特許第6084307号(P6084307)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6084307ダウンストリームベクトル化システムのためのゲイン適応化
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6084307
(24)【登録日】2017年2月3日
(45)【発行日】2017年2月22日
(54)【発明の名称】ダウンストリームベクトル化システムのためのゲイン適応化
(51)【国際特許分類】
   H04B 3/32 20060101AFI20170213BHJP
   H04J 99/00 20090101ALI20170213BHJP
【FI】
   H04B3/32
   H04J15/00
【請求項の数】15
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2015-552037(P2015-552037)
(86)(22)【出願日】2014年1月7日
(65)【公表番号】特表2016-509781(P2016-509781A)
(43)【公表日】2016年3月31日
(86)【国際出願番号】EP2014050102
(87)【国際公開番号】WO2014108374
(87)【国際公開日】20140717
【審査請求日】2015年9月8日
(31)【優先権主張番号】13305023.7
(32)【優先日】2013年1月11日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】391030332
【氏名又は名称】アルカテル−ルーセント
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】マエス,ヨッヘン
(72)【発明者】
【氏名】ティメルス,ミヒャエル
(72)【発明者】
【氏名】ヌズマン,カール
(72)【発明者】
【氏名】ファン・ブリュツセル,ダニー
(72)【発明者】
【氏名】ファンデルヘーヘン,ディルク
【審査官】 川口 貴裕
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−189049(JP,A)
【文献】 特表2010−502129(JP,A)
【文献】 特表2012−500556(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/102917(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0245335(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0329444(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 7/005 − 7/015
H04B 3/00 − 3/44
H04B 3/50 − 3/60
H04B 1/76
H04J 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の加入者回線(L1..LN)を介した通信を制御するための方法であって、通信が、クロストーク事前補償のための線形プリコーダ(120)により合同で処理された通信信号を使用し、
方法が、プリコーダの更新が必要になると、更新イベントを検出することと、更新されたプリコーダによる通信信号の合同処理の後に送信電力スペクトル密度PSDマスクに適合するために送信通信信号に適用される信号スケーリングファクタを決定することと、対応する送信信号スケーリングにより生じる受信機におけるチャネル等化バイアスを補償するために受信通信信号に適用される信号補償ファクタ(γi)を示す信号調整情報を、複数の加入者回線のうちの加入者回線(Li)に遠隔で接続された受信機(XTU−Ri)へ送信することと、プリコーダ更新対応する送信信号スケーリングおよび、受信機における信号補償ファクタの適用を、同時に実施することとを備える、方法。
【請求項2】
プリコーダ更新が、加入者回線から1つまたは複数の犠牲回線へのクロストークを軽減するためのプリコーダの1つまたは複数の結合係数を決定することを備え、
信号補償ファクタが、1つまたは複数の犠牲回線へ重畳される対応するクロストーク事前補償信号により生じる受信機におけるさらなるチャネル等化バイアスをさらに補償する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
信号補償ファクタが、振幅バイアスを補償するスカラーファクタである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
信号補償ファクタが、振幅バイアスおよび位相バイアスの両方を補償する複素ファクタである、請求項1または2のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
送信ステップと、受信機における対応する信号調整が、予定されたプリコーダ更新により生じるチャネル等化バイアスの量に条件付けられている、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
プリコーダが2つのステップで更新され、第1のプリコーダ更新は部分的なプリコーディングゲインを有し限られたチャネル等化バイアスを伴い、第2のプリコーダ更新は完全なプリコーディングゲインを有し、
信号調整情報の送信ステップが、第1および第2のプリコーダ更新の間に行われ、第2のプリコーダ更新、受信機における信号補償ファクタの適用が、同時に実施される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
更新イベントが、新しい加入者回線が複数の加入者回線に参加または脱退することである、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
更新イベントが、再構成された加入者回線上の送信電力の大幅な変化である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
方法が、ゲイン調整情報を受信したときに、各キャリアに対する、適応されたビットローディング値および/または適応されたゲイン微調整ファクタを対応する送信機へ返送するステップをさらに備える、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
通信信号がマルチキャリア信号であり、信号補償ファクタがキャリア毎に決定される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
信号スケーリングファクタの振幅が、マルチユーザ公平性基準に基づく、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
複数の加入者回線(L1..LN)を介した通信を制御するための通信コントローラ(130)であって、通信が、クロストーク事前補償のための線形プリコーダ(120)により合同で処理された通信信号を使用し、
通信コントローラが、プリコーダの更新が必要になると、更新イベントを検出し、更新されたプリコーダによる通信信号の合同処理の後に送信電力スペクトル密度PSDマスクに適合するために送信通信信号に適用される信号スケーリングファクタを決定し、対応する送信信号スケーリングにより生じるチャネル等化バイアスを補償するために受信通信信号に適用される信号補償ファクタ(γi)を示す信号調整情報を、複数の加入者回線のうちの加入者回線(Li)に遠隔で接続された受信機(XTU−Ri)へ送信し、プリコーダ更新対応する送信信号スケーリングおよび、受信機における信号補償ファクタの適用を、同時に実施するように構成される、通信コントローラ(130)。
【請求項13】
請求項12に記載の通信コントローラ(130)を備える、アクセスノード(100)。
【請求項14】
複数の加入者回線(L1..LN)のうちの加入者回線(Li)を介した通信を制御するための通信コントローラ(220)であって、複数の加入者回線を介した通信が、クロストーク事前補償のための線形プリコーダ(120)により合同で処理された通信信号を使用し、
通信コントローラが、更新されたプリコーダによる通信信号の合同処理の後に送信電力スペクトル密度PSDマスクに適合するためにプリコーダ更新の際に送信通信信号に対して送信機において適用される対応する送信信号スケーリングにより生じるチャネル等化バイアスを補償するために受信通信信号に適用される信号補償ファクタ(γi)を示す信号調整情報を、加入者回線に遠隔で接続された送信機から受信し、信号補償ファクタの適用、プリコーダ更新および対応する送信信号スケーリングを、同時に実施するように構成される、通信コントローラ(220)。
【請求項15】
請求項14に記載の通信コントローラ(220)を備える、加入者デバイス(200)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の加入者回線を介した通信を制御するための方法および装置であって、通信が、クロストーク前置補償のためのプリコーダにより合同で処理された通信信号を使用する、方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
クロストーク(またはチャネル間干渉)は、デジタル加入者回線(DSL:Digital Subscriber Line)通信システムなどの多重入出力(MIMO:Multiple Input Multiple Output)通信システムに関するチャネル障害の主な原因である。
【0003】
より高いデータレートへの需要が増加するにつれて、DSLシステムは、より高い周波数帯域へ向けて進化しており、隣接する伝送線路(すなわち、その長さの一部または全てにわたって接近する伝送線路、たとえばケーブルバインダ内の銅ツイストペア)の間のクロストークがより顕著となる(周波数が高いほど、より結合される)。
【0004】
MIMOシステムは、以下の線形モデル:
Y(k)=H(k)X(k)+Z(k) (1)
により記述でき、ここで、N要素複素ベクトルX、Yは、周波数/キャリア/トーンインデックスkの関数として、N個のチャネルを介して送信または受信されるシンボルの離散周波数表現をそれぞれ表し、N×N複素行列Hは、チャネル行列と呼ばれ:チャネル行列Hの(i,j)要素は、どのように通信システムが第jチャネル入力に送信された信号に応答して第iチャネル出力の信号を生成するかを記述し、チャネル行列の対角要素は、直接チャネル結合を記述し、チャネル行列の非対角要素は、(クロストーク係数とも呼ばれる)チャネル間結合を記述し、N要素複素ベクトルZは、たとえば無線周波数干渉(RFI:Radio Frequency Interference)または熱ノイズなどの、N個のチャネル上の加法性ノイズを表す。
【0005】
クロストークを軽減し、実効スループット、到達範囲および回線安定性を最大化するために、様々な戦略が開発されている。これらの技法は、静的または動的スペクトル管理技法から、マルチユーザ信号調整(またはベクトル化)へと徐々に進化している。
【0006】
チャネル間干渉を低減させるための1つの技法は、合同信号プリコーディングである:送信データシンボルが、各通信チャネルを介して送信される前に、プリコーダに合同で通される。プリコーダは、プリコーダおよび通信チャネルの連結により、受信機でほとんどまたは全くチャネル間干渉が生じなくなるようなものである。たとえば、線形プリコーダは、送信ベクトルX(k)とプリコーディング行列P(k)との周波数領域における行列の積を計算し、プリコーディング行列P(k)は、結果のチャネル行列H(k)P(k)が対角化されるようなものであり、これは、全体チャネルH(k)P(k)の非対角要素、したがってチャネル間干渉が、ほとんどゼロに減少することを意味する。実際には、プリコーダは、各妨害回線(disturber line)からの実際のクロストーク信号と受信機において破壊的に干渉する直接信号を共にして、被害者回線(victim line)上に逆位相クロストーク前置補償信号を重畳させる。
【0007】
チャネル間干渉を低減させるためのさらなる技法は、合同信号後処理である:受信データシンボルは、検出される前にポストコーダに合同で通される。ポストコーダは、通信チャネルおよびポストコーダの連結により、受信機でほとんどまたは全くチャネル間干渉が生じなくなるようなものである。
【0008】
ベクトル化グループ、すなわち通信回線の組であって、その信号が合同で処理される組の選択は、よいクロストーク軽減性能を実現するために大変重要である。ベクトル化グループ内で、各通信回線は、グループの他の通信回線にクロストークを誘起する妨害回線とみなされ、同通信回線は、グループの他の通信回線からクロストークを受ける被害者回線とみなされる。ベクトル化グループに属さない回線からのクロストークは、外来ノイズとして扱われ、相殺されない。
【0009】
理想的には、ベクトル化グループは、物理的および著しく互いに相互作用する通信回線の組全体と適合すべきである。それにもかかわらず、国の規制方針および/または制限されたベクトル化能力が原因の加入者回線のバンドル解除(local loop unbundling)により、そのような包括的な手法が阻害されることがあり、その場合、ベクトル化グループは物理的に相互作用する全回線のうちのサブセットのみを含むことになり、これによりベクトル化ゲインが限定的となる。
【0010】
信号ベクトル化は通常、トラフィックアグリゲーション地点で行われ、そこではベクトル化グループの全ての加入者回線を介して同時に送信または受信される全てのデータシンボルが利用可能である。たとえば、信号ベクトル化は有利には、デジタル加入者回線アクセス多重化装置(DSLAM:Digital Subscriber Line Access Multiplexer)内で行われ、これは、中央局(CO:Central Office)に配備されるか、または加入者構内にさらに近いファイバ供給の遠隔ユニット(ストリートキャビネット、ポールキャビネットなど)である。信号プリコーディングは、(顧客構内への)下り通信に特に適しており、信号後処理は、(顧客構内からの)上り通信に特に適している。
【0011】
通常、チャネル行列は対角優位であり、これはクロストークゲインが直接チャネルゲインに比べて無視できることを意味する。プリコーディング行列も同様である:被害者回線に重畳されるクロストーク前置補償信号は、全体の送信電力にわずかしか加算しない。
【0012】
新しいアクセス技術の出現およびさらに広い伝送スペクトルの使用により、この仮定はもはや正しくないことがあり、これはクロストークゲインが直接チャネルゲインに比べて優位になり始め、チャネル行列および結果のプリコーディング行列はもはや対角優位ではないことを意味する。その場合、被害者回線へクロストーク前置補償信号を重畳すると、その被害者回線に適用可能な送信電力スペクトル密度(PSD)マスクに違反することがある。この超過した信号電力を相殺するために、プリコーディングステップの前に、1つまたは複数の通信信号をスケールダウンさせる必要がある。
【0013】
また、所与の妨害回線からのクロストークを軽減させるために被害者回線に重畳されるクロストーク前置補償信号は、もとの妨害回線へと結合し、所望または有意義な信号に寄与する(二次効果)。プリコーダが更新されると、1つまたは複数の受信機は、新しく重畳されたクロストーク前置補償信号により誘起されるチャネル等化バイアスが原因で、追跡(track)から外れることがある。実際には、チャネル追跡は一般的に、収束し要求精度を実現するために数百のサンプルを要するので、追跡モードの受信機は、直接チャネルゲインの急な変化に対処することができない。結果として、コンステレーション点が現在の想定位置から離れるので、この信号はもはや正しく検出されず、これにより復号誤差を生じ、最終的には回線の再訓練および/またはユーザ体験の劣化につながる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、非対角優位チャネル行列の場合のベクトル化システムのロバスト性および性能を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の第1の態様によれば、複数の加入者回線を介した通信を制御するための方法が提案される。通信は、クロストーク前置補償のためのプリコーダにより合同で処理された通信信号を使用する。本方法は、プリコーダの更新が必要になると、更新イベントを検出することと、予定されたプリコーダ更新により生じるチャネルバイアスを補償するために受信通信信号に適用される信号補償ファクタを示す信号調整情報を、複数の加入者回線のうちの加入者回線に遠隔で接続された受信機へ送信することと、プリコーダ更新を受信機における信号補償ファクタの適用実施と時間調整することとを備える。
【0016】
本発明の一実施形態では、プリコーダ更新が、加入者回線における送信PSDマスクに適合するために送信通信信号に適用される信号スケーリングファクタを決定することを備え、信号補償ファクタが、対応する送信信号スケーリングにより生じる第1のチャネルバイアスを補償する。
【0017】
本発明の一実施形態では、プリコーダ更新が、加入者回線から1つまたは複数の被害者回線へのクロストークを軽減するためのプリコーダの1つまたは複数の結合係数を決定することを備え、信号補償ファクタが、1つまたは複数の被害者回線へ重畳される対応するクロストーク前置補償信号により生じる第2のチャネルバイアスをさらに補償する。
【0018】
本発明の一実施形態では、信号補償ファクタが、チャネル振幅バイアスを補償するスカラーファクタである。
【0019】
本発明の一実施形態では、信号補償ファクタが、チャネル振幅バイアスおよびチャネル位相バイアスの両方を補償する複素ファクタである。
【0020】
本発明の一実施形態では、送信ステップおよび受信機における対応する信号調整が、予定されたプリコーダ更新により生じるチャネルバイアスの量に調整される。
【0021】
本発明の一実施形態では、プリコーダが2つのステップで更新され、第1のプリコーダ更新は部分的なプリコーディングゲインを有し限られたチャネルバイアスを伴い、第2のプリコーダ更新はフルプリコーディングゲインを有する。送信ステップは、第1および第2のプリコーダ更新の間に行われ、第2のプリコーダ更新は、受信機における信号補償ファクタの適用実施と時間調整される。
【0022】
本発明の一実施形態では、更新イベントが、新しい加入者回線が複数の加入者回線に入ることまたは去ることである。
【0023】
本発明の一実施形態では、更新イベントが、再構成された加入者回線上の送信電力の実質的な変化である。
【0024】
本発明の一実施形態では、本方法は、ゲイン調整情報を受信すると、各キャリアに対する、適応されたビットローディング値および/または適応されたゲイン微調整ファクタを対応する送信機へ返送するステップをさらに備える。
【0025】
本発明の一実施形態では、通信信号がマルチキャリア信号であり、ゲイン調整情報および対応する信号補償ファクタがキャリア毎に決定される。
【0026】
本発明の一実施形態では、信号スケーリングファクタの振幅が、マルチユーザ公平性基準に基づく。
【0027】
本発明の他の態様によれば、複数の加入者回線を介した通信を制御するための第1の通信コントローラが提案される。通信は、クロストーク前置補償のためのプリコーダにより合同で処理された通信信号を使用する。第1の通信コントローラは、プリコーダの更新が必要になると、更新イベントを検出し、予定されたプリコーダ更新により生じるチャネルバイアスを補償するために受信通信信号に適用される信号補償ファクタを示す信号調整情報を、複数の加入者回線のうちの加入者回線に遠隔で接続された受信機へ送信し、プリコーダ更新を受信機における信号補償ファクタの適用実施と時間調整するように構成される。
【0028】
第1の通信コントローラは、たとえばDSLAM、イーサネット(登録商標)スイッチ、エッジルータなどの、アクセスノードの一部を構成してもよい。
【0029】
本発明による第1の通信コントローラの実施形態は、本発明による方法のそれぞれの実施形態に一致する。
【0030】
本発明のさらに他の態様によれば、複数の加入者回線のうちの加入者回線を介した通信を制御するための第2の通信コントローラが提案される。複数の加入者回線を介した通信は、クロストーク前置補償のためのプリコーダにより合同で処理された通信信号を使用する。第2の通信コントローラは、予定されたプリコーダ更新により生じるチャネルバイアスを補償するために受信通信信号に適用される信号補償ファクタを示す信号調整情報を、加入者回線に遠隔で接続された送信機から受信し、信号補償ファクタを適用実施するように構成される。
【0031】
第2の通信コントローラは、たとえばデスクトップ、ラップトップ、モデム、ネットワークゲートウェイ、メディアゲートウェイなどの、アクセス設備(access plant)における有線通信をサポートする加入者デバイスの一部を形成してもよい。
【0032】
本発明による第2の通信コントローラの実施形態は、本発明による方法のそれぞれの実施形態に一致する。
【0033】
たとえば、新しい加入者回線がベクトル化グループに入り、対応するクロストーク前置補償信号が各被害者回線に重畳されることが理由で、またはさらにたとえば、適用可能な送信PSDマスク内に1つまたは複数の加入者回線上の送信PSDを制約するために1つまたは複数の通信信号に適用される必要がある適切な信号スケーリングが理由で、プリコーダを更新する必要がある場合、およびプリコーダ更新により1つまたは複数の受信機においてかなりのチャネル等化バイアスが生じると見込まれる場合、送信機制御型ゲイン適応化が提案される。信号調整情報は各受信機に送信され、受信機は、誘起されるチャネルバイアスを補償するための信号補償ファクタを導出する。そして、プリコーダ更新が、受信機における信号補償ファクタの適用実施と時間調整される。この追加のレベル調整により、受信機が追跡から外れることなく、アクセス設備が受けるクロストーク強度にかかわらず、プリコーダの効果的かつ透過的な更新が可能となる。
【0034】
提案された送信機制御型信号適応化は、既存の受信機制御型ゲイン適応化、たとえば過剰ノイズマージン(たとえば、DSL規格におけるいわゆるgi係数)を除去するためのゲイン微調整、ならびにチャネル等化前の既存の送信機制御型信号スケーリング、たとえばPSD整形(たとえば、DSL規格におけるいわゆるtssi係数)に加えて行われる。
【0035】
信号補償ファクタは、予定されたプリコーダ更新により生じる振幅バイアスおよび位相バイアスの両方を補償してもよく、または、振幅バイアスのみを補償してもよい。
【0036】
この手順は、プリコーダ更新により受信機において誘起されると見込まれるチャネル等化バイアスの量に調整されてもよい。たとえば、一方側のプリコーダ更新後の受信機における有用な信号成分の期待強度、すなわち期待振幅、電力またはエネルギーを、上述の二次効果を適切に考慮して(つまり直接または間接チャネルゲインを考慮して)、他方側の現在のチャネル等化係数が基づく受信機における信号成分の現在の強度と比較してもよい。これら2つの量が所与のマージンだけ異なる場合、適切な信号補償ファクタが、受信機において、プリコーダ更新と一緒に適用される必要がある。選択されるマージンは通常、受信機において受けたノイズの量に依存する:ノイズが大きいほど、コンステレーション点は離れ、選択されるマージンは大きくなる。
【0037】
信号ゲイン調整の直接の結果として、受信機は、それぞれのキャリアに対する、調整されたビットローディング値および/または調整されたゲイン微調整ファクタを、送信機へ返送することができる。
【0038】
可能な改良として、プリコーダは2つのステップ:部分的なプリコーディングゲインを有するが、受信機においてほとんどチャネル等化バイアスを生じないため受信機で信号調整を要しない第1のプリコーダ更新、およびフルプリコーディングゲインを有し、1つまたは複数の受信機における適切な信号調整を伴う第2の最後のプリコーダ更新により、更新され得る。こうすることで、部分的なクロストークの軽減が、ゲイン調整手順の完了を待つことなく、ただちに開始し得る。
【0039】
添付の図面と併せて実施形態の以下の説明を参照することで、本発明の上記および他の目的および特徴がより明らかとなり、本発明自体が最もよく理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1】本発明によるアクセスノードを表す図である。
図2】本発明による加入者デバイスを表す図である。
図3】プリコーダ更新中のアクセスノードおよび遠隔の加入者デバイスの間のメッセージフローチャートである。
図4】プリコーダ更新中の代替のメッセージフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下の機能ブロック:
− N個の送受信機110
− ベクトル化処理ユニット120(すなわちVPU)
− VPU120の動作を制御するためのベクトル化制御ユニット130(すなわちVCU)
を備える、本発明によるアクセスノード100を図1に示す。
【0042】
送受信機110は加入者回線L1からLNにそれぞれ接続され、加入者回線は同一のベクトル化グループの一部を形成すると仮定する。また、送受信機110は個別に、VPU120に接続され、VCU130に接続されている。VCU130はさらに、VPU120に接続されている。
【0043】
送受信機110の各々は:
− デジタル信号プロセッサ(DSP)111
− アナログフロントエンド(AFE)112
− 回線適応化ユニット(LAU:Line Adaptation Unit)113
を備える。
【0044】
N個のDSP111は、N個のAFEユニット112にそれぞれ接続されている。N個のAFE112はさらに、N個のLAUユニット113にそれぞれ接続されている。N個のLAU113はさらに、N本の加入者回線L1からLNにそれぞれ接続されている。
【0045】
AFE112の各々は、デジタル/アナログ変換器(DAC)およびアナログ/デジタル変換器(ADC)と、帯域外干渉を除きながら適切な通信周波数帯域内に信号エネルギーを制限するための送信フィルタおよび受信フィルタと、送信信号を増幅し伝送線路を駆動するための回線ドライバと、出来る限り少ないノイズで受信信号を増幅するための低ノイズ増幅器(LNA:Low Noise Amplifier)とを備える。
【0046】
LAU113の各々は、(たとえばエコーキャンセル技法を用いて)低い送信機/受信機結合比(coupling ratio)を実現しながら送信機出力を伝送線路へ接続しかつ伝送線路を受信機入力へ接続するためのハイブリッドと、POTSまたはISDN周波数帯域に存在する任意の不要な信号を除去するためのさらなる送信および受信ハイパスフィルタと、伝送線路の特性インピーダンスに適合するためのインピーダンス整合回路と、絶縁回路(典型的にはトランス)とを備える。
【0047】
DSP111の各々は、下りおよび上りマルチキャリア通信チャネルを動作させるように構成される。
【0048】
DSP111の各々は、診断または管理のコマンドおよび応答のような、ピア送受信機の間の制御トラフィックを伝送するために用いられる下りおよび上り制御チャネルを動作させるようにさらに構成される。制御トラフィックは、DSLチャネル上でユーザトラフィックと多重化される。
【0049】
より具体的には、DSP111の各々は、ユーザデータおよび制御データをデジタルデータシンボルに符号化および変調し、ユーザデータおよび制御データをデジタルデータシンボルから復調および復号するためのものである。
【0050】
以下の送信ステップ:
− たとえばデータの多重化、フレーミング、スクランブリング、誤り訂正符号化およびインターリービングなどの、データ符号化
− キャリア順序付けテーブルに従ってキャリアを順序付けるステップと、順序付けられたキャリアのビットローディングに応じて符号化されたビットストリームを解析するステップと、場合によりトレリス符号化を用いて、ビットの各チャンク(chunk)を(各キャリアの振幅および位相を有する)適切な送信コンステレーション点にマッピングするステップとを備える、信号変調
− 信号スケーリング
− 逆高速フーリエ変換(IFFT)
− 巡回プレフィックス(CP)挿入
− 場合により、時間ウィンドウイング
は通常、DSP111内で実行される。
【0051】
以下の受信ステップ:
− CP除去、場合により時間ウィンドウイング
− 高速フーリエ変換(FFT)
− 周波数等化(FEQ:Frequency EQualization)
− パターンが各キャリアのビットローディングに依存する適切なコンステレーショングリッドを、各々の等化された周波数サンプルに当てはめるステップと、場合によりトレリス復号を用いて、予想される送信コンステレーション点および対応する送信ビットシーケンスを検出するステップと、キャリア順序付けテーブルに従って、全ての検出されたビットのチャンクを再順序付けするステップとを備える、信号復調および検出
− たとえばデータのデインターリービング、RS復号(バイトエラーが、もしあれば、この段階で補正される)、デスクランブリング、フレーム識別(frame delineation)および多重分離化などの、データ復号は通常、DSP111内で実行される。
【0052】
DSP111の各々は、合同信号プリコーディングのために逆高速フーリエ変換(IFFT)ステップの前に送信周波数サンプルをVPU120に供給し、合同信号後処理のために高速フーリエ変換(FFT)ステップの後に受信周波数サンプルをVPU120に供給するようにさらに構成される。
【0053】
DSP111の各々は、さらなる送信または検出のために、VPU120から補正された周波数サンプルを受信するようにさらに構成される。あるいは、DSP111は、さらなる送信または検出の前に、最初の周波数サンプルに加えるために補正サンプルを受信してもよい。
【0054】
DSP111の各々は、特定のイベント(図1の「update_event」参照)、たとえば新しい初期化回線の検出、または送信電力が所与の加入者回線上で大きく調整される場合などについて、VCU130に通知するようにさらに構成される。
【0055】
VPU120は、伝送線路L1からLNにわたって誘起されるクロストークを軽減するように構成される。これは、想定されるクロストークの推定値を前置補償するために、送信周波数サンプルのベクトルXをプリコーディング行列Pと乗算すること(下り方向)、または、受けたクロストークの推定値を事後補償するために、受信周波数サンプルのベクトルYをクロストーク相殺行列Gと乗算すること(上り方向)により実現される。
【0056】
iおよびjは1からNまでの範囲の回線インデックスを表し、kは周波数インデックスを表し、lはデータシンボルインデックスを表すものとする。周波数分割デュプレックス(FDD)伝送の場合、周波数インデックスkは、下り通信が考慮されるか、それとも上り通信が考慮されるかに応じて、異なる重複しない範囲値を取る。時間分割デュプレックス(TDD)伝送の場合、周波数インデックスkは、下り通信および上り通信の双方に対して、共通の範囲値を取ってもよい。
【0057】
VPU121によるクロストーク前置補償の前および後の、データシンボルlの間に回線Liを通じて送信される送信下り周波数サンプルをそれぞれ、
【0058】
【数1】
および
【0059】
【数2】
とし、クロストーク前置補償の前および後のそれぞれの送信ベクトルを、X(k)およびX*l(k)とする。
【0060】
同様に、クロストーク相殺の前および後の、データシンボルlの間に回線Liから受信される受信上り周波数サンプルをそれぞれ、
【0061】
【数3】
および
【0062】
【数4】
とし、クロストーク前置補償の前および後のそれぞれの受信ベクトルを、Y(k)およびY*l(k)とする。
【0063】
よって、
【0064】
【数5】
すなわち、
【0065】
【数6】
また、
【0066】
【数7】
すなわち、
【0067】
【数8】
を得る。
【0068】
行列PまたはGにおいて、行iは特定の被害者回線Liを表し、列jは特定の妨害回線Ljを表す。交点において、結合係数は、被害者回線Li上で妨害回線Ljからのクロストークを軽減するために、対応する妨害送信または受信周波数サンプルに適用されるべきである。行列の全ての係数が決定される必要はなく、というのは、たとえば最大のクロストーク源(crosstalker)に最初に割り当てられるベクトル化能力が制限されているためであり、またはさらにたとえば一部の回線は著しく互いに相互作用するわけではないためである。未決定の係数は好ましくは0に設定される。
【0069】
また、ベクトル化操作がサポートされないかまたはイネーブル化されていない通信回線、たとえば旧式の回線は、他の通信回線にまだ著しく干渉するものであるが、ベクトル化グループ内では妨害回線とみなされるのみであることに注意されたい。したがって、行列PまたはGの対応する行の非対角係数は全て、0に設定される。
【0070】
VCU130は基本的に、VPU120の動作を制御するためのものであり、より具体的には、加入者回線L1からLNの間のクロストーク係数を推定または更新し、推定されたクロストーク係数からプリコーディング行列Pおよびクロストーク相殺行列Gを初期化または更新するためのものである。
【0071】
VCU130はまず、回線L1からLNを通じて使用される下りおよび上りパイロットシーケンスをそれぞれ設定することで開始する。所与のシンボル期間l中に周波数インデックスkで回線Liを通じて送信されるパイロットディジットを、
【0072】
【数9】
と表す。パイロットシーケンスは、Lシンボル期間にわたって送信されるL個のパイロットディジット
【0073】
【数10】
を含む。パイロットシーケンスは、互いに直交する。
【0074】
VCU130は、下り通信に関して遠隔の受信機により、および上り通信に関してDSP111によりパイロットディジットが検出される間に測定される各スライサ誤差を収集する。シンボル期間lの間の周波数インデックスkにおける被害者回線Liを通じて行われた等化された干渉測定値を
【0075】
【数11】
と表す。
【0076】
次に、VCU130は、被害者回線Liを通じて測定された干渉測定値
【0077】
【数12】
と、妨害回線Ljを通じて送信されたそれぞれのパイロットディジット
【0078】
【数13】
との相関を取り、周波数インデックスkにおける回線Ljから回線Liへの等化されたクロストーク係数の推定値を取得する。パイロットシーケンスは互いに直交するので、他の妨害回線からの寄与度は、この相関ステップの後にゼロに減少する。
【0079】
VCU130はこのとき、決定されたクロストーク係数から、プリコーディング行列Pおよびクロストーク相殺行列Gの計算に進むことができる。VCU130は、プリコーディング行列Pおよびクロストーク相殺行列Gの係数を計算するために、一次行列反転または任意の他の適した方法を用いることができる。
【0080】
チャネル行列Hを:
H(k)=D(k)・C(k) (4)
と表記し、ここでD(k)は、直接チャネルゲインDi,i(k)=Hi,i(k)を対角要素として含み、零係数Di,j(k)=0を非対角要素(i≠j)として含む対角行列を表し、C(k)は、等化されたクロストーク係数Ci,j(k)=Hi,j(k)/Hi,i(k)を非対角要素(i≠j)として含み、したがって単位係数(unity coefficient)Ci,i(k)=1を対角要素として含む行列を表す。
【0081】
理想的には、Pは、
Y=D−1・D・C・C−1・X+D−1・N=X+D−1・Z (5)
となるようなC−1に収束するものとし、ここでD−1は、直接チャネルゲインを補償するために各受信機において適用されるFEQ係数を表す。
【0082】
実際には、プリコーダは、実際のCに近似する推定値
【0083】
【数14】
を用い、また、
【0084】
【数15】
である。同様に、受信機は、実際のDに近似する推定値
【0085】
【数16】
を用いる。したがって、
【0086】
【数17】
を得る。
【0087】
ゲイン微調整ファクタAi,i(k)=α(k)を対角要素として含み、零係数Ai,j(k)=0を非対角要素(i≠j)として含む、ゲイン微調整行列をA(k)と表す。
【0088】
ゲイン微調整ファクタα(k)は、各受信機により決定される正のスカラーファクタである。ゲイン微調整ファクタα(k)は、プリコーディング前に各送信周波数サンプルに適用される。
【0089】
受信機は、送信側における各信号スケーリングを補償する必要がある。受信機は、送信側で適用実施されるゲイン微調整ファクタα(k)の正確な知識を有するので、適切なゲイン微調整補償ファクタ、すなわちα(k)−1を導出できる。
【0090】
同様に、信号スケーリングファクタBi,i(k)=β(k)を対角要素として含み、零係数Bi,j(k)=0を非対角要素(i≠j)として含む、信号スケーリング行列をB(k)と表す。
【0091】
信号スケーリングファクタβ(k)は、送信PSDマスク(異なる送信PSDマスクが、各加入者回線に対して、それぞれの送信プロファイルに従って適用可能である)に適合するために、また、観測された各クロストーク結合に従って、VCU130により決定される実数または複素数のファクタである。信号スケーリングファクタβ(k)は、プリコーディング前に各送信周波数サンプルに適用される。
【0092】
信号スケーリングファクタβ(k)は、以下の送信電力制限:
【0093】
【数18】
に従うようなものとし、ここで、E{.}は期待値オペレータを表し、TXPは、直接信号Xおよびクロストーク前置補償信号X(ただしj≠i)への寄与を含む、加入者回線Li上の平均送信電力を表し、TXMは、加入者回線Liへ適用可能な送信PSDマスクを表し、σ=E{X}は、通信信号Xの平均送信電力を表す。
【0094】
信号スケーリングファクタβ(k)の大きさは、各加入者回線の間の公平性基準に基づいて決定され、これは、所与の加入者回線に対する、従うべきサービスレベル合意書(SLA)または保証すべきサービス品質(QoS:Quality of Service)などのさらなる基準を場合により含む。
【0095】
そのような公平性基準の1つにより、プリコーダの出力における各通信信号Xiに対して等しい相対送信電力が得られる。プリコーダの出力における相対送信電力は、
【0096】
【数19】
に比例する。これは、たとえば設定されたPSD整形およびゲイン微調整などの、回線依存であり得る任意の他のゲインスケーリングに対して相対的なものである。
【0097】
信号補償ファクタΓi,i(k)=γ(k)を対角要素として含み、零係数Γi,j(k)=0を非対角要素(i≠j)として含む、信号補償行列をΓ(k)と表す。
【0098】
信号補償ファクタγ(k)は、プリコーディング行列Pの更新および/または信号スケーリング行列Bの更新により各受信機において誘起されるチャネルバイアスを補償するためにVCU130により決定される実数または複素数のファクタである。信号補償ファクタγ(k)は、各受信周波数サンプルに適用されることになる。
【0099】
最後に、各通信チャネルを等化するために受信機により用いられるものであって、各受信機により実際に用いられるFEQ係数を対角要素として含み、零係数を非対角要素として含む信号等化行列を、E(k)と表す。
【0100】
したがって、
Y=A−1・Γ・E・D・C・P・B・A・X+A−1・Γ・E・Z (8)
となる。
【0101】
式(8)は、特定の構造の選択を暗示するものではない。対角行列は互いに可換であるので、各スケーリング係数は、いずれの順番でも適用可能である。たとえばスケーリング係数β(k)は、各DSP111により前もって適用可能であり、あるいは信号スケーリング行列Bは、プリコーディング行列Pと単一の行列へ統合可能である。後者の場合、信号スケーリングは、プリコーディング行列の1つまたは複数の列方向の更新に対応する。さらにたとえば、チャネル等化は、受信機において適切な信号補償A−1・Γの後に行うことができ、これにより等化器は(8)の推定誤差を追跡し補償することができる。さらにたとえば、行列の積A−1・Γ・Eは、各受信機に対して単一の等化係数を含む単一の対角行列に統合できる。
【0102】
ここで、プリコーダ反復インデックスmを導入し、受信機がm番目のプリコーダ更新の後に各通信チャネルを適切に等化したと仮定する。
【0103】
等化されたノイズのない受信信号成分は、直接および間接チャネルゲインを適切に考慮に入れて、
【0104】
【数20】
により与えられる。
【0105】
受信信号Yがm番目の反復後に正しく等化される場合、式(9)はXに収束すると見込まれる。通常は、Ei,iは、
【0106】
【数21】
の項を補償し、これにより
【0107】
【数22】
となる。
【0108】
チャネル行列Hがm番目およびm+1番目のプリコーダ更新の間に変化せず、ゲイン微調整ファクタαおよびFEQ係数Ei,iも変化しないとさらに仮定する。
【0109】
新しい回線がベクトル化グループに入る場合のプリコーディング行列Pの更新(P(m)→P(m+1))、および/または送信PSDマスクに適合するための信号スケーリング行列Bの更新(B(m)→B(m+1))である、プリコーダ更新を補償するために各受信機において適用される必要がある新しい信号補償ファクタ
【0110】
【数23】
は、
【0111】
【数24】
により与えられる。
【0112】
実際、適切な信号調整の後に:
【0113】
【数25】
が得られ、これは所望の結果である。
【0114】
ゲインスケーリング行列Bのみが更新されると、式(10)は:
【0115】
【数26】
に帰着する。
【0116】
同様に、二次効果が式(9)において考慮されていない場合、信号補償ファクタ
【0117】
【数27】
は、式(12)のように、各送信信号スケーリングファクタ
【0118】
【数28】
のちょうど逆数となる。
【0119】
VCU130は、決定された信号補償ファクタγを、各受信機との通信のために送受信機110に渡すようにさらに構成される。
【0120】
第1の実施形態では、VCU130は、信号補償ファクタの振幅
【0121】
【数29】
のみ(スカラー値)を、各受信機との通信のために送受信機110に送信し、信号補償ファクタの位相
【0122】
【数30】
を、送信側でローカルに、各送信周波数サンプルXに適用する。
【0123】
第2の代替の実施形態では、VCU130は、信号補償ファクタの位相および振幅の双方
【0124】
【数31】
(複素数値)を、各受信機との通信のために送受信機110に送信する。
【0125】
VCU130は、計画されたプリコーダ更新の適用実施、すなわち新しいプリコーディング行列P(m+1)および新しい信号スケーリング行列B(m+1)のVPU120への押し込みを、各受信機による信号補償ファクタ
【0126】
【数32】
の適用実施と時間調整するようにさらに構成される。アクセスノードおよび受信機におけるこれらの適用実施は、厳密に同期している必要はない:一時的なチャネルバイアスにより生じる検出誤差が、リードソロモンなどの何らかの付加された前方誤り訂正(FEC)符号により補正可能である場合、これらの誤差は数データシンボル分だけ離れたものでありうる。
【0127】
VCU130はさらに、受信機において計画されたプリコーダ更新により生じる等化バイアスの量を、その受信機に対する信号調整手順を始動させる前に、確認してもよい。想定チャネルバイアス量が、受信機により現在受けたノイズレベルに比べて低い場合、信号調整は必要ない:その受信機は通常、そのような小さなチャネル変動に対応できる。そうでない場合、適切な信号調整が、対応するプリコーダ更新と一緒に、受信機側で必要になる。
【0128】
例示の実施形態として、VCU130は、直接および間接チャネルゲインを適切に考慮に入れて、また、位相バイアスが送信側で補償されると仮定して、所与の受信機における期待受信信号電力:
【0129】
【数33】
を計算する。
【0130】
プリコーダが更新される必要がある場合、VCU130は、m+1番目のプリコーダ更新の後であるが受信機における任意のゲイン調整無しの期待受信信号電力と、現在の期待受信電力との間の比Rを計算する。
【0131】
【数34】
【0132】
この計算は、ベクトル化グループの各々のアクティブな受信機に対して、かつ、各々のキャリアインデックスkに対して行われる:比Rが、あるノイズに依存する閾値より大きい場合、かなりのチャネル等化バイアスが各受信機において生じると見込まれるので、信号は、プリコーダ更新と同時に受信機において適切に調整される必要がある。最後の決定はさらに、影響を受けたキャリアの数および特性に依存し得る。
【0133】
ノイズに依存する閾値は、各キャリアに対して用いられるビットローディング値から導出でき、これは(設定されたノイズマージンを含む)そのキャリア周波数において受信機により現在受けているノイズレベルを示す。VCU130は代わりに、信号対ノイズ干渉比(SNIR:Signal to Noise and Interference Ratio)測定値などの、遠隔の受信機から得られるノイズ測定レポートを用いてもよい。
【0134】
VCU130は、プリコーダを2つのステップで更新してもよい。第1のプリコーダ更新は、制限されたプリコーディングゲイン(すなわち、制限されたクロストーク軽減性能)を有するが、受信機において全くゲイン調整を必要としない(比Rは、全てではないがほとんどのキャリアに対して許容境界内にとどまると見込まれる)。第2のプリコーダ更新はフルプリコーディングゲインを有するが、1つまたは複数の受信機において何らかのゲイン調整を必要とする。
【0135】
また、VCU130は、プリコーダを段階的なステップで更新してもよい:新しいゲインスケーリングファクタ
【0136】
【数35】
および新しいプリコーディング係数
【0137】
【数36】
が所与の加入者回線Liに対して決定され、対応する信号補償
【0138】
【数37】
が加入者回線Liに接続された遠隔の受信機に送信され、新しいゲインスケーリングファクタ
【0139】
【数38】
および新しいプリコーディング係数
【0140】
【数39】
の適用実施が遠隔の受信機における信号補償ファクタ
【0141】
【数40】
の適用実施と時間調整される。VCU130は次に、全ての他の影響を受けた加入者回線に対して、プリコーダが完全に更新されるまで、この手順を再度反復する。この段階的な列方向のプリコーダ更新により、ベクトル化グループの各加入者回線にわたる信号調整手順の分離が可能となる。
【0142】
以下の機能ブロック:
− 送受信機210
− 送受信機210の動作を制御するための通信コントローラ220(すなわちCTRL_R)
を備える、本発明による加入者デバイス200を図2に示す。
【0143】
送受信機210は、所与のベクトル化グループの一部を形成する加入者回線Liと接続され、上述と同じ機能ブロックを備える。送受信機210は、通信コントローラ220にさらに接続される。
【0144】
通信コントローラ220は、加入者回線Liに接続された遠隔の送信機から、各キャリアに対する信号補償ファクタγ(k)を受信するように構成される。信号補償ファクタγ(k)は、DSL規格によるオンライン再構成(OLR:On−Line Reconfiguration)コマンドなどの、高優先度の制御コマンドを用いて送信される。通信コントローラは、要求されたゲイン調整の有効性を確認し、DSL規格によるSYNCフラグなどの確認応答信号をもとの送信機へ発行するように送受信機210に命じることで、要求された信号調整を承認する。信号補償ファクタγ(k)は、確認応答信号の発行後の特定のデータシンボルインデックス(たとえば、確認応答信号の発行に続く次のTDDフレームの先頭)以降の、または遠隔の送信機により明示的に信号で伝えられるデータシンボルインデックスからの適用実施のために、送受信機210へ渡される。
【0145】
アクセスノード100によるアクセスノードANと、N本の加入者回線L1からLNのそれぞれと接続される、加入者デバイス200によるN個の加入者デバイスXTU−R1からXTU−RNとの間のメッセージフローチャートを図3に示す。
【0146】
第1のステップ301において、特定のイベントがアクセスノードANにより検出され、アクセスノードANはプリコーダ更新、すなわちプリコーディング行列Pの更新および/または信号スケーリング行列Bの更新を要求する。
【0147】
第2のステップ302において、アクセスノードANは、新しいプリコーディング行列P(m+1)、および/または、新しいスケーリング係数
【0148】
【数41】
を含む新しい信号スケーリング行列B(m+1)を計算する。
【0149】
第3のステップ303において、アクセスノードANは、計画されたプリコーダ更新により、1つまたは複数の遠隔の受信機XTU−Riに影響し得るかなりのチャネル等化バイアスが発生するかを確認する。
【0150】
第4のステップ304において、アクセスノードANは、影響を受けた受信機XTU−Riに対する適切な信号補償ファクタ
【0151】
【数42】
を決定する。
【0152】
第5のステップ305において、アクセスノードは、信号補償ファクタ
【0153】
【数43】
を影響を受けた受信機へただちに送信し、現在これはxTU−R1およびxTU−R2である。信号補償ファクタは、高優先度制御コマンドにより送信される(図3の「
【0154】
【数44】
」参照)。
【0155】
第6のステップ306において、加入者デバイスXTU−Riは、確認応答信号をもとのアクセスノードANへ発行することで(図3「Ack」参照)、調整コマンドが正しく受信されたことを承認する。加入者デバイスXTU−Riはまた、調整されたビットローディング値および/または調整されたゲイン微調整ファクタを返送してもよい。あるいは、確認応答は暗黙的であり、応答が必要とされない。
【0156】
第7の最後のステップにおいて、新しいプリコーディング行列P(m+1)、新しい信号スケーリング行列B(m+1)、および各信号補償ファクタ
【0157】
【数45】
は全て、影響を受けた加入者回線にわたって同時に適用実施される。
【0158】
アクセスノードANがプリコーダの段階的な更新を行う代替の実施形態を図4に示す。
【0159】
ステップ401から404は、ステップ301から304とそれぞれ同一である。
【0160】
そして、アクセスノードANは、一度に1つの特定の加入者回線Liのみに対応する。ステップ405において、アクセスノードANは、信号補償ファクタ
【0161】
【数46】
を各受信機xTU−Riに送信する。ステップ406において、加入者デバイスxTU−Riは、確認応答信号をアクセスノードANに返送する。ステップ407において、アクセスノードは、プリコーダ行列Pの第i列、および信号スケーリング行列Bの第i対角要素のみを更新する:
【0162】
【数47】
および
【0163】
【数48】
である。この更新は、受信機xTU−Riにおける信号補償ファクタ
【0164】
【数49】
の適用実施と同時に起こる。そして、アクセスノードは、全ての他の影響された加入者回線および各受信機に対して、ステップ405から407を再度反復する。この実施形態は、各加入者回線にわたる信号調整が完全に互いに分離され、プリコーダがその最終状態にスムーズに段階的に収束するので、特に有利である。
【0165】
「備える(comprising)」という用語は、以降列挙される手段に限定されるものとして解釈されるべきではないことに注意されたい。したがって、「手段AおよびBを備えるデバイス」という表現の範囲は、コンポーネントAおよびBのみからなるデバイスに限定されるべきではない。これは、本発明に関して、デバイスの関連するコンポーネントが、AおよびBであることを意味する。
【0166】
「接続された(coupled)」という用語は、直接接続のみに限定されるものと解釈されるべきではないことにさらに注意されたい。したがって、「デバイスBに接続されたデバイスA」という表現の範囲は、デバイスAの出力がデバイスBの入力に直接接続されている、および/またはその逆の、デバイスまたはシステムに限定されるべきではない。これは、Aの出力およびBの入力、および/またはその逆の間の経路であって、他のデバイスまたは手段を含む経路であり得るものが存在することを意味する。
【0167】
説明および図面は、単に本発明の原理を例示するにすぎない。したがって、本明細書では明示的に説明したり図示したりしないが、本発明の原理を具体化し、その範囲に含まれる様々な構成を当業者が考案できるであろうことは理解されよう。さらに、本明細書に列挙された全ての実施例は、主に、本発明の原理および本発明者(ら)により当技術の促進へ捧げられた概念を理解する際に読者を補助するという教育上の目的のためのものにすぎないことが明らかに意図され、そのように具体的に列挙された実施例および条件に制限されないものと解釈されたい。さらに、本発明の原理、態様、および実施形態、ならびにそれらの具体的な実施例を列挙する本明細書の全ての記述は、それらの均等物を含むものとする。
【0168】
図面に示された様々な要素の機能は、専用のハードウェア、ならびに適切なソフトウェアと関連してソフトウェアを実行可能なハードウェアを用いて提供され得る。機能は、プロセッサにより提供されるとき、単一の専用プロセッサにより、単一の共有プロセッサにより、または、一部が共有され得る複数の個別プロセッサにより、提供され得る。さらに、プロセッサは、ソフトウェアを実行可能なハードウェアを排他的に参照するよう解釈されるべきではなく、デジタル信号プロセッサ(DSP)ハードウェア、ネットワークプロセッサ、特定用途向け集積回路(ASIC)、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)などを非限定的に暗黙に含み得る。従来のおよび/またはカスタムの、他のハードウェア、たとえば読み出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)、および不揮発性ストレージもまた含まれ得る。
図1
図2
図3
図4