本発明は、分泌性下痢を処置するために使用され得る。ある種の態様において、本発明は、CFTRチャネルおよび/またはCaCCチャネル(例えば、TMEM-16a)を介して媒介される分泌性下痢を処置するために使用され得る。一つの態様において、本発明は、急性下痢および/または慢性下痢を処置するために使用され得る。
【0067】
一つの態様において、本発明は、栄養素の吸収障害によって引き起こされた下痢を処置するために使用され得る。一つの態様において、本発明は、SGLT-1のようなグルコーストランスポーターのレベルまたは機能的活性の低下によって引き起こされた分泌性下痢を処置するために使用され得る。
【0068】
本明細書において使用されるように、「下痢」という用語は、24時間以内に3回以上の無形便、軟便、または水様便が起こる状態をさす。「急性下痢」とは、4週間以下続く下痢状態をさす。「慢性下痢」とは、4週間を超えて続く下痢状態をさす。
【0069】
一つの態様において、本発明は、グルコース、グルコース類似体、グルコーストランスポーター(例えば、SGLT-1)の基質、二糖、オリゴ糖、もしくは多糖;炭水化物;またはグルコースもしくはグルコーストランスポーター(例えば、SGLT-1)の基質へ加水分解可能な分子から選択される成分のうちの1種または複数種の投与を含まない。
【0070】
ある種の代替的な態様において、本発明は、グルコース;グルコース類似体;グルコーストランスポーター(例えば、SGLT-1)の基質;二糖、オリゴ糖、もしくは多糖;炭水化物;またはグルコースもしくはグルコーストランスポーター(例えば、SGLT-1)の基質へ加水分解可能な分子から選択される1種または複数種の成分の投与を含み、その際、これらの成分の総濃度は、0.05mM未満、または0.04mM、0.03mM、0.02mM、0.01mM、0.008mM、0.005mM、0.003mM、0.001mM、0.0005mM、0.0003mM、0.0001mM、10
-5mM、10
-6mM、もしくは10
-7mMを含むが、これらに限定されない、0.05mM未満の任意の濃度である。
【0071】
製剤および投与
本発明は、治療的に有効な量の本発明の組成物を含み、任意で、薬学的に許容される担体を含む治療用組成物または薬学的組成物を提供する。そのような薬学的担体は、水のような無菌の液体であり得る。治療用組成物は、補液の提供、電解質および体液の不均衡の修正、ならびに/または小腸機能の改善のための、胃腸の疾患および状態の処置(一つの態様において、下痢の処置)に影響しない賦形剤、香味剤、着色剤、および保存剤等も含んでいてよい。
【0072】
一態様において、治療用組成物およびそこに含有されている全成分は無菌である。ある種の好ましい態様において、組成物は、飲料として製剤化されるか、または組成物は、粉末形態であり、飲料として使用するため水で再構成され得る。
【0073】
「担体」という用語は、化合物を投与するための希釈剤、佐剤、賦形剤、または媒体をさす。適当な薬学的担体の例は、E.W.Martinによる「Remington's Pharmaceutical Sciences」に記載されている。そのような組成物は、患者への適切な投与のための形態を提供するのに適当な量の担体と共に、治療的に有効な量の治療用組成物を含有する。製剤は、経腸投与モードに適合しているべきである。
【0074】
本発明は、成分、例えば、化合物、担体、または本発明の薬学的組成物のうちの1種または複数種が充填された1個または複数個の容器を含む薬学的なパックまたはキットも提供する。組成物の成分は、別々に包装されてもよいし、または共に混合されてもよい。キットは、患者へ組成物を投与するための説明書をさらに含み得る。
【0075】
材料および方法
動物の準備
普通食を与えられた8週齢雄NIHスイスマウスを、CO
2吸入後の頚部脱臼によって屠殺する。小腸を静かに摘出し、セグメントを氷冷リンゲル液で洗浄し、洗い流す。次いで、以前に記載されたようにして(Zhang el al.(2007)J Physiol 581(3):1221-1233)、粘膜下面での剥離によって、漿膜および筋肉層から粘膜を分離する。瀉血後、盲腸に近い10cmのセグメントから、回腸粘膜を入手する。全ての実験が、University of Florida Institutional Animal Care and Use Committeeによって承認される。
【0076】
生体電気測定
イオン輸送研究を回腸シートに対して実施する。次いで、組織を、開口部面積0.3cm
2のUssing型Luciteチャンバー(P2304、Physiologic Instruments,San Diego,CA,USA)の半室間に設置する。95%O
2:5%CO
2を通気した普通のリンゲル液(115mM NaCl、25mM NaHCO
3、4.8mM K
2HPO
4、2.4mM KH
2PO
4、1.2mM MgCl
2、および1.2mM CaCl
2)を、組織のための槽溶液として両側で使用し、温度を37℃に一定に維持する。浸透圧的および静水学的な力を排除するため、チャンバーを平衡化する。液体による抵抗も補償する。組織を安定させる。基底短絡電流(I
sc)および対応するコンダクタンス(G)を、コンピューターによってコントロールされた電圧/電流クランプ装置(VCC MC-8、Physiologic Instruments)を使用して記録する。
【0077】
流動研究
基本条件下およびその後のグルコース添加条件下で、ナトリウムの同位体
22Naを使用して、粘膜を越えるNa流動を研究する。コンダクタンスによって対にされた組織を、分泌機能を表す漿膜粘膜流動(J
sm)および吸収機能を表す粘膜漿膜流動(J
ms)を研究するために指定する。組織の指定された側へ
22Naを添加し、15分毎に反対側から500μlの試料を収集する。組織の別のセットにおいて、
36Clを漿膜側または粘膜側のいずれかに添加する。完全刺激のため8mM濃度のグルコースをチャンバーへ添加し、I
scおよびコンダクタンスの対応する変化を記録する。コンダクタンスをオームの法則に基づき記録する。
【0078】
各条件下で3個の試料を収集する。ガンマカウンターを使用して放射能を計数する。コンダクタンスの変化が10%未満の組織をマッチングし、平均J
net=J
ms - J
smを計算する。
【0079】
プロテインキナーゼA(PKA)阻害剤研究
類似したコンダクタンスおよび電流によって対にした組織を、不可逆性プロテインキナーゼA(PKA)阻害剤である100μM H-89(Santa Cruz Biotechnology,Inc,Santa Cruz,CA)によって処理するかまたは未処理とする。組織をH-89と共に30分間インキュベートする。増加する濃度のグルコース(0.015〜8mM)を5分毎に添加し、ピーク電流に注目する。処理された組織および未処理の組織についての対応するK
mおよびV
maxについて、飽和動力学定数を計算する。
【0080】
Caco-2細胞培養
Caco-2細胞は、コンフルエンス後、胎児回腸上皮の機能的特徴を有する細胞へ分化する。Caco-2細胞は、微絨毛を産生し、SGLT1を含む小腸特異的な輸送タンパク質の増加した発現を有し、従って、腸細胞機能を研究するためのモデル系として広く使用されている。
【0081】
Caco-2細胞をATTCから入手し、37℃および5%CO
2で、10%ウシ胎仔血清(FCS)および1%非必須アミノ酸が補足されたダルベッコ変法イーグル培地で培養する。Caco-2細胞を20〜25回継代し、5cmペトリ皿に播種し(2×10
5細胞/ディッシュ)、80%コンフルエンスまで増殖した時、FCS濃度を5%に変化させる。細胞を、さらに10日間増殖させた後、機能研究のために使用する。
【0082】
共焦点Ca
2+蛍光顕微鏡検
25mmの丸型カバーガラスにおいて増殖したCaco2細胞を、シリーズ20ステージアダプター(Warner Instruments,CT USA)に付着したバスチャンバーRC-21BRに設置する。シングルチャネルテーブルトップヒーターコントローラー(TC-324B、Warner Instruments,CT USA)を使用して、細胞を37℃で維持する。細胞に、室温で、0.5μM濃度の蛍光性カルシウム指示薬Fluo-8 AM色素(カタログ番号0203、TEFLab,Inc.,Austin,TX USA)を負荷し、45分間インキュベートする。共焦点レーザー走査顕微鏡法を、倒立Fluoview 1000 IX81顕微鏡(Olympus,Tokyo,Japan)およびU Plan S-Apo 20×対物レンズを使用して実施する。488nmにおける励起および515nmにおける放出で、アルゴンレーザーによって蛍光を記録する。蛍光画像を走査共焦点顕微鏡によって収集する。VC-8バルブコントローラー(Warner instruments,Hamden CT,USA)を使用してコントロールされたマルチバルブ灌流系(VC-8,Warner instruments,Hamden CT,USA)を使用して、リンゲル液、グルコース含有リンゲル液、またはBAPTA-AM含有グルコース-リンゲル液のいずれかをバスに添加する。様々な細胞について変化を記録し、蛍光を測定する。細胞をリンゲル液によって洗浄し、3-O-メチルグルコースおよびカルバコール(陽性対照)を使用して、実験を繰り返す。
【0083】
比色定量的cAMP測定
回腸上皮細胞の新鮮に単離された粘膜擦過標本を、37℃で1.2mM Ca
2+を含有するリンゲル液で3回洗浄する。次いで、洗浄された細胞を2つの群へ分割し、生理食塩水または6mMグルコースのいずれかによって処理し、45分間インキュベートする。内在性ホスホジエステラーゼ活性を止めるため、0.1M HClによって細胞を処理する。次いで、cAMP直接イムノアッセイキット(Calbiochem,USA)を使用したcAMPアッセイのため、溶解物を使用する。
【0084】
cAMPの定量的アッセイは、試料中のcAMPに競合的に結合するcAMPに対するポリクローナル抗体を使用する。室温での同時インキュベーションの後、過剰の試薬を洗浄除去し、基質を添加する。短いインキュベーション時間の後、反応を止め、生成された黄色を、405nmで読み取る。色の強度は、標準物および試料におけるcAMPの濃度に反比例する。cAMPレベルを、それぞれの画分からのタンパク質レベルに対して標準化し、pmol(mgタンパク質)
-1で表す。
【0085】
フォルスコリンによって処理された細胞を、陽性対照として使用する。グルコースおよびフォルスコリンによって処理された細胞を、45分間インキュベートする。全てのアッセイをトリプリケートに実施し、n=4異なるマウスまで繰り返す。
【実施例】
【0086】
下記は、本発明を実施するための手法および態様を例示する実施例である。これらの実施例は、限定的なものとして解釈されるべきでない。特記されない限り、全てのパーセンテージが重量により、全ての溶媒混合比率が容積による。
【0087】
実施例1−回腸におけるグルコースによって刺激されるI
scの増加
本実施例は、グルコースがマウス回腸におけるI
scの増加を刺激することを示す。具体的には、管腔側へのグルコース(8mM)の添加は、基底レベルと比較した時、I
scの有意な増加をもたらす(3.4±0.2対1.1±0.1μEq.h
-1.cm
-2)。標準的なUssingチャンバー研究を使用して入手されたI
scは、上皮を越える正味のイオン移動の総計である(I
sc=J
netNa
+ + J
netCl
- + J
netHCO
3- - J
netK
+)。
【0088】
小腸におけるNa
+吸収(ENaC媒介)またはNa
+分泌の機序は不明である。上皮ナトリウムチャネル阻害剤である10μMアミロライドによる小腸の粘膜側の処理は、I
scに対して効果を及ぼさない。
【0089】
従って、1.1±0.1μEq.h
-1.cm
-2という基底I
scは、主に、腺窩からの嚢胞性線維症膜コンダクタンス制御因子(CFTR)活性およびK
+分泌電流による。
【0090】
Na
+共役グルコース輸送の飽和動力学を決定するため、8mMまでの増加する濃度のグルコースを、140mM Na
+の存在下で管腔側に添加する。増加する濃度のグルコースは、グルコースについて、0.24±0.03mMのK
mおよび3.6±0.19μeq.h
-1.cm
-2のV
maxで、I
scの増強されるが飽和可能な速度をもたらす(
図1A)。0.5〜0.7mMの範囲のグルコース濃度で、グルコース飽和動力学は、飽和の初期の徴候を示す;にも関わらず、グルコース濃度の継続的な増加は、I
scの継続的な増加をもたらし、それによって、0.5〜0.7mMのグルコース濃度においてグルコース飽和曲線内の遷移点(knick)を与える。
【0091】
実施例2−3-O-メチルグルコースによって刺激されるI
scの増加
本実施例は、実施例1において観察されたグルコース飽和動力学が、上皮細胞におけるグルコース代謝によるものではなく、SGLT1によって媒介される輸送によるものであるか否かかを調査する。具体的には、Na
+共役グルコース輸送の飽和動力学を研究するため、グルコースの低代謝型である3-O-メチルグルコース(3-OMG)を管腔側に添加する。
【0092】
図1Bは、2.3±0.13μeq.h
-1.cm
-2のV
maxおよび0.22±0.07mMのK
mを有する3-OMGの飽和動力学を示す。3-OMGの添加は、グルコースによるものと比較した時、Na
+共役グルコース輸送におけるV
maxの有意な減少をもたらし(2.3±0.13μeq.h
-1.cm
-2対3.4±0.2μeq.h
-1.cm
-2)、K
mの変化はなかった。グルコースに類似して、濃度0.5〜0.7mMの3-OMGで遷移点が観察される(
図1B)。
【0093】
実施例3−H-89の存在下でのグルコースによって刺激されるI
sc
現在公知の輸送機序に基づき、グルコースによって刺激されるI
scの増加は、起電性陰イオン分泌または起電性Na
+吸収に起因する可能性がある。
【0094】
cAMP依存性プロテインキナーゼとしても公知のプロテインキナーゼA(PKA)は、CFTRチャネルの活性化において必要とされる。グルコースによって誘導されるI
scの増加におけるPKAの役割を研究するため、組織をUssingチャンバーに設置し、PKA阻害剤であるH-89と共に45分間インキュベートする。その後、組織をグルコース飽和動力学を研究するために使用する。
【0095】
H-89の存在下で、グルコースは、0.8±0.06μEq.cm
-2.h
-1のV
maxおよび0.58±0.08mMのK
mを示す。(回腸組織を0.5〜0.7mMの範囲の濃度のグルコースと共にインキュベートした時に観察される)グルコース飽和曲線内の遷移点は、回腸細胞をH-89によって前処理した時には全て消え、飽和曲線が右方へシフトする(
図1C)。結果は、低いグルコース濃度におけるPKA依存性輸送過程の阻害を示す。
【0096】
グルコース飽和曲線に類似して、3-OMGもPKA感受性の電流を示す。(H-89インキュベーションによる)3-OMG飽和曲線は、(H-89インキュベーションによる)グルコースによって観察されたものと有意に異ならない(
図1AおよびB)。
【0097】
(表1)PKA阻害剤H-89の存在下および非存在下でのグルコースおよび3-O-メチルグルコースの飽和動力学の変化
* グルコースおよび3-OMGによって刺激される電流の一部は、PKAの存在下で消失する。結果はn=8の組織からである。
【0098】
結果は、(表1に示される)PKAによって阻害可能な電流が、グルコースが関与する他の細胞内代謝ではなく、Na
+共役グルコース輸送に起因することを示す(表1)。
【0099】
PKAは、cAMPによって媒介される陰イオン分泌ならびにSGLT1によって媒介されるNa
+およびグルコースの吸収において有意な役割を果たす。H-89非感受性電流の存在は、グルコースが、(細胞内Ca
2+によって媒介される分泌のような)PKAによって媒介されるのではない陰イオン分泌を刺激することを示す。
【0100】
実施例4−フロリジンの存在下でのグルコースによって刺激されるI
scの増加の消失
グルコース輸送の阻害によってPKA感受性電流が消失するか否かを調査するため、SGLT1の可逆性競合的阻害剤であるフロリジン(Santa Cruz Biotechnology,Inc,Santa Cruz,CA,USA)を使用して実験を実施する。具体的には、Ussingチャンバーに設置された回腸組織を、管腔側で100μMフロリジンによって処理し、グルコース飽和動力学研究を実施する。
【0101】
結果は、グルコース刺激および/または3-OMGによるI
scの増加が、フロリジンの存在下で完全に消失することを示す(
図1C)。結果は、SGLT1を介したグルコーストランスポーター活性が、PKA感受性電流および非感受性電流にとって必須であることを示す。
【0102】
実施例5−ナトリウムの一方向の正味の流動に対するグルコースの効果
粘膜から漿膜への移行J
msまたは漿膜から粘膜への移行J
smの定常状態速度において、
22Naを使用して、Na
+の同位体流動測定を実施する。Na
+の正味の流動は、J
net=J
ms - J
smという式を使用して計算される。正のJ
netは正味の吸収を示し;負のJ
netは正味の分泌を示す。
【0103】
グルコースの非存在下(0mM)で、小腸組織は正味のナトリウム吸収(1.8±0.3mEq.h
-1.cm
-2)を示す。Na
+吸収は0.6mMグルコースの存在下で消失する。しかしながら、6mMグルコースの添加は、JnetNa
+の有意な増加をもたらし(3.2±0.5μEq.h
-1.cm
-2)、正味のナトリウム吸収を示す。一方向のNa
+流動は、0mM、0.6mM、および6mMグルコースで有意差を示さない(
図2B)。
【0104】
実施例6−塩素イオンの一方向の正味の流動に対するグルコースの効果
0.6mMグルコースにおけるI
scの変化は、1.1μEq.h
-1.cm
-2(2.2±0.3 - 1.1±0.1μEq.h
-1.cm
-2)と計算され、6mMグルコースにおけるI
scの変化は、2.2μEq.h
-1.cm
-2(3.4±0.2 - 1.1±0.1μEq.h
-1.cm
-2)と計算される。増加するグルコース濃度によるI
scの増加は、(0.6mMおよび6mMグルコースにおける値に基づく)J
netNa
+値に基づき、完全には説明され得ない。
【0105】
J
netNa
+に帰することができないI
scの部分の原因がCl
-流動であるか否かを決定するため、Cl
-についての同位体流動測定を、
36Clを使用して実施する。グルコースの非存在下で計算されたJ
netCl
-は、Cl
-吸収を示す(2±0.3μEq.h
-1.cm
-2)。グルコースの非存在下で、ナトリウム吸収のレベル(1.8±0.3μEq.h
-1.cm
-2)は塩素イオンのもの(2.0±0.3μEq.h
-1.cm
-2)と比較可能であり、電気的中性のNa
+およびCl
-の吸収を示す。
【0106】
粘膜側への0.6mMまたは6mMグルコースの添加は、正味のCl
-分泌をもたらす(
図2A)。0.6mMグルコース(-3.6±0.8μEq.h
-1.cm
-2)および6mMグルコース(-4.0±1.4μEq.h
-1.cm
-2)におけるJ
netCl
-は、有意に異ならない。
【0107】
結果は、グルコースの非存在下でのJ
smCl
-(11.9±0.4μEq.h
-1.cm
-2)と比較した時、グルコース(0.6mMおよび6mMグルコース)の存在下で、J
smCl
-の有意な増加(それぞれ、J
smCl
- 16.9±0.7μEq.h
-1.cm
-2および17±0.7μEq.h
-1.cm
-2)が存在することを示す(
図2A)。結果は、有意なCl
-分泌が0.6mMという低いグルコース濃度で起こることを示す。グルコース濃度の増加は、Cl
-分泌の増加をもたらさない。
【0108】
実施例7−管腔側グルコースの非存在下での回腸におけるHCO
3-分泌
経上皮電気測定および流動研究は、回腸組織へのグルコースの添加が、有意なCl
-分泌を誘導することを示す。0.6mMおよび6mMグルコースにおけるJ
netCl
-は、有意な陰イオン分泌を示すが、これは、特に、6mMグルコースと0.6mMグルコースとの間の6μEq.h
-1.cm
-2(7.5±0.4 - 1.5±0.1μEq.h
-1.cm
-2)というI
sc値の有意な差を考慮すると、I
scの変化の全ての原因ではない。
【0109】
HCO
3-分泌がI
scの未解明の部分に寄与するか否かを決定するため、pHスタット研究を実施する。マウス小腸におけるHCO
3-分泌の少なくとも2つのモードが、本発明者らによって同定された:(1)Cl
-依存性の電気的中性のCl
--HCO
3-交換、および(2)Cl
-非依存性の起電性のHCO
3-分泌。
【0110】
結果は、内在性HCO
3-分泌が正味のHCO
3-分泌に寄与しないことを示す。具体的には、HCO
3-不含の低緩衝溶液を、Ussingチャンバーに設置された組織の両側に添加し、組織の両側に100%O
2を通気する。最小のHCO
3-分泌(0.1±0.01mEq.h
-1.cm
-2、n=12)がそのような条件の下で記録される。その後、HCO
3-含有緩衝溶液を側底側へ添加し、その側で95%O
2および5%CO
2を通気することにより、有意なHCO
3-分泌(3.8±0.2mEq.h
-1.cm
-2)(n=9)がもたらされる。
【0111】
管腔側Cl
-非依存性のHCO
3-分泌が(管腔側グルコースの非存在下での)HCO
3-分泌において役割を果たすか否かを決定するため、管腔側Cl
-の非存在下でpHスタット実験を実施する。管腔側Cl
-の非存在下では、最小のHCO
3-分泌が記録される(0.4±0.1μEq.h
-1.cm
-2)(
図5A)。結果は、管腔側グルコースの非存在下での基底HCO
3-分泌が、主に、Cl
-依存性の電気的中性のCl
--HCO
3-交換によることを示す。
【0112】
実施例8−回腸におけるHCO
3-分泌に対する管腔側グルコースの効果
管腔側Cl
-依存性のHCO
3-分泌に対するグルコースの効果を決定するため、pHスタット実験を実施する。管腔Cl
-の存在下で、管腔側へのグルコースの添加は、有意なHCO
3-分泌をもたらす(7.6±μEq.h
-1.cm
-2)。
【0113】
グルコースの存在下でのHCO
3-分泌は、管腔側Cl
-依存性の電気的中性のCl-HCO
3-交換、または管腔側Cl
-非依存性の陰イオンチャネルによって媒介されるHCO
3-分泌による可能性がある。グルコースによって刺激されるHCO
3-分泌の機序を査定するため、グルコースを粘膜側に添加する。6mMグルコースと共にインキュベートされた組織において、管腔側Cl
-の除去によって、HCO
3-分泌は消失しない(3.2±0.6μEq.h
-1.cm
-2)(
図5A)。結果は、グルコースの存在下でのHCO
3-分泌が、主に、管腔側Cl
-非依存性の分泌によるものであり、陰イオンチャネルによって媒介されることを示す。
【0114】
もう一つの実験において、非特異的陰イオンチャネルブロッカーである100μM 5-ニトロ-2-(3-フェニルプロピルアミノ)-安息香酸(NPPB)を管腔側に添加する。NPPBは、6mMグルコースの存在下で検出された管腔側Cl
-非依存性のHCO
3-分泌を阻害する(
図5B)。結果は、グルコースによって刺激されるHCO
3-分泌が、陰イオンチャネルを介して媒介されることを示す。
【0115】
グルコースによって誘導されるHCO
3-分泌がCFTRチャネルを介して起こるか否かを調査するため、100μMグリベンクラミドを管腔側に添加する。グリベンクラミドは、グルコースによって刺激される管腔Cl
-非依存性のHCO
3-分泌を阻害し、このことは、CFTRチャネルが、グルコースによって刺激されるHCO
3-分泌を媒介することを示す。
【0116】
実施例9−陰イオンチャネルによって媒介されるHCO
3-分泌に対するグルコース代謝の効果
グルコースによって刺激されるHCO
3-分泌が、小腸組織におけるグルコース代謝によるものであるか否かを査定するため、小腸組織を、管腔側HCO
3-およびバスHCO
3-の非存在下で、グルコースの低代謝型である3-OMGと共にインキュベートする。HCO
3-分泌(0.1±0.03μEq.h
-1.cm
-2)は、3-OMG(6mM)の存在下、管腔側HCO
3-およびバスHCO
3-の非存在下で観察される。
【0117】
実施例10−回腸における細胞内cAMPレベルに対するグルコースの効果
グルコースの非存在下で、絨毛細胞からの細胞溶解物は、腺窩細胞のものと比較した時、より高い細胞内cAMPレベルを示す。フォルスコリンとのインキュベーションは、絨毛細胞および腺窩細胞における[cAMP]
iレベルの有意な増加をもたらす(
図3A)。フォルスコリンによって処理された細胞を、陽性対照として使用する。
【0118】
細胞内cAMPレベルに対するグルコースの効果を研究するため、絨毛細胞および腺窩細胞を6mMグルコースと共にインキュベートする。絨毛細胞溶解物のグルコースとのインキュベーションは、腺窩細胞のものと比較した時、細胞内cAMPレベルの有意な増加をもたらす(
図3B)。結果は、グルコースによって媒介される細胞内cAMPレベルの増加が、グルコースによって刺激される陰イオン分泌の媒介において役割を果たすことを示す。[cAMP]
iの増加は、絨毛細胞において観察されるが、腺窩細胞には観察されない;このことは、グルコース輸送機構が、完全に成熟した分化した絨毛上皮細胞においてのみ必要とされることを示す。
【0119】
グルコース代謝が細胞内cAMPレベルに対する効果を有するか否かを決定するため、回腸からの粘膜擦過標本を、3-OMGと共に45分間プレインキュベートし、次いで、細胞内cAMPレベルを測定するために細胞溶解物を使用する。
【0120】
グルコースと類似して、0.6mMおよび6mMの濃度の3-OMGとの絨毛細胞のインキュベーションは、細胞内cAMPレベルの有意な増加をもたらす(
図3C)。6mMの3-OMGとの絨毛細胞のインキュベーションは、6mMグルコースのものと比較した時、有意に高い細胞内cAMPレベルをもたらす(P<0.01)(
図3C)。結果は、観察された細胞内cAMPレベルの増加が、小腸組織におけるグルコース代謝によって引き起こされたのではないことを示す。
【0121】
実施例11−Caco2細胞株における細胞内Ca
2+に対するグルコースの効果
PKA阻害剤(H-89)は、cAMPによって刺激される陰イオン分泌およびSGLT1によって媒介されるグルコース輸送の両方を阻害する。H-89非感受性I
scの存在(
図1AおよびB)は、PKA非依存性の機序も、グルコースによって誘導される分泌に寄与することを示す。cAMPと同様に、細胞内Ca
2+も、陰イオン分泌に関与する主要な細胞内セカンドメッセンジャーのうちの一つである。
【0122】
グルコースによって刺激されるI
scの増加における細胞内Ca
2+の役割を決定するため、細胞内Ca
2+レベルを、異なる濃度のグルコースおよび3-OMGのそれぞれの存在下で、細胞内カルシウム特異的なキレート剤BAPTA-AM(1,2-ビス(o-アミノフェノキシ)エタン-N,N,N',N'-四酢酸)の存在下で測定する。Ca
2+指示薬fluo 8が負荷された培養Caco2細胞におけるグルコースおよび3-OMGに対するCa
2+応答を、レーザー走査共焦点顕微鏡法によってモニタリングする。バス培地への0.6mMグルコースの添加は、細胞内Ca
2+変動を開始させる(
図4B)。変動の振幅は時間と共に減少する。0.6mMグルコースによるカルシウム蛍光(F/Fo)の平均ピーク振幅は、1.32±0.1(n=10)と計算される。
【0123】
0.6mM 3-OMGグルコースが、類似したCa
2+変動(1.2±0.1)(n=10)を誘導するため、グルコースによって誘導されるCa
2+変動は、グルコースの細胞内代謝と無関係である(
図4A)。グルコースによって刺激されるCa
2+変動は、細胞を細胞内Ca
2+キレート剤BAPTA-AMと共に45分間プレインキュベートすることによって消失する(1.01±0.1)(n=10)(
図4A)。
【0124】
グルコース濃度の増加が、Ca
2+変動の振幅を増加させるか否かを決定するため、グルコースをより高い濃度(6mM)で添加する。Ca
2+変動は、槽培地への6mMのグルコース(1.85±0.2対1.32±0.1)または3-OMG(1.5±0.1対1.2±0.2)の添加によって、0.6mMグルコースまたは3-OMGのものと比較した時、有意に高くなる(
図4A)。グルコースによって刺激されるCa
2+変動の増加は、細胞をBAPTA-AMと共にプレインキュベートすることによって完全に消失する(
図4A)。これは、細胞内Ca
2+が、グルコースによって誘導される陰イオン分泌に関与していることを示す。
【0125】
実施例12−下痢の処置のための治療用組成物
ある種の態様において、本実施例は、ロタウイルスによって誘導された下痢のような下痢を処置するための製剤を提供する。一つの態様において、製剤は、グルコース、グルコース類似体、グルコーストランスポーターの基質、または糖分子を含まない。
【0126】
本明細書において引用された刊行物、特許出願、および特許を含む参照は、全て、各参照が、参照によって組み入れられると個々に具体的に示され、その全体が本明細書に示されたのと同程度に、参照によって本明細書に組み入れられる。
【0127】
「a」および「an」および「the」という用語、ならびに類似した指示対象は、本発明の記載に関して使用されるように、本明細書中に特記されるかまたは前後関係によって明白に否定されない限り、単数および複数の両方を包含するものと解釈されるべきである。
【0128】
本明細書における値の範囲の記述は、本明細書中に特記されない限り、その範囲内にある別々の各値を個々にさす速記法として役立つためのものに過ぎず、別々の各値が、本明細書中に個々に記述されたかのごとく、本明細書に組み入れられる。特記されない限り、本明細書に提供される正確な値は、全て、対応する近似の値を代表するものである(例えば、特定の因子または測定に関して提供された正確な例示的な値は、全て、適宜「約」によって修飾された、対応する近似の測定も提供すると見なすことができる)。
【0129】
本明細書に提供された全ての例または例示的な語(例えば、「のような」)の使用は、本発明をよりよく教示するためのものに過ぎず、特記されない限り、本発明の範囲を限定しない。本明細書中のいかなる語も、明示されない限り、何らかの要素が本発明の実施にとって必須であることを示すものと解釈されるべきでない。
【0130】
要素に関して「含む(comprising)」、「有する(having)」、「含む(including)」、または「含有する(containing)」のような用語を使用した本発明の局面または態様の本明細書中の説明は、特記されるかまたは前後関係によって明白に否定されない限り、その特定の要素「からなる(consist of)」、「から本質的になる(consist essentially of)」、または「を実質的に含む(substantially comprise)」本発明の類似した局面または態様のための支持を提供するためのものである(例えば、特定の要素を含むと本明細書に記載された組成物は、特記されるかまたは前後関係によって明白に否定されない限り、その要素からなる組成物も意味するものと理解されるべきである)。
【0131】
本明細書に記載された例および態様は、例示を目的とするものに過ぎず、それらを考慮すれば、様々な修飾または変化が当業者に示唆されるであろうこと、そしてそれらが本願の本旨および範囲に含まれることが理解されるべきである。
【0132】
参照