特許第6084559号(P6084559)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6084559
(24)【登録日】2017年2月3日
(45)【発行日】2017年2月22日
(54)【発明の名称】回転電機の回転子
(51)【国際特許分類】
   H02K 1/32 20060101AFI20170213BHJP
   H02K 9/04 20060101ALI20170213BHJP
   H02K 17/12 20060101ALI20170213BHJP
【FI】
   H02K1/32 Z
   H02K9/04 A
   H02K17/12 A
【請求項の数】1
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2013-252751(P2013-252751)
(22)【出願日】2013年12月6日
(65)【公開番号】特開2015-111965(P2015-111965A)
(43)【公開日】2015年6月18日
【審査請求日】2016年1月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】東芝三菱電機産業システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000235
【氏名又は名称】特許業務法人 天城国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】劉 克成
(72)【発明者】
【氏名】坪井 雄一
(72)【発明者】
【氏名】七海 秀幸
【審査官】 土田 嘉一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−034503(JP,A)
【文献】 特開昭61−218333(JP,A)
【文献】 特開昭62−239838(JP,A)
【文献】 実開昭53−036004(JP,U)
【文献】 実開昭48−026405(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/32
H02K 9/04
H02K 17/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸の外周面に回転子鉄心が嵌合され、この回転子鉄心の外周面に、それぞれロータバーを収容する複数のスロットが軸方向に形成された回転電機の回転子であって、
前記回転軸の外周面に、それぞれ軸方向に沿って形成され、かつ周方向に等間隔に配置された複数の通風溝と、
前記回転子鉄心の軸方向の複数個所に形成され、それぞれこの回転子鉄心の内周から外周に通じる複数の通風ダクトと、
これら通風ダクト内の、前記回転軸の回転中心から所定の半径を有する円周上の内端位置と前記複数のスロット間との間に設けられた直線状ダクトピースと、
前記通風ダクト内の前記直線状ダクトピースの内端位置と前記回転軸の外周面との間に形成された円周方向通気空間の内周側の部分で、前記通風溝から円周方向に外れた位置に、前記回転軸の外周に沿って設けられた円弧状ダクトピースと、
を備えたことを特徴とする回転電機の回転子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、通風冷却構造を改良した回転電機の回転子に関する。
【背景技術】
【0002】
誘導電動機などの回転電機の回転子は、特許文献1に示すように、回転軸の外周面に回転子鉄心が嵌合され、この回転子鉄心の外周面に、軸方向に沿って複数のスロットが形成され、これらスロット内にそれぞれロータバー(導体)が収容されている。また、回転子鉄心の内周と接する回転軸の外周面には、それぞれ軸方向に沿って形成された複数の通風溝(通気路)が、周方向に等間隔に配置されている。さらに、回転子鉄心の軸方向の複数個所には、回転軸の外周面を囲んで、この回転子鉄心の内周から外周に通じる複数の通風ダクト(エアダクト)が形成されている。
【0003】
このような構造の回転子では、その回転時に、回転軸の外周面に形成された通風溝に軸方向に流れる空気を、回転子鉄心の軸方向複数個所に形成された通風ダクトに分流させ、回転子鉄心の半径方向に流して、回転子鉄心及びそのスロット内のロータバーを通風冷却する。冷却後の空気は回転子鉄心の外周部分から排気させる。この場合、回転軸の通風溝に軸方向に流れる空気を、軸方向の複数個所に位置する複数の通風ダクトに均等に通気することが通風冷却を効率的に行うために重要であり、特許文献1ではそのための構造が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭和62−239838号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、回転軸の外周面に軸方向に沿って形成された複数の通風溝は、前述のように回転軸の周方向に等間隔に配置されている。回転子鉄心の軸方向の複数個所位置する通風ダクトは、回転軸の外周面を囲んで形成されているため、通風ダクトの内周は、通風溝の幅方向と対向する部分と、この通風溝から外れて回転軸の外周面と接する部分とに区分される。このため、通風ダクト内の、通風溝と対向する部分は通風量が多くなり、通風溝から外れて回転軸の外周面と対向する部分の通風量は少なくなる。すなわち、通風ダクト内の通風量がアンバランスとなり、冷却対象である回転子鉄心やロータバーに対する冷却効果にバラツキが生じ、それらの温度が不均一になる。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、通風ダクト内の通風量を均一にして冷却効果のバラツキを抑止し、冷却対象の温度の均一化を図った回転電機の回転子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の実施の形態に係る回転電機の回転子は、回転軸の外周面に回転子鉄心が嵌合され、この回転子鉄心の外周面に、それぞれロータバーを収容する複数のスロットが軸方向に形成された回転電機の回転子であって、前記回転軸の外周面に、それぞれ軸方向に沿って形成され、かつ周方向に等間隔に配置された複数の通風溝と、前記回転子鉄心の軸方向の複数個所に形成され、それぞれこの回転子鉄心の内周から外周に通じる複数の通風ダクトと、これら通風ダクト内の、前記回転軸の回転中心から所定の半径を有する円周上の内端位置と前記複数のスロット間との間に設けられた直線状ダクトピースと、前記通風ダクト内の前記直線状ダクトピースの内端位置と前記回転軸の外周面との間に形成された円周方向通気空間の内周側の部分で、前記通風溝から円周方向に外れた位置に、前記回転軸の外周に沿って設けられた円弧状ダクトピースとを備えたことを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施形態に係る回転電機の回転子を示す図である。
図2】同上回転子の横断面の1/4部分を示す図である。
図3】内圧を受ける有孔円板(鉄心12)の座屈たわみモードを説明する図である。
図4】座屈嵌め代と高さh寸法との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0010】
図1はこの実施の形態に係る回転電機の回転子10を示しており、図2はこの回転子10の横断面の1/4部分を示している。
【0011】
これら図1及び図2において、回転子10は、回転軸11の外周面に回転子鉄心12を嵌合取り付けして構成される。この回転子鉄心12の外周面には、図2で示す複数のスロット13がそれぞれ軸方向に沿って形成されている。そして、これらスロット13内には、それぞれロータバー14が収容されている。
【0012】
回転軸11は、回転子鉄心12の内周と接する外周面に、軸方向に沿って形成された複数の通風溝15を有する。これら複数の通風溝15は、図2で示すように、回転軸11の周方向に等間隔に配置されている。また、この回転軸11の外周面に嵌合取り付けされた回転子鉄心12は、環状の鋼板を多数枚軸方向に積層して形成されており、この回転子鉄心12の軸方向の複数個所には、それぞれスペーサを介して所定の間隔16を形成している。これら複数の間隔16は、回転軸11の外周面を囲んで、回転子鉄心12の内周から外周に通じる通風ダクトとして機能する(以下、通風ダクト16と呼称する)。
【0013】
これら複数の通風ダクト16内には、上述したスペーサを兼ねる直線状ダクトピース17が設けられる。この直線状ダクトピース17は、図2で示すように、回転軸11の回転中心から所定の半径Rを有する円周上の位置から、回転子鉄心12の外周面に形成された複数のスロット13間に向ってそれぞれ設けられている。このため、各通風ダクト16内には、前述した円周上の位置(すなわち、各直線状ダクトピース17の内端部)と、回転軸11の外周面との間に、環状方向に流通する円周方向通風空間18が生じる。この通風空間18内の、回転軸11に形成された通風溝15から外れた位置に、この回転軸11の外周に沿う円弧状ダクトピース20を設ける。
【0014】
上記構成において、回転電機が運転され、回転子10が回転すると、回転軸11の端部に設けた図示しないファンにより回転子10の軸方向に沿って送風される。このため、回転軸11の外周面に形成された通風溝15内に、その長さ方向に沿って空気が流れ、さらに、この通風溝15から各通風ダクト16内を通り、回転子鉄心12及びロータバー14を冷却して、回転子鉄心12の外周面から排気される。
【0015】
このとき、各通風ダクト16内には、複数本の直線状ダクトピース17が、各スロット13に対応して放射状に設けられているので、回転軸11の通風溝15から供給された空気は、これら直線状ダクトピース17により半径方向に導かれ、効率よく回転子鉄心12の外周面から排気される。
【0016】
ここで、通風ダクト16内は、回転軸11に形成された通風溝15に直接対向する部分と、この通風溝15から外れた部分とに区分される。通風溝15から外れた部分では、冷却風は一旦円周方向通風空間18を円周方向に流れたのち、外周方向に向かって放射状に流れる。したがってR寸法が大きいほど冷却風は円周方向に均一な分布となる。
【0017】
また、通風溝15から外れた位置には、この回転軸11の外周に沿う円弧状ダクトピース20が設けられているので、通風溝15から供給された空気は円弧状ダクトピース20に導かれ、通風溝15から外れた部分へも効果的に空気を供給する。このため、通風溝15からの空気は通風ダクト16の全域にわたってほぼ均等に流れる。そして、前述した直線状ダクトピース17により半径方向に導かれ、効率よく回転子鉄心12の外周面から排気される。
【0018】
したがって、通風ダクト16内の、通風溝15と対向する部分と通風溝15から外れた部分とで通風量の差はなくなり、冷却対象である回転子鉄心12やロータバー14を均一に冷却でき、それらの温度が不均一になることはない。
【0019】
一方、回転軸11と鉄心12とは焼嵌めされているため、上述した円弧状ダクトピース20を設けない場合、R寸法が大きくなると、鉄心12の内径部は座屈強度が低下する。鉄心12の座屈強度が半径方向の位置によって異なることを図3に示す。図3から明らかなように環状を成す回転子鉄心12の内周に近いほど座屈強度が低下する。
【0020】
すなわち、回転子10の製造過程では、回転子鉄心12を高温に加熱し、その内径を拡大した状態で、回転軸11の外周に嵌め合わせ、その後、回転子鉄心12を冷却して内径を縮小させ、回転軸11に一体的に固定する所謂焼嵌めが行われている。このとき、図3で示すように、回転子鉄心12の内周部分には半径方向に大きな力が加わるため、この部分に座屈が生じ易い。この座屈に対する強度は、円周方向通風空間18の高さh寸法(回転軸11の外周面から直線状ダクトピース17の内端部までの半径方向長さ)が関係する。すなわち、通風空間18の高さh寸法が大きいほど座屈が生じ易く、h寸法を、座屈を生じる嵌め代以上とすることができない。
【0021】
この実施の形態では、円周方向通風空間18の内周側の部分に円弧状ダクトピース20を設けて、座屈強度を高めることで、高さh寸法を大きくすることができる。

【0022】
図4にFEM(有限要素法)で計算した座屈嵌め代とh寸法との関係の一例を示す。この例では、嵌め代をY2[mm]とした場合、円弧状ダクトピース20が無いと高さh寸報はX1.2[mm]以下としなければならない。しかし、円弧状ダクトピース20を設けた場合は、高さh寸法をX4.2[mm]まで広げることができる。なお、嵌め代は回転中に軸11と鉄心12との間に隙間が生じないような値に決められている。
【0023】
このように、円弧状ダクトピース20を設けたことにより、回転子鉄心12の内周部分における座屈強度を低下させることなく、円周方向通風空間18の高さh寸法を大きくすることができ、この円周方向通風空間18での円周方向の通風量を十分に確保でき、回転子鉄心及びロータバーに対する均一な冷却が可能となる。
【0024】
本発明の実施形態を説明したが、この実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この新規な実施形態は、その他のさまざまな形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。この実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0025】
10・・・回転子
11・・・回転軸
12・・・回転子鉄心
13・・・スロット
14・・・ロータバー
15・・・通風溝
16・・・通風ダクト
17・・・直線状ダクトピース
18・・・通風空間
20・・・円弧状ダクトピース
図1
図2
図3
図4