特許第6084394号(P6084394)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6084394-水素発生装置の反応セル構造 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6084394
(24)【登録日】2017年2月3日
(45)【発行日】2017年2月22日
(54)【発明の名称】水素発生装置の反応セル構造
(51)【国際特許分類】
   C01B 3/06 20060101AFI20170213BHJP
【FI】
   C01B3/06
【請求項の数】5
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-177595(P2012-177595)
(22)【出願日】2012年8月9日
(65)【公開番号】特開2014-34502(P2014-34502A)
(43)【公開日】2014年2月24日
【審査請求日】2015年8月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】512129217
【氏名又は名称】株式会社TI
(74)【代理人】
【識別番号】100120189
【弁理士】
【氏名又は名称】奥 和幸
(72)【発明者】
【氏名】石川 泰男
【審査官】 村岡 一磨
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/084790(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/011499(WO,A1)
【文献】 特表2003−519563(JP,A)
【文献】 特表2008−536996(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 3/00−3/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステンレス製の円筒形状を有する反応セル内にアルカリ水酸化物からなる反応剤を収納し、反応セルを反応剤の溶融点以上に加熱し、反応セル内に水を供給して水から水素を発生せしめる水素発生装置において、前記反応セルは大径の外側ケースと、この内側に配設された中径の内側ケースと、この内側ケース内に配設されたヒータパイプと、このヒータパイプ内に挿通される内側加熱装置としての電気式棒ヒータと、前記外側ケースの外周面を加熱する外側加熱装置と、前記外側ケースと内側ケース間に反応剤を保持する外側反応剤受けと、内側ケースとヒータパイプ間に反応剤を保持する内側反応剤受けとからなる水素発生装置の反応セル構造。
【請求項2】
前記外側ケース及び内側ケースは、前記外側反応剤受け及び内側反応剤受けの軸方向前後に所定長伸びて各端板で閉塞され、前記各反応剤受けに対応する部分のみが加熱されるようになっている請求項1記載の水素発生装置の反応セル構造。
【請求項3】
前記反応セルの片側端板には、水を反応セル内に送る水管が接続され、他側端板の上部には、水素を排出するための水素排出管が取り付けられ、前記他側端板の下部にはドレン管が設けられている請求項1又は2記載の水素発生装置の反応セル構造。
【請求項4】
前記外側反応剤受けが設置される第1空間と前記内側反応剤受けが設置される第2空間は、それぞれ独立空間であり、これら独立空間に対応して水管及び水素排出管が取付けられている請求項3記載の水素発生装置の反応セル構造。
【請求項5】
前記外側ケースの外側端板近傍には、水ジャケットが形成され、この水ジャケットは、反応剤の洗浄時に作動される請求項3記載の水素発生装置の反応セル構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ水酸化物を反応剤として水を分解する水素発生装置における反応剤を収納する反応セル構造に関する。
【背景技術】
【0002】
反応剤としてのアルカリ金属水酸化物(NaOH、KOH)をステンレス製の反応セル内に収納し、これを500℃以上に加熱してその溶融塩から微細粒子を発散させ、この微細粒子と水蒸気とをステンレス成分雰囲気内で反応せしめ、水を分解して水素を発生せしめる水素発生装置について、本件発明者は既に出願を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開WO2010/084790
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1における水素発生装置においては、反応セル内に収納される反応剤を如何に均一に加熱するかについて十分検討がなされていない。すなわち、種々の実験の結果、反応剤は均一に加熱し、十分に熱がその中に伝導させるかがその反応性に大きく影響があることが判明し、この知見に基づく改良が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで、本発明の水素発生装置は、ステンレス製の円筒形状を有する反応セル内に反応剤を収納し、反応セルを反応剤の溶融点以上に加熱し、反応セル内に水を供給して水から水素を発生せしめる水素発生装置において、前記反応セルは大径の外側ケースと、この内側に配設された中径の内側ケースと、この内側ケース内に配設されたヒータパイプと、このヒータパイプ内に挿通される内側加熱装置としての電気式棒ヒータと、前記外側ケースの外周面を加熱する外側加熱装置と、前記外側ケースと内側ケース間に反応剤を保持する外側反応剤受けと、内側ケースとヒータパイプ間に反応剤を保持する内側反応剤受けとからなる。
【0006】
また、前記外側ケース及び内側ケースは、前記外側反応剤受け及び内側反応剤受けの軸方向前後に所定長伸びて各端板で閉塞され、前記各反応剤受けに対応する部分のみが加熱されることが好ましい。
【0007】
更にまた、前記反応セルの片側端板には、水を反応セル内に送る水管が接続され、他側端板の上部には、水素を排出するための水素排出管が取り付けられ、前記他側端板の下部にはドレン管が設けられていることが好ましい。
【0008】
更にまた、前記外側反応剤受けが設置される第1空間と前記内側反応剤受けが設置される第2空間は、それぞれ独立空間であり、これら独立空間に対応して水管及び水素排出管が取付けられていることが好ましい。
【0009】
更にまた、前記外側ケースの外側端板近傍には、水ジャケットが形成され、この水ジャケットは、反応剤の洗浄時に作動されることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
反応セルの中心部には、電気式の棒ヒータが存在し、外側ケースは外側から外側加熱装置により加熱され、反応剤は、外側と内側から加熱され、しかも反応セルを円筒状に形成すれば、同一肉厚の反応剤を内側と外側から加熱するので、反応剤が均一に加熱され、反応が活発となる。しかも、棒ヒータは電流を流すと磁力線が生じ、この磁力線が反応空間に飛散している反応剤の微細粒子を引きつけ、ステンレス表面との反応を活発にする。
【0011】
更に、各ケースの反応剤受けに対応する部分のみ加熱すれば、溶接部分の多いケースの端板部分の温度を低下でき、装置の寿命を延ばすことができる。
【0012】
また、外側と内側の2つの反応空間をそれぞれ独立とすれは、一方の反応空間に漏れが生じても他方の空間には影響を与えず、しかも洗浄時に各反応空間にそれぞれ独立に加熱蒸気を送るようにすれば、加熱蒸気が送られる空間が区画され、その圧力の低下が少なくなり、洗浄効果が大きくなる。洗浄時に洗浄後の加熱水蒸気を水ジャケットで冷却すれば、水ドレンとして不純物を効率よくドレン管から外部に排出できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の水素発生装置に使用される反応セルの縦断面図である。
図2図1の反応セルの横断面図である。
図3図1、2に示す反応セルの破断斜視図である。
図4】反応時の酸化膜形成状態説明図である。
図5】洗浄時に使用する反応剤容器の状態図である。
図6】収納箱内における反応剤の収納状態説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
【0015】
図1、2、3において、本発明の水素発生装置Mに用いられるステンレス製の反応セル1は円筒形の大径の外側ケース2と、この中に収納される中径の内側ケース3と、この内外ケース2、3の中心に配設された小径のヒータパイプ4と、このヒータパイプ4内に挿通される内側加熱装置としての電気式棒ヒータ5と、前記外側ケース2に巻回される外側加熱としての例えば面状ヒータ6と、前記内側、外側ケース3、2間のリング状の第1空間Sの反応セル1の軸方向中央部分に位置する樋形の外側反応剤受け7と、前記内側ケース3とヒータパイプ4間のリング状の第2空間Sの反応セル1の軸方向中央部分に位置する樋形の内側反応剤受け8とを有している。
【0016】
前記外側反応剤受け7は、外側ケース2の内壁に接触し、前記内側反応剤受け8は内側ケース2の内壁に接触し、これら両反応剤受け7、8に対応したヒータパイプ4及び外側ケース2の部分のみが加熱されるようになっており、棒ヒータ5も反応剤受け8に対応する部分5aのみ発熱する構造となっている。
【0017】
なお、反応剤受け7、8の軸方向両端は、端板によって閉塞され(受け8の端板8aが図3に図示されている)、これら受け7、8内に反応剤としてのNaOH又はKOHが収納され、これら反応剤はその融点以上(300℃以上)に加熱されると溶融塩となり、その液面から微細粒子が各空間S、Sに飛散し、ここに水蒸気が供給されると、ステンレス雰囲気(SUS304の場合、Fe、Ni、Cr)内で反応した水を分解する。反応剤受け7、8に保持される反応剤R、Rは、図6に示すように半リング状になり、肉厚tが均一となるので、熱の伝導の偏りがなく、均一に加熱され、反応性のよい反応剤となる。
【0018】
前記反応セル1の両端は端板1a、1bによって閉塞され、前記第1空間S及び第2空間Sは互いに独立に区画され、反応は別個に行われ、一つの空間が漏れても他の空間には影響しないようになっている。
【0019】
前記反応剤受け7、8の軸方向、前方、後方には、非加熱部N、Nが形成され、この非加熱部N、Nにより端板1a、1b近傍の温度が加熱部分より低いので溶接部分が保護され反応セル1の寿命が延びる。
【0020】
前記前側の端板1aの第1空間Sに対応する位置には3つの水管9が設けられるとともに、第2空間Sに対応した位置には、更に3つの水管10が設けられ、このように、水管9、10をそれぞれ複数個設けたのは、これら水管9、10が洗浄時には、過熱水蒸気の噴射管に使用されるからである(後述)。
【0021】
前記水管9、10は水供給系wに連なり、この水供給系wは水タンク20内の水を前記第1、第2空間S、Sにバルブ21を介して供給する。一方、水管9、10は前記第1、第2空間S、Sの洗浄を行うための洗浄系wにも連なり、この洗浄計wは、ボイラ22からの飽和水蒸気を高周波誘導加熱装置23を介して前記両空間S、Sに送給するためのものであり、バルブ24をも備えている。
【0022】
前記反応セル1の後側の端板1bの上側には、発生した水素を排出するための水素排出管30、31が第1空間S及び第2空間Sに対応して設けられ、端板1bの下側には、洗浄時のドレンを排出するためのドレン管32、33が前記第1、第2空間S、Sに対応して設けられ、これらドレン管32,33には開閉弁34、35が設けられている。また、前記外側ケース2の非加熱部Nの突出端部には、水ジャケット40が設けられ、この水ジャケット40は、洗浄時に動作させて洗浄時に送られる過熱水蒸気を反応剤の位置する部分を洗浄した後に冷却してドレンとしてドレン管32、33からスムースに排出させるためのものである。
【0023】
前記水素排出管30、31には、バルブ41を介して真空ポンプ42が接続され、この真空ポンプ42によって、前記第1、第2空間S、Sを減圧して一気圧以下とし、減圧下で水蒸気と反応剤とを反応させるようにしている。
【0024】
次に洗浄について説明する。
【0025】
反応剤としてNaOHを使用した場合、先ず低次の酸化物(NaFeO)が
2Fe + 2NaOH + 2HO → 2NaFeO+ 3H
の反応により生じ、更に、このNaFeOが水と鉄に反応して、以下の反応式に従って
3NaFeO+ 2Fe + 3HO → NaFe+ 3H
高次の鉄酸化膜(NaFe)が生じる。この高次鉄酸化膜は触媒的作用を果たし、水を分解する。この過程において水素が発生するが、ステンレス中の鉄(Fe)成分がFeO、Fe、Fe等の酸化物を同時に生成するので、これらの不純物としての酸化物を洗浄する必要があり、例えば、一日の運転が終了したときに、洗浄作業が行われる。なお、高次の特殊機能酸化膜(NaFe)lは、図4に示す如くステンレスの外側ケース2の内壁、内側ケース3の内外壁、更には、各反応剤受け(ステンレス製)7、8の内壁に付着するが、反応に寄与しない不純酸化物O、O…Oが各酸化膜l上に付着する。この不純酸化物を水供給を停止して(バルブ21閉)、バルブ24を開き、過熱水蒸気(200℃以上)を高圧で第1、第2空間S、Sに送って、不純酸化物Oを洗い流し、この汚れた過熱水蒸気を水ジャケット40の位置で液体とし、ドレン管32、33を経て外部に排出する。このようにして一定時間、反応させた後に、高次の特殊機能酸化物表面を洗浄すれば、その劣化を有効に防止することができる。
【0026】
なお、洗浄時に、図5に示すように、反応剤Rを収納した収納箱50内に過熱水蒸気を通した後に、第1、第2空間S、S内に送れば、反応剤の微粒子を過熱水蒸気とともに前記空間内に送って洗浄と同時に反応剤の補給をすることができ反応剤の効果を長く維持することができる。
【符号の説明】
【0027】
1…反応セル
2…外側ケース
3…内側ケース
4…ヒータパイプ
5…電気式棒ヒータ
7…外側反応剤受け
8…内側反応剤受け
9…水管
10…水管
20…水タンク
23…高周波誘導加熱装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6