特許第6084384号(P6084384)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6084384粉体の表面処理方法、表面処理粉体及び化粧料
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  • 特許6084384-粉体の表面処理方法、表面処理粉体及び化粧料 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6084384
(24)【登録日】2017年2月3日
(45)【発行日】2017年2月22日
(54)【発明の名称】粉体の表面処理方法、表面処理粉体及び化粧料
(51)【国際特許分類】
   C09C 3/04 20060101AFI20170213BHJP
   C09C 3/08 20060101ALI20170213BHJP
   C09C 3/10 20060101ALI20170213BHJP
   C09C 3/12 20060101ALI20170213BHJP
   C09C 1/00 20060101ALI20170213BHJP
【FI】
   C09C3/04
   C09C3/08
   C09C3/10
   C09C3/12
   C09C1/00
【請求項の数】2
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-159345(P2012-159345)
(22)【出願日】2012年7月18日
(65)【公開番号】特開2014-19783(P2014-19783A)
(43)【公開日】2014年2月3日
【審査請求日】2015年4月1日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】592262543
【氏名又は名称】日本メナード化粧品株式会社
(72)【発明者】
【氏名】浅野 浩志
(72)【発明者】
【氏名】岡 真佐人
(72)【発明者】
【氏名】植松 美喜
【審査官】 仁科 努
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−246776(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/010620(WO,A1)
【文献】 特開2010−222189(JP,A)
【文献】 特開昭63−030407(JP,A)
【文献】 特開昭63−165461(JP,A)
【文献】 特開2008−120951(JP,A)
【文献】 特開平01−197420(JP,A)
【文献】 特開2013−034914(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09C 3/04
C09C 1/00
C09C 3/08
C09C 3/10
C09C 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中に投入された粉体に対して、一対の電極のうち、一方は水中に浸す又は水面に接触させ、他方は水面上部の気中に配置して、両電極間に電圧を印加してプラズマを発生させる方式によりプラズマを照射して得られた粉体の水分散体物、あるいは水分散物から粉体を取り出し、金属石鹸、パーフルオロアルキルエチルリン酸エステルジエタノールアミン塩、フッ素アルキルアクリレート/ポリアルキレングリコールアクリレートポリマー、パーフルオロポリエーテルリン酸、パーフルオロポリエーテル鎖を有するアニオン性又はカチオン性高分子、水素添加レシチン、アシル化アミノ酸、α−トコフェロールリン酸エステル塩、シリコーン油及びシラン化合物から選ばれる1種又は2種以上の表面処理剤を被覆処理することを特徴とする粉体の表面処理方法。
【請求項2】
粉体が金属酸化物である請求項1記載の表面処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、粉体の表面処理方法、その方法によって処理された表面処理粉体、及びその表面処理粉体を含有する化粧料に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコーン処理やフッ素処理等、化粧料に用いられる粉体の表面処理は、大きく分けて2つの理由から行われる。一つは、水や油に対する分散性の向上や、表面活性の抑制等の粉体の問題点を解決すること、もう一つは、新たな使用感や、粉体が持っていなかった撥水性等の新たな機能を付与することである。
【0003】
一般に、化粧料に用いられる粉体は、主に金属酸化物やその複合粉体であり、その表面には水酸基等の表面官能基があり、粉体の種類や吸着水の量によって表面状態は異なっている。このため、表面官能基への結合や吸着を利用して表面処理剤を反応させて表面処理を行う場合、処理を施す粉体の種類や表面状態が異なれば、同じ表面処理剤や同じ表面処理方法を用いても、同じような機能を引き出せる表面処理が行えるとは限らない。
【0004】
また、粒子表面の形状や粒子サイズによっても、その都度、表面処理剤量や表面処理方法を最適化しなければ所望の効果は得られないことが多い。
【0005】
そこで、これら表面処理における問題点を解決するために、特許文献1では、前処理として、加熱、プラズマ、水熱反応等で無機粉体基剤の表面を活性化し、撥水撥油剤を反応性助剤と共に処理する方法が行われている。しかし、これらの活性化前処理は、処理温度や圧力等の条件が過酷であり汎用性が低い。さらには、プラズマにおいては、プラズマスプレー装置を用いた例が示されているが、プラズマスプレー装置が主にプレート状のものを対象とし、気相中でプラズマ照射する装置であるために、活性化の程度は、粉体の凝集状態や形状の影響を受け、撥水撥油特性も劣るものであった。さらには、プラズマ装置自身も、大掛かりなものとなり汎用性に欠けていた。
【0006】
特許文献2及び3に、摩砕による方法や酸・アルカリによるエッチング法が活性化の方法として紹介されている。しかし、特許文献3に記述されているように、摩砕以外の方法ではスケールアップが難しく、また、粒子に対して均一な活性面を生み出すような均質性の高い方法ではないために、表面処理することによる十分な性能を引き出すことは難しいものであった。
【0007】
一方で、金属塩を表面処理の工程で利用しているものもある。例えば、特許文献4では、水素添加レシチンを完全に配向吸着させるために、Al、Mg、Ca、Zn、Ti等の可溶性金属塩を利用して、表面処理剤である水素添加レシチンを完全に粉体表面に析出させ吸着させている。特許文献5では、表面処理剤として疎水性カップリング剤を用いるときに、アルミニウム又は珪素の水酸化物や酸化水和物で薄片状基材を前処理する方法を示している。さらに、特許文献6では、粘土鉱物を金属水酸化物又は金属塩の水和物等で前処理してフッ素処理すること等が示されている。しかし、これらの金属塩で前処理してから表面処理剤による表面処理を施した粉体を化粧料に配合すると、化粧料中で金属塩の溶出による他の成分の劣化や溶化物の析出等、経時安定性を悪くしてしまう場合がある。このため化粧料においては、表面処理剤以外の添加物は少ない方が好ましい。
【0008】
均一な表面処理のためには、凝集している粉体はあらかじめ表面処理剤と反応させる前に、気相中でも液相中でも均一に解して分散させておくことは重要である。しかし、近年、化粧料用の粉体の多くは微粒子化されており、機械力だけでは均一に解砕・分散することは困難となりつつある。また、界面活性剤のような分散剤を加えると、所望の表面処理効果とは相反する効果をもたらしてしまう場合が多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平1−197420
【特許文献2】特開平2−127477
【特許文献3】特開平3−9964
【特許文献4】特開昭60−190705
【特許文献5】特開2002−194247
【特許文献6】特開2003−81733
【0010】
化粧料等に用いられる粉体への表面処理において、添加物や分散剤をできる限り少なく抑えながら、例えば、分散性の向上や撥水撥油効果のような表面処理効果を容易に得ることができる新たな表面処理方法の開発が望まれていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本願発明が解決しようとする課題は、添加物や分散剤を使わない、又はその使用量を抑えて、粉体表面に表面処理を施して優れた表面処理効果を引き出すための表面処理方法、及びその方法で表面処理された粉体、さらには、その表面処理粉体を含有する化粧料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願発明者は、上記の課題に対し鋭意研究を行った結果、粉体の表面処理の前処理として、水中の粉体にプラズマを照射することにより、良好な表面処理ができることを見出し、本願発明を完成した。すなわち、本願発明は、プラズマを発生させる電極構成が、一対の電極のうち、一方の電極は水中に入れた又は水面に接触した状態とし、他方の電極は水面上部の気中に配置された状態とし、この両電極間に高電圧を印加してプラズマを発生させ前処理を行う。このプラズマによる前処理では、粉体は水中にあり、粉体表面が水に覆われた状態である。
【0013】
本願発明では、このプラズマによる前処理の後に、得られた粉体の水分散物か、あるいは任意の方法で水分散物から取り出した粉体に対して、金属石鹸、パーフルオロアルキルエチルリン酸エステルジエタノールアミン塩、フッ素アルキルアクリレート/ポリアルキレングリコールアクリレートポリマー、パーフルオロポリエーテルリン酸、パーフルオロポリエーテル鎖を有するアニオン性又はカチオン性高分子、水素添加レシチン、アシル化アミノ酸、α−トコフェロールリン酸エステル塩、シリコーン油、シラン化合物等の表面処理剤を被覆する表面処理を行う。
【0014】
なお、本願発明において、「水中」及び「水面」の「水」は全て、微粒子を分散させる水性の分散媒のことを言い、水溶液を含む。
【0015】
本願発明でのプラズマを発生させる方式として、一対の電極のうち、一方の電極は水中に入れた又は水面に接触した状態であり、他方の電極は水面上部の気中に配置された状態で対電極が構成され、この両電極間に高電圧を印加してプラズマを発生させる方式である。すなわち、図1の本願発明の分散装置に示すように、一方の電極は水中に浸された状態又は水面に接触した状態であり、他方は水面から適度に離れた水面上部の気中に配置された位置関係にある。これにより、プラズマは水面上部の電極と水面との間で生成され、水面付近に直接作用する。
【0016】
本願発明での水面上部の電極において、その形状は、針状、中空針状、線状、平板状等が挙げられるが、特に限定されない。その中でも、不平等電界が発生することで絶縁破壊電圧が低くなりプラズマを低電圧でも発生させやすくする針状のものが好ましい。電極の材質は、銅、銅タングステン、グラファイト、タングステン、チタン、ステンレス、モリブデン、アルミ、鉄等が挙げられ、特に限定されない。電極の消耗を考慮すると、タングステンやチタンが好ましい。
【0017】
また、水中に浸された又は水面に接触させた他方の電極も、液と化学反応等作用しないものであれば、その形状や材質は特に限定されない。
【0018】
本願発明でのプラズマの発生に使用する電源としては、直流電源、パルス電源、低周波・高周波交流電源、マイクロ波電源等様々な方式を用いることができる。その中でも安価で高電圧を簡便に得ることができ整合回路を必要としない50Hzや60Hzの交流電源が良く、具体的にはインバーター式ネオン変圧器や巻線式ネオン変圧器が良い。
【0019】
本願発明におけるプラズマの発生量は、水面上部の気中に配置した電極と水面間の距離及び印加電圧に影響される。水面上部の気中に配置した電極と水面間の距離が短ければ印加電圧は低く、長ければ印加電圧は高くなる。本願発明では、水面上部の気中に配置した電極と水面間の距離及び印加電圧は限定されない。該電極が水面から僅かでも離れた状態であれば良く、0mmよりも大きく50mm以下が好ましい。安定的な印加と良好な分散が期待できる範囲として、2〜10mmがより好ましい。また、印加電圧は、安全性と電極の消耗等を考慮して、0kVよりも大きく30kV以下が好ましい。さらには電圧の印加のし易さから1〜10kVが最も好ましい。
【0020】
本願発明でプラズマ発生時に用いる溶液すなわち粉体を分散させる分散媒は、水又は水溶液であれば良く、限定されない。粉体に対して付着等の恐れのある不純物等の余分な物質を排除した水分散物を得たいときは、精製水、イオン交換水、純水、超純水等を用いれば良い。また、本願発明で被覆される表面処理剤の効果を失わせない範囲で、溶液の導電性を調節するための塩の添加、表面反応助剤としての酸・アルカリ、分散安定性を高めるためのアルコールや界面活性剤等の分散剤を、分散媒へ添加しても良い。
【0021】
本願発明でプラズマを発生させる装置は、図1のように水面上部を解放した状態であっても、あるいは、水面上部の電極を覆う形で密閉した状態でもよい。密閉系では、任意のガスを導入しながら放電することができる。装置が空気雰囲気にあれば、空気中の窒素、酸素及び水分子へのプラズマの作用により発生するラジカル等の活性種による効果の増強が期待できる。導入するガスとしては、水素、窒素、酸素、アルゴン、二酸化炭素等の気体やこれらの混合物、ガス化された化合物等が挙げられる。ガスの導入は水面上、分散媒中のいずれでも良い。
【0022】
本願発明でのプラズマによる前処理において、そのプラズマの効果の増強と均一性を高めるために、粉体が分散している水分散物に対して機械的分散力を併用するのが好ましい。ここで、機械的分散力とは、粉体が分散している水分散物を撹拌して、粉体の水中での分散状態やプラズマによって発生したラジカル等を水中で均一にする能力、さらには、分散している粉体が凝集している場合、凝集した粒子を衝撃や剪断等物理的な力を加え、凝集体を解して分散させる能力のことである。
【0023】
例として、アンカー型の撹拌翼やディスパーでは、粉体の水中での分散やラジカル等の粉体への作用を均一にするために水分散物の撹拌を行う。さらに、系全体を均一にするための撹拌だけでなく、粉体の凝集体を解砕して、新たな粉体表面を作り出しラジカル等が作用できるようにするための装置として、発生した粗密状態や膨張に伴い発生したキャビティーの消滅を利用する超音波浴や超音波ホモジナイザー、回転翼と固定環との微細な間隙で生じる強力な剪断力や衝撃力を利用する高速ホモミキサーやコロイドミル、水分散物の高圧・高速衝突を利用した高圧ホモジナイザー、メディアとの衝突・剪断・衝撃・摩擦等を利用するビーズミルが挙げられるが、これらに限定されない。
【0024】
また、本願発明でプラズマを発生させて前処理する場合の水分散物中の粉体濃度は、分散媒全体にプラズマの効果が行き渡るようにするために、水分散物の粘度が高過ぎず機械力で十分に撹拌できる20重量%以下が好ましい。
【0025】
本願発明では、水中に粉体を浸してプラズマを発生させるので、気相中でのプラズマスプレー装置や大気圧プラズマ装置のようなフィルムやプレート平面を得意とする処理とは異なり、球状、紡錘状、板状、凹状等の形状や多孔質等の粉体表面の微細構造に影響されないで、粉体に対してプラズマによって発生したラジカル等を作用させることができる。例えば、水が触れている限り、粉体が板状であってもその裏面や、凹状の部分でもその窪み部分の中までプラズマを作用させることができる。
【0026】
本願発明では、単に水中に分散させるだけでなく、凝集し易い微粒子の凝集体を解しながら分散して、安定した状態で水中に存在させることができる。このため、凝集し易い粉体ほど他のプラズマによる処理と比べ、その後の金属石鹸、パーフルオロアルキルエチルリン酸エステルジエタノールアミン塩、フッ素アルキルアクリレート/ポリアルキレングリコールアクリレートポリマー、パーフルオロポリエーテルリン酸、パーフルオロポリエーテル鎖を有するアニオン性又はカチオン性高分子、水素添加レシチン、アシル化アミノ酸、α−トコフェロールリン酸エステル塩、シリコーン油、シラン化合物等の表面処理剤を被覆する表面処理を効率的に行うことができる。化粧料に用いられる10μm以下の粉体に対しては、本願発明のプラズマを発生させる方法は、引き続き行われる表面処理剤の被覆において良好な結果が得られ、その中でも紫外線防御に汎用される微粒子酸化チタンのような100nm以下の微粒子に対して好ましい被覆効果を示す。
【0027】
以上のようにして、本願発明でのプラズマによる前処理法で得られた粉体の水分散物、あるいは水分散物から粉体を取り出し、金属石鹸、パーフルオロアルキルエチルリン酸エステルジエタノールアミン塩、フッ素アルキルアクリレート/ポリアルキレングリコールアクリレートポリマー、パーフルオロポリエーテルリン酸、パーフルオロポリエーテル鎖を有するアニオン性又はカチオン性高分子、水素添加レシチン、アシル化アミノ酸、α−トコフェロールリン酸エステル塩、シリコーン油、シラン化合物等の表面処理剤による被覆を行うが、工程の少なさから粉体の水分散物をそのまま利用して表面処理剤を被覆する方が簡便である。
【0028】
粉体の水分散物をそのまま表面処理工程に用いる場合は、通常の液相法(湿式法)により粉体の表面処理剤の被覆を行う。具体的には、本願発明のプラズマによる前処理で得られた粉体の水分散物へ、表面処理剤を、水やアルコール等で予め希釈して、あるいは希釈せずに添加して表面処理剤を粉体の表面に吸着させる方法がある。また、本願発明のプラズマの前処理効果を失わせない範囲で、任意に2価の金属塩、3価の金属塩、酸、アルカリ等を添加し、表面処理剤を粉体の表面に析出させる方法等が挙げられる。さらにその後、ろ過、減圧操作、加温、フリーズドライ法、スプレードライ法、流動造粒法等で水分や溶剤を除去し、表面処理粉体を得る。
【0029】
本願発明で用いるプラズマ発生方法で前処理された粉体の水分散物から粉体を取り出してから表面処理を行う場合は、ろ過、加温、スプレードライ法等の水分や溶剤を除去する上記方法を用いて粉体を取り出し、通常の粉体の表面処理法の気相法、メカノケミカル法等の気相中での反応手法(乾式法)によって表面処理を行う。なお、水分散物から取り出された粉体は、気相法での撹拌工程において、粉体の凝集が生じない程度に乾燥していれば良い。
【0030】
上記の乾式法では、気相で撹拌されている粉体へ、表面処理剤を、水やアルコール等であらかじめ希釈して、あるいは希釈せずに添加し、必要に応じて金属塩、酸、アルカリ等を加えた後、加温等を行い表面処理剤の反応や乾燥を行い、表面処理粉体を得る。
【0031】
本願発明では、プラズマで前処理された粉体の表面に被覆される表面処理剤として、金属石鹸、パーフルオロアルキルエチルリン酸エステルジエタノールアミン塩、フッ素アルキルアクリレート/ポリアルキレングリコールアクリレートポリマー、パーフルオロポリエーテルリン酸、パーフルオロポリエーテル鎖を有するアニオン性又はカチオン性高分子、水素添加レシチン、アシル化アミノ酸、α−トコフェロールリン酸エステル塩、シリコーン油、シラン化合物を1種又はこれら2種以上を混合して用いる。
【0032】
本願発明で用いる両親媒性物質としては、例えば、金属石鹸、パーフルオロアルキルエチルリン酸エステルジエタノールアミン塩、フッ素アルキルアクリレート/ポリアルキレングリコールアクリレートポリマー、パーフルオロポリエーテルリン酸、パーフルオロポリエーテル鎖を有するアニオン性又はカチオン性高分子(ポリウレタン−27、又はポリウレタン−26)、水素添加レシチン、アシル化アミノ酸、α−トコフェロールリン酸エステル塩等が挙げられる。親水部と疎水部を有し、粉体へ吸着特性を示すものであれば良く、また、モノマータイプ又はポリマータイプのどちらでもよい。
【0033】
本願発明で用いるシリコーン油としては、例えば、メチルハイドロジェンポリシロキサン、α−モノアルコキシポリジメチルシロキサン、α−ジアルコキシポリジメチルシロキサン及びα−トリアルコキシポリジメチルシロキサン、トリエトキシシリルエチルポリジメチルシロキシエチルジメチコン、トリエトキシシリルエチルポリジメチルシロキシエチルヘキシルジメチコン、アモジメチコン等が挙げられる。
【0034】
本願発明で用いるシラン化合物としては、トリエトキシカプリリルシラン、アミノプロピルトリエトキシシラン、パーフルオロオクチルエチルトリエトキシシラン、パーフルオロオクチルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0035】
本願発明で化粧品の原料として表面処理される粉体としては、例えば無機物では、酸化チタン、ベンガラ、酸化亜鉛、黒酸化鉄、黄酸化鉄、酸化クロム、水酸化クロム、グンジョウ、コンジョウ、カーボンブラック、アルミナ、ヒドロキシアパタイト、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、アルミニウム粉、雲母チタン、カオリン、無水ケイ酸、ケイ酸アルミニウムマグネシウム、合成金雲母、セリサイト、タルク、窒化ホウ素、マイカ等が挙げられる。有機物では、麻セルロース末、小麦でんぷん、シルク末、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸亜鉛、ポリエチレン末、ナイロン末、ポリアクリル酸アルキル、架橋ポリスチレン、メチルシロキサン網状重合体、ポリウレタン等が挙げられる。なお、本願発明で表面処理の対象となる粉体は、これらの混合物や複合物であってもよい。
【0036】
本願発明では、上記の粉体を水中に浸してプラズマによる前処理を行うので、酸化チタン、ベンガラ、酸化亜鉛、黒酸化鉄、黄酸化鉄、アルミナ、無水ケイ酸等のように、凝集し易いものや形状に異方性があるものでもプラズマを作用させることができる。
【0037】
本願発明では、プラズマを用いた前処理とその後の表面処理剤の被覆により良好な表面処理粉体が得られるので、この表面処理粉体を化粧料に配合すると、プラズマによる前処理無しの表面処理粉体よりも、撥水機能や安定性、使用感等に優れた化粧料が得られる。
【0038】
また、本願発明の化粧料では、前記の表面処理粉体の他に、通常の化粧料に配合される成分である水、油脂、ロウ類、炭化水素、脂肪酸、アルコール、アルキルグリセリルエーテル、エステル、シリコーン油、フッ素油、多価アルコール、糖類、高分子、界面活性剤、保湿剤、紫外線吸収剤、キレート剤、pH調整剤、酸化防止剤、殺菌・防腐剤、染料、香料、色素、可塑剤、有機溶媒、薬剤、動植物抽出物、アミノ酸及びペプチド、ビタミン、未処理又は他の方法により表面処理された化粧品用粉体等を適宜配合することができる。
【発明の効果】
【0039】
本願発明のように、一方の電極が気中にあり、水中にある粉体へプラズマを照射するプロセスでは、気中や水面上に粉体を置いて気中で放電する処理とは異なり、水が粉体表面に濡れ広がっているので、水中で凝集している粉体を解砕しながら粉体表面に均質にラジカル等を作用させることができる。この特性を利用すれば、凝集した接触面があるために処理できなかった粉体や、様々な形の粉体を効率よく均一に表面処理ができる。このような観点から、光デバイス等に用いられる異方性の粒子の表面処理や、特定の形の成型体の表面処理、表面の均質性が求められる燃料電池素材等に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1図1は、プラズマ発生装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下に、本願発明の粉体に対するプラズマを発生させて前処理する方法、さらに引き続き行う表面処理剤を被覆する処理方法を説明するが、本願発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0042】
<前処理>
プラズマによる前処理として、図1で表される装置にて、微粒子酸化チタンを水中に投入し、下記条件にてプラズマ発生させて約9重量%の微粒子酸化チタンを含んだ水分散物を得た。
対象粉体:微粒子酸化チタン10g(テイカ株式会社製MT−500B、略球状、平均一次粒子径35nm(カタログ値))
処理溶媒:イオン交換水100mL
プラズマ発生装置:電源 巻線式ネオン変圧器(60Hz)
水面上部電極 タングステン(針状、直径1mm)
水中に浸漬した対向電極 アルミテープ(平板状)
水面上部電極と水面間の距離 5mm
印加電圧 1〜5kV
貯留槽:200mLビーカー(ガラス製)
撹拌:超音波洗浄器(40KHz,55W)、アンカー型撹拌翼(20rpm)
プラズマによる処理時間:2時間
【0043】
<表面処理剤の被覆>
引き続き、上記装置のうちプラズマ発生装置を取りアンカー型撹拌翼のみで表面処理剤による粉体への被覆を行った。先ずイオン交換水10gに1gのN−ステアロイル−L−グルタミン酸ナトリウムを溶解し、得られた微粒子酸化チタンの水分散物(総量約110g)へ徐々に滴下して15分間撹拌した。その後、ろ過、洗浄、乾燥及び粉砕の各工程を経て、N−ステアロイル−L−グルタミン酸ナトリウムを被覆した微粒子酸化チタンを得た。
【0044】
(比較例1)
比較例1として、プラズマを照射しないこと以外は実施例1と同様の条件で処理してN−ステアロイル−L−グルタミン酸ナトリウムを被覆した微粒子酸化チタンを得た。
(比較例2)
比較例2として、プラズマを照射せず、実施例1と同様の条件でN−ステアロイル−L−グルタミン酸ナトリウム溶液を滴下するところまで行い、0.1規定(N)塩酸にてpH5まで水分散物のpHを低下させ15分撹拌した後、実施例1と同様にして、ろ過、洗浄、乾燥、粉砕工程を経て、N−ステアロイル−L−グルタミン酸ナトリウムを被覆した微粒子酸化チタンを得た。
【0045】
<撥水性能評価>
調製した実施例1、比較例1、比較例2の表面処理粉体を、10mLのイオン交換水が入った各試験管に0.5gずつとり静置して撥水性能を比較した。
【0046】
<結果>
実施例1の表面処理粉体は水面に浮いたままで優れた撥水性能を示したが、プラズマ処理のない比較例1は、水面に置いた直後から沈降が始まり、撥水性が不十分であった。比較例2では、初めは浮遊していたが、1時間後には一部が沈降していた。従って、撥水性は、本願発明の処理方法による実施例1が優れ、本願発明のように簡便なプラズマ装置による処理を工程に組み入れるだけでも、N−ステアロイル−L−グルタミン酸ナトリウムの表面処理効果が向上した。また、調製において比較例2では塩酸を用いたことにより表面処理効果がある程度まで引き出されたが、洗浄工程で大量の水が必要であったことや塩類の残留が考えられること等、添加物を少なく抑えて表面処理を行いたい場合は比較例2の方法では不利になる。
【0047】
表面処理された微粒子酸化チタンの使用感においては、実施例1の表面処理粉体は、元の微粒子酸化チタンよりも、きしみ感のないしっとりした使用感の粉体であった。比較例1では表面処理が十分でないために、ざらつきや、きしみ感が残り、比較例2では比較例1よりは改善されているものの、しっとり感は未だ不十分であった。
【0048】
<パウダーファンデーションへの応用>
実施例1と同工程による各粉体の表面処理
セリサイト、タルク、顔料級酸化チタン、酸化亜鉛の各粉体10gに対し、0.5gのN−ステアロイル−L−グルタミン酸ナトリウムを実施例1と同様の条件で表面処理工程を行い、各粉体のN−ステアロイル−L−グルタミン酸ナトリウム処理物を得た。
【0049】
次いで、上記のN−ステアロイル−L−グルタミン酸ナトリウム処理物を用いて、下記のパウダーファンデーションを調製した。
(処方)
成分 配合量(重量%)
1.N−ステアロイル−L−グルタミン酸ナトリウム処理微粒子酸化チタン
(実施例1) 7.00
2.N−ステアロイル−L−グルタミン酸ナトリウム処理セリサイト 34.10
3.N−ステアロイル−L−グルタミン酸ナトリウム処理タルク 15.00
4.N−ステアロイル−L−グルタミン酸ナトリウム処理顔料級酸化チタン
8.00
5.N−ステアロイル−L−グルタミン酸ナトリウム処理酸化亜鉛 2.00
6.ステアリン酸亜鉛 1.00
7.メチルパラベン 0.50
8.シリコーン処理黄酸化鉄 1.60
9.シリコーン処理ベンガラ 0.50
10.シリコーン処理黒酸化鉄 0.30
11.無水ケイ酸 4.00
12.硫酸バリウム 5.00
13.窒化ホウ素 3.00
14.(ジメチコン/ビニルジメチコン/メチコン)クロスポリマー 1.00
15.ポリメタクリル酸メチル 6.00
16.メチルポリシロキサン 7.00
17.コハク酸ジ2−エチルヘキシル 4.00
合計 100.00
<調製方法>
成分1〜15をヘンシェル型ミキサーにて均一に混合し、アトマイザーにて粉砕を行った。さらに、成分1〜15の混合粉砕物と成分16及び17をヘンシェル型ミキサーにて均一に混合してアトマイザー粉砕後、ふるいを通し、中皿にプレスしてパウダーファンデーションを得た。
【0050】
<パウダーファンデーションの使用感評価>
上記のパウダーファンデーションを使用感評価したところ、非常になめらかにのび、しっとりした肌触りであった。また、朝に塗布して午後になっても、乾燥によるくずれも無く良好であった。この評価結果は、いずれもN−ステアロイル−L−グルタミン酸ナトリウムの表面処理効果が十分に表れていると判断できた。
【実施例2】
【0051】
実施例1での微粒子酸化チタンをパール剤の一つであるベンガラ被覆雲母チタンに替えて、実施例1と同様の条件でプラズマによる前処理を行った。引き続き、表面処理剤として10重量%ステアリン酸カリウム水溶液3.0gを徐々に滴下して15分間撹拌した。その後、ろ過、洗浄、乾燥、粉砕の工程を経てステアリン酸を被覆したベンガラ被覆雲母チタンを得た。
【0052】
(比較例3)
比較例3として、プラズマを照射しないこと以外は実施例2と同様の条件で処理して、ステアリン酸を被覆したベンガラ被覆雲母チタンを得た。
【0053】
<撥水性能の評価>
前記と同様の方法により撥水性能を評価した。実施例2のステアリン酸処理のパール剤は良好な撥水性能を示し、その色調も未処理のものと大きな差はなかった。これに対し、比較例3は水中に沈降して撥水性能は不十分であった。
【0054】
(比較例4)
比較例4として、比較例3と同様の条件で10重量%ステアリン酸カリウム水溶液を5.0gに増量して滴下し、さらに1重量%塩化マグネシウム水溶液を、水中でパール剤が凝集して浮上するまで徐々に滴下した。その後、ろ過、洗浄、乾燥、粉砕の工程を経てステアリン酸マグネシウムを被覆したベンガラ被覆雲母チタンを得た。
【0055】
<撥水性能と外観の評価>
前記と同様の方法により撥水性能を評価した。比較例4は水中に沈降せず疎水性は良好であった。しかし、元のベンガラ被覆雲母チタンの色調や光沢が損なわれていた。
【0056】
一般に、メイクアップ化粧品でよく用いられるパール剤は、約10〜100μmの長径をもつ板状であり、表面処理においては、十分な表面処理が行われることが少ない。このため、実施例1で行ったような撥水性能の試験を市販の表面処理パール剤に行うと、水中に沈降する場合が多く、また、乳化系においては、表面処理欠陥によって界面活性剤等の吸着が徐々に起こり乳化安定性を損ねてしまうことが多い。そこで、これを改善するために、通常は表面処理剤の量を増やして対応するが、量を増やし過ぎると未処理のパール剤の色調や光沢から大きくずれてしまうことが多い。実施例2の結果は、本願発明を用いれば、表面処理剤量を抑え、金属塩の添加なしに良好な表面処理効果が得られることを示すものである。
【0057】
<リクイドファンデーションへの応用>
実施例2の表面処理を行ったパール剤を用いて、下記の処方でW/O乳化型リクイドファンデーションを調製した。
(処方)
成分 配合量(重量%)
1.ステアリン酸処理ベンガラ被覆雲母チタン
(実施例2) 2.00
2.シリコーン処理酸化チタン 11.00
3.シリコーン処理黄酸化鉄 2.00
4.シリコーン処理ベンガラ 0.30
5.シリコーン処理黒酸化鉄 0.20
6.シリコーン処理タルク 3.00
7.シリコーン処理酸化亜鉛 5.00
8.ジメチルシリル化シリカ 0.50
9.アルキルポリエーテル共変性シリコーン 1.00
10.ジイソステアリン酸ポリグリセリル 0.50
11.ポリエーテル変性シリコーン 1.50
12.ジフェニルシロキシフェニルトリメチコン 4.00
13.シクロペンタシロキサン 16.00
14.トリメチルシロキシケイ酸 2.00
15.メトキシケイヒ酸エチルヘキシル 4.00
16.精製水 36.85
17.エデト酸二ナトリウム 0.05
18.メチルパラベン 0.10
19.エタノール 10.00
合計 100.00
<調製方法>
成分1〜15を高速ホモミキサーにて均一に混合し、成分16〜19を均一に溶解したものを添加し、撹拌して、W/O乳化型リクイドファンデーションを得た。
【0058】
(リクイドファンデーションの安定性)
調製されたリクイドファンデーションを40℃で1ヶ月間にわたり保存し、経時観察を行った。その結果、使用時に振り混ぜて行う再乳化の状態も良好で、常温に保存したものと差異は無かった。これに対し、成分1を比較例3のパール剤に変更して調製したものは再乳化が不十分で水相の分離が生じ易かった。従って、本願発明のプラズマ処理を利用して表面処理を行ったパール剤は乳化安定性の向上にも寄与していた。
【実施例3】
【0059】
実施例3として、実施例1の微粒子酸化チタンをセリサイトに替えて、他は実施例1と同様の条件でプラズマによる前処理を行った。引き続き、ろ過、洗浄、乾燥、粉砕して取り出したセリサイト約10gを電動コーヒーミルに入れ、メチルハイドロジェンポリシロキサン0.3gを加え高速撹拌した。その後粉体を取り出し、150℃で3時間反応させ、シリコーン処理のセリサイトを得た。
【0060】
実施例1と同様の方法で撥水性能を確認したところ、沈降物は無く撥水性能は良好であった。これに対し、市販されている3%シリコーン処理のセリサイトでは、一部が沈降していた。
【実施例4】
【0061】
実施例4として、実施例1の微粒子酸化チタンを20gに変更して同様にプラズマによる前処理を行い、さらに2gのN−ステアロイル−L−グルタミン酸ナトリウムを同様に表面処理した。
【0062】
得られた実施例4の処理粉体に対して実施例1と同様に撥水性能を確認したところ、沈降物もなく良好であった。
【実施例5】
【0063】
実施例5として、実施例1の微粒子酸化チタンを1gに変更して、N-ステアロイル−L−グルタミン酸ナトリウムを0.1gとして、本願発明でのプラズマによる前処理とそれに続く表面処理を実施例1と同様の操作で行った。
【0064】
実施例5の処理粉体も実施例1と同様の撥水性能評価を行ったところ良好であった。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本願発明により、添加物や分散剤を使わない、又はその使用量を抑えて、粉体表面に表面処理を施して優れた表面処理効果を引き出すことができる。また、水中で凝集状態にあってもプラズマの前処理段階でこれを解すことが可能である。水で覆われている粉体の表面部分はプラズマによるラジカル等の活性成分を作用させることが可能であることから、表面処理剤の均一な被覆が行われる。本願発明の表面処理粉体は、化粧料を始め、インク、薬剤、セラミック、工業用フィラー、燃料電池素材等に広く利用可能である。
【符号の説明】
【0066】
1 貯留槽
2 粉体を水中に置いて分散させる分散媒
3 電源
4 水面上部の気中に設置した電極
5 水中に浸された又は水に接触した対向電極
6 セラミックス管
7 プラズマ
図1