(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6084455
(24)【登録日】2017年2月3日
(45)【発行日】2017年2月22日
(54)【発明の名称】回転切削工具
(51)【国際特許分類】
B23C 5/28 20060101AFI20170213BHJP
B23Q 11/10 20060101ALI20170213BHJP
B24D 7/10 20060101ALI20170213BHJP
【FI】
B23C5/28
B23Q11/10 D
B24D7/10
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-273201(P2012-273201)
(22)【出願日】2012年12月14日
(65)【公開番号】特開2014-117762(P2014-117762A)
(43)【公開日】2014年6月30日
【審査請求日】2015年8月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000165398
【氏名又は名称】兼房株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081776
【弁理士】
【氏名又は名称】大川 宏
(72)【発明者】
【氏名】本田 直也
【審査官】
永石 哲也
(56)【参考文献】
【文献】
特表2003−522038(JP,A)
【文献】
特開2004−167617(JP,A)
【文献】
米国特許第04322189(US,A)
【文献】
特開2006−218549(JP,A)
【文献】
実開平01−079508(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23C 5/28
B23Q 11/10
B24D 7/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状の工具本体の外周における少なくとも端面側にて周方向に沿った複数箇所に切削チップが固定されており、前記工具本体にその軸方向に延びた流体流通用の供給孔を設けた回転切削工具であって、前記工具本体の端面にて同軸状に凹んで前記供給孔に連通する流通凹部と、該流通凹部に重ね合わせて固定される円形の厚板である蓋部材とを設け、前記流通凹部は、端面側の円筒形の外孔部と、該外孔部の内側で軸心に向けて傾斜した環状の傾斜孔部と、該傾斜孔部の内周縁にて軸方向内側にわずかに凹んだ円形の底孔部を有しており、前記傾斜孔部が周方向に離間した複数箇所にて前記切削チップ近傍に繋がる傾斜溝部になっており、前記蓋部材は、前記傾斜凹部との対向面側の外周縁側が周方向全周に沿って傾斜部になっており、前記流通凹部の前記傾斜溝部と前記蓋部材の前記傾斜部との間に前記供給孔と前記工具本体外周の前記切削チップ近傍を連通させる複数の流通孔を設けたことを特徴とする回転切削工具。
【請求項2】
前記工具本体の前記切削チップ近傍位置に、前記流通孔に連通する切欠き部を設けたことを特徴とする請求項1に記載の回転切削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木材、木質ボード、樹脂、窯業系材料、金属、これらの複合材等の被加工材の切削加工や研削加工を行うフライス、エンドミル等の回転切削工具に係り、特に工具本体に取り付けられた切削チップや砥石の近傍に、工具本体内を通して切削チップ等の冷却や切削によって生じる切屑等の排出等のための気体、液体、粉体あるいはこれらの混合物である流体物を供給する通路を設けた回転切削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
フライス等の回転切削工具は、工具本体の外周に超硬合金、多結晶ダイヤモンド、CBN、セラミックス等で成形された切削チップが取り付けられ、被加工物の加工内容に応じて切削チップのリード角やすくい角を適正に設定して使用されている。特に、回転切削工具が高速加工に対応できるようにするために、冷却や切屑除去のための液体や気体等の流体物を供給するための通路が工具本体に埋設されており、さらにこれに加えて工具本体に多数の切削チップを配設した多刃仕様が採用されている。
【0003】
従来、この種の回転切削工具としては、例えば特許文献1に示すように、エンドミル本体の軸心部に圧力流体用の通路孔を頭部付近まで穿設し、一方エンドミル本体の頭部に設けたチップポケットの壁面から圧力流体用の通路孔へ向けて斜め方向に小径孔を穿設して連通させてなるエンドミルが開示されている。このエンドミルは、小径孔より先端切刃コーナー近傍に向けて圧力流体を噴射させて切削加工時のエンドミル本体の頭部及び切刃の冷却を行うとともにチップポケット内に充満する切屑を後方に排出するように形成されている。また、特許文献2に示すように、回転砥石の内周面に沿って設けられた複数個の供給孔から研削液が供給される平面研削盤が開示されている。この平面研削盤では、研削液は、モータを含むスピンドルハウジングに配設されたスピンドル軸の内部通路を通ってマウンターの分岐路内に入り、この分岐路から供給孔を経て被研削物に供給される。
【0004】
しかし、上記エンドミルの場合、チップポケットの壁面から圧力流体用の通路孔へ向けて斜め方向に小径孔を穿設して連通させる必要があるため、穿設が複雑に三次元加工となり加工コストが高価になるため、エンドミルの価格が高価になるという問題がある。上記エンドミルにおいて、高速加工に対応するために周方向に多数の切刃を配設した多刃仕様とした場合、孔加工がさらに複雑になると共に、加工時間も長くなるため、工具価格がさらに高価になる。これに関しては、上記平面研削盤用回転砥石においても同様である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−239420
【0006】
【特許文献2】特開平7−223152
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題を解決しようとするもので、工具本体内に軸方向に設けた供給孔から端面側の切削チップや回転砥石の近傍に切削チップ等の冷却や切屑排出等のための気体、液体、粉体あるいはこれらの混合物である流体物を噴射させるための流通孔を簡易にかつ安価に形成することが可能な回転切削工具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために本発明の構成上の特徴は、筒状の工具本体の外周における少なくとも端面側にて周方向に沿った複数箇所に切削チップが固定されており、工具本体にその軸方向に延びた流体流通用の供給孔を設けた回転切削工具であって、工具本体の端面にて同軸状に凹んで供給孔に連通する流通凹部と、流通凹部に重ね合わせて固定される
円形の厚板である蓋部材とを設け、流通凹部は、端面側の円筒形の外孔部と、外孔部の内側で軸心に向けて傾斜した環状の傾斜孔部と、傾斜孔部の内周縁にて軸方向内側にわずかに凹んだ円形の底孔部を有しており、傾斜孔部は周方向に離間した複数箇所にて切削チップ近傍に繋がる傾斜溝部になっており、
蓋部材は、傾斜凹部との対向面側の外周縁側が周方向全周に沿って傾斜部になっており、流通凹部の傾斜溝部と蓋部材
の傾斜部との間に供給孔と工具本体外周の切削チップ近傍を連通させる複数の流通孔を設けたことにある。
【0009】
上記のように構成した発明においては、回転切削工具を回転駆動させることにより、工具本体に固定された切削チップの端部の切刃や外周側に設けた外周刃により被削材の平面切削、溝加工等の切削加工が行われる。加工の際に、加工機械の動力回転軸側から供給される気体等の流体物が、工具本体の供給孔を通して流通凹部と蓋部材との間に設けた流通孔から工具本体外周側の複数の切削チップ近傍に噴射される。これにより、被削物の切削の際に生じる切削チップ周囲の加熱状態を冷却することができ、また被削物から生じる切屑をスムーズに排出することができ、回転切削工具の良好な動作が確保される。
【0010】
本発明においては、流体物の通過する流通孔を、流通凹部の傾斜孔部に設けた傾斜溝部によって流通凹部と蓋部材の間に容易に形成することができ、従来のように工具本体に直接貫通した小径の供給孔を軸に対して傾斜して形成する難解な加工を行う必要がない。その結果、本発明によれば、流通孔形成の手間や加工時間が削減されるため、回転切削工具のコストが低減する。また、特に、高速回転のために工具本体に多数の切削チップを配設した多刃仕様の回転切削工具については、流通孔形成の手間や加工時間が一層削減されるため、回転切削工具のコストがさらに低減する。
【0011】
また、本発明においては、流通孔が流通凹部側に設けられており、流通孔を流通凹部側の加工と同時に設けることができるため、加工が非常に容易になり、流通孔加工のコストの大幅な低減が可能になる。
【0012】
また、本発明において、工具本体の切削チップ近傍位置に
、流通孔に連通する切欠き部を設けることが好ましい。これにより、回転切削工具による被削材の加工時に、流通孔を通して噴出した流体物が、切欠き部によって切削チップ近傍に安定して供給される。また、切欠き部によって、切削チップ側面の刃付け作業が簡易になるため、回転切削工具のコストがさらに低減する。
【発明の効果】
【0013】
本発明においては、流体物が通過する流通孔を、工具本体に形成された流通凹部側の簡易な加工により流通凹部と蓋部材の間に形成すればよく、従来のように軸に対して傾斜して形成する難解な加工を行う必要がないため、流通孔形成の手間が削減され、回転切削工具のコストが低減する。また、特に、高速回転のために工具本体に多数の切削チップを配設した多刃仕様の回転切削工具においては、流通孔形成の手間や加工時間が一層削減されるため、回転切削工具のコストがさらに低減する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施例1に係るシャンクタイプフライスを示す正面図である。
【
図3】
図1のIII−III線方向の断面図である。
【
図4】同フライスで蓋部材を取り外した状態を示す正面図である。
【
図5】蓋部材を示す平面図、正面図及び底面図である。
【
図6】参考例1に係るフライスを示す正面図である。
【
図7】
図6のVII−VII線方向の断面図である。
【
図8】同フライスで蓋部材を取り外した状態を示す正面図である。
【
図9】蓋部材を示す平面図、正面図及び底面図である。
【
図10】参考例2に係る回転研削工具を示す正面図である。
【
図13】同回転研削工具で蓋部材を取り外した状態を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。
図1、
図2及び
図3は、実施例1に係る回転切削工具の一例である金属加工等に用いられる多刃仕様のシャンクタイプフライス(以下、フライスと記す。)について、正面図、側面図及びIII−III線方向断面図により示したものであり、
図4は蓋部材を取り外した状態を正面図により示したものである。
【0016】
フライス10は、長尺の丸棒状の鉄製部材であり、大径の工具本体11と、工具本体11の軸方向一端に同軸状に接続された工具本体11より小径のシャンク12とを一体で設けており、工具本体11の先端面側(軸方向他端側)に設けた流通凹部19に蓋部材31が嵌め合わされて固定されている。フライス10は、シャンク12によってフライス盤等の加工機械の動力回転軸Sに取り付けられるようになっている。工具本体11とシャンク12は、軸心位置にて貫通した圧縮空気(流体物)を流通させるための貫通孔である供給孔13を設けている。工具本体11は、軸方向中間を境として端面側の切削部15と、シャンク12側の切削部15よりわずかに小径でシャンク12より大径の中央部16とに分けられて、両者の境界が段差部17になっている。
【0017】
切削部15は、
図3及び
図4に示すように、軸方向他端側の先端面に軸心を中心に内側に凹んだ円形の流通凹部19を設けている。流通凹部19は、端面側の円筒形の外孔部21と、その内側で軸心に向けて略20°程度に傾斜した環状の傾斜孔部22と、傾斜孔部22の内周縁にて軸方向内側にわずかに凹んだ円形の底孔部23を有しており、底孔部23内の外周縁側には周方向の4箇所に等間隔に軸方向に延びたねじ孔である固定孔24を設けている。傾斜孔部22は、周方向に等間隔に離間した16箇所にて後述する切削部15外周側の切欠き部29と径方向に繋がる部分がわずかに軸方向に凹んだ傾斜溝部25になっている。
【0018】
切削部15端部においては、外周縁と外孔部21との間は軸方向内側に略10°程度傾斜した傾斜面18となっている。切削部15は、
図1〜
図3に示すように、外周面の周方向に等間隔に離間した16箇所に軸方向に対して回転後方側に向けて略5°程度傾斜した所定幅の真直ぐな溝部26が両端間に延びて形成されており、溝部26の間が相対的に径方向に突出した真直ぐな凸状部27になっており、溝部26と凸状部27の幅はほぼ同一になっている。
【0019】
凸状部27の先端側(軸方向他端側)は、後述する切削チップ38が取り付けられる取付座28になっており、取付座28の周方向両側が切欠かれて溝部26と連通する切欠き部29となっている。切欠き部29は、径方向内側の傾斜溝部25に面一で連通している。取付座28の回転前方側には、多結晶ダイヤモンド等からなる切削チップ38がロー付により固定されている。なお、切削チップ38については、固定タイプではなく替刃タイプのものでもよい。
【0020】
切削部15の流通凹部19には、蓋部材31が取り付けられている。蓋部材31は、
図5に示すように、径が上記外孔部21の外径と同一の表裏両面32,33が平坦な円形の厚板であり、裏面33の外周縁側が周方向全周に沿って略20°の傾斜角度で斜めに切り欠かれて円錐環状の傾斜部34となっている。傾斜部34の傾斜角度は、上記流通凹部19の傾斜孔部22の傾斜角度に合わされている。裏面33外周縁側の周方向に等間隔な4箇所には、取付孔35が板面を貫通して設けられている。蓋部材31の厚さは、上記流通凹部19の外孔部21とほぼ同等の厚さとなっている。
【0021】
蓋部材31は、切削部15の流通凹部19に裏面33側から嵌め合わされ、取付孔35を切削部15に設けた固定孔24位置に合わせて傾斜部34を傾斜孔部22に重ね合わせることにより装着され、取付孔35からビス36を挿入して固定孔24に螺着させることにより切削部15に取り付けられる。このような蓋部材31の取り付けにより、蓋部材31の傾斜部34が流通凹部19の傾斜孔部22に密着し、裏面33と底板部23との間が大きな隙間となっており、また表面32が切削部15の傾斜面18内周縁から大きく凹んだ状態になっている。また、流通凹部19の傾斜溝部25によって、蓋部材31の傾斜部34との間にわずかな隙間である流通孔25aが形成される。供給孔13から供給される圧縮空気が、この流通孔25aを通して流通凹部19と取付座28間を円滑に通過できるようになっている。
【0022】
以上のような構成の実施例1においては、フライス10を回転駆動させることにより、工具本体11の取付座28に固定された切削チップ38の端部の側面刃や外周側に設けた外周刃により被削材の正面フライス加工、溝加工等が行われる。加工の際に、加工機械の動力回転軸Sから供給される冷却用の気体等の圧縮空気が、供給孔13を通して蓋部材31の傾斜部34と傾斜溝部25との間に形成された流通孔25aから切欠き部29を介して複数の切削チップ38の近傍に噴射される。これにより、被削物の切削の際に生じる切削チップ38及び切削部15の加熱状態を冷却することができ、また被削物から生じる切屑を円滑に排出することができ、その結果、フライス10の良好な動作が確保される。
【0023】
実施例1においては、圧縮空気の通過する多数の流通孔25aを、工具本体11に流通凹部19を形成すると同時に、傾斜溝部25に容易に形成することができ、従来のように工具本体に直接貫通した多数の小径の供給孔を軸に対して傾斜して形成する難解な加工を行う必要がない。その結果、実施例1によれば、流通孔25a形成の手間が削減され、フライス10の製造コストが低減する。特に、高速加工のため多数の切削チップ38を配設した多刃仕様のフライス10については、流通孔25a形成の手間や加工時間が一層削減されるため、フライス10のコストがさらに低減する。また、実施例1においては、切削部15の取付座28間に切欠き部29を設けたことにより、フライス10による被削材の加工時に、流通孔25aを通して噴出した圧縮空気が、切欠き部29によって切削チップ38近傍に安定して供給されると共に、切削加工によって生じた切屑の排出が円滑に行われる。さらに、実施例1においては、切欠き部29を設けたことにより、切削チップ38側面の刃付け作業が簡易になるため、フライス10のコストがさらに低減する。
【0024】
つぎに、参考例1について
図6〜
図9に基づいて説明する。
参考例1に係るフライス40は、上記実施例1のフライス10のように圧縮空気が通過する流通孔を工具本体11側に設けたものではなく、蓋部材51側に設けたものである。フライス40は、実施例1のフライス10と同様の工具本体41とシャンク12とを一体で設けており、工具本体41の流通凹部43に蓋部材51が嵌め合わされて固定されている。工具本体41は、上記工具本体11と略同一構造であり、共通部分については以下工具本体11と同一符号を付す。工具本体41は、端面側の切削部42と、中央部16とを設け、両者の境界が段差部17になっている。
【0025】
切削部42は、軸方向他端側の先端面に軸心を中心に内側に曲面状に凹んだ流通凹部43を設けている。流通凹部43は外孔部21と、傾斜孔部44と、底孔部23とを設け、底孔部23の外周側には周方向の4箇所に等間隔に固定孔24を設けている。傾斜孔部44は、実施例1の傾斜孔部22のように周方向の16箇所に傾斜溝部25を設けていなく、連続した円錐環状となっている。切削部42は、実施例1の切削部15のように切欠き部を設けていない。切削部42において、溝部26、凸状部27、取付座28等の他の構成については、実施例1の切削部15と同様であり、説明を省略する。
【0026】
切削部42の流通凹部43に嵌め合わされる蓋部材51は、
図9に示すように、上記蓋部材31とほぼ同様の外形となっているが、各面の形状が異なっている。蓋部材51は、径が上記外孔部21の外径と同一の表裏両面52,53が平坦な円形の厚板であり、裏面53の外周縁側が周方向全周に沿って略20°の傾斜角度で斜めに切り欠かれて円錐環状の傾斜部54となっている。裏面53外周縁側には、取付孔55が周方向に等間隔な4箇所に板面を貫通して設けられている。傾斜部54の周方向の等間隔な16箇所には、取付孔55よりわずかに中心側位置から外周縁まで径方向に延びた所定幅の流通溝部56が設けられている。流通溝部56は、内外端において表裏両面52,53側をわずかに切欠いた状態となっている。
【0027】
蓋部材51は、切削部42の流通凹部43に裏面53側から嵌め合わされ、取付孔55を固定孔24位置に合わせて傾斜部54を傾斜孔部44に重ね合わせて装着され、取付孔55からビス36を挿入して固定孔24に螺着させることにより切削部15に取り付けられる。このような蓋部材51の取り付けにより、蓋部材51の傾斜部54が流通凹部43の傾斜孔部44に密着し、裏面53と底孔部23との間が大きな隙間となっており、また表面52が切削部42の傾斜面18内周縁とほぼ一致している。蓋部材51の流通溝部56によって、流通凹部43の傾斜孔部44との間にわずかな隙間である流通孔57が形成される。供給孔13から供給される圧縮空気が、この流通孔57を通して流通凹部43と取付座28間を円滑に通過できるようになっている。
【0028】
上記構成の参考例1においても、フライス40による被削物の切削や研削の際に生じる切削チップ38及び切削部42の加熱状態を冷却することができ、また被削物から生じる切屑を吹き飛ばすことができ、フライス40の良好な切削動作が確保される。そして、参考例1においては、流通孔57を形成するための流通溝部56を蓋部材51のみに設けることができるため、プレス加工等により蓋部材51と一体で流通溝部56を形成できるので加工の手間がさらに減少し、流通孔57加工のコストの大幅な低減が可能になる。
【0029】
なお、上記実施例1、参考例1のフライスは、切削チップが切削部の外周側端面にのみ設けられた端面加工用となっているが、切削チップを切削部の外周面にも設けた構造のものであってもよい。また、上記実施例1、参考例1においては、流通孔の形成のための加工を、切削部15と蓋部材51のみに行っているが、これに限らず両方に形成することも可能である。
【0030】
つぎに、参考例2について
図10〜
図13に基づいて説明する。
参考例2は、回転研削工具60に関するものである。回転研削工具60は、参考例1のフライス40と同様の外形の工具本体61とシャンク62とを一体で設けており、工具本体61とシャンク62の軸心を貫通する供給孔63を設けており、工具本体61の流通凹部71に上記参考例1と同様の蓋部材51が取り付けられている。工具本体61は、軸方向中間を境として端面側の研削部65と、シャンク62側の研削部65よりわずかに小径でシャンク62より大径の中央部66とに分けられて、両者の境界が段差部67になっている。研削部65は、軸方向他端側の先端面外周縁に円環状に切欠かれた取付座68を設けており、取付座68には後述する円環状の研削砥石78が嵌め合わされ接着剤等により固定される。
【0031】
研削部65は、取付座68のわずか内側に軸心を中心に内側に曲面状に凹んだ流通凹部71を設けている。流通凹部71は外孔部72と、円錐状に凹んだ傾斜孔部73と、底孔部74とを設け、底孔部74内の外周側には周方向の4箇所に等間隔にねじ孔である固定孔75を設けている。研削部65の流通凹部71に嵌め合わされる蓋部材51は、参考例1に示したものと同一であるため、説明を省く。研削砥石78は、円環状で内径が取付座68の内径と同一で、外径が研削部65の外径よりわずかに大きく、厚さも取付座68の深さよりわずかに大きくなっており、取付座68に固定されることにより、研削部65の外周面及び先端面から突出して配設されている。
【0032】
蓋部材51は、研削部65の流通凹部71に裏面53側から嵌め合わせ、取付孔55を固定孔75位置に合わせて傾斜部54を傾斜孔部73に重ね合わせて装着され、ビス36によって研削部65に固定される。蓋部材51の取り付けにより、蓋部材51の傾斜部54が流通凹部71の傾斜孔部73に密着し、裏面53と底孔部74との間が大きな隙間となっており、また表面52が傾斜面18内周縁とほぼ一致している。蓋部材51の流通溝56によって、流通凹部71の傾斜孔部73との間にわずかな隙間である流通孔76が形成され、流通孔76が研削部65の研削砥石78の先端内周側に連通する。これにより、供給孔63から研削砥石78の内周近傍への圧縮空気の噴射が円滑に行われるようになる。
【0033】
上記構成の参考例2においても、回転研削工具60による被削物の研削の際に生じる研削砥石78及び研削部65の加熱状態を冷却することができ、また被削物から生じる研削スラッジを吹き飛ばすことができ、回転研削工具60の良好な動作が保持される。そして、参考例2においても、流通孔76を形成するための流通溝部56を蓋部材51のみに設けることができるため、プレス加工等により蓋部材と一体で流通孔を形成できるので加工の手間がさらに減少するため、流通孔加工のコストの大幅な低減が可能になる。なお、参考例2においても、流通孔については、実施例1と同様、研削部側にのみ設けることも可能であり、また研削部と蓋部材の両方に設けることもできる。
【0034】
上記実施例1、参考例1、2に示すフライス、回転研削工具は、シャンクタイプであるが、シャンクを有しなく工具本体を直接回転軸に固定するタイプであってもよい。回転切削工具の場合、蓋部材を着脱可能にすることによって再研磨が容易にされるが、参考例2のような回転研削工具の場合、再生はドレッシングされるため蓋部材をロー付等で固着してもよい。また、工具本体とシャンクに設けた供給孔については、軸心位置に限らず、また1本に限らず複数本でもよい。その他、上記実施例1に示した回転切削工具については一例であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更して実施することが可能である。
【符号の説明】
【0035】
10,40…フライス、11,41…工具本体、13…供給孔、15,42…切削部、19,43…流通凹部、21…外孔部、22,44…傾斜孔部、23…底孔部、25…傾斜溝部、25a,57…流通孔、29…切欠き部、31,51…蓋部材、34,54…傾斜部、35,55…取付孔、38…切削チップ、56…流通溝部、60…回転研削工具、61…工具本体、63…供給孔、65…研削部、71…流通凹部、72…外孔部、73…傾斜孔部、74…底孔部、76…流通孔、78…研削砥石。