【実施例】
【0015】
図1は、本発明の一実施例であるシート材の糸目打ち装置10の概略的な構成を示す。裁断機1は、裁断テーブル2および裁断ヘッド3を備える。裁断ヘッド3は、紙面に垂直な方向に架設されるYビーム4に沿って紙面の奥行方向となるY方向に移動可能である。Yビーム4は、紙面の手前側と奥側との両側方で、図示を省略している走行機構で支持され、紙面の左右方向となるX方向に走行して移動可能である。裁断ヘッド3には、裁断刃5および生地押え6が備えられる。布帛、皮革、紙などのシート材7は、裁断テーブル2上で、下方から吸引して保持される。シート材7の上方の表面には非通気性の合成樹脂フィルムによる密閉シート8が被せられる。裁断工程では、密閉シート8上から生地押え6で押えるシート材7に、裁断刃5を上方から突刺す状態で、裁断が行われる。裁断テーブル2の表面2aは、裁断刃5が侵入しても切断されにくいように、合成樹脂性の剛毛ブロック2bを並べて、剛毛ブロック2bの先端の剛毛で形成される。剛毛ブロック2bを並べた裁断テーブル2は、コンベアベルトとして、搬送機能も有する。
【0016】
裁断工程の後工程で、目印用となる糸9は、糸供給機構11から供給される。糸供給機構11では、糸パッケージ11aをセットして、糸ガイド11bを通して糸9を供給することができる。裁断ヘッド3には、保持機構12と、糸貫通針13と、切断機構14とを収容するハウジング15が付加されている。裁断テーブル2の下方などには、裁断ヘッド3や裁断テーブル2の制御を行う制御手段17が設けられる。保持機構12は、糸供給機構11から糸貫通針13の基端側に供給され、糸貫通針13の先端部13aから繰出される糸9を保持可能である。糸貫通針13は、中空であり、先端部13aをシート材7の上方から突刺せば、少なくとも先端部13aをシート材7に貫通させることができ、さらに先端部13aを上方に引抜けば糸9がシート材7に貫通する状態で残すことができる。シート材7に糸9を貫通させる目打ち位置7aは、予めデータで設定され、データに従って裁断ヘッド3が移動する。このような移動手段として機能する裁断ヘッド3は、糸供給機構11と、保持機構12と、糸貫通針13と、切断機構14、制御手段17とともに、シート材の糸目打ち装置10を構成する。
【0017】
シート材の糸目打ち装置10は、シート材7に対し、少なくとも目打ち位置7aでは貫通し、目打ち位置7aを含む複数の位置7a,7b,7cに連続して糸9aが残るように動作する。制御手段17による制御で、裁断ヘッド3の移動を伴って糸貫通針13がシート材7を突刺して引抜く刺し引きの動作を複数回繰返してから、ハウジング15内の切断機構12で糸9を切断する。切断後のシート材7側の糸9aは、ハウジング15内から抜けて、シート材7の表面に、後工程での目印用として残る。
【0018】
シート材7の表面に残る糸9aは、目打ち位置7aでシート材7を貫通していても、他の位置7b,7cにも渡っているので、シート材7を下方から吸引して保持している間でも、下方に抜けないようにすることができる。また、搬出側のテーブル2d上などでの移動時に、シート材7の底面側に出ている糸9aが擦れて引張られても、シート材7の表面側で複数の位置7a,7b,7cで連続して残る部分が抵抗して、糸9aの全体がシート材7の表面側から裏面側に抜けないようにすることができる。
【0019】
さらに、後工程で、目打ち位置7aの他の位置7b,7cで連続する糸9aを引抜けば、目打ち位置7aから糸9aが長く延びる状態にするすることができる。たとえば、シート材7aを積層していて、目印用の糸9aを一枚ずつのシート材7に切り分けるために必要な十分な長さで、糸9aを残すことができる。
【0020】
図2は、糸目打ち装置10で糸貫通針13をシート材7の目打ち位置7aに突刺して、糸9を貫通させる動作を示す。
図2(a)は、裁断ヘッド3が裁断テーブル2に沿って移動する際に、糸貫通針13の先端部13aを収容するハウジング15の底面15aをシート材7の表面から浮かせている状態を示す。底面15aには、下方に挿通する下方孔15bが設けられる。ハウジング15の上部には、上方に挿通する上方孔15cも設けられ、糸貫通針13を上部孔15cの上方から下方孔15bの下方まで挿通させることができる。糸貫通針13の先端部13aから引出される糸9の先端は、保持機構12で保持されている。
【0021】
図2(b)は、糸貫通針13が糸9をシート材7に貫通させる目打ち位置7aまで、裁断ヘッド3が移動し、ハウジング15および糸貫通針13が両方とも下降した状態を示す。ハウジング15の底面15aは、シート材7の表面を押える。糸貫通針13は、さらに下降を続けて、シート材7に突刺される。保持機構12は、保持していた糸9を、糸貫通針13の下降開始前、下降中、または下降後のタイミングで、放すように保持を解除する。糸貫通針13の下降中で、糸9が引張られる状態であれば、保持を解除しないで保持力を弱めるだけでも、糸9を放すことができる。糸9が放されるタイミングが早ければ、
図2(b)に示すように、糸貫通針13の先端部13aとともに、糸9の端部がシート材7の下方に出る。
【0022】
図3は、シート材の糸目打ち装置10で、シート材7の複数の位置7a,7b,7cに糸9aを連続して残す動作を示す。
図3(a)は、
図2(b)に示す目打ち位置7aでの動作に続いて、複数の位置7b,7cで糸9aを連続させている状態を示す。目打ち位置7aで糸貫通針13をシート材7から引抜いて上昇させ、ハウジング15も上昇させた後、裁断ヘッド3の目打ち位置7aとは異なる位置7b,7cへの移動と、移動した位置7v,7cに糸貫通針13を突刺して引抜くこととが繰返されている。なお、ハウジング15は下降させた状態のままで移動させてもよい。また、移動時毎にハウジング15を昇降させてもよい。
【0023】
図3(b)は、
図3(a)でハウジング15内に引上げた糸貫通針13の先端部13aにシート材7aの表面から延びる糸9を、切断機構14で切断し、先端部13a側を保持機構12で保持している状態を示す。切断されたシート材7側の糸9aは、ハウジング15の下孔15bを抜けて、シート材7の表面に落下して残る。
【0024】
図4は、糸貫通針13の先端部13aの形状の一例を示す。
図3(a)は部分的に正面視した形状を示し、
図3(b)は
図3(a)を右側面視した形状を示す。
図3(c)および
図3(d)は
図3(a)を、斜め上方および斜め下方の前方側から斜視した形状をそれぞれ示す。糸貫通針13は、先端部13aを軸部13bの先端に有する。軸部13bは、軸線13c方向に延びる管状で、中空部分に糸供給機構11から供給される糸9を挿通させることができる。先端部13aは、軸線13cに対して鋭角に切開した形状の正傾斜面13dと、正傾斜面13dの背面側を両側方から軸線13cに対して鋭角に切削した形状の背傾斜面13e,13fとを有する。
【0025】
背傾斜面13e,13fを設けることによって、最尖端13gを軸部13bの外周ラインよりも径方向の内側に入れることができる。最尖端13gが内側に入ることによって、糸貫通針13をシート材7に突刺すことが容易となり、突刺性能が向上する。また突刺してからシート材7に貫入する際に直進しやすくなり、直進性も向上する。さらに、突刺してもシート材7を損傷しにくくなり、損傷防止も図ることができる。
【0026】
糸9は、正傾斜面13dの内側の開口部13hから繰出され
る。糸貫通針13の先端部13aがシート材7に突刺される際に、開口部13hから露出している糸9の先端部分が上方に折返されて、開口部13hの基端側部分13iを通りやすい。したがって、糸貫通針13の刃先となる正傾斜面13dの基端側部分13iのエッジには丸みを持たせることが好ましい。丸みを持たせておけば、糸9が基端側部分13iで折り返されるようになっても、糸切れしないようにすることができる。
【0027】
図5は、一つのパーツ20内の複数の目打ち位置7a,7d,7eに連続して糸9aを残す動作を示す。
図5(a)に示すように、パーツ20内では、まず目打ち位置7aに糸貫通針13を移動させ、糸9をシート材7に貫通させる。次に
図5(b)に示すように、他の目打ち位置7dに糸貫通針13を移動させる。目打ち位置7aとの間に、糸9aが残る。次に
図5(c)に示すように、さらに他の目打ち位置7eに糸貫通針13を移動させ、目打ち位置7d,7e間にも糸9aを残す。パーツ20の内部で複数の目打ち位置7a,7d,7eに連続する糸9aを残すので、裁断工程でパーツ20の外形を裁断する際の吸引保持で抜けにくくなり、残す糸9aが切断されにくくなる。
【0028】
本実施例では、裁断機1の裁断テーブル2上に積層状態のシート材7を載置し、裁断テーブル2の表面に沿って移動するシート材の糸目打ち装置10でシート材7に糸9aを貫通させて残すようにしている。シート材の糸目打ち装置10は、裁断機1の裁断ヘッド3とともに、X−Yの二次元方向に移動するようにしているけれども、裁断ヘッド3と独立に移動するようにしてもよい。裁断ヘッド3と独立に移動可能にしておけば、シート材の糸目打ち装置10を、たとえば裁断テーブル2へのシート材7の搬入経路や、シート材7を拡げて積層する延反テーブルなどに設けることもできる。シート材の糸目打ち装置10は、シート材7の搬送を組合せれば、搬送方向と垂直な方向への一次元の移動で、シート材7の表面に対する二次元の移動を行わせることもできる。
【0029】
図1に示すように、目打ち位置7aを含む複数の位置7a,7b,7cに連続して糸9aを残す場合、たとえば、目打ち位置7aで最初に糸9aが貫通し、最後の位置7cから糸9aの端がシート材7の表面に残る状態となるので、目打ち位置7aを後工程で識別することができる。糸9aの端がシート材7の表面に残る位置を目打ち位置7aにする場合は、他の位置7b,7cから糸9aを残す動作を開始すればよい。中間の位置を目打ち位置7aにしてもよい。