【課題を解決するための手段】
【0012】
本願発明者は、上記の課題に対し鋭意研究を行った結果、粉体の表面処理の前処理として、水中の粉体にプラズマを照射することにより、良好な表面処理ができることを見出し、本願発明を完成した。すなわち、本願発明は、プラズマを発生させる電極構成が、一対の電極のうち、一方の電極は水中に入れた又は水面に接触した状態とし、他方の電極は水面上部の気中に配置された状態とし、この両電極間に高電圧を印加してプラズマを発生させ前処理を行う。このプラズマによる前処理では、粉体は水中にあり、粉体表面が水に覆われた状態である。
【0013】
本願発明では、このプラズマによる前処理の後に、得られた粉体の水分散物か、あるいは任意の方法で水分散物から取り出した粉体に対して、
金属石鹸、パーフルオロアルキルエチルリン酸エステルジエタノールアミン塩、フッ素アルキルアクリレート/ポリアルキレングリコールアクリレートポリマー、パーフルオロポリエーテルリン酸、パーフルオロポリエーテル鎖を有するアニオン性又はカチオン性高分子、水素添加レシチン、アシル化アミノ酸、α−トコフェロールリン酸エステル塩、シリコーン油、シラン化合物等の表面処理剤を被覆する表面処理を行う。
【0014】
なお、本願発明において、「水中」及び「水面」の「水」は全て、微粒子を分散させる水性の分散媒のことを言い、水溶液を含む。
【0015】
本願発明でのプラズマを発生させる方式として、一対の電極のうち、一方の電極は水中に入れた又は水面に接触した状態であり、他方の電極は水面上部の気中に配置された状態で対電極が構成され、この両電極間に高電圧を印加してプラズマを発生させる方式である。すなわち、
図1の本願発明の分散装置に示すように、一方の電極は水中に浸された状態又は水面に接触した状態であり、他方は水面から適度に離れた水面上部の気中に配置された位置関係にある。これにより、プラズマは水面上部の電極と水面との間で生成され、水面付近に直接作用する。
【0016】
本願発明での水面上部の電極において、その形状は、針状、中空針状、線状、平板状等が挙げられるが、特に限定されない。その中でも、不平等電界が発生することで絶縁破壊電圧が低くなりプラズマを低電圧でも発生させやすくする針状のものが好ましい。電極の材質は、銅、銅タングステン、グラファイト、タングステン、チタン、ステンレス、モリブデン、アルミ、鉄等が挙げられ、特に限定されない。電極の消耗を考慮すると、タングステンやチタンが好ましい。
【0017】
また、水中に浸された又は水面に接触させた他方の電極も、液と化学反応等作用しないものであれば、その形状や材質は特に限定されない。
【0018】
本願発明でのプラズマの発生に使用する電源としては、直流電源、パルス電源、低周波・高周波交流電源、マイクロ波電源等様々な方式を用いることができる。その中でも安価で高電圧を簡便に得ることができ整合回路を必要としない50Hzや60Hzの交流電源が良く、具体的にはインバーター式ネオン変圧器や巻線式ネオン変圧器が良い。
【0019】
本願発明におけるプラズマの発生量は、水面上部の気中に配置した電極と水面間の距離及び印加電圧に影響される。水面上部の気中に配置した電極と水面間の距離が短ければ印加電圧は低く、長ければ印加電圧は高くなる。本願発明では、水面上部の気中に配置した電極と水面間の距離及び印加電圧は限定されない。該電極が水面から僅かでも離れた状態であれば良く、0mmよりも大きく50mm以下が好ましい。安定的な印加と良好な分散が期待できる範囲として、2〜10mmがより好ましい。また、印加電圧は、安全性と電極の消耗等を考慮して、0kVよりも大きく30kV以下が好ましい。さらには電圧の印加のし易さから1〜10kVが最も好ましい。
【0020】
本願発明でプラズマ発生時に用いる溶液すなわち粉体を分散させる分散媒は、水又は水溶液であれば良く、限定されない。粉体に対して付着等の恐れのある不純物等の余分な物質を排除した水分散物を得たいときは、精製水、イオン交換水、純水、超純水等を用いれば良い。また、本願発明で被覆される表面処理剤の効果を失わせない範囲で、溶液の導電性を調節するための塩の添加、表面反応助剤としての酸・アルカリ、分散安定性を高めるためのアルコールや界面活性剤等の分散剤を、分散媒へ添加しても良い。
【0021】
本願発明でプラズマを発生させる装置は、
図1のように水面上部を解放した状態であっても、あるいは、水面上部の電極を覆う形で密閉した状態でもよい。密閉系では、任意のガスを導入しながら放電することができる。装置が空気雰囲気にあれば、空気中の窒素、酸素及び水分子へのプラズマの作用により発生するラジカル等の活性種による効果の増強が期待できる。導入するガスとしては、水素、窒素、酸素、アルゴン、二酸化炭素等の気体やこれらの混合物、ガス化された化合物等が挙げられる。ガスの導入は水面上、分散媒中のいずれでも良い。
【0022】
本願発明でのプラズマによる前処理において、そのプラズマの効果の増強と均一性を高めるために、粉体が分散している水分散物に対して機械的分散力を併用するのが好ましい。ここで、機械的分散力とは、粉体が分散している水分散物を撹拌して、粉体の水中での分散状態やプラズマによって発生したラジカル等を水中で均一にする能力、さらには、分散している粉体が凝集している場合、凝集した粒子を衝撃や剪断等物理的な力を加え、凝集体を解して分散させる能力のことである。
【0023】
例として、アンカー型の撹拌翼やディスパーでは、粉体の水中での分散やラジカル等の粉体への作用を均一にするために水分散物の撹拌を行う。さらに、系全体を均一にするための撹拌だけでなく、粉体の凝集体を解砕して、新たな粉体表面を作り出しラジカル等が作用できるようにするための装置として、発生した粗密状態や膨張に伴い発生したキャビティーの消滅を利用する超音波浴や超音波ホモジナイザー、回転翼と固定環との微細な間隙で生じる強力な剪断力や衝撃力を利用する高速ホモミキサーやコロイドミル、水分散物の高圧・高速衝突を利用した高圧ホモジナイザー、メディアとの衝突・剪断・衝撃・摩擦等を利用するビーズミルが挙げられるが、これらに限定されない。
【0024】
また、本願発明でプラズマを発生させて前処理する場合の水分散物中の粉体濃度は、分散媒全体にプラズマの効果が行き渡るようにするために、水分散物の粘度が高過ぎず機械力で十分に撹拌できる20重量%以下が好ましい。
【0025】
本願発明では、水中に粉体を浸してプラズマを発生させるので、気相中でのプラズマスプレー装置や大気圧プラズマ装置のようなフィルムやプレート平面を得意とする処理とは異なり、球状、紡錘状、板状、凹状等の形状や多孔質等の粉体表面の微細構造に影響されないで、粉体に対してプラズマによって発生したラジカル等を作用させることができる。例えば、水が触れている限り、粉体が板状であってもその裏面や、凹状の部分でもその窪み部分の中までプラズマを作用させることができる。
【0026】
本願発明では、単に水中に分散させるだけでなく、凝集し易い微粒子の凝集体を解しながら分散して、安定した状態で水中に存在させることができる。このため、凝集し易い粉体ほど他のプラズマによる処理と比べ、その後の
金属石鹸、パーフルオロアルキルエチルリン酸エステルジエタノールアミン塩、フッ素アルキルアクリレート/ポリアルキレングリコールアクリレートポリマー、パーフルオロポリエーテルリン酸、パーフルオロポリエーテル鎖を有するアニオン性又はカチオン性高分子、水素添加レシチン、アシル化アミノ酸、α−トコフェロールリン酸エステル塩、シリコーン油、シラン化合物等の表面処理剤を被覆する表面処理を効率的に行うことができる。化粧料に用いられる10μm以下の粉体に対しては、本願発明のプラズマを発生させる方法は、引き続き行われる表面処理剤の被覆において良好な結果が得られ、その中でも紫外線防御に汎用される微粒子酸化チタンのような100nm以下の微粒子に対して好ましい被覆効果を示す。
【0027】
以上のようにして、本願発明でのプラズマによる前処理法で得られた粉体の水分散物、あるいは水分散物から粉体を取り出し、
金属石鹸、パーフルオロアルキルエチルリン酸エステルジエタノールアミン塩、フッ素アルキルアクリレート/ポリアルキレングリコールアクリレートポリマー、パーフルオロポリエーテルリン酸、パーフルオロポリエーテル鎖を有するアニオン性又はカチオン性高分子、水素添加レシチン、アシル化アミノ酸、α−トコフェロールリン酸エステル塩、シリコーン油、シラン化合物等の表面処理剤による被覆を行うが、工程の少なさから粉体の水分散物をそのまま利用して表面処理剤を被覆する方が簡便である。
【0028】
粉体の水分散物をそのまま表面処理工程に用いる場合は、通常の液相法(湿式法)により粉体の表面処理剤の被覆を行う。具体的には、本願発明のプラズマによる前処理で得られた粉体の水分散物へ、表面処理剤を、水やアルコール等で予め希釈して、あるいは希釈せずに添加して表面処理剤を粉体の表面に吸着させる方法がある。また、本願発明のプラズマの前処理効果を失わせない範囲で、任意に2価の金属塩、3価の金属塩、酸、アルカリ等を添加し、表面処理剤を粉体の表面に析出させる方法等が挙げられる。さらにその後、ろ過、減圧操作、加温、フリーズドライ法、スプレードライ法、流動造粒法等で水分や溶剤を除去し、表面処理粉体を得る。
【0029】
本願発明で用いるプラズマ発生方法で前処理された粉体の水分散物から粉体を取り出してから表面処理を行う場合は、ろ過、加温、スプレードライ法等の水分や溶剤を除去する上記方法を用いて粉体を取り出し、通常の粉体の表面処理法の気相法、メカノケミカル法等の気相中での反応手法(乾式法)によって表面処理を行う。なお、水分散物から取り出された粉体は、気相法での撹拌工程において、粉体の凝集が生じない程度に乾燥していれば良い。
【0030】
上記の乾式法では、気相で撹拌されている粉体へ、表面処理剤を、水やアルコール等であらかじめ希釈して、あるいは希釈せずに添加し、必要に応じて金属塩、酸、アルカリ等を加えた後、加温等を行い表面処理剤の反応や乾燥を行い、表面処理粉体を得る。
【0031】
本願発明では、プラズマで前処理された粉体の表面に被覆される表面処理剤として、
金属石鹸、パーフルオロアルキルエチルリン酸エステルジエタノールアミン塩、フッ素アルキルアクリレート/ポリアルキレングリコールアクリレートポリマー、パーフルオロポリエーテルリン酸、パーフルオロポリエーテル鎖を有するアニオン性又はカチオン性高分子、水素添加レシチン、アシル化アミノ酸、α−トコフェロールリン酸エステル塩、シリコーン油、シラン化合物を1種又はこれら2種以上を混合して用いる。
【0032】
本願発明で用いる両親媒性物質としては、例えば、金属石鹸、パーフルオロアルキルエチルリン酸エステルジエタノールアミン塩、フッ素アルキルアクリレート/ポリアルキレングリコールアクリレートポリマー、パーフルオロポリエーテルリン酸、パーフルオロポリエーテル鎖を有するアニオン性又はカチオン性高分子(ポリウレタン−27、又はポリウレタン−26)、水素添加レシチン、アシル化アミノ酸、α−トコフェロールリン酸エステル塩等が挙げられる。親水部と疎水部を有し、粉体へ吸着特性を示すものであれば良く、また、モノマータイプ又はポリマータイプのどちらでもよい。
【0033】
本願発明で用いるシリコーン油としては、例えば、メチルハイドロジェンポリシロキサン、α−モノアルコキシポリジメチルシロキサン、α−ジアルコキシポリジメチルシロキサン及びα−トリアルコキシポリジメチルシロキサン、トリエトキシシリルエチルポリジメチルシロキシエチルジメチコン、トリエトキシシリルエチルポリジメチルシロキシエチルヘキシルジメチコン、アモジメチコン等が挙げられる。
【0034】
本願発明で用いるシラン化合物としては、トリエトキシカプリリルシラン、アミノプロピルトリエトキシシラン、パーフルオロオクチルエチルトリエトキシシラン、パーフルオロオクチルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0035】
本願発明で化粧品の原料として表面処理される粉体としては、例えば無機物では、酸化チタン、ベンガラ、酸化亜鉛、黒酸化鉄、黄酸化鉄、酸化クロム、水酸化クロム、グンジョウ、コンジョウ、カーボンブラック、アルミナ、ヒドロキシアパタイト、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、アルミニウム粉、雲母チタン、カオリン、無水ケイ酸、ケイ酸アルミニウムマグネシウム、合成金雲母、セリサイト、タルク、窒化ホウ素、マイカ等が挙げられる。有機物では、麻セルロース末、小麦でんぷん、シルク末、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸亜鉛、ポリエチレン末、ナイロン末、ポリアクリル酸アルキル、架橋ポリスチレン、メチルシロキサン網状重合体、ポリウレタン等が挙げられる。なお、本願発明で表面処理の対象となる粉体は、これらの混合物や複合物であってもよい。
【0036】
本願発明では、上記の粉体を水中に浸してプラズマによる前処理を行うので、酸化チタン、ベンガラ、酸化亜鉛、黒酸化鉄、黄酸化鉄、アルミナ、無水ケイ酸等のように、凝集し易いものや形状に異方性があるものでもプラズマを作用させることができる。
【0037】
本願発明では、プラズマを用いた前処理とその後の表面処理剤の被覆により良好な表面処理粉体が得られるので、この表面処理粉体を化粧料に配合すると、プラズマによる前処理無しの表面処理粉体よりも、撥水機能や安定性、使用感等に優れた化粧料が得られる。
【0038】
また、本願発明の化粧料では、前記の表面処理粉体の他に、通常の化粧料に配合される成分である水、油脂、ロウ類、炭化水素、脂肪酸、アルコール、アルキルグリセリルエーテル、エステル、シリコーン油、フッ素油、多価アルコール、糖類、高分子、界面活性剤、保湿剤、紫外線吸収剤、キレート剤、pH調整剤、酸化防止剤、殺菌・防腐剤、染料、香料、色素、可塑剤、有機溶媒、薬剤、動植物抽出物、アミノ酸及びペプチド、ビタミン、未処理又は他の方法により表面処理された化粧品用粉体等を適宜配合することができる。