特許第6084287号(P6084287)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6084287
(24)【登録日】2017年2月3日
(45)【発行日】2017年2月22日
(54)【発明の名称】発光結晶を含む歯科修復用複合材料
(51)【国際特許分類】
   A61K 6/083 20060101AFI20170213BHJP
【FI】
   A61K6/083 530
【請求項の数】15
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-516111(P2015-516111)
(86)(22)【出願日】2013年6月4日
(65)【公表番号】特表2015-518889(P2015-518889A)
(43)【公表日】2015年7月6日
(86)【国際出願番号】US2013044052
(87)【国際公開番号】WO2013184647
(87)【国際公開日】20131212
【審査請求日】2015年1月21日
(31)【優先権主張番号】61/654,986
(32)【優先日】2012年6月4日
(33)【優先権主張国】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】590004464
【氏名又は名称】デンツプライ シロナ インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100096943
【弁理士】
【氏名又は名称】臼井 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100102808
【弁理士】
【氏名又は名称】高梨 憲通
(74)【代理人】
【識別番号】100128668
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 正巳
(74)【代理人】
【識別番号】100134393
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 克彦
(72)【発明者】
【氏名】オステラー,カルヴィン,デー.
(72)【発明者】
【氏名】ルー,フイ
【審査官】 鶴見 秀紀
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2008/0057000(US,A1)
【文献】 J.Photoplym.Sci.Technol,2009年,Vol.22,No.5,pp.551-554
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 6/00−6/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯科修復用複合材料であって、
重合性有機レジンと、
活性化波長を有する放射線活性化開始剤と、
不活性フィラーと、
発光結晶であって、該発光結晶に少なくとも780nmの波長を有する放射線を照射した場合に、前記開始剤の活性化波長に適合する所定の波長で放射線を放出する、発光結晶と、
を含む、歯科修復用複合材料。
【請求項2】
前記レジンが重合性(メタ)アクリレートを含む、請求項1に記載の歯科修復用複合材料。
【請求項3】
前記レジンが、2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシ−3−メタクリロイルオキシプロポキシ)フェニル]プロパン、1,6−ビス(2−メタクリロキシエトキシカルボニルアミノ)−2,4,4−トリメチルヘキサン、2,2−ビス[4−(メタクリロイルオキシ−エトキシ)フェニル]プロパン(又はエトキシ化ビスフェノールA−ジメタクリレート)、イソプロピルメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、3−(アクリロイルオキシ)−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、1,3−プロパンジオールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリトリトールトリアクリレート、ペンタエリトリトールテトラアクリレート、ペンタエリトリトールテトラメタクリレート、及びそれらの組合せからなる群から選択される化合物を含む、請求項2に記載の歯科修復用複合材料。
【請求項4】
前記不活性フィラーが、ストロンチウムホウケイ酸塩、ストロンチウムフルオロアルミノホウケイ酸塩ガラス、ストロンチウムアルミノナトリウムフルオロリン−ケイ酸塩ガラス、バリウムホウケイ酸塩、バリウムフルオロアルミノホウケイ酸塩ガラス、バリウムアルミニウム−ホウケイ酸塩ガラス、バリウムアルミノホウケイ酸塩、カルシウムアルミノナトリウムフルオロケイ酸塩、ランタンケイ酸塩、ランタンアルミノケイ酸塩、カルシウムアルミノナトリウムフルオロリンケイ酸塩、窒化ケイ素、二酸化チタン、ヒュームドシリカ、コロイドシリカ、石英、カオリンセラミック、カルシウムヒドロキシアパタイト、ジルコニア、又はそれらの混合物を含む、請求項1に記載の歯科修復用複合材料。
【請求項5】
前記放射線活性化開始剤が、約360nm〜約520nmの範囲の活性化波長を有する、請求項1に記載の歯科修復用複合材料。
【請求項6】
前記放射線活性化開始剤が、カンファキノン、ジケトン開始剤、ジケトン開始剤の誘導体、アシルホスフィンオキシド開始剤、ジフェニル(2,4,6−トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド、1−フェニル−1,2−プロパンジオン、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキシド、エチル2,4,6−トリメチルベンジルフェニルホスフィネート、又はそれらの組合せを含む、請求項1に記載の歯科修復用複合材料。
【請求項7】
前記発光結晶が、ランタニド系列イオンでドープされた結晶性ホストを含む、請求項1に記載の歯科修復用複合材料。
【請求項8】
前記結晶性ホストが、ランタニドフッ化物、ランタニド塩、ランタニド酸化物、及びそれらの組合せからなる群から選択される、請求項7に記載の歯科修復用複合材料。
【請求項9】
前記結晶性ホストが、少なくとも2つの異なるランタニド系列イオンで共ドープされる、請求項8に記載の歯科修復用複合材料。
【請求項10】
前記発光結晶が、化学式Lu:2%Yb3+,0.2%Tm3+を有する、2%のイッテルビウムと0.2%のツリウムとで共ドープされた酸化ルテチウムを含む、請求項7に記載の歯科修復用複合材料。
【請求項11】
前記結晶性ホストが、5%以下のランタニド系列イオンでドープされる、請求項7に記載の歯科修復用複合材料。
【請求項12】
前記発光結晶が、球、立方体、棒、円柱形、及びそれらの組合せからなる群から選択される幾何学的形状を有する、請求項7に記載の歯科用修復材。
【請求項13】
前記発光結晶が、20nm〜150nmの範囲の粒径を有する、請求項7に記載の歯科用修復材。
【請求項14】
前記結晶性ホストが、該ホストに入れられるランタニド系列イオンでドープされる、ランタニドフッ化物、ランタニド塩又はランタニド酸化物である、請求項7に記載の歯科用修復材。
【請求項15】
歯科修復用複合材料であって、
約15重量パーセント〜約25重量パーセントの重合性有機(メタ)アクリレートレジンと、
カンファキノン、ジケトン開始剤、ジケトン開始剤の誘導体、アシルホスフィンオキシド開始剤、ジフェニル(2,4,6−トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド、1−フェニル−1,2−プロパンジオン、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキシド、エチル2,4,6−トリメチルベンジルフェニルホスフィネート、及びそれらの組合せからなる群から選択される、約0.05重量パーセント〜約1.0重量パーセントの放射線活性化開始剤と、
約56重量%〜約85重量%の不活性フィラーと、
ランタニド系列イオンでドープされる、ランタニドフッ化物、ランタニド塩、ランタニド酸化物、及びそれらの組合せからなる群から選択される結晶性ホストを含む、約1重量%〜約20重量%の発光結晶であって、該発光結晶に約780nm〜約1064nmの範囲の波長を有する近赤外放射線を照射した場合に、前記開始剤の活性化波長に適合する所定の波長で放射線を放出する、発光結晶と、
を含む、歯科修復用複合材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化性歯科修復用複合材料に関し、より詳細には、発光結晶を含有する硬化性歯科用複合材料に関する。
【0002】
本出願は、2012年6月4日に出願され、その全体が引用することにより本明細書の一部をなすものとする米国仮出願第61/654986号の恩典及び優先権を主張する。
【背景技術】
【0003】
硬化性歯科用複合材料は、窩洞を充填するために歯科医術において広範に使用されている。歯に似た優れた外観を有する歯科用複合材料は、光重合技術の発展とともに要求に応じて(on command)形成することができる。複合材料は、多種多様な材料を含有し、モノマーと、特定の波長に曝されると、開始種(商用の歯科用複合材料の大多数にとって最も一般には開始ラジカル)を発生させることにより、モノマーの重合を開始させて、複合材料を硬化させる光開始剤とを含んでいてもよい。開始ラジカルを発生させる機構に基づき、フリーラジカル重合のための光開始剤は一般的に、2つのグループ:1)照射を受けて単分子の結合開裂/分離を経てフリーラジカルを発生させる、Norrish Type I光開始剤、及び2)光開始剤の励起状態が共開始剤と相互作用し、励起状態の複合を形成してフリーラジカルをもたらす二分子反応を経る、Norrish Type II光開始剤に分類される。UV硬化用途では、多くのNorrish Type I開始剤及びNorrish Type II光開始剤が存在するのに対し、可視光照射源では、光開始剤が比較的限定される(ほとんどがType II)。
【0004】
しかしながら、可視青色光は、エナメル質及び象牙質、並びに、蛍光(410nm励起による520nm蛍光発光等)を経たより長い波長への或る特定のダウンコンバージョンによって散乱及び吸収されこともある。歯科医が、修復部位の上から歯及び複合材料を照らすことによって、及び/又は象牙質及びエナメル質を通して側面から光を当てることによって、歯科用複合材料を硬化させようと試みる場合、組織を通過する青色光の多くは、減衰(主に、或る特定の吸収及び蛍光を伴う光散乱)のために失われる。その結果、これは、天然歯構造を貫通するのに比較的高い可視青色光強度(照射量)を必要とする。
【0005】
その上、従来の複合材料を用いた臨床措置では古くから、複合材料層を一層ずつ構築することが要求されている。徐々に増えるような配置又は成層配置は、重合収縮応力及び硬化制限深さに起因して必要なものである。歯科用複合材料の主要な欠点の1つとして、制限された重合収縮は、複合材料と歯との間の境界における収縮応力の分断をもたらし、歯構造へと伝達されるおそれがある。
【0006】
約800nm〜約1200nmの近赤外エネルギー(「近IR治療可能域(Near-IR Therapeutic Window)」)は、あまり吸収及び散乱することなく天然歯列を通り抜けるため、青色光(ピーク発光〜470nm)放射線と比べてかなり深く透過し、非特許文献1において或る特定の歯科用材料の蛍光(luminescent)アップコンバージョンに使用されている。この引用文献では、フッ化イットリウムホストのナトリウム塩に、25%のイッテルビウムと0.3%のツリウムとが共ドープされている(β−NaYF:25%Yb3+,0.3%Tm3+)。該調剤は固体塩であり、これをボールミルにより粉砕して(balled milled)2〜3マイクロメートル範囲の粒子直径とし、歯科用接着剤(Heliobond)に組み込んでいる。
【0007】
歯科用接着剤の使用にもかかわらず、Stepukの教示は、歯科技師(dental arts)に譲渡可能なものではなく、Stepukによって満たすことができていない数多くの欠陥が残っている。他の満足のいくものではない結果の中でも、この引用文献の更に詳しい検証から、90ワット以上の980nmのエネルギーを印加すると、1ミリワットの使用可能な490nmの放射が得られ、これはおよそ0.001%の効率に相当することが表される。したがって、有用な結果を実現するのに必要とされるパワーが、歯髄又は他の周囲組織における不適格な温度上昇を招くであろうことから、Stepukの教示は、実際の歯科用途に直接的に発展可能なものではない。Stepukはまた、20%より大きい粒子負荷についても全く教示していないため、該当物を歯科用複合材料とするのにも十分でないと考えられ、また、アップコンバージョンの効果に更に影響を与える、複合材料に含まれる可能性のある他の構成要素についても説明していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Stepuk, A., et. al., "Use of NIR light and up conversion phosphors in light-curable polymers", Dental Materials 28, (2012) 304-311
【発明の概要】
【0009】
例示的な実施の形態は、より効率的なホスト材料及びドーパント濃度を採用して、エネルギーを発生させるのに要求されるパワーがより小さく、また、周囲の歯組織に対するリスクがより低い発光フィラーを含有する硬化性歯科用複合材料を提供することによってこれらの及び他の欠点を克服する、歯科用複合材料及び、該歯科用複合材料を硬化させる方法に関するものであり、その上、不活性フィラー及び歯科用複合材料に含まれ得る他の成分についても説明する。
【0010】
例示的な実施の形態によれば、歯科用複合材料は、重合性モノマーと、活性化波長を有する放射線活性化開始剤と、不活性フィラーと、発光結晶とを含む。発光結晶は、発光結晶に開始剤の活性化波長よりも長い波長、典型的には780nmを超える波長を有する放射線、より典型的には約780nm〜約1064nmの範囲の近赤外放射線(NIRとも称される)を照射した場合に、開始剤の活性化波長に適合する所定の波長で放射線を放出する。
【0011】
或る特定の実施の形態において、結晶は、1つ又は複数のランタニドイオンでドープされる、ランタニドフッ化物、塩、又は酸化物のホストを採用する。
【0012】
例示的な別の実施の形態によれば、歯科用複合材料を硬化させる方法は、本明細書に記載の歯科用複合材料を準備することと、歯内に形成される窩洞を、準備した歯科用複合材料で充填することと、複合材料に、スペクトルの近赤外範囲における所定の固定波長で放射線を放出するレーザ源を有する硬化ライトから放射線を照射することとを含む。所定の固定波長における放出された放射線によって、発光結晶に、開始剤の活性化波長で放射線を放出させる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】1つの例示的な実施形態による発光結晶の放射線放出を概略的に示す電子図である。
図2】例示的な実施形態による硬化プロセスの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
例示的な実施形態は、光開始剤の活性化に対応する波長で放射線を放出する、アップコンバージョンを行う(up-converting)発光結晶を含有する、歯科用複合材料製剤に関するものである。複合材料中に(故に、充填剤として使用される場合、窩洞内に)分散される、発光結晶及び光開始剤の結果として、より均一な材料特性及び収縮応力分布を伴う修復を実現することができる。その上、より均一な応力分布は、窩底における収縮応力集中をより小さいものとし、歯−複合材料接合に対する損傷をより少ないものとする。これは数多くの研究にから、従来の複合材料は、通常の様式で咬合面から光により硬化させた場合、重合収縮応力に起因して窩底から離れる傾向にあることが示されているためである。
【0015】
発光材料中、ホストは、多くのエネルギージュールが、ホストのマトリックスに入り、また、ドーピングによりホスト全体を通じて散乱される吸収中心及び発光中心がエネルギーを所定のレベルでの電子の分布逆転が得られるまで吸収することを可能とする。その時、系全体から放出される放射線の前駆体である、特定波長のフォトンのパルスを作り出す、この逆転のカスケードが存在する。
【0016】
かかる系において、入力エネルギーが、圧倒的なものか、又は特殊な非干渉波長のものか、又は両方のいずれの場合にも、ホスト材料は、フォノンエネルギーにあまり影響を及ぼし得ない。さらに、これらの結晶レーザ系では、より高いエネルギー波長を、励起光源として使用して、より低いエネルギー波長が作り出される。例えば、エルビウムでドープされたイットリウム−アルミニウム−グラニットホストレーザ(Er:YAGレーザ)において、ポンプ波長は、885ナノメートル及び/又は1532ナノメートル(nm)であり、放出された波長はエネルギーがかなり小さく、波長は2940nmと長くなる。このポイントを等しく表すものは、同一材料をホストとするネオジムの吸収中心及び発光中心が、808nmにおけるエネルギーを吸収し、かつ1264nmにおけるエネルギーを放出して、再び、より長くより小さいエネルギー波長となることである。これらのレーザは33%以上相対的に効率が良い。そのような場合、系のフォノンエネルギーに及ぼす影響は無視することができる。しかしながら、蛍光体(phosphor)アップコンバージョンの間、より低いエネルギー準位、吸収エネルギーのより長い波長、例えば980nmから始まり、かなり高いエネルギー及び例えば490nmのより短い波長の放出が得られる。
【0017】
例示的な実施形態による歯科用複合材料は、重合性有機レジンと、放射線活性化開始剤と、不活性フィラーと、発光結晶とを含み、更に、1つ又は複数の他の構成要素を含んでいてもよい。
【0018】
重合性有機レジンは、任意の重合性モノマー及び/又はオリゴマーであってもよいが、典型的には1つ若しくは複数の(メタ)アクリレート、又は他のフリーラジカル重合性化合物である。重合性モノマーの例としては、2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシ−3−メタクリロイルオキシプロポキシ)フェニル]プロパン(Bis−GMA)、1,6−ビス(2−メタクリロキシエトキシカルボニルアミノ)−2,4,4−トリメチルヘキサン(UDMA)、2,2−ビス[4−(メタクリロイルオキシ−エトキシ)フェニル]プロパン(又はエトキシ化ビスフェノールA−ジメタクリレート)(EBPADMA)、イソプロピルメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート(TEGDMA)、ジエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、3−(アクリロイルオキシ)−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、1,3−プロパンジオールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート(HDDMA)、ペンタエリトリトールトリアクリレート、ペンタエリトリトールテトラアクリレート、ペンタエリトリトールテトラメタクリレート、及びそれらの組合せ等のモノ−、ジ−又はマルチ−メタクリレート及びアクリレートが挙げられるが、全て例示的なものである。
【0019】
重合性モノマーは、複合材料の約15重量パーセント〜25重量パーセント、典型的には約17重量%〜約23重量%として存在する。或る特定の実施形態において、重合性モノマーは、高分子量の構成成分(例えば、Bis−GMA 513g/mol及び/又はUDMA 471g/mol等)と、低分子量の構成成分(例えば、TEGDMA 286g/mol及び/又はHDDMA 254g/mol等)との組合せである。一実施形態では、重合性モノマーが、全複合材料製剤中に、約14重量%〜約18重量%の高分子量の構成成分と、約3重量%〜約5重量%の低分子量の構成成分とで存在する。
【0020】
例示的な実施形態による歯科用複合材料はまた、不活性フィラー粒子を含み、歯科用組成物における使用に適する任意の不活性フィラー粒子が採用され得る。不活性フィラーは、複合材料に所望の物理特性、例えば、機械強度、弾性率、硬度、耐摩耗性の増大、熱膨張及び重合体積収縮の低減をもたらす。不活性フィラー粒子の例としては、ストロンチウムホウケイ酸塩、ストロンチウムフルオロアルミノホウケイ酸塩ガラス、ストロンチウムアルミノナトリウムフルオロリン−ケイ酸塩ガラス、バリウムホウケイ酸塩、バリウムフルオロアルミノホウケイ酸塩ガラス、バリウムアルミニウム−ホウケイ酸塩ガラス、バリウムアルミノホウケイ酸塩、カルシウムアルミノナトリウムフルオロケイ酸塩、ランタンケイ酸塩、ランタンアルミノケイ酸塩、カルシウムアルミノナトリウムフルオロリンケイ酸塩、及びそれらの組合せが挙げられるが、それらに限定されない。他のフィラー粒子としては、窒化ケイ素、二酸化チタン、ヒュームドシリカ、コロイドシリカ、石英、カオリンセラミック、カルシウムヒドロキシアパタイト、ジルコニア、及びそれらの混合物が挙げられる。
【0021】
ヒュームドシリカの例としては、DeGussa AGによるOX−50(40nmの平均粒径を有する)、DeGussa AGによるAerosil R−972(16nmの平均粒径を有する)、DeGussa AGによるAerosil 9200(20nmの平均粒径を有する)が挙げられ、他のAerosilヒュームドシリカとしては、Aerosil 90、Aerosil 150、Aerosil 200、Aerosil 300、Aerosil 380、Aerosil R711、Aerosil R7200及びAerosil R8200、並びにCabot CorpによるCab−O−Sil M5、Cab−O−Sil TS−720、Cab−O−Sil TS−610が挙げられ得る。
【0022】
不活性フィラーは、約0.001ミクロン〜約50ミクロンの範囲の粒径を有する。
【0023】
不活性フィラー粒子の一部又は全てを、複合材料組成物に組み込む前に任意に表面処理してもよい。表面処理、特にシランカップリング剤又は他の化合物を用いた表面処理が、不活性フィラー粒子を有機レジンマトリックス中により均一に分散させ、また物理的特性及び機械的特性を改善させるのに望まれ得る。好適なシランカップリング剤としては、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、及びそれらの混合物が挙げられる。
【0024】
不活性フィラー粒子は、歯科修復用組成物の大部分をなし、歯科用複合材料において歯科修復用複合材料の約56重量%〜約85重量%、例えば約60重量%〜約80重量%、又は約70重量%〜約75重量%の量で存在し得る。一実施形態では、不活性フィラー粒子は、約56重量%、約57重量%、約58重量%、約59重量%、約60重量%、約61重量%、約62重量%、約63重量%、約64重量%、約65重量%、約66重量%、約67重量%、約68重量%、約69重量%、約70重量%、約71重量%、約72重量%、約73重量%、約74重量%、約75重量%、約76重量%、約77重量%、約78重量%、約79重量%、約80重量%、約81重量%、約82重量%、約83重量%、約84重量%若しくは約85重量%、又はそれらの間の任意の範囲で存在する。更に当然のことながら、幾つかの実施形態では、発光結晶が不活性フィラー粒子に完全に取って代わることも考えられる。
【0025】
一実施形態では、フィラーが、バリウムアルミノフルオロホウケイ酸塩ガラス(BAFG、約1ミクロンの平均粒径を有する)等のミクロンサイズの放射線不透過性フィラーと、ヒュームドシリカ、例えば、Degussa AGによるOX−50(約40nmの平均粒径を有する)等のナノフィラー粒子との混合物を含み得る。一実施形態では、ミクロンサイズのガラス粒子の濃度を、歯科修復用複合材料の約70重量パーセント〜約80重量パーセントの範囲とし、ナノフィラーサイズの不活性フィラー粒子を、複合材料の約1重量パーセント〜約10重量パーセントの範囲とすることができる。
【0026】
歯科修復用組成物はまた光開始剤を含む。分離して開始種を形成する任意の好適な光開始剤を採用してもよいが、光開始剤は、他の歯科修復用途で現在採用されているもの等の可視光スペクトル範囲で有効なものが好ましい。光開始剤の活性化波長は、約360nm〜約520nm、特に約400nm〜500nmの範囲をとることができるが、当然のことながら、具体的な範囲及びピーク活性化(すなわち、吸収)波長は、選択される特定の光開始剤に応じて決まると考えられる。例えば、カンファキノン(CQ)は、可視青色スペクトル(約420nm〜500nmの範囲)で特異的にエネルギーを吸収し、468nmにおけるピーク吸収を有する。
【0027】
好適な光開始剤の例としては、CQ等のジケトン系開始剤、ジケトン開始剤の誘導体及びジフェニル(2,4,6−トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド(L−TPO)等のアシルホスフィンオキシド系光開始剤、並びにそれらの組合せが挙げられる。1−フェニル−1,2−プロパンジオン(PPD)等の他のジケトン系光開始剤、及びビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキシド(Irgacure 819)、エチル2,4,6−トリメチルベンジルフェニルホスフィネート(Lucirin LR8893X)等のアシルホスフィンオキシド系光開始剤も使用することができる。上述のいずれかを個々に又は互いに組み合わせて使用することができる。
【0028】
光開始剤は、歯科修復用組成物の約0.05重量%〜約1.0重量%、例えば、約0.08重量%〜約0.5重量%、又は約0.1重量%〜約0.25重量%の量で存在する。(組成物の起こるおそれのある変色を減らす)光開始剤は比較的少量であるにもかかわらず、後でより詳細に論じるように、発光結晶自体に近赤外放射線を照射したときにそれらの結晶により放出される放射線に組成物を曝した場合に、窩洞全体にわたって硬化マトリックスを急速に形成するのに十分な量で、光開始剤は依然存在する。
【0029】
複合材料の重合開始剤系は、重合促進剤を更に含んでいてもよく、これは第三級アミンとすることができる。好適な第三級アミンの一例は4−(ジメチルアミノ)安息香酸エチル(EDAB)である。使用することができる他の第三級アミンとしては、2−(エチルヘキシル)−4−(N,N−ジメチルアミノ)ベンゾエート、4−(ジメチルアミノ)ベンゾニトリル等が挙げられる。重合促進剤は、歯科修復用組成物の約0.03重量%〜約0.18重量%、例えば歯科修復用組成物の約0.04重量%〜約0.15重量%又は約0.05重量%〜約0.12重量%の量で存在し得る。
【0030】
例示的な実施形態は更に、発光結晶及び不活性フィラーの両方を採用する実施形態において歯科修復用複合材料の約0.1重量%〜約80重量%、典型的には約0.1%〜約20%の量で、歯科修復用組成物全体にわたって分布される発光結晶を組み込むものである。幾つかの実施形態では、発光結晶は、約1重量%〜約20重量%又は約1重量%〜約10重量%で存在する。一実施形態では、発光結晶は、約1重量%、約2重量%、約3重量%、約4重量%、約5重量%、約6重量%、約7重量%、約8重量%、約9重量%、約10重量%、約11重量%、約12重量%、約13重量%、約14重量%、約15重量%、約16重量%、約17重量%、約18重量%、約19重量%、若しくは約20重量%、又はそれらの間の任意の範囲で存在する。
【0031】
修復用組成物中の発光結晶の分布は、好ましくは不均質なものであり、これは、例えば、組成物内における結晶の不完全な混合によって達成され得る。しかしながら、分布は均質なものであってもよい。
【0032】
発光結晶は、より長い波長を有する放射線を照射した場合に、より詳細には、約780nm〜約1064nmの範囲の波長を有する近赤外放射線を照射した場合に、可視スペクトル又は紫外スペクトルにおける波長で放射線を放出する、アップコンバージョンを行う粒子である。光開始剤及び発光結晶は、発光結晶の発光波長が、光開始剤の活性化波長(すなわち、ピーク吸収波長又はそれに近い波長)に対応するように選択される。
【0033】
本発明の例示的な実施形態での使用に適した発光結晶としては、フッ化ランタニド、フッ化物塩、又は酸化物のホスト、例えばイッテルビウム(Yb3+)、ルテチウム(Lu3+)、ツリウム(Tm3+)、テルビウム(Tb3+)、エルビウム(Er3+)、及びプラセオジム(Pr3+)等の1つ又は複数のランタニド系イオンがドープ又は共ドープされている、フッ化イッテルビウム塩(Na(YbF)等)及び/又は酸化ルテチウム(Lu)を用いるものが挙げられる。酸化イットリウム塩及びフッ化イットリウム塩のホストも検討されるものの、発光アップコンバージョンに対するランタニドの寄与のため、ランタニドベースのホストが好ましい。1つの好ましいホストはLuである。酸化ルテチウムは、フッ化イットリウムよりも低いフォノンエネルギー(300cm−1)を有するが、ルテチウムのイオン半径は、ルテチウムにドープする他のランタニド元素のものとほぼ等しく、全て+3の酸化状態にある。厳密に適合するイオン半径は、ホスト格子内におけるより有利なドーパントの置換と同一視される。さらに、Luは、立方晶ビクスバイト(bixbyte)構造で結晶化し、これは、四フッ化イットリウムのナトリウム塩が歯科用複合材料のためのフィラー材料である場合により望ましい。
【0034】
1つの特に好適な発光結晶は、Li, L. et. al., "Synthesis and up conversion luminescence of Lu2O3:Yb3+,Tm3+ crystals" Trans. Nonferrous Met. Soc. China 22(2012) 373-379(その内容全体が引用することにより本明細書の一部をなす)に記載されている、イッテルビウムとツリウムとで共ドープされた酸化ルテチウム(Lu:2%Yb3+,0.2%Tm3+)である。他の好適な発光結晶としては、NaYbF:Tm3+、Tm3+及び/又はTb3+で共ドープされたフッ化ルテチウム(LuF)、並びに、Barrera, E. W., et al, "Emission properties of hydrothermal Yb3+, Er3+ and Yb3+, Tm3+-codoped Lu2O3 nanorods: upconversion, cathodoluminescence and assessment of waveguide behavior", Nanotechnology 22 (2011)、及び、Li, C. et al., Shape controllable synthesis and upconversion properties of NaYbF4/NaYbF4:Er3+ and YbF3/YbF3:Er3+ microstructures", J. Mater. Chem., 18, 1353-1361 (2008)(それらの内容も引用することにより本明細書の一部をなす)に記載されているものが全て一例として挙げられる。
【0035】
共ドープされたYb及びEr、又はYb及びTmの発光結晶、例えばYbF/YbF:Er3+では、それぞれモル比が1:1〜1:10となると考えられる。それぞれ10:1〜1:1の逆の比率も有用である。結晶を形成するpHは、形状を変えるのに使用することができる。Er3+又はTm3+のホストとして働くマトリックスの一部としてYbを有することは、他の希土類金属がマトリックスに関連する他の形態、例えば共ドープ塩β−NaYF:Yb3+,Tm3+よりも優れた性能をもたらす可能性があり、この場合の重量パーセンテージはそれぞれ0.01%〜30%であり、ここでも、それぞれ逆の30%〜0.01%も有用である。酸化物では、塩と同様の重量パーセンテージで共ドープされた結晶、例えばLuO:Yb3+,Tm3+が有用である。
【0036】
発光結晶の平均粒径は、概して20nm〜150nm、典型的は30nm〜80nmであり、いずれの製造プロセスを使用するかに応じて決定され得るが、より大きい結晶及びより小さい結晶についても検討する。発光結晶の結晶構造は、球、棒状、円柱形、立方体、円盤、六角形、又はそれらの組合せ、及び多種多様な他の形状をとることができる。
【0037】
吸収中心及び発光中心、すなわち、ドーパント(例えば、Lu:2%Yb3+,0.2%Tm3+の場合、Yb3+及びTm3+)は、アップコンバージョンの効率、故に、歯科用複合材料における結晶の有用性に関するものである。効率及び粒径は、結晶の調製及び焼成(calcination)の方法の結果として増大し得る。1100℃まで焼成温度を上昇させると、温度はより高く、粒子はより大きく、化合物はより効率的なものとなる。種々の方法及び構成要素、例えば、Li, C.及びBarrera, E. W.の文献(引用することにより既に本明細書の一部をなす)に記載されているものは、種々の結晶形状及び結晶サイズを作り出すのに使用され得るプロセスの例示的なものである。
【0038】
アップコンバージョンは、図1について(改めて、Lu:2%Yb3+,0.2%Tm3+の場合に)記載される六段階法によって達成される。Yb3+イオンが、エネルギー準位でTm3+により吸収される980nm(102)の放出エネルギー(105)によりレーザ励起されることによって、電子がエネルギーを吸収して準位へと励起される(110)。その後、非発光減衰が起こり、電子は、エネルギー準位からエネルギー準位へと下がる(120)。Yb3+が、エネルギー準位においてTm3+により吸収される980nmの放出エネルギーでレーザ励起されることによって、電子がエネルギーを吸収して準位へと励起される(130)。その後、非発光減衰が起こり、電子は、エネルギー準位からエネルギー準位へと下がる(140)。Yb3+が、エネルギー準位においてTm3+により吸収される980nmの放出エネルギーでレーザ励起されることによって、電子がエネルギーを吸収して準位へと励起される(150)。ほんの一部の電子は準安定エネルギー準位へと落下して653nmでフォトンを放出するのに対し、エネルギー準位へと上昇した電子の大部分は、基底エネルギー準位へと落下することで、該プロセスにおいて490nmフォトンを放出する。
【0039】
以下、式1〜式3について示されるように、Luをホストマトリックスとして使用する場合、Tm3+の試験から、ドーパント含有量が0.2%を上回ると濃度消光が起こることが実証される。Tm3+含有量が多いと、Tm3+イオン同士間の自己消光、すなわち交差緩和メカニズムが活性化する。エネルギーの移動プロセスは、式に表されるように説明することができ、かかるエネルギーの移動は、図1に示すように、準位から出て準位へと入ることができることによって、非発光遷移の程度を増大させる。しかしながら他方で、Yb3+イオンを大量にドープすると、不純物の量の増大、Yb3+の濃度消光、式4に表されるようなTm3+からYb3+へのエネルギーの逆移動等の多くの因子が生じる。かかるエネルギーの逆移動は、アップコンバージョン発光強度を効果的に減少させるものである。
Tm3+)+Tm3+)→Tm3+)+Tm3+) (1)
Tm3+)+Tm3+)→Tm3+)+Tm3+) (2)
Tm3+)+Tm3+)→Tm3+)+Tm3+) (3)
Tm3+)+Yb3+7/2)=Tm3+)+Yb3+5/2) (4)
【0040】
Lu:Yb3+,Tm3+結晶における焼成の際の温度を高くすると、FT−IR分析により、スペクトルから、焼成温度の上昇につれてOHの吸収バンドが弱くなることが示される。高振動数を有するOH群は、非発光緩和率を増大させるため、アップコンバージョン効率を低下させると考えられる。これは、アップコンバージョン強度の向上は、ナノ粒子の表面上に位置するOH群の減少によってもたらされ得ることを指し示している。より高い焼成温度を使用してナノ粒子のサイズ(nanoparticles size)を大きくすることによって、表面積対容積比(surface-to-volume ratio)を減少させて、ナノ粒子の表面上のOH群を減らすことができる。
【0041】
例示的な実施形態による歯科用複合材料は、具体的に望まれる特徴をもたらすために、他の添加剤を更に含んでいてもよい。添加剤の例としては、紫外線安定剤、蛍光剤、乳白剤、顔料、粘度調整剤、フッ化物放出剤、重合阻害剤等が挙げられる。フリーラジカル系のための典型的な重合阻害剤としては、ヒドロキニンモノメチルエーテル(MEHQ)、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、ターシャリーブチルヒドロキニン(TBHQ)、ヒドロキノン、フェノール等が挙げられ得る。
【0042】
かかる付加的な添加剤の量は典型的に微量であるため、添加剤は開始剤及び任意の促進剤と合わせて合計、歯科修復用組成物の1.5重量%以下を構成する。
【0043】
重合阻害剤は、歯科修復用組成物の約0.001重量パーセント〜約1.5重量パーセント、例えば、歯科修復用組成物の約0.005重量パーセント〜約1.1重量パーセント、又は約0.01重量パーセント〜約0.08重量パーセントの量で存在するものであってもよい。
【0044】
例示的な実施形態による歯科修復用組成物は、歯科の患者の窩洞を充填するのに使用することができるため、ワンステップの実装、及び当該技術分野においてこれまでに知られていない硬化修復用組成物をもたらす。
【0045】
図2を見てみると、歯科用途の場合の硬化プロセスが概略的に示されている。開業医が患者の歯410を検査して、齲歯420形態の虫歯を発見する。開業医は、標準的な技法及び手順を用いて齲歯420を取り除き、再充填すべき窩洞430を残す。開業医が歯科用接着剤を施し、光が歯科用接着剤を硬化させることで、窩洞430が、本明細書中に記載される例示的な実施形態による歯科修復用組成物440、例えば、重合性レジン及び不活性フィラーとともに、約0.2%のTm3+と約2%のTb3+とで共ドープされる酸化ルテチウムの発光結晶と、光開始剤としてカンファキノンとを含有する組成物で充填される。
【0046】
発光結晶は、0.2%のTm3+と2%のTb3+とで共ドープされる酸化ルテチウムの場合、980nmを含む近赤外線を吸収し、またそれに応じて、490nmの可視青色放射線を放出する。CQは、粒子の発光アップコンバージョンによって作り出されるスペクトル放出波長に感応性である。したがって、開業医が、980nmを放出するレーザダイオードを有する硬化ライト470を用いて980nmのレーザエネルギー450を印加すると(450)、発光結晶(図示のために参照符号460として示される)が、980nmのレーザ放射線を吸収して、490nmを中心とする光のスペクトルを放出する。これによって、CQが誘起されて、重合プロセスが開始し、複合材料440が硬化する。
【0047】
適切に適合するNIR吸収、アップコンバージョンを行う発光結晶と組み合わせて、いずれの近赤外放射線源を採用してもよい。しかしながら、比較的安価なダイオードレーザを通じて980nmの波長が現在、すぐに利用可能であるため、980nmの波長の放射線を吸収する、0.2%のTm3+と2%のTb3+とで共ドープされる酸化ルテチウム等のものが目下好ましい。しかしながら、当然のことながら、発光結晶の所望の吸収波長を発生させるいずれのレーザ源も採用することができる。例えば、適した発光結晶/光開始剤のペアとの使用には、効率の良い蛍光系、励起レーザ系、及び、ポンプ源よりも長い波長を発生させる他の励起系も採用することができる。
【0048】
450メートルの放射線(すなわち、本例ではCQが硬化ライトにより直接誘起される場合)と比べ、980nmの放射線の透過度は、エナメル質を最大2.5倍透過するものであり、象牙質を最大5倍透過するものであるため、窩洞内における実装後にこれまで不可能とされていた、複合材料内の深い位置における誘起を生じさせる能力が得られる。これは、物理的なマトリックスを非常に迅速にもたらすものであるため、複合材料のサイズ及び形状が確定して、収縮が10倍少なくなるとともに、全体がより速く硬化する。
【0049】
例示的な実施形態は主に、発光結晶による放出を引き起こす「ポンプ源」として、単一波長とともに記載してきたが、これは絶えず印加されているものであり、開示はそのように限定されるものではない。近赤外放射線と組み合わせた可視放射線源の使用についても検討するが、好ましくはない。
【0050】
当然のことながら、例えば、米国特許第6,008,264号(その内容全体が引用することにより本明細書の一部をなす)に記載されているように、例えば所望の後硬化物理特性を実現するように、及び/又は望ましい治療結果を同時に実現する複数の波長を用いて、及び/又は複数の異なる光開始剤とともに、線源放射を調整してもよい。
【0051】
例えば、硬化ライト又は他の放射線源を使用して、歯科修復用複合材料440を硬化させる場合、同時に印加される2つの波長でエネルギーを送る。これは、例えば、互いに独立して放射線エミッタを操作することができるエレクトロニクスにより制御される2つの別々の波長の放射線源を備える硬化ライト470を用いて実現することが可能である。この場合、放射線源は2つのレーザダイオードであるが、一方又は両方を、限定するものではないが発光ダイオード等の他の放射線源で置き換えることもできると考えられる。
【0052】
故に、450nm及び980nm等の2つの波長を両方とも作用することができる。更なる例として、450nm及び980nmのエミッタを、適切な強度で同時に作動させるが、450nmのエミッタは、30msの時間の「オン」サイクル及び50msの「オフ」サイクルに関する三角形の波形でパルス化させ、980nmのエミッタは連続して作動させる。発光結晶は、980nmのレーザ放射線を吸収して、先に記載したように、490nmを中心とする光のスペクトルを、複合材料内の深くに放出するのに対し、450nmのパルス化された放射線は衝突して、複合材料440の表面480によって吸収される。複合材料の表面上における450nmのパルス化は、表面をより固くして更に耐摩耗性とし得るのに対し、複合材料の塊内の発光結晶による深い吸収及び放出は、表面よりも可撓性で、あまり収縮を受けない硬化した複合材料をもたらす。
【0053】
別の実施形態によれば、複合材料は、2つの光開始剤である、他の例で記載したCQと、405nmの波長で感応性であるアシルホスフィネート開始剤とを含有する。本実施形態では、エネルギーが3つの異なる波長により送られ、これらに関して、それらの各々の線源は、硬化ライト470と協同して採用されるか、又は硬化ライト470に組み込まれるエレクトロニクスにより独立して制御可能である。ここで、硬化シーケンスは、450nmのレーザが、30msの時間の「オン」サイクル及び100msの「オフ」サイクルに関する矩形波形で、既定時間の間パルス化される場合に、開始される。980nm及び405nmの放射線源、本件ではレーザダイオードを、指定の硬化時間の完了まで連続して作動させる。405nmの活性化波長を伴う付加的な開始剤の使用は、より多くのモノマーをポリマーへと変換することができるため、複合材料を発展させ、及び/又は収縮を低減させて、より強い横引張強さの全体修復材が形成される。
【0054】
当然のことながら、これらの例は、限定的であることを意味するものでなく、波長放射線を混ぜ合わせるとともに、開始剤、発光結晶、蛍光発光(fluorescing)化合物等のダウンコンバージョンを行う構成成分、並びに、Er:YAG及びNd:YAG等のダウンコンバージョンを行う粒子を混合させるのに利用可能な幅広い選択肢が存在し、これらは全て、線源放出及び波形の調整と合わせて採用することができると考えられる。
【0055】
上記の明細書は、例示的な実施形態を例示及び説明するものであり、本発明の範囲を逸脱することなく、様々な変更を行うことができ、またそれらの要素の代わりに均等物を使用し得ることは、当業者に認識されるであろう。加えて、本発明の本質的な範囲を逸脱することなく、特定の状況又はドーパントを含む材料を、本発明の教示に適応させる多くの修飾も行い得る。したがって、本発明は、本発明を実施するために検討される最良の形態として開示される特定の実施形態に限定されないこと、また、本発明が、添付の特許請求の範囲に含まれるあらゆる実施形態を包含すると考えられることを意図している。
図1
図2