特許第6084609号(P6084609)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6084609炭化水素資源回収ダウンホールツール用部材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6084609
(24)【登録日】2017年2月3日
(45)【発行日】2017年2月22日
(54)【発明の名称】炭化水素資源回収ダウンホールツール用部材
(51)【国際特許分類】
   E21B 43/16 20060101AFI20170213BHJP
【FI】
   E21B43/16
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-519870(P2014-519870)
(86)(22)【出願日】2013年4月12日
(86)【国際出願番号】JP2013061075
(87)【国際公開番号】WO2013183363
(87)【国際公開日】20131212
【審査請求日】2015年12月15日
(31)【優先権主張番号】特願2012-130055(P2012-130055)
(32)【優先日】2012年6月7日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001100
【氏名又は名称】株式会社クレハ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】大倉 正之
(72)【発明者】
【氏名】西條 光
(72)【発明者】
【氏名】吉田 勝美
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 浩幸
【審査官】 須永 聡
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−088364(JP,A)
【文献】 特表2005−534746(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0205266(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0205265(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0032151(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0025940(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21B 1/00−49/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量平均分子量が7万以上であるポリグリコール酸樹脂の、有効厚みが表面分解の臨界厚みの1/2以上である成形体からなり、水中での厚み減少速度が時間に対して一定であることを特徴とする、炭化水素資源回収ダウンホールツール用部材。
【請求項2】
ポリグリコール酸樹脂成形体が結晶化処理されている請求項1に記載のダウンホールツール用部材。
【請求項3】
その主たる二表面のうち一面のみが作業環境水性媒体に露出されるダウンホールツール用部材であり、有効厚みが表面分解の臨界厚みの1/2以上に設定されている請求項1または2に記載のダウンホールツール用部材。
【請求項4】
有効厚みが表面分解の臨界厚みの3/4以上に設定されている請求項3に記載のダウンホールツール用部材。
【請求項5】
その主たる二表面がともに作業環境水性媒体に露出されるダウンホールツール用部材であり、有効厚みが表面分解の臨界厚み以上に設定されている請求項1または2に記載のダウンホールツール用部材。
【請求項6】
有効厚みが表面分解の臨界厚みの1.5倍以上に設定されている請求項5に記載のダウンホールツール用部材。
【請求項7】
複数の非水中分解性の部材間の結合部を形成する部材であり、全体形状が概ね棒状のツールを構成する請求項1〜6のいずれかに記載のダウンホールツール用部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石油およびガスをはじめとする炭化水素資源の回収のためのダウンホールの形成あるいは補修用のツール自体あるいはその一部を形成する部材に関する。
【背景技術】
【0002】
石油およびガスをはじめとする炭化水素資源(以下、代表的に、「石油」と称することがある)の地中からの回収のためにはダウンホール(地下掘削坑)が設けられるが、その形成あるいは補修のための、フラックプラグ(分解性プラグ)、ブリッジプラグ、セメントリテイナー、パーフォレーションガン、ボールシーラー、目止めプラグ、パッカー等のツール(以下、包括的に「ダウンホールツール」と称する)は、使用後に地上に回収することなく、そのままダウンホール中で崩壊させるか、落下させることにより処分することが多くある(そのようなダウンホールツールあるいはその使用態様の例示は、例えば特許文献1〜5にみられる)。したがって、そのような一時使用のツールについては、その全体あるいは崩壊促進のための結合部を構成する部材(ダウンホールツール用部材)を、分解性のポリマーにより形成することが推奨されている。そのような分解性ポリマーの例としては、でんぷんあるいはデキストリン等の多糖類;キチン、キトサン等の動物性蛋白ポリマー;ポリ乳酸(PLA,代表的にポリL−乳酸(PLLA))、ポリグリコール酸(PGA)、ポリ酪酸、ポリ吉草酸等の脂肪族ポリエステル;更にはポリアミノ酸、ポリエチレンオキサイド等が挙げられている(特許文献1および2)。しかしながら、これら分解性のポリマーを用いて、ダウンホールツール用部材の崩壊までの強度ならびに時間を設計する技術は、必ずしも満足なものではなかった。それは、分解性ポリマーの分解挙動を精確に判定することが困難であったからである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】US2005/0205266A明細書
【特許文献2】US2005/0205265A明細書
【特許文献3】US2009/0101334A明細書
【特許文献4】US7621336B明細書
【特許文献5】US7762342B明細書
【発明の概要】
【0004】
上記従来技術事情に鑑み、本発明の主要な目的は、分解性ポリマーの適切な選定および成形を通じて、崩壊までの強度および時間のより精確な設計が可能なダウンホールツール用部材を提供することを目的とする。
【0005】
本発明の炭化水素資源回収ダウンホールツール用部材は、上述の目的の達成のために開発されたものであり、重量平均分子量が7万以上であるポリグリコール酸樹脂の、有効厚みが表面分解の臨界厚みの1/2以上である成形体からなり、水中での厚み減少速度が時間に対して一定であることを特徴とするものである。
【0006】
本発明者等の研究によれば、ポリグリコール酸樹脂は、初期強度が優れるだけでなく、その適切に設計された成形体によれば、他の分解性ポリマーとは異なり特異的に、水中での厚み減少速度が時間に対して一定の特性(換言すれば直線的な厚み減少速度)を示すことが見出された。したがって、ダウンホールツール用部材の強度維持およびプラグあるいはシール等の要求特性に寄与する有効厚みを、当該部材の崩壊までの維持時間に応じて設定することにより、強度および保持時間の設計が可能になる。上記したポリグリコール酸樹脂成形体の示す直線的な厚み減少速度特性は、ポリグリコール酸樹脂成形体の持つ優れた水(蒸気)バリア性を通じて、その加水分解が、表面分解として進行する(換言すれば、成形体中の加水分解済みでバリア性を示さない低分子量ポリマー層と未分解の高分子量ポリマーからなるコア層との界面の内部への進行速度が、表面からその界面への水分子の浸透を律速段階としてその浸透速度とほぼ同等の速度で進行する)ためであり、このような明確な界面の形成されないポリグリコール酸樹脂微粒子や、バリア性の劣る他の分解性ポリマーにおいて認められる塊状分解では得られないものである。例えば、代表的な分解性ポリマーであるポリ乳酸においては、成形体の有効厚みの減少速度が当初緩やかであるが、途中から急激に増加する(後記比較例 参照)。本発明では、ポリグリコール酸樹脂成形体の有効厚み(すなわち、ツール部材として形成した成形体の特性を支配する部分の厚み)を、塊状分解→表面分解に変化する境界の厚みとしての臨界厚み以上(一表面のみが水中に露出している場合には臨界厚みの1/2以上)に設定することにより、直線的な厚み減少速度特性を有するダウンホールツール用部材の設計を可能としたものである。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】ダウンホールツールの一例としてのフラックプラグの要部の模式図。
図2】PGA成形体の各種温度における厚みの時間変化データを示すグラフ。
図3】PGA成形体の厚み減少速度の温度依存性を示すグラフ(アレニウスプロット)。
図4】PGA成形体およびPLLA成形体の厚みの時間変化データを対比するグラフ。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を、その好適な実施形態に即して、詳細に説明する。
【0009】
(ポリグリコール酸樹脂)
本発明で使用するポリグリコール酸樹脂(PGA樹脂)は、繰り返し単位としてグリコール酸単位(−OCH−CO−)のみからなるグリコール酸単独重合体(すなわちポリグリコ−ル酸(PGA))に加えて、他の単量体(コモノマー)単位、好ましくは乳酸等のヒドロキシルカルボン酸単位、を50重量%以下、好ましくは30重量%以下、更に好ましくは10重量%以下、の割合で含むグリコール酸共重合体を含む。他の単量体単位を含む共重合体とすることにより、ポリグリコ−ル酸樹脂の加水分解速度、結晶性等をある程度調整することができる。但し、本発明のダウンホールツール用部材が表面分解特性を示し得るのは、ポリグリコール酸樹脂のもつ優れたバリア性によるものであり、過剰に含ませると、優れたバリア性が損なわれ、結果的に厚み減少速度の直線性が損なわれるので、好ましくない。
【0010】
ポリグリコ−ル酸樹脂としては、重量平均分子量が7万以上、好ましくは10万〜50万、のものを用いる。重量平均分子量が7万未満のものでは、ツール用部材に必要な初期強度特性が損なわれる。他方、重量平均分子量が50万を超えると、成型加工性が悪くなるため好ましくない。
【0011】
このような分子量のポリグリコ−ル酸樹脂を得るためには、グリコール酸の重合よりは、グリコール酸の二量体であるグリコリドを少量の触媒(例えば、有機カルボン酸錫、ハロゲン化錫、ハロゲン化アンチモン等のカチオン触媒)の存在下、且つ実質的に溶剤の不存在下(すなわち塊状重合条件)で、約120〜250℃の温度に加熱して、開環重合させる方法を採用することが好ましい。従って、共重合体を形成する場合には、コモノマーとして、例えば乳酸の二量体であるラクチドを代表とするラクチド類、ラクトン類(例えば、カプロラクトン、β−プロピオラクトン、β−ブチロラクトン)の1種以上を用いることが好ましい。
【0012】
なおポリグリコール酸樹脂(PGA樹脂)の融点(Tm)は、一般に200℃以上である。例えば、ポリグリコール酸(PGA)の融点は約220℃であり、ガラス転移温度は約38℃で、結晶化温度は約90℃である。ただし、これらのポリグリコール酸樹脂の融点は、ポリグリコール酸樹脂の分子量や用いたコモノマーの種類等によって変動する。
【0013】
本発明においてダウンホールツール用部材は、ポリグリコ−ル酸樹脂単独で形成するのが通常であるが、その分解性等の制御の目的で、他の脂肪族ポリエステル(例えば上述したグリコール酸共重合体を与えるためのコモノマーの単独または共重合体)、芳香族ポリエステル、エラストマー等のその他の熱可塑性樹脂を配合することもできる。しかし、上記したポリグリコール酸樹脂の優れたバリア性を通じた成形体の表面分解性を損なわないように、その添加量は、ポリグリコール酸樹脂がマトリクス樹脂として存在することを妨げない量、より具体的には30重量%未満に抑えるべきであり、好ましくは20重量%未満、より好ましくは10重量%未満である。
【0014】
また、ポリグリコール酸樹脂には、本発明の目的に反しない範囲で、必要に応じて熱安定剤、光安定剤、無機フィラー、可塑剤、防湿剤、防水剤、撥水剤、滑剤、分解促進剤、分解遅延剤等の各種添加剤を添加することができる。
【0015】
上記のようにして得られたポリグリコール酸樹脂(および、場合によりその他の任意成分)を、射出成形、溶融押出成形、固化押出成形、圧縮成形、遠心成形等の慣用の熱成形法、または必要に応じて切削加工を行なうことにより、上記特許文献1〜5等に例示されるような、フラックプラグ、ブリッジプラグ、セメントリテイナー、パーフォレーションガン、ボールシーラー、目止めプラグ、パッカー等の各種ダウンホールツールの全体またはその一部を構成する部材の形状に成形される。その際、厚み減少の直線性によるツールの崩壊時間の制御性を向上するために、例えばダウンホールツールの一例としてのフラックプラグの要部模式断面図である図1に示すように、非水中分解性の樹脂あるいは金属からなる円柱状もしくは角柱状あるいは中空棒状の部材11−11間の結合部をポリグリコール酸樹脂からなる部材12で構成して、全体形状が例えば概ね棒状のツール10を構成するようにすることもできる。これにより、部材12の水中(より実際的には、ダウンホールツールの存在する水性作業環境媒体中)に露出した表面12aから部材11の突出部11aの側面までの厚みtが有効厚みとなり、ツールの崩壊あるいは分解までの時間を支配することになる。ツールの形状によっては、その一表面のみが水中に露出することもあるため、そのような場合の有効厚みは臨界厚みの1/2となる。また全体形状が球状であり、全体が水中に露出するようなボールシーラーの場合には、その直径を有効厚みとしてとればよい。
【0016】
得られたポリグリコール酸樹脂成形体については、昇温時の結晶化温度Tc1(グリコール酸単独重合体については約90℃)以上、融点未満の温度で、約1分〜10時間加熱処理して、重量結晶化度を約20%以上、特に30〜60%、に向上して、水蒸気バリア性ならびに厚み減少速度の直線性を向上しておくことも好ましい。
【0017】
(表面分解の臨界厚み)
本発明においては、ダウンホールツール部材を構成するポリグリコール酸樹脂成形体の有効厚みを、表面分解の臨界厚みの1/2以上に設定する。本発明者らの研究によれば、この表面分解の臨界厚みLcは以下のようにして決定された。
【0018】
一般に、通常の分解性樹脂のように、樹脂成形体への水の浸透速度が樹脂の分解速度に比べて早い場合は、分解が塊状分解機構となり、分解速度は線形性を有しない。他方、水の浸透速度が樹脂の分解速度に比べて遅い場合は、分解が表面分解機構で進行し、分解時の厚み減少は線形性をもつ。PGA樹脂は、この条件を満たすが、成形体が薄い場合は、それでも成形体内部への水の浸透が迅速に起こるため塊状分解となる。この表面分解と塊状分解が切り替わる厚みを、臨界厚みLcと称する。本発明者らは、後述の実施例に示すようにポリグリコール酸単独重合体(PGA)の表面分解特性を確認し、またその臨界厚みを以下のようにして決定した。
【0019】
まず、PGAの微粉体(平均粒径200μm)を用いて、水中における分子量の変化と重量減少の関係について調査を行なった。その結果、GPCにより求めた重量平均分子量(Mw)が5万に到達した時点で、微粉体は重量減少を開始することが分かった。その際の、各温度における当初Mwが例えば20万であるPGA微粉体の重量平均分子量が5万にまで低下するまでの時間(τ)は、40℃水中で278時間、60℃水中で57時間、80℃水中で14時間であった。より多くの温度における実測値にもとづく実験式として、絶対温度(K)におけるMw=5万到達時間(τ)は次式(1)で与えられる。
τ=exp(8240/K − 20.7) ...(1)
【0020】
次いで、PGAの成型片(厚み23mm)を用いて、水中における厚み減少速度について調査を行なった(後記実施例1)。その結果、時間に対して一定の速度で厚み(片側)が減少することが分かった(図2)。また、未分解部分の分子量は分解前の分子量と変化しておらず、成型片が表面分解機構で分解していることが分かった。この時、水の浸透速度が分解速度の支配因子であるため、厚み減少速度(分解速度)は水の浸透速度と同等であるといえる。以上よりPGA成型片の厚み減少速度(=水の浸透速度)(V)は、40℃水中で1.15μm/時間、60℃水中で5.95μm/時間、80℃水中で28.75μm/時間(いずれも片面からの浸透を考えたときの値)であった。より多くの温度における実測値にもとづく実験式として、絶対温度(K)における厚み(片側)の減少速度(V)は次式(2)で与えられる。(以上、後記実施例1)
V=exp(21.332−8519.7/K) ...(2)
【0021】
PGAの分解機構が塊状分解から表面分解へと変化する材料の臨界厚みLcを、各温度(K)における上式(1)および(2)の結果に基づいて、次式(3)から見積もることができる。
臨界厚みLc = 2×τ×V ...(3)
その結果、PGAの臨界厚みは40℃水中で770μm、60℃水中で812μm、80℃水中で852μmであった。
【0022】
以上の式(1)〜(3)に基づき、PGAの表面分解の臨界厚みLcは、以下のように計算された。
【表1】
【0023】
従って、PGAの成形体がこれらの値を超える厚みをもつ際に、水中に両面が露出した成形体の分解機構は表面分解となり、分解時の厚み減少は線形性を有することが分かった。上述したように、本発明においては、ダウンホールツール部材を構成するポリグリコール酸樹脂成形体の有効厚みを、主として温度で定まるダウンホールツールの環境条件における表面分解の臨界厚み(τ)の1/2以上、好ましくは1倍以上、に設定することにより、ダウンホールツール部材の厚み減少速度の線形性に基づいて、ダウンホールツールの崩壊時間の設計が可能になる。
【0024】
(有効厚み)
ダウンホールツール部材を構成するPGA樹脂成形体の有効厚みは、当該ツール部材の要求特性(例えば、結合部材である場合は結合強度特性、それ自体がプラグあるいはシーラーとして用いられる場合は、そのプラグあるいはシール機能)を消失するまでに許容される減少厚み、として定義される。ツール部材成形体の有効厚みは、その主たる二表面がともに作業環境水性媒体に露出される場合は臨界厚みの1倍以上、一面のみが露出される場合は臨界厚みの1/2以上、とし、それぞれの場合について、強度保持特性を考慮して、一般に、上記値の1.2倍以上、更には1.5倍以上、に設定することが好ましい。
【0025】
本発明のダウンホールツール用部材は、ダウンホールツールの形成、補修あるいは拡大等の作業のための、たとえば20〜180℃の所定温度の作業環境水性媒体中において、上記以上の値で且つ所定時間使用された後に自然崩壊させるべく設計された有効厚みで形成されるが、必要に応じて作業終了後にその崩壊を促進するために、例えば加熱スチーム等の注入により周囲環境温度を上昇させてその崩壊を促進することも可能である。
【実施例】
【0026】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明する。以下の例を含めて、本明細書中に記載した特性値は、下記の方法による測定値を基準とするものである。
【0027】
<重量平均分子量(Mw)>
ポリグリコ−ル酸(PGA)およびポリ乳酸(PLA)の重量平均分子量(Mw)は、各10mgの試料を、トリフルオロ酢酸ナトリウムを5mMの濃度で溶解させたヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)に、溶解させて10mLとした後、メンブレンフィルタ―で濾過して試料溶液を得た。この試料溶液の10μlをゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)装置に注入して、下記条件で分子量を測定した。なお、試料溶液は、溶解後、30分以内にGPC装置に注入した。
<GPC測定条件>
装置:Shimazu LC−9A,
カラム:昭和電工(株)製 HFIP−806M 2本(直列接続)+プレカラム:HFIP−LG 1本
カラム温度:40℃、
溶離液:トリフルオロ酢酸ナトリウムを5mMの濃度で溶解させたHFIP溶液、
流速:1mL/分、
検出器:示差屈折率計
分子量校正:分子量の異なる標準分子量のポリメタクリル酸メチル5種(POLYMER LABORATORIES Ltd.製)を用いて作成した分子量の検量線データを使用。
【0028】
<成型片の作成>
後記実施例および比較例の樹脂(組成物)について、水中浸漬による厚み減少速度の測定試験用成型片を、以下のようにして形成した。
まず縦横5cm且つ深さ5mmのステンレスの型枠を用いて、プレス成型により厚み5mmの樹脂シートを作製した。プレス条件は、260℃、予熱4分間、加圧は5MPaで2分間とし、プレス後には水冷却板にて急冷した。次いで作製したシートを数枚重ね合わせ、プレス成型により所定の厚み(12mmまたは23mm)の成型片を作製した。プレス条件は260℃、予熱7分間、加圧は5Mpaで3分間とし、プレス後には水冷却板にて急冷した。作製した成型片をオーブン120℃で1時間熱処理を行うことで結晶化させたのち実験に使用した。
【0029】
(水中分解試験)
1L−オートクレーブ中に、上記のようにして得た樹脂成型片の1個を入れ、脱イオン水を満たして、所定の温度および時間の浸漬試験を行なった。ついで浸漬後の成型片を取り出し、その断面を切り出して、ドライルーム内に一晩放置し乾燥させた。その芯部(未分解の硬い部分)の厚みを測定して、当初厚みとの差により、減少厚み(両面からの減少厚みの合計量の1/2=Δt)を測定した。
【0030】
(実施例1)
当初分子量Mw=20万であるグリコール酸単独重合体(PGA,(株)クレハ製)を用いて上記のようにして得た厚み23mmの成型片の所定量を用意し、温度60℃、80℃、120℃、149℃で、それぞれ上記の方法で水中分解試験を行い、減少厚み(片側)(=Δt)の時間変化を測定した。結果を図2にプロットして示す。図2のプロットを見れば、いずれの温度においても良好な厚み減少速度の直線性が認められる。図2のデータをもとに、片側の厚み変化速度の対数値ln(Δt/h)を縦軸に、絶対温度の逆数(1/K)を横軸にとったアレニウスプロットを図3に示す。これから前述した厚み減少速度(片側)(=V)の温度依存性を示す式(2)(以下に再掲する)が得られた。
V=Δt(mm)/h=exp(21.332−8519.7/K) ...(2)
【0031】
(実施例2)
実施例1で用いたものと同じPGAを用いて厚み12mmの成型片を4枚、上記の方法により調製し、温度149℃で、それぞれ上記の方法で水中分解試験を行い、厚み減少の時間変化を測定した。
【0032】
(比較例1)
重量平均分子量が26万である結晶性ポリ乳酸(PLLA,Nature Works製「Ingeo Biopolymer 4032D」)を用いる以外は実施例2と同様にして厚み12mmの試験片を調製し、水中分解試験を行い、厚み減少の時間変化を測定した。
【0033】
上記実施例2および比較例1の結果をまとめて図4に示す。図4から明らかなように、PGAは良好な厚み減少速度の直線性を示すのに対し、比較例1のPLA成型片は、当初緩やかな減少速度を示し、途中から急激に厚み減少速度が増大して、厚み減少速度に直線性が認められない。
【0034】
(実施例3)
温度を120℃とした以外は実施例2と同様に、水中分解試験を行なった。
【0035】
(実施例4)
容器としてオートクレーブにかわり800mlガラス瓶を使用し、80℃に設定したオーブンに保管した以外は実施例2と同様に、水中分解試験を行なった。
【0036】
(実施例5)
容器としてオートクレーブにかわり800mlガラス瓶を使用し、60℃に設定したオーブンに保管した以外は実施例2と同様に、水中分解試験を行なった。
【0037】
(実施例6)
成型片の原料として実施例1で用いたPGA50重量部にタルク(日本タルク製、「ミクロエースL−1」、体積基準50%平均粒子径=5μm)を50重量部混合した組成物を使用した以外は実施例2と同様に成型片を得、水中分解試験を行なった。
【0038】
(実施例7)
成型片の原料として実施例1で用いたPGA50重量部にケイ砂(JFEミネラル株式会社製、珪砂8号、粒子径範囲=150−212μm)を50重量部混合した組成物を使用した以外は実施例2と同様に成型片を得、水中分解試験を行なった。
【0039】
(実施例8)
成型片の原料として実施例1で用いたPGA90重量部に比較例1で用いた結晶性ポリ乳酸(PLLA)を10重量部混合した組成物を使用した以外は実施例2と同様に成型片を得、水中分解試験を行なった。
【0040】
(比較例2) PGA/PLLA = 70/30
【0041】
成型片の原料として実施例1で用いたPGA70重量部に比較例1で用いたPLLAを30重量部混合した組成物を使用した以外は実施例2と同様に成型片を得、水中分解試験を行なった。
【0042】
(比較例3)
成型片の原料として実施例1で用いたPGA50重量部に比較例1で用いたPLLAを50重量部混合した組成物を使用した以外は実施例1と同様に行なった。
【0043】
実施例3〜8については、図4に示す実施例2と同様な厚み減少速度の直線性が確認された。また、比較例2および3に示すようにPLLA添加量が多くなると比較例1と同様に厚み減少速度の直線性が失われた。
【0044】
上記実施例2〜8および比較例1〜3の概要および結果をまとめて次表2に示す。
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0045】
上述したように本発明によれば、石油およびガスをはじめとする炭化水素資源の回収のためのダウンホールの形成あるいは補修用のツール自体あるいはその一部を形成する部材(ダウンホールツール用部材)として、重量平均分子量が7万以上であるポリグリコール酸樹脂の、有効厚みが表面分解の臨界厚みの1/2以上である成形体を用いて、水中での厚み減少速度の線形性を付与することにより、崩壊までの強度および時間のより精確な設計が可能なダウンホールツール用部材が提供される。
図1
図2
図3
図4