(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6084247
(24)【登録日】2017年2月3日
(45)【発行日】2017年2月22日
(54)【発明の名称】球状ポリ乳酸微粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 3/12 20060101AFI20170213BHJP
A61K 8/85 20060101ALI20170213BHJP
【FI】
C08J3/12 ZCFD
C08J3/12ZBP
A61K8/85
【請求項の数】3
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2015-45281(P2015-45281)
(22)【出願日】2015年3月6日
(65)【公開番号】特開2016-164240(P2016-164240A)
(43)【公開日】2016年9月8日
【審査請求日】2016年4月7日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000100698
【氏名又は名称】アイカ工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】池田 和久
(72)【発明者】
【氏名】植田 正博
(72)【発明者】
【氏名】井上 久美子
(72)【発明者】
【氏名】岩井 謙虎
【審査官】
平井 裕彰
(56)【参考文献】
【文献】
特開2003−277595(JP,A)
【文献】
特開2002−017848(JP,A)
【文献】
国際公開第2012/105140(WO,A1)
【文献】
2003年度傾斜機能材料論文集, (社)未踏科学技術協会 傾斜機能材料研究会, p.87-92
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J3/00〜3/28
A61K8/00〜8/99
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
CAplus(STN)
Japio−GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
D体の含有率が10%以上であるポリ乳酸を酢酸エチルに溶解させたポリ乳酸溶液と、けん化度が68〜85%であるポリビニルアルコール水溶液とを混合して攪拌することによって液滴を形成する工程と、液滴から溶媒および水を除去してポリ乳酸粒子を得る工程と、を含み、液滴を形成する工程において、ポリ乳酸溶液とポリビニルアルコール水溶液の混合比が重量を基準として100:10〜100:40であり、該ポリ乳酸溶液の濃度が酢酸エチル溶媒で20重量%以下であり、該ポリビニルアルコール水溶液の濃度が1〜20重量%である、ことを特徴とするスキンケア用途の略球状ポリ乳酸微粒子の製造方法。
【請求項2】
前記液滴から溶媒および水を除去してポリ乳酸微粒子を得る工程が、減圧によって液滴から溶媒を除去してポリ乳酸微粒子水分散液を得る第一の工程と、ポリ乳酸微粒子水分散液から水を除去してポリ乳酸微粒子を得る第二の工程と、を含むことを特徴とする請求項1に記載したスキンケア用途の略球状ポリ乳酸微粒子の製造方法。
【請求項3】
得られたポリ乳酸微粒子が略球状であることを特徴とする請求項1または2いずれかに記載したスキンケア用途の略球状ポリ乳酸微粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリ乳酸から球状ポリ乳酸微粒子を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
メチルメタクリレート、スチレン、ナイロン、ウレタンなどを原料して合成され、ナノやマイクロオーダーの粒子径を有する有機微粒子は、伸展性や光拡散性を利用して化粧料用添加剤や、洗顔剤、ボディソープなどのスクラブ剤としてスキンケア用途に用いられるようになっている。
【0003】
化粧料や洗顔剤、ボディソープなどのスキンケア用途においては、使用後に洗浄されて排水として環境中に放出されることが想定される。そこで、近年では有機微粒子が環境中の微生物の作用によって分解される生分解性を有していることが求められるようになっている。
【0004】
生分解性樹脂としては、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリヒドロキシアルカノエートなどが知られている。一方、通常これらの樹脂はペレット形状にて取扱われており、スキンケア用途で前記機能を発現するためには球状微粒子形状に加工する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
特許文献1には、平均粒径3〜50μmの生分解性ポリエステル粒子を含有する化粧料が開示されている。しかしながら、具体的に開示されているのはポリヒドロキシアルカノエート粒子であり、より汎用的な生分解性樹脂であるポリ乳酸への適用は検討されていない。
特許文献2には、平均粒径30〜500μmの生分解性プラスチック粉体を含有する身体用洗浄剤組成物が開示されている。しかしながら、当該粉体は粉砕により得られるものであるため球状ではなく、伸展性や触感の点で改善の余地がある。
特許文献3には、生分解性ポリエステル樹脂微粒子の製造方法が開示されているが、2軸押出機を用いた溶融混練が必要となるため、特別な設備を必要とし、工程が煩雑となる点で改善の余地がある。
【特許文献1】特開平5-194141号公報
【特許文献2】特開平10-25239号公報
【特許文献3】特開2002-363291号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、化粧料や洗顔剤、ボディソープなどのスキンケア用途に適した球状ポリ乳酸微粒子を製造する簡便な方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明はD体の含有率が10%以上であるポリ乳酸を酢酸エチルに溶解させたポリ乳酸溶液と、けん化度が68〜85%であるポリビニルアルコール水溶液とを混合して攪拌することによって液滴を形成する工程と、液滴から溶媒および水を除去してポリ乳酸粒子を得る工程と、を含むことを特徴とし、ポリ乳酸溶液とポリビニルアルコール水溶液の好ましい混合比が重量を基準として100:10〜100:40であ
り、該ポリ乳酸溶液の濃度が酢酸エチル溶媒で20重量%以下であり、該ポリビニルアルコール水溶液の濃度が1〜20重量%である、スキンケア用途の
略球状ポリ乳酸微粒子の製造方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の製造方法により、化粧料や洗顔剤、ボディソープなどのスキンケア用途に適した球状ポリ乳酸微粒子が簡便に得られる。特に、特別な設備を必要とせず、副生成物の量が少なく、取り扱いが容易な点において優れる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本願発明のポリ乳酸微粒子の製造方法は、D体の含有率が10%以上であるポリ乳酸を溶媒に溶解させたポリ乳酸溶液と、けん化度が68〜85%であるポリビニルアルコール水溶液とを混合して攪拌することによって液滴を形成する工程(液的形成工程)と、液滴から溶媒および水を除去してポリ乳酸粒子を得る工程(取り出し工程)とを含む。
【0010】
液滴形成工程では、D体の含有率が10%以上であるポリ乳酸を溶媒に溶解させたポリ乳酸溶液を用いる。D体の含有率が10%未満であるポリ乳酸は、溶媒への溶解性が劣るため好ましくない。溶媒としては、ポリ乳酸を溶解できるものであれば特に限定なく使用できるが、ポリ乳酸の溶解度が小さいと収率が低下するため、溶解度が大きいものが好ましい。また、取り出し工程において溶媒および水を除去する際、水よりも優先的に溶媒を除去する必要があるため、水より沸点が低いことが好ましい。水よりも沸点が低いことにより、減圧によって容易に水より優先的に除去することができる。このような条件を満たす溶媒としては、酢酸エチルが好ましい。
ポリ乳酸溶液の濃度は、ポリ乳酸が溶解可能な濃度であれば特に限定されない。溶媒が酢酸エチルの場合であれば、20重量%程度までは調製可能である。
【0011】
ポリビニルアルコール水溶液は、けん化度が68〜85%であるポリビニルアルコールを用いて調製する。けん化度が85%を超えるポリビニルアルコールのみを用いた場合、取り出し工程において、粒子が不安定となり凝集しやすくなるため好ましくないが、けん化度が68〜85%であるポリビニルアルコールと併用することは可能である。ポリビニルアルコール水溶液の濃度を1〜20重量%とすることが好ましい。この範囲とすることにより液滴が形成されやすくなり、液滴径の調整も容易となる。
【0012】
前記のように調製したポリ乳酸溶液とポリビニルアルコール水溶液とを混合して攪拌することによって液滴を形成する。両者を静置状態で混合すると混和せずに分離して2層となるが、撹拌羽根などでせん断力をかけて攪拌することにより、ポリビニルアルコール水溶液中にポリ乳酸溶液が乳化分散した液滴が形成される。液滴径はせん断力が強い程、また攪拌時間が長い程小さくなるため、攪拌手段の選択、攪拌の回転数、攪拌時間を適宜調整することにより、所望の径を有する液滴を形成できる。
【0013】
ポリ乳酸溶液とポリビニルアルコール水溶液の混合比は、重量を基準として100:10〜100:40とすることが好ましい。この範囲とすることにより液滴が形成されやすくなり、液滴径の調整も容易となる。
【0014】
取り出し工程では、液滴から溶媒および水を除去してポリ乳酸粒子を得る。先に溶媒を除去する必要があるが、この際に水の一部が除去されても構わない。水より沸点が低い溶媒であれば、例えば減圧することにより、水よりも先に除去できる。なお、液滴の粘度が高い場合、溶媒が除去されにくいため、必要に応じて水を添加して希釈してもよい。このような操作により、ポリ乳酸溶液の液滴から溶媒のみが除去されてポリ乳酸微粒子となるため、ポリ乳酸微粒子水分散液が得られる。
【0015】
ポリ乳酸微粒子水分散液から水分を除去することにより、ポリ乳酸微粒子が得られる。水分の除去はろ過、遠心脱水、減圧乾燥など公知の方法で行われ、ポリビニルアルコールを除くための洗浄を併せて行うことが好ましい。このようにして得られたポリ乳酸微粒子は二次凝集体や、粗大粒子が含まれることがあるため、必要に応じてハンマーミルなどを用いた粉砕や、篩、空気分級による精製を行ってもよい。
【0016】
このようにして得られたポリ乳酸微粒子は粒子径が3〜20μm程度の略球状であるため、有機微粒子が使用されている各種用途に使用できる。特に、化粧料や洗顔剤、ボディソープなどのスキンケア用途においては、従来の有機微粒子と同様に使用でき、使用後に洗浄されて排水として環境中に放出されても生分解性を有することから環境への負荷が小さい。
【0017】
以下、本発明について実施例、比較例を挙げてより詳細に説明するが、具体例を示すものであって、特にこれらに限定するものではない。
【実施例】
【0018】
実施例1
D体の含有量が12%であるペレット状ポリ乳酸120重量部を、酢酸エチル480重量部に添加し、攪拌することによりポリ乳酸溶液を調製した。けん化度が78〜81.5%であるポリビニルアルコール(クラレ社製、PVA 420H、商品名)4重量部を水116重量部に分散し、常温で撹拌することにより、ポリビニルアルコール水溶液を調製した。
前記ポリ乳酸溶液600重量部および前記ポリビニルアルコール水溶液120重量部を混合し、碇型撹拌羽根を用いてせん断力をかけて攪拌することによって混合液が白濁し、液滴が形成されたことを確認した。
得られた液滴に水を540部添加し系を希釈したのち、45℃、3Torrで3時間減圧濃縮することによって酢酸エチルを除去し、ポリ乳酸微粒子水分散液を得た。
得られたポリ乳酸微粒子水分散液を遠心脱水機および真空乾燥機にかけて水を除去することにより、平均粒子径が6.5μmである略球状のポリ乳酸微粒子を得た。
【0019】
実施例2
実施例1において、ポリビニルアルコール水溶液として、けん化度が80〜83%であるポリビニルアルコール(クラレ社製、PVA 405、商品名)6.5重量部を水123.5重量部に溶解させたものを用いた他は実施例1と同様に実施し、平均粒子径が5.3μmである略球状のポリ乳酸微粒子を得た。
【0020】
実施例3
実施例1において、ポリビニルアルコール水溶液として、PVA 420Hを1.5重量部と、けん化度が87〜89%であるポリビニルアルコール(クラレ社製、PVA 224、商品名)2.3重量部を水116.2重量部に溶解させたものを用いた他は実施例1と同様に実施し、平均粒子径が6.2μmである略球状のポリ乳酸微粒子を得た。
【0021】
比較例1
D体の含有量が4.2%であるペレット状ポリ乳酸120重量部を、酢酸エチル480重量部に添加し、攪拌した。しかし、ポリ乳酸はほとんど溶解せず、ポリ乳酸溶液を調製できなかった。
【0022】
比較例2
D体の含有量が9.8%であるペレット状ポリ乳酸120重量部を、酢酸エチル480重量部に添加し、攪拌した。しかし、ポリ乳酸はほとんど溶解せず、ポリ乳酸溶液を調製できなかった。
【0023】
比較例3
D体の含有量が12%であるペレット状ポリ乳酸120重量部を、酢酸ブチル480重量部に添加し、攪拌した。しかし、ポリ乳酸はほとんど溶解せず、ポリ乳酸溶液を調製できなかった。
【0024】
比較例4
実施例1において、ポリビニルアルコール水溶液として、PVA 224 5.3重量部を水99.7重量部に溶解させたものを用いた他は実施例1と同様に実施した。しかし、液滴形成後の減圧濃縮の際にゲル化してしまい、ポリ乳酸微粒子を得ることはできなかった。
【0025】
比較例5
実施例1において、ポリビニルアルコール水溶液として、PVA 224 4.5重量部を水115.5重量部に溶解させたものを用いた他は実施例1と同様に実施した。しかし、液滴形成後の減圧濃縮の際にゲル化してしまい、ポリ乳酸微粒子を得ることはできなかった。
【0026】
比較例6
実施例1において、ポリビニルアルコール水溶液として、けん化度が86.5〜89%であるポリビニルアルコール(クラレ社製、PVA 205、商品名)5.3重量部を水84.7重量部に溶解させたものを用いた他は実施例1と同様に実施した。しかし、液滴形成後の減圧濃縮の際にゲル化してしまい、ポリ乳酸微粒子を得ることはできなかった。
【0027】
比較例7
実施例1において、ポリビニルアルコール水溶液に代えて、水溶性セルロースエーテル(信越化学工業社製、メトローズ 90SH、商品名)5重量部を水140重量部に溶解させたものを用いた他は実施例1と同様に実施した。しかし、液滴形成工程において、安定な液滴を形成することができなかった。
【0028】
以上のように、本願発明の所定事項を満たす各実施例では数μmの粒子径を有する略球状のポリ乳酸微粒子が得られたが、各比較例では工程中に不具合が生じてしまい、ポリ乳酸微粒子を得られなかった。