特許第6084361号(P6084361)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社槌屋の特許一覧 ▶ 学校法人トヨタ学園の特許一覧

<>
  • 特許6084361-呼吸センサ 図000002
  • 特許6084361-呼吸センサ 図000003
  • 特許6084361-呼吸センサ 図000004
  • 特許6084361-呼吸センサ 図000005
  • 特許6084361-呼吸センサ 図000006
  • 特許6084361-呼吸センサ 図000007
  • 特許6084361-呼吸センサ 図000008
  • 特許6084361-呼吸センサ 図000009
  • 特許6084361-呼吸センサ 図000010
  • 特許6084361-呼吸センサ 図000011
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6084361
(24)【登録日】2017年2月3日
(45)【発行日】2017年2月22日
(54)【発明の名称】呼吸センサ
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/113 20060101AFI20170213BHJP
   A61B 5/08 20060101ALI20170213BHJP
【FI】
   A61B5/10 315
   A61B5/08
【請求項の数】10
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2012-24913(P2012-24913)
(22)【出願日】2012年2月8日
(65)【公開番号】特開2013-158593(P2013-158593A)
(43)【公開日】2013年8月19日
【審査請求日】2014年12月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000150774
【氏名又は名称】株式会社槌屋
(73)【特許権者】
【識別番号】592032636
【氏名又は名称】学校法人トヨタ学園
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】特許業務法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 実
(72)【発明者】
【氏名】スブラタ クマル クンドウ
(72)【発明者】
【氏名】池田 幸治
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 陽久
(72)【発明者】
【氏名】江島 充晃
【審査官】 九鬼 一慶
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−104351(JP,A)
【文献】 特表平08−511751(JP,A)
【文献】 特表2011−501990(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/113
A61B 5/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
計測対象者の呼吸を低侵襲で計測できる呼吸センサであって、
前記計測対象者に対して計測着が省略された状態で直接取り付けられて、前記計測対象者の胴体を挟み込む電気伝導体の対と、
前記電気伝導体の対の間となる前記計測対象者の胴体の部位における静電容量の変化を求め、当該静電容量の変化から前記計測対象者の呼吸を検知する検知手段と、を備えていることを特徴とする呼吸センサ。
【請求項2】
計測対象者の呼吸を低侵襲で計測できる呼吸センサであって、
前記計測対象者に着せられた着用状態とされることで、前記計測対象者の胴体を少なくとも互いに対向する2方向から覆う計測着と、
前記計測着の前記着用状態において前記計測対象者の胴体を挟み込むように、前記計測着に取り付けられた電気伝導体の対と、
前記計測着の前記着用状態において前記電気伝導体の対の間となる前記計測対象者の胴体の部位における静電容量の変化を求め、当該静電容量の変化から前記計測対象者の呼吸を検知する検知手段と、を備えていることを特徴とする呼吸センサ。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の呼吸センサであって、
前記電気伝導体の対のうち少なくとも1対が前記計測対象者の胸部を挟み込み、前記検知手段は、前記計測対象者の前記胸部を挟み込む前記電気伝導体の対に対して、当該電気伝導体の間における静電容量の減少を検知したときに前記計測対象者が息を吸い込み、前記電気伝導体の間における静電容量の増加を検知したときに前記計測対象者が息を吐き出したと判定することを特徴とする呼吸センサ。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の呼吸センサであって、
前記電気伝導体の対のうち少なくとも1対が、前記計測対象者において横隔膜を隔てて肺と隣接する部位である前記計測対象者の腹部を挟み込み、前記検知手段は、前記計測対象者の前記腹部を挟み込む前記電気伝導体の対に対して、当該電気伝導体の間における静電容量の増加を検知したときに前記計測対象者が息を吸い込み、前記電気伝導体の間における静電容量の減少を検知したときに前記計測対象者が息を吐き出したと判定することを特徴とする呼吸センサ。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載の呼吸センサであって、
前記検知手段は、前記電気伝導体の対の間に、血液などの電解液を良導体とみなすことができるほど高い一定の周波数を有する交流電圧を印加して、当該交流電圧に対する前記電気伝導体の対の間における容量性リアクタンスを計測し、当該容量性リアクタンスから前記静電容量を算定して求めることを特徴とする呼吸センサ。
【請求項6】
請求項5に記載の呼吸センサであって、
前記交流電圧の前記周波数は、前記交流電圧が発生させる交流電磁場が前記計測対象者に及ぼす生物学的影響を小さくするように設定されていることを特徴とする呼吸センサ。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれかに記載の呼吸センサであって、
前記電気伝導体を少なくとも2対備え、当該電気伝導体の対のうち少なくとも1対が前記計測対象者の胸部を挟み込み、かつ、前記電気伝導体の対のうち少なくとも1対が前記計測対象者の腹部を挟み込むことを特徴とする呼吸センサ。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれかに記載の呼吸センサであって、
前記計測対象者の運動に伴う角速度を計測して前記検知手段に伝達するジャイロセンサを備え、当該ジャイロセンサから伝達された角速度データに基づいて、前記検知手段の検知結果を補正することを特徴とする呼吸センサ。
【請求項9】
請求項1から請求項8のいずれかに記載の呼吸センサであって、
前記計測対象者の運動に伴う加速度を計測して前記検知手段に伝達する加速度センサを備え、当該加速度センサから伝達された加速度データに基づいて、前記検知手段の検知結果を補正することを特徴とする呼吸センサ。
【請求項10】
計測対象者の呼吸を低侵襲で計測できる呼吸センサであって、
前記計測対象者の胴体を挟み込む電気伝導体の対と、
前記電気伝導体の対の間における静電容量の変化を求め、当該静電容量の変化から前記計測対象者の呼吸を検知する検知手段と、
前記計測対象者の体温を計測して前記検知手段に伝達する温度計と、を備え、当該温度計から伝達された温度データに基づいて、前記検知手段の前記検知結果を補正することを特徴とする呼吸センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、呼吸センサに関する。詳しくは、計測対象者の呼吸を低侵襲で計測できる呼吸センサに関する。
【背景技術】
【0002】
医療や健康分野では、様々な体の状態を計測するニーズがある。このため、体の信号を計測する試みは、従来から多く行われてきた。例えば心電図は、心臓の筋肉が拡張と収縮を繰り返して心臓循環を生み出すときに発生する、微弱な活動電流を計測したものである。また、呼吸は心臓循環と同様に生命活動にとって欠かせない生理機能であり、運動中の自然な状態における呼吸計測は、実際の生活の中での呼吸器官の機能を診断する上で重要である。
従来、計測対象者の呼吸を低侵襲で計測する場合、スパイロメータが広く用いられてきた。このスパイロメータでは、計測対象者の口元にマウスピースを装着し、このマウスピースから伸びるパイプ類に計測対象者の呼気または吸気を通して、この呼気または吸気をセンサにより計測する。
【0003】
上記スパイロメータでは、マウスピースから伸びるパイプ類が計測対象者の運動を妨げるために、計測対象者の運動中の呼吸計測を行うことが難しい。このため、計測対象者の運動を妨げることなく呼吸計測ができる呼吸センサが望まれている。
計測対象者の運動を妨げることなく呼吸計測ができる呼吸センサとしては、例えば特許文献1に記載された発明が知られている。この発明では、計測対象者の胴体に密着して、横および縦方向に伸びるベストに、歪みゲージを有する圧電フィルムを設けている。そして、上記ベストの胸部および腹部の領域において、計測対象者の呼吸パターンおよび心臓の圧力に伴う胴体の変形によってベストが伸縮すると、それぞれの伸縮に歪みゲージが反応して、上記呼吸パターンおよび心臓の圧力を求めるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許3609404号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、呼吸は心臓循環機能と比べて随意的にも制御される側面があるため、計測対象者に与えられるストレスは呼吸の計測結果に影響を及ぼす。ここで、上述したスパイロメータにおいては、計測対象者はマウスピースの装着によりストレスを感じる。また、特許文献1の発明においては、計測対象者の胴体に密着させたベストの伸縮から計測対象者の呼吸パターンおよび心臓の圧力を求めるため、計測対象者はベストから締め付けられる力を受けてストレスを感じる。すなわち、上述した各呼吸計測の技術には、計測対象者に与えられるストレスのため、計測対象者の自然な状態における呼吸計測ができないという問題があった。
本発明は、上記した問題を解決するものとして創案されたものである。すなわち、本発明が解決しようとする課題は、計測対象者の呼吸を静電容量の変化により検知して計測することで、呼吸計測の際に計測対象者にかかるストレスをなくして、計測対象者の自然な状態での呼吸計測を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の呼吸センサは次の手段をとる。
まず、第1の発明は、計測対象者の呼吸を低侵襲で計測できる呼吸センサである。この呼吸センサは、計測対象者の胴体を挟み込む電気伝導体の対と、この電気伝導体の対の間における静電容量の変化を求め、この静電容量の変化から計測対象者の呼吸を検知する検知手段と、を備えている。
ヒトを含む肺呼吸の動物は、呼吸の際に肺の膨張および収縮を繰り返し、併せて周辺の体内組織を大きく動かす。この肺および体内組織の動きは、計測対象者の胴体の各部位における静電容量の変化として現れる。
ここで、上記第1の発明によれば、電気伝導体の対が計測対象者の胴体を挟んで配置される。このため、電気伝導体の対の間に計測対象者の胴体の内部を通るように電場を印加して、その部位における静電容量の変化を求め、この静電容量の変化から計測対象者の呼吸を検知することができる。すなわち、計測対象者に対してマウスピースの装着やベストによる締め付けを行うことなく、計測対象者の呼吸を計測することができる。これにより、呼吸計測の際に計測対象者にかかるストレスをなくして、計測対象者の自然な状態での呼吸計測を行うことができる。
【0007】
ついで、第2の発明は、上述した第1の発明において、電気伝導体の対のうち少なくとも1対が計測対象者の胸部を挟み込み、検知手段は、計測対象者の胸部を挟み込む電気伝導体の対に対して、この電気伝導体の間における静電容量の減少を検知したときに計測対象者が息を吸い込み、上記電気伝導体の間における静電容量の増加を検知したときに計測対象者が息を吐き出したと判定するものである。
電気伝導体間の静電容量は、この電気伝導体間で電場が通る領域の誘電率に比例する。なお、ある領域における誘電率は、その領域内の物質の比誘電率(物質により変化する値)に真空の誘電率(定数)をかけることで求められる。ここで、ヒトを含む肺呼吸の動物の肉体(および水)の比誘電率は80程度であるのに対して、この肺呼吸の動物の肺に出入する空気の比誘電率はほぼ1であり、その比誘電率には大きな差がある。このため、計測対象者の胸部における静電容量は、計測対象者が息を吸い込んで肺内部における空気量が増加すると減少し、計測対象者が息を吐き出して肺内部における空気量が減少すると増加する。
すなわち、上記第2の発明によれば、動物の肉体(および水)と空気との比誘電率の違いを利用して、計測対象者の肺内部における空気量の変化を静電容量の変化により検知し、計測対象者の呼吸を計測することができる。
【0008】
さらに、第3の発明は、上述した第1または第2の発明において、電気伝導体の対のうち少なくとも1対が計測対象者の腹部を挟み込み、検知手段は、計測対象者の腹部を挟み込む電気伝導体の対に対して、この電気伝導体の間における静電容量の増加を検知したときに計測対象者が息を吸い込み、上記電気伝導体の間における静電容量の減少を検知したときに計測対象者が息を吐き出したと判定するものである。
ヒトを含む動物の肉体は、通常は接地状態または所定の電位を有する物質と接触しており、その物質と等しい電位を有している。このため、計測対象者の腹部を電気伝導体の対で挟み込んで静電容量を計測する場合、計測される静電容量は計測対象者の腹部による静電遮蔽の影響のために小さくなる。ここで、上記腹部は横隔膜を隔てて肺と隣接する部位であるため、計測対象者が息を吸い込んで肺が膨張すると、この肺内部の空気により上記腹部による静電遮蔽が弱められる。このため、計測対象者の腹部における静電容量は、計測対象者が息を吸い込んで腹部による静電遮蔽の効果が弱められると増加し、計測対象者が息を吐き出して腹部による静電遮蔽の効果が元に戻ると減少する。
すなわち、上記第3の発明によれば、動物の肉体による静電遮蔽が肺内部の空気により弱められるという性質を利用して、計測対象者の呼吸を静電容量の変化により検知して計測することができる。
【0009】
さらに、第4の発明は、上述した第1から第3の発明のいずれかにおいて、検知手段は、電気伝導体の対の間に、血液などの電解液を良導体とみなすことができるほど高い一定の周波数を有する交流電圧を印加して、この交流電圧に対する電気伝導体の対の間における容量性リアクタンスを計測し、この容量性リアクタンスから静電容量を算定して求めるものである。
ここで、「容量性リアクタンス」とは、静電容量を有する電気伝導体間に交流電圧を印加する際に、この交流電圧に対して作用する擬似的な抵抗のことである。このため、例えば静電容量を有する電気伝導体の対と他部材とを直列接続した回路においては、回路に印加する電圧と上記他部材にかかる電圧との関係から、上記電気伝導体の対の容量性リアクタンスを簡単に求めることができる。ここで、容量性リアクタンスには、印加した交流電圧の周期(周波数の逆数)を電気伝導体間の静電容量で割った値に比例するという性質がある。また、血液などの電解液には高い周波数を有する交流電圧に対して良導体のように振る舞う性質がある。このため、測定対象者の静電容量には、この測定対象者の呼吸に伴う血流分布の変化によって電気力線の通り方が変化することの影響が、上述した肺内部における空気量の変化の影響に追加されて反映される。
すなわち、上記第4の発明によれば、電気伝導体の対の間に交流電圧を印加することで、電気伝導体の対の容量性リアクタンスを簡単に計測して、電気伝導体の対における静電容量の変化を簡単に求めることができる。また、交流電圧の周波数が一定であることから、計測対象者の肉体(および水)の交流電場に対する周波数特性が混入する影響を無くすことができる。また、上記交流電圧の周波数を高くすることで、電気伝導体の対における静電容量の変化に、測定対象者の呼吸に伴う血流分布の変化の影響を追加して反映させることができる。このため、電気伝導体の対における静電容量の算定精度を向上させることができる。
【0010】
さらに、第5の発明は、上述した第1から第4の発明のいずれかにおいて、上記交流電圧の周波数は、交流電圧が発生させる交流電磁場が計測対象者に及ぼす生物学的影響を小さくするように設定されているものである。
電気伝導体間に交流電圧を印加すると、この電気伝導体間には印加された交流電圧の周波数と等しい周波数を有する交流電磁場が発生する。ここで、ヒトを含む動物は、交流電磁場の曝露により様々な生物学的影響を受ける。この生物学的影響は、交流電磁場の周波数によりその影響の種類および程度が変わることが知られている。
すなわち、上記第5の発明によれば、電気伝導体間に印加する交流電圧の周波数の設定により、計測対象者が受ける生物学的影響を小さくして、計測対象者のより自然な状態での呼吸計測を行うことができる。
【0011】
さらに、第6の発明は、上述した第1から第5の発明のいずれかにおいて、計測対象者に着せられた着用状態とされることで、計測対象者の胴体を少なくとも互いに対向する2方向から覆う計測着を備え、電気伝導体の対は、計測着の着用状態において計測対象者の胴体を挟み込むように、計測着に取り付けられているものである。
この第6の発明によれば、本発明の呼吸センサにおいて電気伝導体の対を計測着に取り付けることで、電気伝導体の対を計測対象者から外れにくくすることができる。また、計測着の着脱により呼吸センサを容易に着脱することができる。
【0012】
さらに、第7の発明は、上述した第1から第6の発明のいずれかにおいて、電気伝導体を少なくとも2対備え、この電気伝導体の対のうち少なくとも1対が計測対象者の胸部を挟み込み、かつ、電気伝導体の対のうち少なくとも1対が計測対象者の腹部を挟み込むものである。
ヒトを含む哺乳類は、胸部の肋骨の間に位置する肋間筋を動かして行う胸式呼吸と、腹腔の胸腔と隣接する部分に位置する横隔膜を動かして行う腹式呼吸と、を組み合わせて呼吸を行う。この胸式呼吸および腹式呼吸の組み合わせ方は運動状態および姿勢によって変わるので、運動中の呼吸計測においては胸式呼吸および腹式呼吸のそれぞれを区別して計測することが重要となる。ここで、胸部および腹部のそれぞれにおいて各体組織の動きを計測することで、胸式呼吸と腹式呼吸とを区別して計測できることが一部で知られている。
すなわち、上記第7の発明によれば、計測対象者の胸部および腹部のそれぞれを電気伝導体の対で挟み込むことで、計測対象者の胸部および腹部のそれぞれにおいて肺内部における空気量の変化を検知することができる。これにより、計測対象者の胸式呼吸と腹式呼吸とを区別して計測することができる。
【0013】
さらに、第8の発明は、上述した第1から第7の発明のいずれかにおいて、計測対象者の運動に伴う角速度を計測して検知手段に伝達するジャイロセンサを備え、このジャイロセンサから伝達された角速度データに基づいて、検知手段の検知結果を補正するものである。
計測対象者の運動中における呼吸計測を行う場合、計測対象者の運動または姿勢の変化に伴う角速度によって、この計測対象者に対する呼吸センサの相対位置が変化する。ここで、上記呼吸計測を静電容量の変化を検知することで行う場合、電気伝導体間の静電容量は電気伝導体間の距離に反比例するため、上述した相対位置の変化は、検知結果に対するノイズとして現れる。
すなわち、上記第8の発明によれば、検知手段の検知結果をジャイロセンサによって計測した計測対象者の角速度に基づいて補正することで、この角速度によって発生するノイズを情報処理により除去または減少させることができる。これにより、計測対象者の運動中における呼吸計測の精度を向上させることができる。
【0014】
さらに、第9の発明は、上述した第1から第8の発明のいずれかにおいて、計測対象者の運動に伴う加速度を計測して検知手段に伝達する加速度センサを備え、この加速度センサから伝達された加速度データに基づいて、検知手段の検知結果を補正するものである。
計測対象者の運動中における呼吸計測を行う場合、計測対象者の運動に伴う速度変化(加速度)によって、この計測対象者に対する呼吸センサの相対位置が変化する。ここで、上記呼吸計測を静電容量の変化を検知することで行う場合、電気伝導体間の静電容量は電気伝導体間の距離に反比例するため、上述した相対位置の変化は、検知結果に対するノイズとして現れる。
すなわち、上記第9の発明によれば、検知手段の検知結果を加速度センサによって計測した計測対象者の加速度に基づいて補正することで、この加速度によって発生するノイズを情報処理により除去または減少させることができる。これにより、計測対象者の運動中における呼吸計測の精度を向上させることができる。
【0015】
さらに、第10の発明は、上述した第1から第9の発明のいずれかにおいて、計測対象者の体温を計測して検知手段に伝達する温度計を備え、この温度計から伝達された温度データに基づいて、検知手段の検知結果を補正するものである。
ヒトを含む動物の肉体(および水)の比誘電率は、温度により変化する値であることが一般的に知られている。このため、計測対象者の呼吸計測を静電容量の変化として検知することで行う場合、運動などにより計測対象者の体温が変化すると、その体温の変化に合わせて呼吸の計測結果も変化する。
すなわち、上記第10の発明によれば、検知手段の検知結果を温度計によって計測した計測対象者の体温に基づいて補正することで、この体温の変化の影響を呼吸の計測結果から情報処理により除去または減少させることができる。これにより、計測対象者の呼吸の計測結果を容易に比較することができるようになるとともに、呼吸計測の精度を向上させることができる。
【0016】
さらに、第11の発明は、上述した第1から第10の発明のいずれかの呼吸センサを用いた呼吸計測システムである。この呼吸計測システムは、呼吸センサの出力を無線送信する無線送信装置と、この無線送信装置からの無線送信を受信する無線受信装置と、を備えている。
この第11の発明によれば、呼吸センサの出力を外部に無線送信するので、計測対象者の呼吸を、この計測対象者の行動範囲および運動状態に制限を設けることなく、外部の計測者が静止した状態で計測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の第1の実施形態に係る呼吸センサを表した正面図である。
図2】上記呼吸センサの使用状態を表した模式図である。
図3】上記使用状態における計測対象者の体内の様子を表した模式図であり、計測対象者が息を吸い込んだ状態を表す。
図4】上記使用状態における計測対象者の体内の様子を表した模式図であり、計測対象者が息を吐き出した状態を表す。
図5】上記呼吸センサの検知手段の概略構成を表したブロック図である。
図6】上記検知手段の交流発振回路および交流―直流変換回路の回路図である。
図7】上記検知手段の交流―直流変換回路における出力電圧の時間変化を表した折れ線グラフである。
図8】上記呼吸センサの電極対間における静電容量の時間変化を表した折れ線グラフである。
図9】従来のスパイロメータにおける呼吸の換気量の時間変化を表した折れ線グラフである。
図10】本発明の第2の実施形態に係る呼吸センサの使用状態を表した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明を実施するための形態について、図面を用いて説明する。なお、以下において、電池およびコネクタなどの付随的な構成については、その図示および詳細な説明を省略する。
〈第1の実施形態〉
始めに、第1の実施形態に係る呼吸センサ10の構成について、図1ないし図6を用いて説明する。この呼吸センサ10は、図2に示すように、ヒトを計測対象者Pとして、この計測対象者Pの日常生活における呼吸を、計測対象者Pに対して負担をかけることなく(すなわち低侵襲の状態で)計測するための着用型の呼吸センサである。
【0019】
上記呼吸センサ10は、図1および図2に示すように、計測着13(本実施形態ではTシャツ)に1対の電極11を取り付けて、この各電極11から伸びるケーブル11Cに検知手段12を接続した構成となっている。計測着13は、計測対象者Pに着せられた着用状態(図2参照)において、計測対象者Pの体幹上部を前方および後方から覆うように構成されている。また、検知手段12は、上記着用状態において、計測対象者Pにより携帯されるようになっている。
ここで、各電極11は計測着13に対してボタン(図示省略)により着脱自在に取り付けられる。また、ケーブル11Cは、各電極11および検知手段12に対してコネクタ(図示省略)を介して着脱自在に接続される。このため、呼吸センサ10は、その計測着13を他部材から分離することで、呼吸センサ10の不使用時の収納性が向上されるとともに、計測着13が洗濯可能となる。
【0020】
上記各電極11は、導電性繊維を芯部とし、絶縁繊維を鞘部とした二層構造糸により形成された布を長方形に裁断し、その裁断部を導電性の接着剤(図示省略)で固めて上記導電性繊維を短絡させることで形成される。ここで、導電性繊維を用いた布により各電極11を形成することで、この各電極11が取り付けられた計測着13の着心地の良さが確保されている。また、各電極11において導電性繊維を絶縁繊維により覆った二層構造糸を用いることで、各電極11間に電場をかけながら、この各電極11から外部への漏電を防ぐことができる。
なお、本実施形態では、上記二層構造糸として直径0.04[mm]のステンレス線を綿繊維で覆ったものを、上記導電性の接着剤として藤倉化成株式会社製のDOTITEXA-910(DOTITEは登録商標)をそれぞれ使用した。
【0021】
各電極11は、図2に示すように、計測着13が計測対象者Pに着せられた着用状態において、腹部電極11Aと腰部電極11Bとで計測対象者Pの腹部を挟み込むようになっている。そして、検知手段12は、腹部電極11Aと腰部電極11Bとの間の静電容量Cの変化(図8参照)を求め、この静電容量Cの変化から計測対象者Pの呼吸を検知する。すなわち、各電極11は、本発明における「電気伝導体」に相当する。なお、検知手段12が検知した呼吸は、検知手段12のモニタ12F(図1参照)に換気量の時間変化を示す波形として出力されるようになっている。
上記各構成によれば、計測対象者Pに対してマウスピースの装着やベストによる締め付けを行うことなく、各電極11間の静電容量Cの変化から計測対象者Pの呼吸を計測することができる。これにより、呼吸計測の際に計測対象者Pにかかるストレスをなくして、計測対象者Pの自然な状態での呼吸計測を行うことができる。また、各電極11を計測着13に取り付けることで、各電極11を計測対象者Pから外れにくくするとともに、計測着13の着脱により呼吸センサ10を容易に着脱することができる。
なお、呼吸センサ10は、計測対象者Pに対して計測着13の着丈が短く各電極11が計測対象者Pの腹部に届かない場合のために、各電極11で計測対象者Pの胸部を挟んだ状態(本実施形態では胸骨の周辺を前後方向から挟んだ状態)でも呼吸の計測を行うことができるようになっている。すなわち、検知手段12は、切り替えスイッチ(図示省略)によりその計測モードが手動で切り替えられることで、計測対象者Pの胸部を挟む腹部電極11Aと腰部電極11Bとの間の静電容量の変化から計測対象者Pの呼吸を検知することができるようになっている。
【0022】
続いて、上述した呼吸センサ10の計測の原理について説明する。計測対象者Pの肺P3は、図3および図4に示すように、計測対象者Pの呼吸による空気の出入りに伴って膨張と収縮とを繰り返す。また、計測対象者Pの体内組織(例えば図3および図4に示す横隔膜P2)は、上記肺P3の膨張および収縮に併せて大きく動く。
なお、肺P3の膨張および収縮における肺P3の体積の変化(すなわち肺活量)は、健康な成人男性の場合で2000[cm3]〜3000[cm3]である。この肺P3および上述した体内組織の動きは、計測対象者Pの胴体の各部位における静電容量の変化として現れるため、この静電容量の変化から計測対象者Pの呼吸を検知して計測することができる。
【0023】
さて、計測対象者Pの腹部において、電極11の腹部電極11Aを前側(へそ側)に、腰部電極11Bを後側(腰側)に位置させて、この各電極11間に交流電圧を印加すると、計測対象者Pの横隔膜P2周辺を前後方向に通過するように交流電場Eが発生する。ここで、計測対象者Pが息を吸い込んだときは、図3に示すように、肺P3の下側(足側)への膨張とともに肺P3の下側に位置する横隔膜P2が下方に移動する。
このため、上記交流電場Eは、上記肺P3およびこの肺P3に入り込んだ空気をより多く通過する。一方、計測対象者Pが息を吐き出したときは、図4に示すように、肺P3の上側(頭側)への収縮とともに横隔膜P2が上方に移動する。このため、交流電場Eは、横隔膜P2よりも下側に位置する計測対象者Pの胴体P1内の組織をより多く通過する。
【0024】
ところで、計測対象者Pは、通常は接地状態または所定の電位を有する物質と接触して、その物質と等しい電位を有している。このため、各電極11で計測対象者Pの腹部を挟んで、この電極11間に交流電場Eを印加して電極11間の静電容量Cを計測する場合、計測される静電容量Cは計測対象者Pの腹部による静電遮蔽の影響のために小さくなる。ここで、上記腹部は横隔膜P2を隔てて肺P3と隣接する部位であるため、計測対象者Pが息を吸い込んで肺P3が膨張すると、この肺P3内部の空気により上記腹部による静電遮蔽が弱められる。このため、計測対象者Pの腹部における静電容量Cは、計測対象者Pが息を吸い込んで腹部による静電遮蔽の効果が弱められると増加し、計測対象者Pが息を吐き出して腹部による静電遮蔽の効果が元に戻ると減少する。
そして、この静電容量Cの変化(図8参照)を検知手段12により求めることで、計測対象者Pの呼吸を計測することができる。すなわち、検知手段12は、電極11間における静電容量Cの増加を検知したときに計測対象者Pが息を吸い込み、電極11間における静電容量Cの減少を検知したときに計測対象者Pが息を吐き出したと判定することで、計測対象者Pの呼吸を計測することができる。
【0025】
一方、各電極11で計測対象者Pの胸部を挟んで、この電極11間に交流電場Eを印加して電極11間の静電容量Cを計測する場合、交流電場Eは空気が入り込んだ肺P3を多く通過する。このため、計測される静電容量Cには上述した静電遮蔽の影響よりも計測対象者Pの肉体(および水)と空気との比誘電率の違いの影響が大きく反映される。すなわち、ヒトの肉体(および水)の比誘電率は80程度であるのに対して、その肺に出入する空気の比誘電率はほぼ1であり、その比誘電率には大きな差がある。このため、交流電場Eが計測対象者Pの肺P3に入り込んだ空気をより多く通過するほど(すなわち、計測対象者Pが息を吸い込むほど)、電極11間の静電容量Cが小さくなる。また、交流電場Eが計測対象者Pの肺P3に入り込んだ空気を通過する範囲が狭くなるほど(すなわち、計測対象者Pが息を吐き出すほど)、電極11間の静電容量Cが大きくなる。
そして、この静電容量Cの変化を検知手段12により求めることで、計測対象者Pの肺P3内部における空気量の変化を検知することができる。すなわち、検知手段12は、電極11間における静電容量Cの減少を検知したときに計測対象者Pが息を吸い込み、電極11間における静電容量Cの増加を検知したときに計測対象者Pが息を吐き出したと判定することで、計測対象者Pの呼吸を計測することができる。
【0026】
上記検知手段12は、図5に示すように、各電極11間に一定の周波数の交流電圧を印加した際の容量性リアクタンスを計測し、その計測結果から各電極11間における静電容量Cの変化を算定して求めるように構成されている。以下、検知手段12が静電容量Cの変化を求める原理について説明する。なお、以下において、検知手段12の各構成の電圧値は、特に宣言した場合を除き、検知手段12の筐体(図示省略)の電位を基準(すなわち0[V])とした値を記載する。
検知手段12は、図5および図6に示すように、上記電極11の対に、固定容量のコンデンサ12Dと、交流発振回路12Bと、を直列に接続した構成となっている。上記コンデンサ12Dには、出力端子12Eを備えた交流―直流変換回路12Cが並列に接続されている。交流―直流変換回路12Cの出力端子12Eには、図5に示すように、データ処理装置12Aが接続されている。なお、上記データ処理装置12A、交流発振回路12B、交流―直流変換回路12C、コンデンサ12Dは、それぞれ検知手段12の筐体(図示省略)に筐体設置されている。
【0027】
上記交流発振回路12Bは、電極11の対と、コンデンサ12Dと、の直列の並びに周波数および電圧が一定の交流電圧を印加して、各電極11間に印加した交流電圧と同じ周波数を有する交流電場E(図3および図4参照)を発生させる。ここで、正弦波電圧の周波数は、呼吸計測における十分な時間分解能を確保でき、かつ、血液などの電解液を良導体とみなすことができるほど高い一定の値に設定される。これにより、計測対象者Pの静電容量Cには、測定対象者Pの呼吸に伴う血流分布の変化によって電気力線の通り方が変化することの影響が、上述した肺P3内部における空気量の変化の影響に追加されて反映される。
また、上記正弦波電圧の周波数は、正弦波電圧が発生させる交流電場Eが計測対象者Pに及ぼす生物学的影響を小さくすることができる値に設定される。上記生物学的影響としては、例えば計測対象者Pの体内に発生する誘導電流または計測対象者Pが感じる被加熱感が挙げられる。なお、前者は正弦波電圧の周波数が100[kHz]以下の場合において、後者は正弦波電圧の周波数が10[MHz]以上の場合において、その影響が大きくなる。
なお、本実施形態では、交流発振回路12Bとして、図6に示すクアドラチャ発振回路を用いた。このクアドラチャ発振回路は、周波数が400[kHz](周期が2.5[μs])でピーク・ツー・ピーク電圧(すなわち、正弦波電圧における最大電圧と最低電圧との差)が6[V]の正弦波電圧を発生させる。
【0028】
このとき、計測対象者Pの呼吸によって電極11間の静電容量Cが小さくなると、電極11間の容量リアクタンスが大きくなって、コンデンサ12Dにかかる交流電圧が小さくなる。一方、計測対象者Pの呼吸によって電極11間の静電容量Cが大きくなると、電極11間の容量リアクタンスが小さくなって、コンデンサ12Dにかかる交流電圧が大きくなる。
ここで、交流発振回路12Bは、コンデンサ12Dにかかる交流電圧と同じ交流電圧をコンデンサ12Dに対して並列に接続された交流―直流変換回路12Cにも印加する。そして、交流―直流変換回路12Cは、交流発振回路12Bから印加された交流電圧を直流の出力電圧V1(図7参照)に変換し、出力端子12Eからデータ処理装置12Aに出力する。
【0029】
上記データ処理装置12Aは、出力端子12Eの出力電圧V1から各電極11間の容量性リアクタンスを計算し、この容量性リアクタンスで交流電圧の周期(2.5[μs])を割って所定の係数(定数)をかけることで各電極11間の静電容量Cを求める。そして、データ処理装置12Aは、各電極11間の静電容量Cの変化を計測対象者Pの肺P3(図3および図4参照)内部における空気量の変化としてモニタ12F(図1参照)に表示させる。
上記各構成によれば、交流発振回路12Bが各電極11間に周波数が一定の交流電圧を印加することで、計測対象者の肉体(および水)の交流電場に対する周波数特性の影響を無視して、各電極11間の容量性リアクタンスおよび静電容量Cを簡単に求めることができる。また、交流電圧の周波数の設定により、測定対象者Pの呼吸に伴う血流分布の変化の影響を追加して反映させて静電容量Cの算定精度を向上させることができ、さらに、計測対象者Pが受ける生物学的影響を小さくして、計測対象者Pのより自然な状態での呼吸計測を行うことができる。
【0030】
本発明者らは、上述した呼吸センサ10の計測結果と実際の呼吸との対応関係を調べるために実験を行った。以下、この実験の実験結果について、図7ないし図9を用いて説明する。
なお、以下の実験においては、計測対象者Pは座った状態で、呼吸停止B1、安静時呼吸B2、深呼吸B3、過呼吸(ペースの速い激しい呼吸)B4のそれぞれを行った。また、計測対象者Pは呼吸センサ10の計測着13を十分なゆとりを持った状態に着たため、計測対象者Pが計測着13に対して着心地の悪さを感じることはなかった。また、上記計測着13の各電極11は、計測対象者Pのみぞおちの下部周辺を前後方向から挟み込んでいた。
【0031】
まず、交流―直流変換回路12Cがデータ処理装置12Aに出力する出力電圧V1の時間変化を、計測対象者Pの呼吸を計測しながら記録した。この実験によれば、図7に示すように、計測対象者Pが息を吸い込むときに出力電圧V1が大きくなり、計測対象者Pが息を吐き出すときに出力電圧V1が小さくなることで、計測対象者Pの呼吸の回数に対応した出力電圧V1の繰り返し信号が得られた。この繰り返し信号は、出力電圧V1のノイズ成分の大きさ(約0.01[V])よりも明らかに大きく、かつ、計測対象者Pの呼吸状態によって変化することが確認された。すなわち、安静時呼吸B2における繰り返し信号と比べて、深呼吸B3における繰り返し信号は信号の振幅がより大きく、過呼吸B4における繰り返し信号は信号の周期がより短く記録された。また、呼吸停止B1の際には、繰り返し信号が停止することが確認された。
【0032】
ついで、計測対象者Pに本発明の呼吸センサ10および公知のスパイロメータの両方を装着させて同時に呼吸計測を行い、その各計測結果を比較する実験を行った。なお、今回の実験では、公知のスパイロメータとして、ミナト医科学株式会社製のRF-Hを使用した。このスパイロメータは、計測対象者の口元にマウスピースを装着して計測対象者の息を取り込み、その換気量を熱線式流速計により計測して出力電圧V2(図9参照)として出力する。
上記実験によれば、図8および図9に示すように、スパイロメータから得られた出力電圧V2の波形と、呼吸センサ10から得られた静電容量Cの波形とは、その波形、周期、および、振幅の変化幅において類似していることが確認できた。このため、本発明の呼吸センサ10が計測する静電容量Cの変化は、計測対象者Pの呼吸における換気量の変化を観察するために用いることができると推定される。
【0033】
〈第2の実施形態〉
続いて、第2の実施形態に係る呼吸センサ20の構成について、図10を用いて説明する。第2の実施形態に係る呼吸センサ20は、第1の実施形態に係る呼吸センサ10を変形した実施形態である。したがって、上記第1の実施形態に係る呼吸センサ10の各構成と共通する構成については、第1の実施形態に係る呼吸センサ10の各構成に付した符号から、その十の位の数字を「2」に置き換えた符号を付して対応させ、その詳細な説明を省略する。
第2の実施形態の呼吸センサ20は、図10に示すように、複数の計測対象者Pの呼吸を、各計測対象者Pに負担をかけることなく(すなわち低侵襲の状態で)計測するための呼吸計測システムの一部である。この呼吸センサ20の計測着23には、第1の実施形態の呼吸センサ10における1対の電極11の代わりに、2対の電極21が面ファスナー(図示省略)により着脱可能に取り付けられている。
【0034】
上記各電極21は、計測着23が計測対象者Pに着せられた着用状態において、腹部電極21Aと腰部電極21Bとで計測対象者Pの腹部を、胸部電極21Dと背部電極21Eとで計測対象者Pの胸部を、それぞれ前後方向から挟み込むようになっている。このため、呼吸センサ20は、計測対象者Pの胸部および腹部のそれぞれにおいて静電容量の変化を肺内部における空気量の変化として検知することができる。
なお、呼吸センサ20の検知結果のうち、腹部の静電容量の変化からは計測対象者Pの腹式呼吸の情報が多く得られ、胸部の静電容量の変化からは計測対象者Pの胸式呼吸の情報が多く得られる。これにより、計測対象者Pの胸式呼吸と腹式呼吸とを区別して計測することができる。
【0035】
上記計測着23には、各電極21に加えて、右肩部分に検知手段22が、左肩部分に運動状態計測装置24が、腹部電極21Aと胸部電極21Dとの間に温度計25が、それぞれ着脱可能に取り付けられている。上記検知手段22には、無線送信装置26(本実施形態では市販のZIGBEE(登録商標)製品)が組み付けられた状態で接続され、上述した各電極21がケーブル21Cを介して接続されている。また、上記運動状態計測装置24および温度計25は、それぞれケーブル24A、25Aを介して無線送信装置26に接続されている。
検知手段22は、腹部電極21Aと腰部電極21Bとの間の静電容量を求め、計測対象者Pの腹部の静電容量として無線送信装置26に出力する。また、検知手段22は、胸部電極21Dと背部電極21Eとの間の静電容量を求め、計測対象者Pの胸部の静電容量として無線送信装置26に出力する。また、運動状態計測装置24は、3軸の加速度センサ(図示省略)を備えて計測対象者Pの運動によってかかる加速度(速度変化)を3軸で検出し、加速度データとして無線送信装置26に出力する。また、運動状態計測装置24は、3軸のジャイロセンサ(図示省略)を備えて計測対象者Pの運動または姿勢の変化に伴う角速度を3軸で検出し、角速度データとして無線送信装置26に出力する。また、温度計25は、計測対象者Pの体温を計測し、この計測結果を温度データとして無線送信装置26に出力する。そして、無線送信装置26は、計測対象者Pの腹部および胸部の各静電容量のデータに、上述した加速度データ、温度データ、および、角速度データを同期させて付加し、さらに呼吸センサ20の識別符号を付加して電波Rとして無線送信する。
【0036】
無線送信装置26から無線送信された電波Rは、図10に示すように、モニタ27Aを備えた無線受信装置27により受信される。この無線受信装置27は、上記電波Rから、計測対象者Pの腹部および胸部の各静電容量のデータ、加速度データ、角速度データ、温度データ、および、呼吸センサ20の識別符号を抽出する。ついで、無線受信装置27は、抽出した加速度データ、角速度データ、および、温度データに基づいて、抽出した各静電容量のデータから加速度、角速度、および、温度変化の影響を取り除く補正を行う。
上記構成によれば、検知手段22の検知結果を運動状態計測装置24によって計測した計測対象者Pの加速度および角速度に基づいて補正することで、この加速度または角速度によって発生するノイズを情報処理により除去または減少させることができる。これにより、計測対象者Pの運動中における呼吸計測の精度を向上させることができる。また、検知手段22の検知結果を温度計25によって計測した計測対象者Pの体温に基づいて補正することで、この体温の変化の影響を呼吸の計測結果から情報処理により除去または減少させることができる。これにより、計測対象者Pの呼吸の計測結果を容易に比較することができるようになるとともに、呼吸計測の精度を向上させることができる。
【0037】
上記補正の後、無線受信装置27は、補正後の計測対象者Pの腹部および胸部の各静電容量をそれぞれ計測対象者Pの肺内部における空気量の変化として呼吸センサ20の識別符号とともにモニタ27Aに表示させる。このモニタ27Aは、外部の計測者または自動監視装置(図示省略)により監視することができ、計測対象者Pの呼吸を長期間にわたって計測することができるようになっている。これにより、計測対象者Pの健康状態を診断することができる。
上記構成によれば、呼吸センサ20からの出力は、無線送信により外部のモニタ27Aに表示される。このため、計測対象者Pの呼吸を、この計測対象者Pの行動範囲および運動状態に制限を設けることなく、外部の計測者(図示省略)が静止した状態で計測することができる。また、呼吸センサ20からの出力を呼吸センサ20の識別符号とともに表示することで、複数の計測対象者Pの呼吸をそれぞれ計測する場合に、計測結果の取り違えを防ぐことができる。
【0038】
本発明は、上述した第1および第2の実施形態で説明した外観、構成に限定されず、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更、追加、削除が可能である。例えば、以下のような各種の形態を実施することができる。
(1)上述した第2の実施形態の呼吸センサにおいて、運動状態計測装置および温度計の配設箇所は適宜変更することができる。すなわち、例えば運動状態計測装置をベルトにより計測対象者の腰部に固定した構成や、温度計を電極と一体に配設した構成を用いることができる。また、運動状態計測装置は計測対象者の角速度および加速度をそれぞれ3軸で検出する構成である必要はなく、角速度および加速度の検出軸数は適宜減らすことができる。また、運動状態計測装置から角速度または加速度のいずれかの検出機能を省略することもできる。
(2)上述した第2の実施形態の呼吸センサにおいて、計測対象者Pの静電容量のデータを、検知手段のデータ処理装置により補正してから無線送信装置により出力する構成を用いることができる。
(3)検知手段が電極の対の間における容量性リアクタンスを計測するための構成は、この電極の対に固定容量のコンデンサを直列接続した構成に限定されない。すなわち、例えば電極の対に抵抗を直列接続し、この抵抗にかかる電圧から電極間の容量性リアクタンスを求める構成を用いることができる。また、検知手段が電極間に印加される交流電圧の実効値と電気伝導体間に流れる交流電流の実効値とを求め、この交流電流の実効値に上記交流電圧の周期をかけて、この交流電圧の実効値で割って所定の係数(定数)をかけることで、電気伝導体間の静電容量を算定する構成を用いることもできる。
(4)検知手段が電極の対の間における静電容量を求める構成は、この電極の対に交流電圧を印加した際の容量性リアクタンスを計測する構成に限定されない。すなわち、例えば電極の対に所定量の電荷を帯電させて、この電極の対の間に発生する電位差から電極の対の間における静電容量を求める構成を用いることができる。
(5)電極は、計測対象者の腹部または胸部を前後方向から挟み込むように配置されたものに限定されない。すなわち、例えば肋間筋による肺の前後方向への膨張および収縮を感知するために計測対象者の両腋窩部に電極を配置するなど、電極の配置を適宜変更することができる。また、電極は真正面から対向するように配設されたものに限定されず、電極の配設角度は適宜調整することができる。
(6)電極を形成する布は、ステンレス線を綿繊維で覆った二層構造糸により形成されたものに限定されない。すなわち、電極を形成するための二層構造糸において、その芯部の素材を銅、アルミニウム、鉄、ニクロム、金、銀、チタンニッケル合金などの金属やPAN系、ピッチ系などの炭素を素材とした良導体繊維、金属や炭素などの良導体を配合することで導電性を持たせた繊維、または、絶縁繊維に、CuS、Cu2S、Cu9S5などの硫化銅、または、銀、銅、ニッケル、アルミニウム、金、黒鉛、カーボンナノチューブなどの良導体を被覆することで導電性を持たせた繊維とすることができる。また、電極を形成するための二層構造糸において、その鞘部の素材をシルク、ウールなどの絶縁性の天然繊維、または、ポリエステル、ポリアクロニトリル、ナイロン、レーヨン、ポリプロピレン、ポリビニルアルコール、ポリエチレン、ポリウレタンなどの絶縁性の合成繊維とすることができる。また、二層構造糸の代わりに上記芯部の素材として挙げられた繊維と絶縁繊維とを撚り合わせた糸、上記芯部の素材として挙げられた繊維を絶縁性の樹脂でコーティングした糸を用いることもできる。
(7)電極を形成する布を短絡させる構成は導電性の接着剤に限定されず、例えば導電性のインク、塗料、コーティング剤など、適宜変更することができる。なお、良導体が糸の表面に存在する場合、導電性の接着剤を用いることなく電極の布全体を短絡させることができるが、外部への漏電を防ぐために電極の布を絶縁材で覆う必要がある。この絶縁材としてはポリエステル、ポリウレタン、フッ素樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリビニルアルコール、ポリエチレンなどの合成樹脂を用いることができる。また、絶縁材で電極の布を覆う方法としては、フィルムラミネートまたはコーティングなどの方法を用いることができる。
(8)呼吸センサの各電極の導電性繊維を有する布は、織物や不織布、編物など、任意の構造の布とすることができる。また、上記各電極は導電性繊維を有する布に限定されない。すなわち、各電極は、導電性を有して全体が導通されていればよく、例えば各電極を金属などの良導体によって形成された箔または網とすることができ、その形状は適宜設定することができる。ただし、各電極は、柔軟性を備えて、呼吸計測時において計測対象者に不快感やストレスを与えないものであることが望ましい。
(9)呼吸センサの測定着に電極を着脱自在に取り付ける構成はボタンまたは面ファスナーに限定されず、例えば点ファスナー、線ファスナー、フックなど、適宜変更することができる。
(10)呼吸センサは測定着に電極を着脱自在に取り付けた構成に限定されない。すなわち、例えば測定着に電極を縫い付けや熱融着または接着による貼り付けにより固着させた構成や、測定着の一部に導電性を持たせて電気伝導体とし、この電気伝導体で計測対象者を挟み込んで計測対象者の静電容量を求める構成を用いることもできる。また、呼吸センサから測定着を省略して、計測対象者に電気伝導体を直接取り付ける構成を用いることもできる。
【符号の説明】
【0039】
10 呼吸センサ
11 電極(電気伝導体)
11A 腹部電極
11B 腰部電極
11C ケーブル
12 検知手段
12A データ処理装置
12B 交流発振回路
12C 交流―直流変換回路
12D コンデンサ
12E 出力端子
12F モニタ
13 計測着
20 呼吸センサ
21 電極(電気伝導体)
21A 腹部電極
21B 腰部電極
21C ケーブル
21D 胸部電極
21E 背部電極
22 検知手段
22A データ処理装置
23 計測着
24 運動状態計測装置
24A ケーブル
25 温度計
25A ケーブル
26 無線送信装置
27 無線受信装置
27A モニタ
B1 呼吸停止
B2 安静時呼吸
B3 深呼吸
B4 過呼吸
C 静電容量
E 交流電場
P 計測対象者
P1 胴体
P2 横隔膜
P3 肺
R 電波
V1 出力電圧
V2 出力電圧
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10