(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記グレー色調層中に含有される炭素量がTi、金属M2および非金属元素の合計100atm%中30〜70atm%であることを特徴とする請求項1に記載の硬質装飾部材。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について具体的に説明する。
<硬質装飾部材>
本発明に係る硬質装飾部材は、基材と、上記基材上に積層された硬質装飾被膜とを有し、該硬質装飾被膜は、グレー色調層を含むことを特徴とする。
【0010】
〔基材〕
本発明に用いる基材は、金属、セラミックスまたはプラスチックから形成される基材である。金属(合金を含む)として、具体的にはステンレス鋼、チタン、チタン合金、銅、銅合金、タングステン、または硬質化処理したステンレス鋼、チタン、チタン合金などが挙げられる。これらの金属は、1種単独でまたは2種以上組み合わせて用いることができる。また、上記基材の形状については限定されない。
【0011】
〔グレー色調層〕
本発明に用いるグレー色調層は、TiとNb、TaおよびVから選ばれる1種または2種以上の金属M2との合金と、少なくとも炭素を含む非金属元素との反応化合物を含む。非金属元素としては、炭素の他、酸素、窒素が挙げられるため、上記反応化合物とは、上記合金の炭化物、炭窒化物、酸炭化物または酸窒化炭化物が挙げられる。本発明においては、Tiと金属M2とは固溶条件があるため、Tiと金属M2とは、固溶条件領域においては金属の合金の化合物として、それ以外の領域では固溶金属と単金属との複合形態を呈していると考えられる。なお、本明細書の反応化合物には、上記複合形態も含める。また、合金の化合物であることは、具体的には、X線回折測定結果からも確認できる。Tiと金属M2との合金比率により化合物の回折ピークがシフトするため、形成されたTiと金属M2との化合物はそれぞれの比率に応じた合金の化合物になっていると確認できる。
【0012】
反応化合物においては、Ti−Nb、Ti−Ta、Ti−V、Ti−Nb−Ta、Ti−Nb−V、Ti−Ta−V、Ti−Nb−Ta−Vのように、TiとNb、TaおよびVから選ばれる1種または2種以上の金属M2とが組み合わされているため、硬度が高く、耐傷性および耐食性に優れたグレー色調層が得られる。より広範囲で深みのあるグレー色調が得られ、かつ高硬度の観点からは、Ti−Nbの組み合わせが好ましく、より高い耐食性が得られる観点からは、Ti−Taの組み合わせが好ましく、より高い耐食性、膜硬度、および広範囲で深みのあるグレー色調が得られる観点からは、Ti−Nb−Taの組み合わせが好ましい。
【0013】
グレー色調層全体すなわちグレー色調層を構成する反応化合物全量において、Tiおよび金属M2の合計を100質量%としたとき、Tiの量は好ましくは20〜90質量%、より好ましくは30〜90質量%であり、金属M2の量は好ましくは10〜80質量%、より好ましくは10〜70質量%である。なお、金属M2の量は、金属M2を複数用いるときは、該複数の金属M2の合計の量である。Tiおよび金属M2の量が上記範囲にあると、より深みのあるグレー色調が得られ、かつ、より高い硬度が得られる。反応化合物における金属の量は、ESCA(X線光電子分光法)またはEPMA(電子プローブマイクロアナライザー)により求めることができる。
【0014】
また、グレー色調層全体すなわちグレー色調層を構成する反応化合物全量において、Tiおよび金属M2の合計100質量%に対して、上記金属以外であるCr、B、Al、Si、Mn、Co、La、Ce、Y、Scなどの金属M3を合計で0質量%を超え5質量%以下の量で含んでいてもよい。耐食性向上の観点からCrを添加することが好ましい。しかしながら、金属M3を含まず、Tiおよび金属M2のみを含む方が、深みのあるグレー色調層を得る条件が広範囲になり好ましい。
【0015】
なお、反応化合物中における金属原子の種類およびその量は、反応化合物を生成するための原料合金中の金属原子の種類およびその量と同じであると考える。
反応化合物においては、非金属元素としては炭素のみを用いることがより深みのあるグレー色調が得られるため好ましい。硬度を高くコントロールするために炭素とともに窒素を組み合わせたり、基材との密着性向上、またはより暗めのグレー色調を得たい場合においては炭素とともに酸素を組み合わせたりすることも好ましい。
【0016】
グレー色調層全体すなわちグレー色調層を構成する反応化合物全量において、非金属元素の量は好ましくは30〜70atm%、より好ましくは40〜70atm%であり、Tiおよび金属M2の合計量は好ましくは30〜70atm%、より好ましくは30〜60atm%である(ここで、非金属元素、Tiおよび金属M2の合計量を100atm%とする。)。なお、非金属元素の量は、非金属元素として炭素のみを用いるときは炭素の量であり、非金属元素として炭素とともに窒素や酸素を用いるときは、これら非金属元素の合計の量である。また、非金属元素として炭素とともに窒素または酸素を用いるときは、炭素の量は好ましくは30〜70atm%、より好ましくは40〜70atm%であり、窒素および酸素の量は好ましくは0〜20atm%、より好ましくは0〜10atm%であり、Tiおよび金属M2の合計量は好ましくは30〜70atm%、より好ましくは30〜60atm%である。非金属元素、Tiおよび金属M2の量が上記範囲にあると、窒素の場合はより高い硬度が得られ、酸素の場合は密着性の向上、またはより暗めのグレー色調を得る事ができる。反応化合物における非金属元素および金属の量は、ESCA(X線光電子分光法)またはEPMA(電子プローブマイクロアナライザー)により求めることができる。
【0017】
また、グレー色調層では、非金属元素の量が基材から離れるにしたがって増加しており、Tiおよび金属M2の合計量が基材から離れるにしたがって減少していてもよい。本明細書において、このようなグレー色調層をグレー色調傾斜層ともいう。なお、非金属元素の量の増加およびTiおよび金属M2の合計量の減少は、直線的または曲線的のように連続的であってもよく、また階段状のように不連続的、間欠的であってもよい。これにより、グレー色調層とその下の層、または基材との間に発生する応力歪みを緩和する事ができるため、基材との密着度が高くなり、クラックの発生や剥離が抑えられる利点があり、さらに傷が入っても目立ちにくいという効果にも寄与する。
【0018】
グレー色調傾斜層の場合は、グレー色調傾斜層中の基材側の表面においては、非金属元素の量は好ましくは0〜30аtm%であり、Tiおよび金属M2の合計量は好ましくは70〜100atm%である。また、グレー色調傾斜層中の基材と反対側の表面においては、非金属元素の量は好ましくは30〜70аtm%であり、Tiおよび金属M2の合計量は好ましくは30〜70atm%である(ここで、非金属元素、Tiおよび金属M2の合計量を100atm%とする。)。この場合は、基材との密着度が向上し、高い耐傷性が得られる。
この膜の厚さ方向に対する非金属元素および金属の量は、ESCA(X線光電子分光法)またはEPMA(電子プローブマイクロアナライザー)により求めることができる。グレー色調傾斜層における「表面での各元素の量」とは、通常、前記層の表面から厚さ方向(深さ方向)10nmまでの領域における各元素の量を意味する。
【0019】
グレー色調層の厚さは、好ましくは0.2μm以上、より好ましくは0.2〜4.0μmである。グレー色調層の厚さが上記範囲にあると、より深みのあるグレー色調とともに、高い硬度および耐傷性が得られる。なお、0.2μm以上であると、グレー色調層の下に形成される層の色の影響を受けにくい利点もある。
【0020】
グレー色調層の膜硬度は、耐傷性の観点から好ましくはHV1000以上、より好ましくはHV1500以上である。グレー色調層の硬度の上限は特に限定されないが、例えばHV3000である。
グレー色調層は、可視領域(360〜740nm)での反射率測定において、最大値と最小値との差が10%以下(0%以上10%以下)であり、Lab色空間表示において、L
*が60を超え73以下、a
*およびb
*がそれぞれ−2.0〜2.0、a
*とb
*との差(|a
*−b
*|)が1.5以下(0以上1.5以下)であることが好ましい。上記反射率の最大値、最小値、L
*、a
*およびb
*が上記条件を満たすと、深みのあるグレー色調であるといえる。従来のチタンカーバイドからなる硬質被膜を有する装飾部材は、黄色味がかったグレー色調または黒色に近い暗いグレー色調であるため、耐傷性は高く維持されており、かつ深みのあるグレー色調を有する装飾部材が望まれていた。本発明のグレー色調層によれば、このような要求を満足できる。特に、非金属元素として炭素のみを用いており、反応化合物において炭素の量が30〜70atm%であると、上記反射率の最大値、最小値、L
*、a
*およびb
*が上記要件を満たすことができる。
ここで、グレー色調層の膜硬度、反射率の最大値、最小値、L
*、a
*およびb
*は、基材(たとえばSUS316L材)上に形成したグレー色調層について測定した値をいう。
【0021】
〔密着層〕
本発明の硬質装飾部材は、上記硬質装飾被膜として密着層をさらに含んでいてもよい。密着層は基材とグレー色調層との間に積層される。耐傷性能はおおよそ被膜の厚さ、被膜の密着度および被膜の硬度の積により決まる。密着層を設けると、基材と密着層の上に形成される層との密着度が高まり、厚い被膜の形成も可能となるため、結果として硬質装飾部材の耐傷性の向上に寄与できる。
【0022】
上記密着層としては、Si被膜、Ti被膜、Al皮膜、Mg皮膜、TiとNb、Ta、Vから選ばれる1種または2種以上の金属M2との合金被膜、TiとNb、Ta、Vから選ばれる1種または2種以上の金属M2との合金の低級酸化物膜が挙げられ、基材材質との相性および被膜の使用環境によって選択される。低級酸化物膜を用いると、酸素の2つの手による架橋効果により、基材と密着層の上に形成される層との密着度を高めることができる。また、密着層の上に形成される層を構成する金属と同じ金属を含む密着層は、高い密着度が得られることや製造しやすい点からも好ましい。
【0023】
密着層がTiと金属M2との合金被膜またはTiと金属M2との合金の低級酸化物膜の場合は、Tiおよび金属M2の合計を100質量%としたとき、Tiの量は好ましくは20〜90質量%、より好ましくは30〜90質量%であり、金属M2の量は好ましくは10〜80質量%、より好ましくは10〜70質量%である。なお、金属M2の量は、金属M2を複数用いるときは、該複数の金属M2の合計の量である。反応化合物における金属の量は、ESCA(X線光電子分光法)またはEPMA(電子プローブマイクロアナライザー)により求めることができる。
【0024】
上記密着層は、上記金属(すなわち、Ti被膜のときはTi;Tiと金属M2との合金被膜またはTiと金属M2との合金の低級酸化物膜のときはTiおよび金属M2の合計)100質量%に対して、上記金属以外であるCr、B、Al、Si、Mn、Co、La、Ce、Y、Scなどの金属M3を合計で0質量%を超え5質量%以下の量で含んでいてもよい。耐食性向上の観点からはCrを添加することが好ましい。
【0025】
なお、上記合金の低級酸化物膜は、微量の窒素、炭素を含んでいても構わない。
上記合金の低級酸化物膜中の酸素含有量は、好ましくは5〜60atm%、より好ましくは5〜45atm%であり、Tiおよび金属M2の合計量は好ましくは40〜95atm%、より好ましくは55〜95atm%である(ここで、酸素、Tiおよび金属M2の合計量を100atm%とする。)。酸素含有量が5atm%未満では、密着性において合金金属膜との差異がみられにくく、60atm%を超えると密着性が低下し、耐傷性も低下する場合がある。反応化合物における非金属元素および金属の量は、ESCA(X線光電子分光法)またはEPMA(電子プローブマイクロアナライザー)により求めることができる。
【0026】
密着層の厚みは0.03〜0.3μmである。0.03μm以上であると密着性向上の効果が得られ、0.3μmを超えると密着性向上の効果に変化が見られない場合が多い。
【0027】
〔硬化層〕
本発明の硬質装飾部材は、上記硬質装飾被膜として硬化層をさらに含んでいてもよい。硬化層は基材とグレー色調層との間に積層され、硬化層はグレー色調層よりも高い硬度を有する。耐傷性能はおおよそ被膜の厚さ、被膜の密着度および被膜の硬度の積により決まる。硬化層を設けると、被膜全体の硬度が高まり、厚い被膜の形成も可能となるため、結果として硬質装飾部材の耐傷性の向上に寄与できる。
【0028】
上記硬化層としては、グレー色調層よりも高い硬度を有していれば特に限定されないが、具体的にはグレー色調層よりも高い硬度(通常グレー色調層よりも高く、かつHV2000以上の硬度)を有しており、TiとNb、TaおよびVから選ばれる1種または2種以上の金属M2との合金と、炭素および窒素から選ばれる1種または2種の非金属元素との反応化合物からなる層が挙げられ、外観色および被膜の使用環境によって選択される。また、硬化層の上に形成される層を構成する金属と同じ金属を含む硬化層は、高い密着度が得られることや製造しやすいことからも好ましい。
【0029】
反応化合物においては、Ti−Nb、Ti−Ta、Ti−V、Ti−Nb−Ta、Ti−Nb−V、Ti−Ta−V、Ti−Nb−Ta−Vのように、TiとNb、TaおよびVから選ばれる1種または2種以上の金属M2とが組み合わされているため、高い硬度が得られる。
【0030】
反応化合物において、Tiおよび金属M2の合計を100質量%としたとき、Tiの量は好ましくは20〜90質量%、より好ましくは30〜90質量%であり、金属M2の量は好ましくは10〜80質量%、より好ましくは10〜70質量%である。なお、金属M2の量は、金属M2を複数用いるときは、該複数の金属M2の合計の量である。Tiおよび金属M2の量が上記範囲にあると、より高い硬度が得られ、より深みのあるグレー色調が得られる。反応化合物における金属の量は、ESCA(X線光電子分光法)またはEPMA(電子プローブマイクロアナライザー)により求めることができる。
【0031】
また、上記硬化層は、Tiおよび金属M2の合計100質量%に対して、上記金属以外であるCr、B、Al、Si、Mn、Co、La、Ce、Y、Scなどの金属M3を合計で0質量%を超え5質量%以下の量で含んでいてもよい。耐食性向上の観点からCrを添加することが好ましい。
【0032】
なお、反応化合物中における金属原子の種類およびその量は、反応化合物を生成するための原料合金中の金属原子の種類およびその量と同じであると考える。
反応化合物においては、非金属元素として炭素および窒素を用いると、硬度を高くコントロールできるため好ましい。
【0033】
硬化層すなわち反応化合物において、非金属元素の量は好ましくは10〜70atm%、より好ましくは20〜60atm%であり、Tiおよび金属M2の合計量は好ましくは30〜90atm%、より好ましくは40〜80atm%である(ここで、非金属元素、Tiおよび金属M2の合計量を100atm%とする。)。なお、非金属元素の量は、非金属元素として炭素または窒素のみを用いるときは、炭素または窒素の量であり、非金属元素として炭素とともに窒素を用いるときは、これら非金属元素の合計の量である。また、非金属元素として炭素とともに窒素を用いるときは、炭素の量は好ましくは10〜70atm%、より好ましくは20〜70atm%であり、窒素の量は好ましくは0〜20atm%、より好ましくは0〜10atm%であり、Tiおよび金属M2の合計量は好ましくは30〜90atm%、より好ましくは30〜80atm%である。非金属元素、Tiおよび金属M2の量が上記範囲にあると、より高い硬度が得られる。反応化合物における非金属元素および金属の量は、ESCA(X線光電子分光法)またはEPMA(電子プローブマイクロアナライザー)により求めることができる。
【0034】
硬化層の厚さは、0.4〜4.0μmであることが好ましい。厚さが0.4μm未満であると、十分な硬度が得られない場合がある。耐傷性の観点からは、膜厚はできるだけ大きくすることが望ましいが、厚さが4.0μmを超えると、膜応力の上昇によるクラック発生や剥離の危険性が高くなり、またコストの面からも不利となる場合がある。
【0035】
また、硬化層の膜硬度は、グレー色調層よりも高ければよいが、耐傷性の観点から硬度HVは好ましくは2000以上である。硬化層の膜硬度の上限は特に限定されないが、例えばHV3000である。グレー色調層とともに硬化層を設ける場合は、硬化層の膜硬度が、グレー色調層の膜硬度よりも高くなるように設計する。なお、硬化層の膜硬度をグレー色調層よりも高くするためには、たとえば、硬化層を形成する非金属元素、Tiおよび金属M2の種類や割合を上述した好ましい範囲の中で適宜変えることで調整可能である。ここで、硬化層の膜硬度またはグレー色調層の膜硬度は、基材(たとえばSUS316L材)上に形成した硬化層またはグレー色調層について測定した値をいう。
【0036】
〔傾斜密着層〕
本発明の硬質装飾部材は、上記硬質装飾被膜として傾斜密着層をさらに含んでいてもよい。傾斜密着層は基材とグレー色調層との間に積層される。耐傷性能はおおよそ被膜の厚さ、被膜の密着度および被膜の硬度の積により決まる。傾斜密着層を設けると、基材との間に発生する応力歪みを緩和する事ができ、また基材との密着度が高くなりクラックの発生や剥離が抑えられるため、結果として硬質装飾部材の耐傷性の向上に寄与できる。
【0037】
上記傾斜密着層は、TiとNb、TaおよびVから選ばれる1種または2種以上の金属M2との合金と、炭素および窒素から選ばれる1種または2種の非金属元素との反応化合物からなり、傾斜密着層中の非金属元素量は、基材から離れるにしたがって増加している。なお、非金属元素として、炭素または窒素とともに酸素をさらに用いることも好ましい。また、傾斜密着層の上に形成される層を構成する金属と同じ金属を含む傾斜密着層は、高い密着度が得られることや製造しやすいことからも好ましい。
【0038】
反応化合物においては、Ti−Nb、Ti−Ta、Ti−V、Ti−Nb−Ta、Ti−Nb−V、Ti−Ta−V、Ti−Nb−Ta−Vのように、TiとNb、TaおよびVから選ばれる1種または2種以上の金属M2とが組み合わされているため、高い硬度および高い密着度が得られる。
【0039】
傾斜密着層全体すなわち傾斜密着層を構成する反応化合物全量において、Tiおよび金属M2の合計を100質量%としたとき、Tiの量は好ましくは20〜90質量%、より好ましくは30〜90質量%であり、金属M2の量は好ましくは10〜80質量%、より好ましくは10〜70質量%である。なお、金属M2の量は、金属M2を複数用いるときは、該複数の金属M2の合計の量である。反応化合物における金属の量は、ESCA(X線光電子分光法)またはEPMA(電子プローブマイクロアナライザー)により求めることができる。
【0040】
また、傾斜密着層全体すなわち傾斜密着層を構成する反応化合物全量において、Tiおよび金属M2の合計100質量%に対して、上記金属以外であるCr、B、Al、Si、Mn、Co、La、Ce、Y、Scなどの金属M3を合計で0質量%を超え5質量%以下の量で含んでいてもよい。耐食性向上の観点からCrを添加することが好ましい。
【0041】
なお、反応化合物中における金属原子の種類およびその量は、反応化合物を生成するための原料合金中の金属原子の種類およびその量と同じであると考える。
傾斜密着層全体すなわち傾斜密着層を構成する反応化合物全量において、非金属元素の量は好ましくは0atm%を超えて70atm%以下であり、硬化層に導入する非金属元素の量によって調整される。Tiおよび金属M2の合計量は好ましくは30atm%以上100atm%未満であることが望ましく、硬化層に導入する非金属元素の量によって決まる(ここで、非金属元素、Tiおよび金属M2の合計量を100atm%とする。)。なお、非金属元素の量は、非金属元素として炭素または窒素のみを用いるときは、炭素または窒素の量であり、非金属元素として炭素または窒素とともに酸素を用いるときは、これら非金属元素の合計の量である。また、非金属元素として炭素とともに窒素を用いるときは、炭素の量は好ましくは0atm%を超えて60atm%以下であり、窒素の量は好ましくは0atm%を超えて10atm%以下であり、Tiおよび金属M2の合計量は好ましくは30atm%以上100atm%未満である。非金属元素、Tiおよび金属M2の量が上記範囲にあると、より高い密着度が得られる。反応化合物における非金属元素および金属の量は、ESCA(X線光電子分光法)またはEPMA(電子プローブマイクロアナライザー)により求めることができる。
【0042】
また、傾斜密着層では、非金属元素の量が基材から離れるにしたがって増加しており、Tiおよび金属M2の合計量が基材から離れるにしたがって減少している。なお、非金属元素の量の増加およびTiおよび金属M2の合計量の減少は、直線的または曲線的のように連続的であってもよく、また階段状のように不連続的、間欠的であってもよい。
【0043】
傾斜密着層中の基材側の表面においては、非金属元素の量は好ましくは0аtm%を超え30аtm%以下であり、Tiおよび金属M2の合計量は好ましくは70аtm%以上100аtm%未満である。また、傾斜密着層中の基材と反対側の表面においては、非金属元素の量は好ましくは30〜70аtm%であり、Tiおよび金属M2の合計量は好ましくは70〜30atm%である(ここで、非金属元素、Tiおよび金属M2の合計量を100atm%とする。)。この場合は、膜応力による歪みをさらにコントロールできるため、結果として硬質装飾部材の耐傷性の向上に寄与できる。
この膜の厚さ方向に対する非金属元素および金属の量は、ESCA(X線光電子分光法)またはEPMA(電子プローブマイクロアナライザー)により求めることができる。傾斜密着層における「表面での各元素の量」とは、通常、前記層の表面から厚さ方向(深さ方向)10nmまでの領域における各元素の量を意味する。
【0044】
0.05μm以上であると応力緩和層としての効果がある。応力緩和層として厚さを0.5μm以上形成しても応力緩和層としての効果に変わりは無いが製造上のコスト面からみて不利に働くことから、傾斜密着層の厚さは、0.05〜0.5μmであることが好ましい。
【0045】
〔防汚コート層〕
本発明の硬質装飾部材は、上記硬質装飾被膜上に汚れを防止するための防汚コート層がさらに積層されていてもよい。
【0046】
防汚コート層は、フッ素変性基と反応性の官能基とを有したコーティング剤を装飾部材上に塗布する事により形成され、装飾部材の最表面がフッ素基(CF3、CF2、CF)によって終端する。これにより、装飾部材表面の表面自由エネルギーが低下し、指紋や汚れの付着が低減され、また付着した汚れの拭き取りが容易になる。
【0047】
防汚コート層の厚さは、0.003〜0.05μmであることが好ましい。厚さが0.003μm以下であると、防汚コート層が薄すぎて直ぐに磨耗して取れてしまう。また0.05μm以上の厚さになると、透明なフッ素コート剤による干渉効果により、グレー色調が損なわれてしまう。
【0048】
〔硬質装飾部材の態様〕
本発明の硬質装飾部材としては、たとえば基材/グレー色調層(態様A)、基材/密着層/グレー色調層(態様B)、基材/硬化層/グレー色調層(態様C)、基材/傾斜密着層/グレー色調層(態様D)、基材/密着層/硬化層/グレー色調層(態様E)、基材/密着層/傾斜密着層/グレー色調層(態様F)、基材/傾斜密着層/硬化層/グレー色調層(態様G)、基材/密着層/傾斜密着層/硬化層/グレー色調層(態様H)などのように、基材上に上述した層が順に積層された硬質装飾被膜を有する態様が挙げられる。
【0049】
具体的には、
図1は、態様Aの硬質装飾部材10を示しているが、ここでは基材11上に、硬質装飾被膜としてグレー色調層15が積層されている。
図2は、態様Bの硬質装飾部材20を示しているが、ここでは基材21上に、硬質装飾被膜として密着層22およびグレー色調層25が積層されている。
【0050】
また、態様Hの硬質装飾部材は、硬質装飾被膜としてグレー色調層とともに密着層、傾斜密着層および硬化層をさらに含む。すなわち、この硬質装飾部材30は、
図3に示すように基材31上に、密着層32、傾斜密着層33、硬化層34およびグレー色調層35の順で積層されている。なお、密着層、傾斜密着層、硬化層およびグレー色調層の詳細(構成元素の種類、その割合、厚さ、硬度など)については上述したとおりであるが、傾斜密着層中、硬化層中およびグレー色調層中における非金属元素の量の関係については以下のとおりである。
【0051】
硬化層中の非金属元素の量(atm%)は、傾斜密着層中の硬化層側の表面36での炭素および窒素の合計量(atm%)と同じか、または当該量よりも大きいことが好ましい。この場合は、硬化層の硬度をより向上できるため、結果として硬質装飾部材の耐傷性の向上に寄与できる。硬化層中の非金属元素の量は、膜硬度、耐傷性の観点から、最大硬度を示す非金属元素量に調整することが好ましい。
【0052】
また、グレー色調層中の硬化層側の表面37での非金属元素の量(atm%)は、求められる明るさ、色調の度合いにより硬化層中の非金属元素の量(atm%)と同じか、または当該量よりも大きいことが好ましい。この場合は、色調の変化が緩やかになり傷が入っても目立ちにくい効果を与える。グレー色調層中の硬化層側の表面での非金属元素の量は、深みのあるグレー色調の観点から、具体的には、硬化層中の非金属元素の量よりも0〜40аtm%大きいことが好ましく、硬化層中の非金属元素の量と同じであることがより好ましい。
【0053】
このような態様Hは耐傷性に特に優れており好ましい。
さらに、本発明の硬質装飾部材としては、態様A〜Hにおいて、硬質装飾被膜上に防汚コート層がさらに積層された態様Iも挙げられる。
【0054】
上述した硬質装飾部材は、いずれの態様であっても、被膜硬度は通常HV1500以上、好ましくはHV1500〜3000であり、耐傷性に優れる。
また、上述した硬質装飾部材は、いずれの態様であっても、特にグレー色調層の厚さが0.2μm以上であり、グレー色調層が非金属元素として炭素のみを用いており、この量が30〜70atm%にあると、反射率測定において可視領域(360〜740nm)での最大値と最小値との差が10%以下(0%以上10%以下)となり、Lab色空間表示において、L
*が60を超え73以下、a
*およびb
*がそれぞれ−2.0〜2.0、a
*とb
*との差(|a
*−b
*|)が1.5以下(0以上1.5以下)となる。上記反射率の最大値、最小値、L
*、a
*およびb
*が上記条件を満たすと、深みのあるグレー色調であるといえる。従来のチタンカーバイドからなる硬質被膜を有する装飾部材は、黄色味がかったグレー色調または黒色に近い暗いグレー色調であるため、耐傷性は高く維持されており、かつ深みのあるグレー色調を有する装飾部材が望まれていた。本発明の硬質装飾部材によれば、このような要求を満足できる。
【0055】
<硬質装飾部材の製造方法>
本発明の硬質装飾部材の製造方法は、上述した硬質装飾部材の製造方法である。すなわち、基材と、基材上に積層された硬質装飾被膜とを有する硬質装飾部材の製造方法であって、硬質装飾被膜は、TiとNb、TaおよびVから選ばれる1種または2種以上の金属M2との合金と、少なくとも炭素を含む非金属元素との反応化合物からなるグレー色調層を含み、反応性スパッタリング法により、TiとNb、TaおよびVから選ばれる1種または2種以上の金属M2との合金ターゲットを使用して、基材上にグレー色調層を積層するグレー色調層積層工程を含む。
【0056】
スパッタリング法は、真空に排気されたチャンバー内に不活性ガスを導入しながら、基材と被膜の構成原子からなるターゲット間に直流または交流の高電圧を印加し、イオン化したArをターゲットに衝突させて、はじき飛ばされたターゲット物質を基材に形成させる方法である。反応性スパッタリング法では、不活性ガスとともに微量の反応ガスを導入し、ターゲット構成原子と反応ガスを構成する非金属元素との反応化合物被膜を基材上に形成させることができる。なお、ターゲット構成原子の種類およびその割合は、反応化合物中においても保たれると考えられる。
【0057】
グレー色調層積層工程では、ターゲット(原料金属)は、好ましくはTi、金属M2および必要に応じて用いられる金属M3とを組み合わせた合金、より具体的には上記金属の合金の焼結体である。上記焼結体において、Ti、金属M2、必要に応じて用いる金属M3の種類およびその割合は、上述のグレー色調層について説明したものと同じである。
【0058】
反応ガスとしては、メタンガス、アセチレンガス等の炭素原子含有ガス(ただし酸素原子を含まないガス)、窒素ガス、アンモニア等の窒素原子含有ガス、酸素ガス、二酸化炭素等の酸素原子含有ガスが挙げられる。不活性ガスとしては、Arガス、Krガス、Xeガスが挙げられる。
【0059】
グレー色調層積層工程においては、製造装置および使用するターゲット組成によってその条件は一様ではないが、たとえば不活性ガスが100〜200sccmの条件下において、炭素原子含有ガスのみを30〜200sccm、好ましくは30〜150sccm導入して炭化物膜を形成するか、あるいは炭素原子含有ガスとともに窒素原子含有ガスまたは酸素原子含有ガスを混合させた反応ガスを30〜200sccm、好ましくは30〜150sccm導入して炭窒化物膜、酸炭化物膜または酸窒化炭化物膜を形成する。ガス量が上記範囲にあると、反応化合物中の非金属元素の量が、上述のグレー色調層で説明した範囲に調整できる。
【0060】
また、非金属元素の量が基材から離れるにしたがって増加しており、Tiおよび金属M2の合計量が基材から離れるにしたがって減少しているグレー色調傾斜層の場合は、反応ガスの量を増加させながら(たとえば30sccmから200sccmを超えない範囲までに増加させながら)、グレー色調層積層工程を行うことで形成できる。
【0061】
なお、ガス量の調整は自動制御されたマスフローコントローラーによって行うことができる。
反応性スパッタリング法は膜質や膜厚の制御性が高く自動化も容易である。またスパッタリングされた原子のエネルギーが高いことから、密着性を向上させるための基材加熱が必要なく、融点の低いプラスチックのような基材でも被膜形成が可能となる。また、はじき飛ばされたターゲット物質を基材に形成させる方法であることから高融点材料でも成膜が可能であり、材料の選択が自由である。
【0062】
さらに、上述したように反応ガスの選択や混合により炭化物膜、炭窒化物膜、酸炭化物膜、酸窒化炭化物膜等の形成が容易に行える。また、ターゲット構成原子を合金化することにより、合金の炭化物膜、炭窒化物膜、酸炭化物膜、酸窒化炭化物膜等の形成も可能である。また、ターゲット構成原子の種類およびその割合と反応ガスの選択および量とを調整することで、反応化合物中の金属元素および非金属元素の量とともに、硬質装飾部材における密着性、膜硬度、色調もコントロールできる。
【0063】
硬質装飾部材は、上述のように、上記硬質装飾被膜として密着層、硬化層および傾斜密着層から選ばれる1層または2層以上をさらに含んでいてもよいが、これらの層も上述したグレー色調層積層工程に準じて積層させることができる。ターゲット構成原子の種類およびその割合と反応ガスの選択および量とを調整することで、反応化合物中の金属元素および非金属元素の量を、上述した範囲に調整できる。
【0064】
なお、密着層が、Ti被膜またはTiとNb、Ta、Vから選ばれる1種または2種以上の金属M2との合金被膜である場合は、反応ガスを用いないこと以外は上述したグレー色調層積層工程と同様に行うことにより、密着層を積層することができる。
【0065】
また、上述のように上記硬質装飾被膜上に防汚コーティング層をさらに積層する場合は、フッ素変性基と反応性の官能基とを有したフッ素樹脂を溶かした溶剤を真空容器内にて加熱し蒸発させてコーティングするPVD法、フッ素樹脂が溶けた溶剤に基板を浸漬させて引き上げる事で基板にコーティングするディッピング法、高速回転する基板にフッ素樹脂が溶けた溶剤を滴下し、コーティングするスピンコーティング法等が挙げられ、部材の形状や積層する厚さによって種々選択される。
【0066】
ここで、態様Hの製造方法についてより具体的に説明する。すなわち、態様Hの製造方法は、基材と、基材上に積層された硬質装飾被膜とを有する硬質装飾部材の製造方法であって;硬質装飾被膜は、TiとNb、TaおよびVから選ばれる1種または2種以上の金属M2との合金と、少なくとも炭素を含む非金属元素との反応化合物からなるグレー色調層を含み;硬質装飾被膜として、密着層、傾斜密着層および硬化層をさらに含み;基材上に、密着層、傾斜密着層、硬化層およびグレー色調層の順で積層されており;傾斜密着層は、TiとNb、TaおよびVから選ばれる1種または2種以上の金属M2との合金と、炭素および窒素から選ばれる1種または2種の非金属元素との反応化合物からなり、傾斜密着層中の非金属元素の量は、基材から離れるにしたがって増加しており;硬化層は、TiとNb、TaおよびVから選ばれる1種または2種以上の
金属M2との合金と、炭素および窒素から選ばれる1種または2種の非金属元素との反応化合物からなり、硬化層中の非金属元素の量は、傾斜密着層中の硬化層側の表面での炭素および窒素の合計量と同じか、または当該量よりも大きく、かつ硬化層はグレー色調層よりも高い硬度を有し;グレー色調層中の硬化層側の表面での非金属元素の量は、硬化層中の非金属元素の量と同じか、または当該量よりも大きく;反応性スパッタリング法により、TiとNb、TaおよびVから選ばれる1種または2種以上の金属M2との合金ターゲットを使用して、非金属元素を含む反応ガスの量を増加させながら、密着層上に傾斜密着層を積層する傾斜密着層積層工程と;反応性スパッタリング法により、TiとNb、TaおよびVから選ばれる1種または2種以上の金属M2との合金ターゲットを使用して、硬化層上にグレー色調層を積層するグレー色調層積層工程とを含む。
【0067】
具体的には、まず、傾斜密着層積層工程の前に、スパッタリング法により、基材上に上述したような密着層を積層する密着層積層工程を行う。
次いで、傾斜密着層積層工程では、ターゲットとして、好ましくはTi、金属M2および必要に応じて用いられる金属M3を組み合わせた合金、より具体的には上記金属の合金の焼結体を用いる。上記焼結体において、Ti、金属M2、必要に応じて用いる金属M3の種類およびその割合は、上述の傾斜密着層について説明したものと同じである。
【0068】
反応ガスとしては、メタンガス、アセチレンガス等の炭素原子含有ガス、窒素ガス、アンモニア等の窒素原子含有ガスが挙げられる。不活性ガスとしては、Arガス、Krガス、Xeガスが挙げられる。
【0069】
傾斜密着層積層工程においては、製造装置及び使用するターゲット組成によってその条件は一様ではないが、たとえば不活性ガスが100〜200sccmの条件下において、炭素原子含有ガスのみまたは窒素原子含有ガスのみを0sccmを超えて150sccmまで増加させながら導入して炭化物膜または窒化物膜を形成するか、または炭素原子含有ガスまたは窒素原子含有ガスと酸素原子含有ガスとを混合させた反応ガスを0sccmを超えて150sccmまで増加させながら導入して酸炭窒化物膜または酸窒化物膜を形成する。ガス量が上記範囲にあると、反応化合物中の非金属元素の量を、上述の傾斜密着層について説明した範囲に調整できる。すなわち、非金属元素の量が基材から離れるにしたがって増加しており、Tiおよび金属M2の合計量が基材から離れるにしたがって減少している傾斜密着層が積層できる。
【0070】
なお、ガス量の調整は自動制御されたマスフローコントローラーによって行うことができ、傾斜密着層の膜厚はスパッタリング時間によってコントロールできる。
次いで、グレー色調層積層工程の前に、反応性スパッタリング法により、TiとNb、TaおよびVから選ばれる1種または2種以上の金属M2との合金ターゲットを使用して、傾斜密着層上に硬化層を積層する硬化層積層工程を行う。
【0071】
硬化層積層工程では、ターゲットとして、好ましくはTi、金属M2および必要に応じて用いられる金属M3を組み合わせた合金、より具体的には上記金属の合金の焼結体を用いる。上記焼結体において、Ti、金属M2、必要に応じて用いる金属M3の種類およびその割合は、上述の硬化層について説明したものと同じである。
【0072】
反応ガス、不活性ガスとしては、傾斜密着層積層工程と同様のものが挙げられる。
硬化層積層工程においては、製造装置および使用するターゲット組成によってその条件は一様ではないが、たとえば不活性ガスが100〜200sccmの条件下において、炭素原子含有ガスのみを10〜150sccmの量であり、かつ傾斜密着層の積層工程終了時での炭素原子含有ガスまたは窒素原子含有ガスの量と同じか、または該量よりも0sccmを超え50sccm以下の範囲で多い量を導入して炭化物膜を形成するか、あるいは炭素原子含有ガスおよび窒素原子含有ガスを混合させた反応ガスを10〜150sccmの量であり、かつ傾斜密着層の積層工程終了時での炭素原子含有ガスまたは窒素原子含有ガスの量と同じか、または該量よりも0sccmを超え50sccm以下の範囲で多い量を導入して炭窒化物膜を形成する。ガス量が上記範囲にあると、反応化合物中の非金属元素の量を、上述の硬化層について説明した範囲に調整できる。さらに、硬化層中の非金属元素の量を、傾斜密着層中の硬化層側の表面での非金属元素の量と同じか、または当該量よりも大きくすることができる。
【0073】
なお、ガス量の調整は自動制御されたマスフローコントローラーによって行うことができ、硬化層の膜厚はスパッタリング時間によってコントロールできる。
最後に、反応性スパッタリング法により、TiとNb、TaおよびVから選ばれる1種または2種以上の金属M2との合金ターゲットを使用して、硬化層上にグレー色調層を積層するグレー色調層積層工程を行う。
【0074】
グレー色調層積層工程では、ターゲットとして、好ましくはTi、金属M2および必要に応じて用いられる金属M3を組み合わせた合金、より具体的には上記金属の合金の焼結体を用いる。上記焼結体において、Ti、金属M2、必要に応じて用いる金属M3の種類およびその割合は、上述のグレー色調層について説明したものと同じである。
【0075】
反応ガス、不活性ガスとしては、傾斜密着層積層工程と同様のものが挙げられる。
グレー色調層積層工程では、製造装置および使用するターゲット組成によってその条件は一様ではないが、たとえば不活性ガスが100〜200sccmの条件下において、炭素原子含有ガスのみを20〜200sccm、好ましくは20〜150sccmの量であり、かつ硬化層積層工程での量と同じか、または該量よりも0sccmを超え50sccm以下の範囲で多い量を導入して炭化物膜を形成するか、あるいは炭素原子含有ガスとともに窒素原子含有ガスまたは酸素原子含有ガスを混合させた反応ガスを20〜200sccm、好ましくは20〜150sccmの量であり、かつ硬化層積層工程での量と同じか、または該量よりも0sccmを超え50sccm以下の範囲で多い量を導入して炭窒化物膜、酸炭化物膜、酸窒素化炭化物膜を形成する。なお、混合させた反応ガスにおいて、炭素原子含有ガスは混合ガス量のトータル量の80%以上を占めていることが好ましい。ガス量が上記範囲にあると、反応化合物中の非金属元素の量を、上述のグレー色調層について説明した範囲に調整できる。さらに、グレー色調層中の硬化層側の表面での非金属元素の量を、硬化層中の非金属元素の量と同じか、または当該量よりも大きくすることができる。
【0076】
なお、ガス量の調整は自動制御されたマスフローコントローラーによって行うことができ、グレー色調層の膜厚はスパッタリング時間によってコントロールできる。
以上の製造方法によれば、上述したような特性を有する硬質装飾部材を得ることができる。
【0077】
<硬質装飾部材を含む装飾品>
硬質装飾部材を含む装飾品としては、眼鏡、アクセサリー、時計、スポーツ用品などが挙げられる。これら装飾品は、一部が上記硬質装飾部材で構成されていても、全部が上記硬質装飾部材で構成されていてもよい。
【0078】
時計は、光発電時計、熱発電時計、電波受信型自己修正時計、機械式時計、一般の電子式時計のいずれであってもよい。このような時計は、上記硬質装飾部材を用いて公知の方法により製造される。特に腕時計はシャツとの擦れや、机、壁などに衝突することにより傷が入りやすい装飾品の一例である。本発明の硬質装飾部材を時計に形成することにより、長年にわたり傷が入りにくく、色調や外観が非常にきれいな状態を維持することが可能となる。
【0079】
以上より、本発明はたとえば以下の(1)〜(13)に関する。
(1)基材と、上記基材上に積層された硬質装飾被膜とを有する硬質装飾部材であって、
上記硬質装飾被膜は、TiとNb、TaおよびVから選ばれる1種または2種以上の金属M2との合金と、少なくとも炭素を含む非金属元素との反応化合物からなるグレー色調層を含むことを特徴とする硬質装飾部材。
このような硬質装飾部材は、耐傷性とともに耐食性にも優れる。
【0080】
(2)上記グレー色調層中に含有される炭素量がTi、金属M2および非金属元素の合計量100atm%中30〜70atm%であることを特徴とする(1)に記載の硬質装飾部材。
このような硬質装飾部材は、より深みのあるグレー色調を有する。
【0081】
(3)上記グレー色調層中に含有されるTi量がTiおよび金属M2の合計量100質量%中20〜90質量%であることを特徴とする(1)または(2)に記載の硬質装飾部材。
このような硬質装飾部材は、より高い硬度とともにより深みのあるグレー色調を有する。
【0082】
(4)上記グレー色調層の厚さが0.2μm以上であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の硬質装飾部材。
このような厚さを有していることは色調の観点から好ましい。
【0083】
(5)上記グレー色調層は、可視領域(360〜740nm)での反射率測定において、最大値と最小値との差が10%以下であり、Lab色空間表示において、L
*が60を超え73以下、a
*およびb
*がそれぞれ−2.0〜2.0、a
*とb
*との差が1.5以下であることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の硬質装飾部材。
このような硬質装飾部材は、より深みのあるグレー色調を有する。
【0084】
(6)上記グレー色調層の硬度がHV1500以上であることを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載の硬質装飾部材。
このような硬質装飾部材は、耐傷性により優れる。
【0085】
(7)上記硬質装飾被膜として密着層をさらに含み、
上記密着層は上記基材と上記グレー色調層との間に積層されていることを特徴とする(1)〜(6)のいずれかに記載の硬質装飾部材。
このような硬質装飾部材は、高い密着度を有しており、耐傷性により優れる。
【0086】
(8)上記硬質装飾被膜として硬化層をさらに含み、
上記硬化層は上記基材と上記グレー色調層との間に積層されており、上記硬化層は上記グレー色調層よりも高い硬度を有することを特徴とする(1)〜(6)のいずれかに記載の硬質装飾部材。
このような硬質装飾部材は、高い硬度を有しており、耐傷性により優れる。
【0087】
(9)上記硬質装飾被膜として、密着層、傾斜密着層および硬化層をさらに含み、
上記基材上に、上記密着層、上記傾斜密着層、上記硬化層および上記グレー色調層の順で積層されており、
上記傾斜密着層は、TiとNb、TaおよびVから選ばれる1種または2種以上の金属M2との合金と、炭素および窒素から選ばれる1種または2種の非金属元素との反応化合物からなり、上記傾斜密着層中の上記非金属元素の量は、上記基材から離れるにしたがって増加しており、
上記硬化層は、TiとNb、TaおよびVから選ばれる1種または2種以上の金属M2との合金と、炭素および窒素から選ばれる1種または2種の非金属元素との反応化合物からなり、上記硬化層中の上記非金属元素の量は、上記傾斜密着層中の上記硬化層側の表面での上記炭素および窒素の合計量と同じか、または当該量よりも大きく、かつ上記硬化層は上記グレー色調層よりも高い硬度を有し、
上記グレー色調層中の上記硬化層側の表面での上記非金属元素の量は、上記硬化層中の上記非金属元素の量と同じか、または当該量よりも大きいことを特徴とする(1)〜(6)のいずれかに記載の硬質装飾部材。
このような硬質装飾部材は、耐傷性に特に優れる。
【0088】
(10)上記硬化層の厚さが0.5〜4.0μmであることを特徴とする(8)または(9)に記載の硬質装飾部材。
このような硬質装飾部材は、高い硬度を有しており、耐傷性により優れる。
【0089】
(11)上記硬質装飾被膜上に汚防コート層がさらに積層されていることを特徴とする(1)〜(10)のいずれかに記載の硬質装飾部材。
このような硬質装飾部材は、長期に渡って色調および耐傷性が維持できる。
【0090】
(12)基材と、上記基材上に積層された硬質装飾被膜とを有する硬質装飾部材の製造方法であって、
上記硬質装飾被膜は、TiとNb、TaおよびVから選ばれる1種または2種以上の金属M2との合金と、少なくとも炭素を含む非金属元素との反応化合物からなるグレー色調層を含み、
反応性スパッタリング法により、TiとNb、TaおよびVから選ばれる1種または2種以上の金属M2との合金ターゲットを使用して、基材上にグレー色調層を積層するグレー色調層積層工程を含むことを特徴とする硬質装飾部材の製造方法。
このような製造方法によれば、耐傷性とともに耐食性にも優れる硬質装飾部材が得られる。
【0091】
(13)基材と、上記基材上に積層された硬質装飾被膜とを有する硬質装飾部材の製造方法であって、
上記硬質装飾被膜は、TiとNb、TaおよびVから選ばれる1種または2種以上の金属M2との合金と、少なくとも炭素を含む非金属元素との反応化合物からなるグレー色調層を含み、
上記硬質装飾被膜として、密着層、傾斜密着層および硬化層をさらに含み、
上記基材上に、上記密着層、上記傾斜密着層、上記硬化層および上記グレー色調層の順で積層されており、
上記傾斜密着層は、TiとNb、TaおよびVから選ばれる1種または2種以上の金属M2との合金と、炭素および窒素から選ばれる1種または2種の非金属元素との反応化合物からなり、上記傾斜密着層中の上記非金属元素の量は、上記基材から離れるにしたがって増加しており、
上記硬化層は、TiとNb、TaおよびVから選ばれる1種または2種以上の金属M2との合金と、炭素および窒素から選ばれる1種または2種の非金属元素との反応化合物からなり、上記硬化層中の上記非金属元素の量は、上記傾斜密着層中の上記硬化層側の表面での上記炭素および窒素の合計量と同じか、または当該量よりも大きく、かつ上記硬化層は上記グレー色調層よりも高い硬度を有し、
上記グレー色調層中の上記硬化層側の表面での上記非金属元素の量は、上記硬化層中の上記グレー色調層側の表面での上記非金属元素の量と同じか、または当該量よりも大きく、
反応性スパッタリング法により、TiとNb、TaおよびVから選ばれる1種または2種以上の金属M2との合金ターゲットを使用して、上記非金属元素を含む反応ガスの量を増加させながら、上記密着層上に上記傾斜密着層を積層する傾斜密着層積層工程と、
反応性スパッタリング法により、TiとNb、TaおよびVから選ばれる1種または2種以上の金属M2との合金ターゲットを使用して、上記硬化層上に上記グレー色調層を積層するグレー色調層積層工程とを含むことを特徴とする硬質装飾部材の製造方法。
このような製造方法によれば、特に耐傷性に優れる硬質装飾部材が得られる。
【0092】
[実施例]
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0093】
<測定方法>
〔元素量〕
各層中の各元素量は、ESCA(X線光電子分光方)及びEPMA(電子プローブマイクロアナライザー)法により測定した。ESCAでは部材表面で定性された元素において、トップ表面からスパッタエッチングを行い、得られた各元素のXPS光電子スペクトルの検出を行い定量を行った。EPMAは加速電圧15kV、プローブ電流5×10
-8、プローブ径100μmの条件で、試料表面に電子線を照射し、発生する特性X線のスペクトルを解析する事で元素の定性と定量を行った。また、Cについては計算強度を用いてZAF補正を行った。
【0094】
〔膜厚〕
各層の簡易的な膜厚測定は、マスクを施したSiウエハーを基材と共に成膜装置内に導入し、成膜後にマスクを除去して、マスクされていた部分とマスクされていない部分での段差を測定する事により膜厚を測定した。
【0095】
〔色調〕
硬質装飾部材の色調は、KONICA MINOLTA製のSpectra Magic NX(光源D65)を用いてL
*a
*b
*色度図によるL
*a
*b
*を測定して評価した。
【0096】
〔反射率〕
硬質装飾部材の反射率は、KONICA MINOLTA製のSpectra Magic NX(光源D65)を用いて可視
光域360〜740nmにおける分光反射率を測定した。
【0097】
〔色調判定〕
色調判定は、(1)明度(L*)が60<L
*≦73、(2)色調a
*およびb
*が−2.0≦a
*、b
*≦2.0で、(3)a
*とb
*との差(|a
*−b
*|)が1.5以下(0以上1.5以下)であり、(4)反射率測定における可視領域(360〜740nm)での最大値と最小値との差が10%以下(0%以上10%以下)について、(1)〜(4)全てを満たしたものを○、ひとつでも満たさないものは×と判定した。
また明度に関しては、73<L
*≦90を白色(銀色)、60<L
*≦73をグレー色、40<L
*≦60をダークグレイ色、L*≦40を黒色という判定とした。
【0098】
〔硬度〕
膜硬度は、微小押込み硬さ試験機(FISCHER製H100)を用いて行った。測定子にはビッカース圧子を使用し、5mN荷重で10秒間保持した後に除荷を行い、挿入されたビッカース圧子の深さから膜硬度を算出した。
【0099】
また、基材上に密着層、傾斜密着層、硬化層およびグレー色調層を積層した硬質装飾部材(態様H)の硬度測定も上記同様の方式で行い、態様H全体での測定結果をその部材での硬度とした。
【0100】
〔耐傷性〕
硬質装飾部材の耐傷性は基材に装飾膜を施し、アルミナ粒子が均一に分散した磨耗紙を試験サンプルに一定加重で接触させ、一定回数擦ることで傷を発生させる。傷がついた試験サンプルの表面を、キズの方向と垂直方向にスキャンして表面粗さを測定し、二乗平均荒さとして耐傷性の評価とした。傷の発生量が多く、傷の深さが深いほど二乗平均荒さの数値が大きくなり、逆に傷の発生量が少なく、傷の深さが浅いほど二乗平均粗さの数値が小さくなることから、耐傷性を数値的に評価することができる。
【0101】
〔耐食性〕
硬質装飾部材の耐食性は、CASS試験、人工汗試験、酸及びアルカリ浸漬試験により評価した。CASS試験はJIS−H 8502に準拠された、酢酸酸性の塩化ナトリウム溶液に塩化第二銅を添加した溶液を噴霧した雰囲気に48時間設置し、装飾膜の剥離および変色を観察し耐食性の評価とした。
【0102】
人工汗試験はISO12870に準拠された、塩化ナトリウムと乳酸を混ぜた液(人工汗)を55℃で48時間ばっきさせた雰囲気に設置し、装飾膜の変色を観察し耐食性の評価とした。
【0103】
酸試験は、20%の硫酸、塩酸、燐酸水溶液に2時間/30℃の条件で浸漬させ、装飾膜の変色を観察して耐食性の評価とした。
アルカリ浸漬試験については、5%水酸化ナトリウム水溶液に2時間/30℃の条件で浸漬、及び次亜塩素酸Na6%水溶液に2時間30℃の条件で浸漬させ、装飾膜の剥離および変色を観察して耐食性の評価とした。
【0104】
なお耐食性の評価基準は以下のとおりで行った。
○:色差判定でΔE*abが0.8以下であり、剥離、孔食がない。
△:色差判定でΔE*abが0.8より大きく1.6以下であり、剥離、孔食がない。
×:色差判定でΔE*abが1.6より大きいまたは剥離、孔食がある。
なお、色差判定は試験前と試験後の色差から計算される。試験前の膜の色調が(L*,a*,b*),試験後の膜の色調が(L1*,a1*,b1*)だった場合に、色差は〔〔L*-L1*〕^2+〔a*-a1*〕^2+(b*-b1*)^2〕^0.5で計算される。
【0105】
(実施例1)
本発明のグレー色調硬質装飾部材の第1の実施例を
図4、
図5および
図6、表1、表2、表3、表4を用いて説明する。
図4はグレー色調硬質装飾部材40の断面模式図、
図5は装飾部材40の耐傷性を測定した図、
図6は非特許文献1に基づいて作製した比較例の断面模式図、表1はTi45質量%Nb55質量%の炭化物における硬度、色調、色調差(|a
*−b
*|)、可視領域(360〜740nm)での反射率測定における最大値と最小値の差、および色調判定結果、表2、表3はTiC膜、NbC膜の測定結果、表4はESCAによる炭素量の測定結果、表5は耐食性の比較結果である。
【0106】
スパッタリングターゲットとして、Ti45質量%Nb55質量%の合金組成の焼結体を使用した。
図1(態様A)に示すように、基材41としてJISに規定されるSUS316L材を用い、基材41上にスパッタリング法でアルゴンガス105sccmにメタンガスを35sccm導入してTiNb合金炭化物膜42を0.8μm形成しグレー色調硬質装飾部材40を作成した。これにより得られたグレー色調硬質装飾部材40の外観カラーは、Lab色空間表示により、L*:70.92、a*:0.93,b*:0.42であり深みのあるグレー色調を呈した。
【0107】
表1には、TiNb合金において、メタンガス量を変化させて作成したTiNb合金炭化物膜の硬度、明度(L*)、色調(a*、b*)、a
*とb
*との差(|a
*−b
*|)、可視領域(360〜740nm)での反射率測定における最大値と最小値の差、および色調判定結果を示した。
【0108】
また表2、表3には、比較としてメタンガス量を変化させて作成したTiC膜、NbC膜の硬度、明度(L*)、色調(a*、b*)、a
*とb
*との差(|a
*−b
*|)、可視領域(360〜740nm)での反射率測定における最大値と最小値の差、および色調判定結果を示した。
【0111】
【表3】
表1よりTiNbC膜でメタンガスを35sccm以上導入した条件から、深みのあるグレー色調の膜が得られることがわかる。この35sccm導入した時の合金皮膜中に存在するカーボン量はESCA測定の結果34.6atm%であった。
【0112】
表4にはESCA分析を用いて、NbTiC膜中の元素分析の定量を行った結果を示している。表4より34.6atm%〜59.4atm%の範囲で高級感のあるグレー色が得られることがわかる。
【0113】
【表4】
表2より、TiC膜はメタンガスを65sccm以上導入すれば色調(a*、b*)の値が−2.0≦a*、b*≦2.0に収まり、かつa
*とb
*との差(|a
*−b
*|)が1.5以下となるが、明度L*が58.11と低くグレー色というよりは黒色に近く、さらに膜硬度もHV1500以上に到達しないため、耐傷性が高く維持されて、かつ深みのあるグレー色調を有する装飾部材とはいえない。
【0114】
表3より、NbC膜はメタンガスの導入量に比例して、色調(a*、b*)が共に上昇し、黄色から茶色を呈するようになり、これもまた耐傷性が高く維持されて、かつ深みのあるグレー色調を有する装飾部材とはいえない。
【0115】
NbとTiの合金からなるTiNbC膜でのみ深みのあるグレー色調が得られ、かつ膜硬度がHV1500以上であることから、高い耐傷性を有したグレー色調装飾部材が得られる。
【0116】
図5には実施例1で作製したグレー色調硬質装飾部材40の耐傷性を測定した図を示した。同図において、比較として、非特許文献1に基づいて作成したSUS316L基材111上に硬度HV1100相当のTiC膜112を0.8μm形成した装飾部材110、硬質膜を形成していないSUS316L基材の耐傷性(二乗平均粗さ)を測定した結果を示した。
図5から、本発明の実施例1のグレー色調硬質装飾部材40は、硬質膜を形成していないSUS316L基材に対してはもちろん、非特許文献1に基づいて作成した装飾部材110と比較しても、はるかに耐傷性能が良くなっていることが確認された。耐傷性はおおよそ基材上に積層される硬化層全体の硬度、膜厚、基材との密着度の積によって決定されることから、装飾部材110の硬度と比較し2倍以上の硬度を有する装飾部材40では耐傷性能を向上できる。
【0117】
耐傷性能はおおよそ基材上に積層される硬化層全体の硬度、膜厚、基材との密着度の積によって決定されることから、膜厚を厚くすればするほど向上するが、実施例1および比較例1においては、密着力と膜応力の点で、膜厚を0.8μm以上形成することが困難であった。
【0118】
表5には、装飾部材40の耐食性評価結果を示した。比較として同ガス量( メタンガス35sccm)を導入して作製したTiC膜、NbC膜の結果を合わせて示した。表5より耐アルカリ、耐次亜塩素酸Naに優れるTiと、耐酸性に優れるNbが合金化したNbTiC炭化膜においては、それぞれの特徴を併せ持った高い耐食性を有する装飾膜が得られる事が分かる。
【0119】
【表5】
さらにグレー色調硬質装飾部材40を構成するTiおよびNbは、人体に対してアレルギー反応を示さない材料であることから、耐メタルアレルギーに配慮した装身具として使用できる。
【0120】
(実施例2)
本発明のグレー色調硬質装飾部材の第2の実施例を
図7、
図8および
図9を用いて説明する。
図7はグレー色調硬質装飾部材50の断面模式図、
図8は装飾部材50の耐傷性を測定した図、
図9は特許文献1に基づいて作製した比較例の断面模式図である。
【0121】
スパッタリングターゲットは実施例1と同様にTi45質量%Nb55質量%の合金組成の焼結体を使用した。
図7(態様B)に示すように、基材51としてJISに規定されるSUS316L材を用い、基材51上にスパッタリング法でアルゴンガス105sccmと酸素ガス5sccmを導入してTiNb合金の低級酸化物からなるからなる密着層52を0.1μm形成し、ついでアルゴンガス105sccmを導入しながらメタンガスを35sccm導入してTiNb合金炭化物膜53を1.3μm形成し、グレー色調硬質装飾部材50を作成した。これにより得られたグレー色調硬質装飾部材50の外観カラーは、Lab色空間表示により、L*:70.99、a*:0.95,b*:0.77であり深みのあるグレー色調を呈した。また、反射率測定における可視領域(360〜740nm)での最大値と最小値との差は、8.52%であった。
【0122】
実施例2のグレー色調硬質装飾部材は、基材上に密着効果の高い合金密着層と、硬度の高いグレー色調層からなっているため、基材と膜間の密着力が向上し、膜硬度の高いグレー色調層を実施例1と比較し厚く形成することが出来る。さらに酸素を密着層に微量導入することで、酸素の二つの手による架橋効果により、基材と膜との密着性を強固にできる。耐傷性はおおよそ基材上に積層される硬化層の硬度、膜厚、基材との密着度の積によって決定されることから、実施例2のグレー色調硬質装飾部材は実施例1と比較し膜厚を厚く形成できることから、耐傷性を向上させることができる。
【0123】
グレー色調硬質装飾部材50の密着層52は、メタンガス導入量0sccmの条件で、アルゴンガス105sccmと酸素ガスを5sccm導入し、TiNb低級酸化物膜を0.1μm形成した。TiNb低級酸化物にすることで、TiNb合金膜よりも基材との密着性が増し耐傷性を向上させることができる。グレー色調層53は、アルゴンガス105sccmとメタンガスを35sccm導入し、TiNb合金炭化物膜を1.3μm形成した。
【0124】
図8には、実施例2のグレー色調硬質装飾部材50における耐傷性能を測定した結果を示した。同図において、比較として、
図9に示される特許文献1に基づいて作成した装飾部材120、本発明に係わる実施例2のグレー色調硬質装飾部材50、硬質膜を形成していないSUS316L基材の耐傷性(二乗平均粗さ)を測定した結果を示した。
図8から、本発明の実施例2のグレー色調硬質装飾部材50は、硬質膜を形成していないSUS316L基材に対してはもちろん、特許文献1に基づいて作成した装飾部材120と比較しても、はるかに耐傷性能が良くなっていることが確認された。
【0125】
比較例としての装飾部材120は、基材121としてJISに規定されるSUS316L材を用い、基材121上にイオンプレーティング法でTiの密着層122を0.1μm形成し、ついでHV1100相当のTiC膜123を0.6μm形成し、さらに仕上げ層としてPt層124を0.005μm形成して装飾部材120を作製した。
実施例2の耐食性評価結果は、実施例1の表5と同様に酸、アルカリに対して高い耐食性能を示した。
【0126】
(実施例3)
本発明のグレー色調硬質装飾部材の第3の実施例を
図10、
図11を用いて説明する。
図10はグレー色調硬質装飾部材60の断面模式図、
図11は装飾部材60の耐傷性を測定した図である。
【0127】
スパッタリングターゲットとして、実施例1と同様にTi45質量%Nb55質量%合金組成の焼結体を使用した。
図10に示すように、基材61としてJISに規定されるSUS316L材を用い、基材61上にスパッタリング法でTiNb合金の低級酸化物からなる密着層62を0.1μm形成した。その後、酸素ガスを微量導入しながら窒素ガスを傾斜的に増加させたTiNb合金酸窒化物膜の傾斜密着層63を0.2μm形成した。その後、TiNb合金窒化物膜からなる硬化層64を1.7μm形成した。その後、メタンガスを傾斜的に増加させたTiNb合金炭化膜のグレー色調層65を0.3μm形成した。この実施例3で得られるグレー色調硬質装飾部材60の外観カラーは、Lab色空間表示により、L*:69.77、a*:0.59,b*:0.79であり深みのあるグレー色調を呈した。また、反射率測定における可視領域(360〜740nm)での最大値と最小値との差は、7.95%であった。
【0128】
グレー色調硬質装飾部材60の密着層62はアルゴンガス105sccm一定条件の元、酸素ガスを3sccm導入し、TiNb合金低級酸化物膜を0.1μm形成した。TiNb合金低級酸化物にすることで、TiNb合金膜よりも基材との密着性が増し耐傷性を向上させることができる。傾斜密着層63は、酸素ガスを3sccm導入しながら、窒素ガス導入量を0sccmから最大硬度を示す25sccmまで傾斜的に増加させたTiNb合金酸窒化物膜を0.2μm形成した。硬化層64は、最大硬度を示す窒素ガス導入量25sccmの条件でTiNb合金窒化物膜を1.7μm形成した。グレー色調層65はメタンガスを25sccmから35sccmまで傾斜的に増加させたTiNb合金炭化物膜を0.3μm形成した。なお、グレー色調層65において、メタンガス量を25sccmから35sccmまで増加させながら形成した傾斜部分の膜厚は0.05μm程度、メタンガス量を35sccm導入して形成した部分の膜厚は0.25μm程度であり、このグレー色調層65は深みのあるグレー色調を示した。
【0129】
実施例3のグレー色調硬質装飾部材60における傾斜密着層63は、密着層と硬化層間で明確な界面が無くなることから、基材と密着層との一体化が図れる。傾斜密着層があることで密着層と硬化層との密着性が十分に確保され、また膜応力が傾斜的に上昇する構造となることから、応力歪みによるクラックの発生、剥離の抑制効果が得られ、耐傷性、耐摩耗性が向上すると共に、膜硬度の高い硬化層を厚く形成できるようになる。耐傷性はおおよそ基材上に積層される硬化層全体の硬度、膜厚、基材との密着度の積によって決定されることから、実施例3は実施例1や実施例2と比較して著しく耐傷性を向上させることができる。
【0130】
実施例3のグレー色調硬質装飾部材60におけるグレー色調層65は、炭素含有量を傾斜的に増加させていることにより、色調の変化が緩やかになり、また硬化層64との密着性が高く、傷が入っても剥離しにくく、また傷が目立ちにくいという効果にも寄与している。
【0131】
図11には、実施例3のグレー色調硬質装飾部材60における耐傷性能を測定した結果を示した。同図において、比較として、
図9に示される特許文献1に基づいて作成した装飾部材120、本発明に係わる実施例3のグレー色調硬質装飾部材60、硬質膜を形成していないSUS316L基材、SUS316L基材上に
図6に示される非特許文献1に基づいて作製した硬度HV1100相当のTiC膜を0.8μm形成した装飾部材110の耐傷性(二乗平均粗さ)を測定した結果を示した。
図11から、本発明の実施例3のグレー色調硬質装飾部材60は、硬質膜を形成していないSUS316L基材に対してはもちろん、特許文献1に基づいて作成した装飾部材120、装飾部材110と比較しても、はるかに耐傷性能が良くなっていることが確認された。
【0132】
なお、耐傷性能はおおよそ基材上に積層される硬化層全体の硬度、膜厚、基材との密着度の積によって決定されることから、比較で作成したTiC膜(装飾部材110)の膜厚も1.7μm以上になるよう形成したかったが、TiC膜をそのまま基材に形成した場合、0.9μm以上の膜厚で膜にクラックや剥離が観測されたことから、膜厚を0.8μmとした。
【0133】
実施例3の耐食性評価結果は、実施例1の表4と同様に酸、アルカリに対して高い耐食性能を示した。また、グレー色調硬質装飾部材60全体での膜硬度は、HV2470であった。なお、硬化層の膜硬度の方が、グレー色調層の膜硬度よりも大きかった。
【0134】
(実施例4)
本発明のグレー色調硬質装飾部材の第4の実施例を
図12、
図13および表6、表7を用いて説明する。
図12はグレー色調硬質装飾部材70の断面模式図、
図13は装飾部材70の耐傷性を測定した図、表6はTi20質量%Nb80質量%の炭化物における硬度、色調、色調差(|a
*−b
*|)、可視領域(360〜740nm)での反射率測定における最大値と最小値の差、および色調判定結果である。また表7は耐食性の比較結果を示している。
【0135】
スパッタリングターゲットとして、Ti20質量%Nb80質量%の合金組成の焼結体を使用した。
図12(態様A)に示すように、基材71としてJIS2種に規定されるTi基材を用い、基材71上にスパッタリング法でアルゴンガス105sccmにメタンガスを30sccm導入してTiNb合金炭化物膜72を0.8μm形成しグレー色調硬質装飾部材70を作成した。これにより得られたグレー色調硬質装飾部材70の外観カラーは、Lab色空間表示により、L*:70.35、a*:1.24,b*:1.70であり深みのあるグレー色調を呈した。
【0136】
表6には、TiNb合金において、メタンガス量を変化させて作成したTiNb合金炭化物膜の硬度、明度(L*)、色調(a*、b*)、a
*とb
*との差(|a
*−b
*|)、可視領域(360〜740nm)での反射率測定における最大値と最小値の差、および色調判定結果を示した。
【0137】
【表6】
表6よりTiNbC膜でメタンガスを30sccm以上導入した条件から、深みのあるグレー色調が得られることがわかる。この30sccm導入した時の合金皮膜中に存在するカーボン量はESCA測定の結果29.9atm%であった。
【0138】
表6および比較としてのTiC(表2)、NbC(表3)の結果より、NbとTiの合金からなるTiNbC膜でのみ深みのあるグレー色調が得られ、かつ膜硬度がHV1500以上であることから、高い耐傷性を有したグレー色調装飾部材が得られる。
【0139】
図13には実施例4で作製したグレー色調硬質装飾部材70の耐傷性を測定した図を示した。同図において、比較として、非特許文献1に基づいて作成したJIS2種Ti基材上に硬度HV1100相当のTiC膜を0.8μm形成した装飾部材110、硬質膜を形成していないJIS2種
Ti基材の耐傷性(二乗平均粗さ)を測定した結果を示した。
図13から、本発明の実施例1のグレー色調硬質装飾部材70は、硬質膜を形成していないJIS2種Ti基材に対してはもちろん、非特許文献1に基づいて作成した装飾部材110と比較しても、はるかに耐傷性能が良くなっていることが確認された。耐傷性はおおよそ基材上に積層される硬化層の硬度、膜厚、基材との密着度の積によって決定されることから、装飾部材110の硬度と比較し3倍程度の硬度を有する装飾部材70では耐傷性能を向上することができる。
【0140】
耐傷性能はおおよそ基材上に積層される硬化層の硬度、膜厚、基材との密着度の積によって決定されることから、膜厚を厚くすればするほど向上するが、実施例4および比較例1においては、密着力と膜応力の点で、膜厚を0.8μm以上形成することが困難であった。
【0141】
表7には、装飾部材70の耐食性評価結果を示した。比較として同ガス量(メタンガス30sccm)を導入して作製したTiC膜、NbC膜の結果を合わせて示した。表7より耐アルカリ、耐次亜塩素酸Naに優れるTiと、耐酸性に優れるNbが合金化したTiNbC炭化膜においては、それぞれの特徴を併せ持った高い耐食性を有する装飾膜が得られる事が分かる。
【0142】
【表7】
さらにグレー色調硬質装飾部材70を構成するTiおよびNbは、人体に対してアレルギー反応を示さない材料であることから、耐メタルアレルギーに配慮した装身具として使用できる。
【0143】
(実施例5)
本発明のグレー色調硬質装飾部材の第5の実施例を
図14、
図15を用いて説明する。
図14はグレー色調硬質装飾部材80の断面模式図、
図15は装飾部材80の耐傷性を測定した図である。
【0144】
スパッタリングターゲットとして、実施例4と同様にTi20質量%Nb80質量%の合金組成の焼結体を使用した。
図14に示すように、基材81としてJIS2種に規定されるTi材を用い、基材81上にスパッタリング法でTiNb合金の低級酸化物からなる密着層82を0.1μm形成した。その後、酸素ガスを微量導入しながらメタンガスを傾斜的に増加させたTiNb合金酸炭化物膜の傾斜密着層83を0.2μm形成した。その後、TiNb合金炭化物膜からなる硬化層84を2.0μm形成した。その後、メタンガスを傾斜的に増加させたTiNb合金炭化膜のグレー色調層85を0.3μm形成した。この実施例5で得られるグレー色調硬質装飾部材80の外観カラーは、Lab色空間表示により、L*:68.97、a*:1.07,b*:0.57であり深みのあるグレー色調を呈した。また、反射率測定における可視領域(360〜740nm)での最大値と最小値との差は、7.75%であった。
【0145】
グレー色調硬質装飾部材80の密着層82はアルゴンガス105sccm一定条件の下、酸素ガスを3sccm導入し、TiNb合金低級酸化物膜を0.1μm形成した。TiNb合金低級酸化物にすることで、TiNb合金膜よりも基材との密着性が増し耐傷性を向上させることができる。傾斜密着層83は、酸素ガスを3sccm導入しながら、メタンガス導入量を0sccmから最大硬度を示す30sccmまで傾斜的に増加させたTiNb合金酸炭化物膜を0.2μm形成した。硬化層84は、最大硬度を示すメタンガス導入量30sccmの条件でTiNb合金炭化物膜84を2.0μm形成した。グレー色調層85はメタンガスを30sccmから40sccmまで傾斜的に増加させたTiNb合金炭化物膜を0.3μm形成した。
【0146】
実施例5のグレー色調硬質装飾部材80における傾斜密着層83は、密着層と硬化層間で明確な界面が無くなることから、基材と密着層との一体化が図れる。傾斜密着層があることで密着層と硬化層との密着性が十分に確保され、また膜応力が傾斜的に上昇する構造となることから、応力歪みによるクラックの発生、剥離の抑制効果が得られ、耐傷性、耐摩耗性が向上すると共に、膜硬度の高い硬化層を厚く形成できるようになる。耐傷性はおおよそ基材上に積層される硬化層の硬度、膜厚、基材との密着度の積によって決定されることから、基材との密着性が向上することにより耐傷性を向上させることができる。
【0147】
実施例5のグレー色調硬質装飾部材80におけるグレー色調層85は、炭素含有量を傾斜的に増加させていることにより、色調の変化が緩やかになり、また硬化層84との密着性が高く、傷が入っても剥離しにくく、また傷が目立ちにくいという効果にも寄与している。
【0148】
図15には、実施例5のグレー色調硬質装飾部材80における耐傷性能を測定した結果を示した。同図において、比較として、
図9に示される特許文献1に基づいて作成した装飾部材120、本発明に係わる実施例5のグレー色調硬質装飾部材80、硬質膜を形成していないJIS2種に規定されるTi基材、
図6に示される非特許文献1に基づいて作製した、Ti基材上に硬度HV1100相当のTiC膜を0.8μm形成した装飾部材110 の耐傷性(二乗平均粗さ)を測定した結果を示した。
図15から、本発明の実施例5のグレー色調硬質装飾部材80は、硬質膜を形成していないTi基材に対してはもちろん、特許文献1に基づいて作成した装飾部材120、非特許文献1に基づいて作製した装飾部材110と比較しても、はるかに耐傷性能が良くなっていることが確認された。
【0149】
なお、耐傷性能はおおよそ基材上に積層される硬化層の硬度、膜厚、基材との密着度、基材の硬度の積によって決定されることから、比較で作成したTiC膜(装飾部材110)の膜厚も2.0μm以上になるよう形成したかったが、TiC膜をそのまま基材に形成した場合、0.9μm以上の膜厚で膜にクラックや剥離が観測されたことから、膜厚を0.8μmとした。
【0150】
実施例5の耐食性評価結果は、実施例4の表7と同様に酸、アルカリに対して高い耐食性能を示した。また、グレー色調硬質装飾部材80全体での膜硬度は、HV2621であった。なお、硬化層の膜硬度の方が、グレー色調層の膜硬度よりも大きかった。
【0151】
(実施例6)
本発明のグレー色調硬質装飾部材の第6の実施例を
図16、
図17、表8、表9、表10、表11を用いて説明する。
図16はグレー色調硬質装飾部材90の断面模式図、
図17は装飾部材90の耐傷性を測定した図、表8はTi50質量%Ta50質量%の炭化物における硬度、色調、色調差(|a
*−b
*|)、可視領域(360〜740nm)での反射率測定における最大値と最小値の差、および色調判定結果、表9はTaC膜の測定結果、表10はESCAによる炭素量の測定結果、表11は耐食性の比較結果である。
【0152】
スパッタリングターゲットとして、Ti50質量%Ta50質量%の合金組成の焼結体を使用した。
図17(態様A)に示すように、基材91としてJIS2種に規定されるTi材を用い、基材91上にスパッタリング法でアルゴンガス105sccmにメタンガスを50sccm導入してTiTa合金炭化物膜92を0.8μm形成しグレー色調硬質装飾部材90を作成した。これにより得られたグレー色調硬質装飾部材90の外観カラーは、Lab色空間表示により、L*:71.82、a*:1.16,b*:1.84であり深みのあるグレー色調を呈した。
【0153】
表8には、TiTa合金において、メタンガス量を変化させて作成したTiTa合金炭化物膜の硬度、明度(L*)、色調(a*、b*)、a
*とb
*との差(|a
*−b
*|)、可視領域(360〜740nm)での反射率測定における最大値と最小値の差、および色調判定結果を示した。
【0154】
また表9には比較としてメタンガス量を変化させて作成したTaC膜の硬度、明度(L*)、色調(a*、b*)、a
*とb
*との差(|a
*−b
*|)、可視領域(360〜740nm)での反射率測定における最大値と最小値の差、および色調判定結果を示した。
【0156】
【表9】
表8よりTiTaC膜でメタンガスを50sccm以上導入した条件から、深みのあるグレー色調を呈する膜が得られることがわかる。この50sccm導入した時の合金皮膜中に存在するカーボン量はESCA測定の結果43.3atm%であった。
【0157】
表10にはESCA分析を用いて、TiTaC膜中の元素分析の定量を行った結果を示している。表10より、43.3atm%〜58.4atm%の範囲で高級感のあるグレー色が得られることがわかる。
【0158】
【表10】
表2より、TiC膜はメタンガスを65sccm以上導入すれば色調(a*、b*)の値が−2.0≦a*、b*≦2.0に収まり、かつa
*とb
*との差(|a
*−b
*|)が1.5以下であるが、明度L*が58.11と低くグレー色というよりは黒色に近く、さらに膜硬度もHV1500以上に到達しないため、耐傷性が高く維持されて、かつ深みのあるグレー色調を有する装飾部材とはいえない。
【0159】
表9より、TaC膜はメタンガスの導入量に比例して、色調(a*、b*)が共に上昇し、黄色から茶色を呈するようになり、これもまた耐傷性が高く維持されて、かつ深みのあるグレー色調を有する装飾部材とはいえない。
【0160】
TiとTaの合金からなるTiTaC膜でのみ深みのあるグレー色調が得られ、かつ膜硬度がHV1500以上であることから、高い耐傷性を有したグレー色調装飾部材が得られる。
【0161】
図17には実施例6で作製したグレー色調硬質装飾部材90の耐傷性を測定した図を示した。同図において、比較として、非特許文献1に基づいて作成したJIS2種Ti基材上に硬度HV1100相当のTiC膜を0.8μm形成した装飾部材110、硬質膜を形成していないJIS2種Ti基材の耐傷性(二乗平均粗さ)を測定した結果を示した。
図17から、本発明の実施例6のグレー色調硬質装飾部材90は、硬質膜を形成していないTi基材に対してはもちろん、非特許文献1に基づいて作成した装飾部材110と比較しても、はるかに耐傷性能が良くなっていることが確認された。耐傷性はおおよそ基材上に積層される硬化層全体の硬度、膜厚、基材との密着度の積によって決定されることから、装飾部材110の硬度と比較し2倍以上の硬度を有する装飾部材90では耐傷性能を向上できる。
【0162】
耐傷性能はおおよそ基材上に積層される硬化層全体の硬度、膜厚、基材との密着度の積によって決定されることから、膜厚を厚くすればするほど向上するが、実施例1および比較例1においては、密着力と膜応力の点で膜厚を0.8μm以上形成することが困難であった。
【0163】
表11には、装飾部材90の耐食性評価結果を示した。比較として同ガス量(メタンガス50sccm)を導入して作製したTiC膜、TaC膜の結果を合わせて示した。表11より耐アルカリ、耐次亜塩素酸Naに優れるTiと、耐酸性に優れるTaが合金化したTaTiC炭化膜においては、それぞれの特徴を併せ持った高い耐食性を有する装飾膜が得られる事が分かる。
【0164】
【表11】
さらにグレー色調硬質装飾部材90を構成するTiおよびTaは、人体に対してアレルギー反応を示さない材料であることから、耐メタルアレルギーに配慮した装身具として使用できる。
【0165】
(実施例7)
本発明のグレー色調硬質装飾部材の第7の実施例を
図18、
図19を用いて説明する。
図18はグレー色調硬質装飾部材100の断面模式図、
図19は装飾部材100の耐傷性を測定した図である。
【0166】
スパッタリングターゲットとして、実施例6と同様にTi50質量%Ta50質量% 合金組成の焼結体を使用した。
図18に示すように、基材101としてJIS2種に規定されるTi材を用い、基材101上にスパッタリング法でTiTa合金の低級酸化物からなる密着層102を0.1μm形成した。その後、酸素ガスを微量導入しながらメタンガスを傾斜的に増加させたTiTa合金酸炭化物膜の傾斜密着層103を0.2μm形成した。その後、TiTa合金炭化物膜からなる硬化層104を1.6μm形成した。その後、メタンガスを傾斜的に増加させたTiTa合金炭化膜のグレー色調層105を0.3μm形成した。この実施例7で得られるグレー色調硬質装飾部材100の外観カラーは、Lab色空間表示により、L*:66.88、a*:0.87,b*:1.64であり深みのあるグレー色調を呈した。また、反射率測定における可視領域(360〜740nm)での最大値と最小値との差は、8.75%であった。
【0167】
グレー色調硬質装飾部材100の密着層102はアルゴンガス105sccm一定条件の下、酸素ガスを3sccm導入し、TiTa合金低級酸化物膜を0.1μm形成した。TiTa合金低級酸化物にすることで、TiTa合金膜よりも基材との密着性が増し耐傷性を向上させることができる。傾斜密着層103は、酸素ガスを3sccm導入しながら、メタンガス導入量を0sccmから最大硬度を示す50sccmまで傾斜的に増加させたTiTa合金酸炭化物膜を0.2μm形成した。硬化層104は、最大硬度を示すメタンガス導入量50sccmの条件でTiTa合金炭化物膜104を1.6μm形成した。グレー色調層105はメタンガスを50sccmから60sccmまで傾斜的に増加させたTiTa合金炭化物膜を0.3μm形成した。
【0168】
実施例7のグレー色調硬質装飾部材100における傾斜密着層103は、密着層と硬化
層間で明確な界面が無くなることから、基材と密着層との一体化が図れる。傾斜密着層があることで密着層と硬化層との密着性が十分に確保され、また膜応力が傾斜的に上昇する構造となることから、応力歪みによるクラックの発生、剥離の抑制効果が得られ、耐傷性、耐摩耗性が向上すると共に、膜硬度の高い硬化層を厚く形成できるようになる。耐傷性はおおよそ基材上に積層される硬化層全体の硬度、膜厚、基材との密着度の積によって決定されることから、基材との密着性が向上することにより耐傷性を向上させることができる。
【0169】
実施例7のグレー色調硬質装飾部材100におけるグレー色調層105は、炭素含有量を傾斜的に増加させていることにより、色調の変化が緩やかになり、また硬化層104との密着性が高く、傷が入っても剥離しにくく、また傷が目立ちにくいという効果にも寄与している。
【0170】
図19には、実施例7のグレー色調硬質装飾部材100における耐傷性能を測定した結果を示した。同図において、比較として、
図9に示される特許文献1に基づいて作成した装飾部材120、本発明に係わる実施例7のグレー色調硬質装飾部材100、硬質膜を形成していないJIS2種に規定されるTi基材、
図6に示される非特許文献1に基づいて作製した、Ti基材上に硬度HV1100相当のTiC膜を0.8μm形成した装飾部材110 の耐傷性(二乗平均粗さ)を測定した結果を示した。
図19から、本発明の実施例7のグレー色調硬質装飾部材100は、硬質膜を形成していないTi基材に対してはもちろん、特許文献1に基づいて作成した装飾部材120、非特許文献1に基づいて作製した装飾部材110と比較しても、はるかに耐傷性能が良くなっていることが確認された。
【0171】
なお、耐傷性能はおおよそ基材上に積層される硬化層全体の硬度、膜厚、基材との密着度、基材の硬度の積によって決定されることから、比較で作成したTiC膜(装飾部材110)の膜厚も1.6μm以上になるよう形成したかったが、TiC膜をそのまま基材に形成した場合、0.9μm以上の膜厚で膜にクラックや剥離が観測されたことから、膜厚を0.8μmとした。
【0172】
実施例7の耐食性評価結果は、実施例6の表11と同様に酸、アルカリに対して高い耐食性能を示した。また、グレー色調硬質装飾部材100全体での膜硬度は、HV2440であった。なお、硬化層の膜硬度の方が、グレー色調層の膜硬度よりも大きかった。
【0173】
なお、上述した実施例において、積層した各層中での金属元素の割合は、原料焼結体中のものが保たれていた。また、積層した各層中での非金属元素の割合は、各層の積層中に導入した反応ガスの量に応じて変化していた。たとえば、グレー色調傾斜層、傾斜密着層中の非金属元素の割合は、層の積層中に導入した反応ガスの量を増やすにしたがって大きくなった。