特許第6084332号(P6084332)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6084332
(24)【登録日】2017年2月3日
(45)【発行日】2017年2月22日
(54)【発明の名称】土砂災害予測システム
(51)【国際特許分類】
   G01W 1/00 20060101AFI20170213BHJP
   E02D 17/20 20060101ALI20170213BHJP
   G08B 31/00 20060101ALI20170213BHJP
   G08B 27/00 20060101ALI20170213BHJP
   G06Q 50/26 20120101ALI20170213BHJP
【FI】
   G01W1/00 Z
   E02D17/20 106
   G08B31/00 B
   G08B27/00 C
   G06Q50/26
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-163271(P2016-163271)
(22)【出願日】2016年8月24日
【審査請求日】2016年9月23日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】505145242
【氏名又は名称】エー・シー・エス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100075270
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100101373
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 茂雄
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100138759
【弁理士】
【氏名又は名称】大房 直樹
(72)【発明者】
【氏名】本島 明
(72)【発明者】
【氏名】拝崎 昌雄
【審査官】 後藤 大思
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−122239(JP,A)
【文献】 特許第5731700(JP,B2)
【文献】 特開2002−269656(JP,A)
【文献】 特開2011−075386(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01W 1/00− 1/18
G08B 19/00−21/24
G08B 23/00−31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータを用いて土砂災害の可能性を予測する土砂災害予測システムであって、
判定対象区域の土地利用状況を記憶している判定対象区域データベースと、
土地利用状況の種類毎に、地表から土壌への浸透水量、地表を伝って区域外へ流れ出す流出水量、及び降雨が地表に落下する前に植生に付着する付着水量のそれぞれに関するパラメータを記憶している土地利用状況データベースと、
雨量に基づいて判定対象区域の地表に存在している水量である表面水量を計算する表面水量計算部であって、前記判定対象区域の土地利用状況を前記判定対象区域データベースから取得し、取得した土地利用状況の浸透水量、流出水量、及び付着水量に関する各パラメータを前記土地利用状況データベースから取得し、前記雨量及び前記各パラメータを用いて前記判定対象区域の地表に貯留される貯留水量を算出し、前記貯留水量と前記流出水量の和を前記表面水量として決定する表面水量計算部と、
前記表面水量を所定の閾値と比較し、その比較結果に基づいて前記判定対象区域における土砂災害の可能性を判定する土砂災害判定部と、
を備える土砂災害予測システム。
【請求項2】
前記付着水量に関するパラメータは、最大の付着水量を表す飽和付着水量を含み、前記表面水量計算部は、降雨による付着水量が前記飽和付着水量を超過する場合、当該超過量に応じて前記貯留水量が増加するように前記貯留水量を算出する、請求項1に記載の土砂災害予測システム。
【請求項3】
前記パラメータは、地表からの蒸発水量を更に含む、請求項1又は2に記載の土砂災害予測システム。
【請求項4】
前記土砂災害判定部は、河川又は河川の流域に対応する複数の判定対象区域のそれぞれについて計算された前記表面水量を合計し、その合計した表面水量と所定の閾値とを比較し、その比較結果に基づいて、前記河川又は前記河川の流域に関する土砂災害の可能性を判定する、請求項1から3のいずれか1項に記載の土砂災害予測システム。
【請求項5】
前記土砂災害判定部は、過去に実際に土砂災害が発生した際の表面水量との比較に基づいて、土砂災害の可能性を判定する、請求項1から4のいずれか1項に記載の土砂災害予測システム。
【請求項6】
河川の水位を計算する河川水位計算部と、
土壌雨量指数を計算する土壌雨量指数計算部と、を更に備え、
前記土砂災害判定部は、前記表面水量と前記河川水位と前記土壌雨量指数の組み合わせに基づいて土砂災害の可能性を判定する、
請求項1から5のいずれか1項に記載の土砂災害予測システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土砂災害予測システムに関する。
【背景技術】
【0002】
土砂災害発生の危険性を判断するための指標として、土壌雨量指数が知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】「土壌雨量指数」、[online]、気象庁、[平成28年7月26日検索]、インターネット<http://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/bosai/dojoshisu.html>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
土壌雨量指数は、地中に浸透した水分の量を表すものであることから、降水に対する時間的な反応性は遅い。そのため、土壌雨量指数を指標として土砂災害の危険性を予測する方法には、次のような問題があると考えられる。第1に、例えば急激な雨が降った場合は、土壌雨量指数が上昇途中にあり警戒レベルに達する前であっても、土砂災害が発生する可能性がある。第2に、長雨が降った場合は、山の斜面などの実際の水量が少なくても土壌雨量指数は高いままであることがある。これらのことから、土壌雨量指数を指標とした土砂災害の予測は、見逃しや空振りにつながるおそれがある。
【0005】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、その目的の1つは、土砂災害の発生を的確に予測することが可能な土砂災害予測システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するために、本発明の一態様は、コンピュータを用いて土砂災害の可能性を予測する土砂災害予測システムであって、判定対象区域の土地利用状況を記憶している判定対象区域データベースと、土地利用状況の種類毎に、地表から土壌への浸透水量、地表を伝って区域外へ流れ出す流出水量、及び降雨が地表に落下する前に植生に付着する付着水量のそれぞれに関するパラメータを記憶している土地利用状況データベースと、雨量に基づいて判定対象区域の地表に存在している水量である表面水量を計算する表面水量計算部であって、前記判定対象区域の土地利用状況を前記判定対象区域データベースから取得し、取得した土地利用状況の浸透水量、流出水量、及び付着水量に関する各パラメータを前記土地利用状況データベースから取得し、前記雨量及び前記各パラメータを用いて前記判定対象区域の地表に貯留される貯留水量を算出し、前記貯留水量と前記流出水量の和を前記表面水量として決定する表面水量計算部と、前記表面水量に基づいて前記判定対象区域における土砂災害の可能性を判定する土砂災害判定部と、を備える土砂災害予測システムである。
【0007】
また、本発明の他の一態様は、上記一態様において、前記付着水量に関するパラメータは、最大の付着水量を表す飽和付着水量を含み、前記表面水量計算部は、降雨による付着水量が前記飽和付着水量を超過する場合、当該超過量に応じて前記貯留水量が増加するように前記貯留水量を算出する、土砂災害予測システムである。
【0008】
また、本発明の他の一態様は、上記一態様において、前記パラメータは、地表からの蒸発水量を更に含む、土砂災害予測システムである。
【0009】
また、本発明の他の一態様は、上記一態様において、前記土砂災害判定部は、河川又は河川の流域に対応する複数の判定対象区域のそれぞれについて計算された前記表面水量を合計した水量に基づいて、前記河川又は前記河川の流域に関する土砂災害の可能性を判定する、土砂災害予測システムである。
【0010】
また、本発明の他の一態様は、上記一態様において、前記土砂災害判定部は、過去に実際に土砂災害が発生した際の表面水量との比較に基づいて、土砂災害の可能性を判定する、土砂災害予測システムである。
【0011】
また、本発明の他の一態様は、上記一態様において、河川の水位を計算する河川水位計算部と、土壌雨量指数を計算する土壌雨量指数計算部と、を更に備え、前記土砂災害判定部は、前記表面水量と前記河川水位と前記土壌雨量指数の組み合わせに基づいて土砂災害の可能性を判定する、土砂災害予測システムである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、土砂災害の発生を的確に予測することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】一実施形態に係る土砂災害予測システム100の構成を示すブロック図である。
図2】判定対象区域データベース110の一例である。
図3】土地利用状況データベース120の一例である。
図4】表面水量計算部130による表面水量の計算手順を示すフローチャートである。
図5】雨量と土地利用状況に関連するパラメータとを用いて表面水量を計算する方法の概念図である。
図6】土砂災害判定基準データベース150の一例である。
図7】表示部180の表示例である。
図8】危険度インジケータの凡例の一例である。
図9】表面水量と河川水位と土壌雨量指数の組み合わせに基づく土砂災害の可能性の判定基準例を示す。
図10】表面水量と河川水位と土壌雨量指数の組み合わせに基づく、時系列に変遷する土砂災害の可能性の判定結果例を示す。
図11】表面水量と河川水位と土壌雨量指数のそれぞれの時間変化の計算結果例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について詳しく説明する。
【0015】
図1は、本発明の一実施形態に係る土砂災害予測システム100の構成を示すブロック図である。土砂災害予測システム100は、判定対象区域データベース110と、土地利用状況データベース120と、表面水量計算部130と、土砂災害判定部140と、土砂災害判定基準データベース150と、河川水位計算部160と、土壌雨量指数計算部170と、表示部180とを備える。土砂災害予測システム100は、例えば、コンピュータを用いて構成される情報処理システムとして実現することが可能である。
【0016】
判定対象区域データベース110は、判定対象区域の土地利用状況及び地形情報を予め記憶する記憶装置である。判定対象区域は、地表を所定の大きさのエリア(例えば10m四方のメッシュ)に分割した個々の区域であり、後述する表面水量の計算における基本単位である。土地利用状況は、植生や地面の状態など、その土地が何に利用されているかを示す。地形情報は、当該区域上を流れる水流の径深と勾配(いずれも後述)を含む情報である。判定対象区域データベース110は、例えばある市町村や都道府県の全域について、各判定対象区域と、当該判定対象区域の土地利用状況及び地形情報とを対応付けて記憶している。図2は、判定対象区域データベース110の一例である。図2の例において、判定対象区域M1の土地利用状況は「杉(25m以上)」であり、これは、当該区域M1の植生が樹高25m以上の杉であることを示す。また判定対象区域M2の土地利用状況は「道路(舗装)」であり、これは、当該区域M2が舗装された道路であることを示す。
【0017】
土地利用状況データベース120は、土地利用状況の種類毎に、後述する表面水量の計算に用いる各種のパラメータを予め記憶する記憶装置である。図3は、土地利用状況データベース120の一例である。図3に例示された土地利用状況データベース120は、表面水量の計算のためのパラメータとして、粗度係数P1、飽和水量P2、付着水蒸発量率P3、放出量率P4、降雨付着率P5、土壌浸透速度P6、地下浸透速度P7、及び地表面蒸発量率P8を含む。これら各パラメータのそれぞれの意味については後述する。
【0018】
表面水量計算部130は、判定対象区域へ実際に降った雨量、又は判定対象区域へ今後降ることが予想される予想雨量に基づいて、当該判定対象区域の表面水量を計算する。表面水量は、その区域の地表面上(又は土壌のごく浅い表層部分)に存在している水量のことである。一般に、降雨の一部分は樹木の葉や幹などに付着し、その残りが直接地表へ落下する。更に、地表へ到達した雨水の一部分は土壌の深い場所へ浸透していく。そしてこれら以外の雨水は、その区域の地表に留まるか、あるいは隣接する下流側の区域へと流出していく。したがって、ある区域への降雨量から樹木などへの付着量と土壌深部への浸透量を除いた水量、即ち当該区域の地表の貯留量と下流側区域への流出量の和が、表面水量となる。
【0019】
図4は、表面水量計算部130による表面水量の計算手順を示すフローチャートである。ステップS402において、表面水量計算部130は、図1に不図示のネットワークを介して、判定対象区域の雨量データを取得する。一例として、雨量データは、気象庁などによって提供される降水情報としてインターネットを介して入手可能である。雨量データは、実際に観測された降水量、又は各種の気象データから予測された予測降水量のいずれであってもよい。次にステップS404において、表面水量計算部130は、判定対象区域データベース110を参照して、判定対象区域の土地利用状況と地形情報を取得する。次にステップS406において、表面水量計算部130は、土地利用状況データベース120を参照して、ステップS404で取得した土地利用状況に対応する各パラメータを取得する。次にステップS408において、表面水量計算部130は、ステップS402で取得した雨量データ及びステップS406で取得した各パラメータを用いて、判定対象区域の表面水量を計算する。
【0020】
図5は、雨量と土地利用状況に関連するパラメータとを用いてどのように表面水量が計算可能であるかを概念的に示す図である。図5に示されるように、判定対象区域への降雨のうち一部分A1は樹木等へ付着し、残りA2は直接地表へ落下する。判定対象区域への降雨量全体A(=A1+A2)に対する樹木等への付着分A1の割合が、降雨付着率P5である。樹木等への付着分A1と地表への直接落下分A2はそれぞれ、
A1=A×P5
A2=A×(1−P5)
と表される。
【0021】
樹木等に付着している水量である付着水量Bは、降雨によりA1だけ増加する。また付着水量Bのうちの一部分Cは、一定割合の付着水蒸発量率P3で空気中へ蒸発して失われ、付着水量Bのうちの別の一部分Dは、一定割合の放出量率P4で地表へ放出される。更に、樹木等に付着することが可能な水量には限界があり、この最大限度量を飽和水量P2で表す。飽和水量P2を超えるような降雨があった場合には、飽和水量P2を超過した分の水量Eが、追加的に地表へ放出される。現在の付着水量Bから飽和水量P2までの余裕量Xは、蒸発Cと地表への放出Dを考慮すると、
X=P2−(B−C−D)
と表すことができる。判定対象区域への降雨がX≧A1を満たす場合、付着水量Bは飽和しないので、更新後の付着水量B’は
B’=B−C−D+A1
と計算され、また地表への追加の放出水量Eはゼロである。一方、判定対象区域への降雨がX<A1である場合は、付着水量Bは飽和することになり、更新後の付着水量B’は飽和水量P2と一致し(B’=P2)、飽和水量P2を超過したことによって追加で地表へ放出される水量Eは、
E=A1−X
=A1−{P2−(B−C−D)}
と計算される。
【0022】
地表面に溜まっている水量である貯留水量Fは、上記説明から理解されるように、降雨によりA2+D+Eだけ増加する。また貯留水量Fのうちの一部分Gは、一定割合の地表面蒸発量率P8で空気中へ蒸発して失われ、貯留水量Fのうちの別の一部分Hは、一定割合の土壌浸透速度P6で土壌中へ浸透する。但し、土壌中の水量にも許容限度量があり、地表面から土壌への浸透水量Hは、土壌中の水量が当該許容限度量を超えないように制限される。地表面の貯留水量Fの更に別の一部分Jは、地表面上を流れて下流側に隣接する判定対象区域へと流出する。この下流への流出水量Jは、当該判定対象区域から下流側の隣接判定対象区域へ流れる水の流速vと流積(流れの断面積)Sを用いて、
J=S×v
と表すことができる。また流速vは、マニングの式によって
v=(1/n)×R2/3×I1/2
と与えられる。ここで、nは粗度係数P1であり、Rは水の流れの径深(水理学的平均水深)であり、Iは水の流れの経路の勾配(判定対象区域間の標高差)である。更にまた、判定対象区域の地表面へは、上流側に隣接する判定対象区域から地表面を流れて流出した水量Kが流入し、この流入水量Kも貯留水量Fの増加に寄与する。以上から、判定対象区域の更新後の貯留水量F’は、
F’=F+A2+D+E+K−G−H−J
と計算することができる。
【0023】
上述したように、表面水量計算部130は、貯留水量Fと流出水量Jの和を表面水量として決定する。
【0024】
再び図1を参照すると、土砂災害判定部140は、表面水量計算部130により計算された表面水量(=F+J)に基づいて、判定対象区域における土砂災害の可能性を判定する。例えば、土砂災害判定部140は、表面水量を(以下に説明する土砂災害判定基準データベース150に記憶されている)所定の閾値と比較し、その比較結果に基づいて当該判定対象区域における土砂災害の可能性を判定する。また例えば、土砂災害判定部140は、河川又は河川の流域に対応する複数の判定対象区域のそれぞれについての表面水量を合計し、その合計した表面水量と所定の閾値とを比較し、その比較結果に基づいて、当該河川又は河川の流域に関する土砂災害の可能性を判定する。所定の閾値として、例えば、その場所で過去に実際に土砂災害が発生した際の表面水量を採用することができる。また別の例として、その場所で過去に土砂災害が発生したことがない場合には、所定の閾値は、他の地域での災害事例を基に設定した値であってもよい。
【0025】
土砂災害判定基準データベース150は、土砂災害判定部140が土砂災害の可能性を判定する際に利用する情報を予め記憶する記憶装置である。図6は、土砂災害判定基準データベース150の一例である。図6に例示された土砂災害判定基準データベース150は、土砂災害判定対象と、土砂災害判定対象構成区域と、判定基準値の各項目を含む。土砂災害判定対象は、土砂災害判定部140が土砂災害の可能性を判定する対象物であり、例えば○○川、△△川流域、□□地区などである。土砂災害判定対象構成区域は、土砂災害判定対象を構成している判定対象区域を特定する情報である。図6の例において、例えば○○川は、判定対象区域M1、M2、M3、…の集合から構成されている。判定基準値は、土砂災害判定部140が土砂災害の可能性の判定に用いる基準値(上述した所定の閾値)である。
【0026】
例えば、○○川に関して土砂災害の可能性を判定する場合、土砂災害判定部140は、土砂災害判定基準データベース150を参照して、判定対象区域M1、M2、M3、…のそれぞれについての表面水量のデータが必要であることを認識する。次いで、土砂災害判定部140は、表面水量計算部130から各判定対象区域M1、M2、M3、…の表面水量のデータを取得し、取得した各判定対象区域M1、M2、M3、…の表面水量を合計する。次いで、土砂災害判定部140は、土砂災害判定基準データベース150を参照して○○川の判定基準値を取得し、表面水量の合計値が判定基準値の何%であるかを示す指数値を計算する。そして土砂災害判定部140は、得られた指数値に応じた危険度インジケータを表示部180に表示する。
【0027】
図7は、表示部180の表示例である。図7(A)の表示例は、土砂災害判定対象が河川である場合の例であり、土砂災害判定対象の河川702を含む地図704上に複数の危険度インジケータ706a、706b、706c、及び706dを表示している。各危険度インジケータ706a、706b、706c、及び706dは、河川702の本流や支流に対応する位置に配置され、それぞれが配置された本流や支流に関連付けられている判定対象区域の合計の表面水量を反映する。例えば、危険度インジケータ706dは、河川702の支流区間702dに対応する複数の判定対象区域(不図示)についてそれぞれ計算された表面水量の合計値を反映している。同様に、図7(B)の表示例は、土砂災害判定対象が河川の流域である場合の例であり、流域708を含む地図704上に危険度インジケータ706eを表示している。危険度インジケータ706eは、流域708内に存在する判定対象区域の合計の表面水量を反映している。
【0028】
なお、一例として、危険度インジケータは、図8に示されるように、指数値が0%以上25%未満の範囲にある場合は水色の丸印、指数値が25%以上50%未満の範囲にある場合は青色の丸印、指数値が50%以上75%未満の範囲にある場合は黄色の丸印、指数値が75%以上100%未満の範囲にある場合は赤色の丸印、指数値が100%以上120%未満の範囲にある場合は赤色の星印、指数値が120%以上の場合は紫色の星印で表示することが考えられる。
【0029】
再び図1を参照すると、河川水位計算部160は、公知の方法を用いて河川の水位を計算する。土壌雨量指数計算部170は、公知の方法を用いて土壌雨量指数を計算する。河川の水位を計算する方法として、例えば、特開2015−129689号公報に開示された水位予測システムを適用することが可能である。また土壌雨量指数を計算する方法として、例えば、非特許文献1に開示された方法が知られている。
【0030】
土砂災害判定部140は、表面水量計算部130によって計算された表面水量と、河川水位計算部160によって計算された河川水位と、土壌雨量指数計算部170によって計算された土壌雨量指数の組み合わせに基づいて、土砂災害の可能性を判定することとしてもよい。図9は、表面水量と河川水位と土壌雨量指数の組み合わせに基づく土砂災害の可能性の判定基準例を示す。図9の例において、判定結果は、避難指示902、避難勧告904、及び避難検討906の3種類である。土砂災害判定部140は、表面水量の指数値が120%以上であり且つ河川水位の指数値も120%以上である場合に、避難指示を発令すべきであると判定する。これは、もっとも土砂災害の危険性が迫っている状況に対応する。また土砂災害判定部140は、1)河川水位の指数値が120%以上である場合、2)表面水量の指数値が120%以上である場合、3)表面水量の指数値が100%以上120%未満の範囲にあり且つ河川水位の指数値も100%以上120%未満の範囲にある場合、4)土壌雨量指数の指数値(判定基準値に対する比率)が120%以上であり且つ河川水位の指数値が100%以上120%未満の範囲にある場合、及び5)土壌雨量指数の指数値が120%以上であり且つ表面水量の指数値が100%以上120%未満の範囲にある場合には、避難勧告を発令すべきであると判定する。これは、避難指示に次いで土砂災害の危険性が高い状況に対応する。更に、土砂災害判定部140は、1)土壌雨量指数の指数値が120%以上である場合、2)表面水量の指数値が100%以上120%未満の範囲にある場合、及び3)河川水位の指数値が100%以上120%未満の範囲にある場合は、避難検討を発令すべきであると判定する。これは、避難勧告までには至らないが、土砂災害の危険性が高まってきているため避難することが推奨される状況に対応する。
【0031】
図10は、表面水量と河川水位と土壌雨量指数の組み合わせに基づく、時系列に変遷する土砂災害の可能性の判定結果例を示す。図10の危険度インジケータ1006aに示されるように、15時30分に河川水位の指数値が100%以上120%未満の範囲に到達することが、土砂災害予測システム100によって予測される。土砂災害判定部140は、図9の判定基準例に従って、避難検討を発令すべきであると判定する。この判定結果を受けて、市町村などの行政機関は、例えば2時間のリードタイムを見込んで13時30分に実際の避難検討を発令する。また、危険度インジケータ1006bに示されるように、16時00分には、河川水位の指数値が100%以上120%未満の範囲にあり且つ表面水量の指数値が100%以上120%未満の範囲に到達することが、土砂災害予測システム100によって予測される。土砂災害判定部140は、図9の判定基準例に従って、避難勧告を発令すべきであると判定する。この判定結果を受けて、市町村などの行政機関は、例えば2時間のリードタイムを見込んで14時00分に実際の避難勧告を発令する。更に、危険度インジケータ1006cに示されるように、16時30分になると、河川水位と表面水量の指数値が共に120%を超えることが、土砂災害予測システム100によって予測される。土砂災害判定部140は、図9の判定基準例に従って、避難指示を発令すべきであると判定する。この判定結果を受けて、市町村などの行政機関は、例えば2時間のリードタイムを見込んで14時30分に実際の避難指示を発令する。
【0032】
以上、様々な実施態様について説明してきたように、土砂災害予測システム100は、判定対象区域の地表に存在している水量である表面水量に基づいて、土砂災害の可能性を予測する。したがって、地中に浸透した水分の量を表す土壌雨量指数を用いた予測と比較して、土砂災害発生の危険性をいち早く捉えることが可能である。図11は、表面水量と河川水位と土壌雨量指数のそれぞれの時間変化の計算結果例を示すグラフである。図示されるように、土壌雨量指数は時間的に緩やかに増加していくのに対して、表面水量は降雨の発生に素早く反応して急速に増加している。また河川水位の増加は、土壌雨量指数よりは急速に立ち上がっているが、表面水量の増加よりは遅れている。これは、表面水量は河川に流れ込む前の水を捉えたものだからである。このように、各指標の時間変化は、表面水量、河川水位、土壌雨量指数の順に早い。したがって、表面水量を用いることにより土砂災害を素早く的確に予測することが可能である。
【0033】
また、土砂災害予測システム100は、河川や河川の流域に対応する合計の表面水量に基づいて土砂災害を予測するようにも構成される。したがって、土砂災害の危険度を河川毎に(あるいは例えば河川の支流単位で)予測することが可能であり、避難警報を発令すべき地域をピンポイントに絞り込んで特定することができる。これにより、的確な避難行動計画を作成するのに効果的に役立つことができる。
【0034】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明はこれに限定されず、その要旨を逸脱しない範囲内において様々な変更が可能である。
【符号の説明】
【0035】
100 土砂災害予測システム
110 判定対象区域データベース
120 土地利用状況データベース
130 表面水量計算部
140 土砂災害判定部
150 土砂災害判定基準データベース
160 河川水位計算部
170 土壌雨量指数計算部
180 表示部
【要約】
【課題】土砂災害の発生を的確に予測することが可能な土砂災害予測システムを提供する。
【解決手段】土砂災害予測システムは、判定対象区域の土地利用状況を記憶している判定対象区域データベースと、土地利用状況の種類毎に、地表から土壌への浸透水量、地表を伝って区域外へ流れ出す流出水量、及び降雨が地表に落下する前に植生に付着する付着水量のそれぞれに関するパラメータを記憶している土地利用状況データベースと、雨量に基づいて判定対象区域の地表に存在している水量である表面水量を計算する表面水量計算部であって、前記雨量及び前記各パラメータを用いて前記判定対象区域の地表に貯留される貯留水量を算出し、前記貯留水量と前記流出水量の和を前記表面水量として決定する表面水量計算部と、前記表面水量に基づいて前記判定対象区域における土砂災害の可能性を判定する土砂災害判定部と、を備える。
【選択図】図5
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11