(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6084393
(24)【登録日】2017年2月3日
(45)【発行日】2017年2月22日
(54)【発明の名称】歪センサおよび歪の測定方法
(51)【国際特許分類】
G01B 7/16 20060101AFI20170213BHJP
G01L 1/22 20060101ALI20170213BHJP
【FI】
G01B7/16 R
G01L1/22 M
【請求項の数】13
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2012-175857(P2012-175857)
(22)【出願日】2012年8月8日
(65)【公開番号】特開2014-35239(P2014-35239A)
(43)【公開日】2014年2月24日
【審査請求日】2015年6月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000173795
【氏名又は名称】公益財団法人電磁材料研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100099944
【弁理士】
【氏名又は名称】高山 宏志
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 英二
【審査官】
神谷 健一
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭56−110026(JP,A)
【文献】
特開平10−270201(JP,A)
【文献】
特開平04−095738(JP,A)
【文献】
特開2001−221696(JP,A)
【文献】
特開平05−034182(JP,A)
【文献】
特開平07−270109(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 7/00− 7/34
G01L 1/00− 1/26,
25/00
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Crおよび不可避不純物からなるCr薄膜、またはCr、Nおよび不可避不純物からなるCr−N薄膜で構成され、測定のための電流が流れる方向である受感部の長手方向が、測定しようとする歪の方向と垂直をなすように配置され、かつそのゲージ率が3以上であることを特徴とする歪センサ。
【請求項2】
Crおよび不可避不純物からなるCr薄膜、またはCr、Nおよび不可避不純物からなるCr−N薄膜で構成され、測定のための電流が流れる方向である受感部の長手方向が、測定しようとする歪の方向に対し、+方向側または−方向側に、5度以上90度未満の角度に傾いた方向をなすように配置され、かつそのゲージ率が3以上であることを特徴とする歪センサ。
【請求項3】
前記Cr−N薄膜は、一般式Cr100−xNxで表され、組成比xは原子%で0.0001≦x≦30であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の歪センサ。
【請求項4】
前記Cr−N薄膜は、熱処理によるA15型構造のbcc構造への変化により、bcc構造またはbcc構造とA15型構造との混合組織からなることを特徴とする請求項3に記載の歪センサ。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の歪センサを用いることを特徴とする力センサ。
【請求項6】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の歪センサを用いることを特徴とする圧力センサ。
【請求項7】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の歪センサを用いることを特徴とする加速度センサ。
【請求項8】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の歪センサを用いることを特徴とする変位センサ。
【請求項9】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の歪センサを用いることを特徴とするトルクセンサ。
【請求項10】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の歪センサを用いることを特徴とする流量センサ。
【請求項11】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の歪みセンサを用いることを特徴とする重量センサ。
【請求項12】
Crおよび不可避不純物からなるCr薄膜、またはCr、Nおよび不可避不純物からなるCr−N薄膜で構成された歪センサを、測定のための電流が流れる方向である受感部の長手方向が、測定しようとする歪の方向と垂直をなすように配置して、当該歪を測定することを特徴とする歪の測定方法。
【請求項13】
Crおよび不可避不純物からなるCr薄膜、またはCr、Nおよび不可避不純物からなるCr−N薄膜で構成された歪センサを、測定のための電流が流れる方向である受感部の長手方向が、測定しようとする歪の方向に対し、+方向側または−方向側に、5度以上90度未満の角度に傾いた方向をなすように配置して、当該歪を測定することを特徴とする歪の測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Cr(クロム)またはCrとN(窒素)を主成分とする歪抵抗膜からなるストレインゲージとも呼ばれる歪センサ、およびそれを用いた力センサ、圧力センサ、加速度センサ、変位センサ、トルクセンサ、重量センサおよび流量センサ等の各種力学量セン
サ、ならびに歪の測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
歪センサは、薄膜、細線または箔形状のセンサ材の電気抵抗が弾性歪によって変化する現象を利用するものであるが、その抵抗変化を測定することにより、歪や応力の計測ならびに変換に用いられる。例えば、生産工業における歪計、重量計、加速度計、トルク計、流量計および各種力学量−電気量変換機器、土木工業における土圧計、建築業・エネルギー関連業における圧力計、流量計および撓み量計、航空・宇宙・鉄道・船舶関連業における加速度計、トルク計、流量計および各種応力・歪計等に広く利用されており、さらに民生用としての商用秤およびセキュリティ機器等にも多く利用されている。
【0003】
歪センサの感度は、ゲージ率Kによって決まり、Kの値は一般に以下の(1)式で与えられる。
K=(ΔR/R)/(Δl/l)=1+2σ+(Δρ/ρ)/(Δl/l) (1)
ここで、R、σおよびρは、それぞれセンサ材である薄膜、細線または箔の全抵抗、ポアソン比および比電気抵抗である。またlは被測定体の全長であり、よってΔl/lは被測定体に生じる歪を表す。一般に、金属・合金におけるσはほぼ0.3であるから、前記の式における右辺第1項と第2項の合計は約1.6でほぼ一定の値となる。したがってゲージ率を大きくするためには、前記の式における第3項が大きいことが必須条件である。すなわち、材料に引っ張り変形を与えたとき材料の長さ方向の電子構造が大幅に変化し、比電気抵抗の変化量Δρ/ρが増加することによる。
【0004】
ゲージ率が大きな材料には半導体の炭素、ケイ素およびゲルマニウム等が知られている。しかしこれら半導体の場合、ゲージ率は10〜170と非常に大きいが、その値の異方性および温度による変動が大きく安定性にも欠け、さらに機械的強度が劣る等の欠点を有することから、特殊な小型圧力変換機器に応用されるにとどまっている。歪センサ用材料として現在最も多く使用されている材料は、Cu−Ni合金である。この合金は抵抗温度係数がきわめて小さいため、温度変化に対する特性の変動が小さいという特徴を有しているが、その反面、ゲージ率は2と小さく、さらに高感度な歪センサ用材料としては適していない。
【0005】
上記Cu−Ni合金のような合金バルク(塊状)材料を用いた歪センサは、細線もしくは箔の形で使用される。しかし、細線形状の歪センサは、グリッド形成時の残留歪の影響および加工した細線材と基板を密着させるために用いる接着剤の影響等により特性にばらつきが大きく、しかもグリッドの形成や細線材と基板の接着といった特殊技術が必要なため、生産効率が悪くコスト高の原因となっている。また、箔形状の歪センサは、加工時の歪の影響はないが、接着剤の影響については細線材と同様であり、これも問題となっていた。
【0006】
歪センサの応用領域は、近年のマイクロコンピューターの進歩に伴ってますます拡大し、小型化および高性能化に向かっている。特に、高感度で安定性を必要とする圧力変換器やロードセルの他、ロボットの接触センサや滑りセンサ等に使用可能な歪センサの要求が高まってきた。これらの各種センサに使用する歪センサに関して、高感度で良好な安定性を有する新たな素材の開発が緊急に求められていた。
【0007】
そこで近年になって注目されたのが、バルクのゲージ率として26〜28という非常に大きい値が報告されていたCrである。
【0008】
Crは加工が非常に困難であることから、過去においては細線および箔形状の歪センサに用いることはできなかったが、近年、加工を必要としない薄膜化によってCrを歪センサに応用する道が拓かれた。Crを薄膜とした場合のゲージ率はバルクほどではないが約15と大きい。また材料を直接基板につけてしまうので、合金バルク材料を用いた歪センサの場合に生じる接着剤の影響の問題も解消される。一方、歪センサは歪以外の物理量に対して敏感であってはならず、特に温度に対する電気抵抗の変化量は小さくなくてはならないが、通常の蒸着装置やスパッタリング装置を用いて作製したCr薄膜の抵抗温度係数(TCR)は正の大きな値(6×10
−4/℃以上)を示し、安定性の点で問題がある。
【0009】
これに対し、Crマトリクス(母材)中にCr酸化物、Cr窒化物、Cr−M合金(MはCr以外の遷移金属など)を分散析出させることにより抵抗温度係数を低減させる技術が開発され、TCR約1×10
−4/℃の特性を示す薄膜が得られるようになった。さらにその後、少量の窒素添加と熱処理によって結晶構造を調整することによりTCRとして理論上0×10
−4/℃の特性を得ることを可能とするCr−N基薄膜が開発された(特許文献1)。このようなCr−N基薄膜により、ゲージ率が高く(実施例では3.5〜13.2)、抵抗温度係数が約0×10
−4/℃の優れた特性を示す、すなわち高感度で安定な歪ゲージが実現される。
【0010】
このような高感度で安定な新たな歪ゲージの出現により、従来の低いゲージ率のストレインゲージでは測定が不可能であった丈夫な(高強度の)構造体における微小な歪も検知可能となった。また、薄膜化によって微小形状のセンサ素子の形成も可能となり、歪を介して計測する各種物理量計測機器の小型化も促進され、種々の製品のいたるところに搭載することも可能となった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第3642449号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかし、最近では、歪センサのさらなる小型化が要求されており、このようなさらなる小型化を検討していった過程で、非常に大きな制約があることも明らかになった。
【0013】
それは、従来の歪センサが歪方向と電流が流れるセンサ受感部の長手方向を一致させて用いることに起因する問題である。
【0014】
旧来よりの歪センサは、その構造が金属細線(線径10〜30μm)または金属箔(厚さ3〜5μm)をグリッド状あるいはロゼット状に成形してなり、またその使用法としては前記センサ材を被測定物に接着剤で貼り付けし、被測定物に生じた歪をセンサの抵抗変化から間接的に測定するものである。その際電流が流れるセンサ受感部の長手方向、さらに厳密に言えば、直線状、曲線状またはグリッド状等を成すセンサ受感部の中の一本一本の電流が流れる線の長手方向を歪方向と一致させて用いる必要があった。従来の金属箔歪センサでは形状変形効果が支配的であることから、このように配置することにより測定対象物の伸びまたは縮みに対し受感部が同様に伸びまたは縮みを示し、よって抵抗の増加または減少をそれぞれ示し、歪に対し抵抗変化を正の相関で得ることができる。半導体歪センサもそれに倣いゲージ率の高い結晶方位を長手方向に配し、歪印加方向に沿って貼り付け、測定を行うようになっている。
【0015】
センサの超小型化を達成した場合は素子自体が小さくなるので分解能は向上するが、センサ受感部の長手方向を歪印加方向に配置しなければならないことから、歪を測定する領域が広く(長く)なってしまい、さらに分解能良く歪を計測することは困難であった。また、機械的な可動領域の最も変形の大きい箇所にセンサを設置したいが、相対的にセンサ受感部(長手方向の長さ)が大きいとその最大歪位置にセンサを設置できない場合も生じることがあり、性能を十分に利用できないという問題も明らかになっている。
【0016】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであって、歪印加方向に対する歪測定領域の長さまたは分解能を1μmオーダーまで小さくすることができる歪センサおよびそれを用いた力センサ、圧力センサ、加速度センサ、変位センサ、トルクセンサ、重量センサおよび流量セン
サ、ならびに歪の測定方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者は、上記課題を解決すべく検討を重ねた結果、歪センサにおいて、電流が流れる方向である受感部の長手方向が歪方向と垂直にすることができれば、歪印加方向に対する歪測定領域の長さまたは分解能を1μmオーダーまで小さくすることができることに想到した。
【0018】
図1に、歪方向と平行にセンサ受感部の長手方向(測定のための電流が流れる方向)を合わせる従来の配置(平行配置)を示し、
図2に、歪方向に対して垂直にセンサ受感部の長手方向を合わせる配置(垂直配置)を示す。両図とも(a)は一般的な歪ゲージと同様のグリッド状、(b)は直線状パターンを示す。これらを比較すると(特に、
図1(b)と
図2(b)を比較すると)、センサ受感部の長手方向を歪印加方向と垂直に配置すれば位置分解能は格段に向上することが理解することができる。
【0019】
しかし従来のCu−Ni合金系の歪センサは横向きに印加される歪の影響を受けにくいため、垂直配置した場合に測定対象の歪を検知することができない。さらに、測定対象における歪の垂直方向には基材のポアソン比で計算される負の歪が生じるため、その方向に長手方向をおいたセンサ受感部にその負の歪が作用し、それを検知してしまうことになる。したがって、本来測りたい方向の歪を全く計測できない。従来の歪センサは、そのような理由から測定対象である歪の方向と電流が流れるセンサ受感部の長手方向を一致させた平行配置で用いる。
【0020】
これに対して、本発明者が従来から知られている歪センサ用金属材料を含めた様々な材料について種々検討を行った結果、Cr薄膜およびCr−N薄膜は歪方向と垂直にセンサ受感部の長手方向を設置しても、平行に設置した場合とほぼ同様のゲージ率を持つことを見出した。
【0021】
また、測定のための電流が流れる方向である受感部の長手方向が歪印加方向に対し
、+方向側または−方向側に、5度以上90度未満の角度に傾いた方向をなす場合でも、歪方向と平行にセンサ受感部の長手方向を設置する場合よりも、位置分解能が向上することを見出した。
【0022】
本発明は、このような知見に基づいてなされたものであり、以下の(1)〜(
13)を提供する。
【0023】
(1)Crおよび不可避不純物からなるCr薄膜、またはCr、Nおよび不可避不純物からなるCr−N薄膜で構成され、測定のための電流が流れる方向である受感部の長手方向
が、測定しようとする歪の方向と垂直をな
すように配置され、かつそのゲージ率が3以上であることを特徴とする歪センサ。
【0024】
(2)Crおよび不可避不純物からなるCr薄膜、またはCr、Nおよび不可避不純物からなるCr−N薄膜で構成され、測定のための電流が流れる方向である受感部の長手方向
が、測定しようとする歪の方向に対し
、+方向側または−方向側に、5度以上90度未満の角度に傾いた方向をな
すように配置され、かつそのゲージ率が3以上であることを特徴とする歪センサ。
【0025】
(3)前記Cr−N薄膜は、一般式Cr
100−xN
xで表され、組成比xは原子%で0.0001≦x≦30であることを特徴とする(1)または(2)に記載の歪センサ。
【0026】
(4)前記Cr−N薄膜は、熱処理によるA15型構造のbcc構造への変化により、bcc構造またはbcc構造とA15型構造との混合組織からなることを特徴とする(3)に記載の歪センサ。
【0027】
(5)上記(1)〜(4)のいずれかに記載の歪センサを用いることを特徴とする力センサ。
【0028】
(6)上記(1)〜(4)のいずれかに記載の歪センサを用いることを特徴とする圧力センサ。
【0029】
(7)上記(1)〜(4)のいずれかに記載の歪センサを用いることを特徴とする加速度センサ。
【0030】
(8)上記(1)〜(4)のいずれかに記載の歪センサを用いることを特徴とする変位センサ。
【0031】
(9)上記(1)〜(4)のいずれかに記載の歪センサを用いることを特徴とするトルクセンサ。
【0032】
(10)上記(1)〜(4)のいずれかに記載の歪センサを用いることを特徴とする流量センサ。
【0033】
(11)上記(1)〜(4)のいずれかに記載の歪みセンサを用いることを特徴とする重量センサ。
(12)Crおよび不可避不純物からなるCr薄膜、またはCr、Nおよび不可避不純物からなるCr−N薄膜で構成された歪センサを、測定のための電流が流れる方向である受感部の長手方向が、測定しようとする歪の方向と垂直をなすように配置して、当該歪を測定することを特徴とする歪の測定方法。
(13)Crおよび不可避不純物からなるCr薄膜、またはCr、Nおよび不可避不純物からなるCr−N薄膜で構成された歪センサを、測定のための電流が流れる方向である受感部の長手方向が、測定しようとする歪の方向に対し、+方向側または−方向側に、5度以上90度未満の角度に傾いた方向をなすように配置して、当該歪を測定することを特徴とする歪の測定方法。
【0034】
本発明においては、歪ゲージとしてCr薄膜またはCr−N薄膜を用いることにより、歪方向と垂直にセンサ受感部の長手方向を設置することができ、線幅と隣接線との間隔分という小さな領域で歪が計測可能となり、その長さはフォトリソグラフィー等のパターニング手法で形成可能な薄膜の線幅により規定され、理論的には数オングストローム、現実的には数μm、すなわちμmオーダーの分解能が可能となる。特にCr−N薄膜を用いた場合には、熱処理によって結晶構造を調整することによりTCRとして理論上0×10
−4/℃の特性を得ることができ安定性も高めることができる。
【0035】
従来、ストレインゲージは歪み方向と垂直(すなわち横向き)にして歪の計測に用いられることはないが、温度補償用およびブリッジ回路をなす場合のダミーゲージとして使用する場合は、それらのゲージに歪が入らないように、歪に対して横向きにして用いられる。すなわち従来の概念では、ストレインゲージを横にして用いるということは、歪が検知できないことを意味している。このように、本発明は従来のストレインゲージの概念を変えてしまうような全く新規な発想に基づく技術であり、全く新規な思想に基づく発明であるといえる。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、歪印加方向に対する歪測定領域の長さまたは分解能を1μmオーダーまで小さくすることができる歪センサおよびそれを用いた力センサ、圧力センサ、加速度センサ、変位センサ、トルクセンサ、重量センサおよび流量センサを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】歪方向と平行にセンサ受感部の長手方向(測定のための電流が流れる方向)を合わせる従来の配置(平行配置)を示す図である。
【
図2】歪方向と垂直にセンサ受感部の長手方向(測定のための電流が流れる方向)を合わせる配置(垂直配置)を示す図である。
【
図3】実験例1に用いたH字型の試料を示す図であり、(a)は平行配置、(b)は垂直配置である。
【
図4】実験例2、3に用いたI字型の試料を示す図であり、(a)は平行配置、(b)は垂直配置である。
【
図5】Cr−N薄膜の抵抗値およびゲージ率の温度依存性を示す図である。
【
図6】Cr−N薄膜の平行配置試料および垂直配置試料における歪量に対する抵抗値変化率を、市販の歪ゲージの結果とともに示す図である。
【
図7】I字型形状のCu、Ni、Al、Ti、CrおよびCr−N薄膜の平行配置と垂直配置において測定したゲージ率を示す図である。
【
図8】実験例3における力センサとしての評価を行う際に用いた万能試験機の概略構成を示す図である。
【
図9】Cr−N薄膜の平行配置試料における、力を印加した際の各位置に置かれたゲージ素子の抵抗変化率(出力)を示す図である。
【
図10】Cr−N薄膜の垂直配置試料における、力を印加した際の各位置に置かれたゲージ素子の抵抗変化率(出力)を示す図である。
【
図11】市販歪ゲージの平行配置試料における、力を印加した際の各位置に置かれたゲージ素子の抵抗変化率(出力)を示す図である。
【
図12】
図9〜11において0.15Nの力に対する各試料各素子の出力を支点からの距離に対してプロットした図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明では、歪ゲージをCrおよび不可避不純物からなるCr薄膜、またはCr、Nおよび不可避不純物からなるCr−N薄膜で構成する。
【0039】
Cr薄膜およびCr−N薄膜は、歪方向と垂直にセンサ受感部の長手方向を設置しても、平行に設置した場合とほぼ同様のゲージ率を持つ。
【0040】
一般に、歪ゲージに印加される歪量ε0は、主歪ε1の方向に対してその歪ゲージの長手方向が角度θだけ傾いている場合に以下の(2)式で与えられる。
ε0=[(ε1+ε2)+(ε1−ε2)cos2θ]/2 (2)
ここで、ε2は基材のポアソン比νに応じて生じる横方向の歪で、主歪と逆符号をとり、以下の(3)式で与えられる。
ε2=−νε1 (3)
【0041】
(2)式から、従来のCu−Ni合金等の材料の場合、θ=0度のときε0=ε1であり、θ=90度のときε0=ε2となる。よって、主歪に対して垂直に歪ゲージの長手方向を配置する場合には、主歪を直接測定できないことがわかる。また、0度から90度までの間のθの角度について考えると、角度の増大に伴って、0度の主歪の値(ε1)からポアソン比との積で与えられる負の値(ε2)まで角度に依存して変化することがわかる。
【0042】
これに対して、上述のようにCr薄膜およびCr−N薄膜は、歪方向と垂直にセンサ受感部の長手方向を設置しても、平行に設置した場合とほぼ同様のゲージ率を持つが、このことは、歪方向と受感部の長手方向の間の角度が0度の場合と90度の場合でゲージ率がほぼ同程度の大きさであることを意味する。したがって、主歪に対して垂直に歪ゲージの長手方向を配置する場合であっても歪を測定することができる。また、これと同様に、0度から90度の間の任意の角度の場合においてもほぼ等しいゲージ率を示す。すなわちCrおよびCr−N薄膜はゲージ率について基本的には等方的性質を示すと考えられる。したがって、どの角度を成す場合も、その起歪体に生じた主歪とポアソン比に応じて導かれる逆符号の横歪の両方を同時に検知し、その両者の和はセンサの形状や方向に依存せず一定の値を示すのである。よって本発明は、歪方向と垂直にセンサ受感部の長手方向を設置する場合だけでなく、0度を超える角度から90度未満の角度までの任意の角度で設置する場合においても、平行(θ=0度)に設置した場合とほぼ同様のゲージ率を持つことも示す。ただし、θが5度未満では、歪印加方向に対する歪測定領域の長さまたは分解能を1μmオーダーまで小さくする効果が得難いため、受感部の長手方向が歪印加方向に対し
、+方向側または−方向側に、5度以上90度未満の角度に傾いた方向とする。
【0043】
Cr−N薄膜は、一般式Cr
100−xN
xで表され、組成比xは原子%で0.0001≦x≦30とすることが好ましい。また、同様の組成を有し、かつ熱処理によるA15型構造のbcc構造への変化により、bcc構造またはbcc構造とA15型構造との混合組織からなるものであることが好ましい。
【0044】
上記特許文献1に記載されているように、Cr−N薄膜は、Crのbcc構造もしくはA15型構造もしくはそれら両者の混合組織からなっており、窒素濃度が小さい場合は、結晶構造はbcc構造となりTCRは正の値を示し、一方大きい場合は、結晶構造はA15型構造となりTCRは負の値を示すが、これらの薄膜のTCRは熱処理温度の増加に伴って増大し、熱処理温度で決まる。すなわち、成膜時に負のTCRを示す薄膜を適当な温度で熱処理することによってTCR約0×10
−4/℃の特性を示す薄膜を得ることができる。このとき膜の結晶構造は、A15型構造から熱処理温度の増加にともなってbcc構造へと変化していくが、この過程において、bcc構造とA15型構造が共存する組織からbcc構造単独の組織に変化する熱処理温度領域において、ゼロ近傍のTCRが得られる。このため、一般式Cr
100−xN
xで表され、組成比xは原子%で0.0001≦x≦30なる関係を有するCr−N薄膜において、熱処理によるA15型構造のbcc構造への変化により、bcc構造またはbcc構造とA15型構造との混合組織となり、TCRを−4〜4×10
−4/℃の範囲内という低い値とすることができる。
【0045】
Cr−N薄膜において、窒素濃度が約15%よりも大きい場合は、Cr窒化物(Cr
2NおよびCrN等)の微結晶もしくはアモルファス状態のCr−Nが、bcc構造のCrもしくはbcc構造とA15型構造が共存するCrの膜中に生じ、結晶構造が判別しにくくなることがある。このような場合もTCRは負の値を示すが、熱処理によってTCRの制御が可能であり、小さくすることができる。しかし、これらCr窒化物の微結晶もしくはアモルファス状態のCr−Nの占める割合が多くなるにつれてTCRは増大し、窒素濃度窒xが30%を超えるとほぼ膜全体がCr窒化物になりTCRは4×10
−4/℃を超えてしまうため好ましくない。したがって、窒素濃度xを30%以下とすることが好ましい。
【0046】
上記Cr薄膜およびCr−N薄膜を製造するには、CrまたはCr−N薄膜の形成が可能な合金を原料とした蒸着法、CrターゲットまたはCr−N薄膜の形成が可能な合金ターゲット、複合ターゲットまたは多元ターゲットを用いたスパッタリング法、上記副成分元素ガスを含む成膜雰囲気を用いた反応性スパッタリング法、上記薄膜の形成が可能な原料を用いた気相輸送法、もしくはめっきを含む液相法等により、絶縁性基板上に、または導電性基板表面に絶縁体膜を形成した上に、マスク法などを用いて所望の形状および厚さの薄膜を形成する。または適当な形状の薄膜を形成した後、ドライエッチング(プラズマエッチング、スパッタエッチング等)、化学エッチング(腐食法)、リフトオフ法、レーザトリミング法などのエッチングまたはトリミング加工などを施すことにより所望の形状に加工し、素子となす。また必要ならば温度補償用として、同一面内の歪が入らない位置に前期素子と同一寸法形状の素子を構築したゲージパターンを形成する。さらにこのままで使用するか、または必要ならばこれに電極の構築および電極リード線の接続を施し、さらに必要ならばこれらの薄膜を大気中、非酸化性ガス中、還元性ガス中または真空中の200℃以上1000℃以下の温度で、適当な時間、好ましくは1秒間以上100時間以下加熱後、適度な速度で、好ましくは1℃/時以上100℃/分以下の速度で冷却する。これにより、本発明の歪センサ用Cr薄膜またはCr−N薄膜が得られる。これらの薄膜に電極リード線を接続することで歪センサとする。またさらに必要があれば、抵抗補正素子、ブリッジ回路および信号増幅回路等からなる外部回路または装置を加えて歪センサとする。
【0047】
成膜方法としては、上記の中ではスパッタリング法を好適に用いることができる。スパッタリングの際には膜中に不純物としてO(酸素)、C(炭素)が不可避的に取り込まれることが知られている。また、熱処理の際には薄膜表層部にO、Cが不可避的に取り込まれることも知られている。これらは不可避的不純物として許容される。これらの中でOは、不可避不純物として表層部でおよそ50%程度まで、膜中でおよそ20%程度までと、比較的多く取り込まれる場合もあるが、特性に悪影響を与えるものではない。むしろ、Oが取り込まれることにより、電気抵抗を増加させる等の効果を発揮することが予想される。
【0048】
また、本発明では、上記薄膜を形成する絶縁性基板または絶縁体膜を形成した導電性基板の形状および歪印加方法を変えて各物理量の計測に適した仕様とすることで、力センサ、圧力センサ、加速度センサ、変位センサ、トルクセンサ、重量センサおよび流量センサ等の各種力学量センサならびに検知システムを得ることができる。
【0049】
次に、本発明の効果を確認した実験結果について説明する。
【0050】
<実験例1>
ここでは、
図3に示した受感部が直線状で電極膜を含めてH字型をなすCr、Cu、Ti、CuNiの薄膜(直線状受感部:幅0.2mm、長さ6mm、電極引き出しライン:幅0.2mm、長さ2mm)を、メタルマスクを用いてRFマグネトロン方式のスパッタリング法によって、それぞれ50mm×10mmの大きさで厚さが0.2mmのガラス(Corning0211)基板上に作製した。ゲージ率は、約700μεの歪を生じさせる立体の曲面にそれらの試料を押し当てた時の抵抗変化を直流四端子法により測定して求めた。歪量は市販の歪ゲージ(共和電業製,KFG−2−350−C1−11)を同じ寸法のガラス基板の同じ位置に貼り付けた試験片を用いて同じ曲面を測定した結果から求めた。表1にCr、Cu、Ti、CuNiの薄膜の実際に測定したゲージ率を示す。表1の(a)の平行配置は、
図3の(a)のように受感部の長手方向(すなわち受感部において電流が流れる方向)を基板の長手方向(歪方向)と一致させたものであり、(b)の垂直配置は、
図3の(b)のように受感部の長手方向を基板の長手方向(歪方向)に対して垂直に配置したものである。また、ゲージ率は、薄膜を成膜したままの試料(as−deposited試料)および熱処理した試料(熱処理試料)の両方について測定した。
【0051】
表1に示すように、as−deposited試料および熱処理試料のいずれにおいても、CuおよびCuNiは(a)の平行配置では(平均値でそれぞれ約2.8および約2.1という)3未満の正の値のゲージ率を示しているが、(b)の垂直配置ではほぼゼロから負の値を示し、それらの絶対値も0.6以下と小さいことがわかった。その結果は上記(2)式および(3)式で説明した計算とほぼ一致している。そのような結果は、薄膜でない上述の市販の歪ゲージにおいても得られる。
【0052】
ここで用いた市販の歪ゲージはCuNi合金からなるもので、薄膜ではなく圧延箔である。表2にその市販の歪ゲージを対象とした測定結果を示す。ここでの歪量は、ブリッジボックス(共和電業製、DB−350)と歪アンプ(共和電業製、シグナルコンディショナ、CDA−230C)を使用した一般的な歪量測定を行うことにより求めた。また、(c)欄の横歪とは、試料の長手方向に歪を印加した場合に、ポアソン比によってそれと垂直な幅方向に生じる歪を指す。その(c)欄に示した歪量は、垂直配置した歪ゲージを用いて通常の計測を行うことにより求めたものである。その結果から横歪である−124μεという負の値が得られることが確認できる。よって(b)欄においては主軸方向の歪ではなく、その横歪を検知してしまうために主軸方向の計測としては抵抗変化量が負の値となり、ゲージ率も−0.34という小さな負の値が導かれることになる。これは表1のCuNi薄膜の結果とよく一致している。
【0053】
通常の金属、特に圧延箔材は、通常、CuNiとほぼ同様な結果を示すが、表1のTi薄膜は垂直配置においてもポアソン比に依存する変化を示さなかった。しかしこれは、平行配置における値自身が小さいことから、歪に対してはほぼ不感であり、誤差的な出力を拾った結果ではないかと考えられる。いずれにしても垂直配置における歪に対する感度は小さい。
【0054】
これらに対し、表1に示すCr薄膜は平行配置の9という高いゲージ率に対し、垂直配置でも7.8という正の大きな値を示した。このようにCr薄膜は、他の金属とは全く異なる性質を持ち、垂直配置において大きな歪に対する感度が得られることが明らかになった。
【0057】
<実験例2>
ここでは、
図4に示した直線受感部からなるI字型をしたCr−N薄膜(幅0.3mm、長さ7mm)を、メタルマスクを用いて、Arとともに微量の窒素ガスを導入して成膜を行う反応性スパッタリング法によって、50mm×13mmの大きさで厚さが0.2mmのガラス(Corning0211)基板上に作製した。スパッタリング装置にはキャノンアネルバ製の高周波スパッタリング装置SPF−312Hをコンベンショナル方式で使用した。窒素の添加量は、導入する窒素ガス流量を調節することにより制御した。ターゲットには公称純度99.9%のCr円盤を用い、成膜前真空度(背景真空度)、ターゲット−基板間距離(T−S距離)および入力電力をそれぞれ2×10
−5Pa、70mmおよび100Wとして成膜を行った。評価はas−deposited膜と熱処理膜に対し行った。熱処理は10
−5Pa台の真空中において所定の温度で1時間保持して行った。I字型試料は、
図4の(a)に示すように、受感部の長手方向、すなわち受感部において電流が流れる方向を基板の長手方向(歪方向)に対して平行に配置する場合(平行配置)と、(b)に示すように、垂直に配置する場合(垂直配置)の二種類の試料を準備した。
【0058】
これら試料について、片持ち梁への連続歪印加方式により、抵抗値およびゲージ率を異なる温度で測定した。その結果を
図5に示す。
図5に示すように、平行配置試料および垂直配置試料において、ゲージ率がそれぞれ10.1および9.0のであり、垂直配置の場合にも平行配置とほぼ変わらぬ大きな値を示すことがわかった。また、抵抗値の温度変化から見積もられた0℃〜50℃間における抵抗温度係数(TCR)はそれぞれ約−50ppm/℃および約+80ppm/℃といずれもゼロ近傍の比較的小さい値を示し、熱処理試料からこれらの値が得られたことから、垂直配置においても抵抗温度係数の調整が可能であることが確認された。さらに、ゲージ率の温度変化もほぼ同様の傾向が得られた。
図6にCr−N薄膜の平行配置試料および垂直配置試料における歪量に対する抵抗値変化率を示す。この図から垂直配置の場合にも平行配置と同様、ヒステリシスの無い直線性に優れた変化をしていることがわかる。比較のため、市販の歪ゲージの値を示すが、Cr−N薄膜は市販の歪ゲージよりも抵抗値変化率が大きいことがわかる。
【0059】
次に、上記と同様のI字型形状のCu、Ni、Al、TiおよびCr薄膜試料をRFマグネトロン方式のスパッタリング法によって作製し、上記と同様の熱処理を行った後、同様に平行配置と垂直配置において測定したゲージ率を評価した。
図7にそれらの結果をCr−N膜の結果とともに示した。Ni、Al、Tiの薄膜試料においては平行配置でもゲージ率は小さかったが、Cr以外は垂直配置において2以上の大きなゲージ率を示すことはなかった。Cr薄膜においてはCr−N薄膜と同様に平行配置の場合の大きなゲージ率から約1割低減しただけの、大きなゲージ率を示すことが明らかになった。そのことから、Cr−N薄膜における垂直配置で大きなゲージ率を示す性質は、本来Crが有している性質と考えられる。
【0060】
以上のように、Cr−N薄膜およびCr薄膜は、歪に対して歪ゲージを垂直に配置しても通常と同じ平行配置と同程度の大きなゲージ率を示すことが確認された。また、Cr−N薄膜においては、平行配置でこれまでに報告した結果と同様、抵抗温度係数の調整が可能であり、ゲージ率の直線性ならびにヒステリシスにも問題が無いことが確認された。これによって、Cr−N薄膜を用いた垂直配置の直線状歪ゲージの場合、約9という大きなゲージ率とほぼゼロ近傍の小さな抵抗温度係数を示す良好な特性のまま、その位置分解能をほぼその線幅程度まで小さくできることがわかった。本実験例では線幅よりも線間隔が広く、その値である5mmが分解能となるが、フォトリソグラフィーによりパターニングする場合、線幅および線間隔をリソグラフィーの限界近傍とすることが可能であることから、ミクロンオーダーの分解能も理論上可能であり、Cr−N薄膜歪ゲージを用いた各種力学量センサにおける高分解能化も実現可能と考えられる。
【0061】
<実験例3>
ここでは、
図4に示すI字型試料を用いて、力センサとしての評価を行った。I字型試料としてはCr−N膜の平行配置試料および垂直配置試料、ならびに市販歪ゲージの平行配置試料を用いた。力センサとしての測定は、
図8に示す万能試験機を用いた。なお、
図8において、符号1は基板上にI字型試料を形成したサンプル、2は支点保持治具(アルミ板)、3は押さえ板、4はXYステージ、5は引張試験機、6はロードセル、7は圧縮用プローブである。
【0062】
力センサの測定に際しては、サンプル1の一端を、支点保持治具2を介して固定し、他端を圧縮用プローブ7の先端で押し込むことにより力を印加した。
【0063】
図9、
図10、
図11は、それぞれCr−N薄膜の平行配置試料、Cr−N薄膜の垂直配置試料、市販歪ゲージの平行配置試料における、力を印加した際の各位置に置かれたゲージ素子の抵抗変化率(出力)を示すものである。なお、
図9、11の平行配置試料では、
図4(a)に示す3つの素子を、最も支点側から力印加点側に向かってA、B、Cとし、
図10の垂直試料では、
図4(b)に示す8つの素子を、最も支点側から力印加点側に向かって1〜8としている。ただし、
図10では2、4、5、7の結果のみを記載している。
【0064】
これらの図に示すように、いずれの試料の素子においても抵抗変化率は力に対し直線的に変化していることがわかる。また力印加点から遠いゲージ素子ほど大きな抵抗変化を生じており、支点側ほど歪が大きいことがわかる。
【0065】
次に、
図9〜11において0.15Nの力に対する各試料各素子の出力を支点からの距離に対してプロットした図を
図12に示す。この図に示すように、各試料とも力印加点から離れるにつれてほぼ直線的に出力が増大した。
【0066】
一般に、片持ち梁における歪εは以下の(4)式で表される。
ε=6・W・L/(E・b・h
2) (4)
ここで、Wは荷重(力)、Lは荷重印加点から歪ゲージ中心までの距離、Eはヤング率、bは梁の幅、hは梁の厚みを示す。
このように、εはLと比例関係にあることから
図12に示すように出力が直性的に変化することが理解される。
【0067】
また、Cr−N薄膜素子の平行配置試料の出力は、平行配置である市販歪ゲージの出力の約6倍と大きく、垂直配置の場合も市販歪ゲージの出力の約5倍と大きな値を示した。この結果は上記ゲージ率の違いをよく反映しており、このゲージ素子単体での片持ち梁による力計測においても垂直配置で十分大きな感度を示すことがわかった。
【0068】
また、この実験の場合、同形状の歪ゲージ素子(歪センサ)が平行配置では3個しか並ばないが、垂直配置とすることで実際に8個並べることができており、間隔を狭めればさらに多くの素子を並べることも可能である。このことから、歪ゲージ素子(歪センサ)を従来とは異なる垂直配置とすることで高い位置分解能での力計測が可能であることが確認された。
【0069】
この実験例では力センサの例を示したが、他の物理量を測定するセンサにおいても同様の高位置分解能化が期待できると考えられる。
【符号の説明】
【0070】
1;サンプル、2;支点保持治具、3;押さえ板、4;XYステージ、5;引張試験機、6;ロードセル、7;圧縮用プローブ