【実施例】
【0040】
(TNTの調製)
10Mの水酸化ナトリウム水溶液中にアナターゼ型酸化チタンを10:1の割合で添加し、150℃の温度で20時間水熱合成を行った。こうして得られた反応物を中和した後水洗し、100°で2時間乾燥させたところ、白色の粉体を得た。
【0041】
この白色粉体を水に3wt%となるように懸濁し、株式会社井上製作所社製のナノソニックミル(型式:NSM−0.1C)に投入して分散化を行いサンプル1を得た。このナノソニックミルに投入された試料は、装置内でビーズと混合され、超音波を照射されて、白色粉体は水中に均一に分散する。
【0042】
続いて、株式会社ロキテクノ社製膜フィルタ(品番:20L−SLF−007XS)を用いて濾過を行い、濾液(サンプル2)を得た。
【0043】
(IS−TNTの調製)
10Mの水酸化ナトリウム水溶液中にアナターゼ型酸化チタンを10:1の割合で添加し、150℃の温度で20時間水熱合成を行った。こうして得られた反応物を中和した後水洗し、100°で2時間乾燥させたところ、白色の粉体を得た。
【0044】
この白色粉体30gを有機溶媒に懸濁した懸濁液に、25ミリリットルのイミダゾールシラン(JX日鉱日赤金属株式会社製,商品名:イミダゾールシランIS−3000)及び0.4ミリリットルのトリエチルアミンを添加し、約125℃に保ったまま、マグネットスターラー等を用いて約16時間攪拌した。続いて、室温まで自然冷却した後、遠心分離を行い、得られた沈殿画分を得た。この沈殿画分を脱水トルエンに再度懸濁し、125℃で約6時間攪拌した後、再度遠心分離を行って沈殿画分を得た。この沈殿画分を3回ヘキサンで洗浄した後、100℃で約16時間乾燥し、IS−TNTを得た。なお、ヘキサンでの洗浄方法は、沈殿画分をヘキサンに再懸濁した後、遠心分離を行って沈殿画分を得るという方法で行った。
【0045】
こうして得られたIS−TNTは、遠心分離を行い、得られた沈殿画分を脱水トルエンに再度懸濁し、室温で約6時間攪拌した。続いて、更に遠心分離を行い、得られた沈殿画分をヘキサンにて3回洗浄し、得られた沈殿画分を回収し、120℃の温風乾燥機中で2時間乾燥させてIS−TNTを精製し、表面修飾が施されたIS−TNTを得た。
【0046】
こうして得られたIS−TNTを水に3wt%となるように懸濁し、株式会社井上製作所社製のナノソニックミル(型式:NSM−0.1C)に投入して分散化を行いサンプル3を得た。
【0047】
続いて、株式会社ロキテクノ社製膜フィルタを用いて濾過を行い、濾液(サンプル4)を得た。
【0048】
(各サンプルの可視光透過率の評価)
こうして得られたサンプル1〜4及びアナターゼ型酸化チタンについて、それぞれ0.16wt%となる割合で樹脂(DIC株式会社製,ボンコートCF−6240)に添加し、60マイクロメートルの膜厚となるように石英板に塗布した。
【0049】
続いて、それぞれの石英板を水中に浸漬した状態で紫外線ランプ(東芝ライテック株式会社製 殺菌ランプGL−6)を3センチメートル離れた距離から6時間照射し、37℃で12時間乾燥させた後に分光測定を行い、6時間後の透過率を測定した。同様にして、6時間毎に66時間測定を行った。この測定結果からJIS R 3106の手法に従って可視光透過率を算出し、可視光透過率と紫外線照射時間との関係を
図3及び
図4に示す。なお、ここで
図3及び
図4は可視光透過率と紫外線照射時間の関係を示すグラフである。
図3には、酸化チタン(実線)、ブランク(点線)、サンプル1(一点鎖線),サンプル2(二点鎖線)がそれぞれ示されており、
図4には、酸化チタン(実線)、ブランク(点線)、サンプル3(一点鎖線)、サンプル4(二点鎖線)がそれぞれ示されている。なお、縦軸は可視光透過率を示し、横軸は紫外線照射時間を示す。
【0050】
図3及び
図4から明らかなように、サンプル1及びサンプル2の可視光透過率と比較して、サンプル3及びサンプル4の可視光透過率が高い。このことから、濾過の有無にかかわらず、TNTと比較してIS−TNTの透過率が高いと言える。言い換えると、TNTと比較してIS−TNTを塗布した石英板の透明性が高いと言える。このことから、TNTの表面をイミダゾールシランで修飾することにより、TNTと比較して透明性の低下を抑制することができると言える。これは、TNTの表面をイミダゾールシランで修飾することにより、TNTの表面に存在する水酸基を覆うことができるため、水酸基同士の相互作用により、凝集することを抑制することができるためであると発明者らは考えている。この結果、凝集体が生じることを未然に防止し、比較的大きな凝集体によって透明性が低下することを未然に防ぐことができたと考える。
【0051】
また、それぞれのサンプルの6時間後の可視光透過率と62時間後の可視光透過率とを比較すると、サンプル1及びサンプル2の可視光透過率の変化(
図3参照)と比較して、サンプル3及びサンプル4の可視光透過率の変化(
図4参照)が小さい。このことから、長時間紫外線が照射された場合であっても、TNTと比較してIS−TNTは可視光透過率の低下が小さいと言える。言い換えると、TNTと比較してIS−TNTを塗布した石英版の透明度が高く保たれていると言える。このことから、TNTの表面をイミダゾールシランで修飾することにより、TNTと比較して透明性の低下を抑制することができると言える。これは、TNTの表面をイミダゾールシランで修飾することにより、TNTの表面に自己組織膜を形成することができるため、酸化チタンの有する光活性作用により周囲の樹脂を劣化(白化)させることを抑制することができたためであると発明者らは考えている。この結果、樹脂が劣化することを未然に防止し、樹脂の劣化によって透明性が低下することを未然に防ぐことができたと考える。
【0052】
ここで、本紫外線ランプで照射した紫外線量について評価する。紫外線ランプ(東芝ライテック株式会社製 殺菌ランプGL−6)を5センチメートル離れた距離から照射した際の紫外線の強度は、19qW/cm
2であるため、5cm離れた状態で照射した際の紫外線強度は、7600W/cm
2であり、これは、76J/m
2sに相当する。よって、1時間当たりのエネルギーは、273、6kJ/m
2sに相当する。一方、兵庫県姫路市内で定点観測を行ったUV−Bの照射強度における日積算量は、13.61795J/m
2sdayであることが分かっている。このことから、この紫外線ランプの1時間当たりのエネルギーは、兵庫県姫路市内では、おおよそ2.008日に相当する。
【0053】
(各サンプルのカット率の評価)
次にサンプル1〜4について、TNT(又はIS−TNT)の濃度とカット率との関係を
図5及び
図6に示す。ここで、「カット率」とは、波長が280ナノメートルから370ナノメートルにおける透過率を積算した数値について、TNT(又はIS−TNT)のそれぞれの濃度のサンプルがTNT(又はIS−TNT)の濃度が0の場合と比較して、どの程度の割合であるかを示す値であり、具体的には、TNT(又はIS−TNT)の各濃度における280ナノメートルから370ナノメートルの波長における吸光度の積分値をTNT(又はIS−TNT)が含まれていない280ナノメートルから370ナノメートルの波長における吸光度の積分値で除算したものを値100から減算したものである。この式で表されるカット率が大きければ大きいほど、280ナノメートルから370メートルの波長(すなわち、地表に到達している紫外線に相当する領域の波長)を遮蔽していることを示す。
【0054】
まず、
図5に、サンプル1(実線)とサンプル2(点線)の各濃度におけるカット率の変化を示す。ここで、
図6は、サンプル1とサンプル2の各濃度におけるカット率の変化を示すグラフであり、縦軸がカット率を,横軸が酸化チタンの濃度をそれぞれ示している。
図5から明らかなように、サンプル1は20%のカット率を得るためには、酸化チタン濃度が0.4wt%程度必要であることに対し、サンプル2は、約0.05wt%で20%のカット率が得られる。このことから、サンプル2はサンプル1と比較して、低濃度であっても20%以上のカット率が得られることは明らかである。言い換えると、低濃度でも高い紫外線遮蔽効果を有していると言える。これは、濾過を行うことにより、紫外線遮蔽効果の低い凝集体を除去することができたためであると考えられる。
【0055】
次に、
図6に、サンプル3とサンプル4の各濃度におけるカット率の変化を示す。ここで、
図6は、サンプル3(点線)とサンプル4(実線)の各濃度におけるカット率の変化を示すグラフであり、縦軸がカット率を、横軸が酸化チタン濃度をそれぞれ示している。
図6から明らかなように、サンプル3及びサンプル4のいずれも酸化チタン濃度が約0.05wt%を境にカット率が大きく上昇している。このことから、サンプル3及びサンプル4において、十分な紫外線遮蔽効果を得るためには、酸化チタン濃度が0.05wt%以上必要であることは明らかである。また、サンプル3とサンプル4とを比較すると、サンプル3と比較して、サンプル4の方がいずれの濃度であっても高いカット率を有している。このことから、サンプル3と比較して、サンプル4は高い紫外線遮蔽効果を有していると言える。これは、濾過を行うことにより、紫外線遮蔽効果の低い凝集体を除去することができたためであると考えられる。
【0056】
(各サンプルの透明性の変化)
最後に、サンプル1〜4について、目視により塗膜がどの濃度で白濁したかを目視で確認した。その結果、サンプル1は、0.099wt%以下では白濁が確認できなかったが、0.119wt%以上では白濁した。また、サンプル2は、0.102wt%以下では白濁が確認できなかったが、0.255wt%以上では白濁した。また、サンプル3は、0.063以下では白濁が確認できなかったが、0.071wt%以上では白濁した。また、サンプル4は、0.16wt%以下では白濁が確認できなかったが、0.4wt%以上では白濁した。なお、比較対象としてアナターゼ型酸化チタンで同様の実験を行ったところ、0.04wt%で既に白濁が確認され、透明性を確保することができなかった。このことから、濾過を行ったか否かについてTNTで比較すると、濾過を行うことにより、より高い濃度でも白濁しないことが言える。また、濾過を行ったか否かについてIS−TNTで比較すると、濾過を行うことにより、より高い濃度でも白濁しないことが言える。以上より、TNTとIS−TNTのいずれに対しても、濾過を行うことにより、白濁することなく多くのTNT又はIS−TNTを分散することができる。TNT又はIS−TNTの添加量が多くなれば多くなるほど紫外線遮蔽効果が高まることから、透明性を保ちつつ、高い紫外線遮蔽効果を得られたと言える。