特許第6084507号(P6084507)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6084507マスクブランク用基板の製造方法、マスクブランクの製造方法、転写用マスクの製造方法、及び半導体デバイスの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6084507
(24)【登録日】2017年2月3日
(45)【発行日】2017年2月22日
(54)【発明の名称】マスクブランク用基板の製造方法、マスクブランクの製造方法、転写用マスクの製造方法、及び半導体デバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G03F 1/50 20120101AFI20170213BHJP
   G03F 1/60 20120101ALI20170213BHJP
   H01L 21/027 20060101ALI20170213BHJP
   G02B 1/00 20060101ALI20170213BHJP
   G01N 21/23 20060101ALI20170213BHJP
【FI】
   G03F1/50
   G03F1/60
   H01L21/30 502P
   G02B1/00
   G01N21/23
【請求項の数】9
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2013-81860(P2013-81860)
(22)【出願日】2013年4月10日
(65)【公開番号】特開2013-238849(P2013-238849A)
(43)【公開日】2013年11月28日
【審査請求日】2016年3月9日
(31)【優先権主張番号】特願2012-92655(P2012-92655)
(32)【優先日】2012年4月16日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000113263
【氏名又は名称】HOYA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103676
【弁理士】
【氏名又は名称】藤村 康夫
(72)【発明者】
【氏名】田辺 勝
【審査官】 新井 重雄
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−121413(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0092811(US,A1)
【文献】 特表2002−504673(JP,A)
【文献】 米国特許第06473179(US,B1)
【文献】 特開2004−037137(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0008348(US,A1)
【文献】 特開平04−089553(JP,A)
【文献】 特開2008−016516(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0123055(US,A1)
【文献】 特開2006−267997(JP,A)
【文献】 特開2006−225249(JP,A)
【文献】 特開2006−251781(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0032213(US,A1)
【文献】 特開2013−140237(JP,A)
【文献】 特開2009−003172(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 1/50
G01N 21/23
G02B 1/00
G03F 1/60
H01L 21/027
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向する1組の主表面と対向する少なくとも2組の端面を有する透光性基板を用いてマスクブランク用基板を製造する方法であって、
一方の前記主表面または端面から、円偏光に偏光された検査光を前記透光性基板内に導入し、前記一方の主表面または端面に対向する主表面または端面から出射した検査光を、波面が互いに直交する2つの直線偏光に分離し、各直線偏光の光量をそれぞれ測定する測定工程と、
前記測定工程で得られた2つの直線偏光の光量測定値のうち、いずれか一方の光量測定値を、前記2つの直線偏光の光量測定値の和で除して光量比率を算出する算出工程と、
前記算出した光量比率を基にマスクブランク用基板に適する透光性基板を選定する選定工程と
を有することを特徴とするマスクブランク用基板の製造方法。
【請求項2】
前記算出工程は、前記2つの直線偏光の光量測定値のうち、小さい方の光量測定値を光量測定値の和で除した値を光量比率として算出し、
前記選定工程は、前記光量比率が0.46以上の透光性基板をマスクブランク用基板に適するものとして選定する工程であることを特徴とする請求項1記載のマスクブランク用基板の製造方法。
【請求項3】
前記選定工程で選定した透光性基板は、主表面の中心を基準とした一辺が132mmである四角形の内側領域における複屈折量が20nm/cm以下であることを特徴とする請求項2記載のマスクブランク用基板の製造方法。
【請求項4】
前記透光性基板を通さずに前記検査光を前記2つの直線偏光に分離することにより、前記測定工程と同じ工程で2つの直線偏光の光量を測定し、
前記算出工程と同じ工程で前記光量比率を算出することにより、透光性材料の複屈折量が0nm/cmのときの前記光量比率である基準光量比率を予め算出しておき、
前記算出工程は、前記基準光量比率における透過率を100%の透過率としたときの、前記透光性基板の前記光量比率における透過率である規格化透過率を算出する工程を含み、
前記選定工程は、前記規格化透過率が予め設定した閾値以上である透光性基板をマスクブランク用基板に適するものとして選定する工程であることを特徴とする請求項1記載のマスクブランク用基板の製造方法。
【請求項5】
前記測定工程は、一方の主表面から円偏光に偏光された検査光を前記透光性基板内に導入し、前記一方の主表面に対向する主表面から出射した検査光を、波面が互いに直交する2つの直線偏光に分離し、各直線偏光の光量をそれぞれ測定する工程であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のマスクブランク用基板の製造方法。
【請求項6】
前記透光性基板の検査光を導入する面と、前記検査光が出射する面は、鏡面に研磨されていることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のマスクブランク用基板の製造方法。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載のマスクブランク用基板の製造方法で製造されたマスクブランク用基板の主表面に、パターン形成用薄膜を形成する工程を有することを特徴とするマスクブランクの製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載のマスクブランクの製造方法で製造されたマスクブランクの前記パターン形成用薄膜に転写パターンを形成する工程を有することを特徴とする転写用マスクの製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載の転写用マスクを用い、半導体ウェハ上に回路パターンを形成することを特徴とする半導体デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マスクブランク用基板の製造方法、マスクブランクの製造方法、転写用マスクの製造方法、及び半導体デバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製造工程の1つであるリソグラフィ工程では、露光装置を用いて、転写対象物(例えば、ウェハ上のレジスト膜)に露光転写している。具体的に、露光装置では、露光光源から照明光学系を経由した露光光を転写用マスクに照射して透過させ、縮小光学系を経て、転写対象物に縮小された転写パターン像を露光することで、パターンを転写することを行っている。
【0003】
また、この露光光の光源は、短波長化が進んでおり、近年の半導体デバイスを製造する工程では、ArFエキシマレーザー(波長193nm)が露光光として主に使用されている。近年の半導体デバイスは、パターンの微細化が進んだ結果、転写対象物に転写されるパターン像の解像度向上トレンドが停滞してきていた。
【0004】
この問題を解消するために、ArFエキシマレーザー露光光の偏光状態を照明光学系で直線偏光等に制御してから、転写用マスクに入射させる偏光照明技術が開発された。しかし、この偏光照明技術を用いた場合、使用される転写用マスクによっては、所望の転写像が得られない場合がある。
【0005】
例えば、偏光照明技術が開発される以前から、転写用マスクに使用されている基板としては、合成石英ガラス基板が主に用いられている。そして、それまでの合成石英ガラス基板では、複屈折について、特に考慮がされていなかった。しかし、露光光に偏光照明が用いられる場合、基板の複屈折量が大きい部分が存在すると、その部分を透過した露光光の偏光状態が、その他の正常部分を透過した露光光の偏光状態とは変わってしまい、縮小光学系で結像したときに焦点位置が合わなくなったり、結像した像が本来転写すべき像から変わってしまったりする問題が生じる。
【0006】
このため、従来、偏光照明技術が用いられる転写用マスクの基板については、複屈折測定装置によって、基板の複屈折量を測定し、所定値以下(例えば、4nm/cm)のものを選定して使用することで対応していた(例えば、特許文献1、参照)。また、従来、基板の複屈折量を測定する装置としては、例えば、特許文献2に記載されているような装置が知られている。
【0007】
この複屈折測定装置は、基準軸から所定角度の偏光した状態の検査光を測定対象物(基板)の一方の面(主表面)に照射する。そして、対向するもう一方の面(対向する主表面)から出射してきた検査光をビームスプリッタで2つに分離する。そして、分離した2つの検査光を、基準軸からの偏光の角度がそれぞれ異なる光を分析する2つの分析器にそれぞれ入射させ、各分析結果を基に、測定箇所の複屈折量とその複屈折量が最大となる角度を算出するようになっている。
【0008】
また、従来、マスクブランクを用いて作製した転写用マスクに対しては、その形成したパターンが基準を満たしているかを、マスク検査装置を用いて検査している。しかし、転写用マスクのパターンの微細化が進んだ結果、マスク検査の場合においても、解像性向上が停滞し、検査精度向上が停滞する問題が生じていた。このため、近年、マスク検査に用いる検査光についても、偏光された光(円偏光等)の適用が始まっている(例えば、特許文献3、参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006−267997号公報
【特許文献2】特表2002−504673号公報
【特許文献3】特開2009−003172号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前記のようなマスク検査装置では、転写用マスクを透過した検査光をλ/4波長板などを介して直線偏光に変換してから、受光センサに取り込み、光量分布データを作成する。そして、例えばDie−to−Die検査の場合では、転写マスク上の異なる位置にある同一パターンに対して、それぞれ光量分布データを作成する。そして、両者を比較して、形成されている転写パターンに欠陥等がないかを検査する。また、Die−to−Database検査の場合では、転写マスク上のパターンに対して、実際に検査光を用いて光量分布データを作成したものと、マスク作製時に使用した設計データから光量分布データをシミュレーションして光量分布データを算出したものとを比較して、形成されている転写パターンに欠陥等がないかを検査する。
【0011】
また、2つのパターンが存在する領域が正常であっても、検査光の照射系や受光系の微妙な違いによって、光量分布データのコントラスト(光量が多い部分と低い部分との差)に多少の差が生じる場合がある。そのため、このコントラストの多少の差を欠陥部と誤判定しないように、通常のマスク検査装置では、Die−to−Die検査、Die−to−Database検査ともに、光量分布データを補正する機能を有している。
【0012】
しかし、このような検査光に偏光した光を適用したマスク検査装置によって転写用マスクを検査する場合において、転写用マスクの基板の複屈折に起因した従来認識されていない新たな問題を本願の発明者は見出した。
例えば、基板上の薄膜に2つの同一パターンを有する転写用マスクであり、実際には2つの薄膜のパターンには欠陥部分が存在しないが、一方のパターンの直下の基板内部に複屈折量の大きい領域が存在する転写用マスクに対し、Die−to−Die検査を行った場合、複屈折の影響により、基板を透過した2つの検査光の間で偏光状態が異なることとなる。
【0013】
そして、いずれかのパターンにおける複屈折量が大きい場合、各検査光を同じ条件でλ/4波長板で直線偏光に変換したときの光量の差が大きくなる。そして、この光量差が大きい2つの光量分布データで比較が行われると、光量の補正機能で補正できる範囲を超えることとなる。その結果、本来、2つの同一パターンには欠陥がないにも関わらず、多数の欠陥が存在するような検査結果になる。Die−to−Database検査の場合においても、設計データから光量分布データを生成する際に、複屈折のことは考慮されないため、Die−to−Die検査の場合と同じ問題が生じる。
【0014】
この問題については、例えば、露光転写において偏光照明が適用され、基板の複屈折の影響が比較的大きい転写用マスクを作製するためのマスクブランク用基板に限らず、それ以外のマスクブランク用基板(偏光していない露光光が適用される転写用マスクや、基板の複屈折の影響が比較的小さい偏光照明が適用される転写用マスクに用いられる基板)に対しても、複屈折測定装置での枚葉検査を行えば解決できる。
しかし、上記において説明をしたような複屈折測定装置による基板の複屈折量の測定は、正確な複屈折量と角度を算出するため、測定に要する時間は長く、この工程を入れると、スループットが大幅に低下することとなる。また、この装置自体も構造が複雑かつ高価であり、複屈折量を保証する必要がないマスクブランク用基板に対しては過剰な検査になる。そのため、このような検査光に偏光した光を適用したマスク検査装置に対応することを目的とした基板の複屈折の影響を検査する方法について、より簡便で低コストな方法が望まれていた。
【0015】
また、複屈折の影響は、マスク検査装置での検査時以外にも問題になる場合がある。例えば、偏光照明が適用されない場合であっても、複屈折量の大きな領域がマスクブランク用基板の内部に存在すると、転写への影響が生じる可能性がある。また、複屈折は、例えば熱履歴による残留熱応力が原因で生じることもある。この場合、複屈折量が大きいことは、残留熱応力が大きく、割れやすいことを意味する。そのため、これらの点でも、低コストな方法で検査ができるのであれば、偏光照明が適用されない転写用マスクに使用されるマスクブランク用基板についても、複屈折の影響の検査を行うことが好ましいと言える。
【0016】
そこで、本発明は、上記の課題を解決できるマスクブランク用基板の製造方法、マスクブランクの製造方法、転写用マスクの製造方法、及び半導体デバイスの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本願の発明者は、マスクブランク用基板内部の複屈折の影響についての鋭意研究により、偏光した単一波長の光を複屈折量の大きな透光性基板(ガラス基板等)の一方の主表面から入射した場合、対向する主表面から出射する検査光の偏光状態が大きく変わることに着目した。より具体的には、前記の対向する主表面から出射した検査光を直交した2つの直線偏光に分割したときの各直線偏光間の光量の比率が、基板の複屈折量によって変わることに着目した。そして、各直線偏光の光量比率に基づいて透光性基板を選定することにより、マスクブランク用基板に適する透光性基板を適切に選定し得ることを見出し、本願発明の構成に至った。上記の課題を解決するために、本発明は、以下の構成を有する。
【0018】
(構成1)対向する1組の主表面と対向する少なくとも2組の端面を有する透光性基板を用いてマスクブランク用基板を製造する方法であって、一方の主表面または端面から、円偏光に偏光された検査光を透光性基板内に導入し、一方の主表面または端面に対向する主表面または端面から出射した検査光を、波面が互いに直交する2つの直線偏光に分離し、各直線偏光の光量をそれぞれ測定する測定工程と、測定工程で得られた2つの直線偏光の光量測定値のうち、いずれか一方の光量測定値を、2つの直線偏光の光量測定値の和で除して光量比率を算出する算出工程と、算出した光量比率を基にマスクブランク用基板に適する透光性基板を選定する選定工程とを有する。
【0019】
このようにした場合、算出工程で算出される光量比率は、透光性基板内の複屈折量と相関性のある値となる。そのため、このようにすれば、例えば、算出された光量比率を用いて、偏光光を検査光に適用したマスク検査装置によって転写用マスクを検査する場合においても、複屈折の影響が小さく、正しい検査結果を得られるマスクブランク用基板を適切に選定できる。また、これにより、複屈折の影響が小さく、転写用マスクの検査で正しい検査結果が得られるマスクブランク用基板を適切に製造できる。
【0020】
また、この選定工程においては、測定工程で測定される各直線偏光の光量測定値を直接用いるのではなく、2つの直線偏光の光量測定値から算出した光量比率に基づき、透光性基板を選定している。そして、検査光を発生する光源自体のパワーの変動や透光性基板上のゴミにより光量が低下しても、光量比率は変わらない。そのため、光量比率は、このような原因の影響を受けず、透光性基板内の複屈折量が変わった場合にのみ変化する。そのため、このように構成すれば、例えば、光源のパワー変動や透光性基板上のゴミ等の影響を適切に抑えることができる。また、これにより、マスクブランク用基板に適する透光性基板をより適切に選定できる。
【0021】
(構成2)算出工程は、2つの直線偏光の光量測定値のうち、小さい方の光量測定値を光量測定値の和で除した値を光量比率として算出し、選定工程は、光量比率が0.46以上の透光性基板をマスクブランク用基板に適するものとして選定する工程である。このようにすれば、偏光光を検査光に適用したマスク検査装置によって転写用マスクを検査する場合においても、複屈折の影響が小さく、正しい検査結果を得られるマスクブランク用基板として適用可能な透光性基板を選定できる。
【0022】
(構成3)選定工程で選定した透光性基板は、主表面の中心を基準とした一辺が132mmである四角形の内側領域における複屈折量が20nm/cm以下である。少なくとも、このようにすれば、偏光光を検査光に適用したマスク検査装置によって転写用マスクを検査する場合においても、複屈折の影響が小さく、正しい検査結果を得られるマスクブランク用基板として適用可能な透光性基板を選定できる。
【0023】
(構成4)透光性基板を通さずに検査光を2つの直線偏光に分離することにより、測定工程と同じ工程で2つの直線偏光の光量を測定し、算出工程と同じ工程で光量比率を算出することにより、透光性材料の複屈折量が0nm/cmのときの光量比率である基準光量比率を予め算出しておき、算出工程は、基準光量比率における透過率を100%の透過率としたときの、透光性基板の光量比率における透過率である規格化透過率を算出する工程を含み、選定工程は、規格化透過率が予め設定した閾値以上である透光性基板をマスクブランク用基板に適するものとして選定する工程である。
【0024】
本願の発明者は、更なる鋭意研究により、光量比率から透過率を算出し、その透過率に基づいて透光性基板を選定することにより、複屈折の影響が小さなマスクブランク用基板を適切に選定できることを見出した。このようにすれば、例えば、マスクブランク用基板に適する透光性基板をより適切に選定できる。
【0025】
尚、規格化透過率に対して設定する閾値は、例えば、95%とすることができる。このようにすれば、例えば、複屈折量が20nm/cm以下である透光性基板を適切に選定できる。また、透光性基板に要求される品質に応じて、この閾値を、例えば97%又は98%等としてもよい。
【0026】
(構成5)測定工程は、一方の主表面から円偏光に偏光された検査光を透光性基板内に導入し、一方の主表面に対向する主表面から出射した検査光を、波面が互いに直交する2つの直線偏光に分離し、各直線偏光の光量をそれぞれ測定する工程である。このようにすれば、透光性基板内の複屈折の影響を適切に検査できる。また、これにより、例えば、マスクブランク用基板に適する透光性基板をより適切に選定できる。
【0027】
(構成6)透光性基板の検査光を導入する面と、検査光が出射する面は、鏡面に研磨されている。このようにすれば、例えば、透光性基板の表面の状態の影響を適切に抑えることができる。また、これにより、マスクブランク用基板に適する透光性基板をより適切に選定できる。
【0028】
(構成7)構成1から6のいずれかに記載のマスクブランク用基板の製造方法で製造されたマスクブランク用基板の主表面に、パターン形成用薄膜を形成する工程を有することを特徴とするマスクブランクの製造方法。このようにすれば、高い精度で選定されたマスクブランク用基板を用いることができる。また、これにより、精度の高いマスクブランクを適切に製造できる。
【0029】
(構成8)構成7に記載のマスクブランクの製造方法で製造されたマスクブランクのパターン形成用薄膜に転写パターンを形成する工程を有することを特徴とする転写用マスクの製造方法。このようにすれば、高い精度で製造されたマスクブランクを用いることができる。また、これにより、精度の高い転写用マスクを適切に製造できる。
【0030】
(構成9)構成8に記載の転写用マスクを用い、半導体ウェハ上に回路パターンを形成することを特徴とする半導体デバイスの製造方法。このようにすれば、高い精度で製造された転写用マスクを用いることができる。また、これにより、半導体ウェハ上に回路パターンを高い精度で形成できる。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、例えば、偏光した光を検査光に適用したマスク検査装置によって転写用マスクを検査する場合においても、複屈折の影響が小さく、正しい検査結果を得られるマスクブランク用基板を適切に選定できる。また、これにより、複屈折の影響が小さく、転写用マスクの検査で正しい検査結果が得られるマスクブランク用基板を適切に製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】本発明の一実施形態に係るマスクブランク用基板の製造方法の一例を示すフローチャートである。
図2】基板検査工程S104において用いられる検査装置100の構成の一例を示す図である。図2(a)は、検査装置100の構成の第1の例を示す。図2(b)は、検査装置100の構成の第2の例を示す。
図3】透光性基板10を用いて製造されるマスクブランク20及び転写用マスク30の一例を示す図である。図3(a)は、マスクブランク20の構成の一例を示す。図3(b)は、転写用マスク30の構成の一例を示す。
図4】1枚の透光性基板10において設定した測定ポイントを示す図である。
図5】各測定ポイントに対応する測定結果を示す図である。図5(a)は、一方の直線偏光をパワーメータ106aで測定した光量測定値を示す。図5(b)は、他方の直線偏光をパワーメータ106bで測定した光量測定値を示す。
図6】光量測定値から算出した光量比率を示すグラフである。
図7】光量比率(分子M1)と複屈折量との相関を示すグラフである。
図8】光量比率(分子M2)と複屈折量との相関を示すグラフである。
図9】相対透過率および規格化透過率と、複屈折量の測定値との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明に係る実施形態を、図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の一実施形態に係るマスクブランク用基板の製造方法の一例を示すフローチャートである。本例において、マスクブランク用基板の製造方法は、基板準備工程S102、及び、基板検査工程S104を備える。
【0034】
基板準備工程S102は、対向する2つの主表面を有する透光性基板を準備する工程であり、マスクブランク用基板となるように加工された透光性基板を準備する。基板準備工程S102は、公知の方法と同一又は同様の方法により、マスクブランク用基板となる透光性基板を準備する工程であってよい。透光性基板としては、例えば透光性の合成石英ガラス基板を用いることが好ましい。
【0035】
本例において、基板準備工程S102においては、先ず、透光性の合成石英ガラスインゴットから、所定形状及び寸法の合成石英ガラス基板を切り出す。切り出される合成石英ガラス基板の形状は、四角形状の上下の主表面と、両主表面と直交して、両主表面の各辺をつなぐ4つの側面(端面および面取り面)とを有する形状である。
【0036】
そして、本例においては、更に、合成石英ガラス基板の両主表面、各端面、及び各面取り面を全て鏡面に研磨する。鏡面研磨により、例えば、合成石英ガラス基板の両主表面の表面粗さRa(算術平均粗さ)を約0.5nm以下とし、各端面及び各面取り面の表面粗さRa(算術平均粗さ)を約2nm以下とする。また、主表面の表面粗さは、自乗平均平方根粗さ(Rq)で0.2nm以下とすることが好ましい。また、基板準備工程S102において、更に、主表面や端面に対し、精密研磨や超精密研磨を行ってもよい。尚、この鏡面研磨が行われた後における合成石英ガラス基板の寸法は、例えば、約152.1mm×約152.1mm×約6.25mmである。以上により、基板準備工程S102は、次の基板検査工程S104での検査対象となる透光性基板として、対向する1組の主表面と対向する少なくとも2組の端面を有する透光性基板を準備する。
【0037】
基板検査工程S104は、基板準備工程S102で準備された透光性基板の検査を行う工程である。本例において、基板検査工程S104は、偏光光を検査光に適用したマスク検査装置による転写用マスクの検査において、正常な検査結果が得られ難い大きさの複屈折量が存在する基板内部の領域を検出する工程であり、測定工程S202、算出工程S204、及び選定工程S206を有する。尚、基板検査工程S104においては、以下に説明する検査の他に、例えば、マスクブランク用基板を選定する各種公知の検査を更に行ってもよい。
【0038】
測定工程S202は、透光性基板を透過する検査光が透光性基板の内部で受ける影響を測定する工程である。本例において、測定工程S202は、先ず、円偏光に偏光された検査光を発生させ、その検査光を、透光性基板の一方の主表面から透光性基板内に導入する。そして、この一方の主表面に対向する他方の主表面から出射した検査光を、波面が互いに直交する2つの直線偏光に分離し、各直線偏光の光量をそれぞれ測定する。
【0039】
尚、測定工程S202は、主表面ではなく、例えば一方の端面から、検査光を導入してもよい。この場合、測定工程S202は、検査光を導入した端面に対向する端面から出射した検査光を、波面が互いに直交する2つの直線偏光に分離し、各直線偏光の光量をそれぞれ測定する。
【0040】
算出工程S204は、各直線偏光の光量測定値に基づいて光量比率を算出する工程であり、測定工程S202で得られた2つの直線偏光の光量測定値のうち、いずれか一方の光量測定値を、2つの直線偏光の光量測定値の和で除して、光量比率を算出する。また、本例において、算出工程S204は、2つの直線偏光の光量測定値のうち、小さい方の光量測定値を光量測定値の和で除して、光量比率を算出する。
【0041】
尚、算出工程S204は、小さい方の光量測定値を光量測定値の和で除す代わりに、例えば、大きい方の光量測定値を光量測定値の和で除して、光量比率を算出してもよい。また、例えば、予め設定された一方の直線偏光の光量測定値を光量測定値の和で除して、光量比率を算出してもよい。
【0042】
選定工程S206は、基板検査工程S104において合格となる透光性基板をマスクブランク用基板として選定する工程である。本例において、選定工程S206は、算出工程S204で算出された光量比率に基づき、マスクブランク用基板に適する透光性基板を選定する。
【0043】
ここで、基板検査工程S104において、光量比率を算出した透光性基板に対して、マスクブランク用基板として選定する際、選定基準となる光量比率は、算出工程S204での光量比率の算出方法によって大きく異なる。算出工程S204で、2つの直線偏光の光量測定値のうち、小さい方の光量測定値を光量測定値の和で除して光量比率を算出した場合においては、基板検査工程S104における、選定基準となる光量比率は0.46以上に設定することが好ましい。この選定基準で透光性基板からマスクブランク用基板として選定した場合、そのマスクブランク用基板は、複屈折量が20nm/cm以下のものであるということができる。この範囲の光量比率、複屈折量であれば、偏光光を検査光に適用したマスク検査装置によって転写用マスクを検査する場合においても、複屈折の影響が小さく、正しい検査結果を得ることができる。また、この選定基準となる光量比率を0.47以上に設定した場合、選定されたマスクブランク用基板は、複屈折量が15nm/cm以下のものであるということができ、好ましい。この選定基準となる光量比率を0.476以上に設定した場合、選定されたマスクブランク用基板は、複屈折量が10nm/cm以下のものであるということができ、より好ましい。さらに、この選定基準となる光量比率を0.48以上に設定した場合、選定されたマスクブランク用基板は、複屈折量が5nm/cm以下のものであるということができ、より好ましい。なお、これらの選定基準となる各光量比率の上限値は、0.5(2つの直線偏光の光量測定値が同じ場合)である。
【0044】
一方、算出工程S204で、2つの直線偏光の光量測定値のうち、大きい方の光量測定値を光量測定値の和で除して光量比率を算出した場合においては、基板検査工程S104における、選定基準となる光量比率は0.53以下に設定することが好ましい。この選定基準で透光性基板からマスクブランク用基板として選定した場合、そのマスクブランク用基板は、複屈折量が20nm/cm以下のものであるということができる。また、この選定基準となる光量比率を0.523以下に設定した場合、選定されたマスクブランク用基板は、複屈折量が15nm/cm以下のものであるということができ、好ましい。この選定基準となる光量比率を0.52以下に設定した場合、選定されたマスクブランク用基板は、複屈折量が10nm/cm以下のものであるということができ、より好ましい。さらに、この選定基準となる光量比率を0.517以下に設定した場合、選定されたマスクブランク用基板は、複屈折量が5nm/cm以下のものであるということができ、特に好ましい。なお、これらの選定基準となる各光量比率の下限値は、0.5(2つの直線偏光の光量測定値が同じ場合)である。
【0045】
ここで、後に更に詳しく説明するように、算出工程S204で上記のように算出される光量比率は、透光性基板内において検査光が通過した領域の複屈折量を反映したものとなる。そのため、本例によれば、透光性基板の内部において検査光が通過した領域について、複屈折の影響を適切に検査できる。また、これにより、選定工程S206後において、偏光光を検査光に適用したマスク検査装置による転写用マスクの検査を行う場合でも、正常な検査結果が得られるような、複屈折の影響が小さい透光性基板を適切に選定できる。
【0046】
また、本例の選定工程S206は、測定工程S202で測定される各直線偏光の光量測定値を直接用いるのではなく、2つの直線偏光の光量測定値に基づく光量比率を用いて、透光性基板を選定する。そのため、本例によれば、検査光の光源のパワー変動や透光性基板上のゴミ等の外部の状況の影響を適切に抑えることができる。また、これにより、マスクブランク用基板に適する透光性基板をより適切に選定できる。
【0047】
更に、本例において、透光性基板の検査光を導入する面と、検査光が出射する面は、鏡面に研磨されている。そのため、本例によれば、透光性基板の表面の状態の影響を適切に抑えることができる。また、これにより、マスクブランク用基板に適する透光性基板をより適切に選定できる。
【0048】
また、選定工程S206は、光量比率に基づいて透光性基板10の透過率を算出し、その透過率に基づいて、透光性基板を選定してもよい。この場合、例えば、選定工程S206に先立ち、透光性基板を通さずに検査光を2つの直線偏光に分離することにより、測定工程S202と同じ工程で、2つの直線偏光の光量を測定する。そして、算出工程S204と同じ工程で光量比率を算出することにより、透光性材料の複屈折量が0nm/cmのときとほぼ等価の光量比率である基準光量比率を予め算出しておく。また、算出工程S204は、基準光量比率における透過率を100%の透過率として、透光性基板の光量比率における透過率である規格化透過率を更に算出する。この規格化透過率は、検査対象の透光性基板の厚さ(例えば6.35mm)全体に対する透過率である。また、選定工程S206は、規格化透過率が予め設定した閾値以上である透光性基板を、マスクブランク用基板に適するものとして選定する。このようにした場合も、偏光光を検査光に適用したマスク検査装置による転写用マスクの検査を行うときに正常な検査結果が得られるような、複屈折の影響が小さな透光性基板を適切に選定できる。
【0049】
なお、基板検査工程S104において、マスクブランク用基板として選定される透光性基板は、その基板の主表面の中心を基準とした一辺が132mmである四角形の内側領域における複屈折量が前記の各閾値以下であることが好ましい。これは、選定されたマスクブランク用基板から製造されたマスクブランクを用いて転写用マスクを作製する際、転写パターンが形成される可能性のある領域が、基板の主表面の中心を基準とした一辺が132mmである四角形の内側領域であることに理由がある。また、マスクブランク用基板として選定される透光性基板は、その基板の主表面の中心を基準とした一辺が142mmである四角形の内側領域における複屈折量が前記の各閾値以下であるとより好ましい。
【0050】
本例において、選定工程S206で考慮される複屈折量は、マスクブランク用基板から製造される転写マスクの使用時に用いられる露光波長(例えば、波長193nm)の光に対する複屈折量である。複屈折量は、例えば、透光性基板の各点において、進相軸に平行な方向の直線偏光光と、その進相軸に直交する遅相軸に平行な方向の直線偏光光とがその基板を通過する際に生じる光路長の差と定義できる。また、以下の説明において、複屈折量は、透光性基板における厚さ1cmあたりの複屈折量(nm)である。例えば、透光性基板の厚さが6.35mmの場合、透光性基板の各点において、厚さ6.35mmでの複屈折の大きさを求め、それを厚さ1cmあたりに換算することで、厚さ1cmあたりの複屈折量を算出できる。
【0051】
図2は、基板検査工程S104において用いられる検査装置100の構成の一例を示す。図2(a)は、検査装置100の構成の第1の例を示す。本例において、検査装置100は、測定工程S202において、マスクブランク用基板の製造に用いられる透光性基板10を検査対象のワークとして、測定を行う。また、検査装置100は、検査光光源102、ウォラストンプリズム(直線偏光分離器)104、及び複数のパワーメータ106a、bを備える。透光性基板10は、例えばガラス基板である。透光性基板10としては、例えば合成石英ガラスの基板を好適に用いることができる。
【0052】
検査光光源102は、検査光を発生する光源であり、透光性基板10の一方の主表面へ向けて、円偏光に偏光された単一波長の光を発生する。本例において、検査光光源102は、レーザー光源と円偏光変換器とからなる。レーザー光源から発生したレーザー光は円偏光変換器で円偏光に変換され、検査光として、基板ホルダー(基板支持部材)に載置された透光性基板10の主表面へ垂直に入射する。なお、ここでの検査光は、波長650nmの円偏光のレーザー光を適用している。レーザー光(検査光)の波長は、転写用マスクとして照射される露光光の波長と同じである必要はなく、マスク検査の際に使用される検査光の波長と同じである必要もない。レーザー光の波長は、選定する透光性基板における複屈折の閾値に応じた波長であれば、その他の波長であってもよい。また、検査光光源102は、検査光の入射位置を透光性基板10の主表面内で走査させる。これにより、検査光光源102は、主表面の各位置を、順次検査対象位置とする。
【0053】
ウォラストンプリズム104は、透光性基板10から出射する光を直線偏光に分離する光学部材の一例であり、基板ホルダーに載置された透光性基板10を挟んで検査光光源102と反対側に設けられ、透光性基板10を透過した検査光を、波面が互いに直交する2つの直線偏光(直線偏光ビーム)に分割して取り出す。また、複数のパワーメータ106a、bは、ウォラストンプリズム104により分割された各直線偏光の光量をそれぞれ測定(計測)する光量測定器である。
【0054】
このように構成した場合、検査光光源102から照射された円偏光の検査光は、ウォラストンプリズム104に入射するまでの間に、透光性基板10内の状態の影響を受けることとなる。より具体的には、例えば、検査光の経路において、透光性基板10内の複屈折の影響を受けていない場合、検査光は、円偏光のままウォラストンプリズム104に入射する。この場合、ウォラストンプリズム104により分割される2本の直線偏光の光量は等しくなる。また、その結果、理論上、パワーメータ106a、bの光量測定値は等しくなる。
【0055】
しかし、検査光の経路において、透光性基板10内の複屈折の影響を受けた場合、透光性基板10を透過した後において、検査光は、楕円偏光になる。そのため、この場合、ウォラストンプリズム104により分割される2本の直線偏光の光量に差が生じる。また、その結果、パワーメータ106a、bの光量測定値に差が生じる。そのため、本例によれば、パワーメータ106a、bの光量測定値に基づき、透光性基板10内の複屈折の影響を適切に検出できる。
【0056】
尚、透光性基板10に対するウォラストンプリズム104、及び複数のパワーメータ106a、bの位置関係は、透光性基板10内の複屈折の影響により生じる光量測定値の差が最も大きくなるように、適宜設定することが好ましい。
【0057】
また、複数のパワーメータ106a、bのそれぞれで測定された光量の測定値は、測定工程S202に続く算出工程S204において用いられる。算出工程S204では、例えばコンピュータにより、各直線偏光の光量測定値に基づく光量比率を算出する。より具体的には、例えば、複数のパワーメータ106a、bによる各直線偏光の光量測定値のうち、小さい方をM1、大きい方をM2とした場合、算出工程S204では、M1/(M1+M2)の計算を行う。これにより、本例の算出工程S204では、光量の小さい方の直線偏光の光量比率を算出する。
【0058】
また、算出工程S204に続く選定工程S206では、算出工程S204で算出された光量比率に基づき、図1を用いて説明をしたようにして、基板検査工程S104において合格となる透光性基板10を、マスクブランク用基板として選定する。本例によれば、基板検査工程S104を適切に行うことができる。また、これにより、マスクブランク用基板に適する透光性基板をより適切に選定できる。
【0059】
図2(b)は、検査装置100の構成の第2の例を示す。本例において、検査装置100は、検査光光源102、偏光ビームスプリッタ108、及び複数のパワーメータ106a、bを備える。尚、以下に説明する点を除き、図2(b)において、図2(a)と同じ符号を付した構成は、図2(a)における構成と、同一又は同様のものである。
【0060】
本例において、検査装置100は、透光性基板10からの出射光を直線偏光に分離する光学部材として、図2(a)に図示した構成におけるウォラストンプリズム104に代えて、偏光ビームスプリッタ108を備えている。また、複数のパワーメータ106a、bは、偏光ビームスプリッタ108から出射するP偏光及びS偏光の光のそれぞれの方向に設けられている。
【0061】
本例においても、パワーメータ106a、bの光量測定値に基づき、透光性基板10内の複屈折の影響を適切に検出できる。また、これにより、基板検査工程S104を適切に行い、マスクブランク用基板に適する透光性基板を適切に選定できる。
【0062】
尚、検査装置100の構成については、図2(a)、(b)を用いて説明した構成以外に、例えば、ウォラストンプリズム104又は偏光ビームスプリッタ108と同等の光学的作用が得られる構成を用いること等も考えられる。例えば、ビームスプリッタ又はハーフミラー等を用い、透光性基板10を透過した検査光を、偏光状態を維持したまま分割することも考えられる。この場合、分割した光の一方からλ/4偏光板等でP偏光の光を取り出し、他方からλ/4偏光板等でS偏光の光を取り出せばよい。この場合も、P偏光及びS偏光のそれぞれの光量をパワーメータ106a、bで測定することにより、透光性基板10内の複屈折の影響を適切に検出できる。
【0063】
レーザー光源から出射された段階でのレーザー光は、その拡がり角は小さいが拡がりをもった拡散光の状態である。このレーザー光を本発明の基板検査工程S104で使用するには、検査光として適用可能な範囲の平行性を有する平行光にする処理が望まれる。このため、レーザー光源と円偏光変換器の間にコリメータレンズ等の平行光変換器を配置することが好ましい。
【0064】
一方、基板検査工程S104において、レーザー光源から安定した光量でレーザー光が出射されることが望まれる。しかし、レーザー光の反射光がレーザー光源に戻るような状態になっていると、その反射光(戻り光)によってレーザー光源からのレーザー光の発振が不安定になる傾向がある。このため、レーザー光源に対し、いずれかで反射されたレーザー光が戻らないような手段を講じることが望ましい。
【0065】
レーザー光源から出射したレーザー光がコリメータレンズの表面に当たった時に、そのレーザー光の一部が反射し、それが戻り光となる場合がある。この場合の解決手段としては、例えば、レーザー光源とコリメータレンズを、レーザー光の光軸からコリメータレンズの中心を平行に微小にシフトさせた位置関係とすることが考えられる。そのような位置関係にあると、コリメータレンズに当たったレーザー光はその光軸から傾斜した角度で反射され、レーザー光源に戻ることはない。また、λ/4偏光板等の円偏光変換器からの反射光が戻り光になる場合がある。この場合の解決手段としては、例えば、λ/4偏光板の入射面を、その表面に対して入射するレーザー光の光軸に対して垂直な位置から微小に傾斜させた位置に配置することが考えられる。
【0066】
対象のワークである透光性基板10の表面からのレーザー光の反射光が戻り光になる場合がある。この場合の解決手段としては、例えば、透光性基板10の表面を、その表面に対して入射するレーザー光の光軸に対して垂直な位置から微小に傾斜させた位置に配置することが考えられる。ウォラストンプリズム104や偏光ビームスプリッタ108の表面からのレーザー光の反射光が戻り光になる場合がある。この場合の解決手段としては、例えば、ウォラストンプリズム104や偏光ビームスプリッタ108の表面を、その表面に対して入射するレーザー光の光軸に対して垂直な位置から微小に傾斜させた位置に配置することが考えられる。
【0067】
図3は、透光性基板10を用いて製造されるマスクブランク20及び転写用マスク30の一例を示す。図3(a)は、マスクブランク20の構成の一例を示す。選定工程S206で合格品となり、マスクブランク用基板として選定された透光性基板10は、その後、マスクブランク20の製造に用いられる。マスクブランク20の製造工程では、マスクブランク用基板として選定された透光性基板10の主表面に、例えば公知の方法により、パターン形成用薄膜12を形成する。このようにすれば、高い精度で選定されたマスクブランク用基板を用いることができる。また、これにより、精度の高いマスクブランク20を適切に製造できる。
【0068】
前記のパターン形成用薄膜12は、単層構造、複数層の積層構造、組成傾斜した構造のいずれの構成でもよい。ここでいうマスクブランクは、パターン形成用薄膜12上に、パターン形成用薄膜12をパターニングする際にエッチングマスクとして使用されるハードマスク膜が形成されている構成も含まれる。また、ここでいうマスクブランクには、パターン形成用薄膜12上やハードマスク膜上に、有機系材料からなるレジスト膜が形成されている構成も含まれる。このように製造されたマスクブランク20は、転写用マスク30の製造に用いられる。
【0069】
図3(b)は、転写用マスク30の構成の一例を示す。転写用マスク30の製造工程では、例えば公知の方法により、マスクブランク20のパターン形成用薄膜12をエッチングによりパターニングして、転写パターンを形成する。このようにすれば、高い精度で製造されたマスクブランク20を用いることで、精度の高い転写用マスク30を適切に製造できる。
【0070】
また、これらの製造された転写用マスク30は、半導体デバイスの製造に用いられる。半導体デバイスの製造工程においては、例えば公知の方法により、転写用マスク30を用い、半導体ウェハ上に回路パターンを形成する。このようにすれば、高い精度で製造された転写用マスク30を用いることにより、半導体ウェハ上に回路パターンを高い精度で形成できる。また、これにより、動作不良欠陥のない高品質の半導体デバイスを適切に製造できる。
【0071】
続いて、本例の方法により透光性基板10内の複屈折の影響を検出できることについて、実験結果に基づく説明を行う。図4図9は、本例の方法により算出される光量比率と、透光性基板10内の複屈折量との関係を示す実験結果を説明する図である。
【0072】
尚、本実験においては、測定の便宜上、1枚の透光性基板10を用い、この透光性基板10内の複数箇所に対して、各種の測定を行った。しかし、複屈折の性質上、このようにして得られる実験結果は、複数枚の透光性基板10を用いた場合に得られる実験結果と同等のものであると考えることができる。
【0073】
図4は、1枚の透光性基板10において設定した測定ポイントを示す。本実験では、透光性基板10の一の対角線上において、一方の頂点から10mm間隔で、P1〜P10の10個の測定ポイントを設定した。また、この透光性基板10は、これらの各測定ポイントに対し、予め公知の複屈折測定装置(HINDS社製)で複屈折量を測定し、複屈折量が小さいポイントと大きいポイントが混在しているものを実験対象基板として選定している。なお、この複屈折測定装置で使用されている測定対象物に照射される光の波長は193nmである。
【0074】
図5は、各測定ポイントに対応する測定結果について、図2(a)に示した検査装置100におけるパワーメータ106a、bで測定した光量測定値を示す。図5(a)は、ウォラストンプリズム104により分離された一方の直線偏光をパワーメータ106aで測定した光量測定値を示す。図5(b)は、ウォラストンプリズム104により分離された他方の直線偏光をパワーメータ106bで測定した光量測定値を示す。
【0075】
本実験においては、測定結果の再現性を確認するため、同じ測定ポイントに対し、5回繰り返して測定を行った。グラフにおいて、1〜5回目を示すプロットは、各回の測定結果を示す。グラフから、この測定結果が高い再現性を有することがわかる。
【0076】
図6は、図5(a)、(b)に示した光量測定値から算出した光量比率を示すグラフであり、各測定回における各測定ポイントに対応する光量測定値に基づいて算出した光量比率を示す。この光量比率は、図2に関連して説明をしたように、パワーメータ106a、bによる光量測定値のうち、小さい方をM1、大きい方をM2とし、M1/(M1+M2)の計算を行ったものである。
【0077】
図7は、横軸を複屈折量、縦軸を5回目の光量測定値から算出した光量比率(分子をM1としたときの光量比率)にそれぞれ設定し、各測定ポイントの数値を基にプロットしたグラフである。グラフ中の曲線は、全測定ポイントのプロットから算出した近似曲線である。この近似曲線の近似式は、複屈折量をn、光量比率をLとしたとき、例えば、L=−0.00004n−0.0002n+0.4833である。この近似式は、図中の10点のプロットを基に算出される近似式であるため、算出方式によって多少変動するが、その変動幅は、選定工程S206で使用する選定基準となる光量比率を定めることに対して許容される範囲である。
【0078】
次に、図5(a)、(b)の各グラフで示した各測定ポイントに対応する5回目の光量測定値から算出した光量測定値に対し、M2/(M1+M2)の計算を行い、各光量比率を算出した。図8は、横軸を複屈折量、縦軸を光量比率(分子をM2としたときの光量比率)にそれぞれ設定し、各測定ポイントの数値を基にプロットしたグラフである。グラフ中の曲線は、全測定ポイントのプロットから算出した近似曲線である。この近似曲線の近似式は、複屈折量をn、光量比率をLとしたとき、例えば、L=0.00004n−0.0002n+0.5167である。この近似式は、図中の10点のプロットを基に算出される近似式であるため、算出方式によって多少変動するが、その変動幅は、選定工程S206で使用する選定基準となる光量比率を定めることに対して許容される範囲である。図7および図8のグラフから、透光性基板の複屈折量と光量比率とは明確な相関性があるといえる。また、光量比率を求めるのに使用する光の波長は、複屈折量を測定する際に使用する光の波長(マスク検査装置で使用される検査光の波長と同じ波長)と異なるものとしても、十分な相関性が得られることもわかる。
【0079】
図2に関連して説明をしたように、測定ポイントに複屈折がない場合、検査光は、円偏光のまま透光性基板10を透過する。また、その結果、光量比率の計算値は、理論上、50%になる。一方、測定ポイントにおいて複屈折がある場合、透光性基板10を透過した検査光は、楕円偏光になる。また、その結果、小さい方の光量測定値M1を分子として算出した場合の光量比率の計算値は、50%よりも小さくなる。そして、測定ポイントにおける複屈折量が大きい程、楕円偏光の楕円率は、大きくなる。また、その結果、光量比率の計算値は、より小さくなる。他方、大きい方の光量測定値M2を分子として算出した場合の光量比率の計算値は、50%よりも大きくなる。そして、測定ポイントにおける複屈折量が大きい程、楕円偏光の楕円率は、大きくなる。また、その結果、光量比率の計算値は、より大きくなる。
【0080】
そのため、このグラフに示した光量比率の値は、複屈折量を示すものであると言える。また、これにより、例えば、グラフに示した場合において、透光性基板10の中心部に近い測定ポイント7、8付近の複屈折量が小さいことがわかる。また、透光性基板10の周縁部に近い測定ポイント1〜3において、複屈折量が大きいことがわかる。
【0081】
また、上記のように算出される光量比率は、透過率に換算することもできる。この場合、例えば、図1に関連して説明をしたように、透光性材料の複屈折量が0nm/cmのときの光量比率である基準光量比率を予め算出しておく。また、基準光量比率における透過率を100%の透過率とする。これにより、例えば、各測定ポイントにおける光量比率を基準光量比率で除した値を、その光量比率に対応する透過率(規格化透過率)とすることができる。
【0082】
また、基準光量比率としては、図2(a)に示した検査装置100を用いて、透光性基板10を取り除いた状態で測定した光量比率を用いることが好ましい。より具体的には、透光性基板10を通さない検査光をウォラストンプリズム104により2つの直線偏光に分離して、複数のパワーメータ106a、bにより測定した場合の光量比率を用いることが好ましい。
【0083】
また、実用上、多数の測定ポイントで測定した複屈折量のうち、最小値の測定ポイントにおける光量比率を基準光量比率としてもよい。例えば、図6に示した算出結果の場合、測定ポイント7に対応する光量比率を基準光量比率としてもよい(測定ポイント7における複屈折量は、0.6nm/cm)。このようにした場合も、他の測定ポイントに対応する透過率(規格化透過率)を、実用的な精度で適切に算出できる。
【0084】
図9は、透光性基板の複屈折量と、マスク検査装置 Teron600Series(KLA Tencor社製)で測定した透光性基板の透過率と、前記の方法で算出した規格化透過率のそれぞれを同じ座標系にプロットしたグラフである。なお、マスク検査装置による透過率の測定ポイントは、前記の光量測定値を測定した測定ポイントとは異なる。このため、マスク検査装置での測定ポイントの複屈折量については、同じ複屈折測定装置を用いて別に測定した。また、このマスク検査装置における各測定ポイントの透過率は、全測定ポイントの中で最も高い透過率測定を100%としたときの相対透過率である。なお、このマスク検査装置で使用される検査光の波長は、193nmである。
【0085】
図9において、■のプロット(凡例における「TERON」)が、マスク検査装置で測定されたものであり、この■のプロットの近似曲線が実線で示されているものである。また、○のプロット(凡例における「検査装置100」)が、検査装置100で測定された光量測定値を基に算出された規格化透過率であり、この○のプロットの近似曲線が破線で示されているものである。
【0086】
図9のグラフに示した結果において、マスク検査装置で測定した相対透過率と複屈折量との間における相関性の傾向と、検査装置100での光量測定値を基に算出された規格化透過率と複屈折率との間における相関性の傾向はかなり近い。特に、複屈折量が25nm/cm以下の範囲では、ほぼ同じである。この結果から、複屈折量が25nm/cm以下の範囲においては、検査装置100での光量測定値を基に算出された規格化透過率を、マスク検査装置で測定した相対透過率とみなすことができる。マスク検査装置において、正常な検査結果を得るために、転写用マスクに対してマスク検査を行ったときの転写パターンの透光部での相対透過率が90%以上であることが求められる。転写用マスクの透光部における透光性基板の表面は、薄膜にパターンを形成するときのエッチングで微小に表面が荒れる。この点を考慮すると、マスクブランクを製造するために用いられるマスクブランク用基板に対して、マスク検査装置で測定したときの相対透過率は、95%以上であることが望まれる。
【0087】
透光性基板の相対透過率(規格化透過率と実質等価)が95%以上であるためには、その透光性基板の複屈折量が少なくとも20nm/cm以下である必要がある。そして、検査装置100を用いて複屈折量が20nm/cm以下の透光性基板を選定するには、選定工程S206で使用する選定基準となる光量比率を0.46以上(算出式がM1/(M1+M2)の場合。ただし、M1<M2。)あるいは、0.53以下(算出式がM2/(M1+M2)の場合。ただし、M1<M2。)とすればよいことになる。その他、好ましい複屈折量と、選定工程S206での選定基準となる光量比率の関係は、前記のとおりである。
【0088】
図9のグラフにおいて、○のプロット(透光性基板の複屈折量と検査装置100での光量測定値を基に算出した規格化透過率によるプロット)の近似曲線の近似式(相関式)は、規格化透過率をT、複屈折量をnとしたとき、例えば、T=−0.0088n−0.04n+99.649である。そのため、この相関式により、実際に測定を行った結果以外についても、例えば、任意の複屈折量について、その複屈折量に対応する透光性基板10の透過率を算出できる。
【0089】
また、これにより、例えば、この規格化透過率を基準にして、複屈折量が所定値以下の透光性基板10を適切に選定することも可能である。より具体的には、例えば、先ず、複屈折量に上限値を定め、上記相関式に基づき、その複屈折量に対応する透過率を算出する。そして、算出された透過率を閾値に設定する。そして、選定工程S206において、規格化透過率がこの閾値以上である透光性基板10を、マスクブランク用基板に適するものとして選定する。このようにすれば、複屈折の影響が小さい透光性基板を適切に選定できる。
【0090】
尚、選定工程S206においては、例えば、複屈折量が20nm/cm以下である透光性基板10を選定する場合、規格化透過率に対して設定する閾値は、例えば、95.3%とすることができる。また、例えば、複屈折量が15nm/cm以下である透光性基板10を選定する場合、規格化透過率に対して設定する閾値は、例えば、97.0%とすることができる。例えば、複屈折量が10nm/cm以下である透光性基板10を選定する場合、規格化透過率に対して設定する閾値は、例えば、98.4%とすることができる。例えば、複屈折量が5nm/cm以下である透光性基板10を選定する場合、規格化透過率に対して設定する閾値は、例えば、99.2%とすることができる。
【0091】
以上、本発明に関して実施形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態に記載の範囲には限定されない。上記実施形態に、多様な変更又は改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明は、例えばマスクブランク用基板の製造方法に好適に利用できる。
【符号の説明】
【0093】
10・・・透光性基板、12・・・パターン形成用薄膜、20・・・マスクブランク、30・・・転写用マスク、100・・・検査装置、102・・・検査光光源、104・・・ウォラストンプリズム、106・・・パワーメータ、108・・・偏光ビームスプリッタ
図1
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図9