特許第6084679号(P6084679)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6084679-炭素材料およびそれを用いた電極材料 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6084679
(24)【登録日】2017年2月3日
(45)【発行日】2017年2月22日
(54)【発明の名称】炭素材料およびそれを用いた電極材料
(51)【国際特許分類】
   H01G 11/42 20130101AFI20170213BHJP
   C01B 32/05 20170101ALI20170213BHJP
   C08L 65/00 20060101ALI20170213BHJP
   C08L 79/00 20060101ALI20170213BHJP
   H01G 11/48 20130101ALI20170213BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20170213BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20170213BHJP
   H01M 4/60 20060101ALI20170213BHJP
【FI】
   H01G11/42
   C01B31/02 101B
   C08L65/00
   C08L79/00 A
   H01G11/48
   H01M4/36 B
   H01M4/587
   H01M4/60
【請求項の数】8
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-501489(P2015-501489)
(86)(22)【出願日】2014年2月20日
(86)【国際出願番号】JP2014053998
(87)【国際公開番号】WO2014129532
(87)【国際公開日】20140828
【審査請求日】2014年12月11日
【審判番号】不服2016-4789(P2016-4789/J1)
【審判請求日】2016年4月1日
(31)【優先権主張番号】特願2013-31180(P2013-31180)
(32)【優先日】2013年2月20日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080159
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 望稔
(74)【代理人】
【識別番号】100090217
【弁理士】
【氏名又は名称】三和 晴子
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 史生
(72)【発明者】
【氏名】丸山 司
(72)【発明者】
【氏名】酒井 智行
(72)【発明者】
【氏名】今▲崎▼ 善正
【合議体】
【審判長】 森川 幸俊
【審判官】 酒井 朋広
【審判官】 井上 信一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−023196(JP,A)
【文献】 特開2007−234346(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/050104(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G11/00-11/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
比表面積が、750〜3000m2/gであり、
メチレンブルー吸着性能が、150ml/g以上であり、
励起波長532nmのレーザーラマン分光測定により求めたスペクトルが、1250〜1700cm-1の範囲に少なくとも3つのピークを示し、
ゼータ電位の等電点が、pH3.0〜pH5.5の範囲内にある、炭素材料。
【請求項2】
多孔質炭素材料と導電性高分子との複合体からなる、請求項1に記載の炭素材料。
【請求項3】
前記導電性高分子が、窒素原子を有する導電性高分子および/または硫黄原子を有する導電性高分子である、請求項に記載の炭素材料。
【請求項4】
前記窒素原子を有する導電性高分子が、ポリアニリン、ポリピロール、ポリピリジン、ポリキノリン、ポリチアゾール、ポリキノキサリンおよびこれらの誘導体からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項に記載の炭素材料。
【請求項5】
前記硫黄原子を有する導電性高分子が、ポリチオフェン、ポリシクロペンタジチオフェンおよびこれらの誘導体からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項またはに記載の炭素材料。
【請求項6】
前記導電性高分子が、ポリフルオレンおよびこの誘導体からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項に記載の炭素材料。
【請求項7】
請求項1〜のいずれかに記載の炭素材料を用いた電極材料。
【請求項8】
請求項に記載の電極材料を用いた電気化学素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素材料およびそれを用いた電極材料ならびに電気化学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
電気化学素子としてリチウムイオン二次電池と電気二重層キャパシタが知られている。
一般に、リチウムイオン二次電池は、電気二重層キャパシタと比べ、エネルギー密度が高く、また長時間の駆動が可能である。
一方、電気二重層キャパシタは、リチウムイオン二次電池と比べ、急速な充放電が可能であり、また繰り返し使用の寿命が長い。
また近年、このようなリチウムイオン二次電池と電気二重層キャパシタのそれぞれの利点を兼ね備えた電気化学素子としてリチウムイオンキャパシタが開発されており、更に、コスト低減の観点から、ナトリウムイオンキャパシタ(ナトリウムイオン型蓄電デバイス)が開発されている。
【0003】
例えば、電気二重層キャパシタとして、本出願人は、特許文献1において「ポリアニリン又はその誘導体を、活性炭、ケッチェンブラック、アセチレンブラック及びファーネスブラックから選ばれた炭素系材料に複合化させてなるポリアニリン/炭素複合体であって、前記ポリアニリン又はその誘導体が、非極性有機溶媒中に分散した導電性ポリアニリン又はその誘導体を、塩基処理して脱ドープしたものであるポリアニリン/炭素複合体を用いた電気二重層キャパシタ用電極材料。」を提供している。
また、同様に、特許文献2において「窒素原子を有する導電性高分子と多孔質炭素材料との複合体であって、前記導電性高分子が、前記多孔質炭素材料の表面に結合しており、前記導電性高分子および前記多孔質炭素材料を混合させた後、熱重量分析で測定した前記導電性高分子の分解温度よりも20℃以上低い温度で熱処理を施して脱ドープすることにより得られ、BJH法で測定した0.5〜100.0nmの直径を有する全細孔の全細孔容積が、0.3〜3.0cm3/gであり、BJH法で測定した2.0nm以上20.0nm未満の直径を有する細孔の細孔容積の比率が、前記全細孔容積に対して10%以上である複合体。」を提供している。
【0004】
更に、リチウムイオンキャパシタとして、本出願人は、特許文献3において「リチウムイオンキャパシタ用電極材料であって、窒素原子を有する導電性高分子と多孔質炭素材料との複合体を活物質として含有し、前記導電性高分子が、前記多孔質炭素材料の表面に結合しており、前記導電性高分子および前記多孔質炭素材料を混合させた後、熱重量分析で測定した前記導電性高分子の分解温度よりも20℃以上低い温度で熱処理を施して脱ドープすることにより得られ、BJH法で測定した0.5〜100.0nmの直径を有する全細孔の全細孔容積が、0.3〜3.0cm3/gであり、BJH法で測定した2.0nm以上20.0nm未満の直径を有する細孔の細孔容積の比率が、前記全細孔容積に対して10%以上であるリチウムイオンキャパシタ用電極材料。」を提供している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4294067号公報
【特許文献2】特許第5110147号公報
【特許文献3】特許第5041058号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、特許文献1〜3に記載の電極材料や複合体について検討した結果、例えば、スケールアップして作製した電極材料や複合体を用いた場合等に、電気化学素子の静電容量に改善の余地があることを明らかとした。
【0007】
そこで、本発明は、静電容量の高い電気化学素子を得ることができる電極材料および電極材料に用いる炭素材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討した結果、比表面積およびメチレンブルー吸着性能が特定の範囲にあり、かつ、所定のラマンスペクトルが特定数のピークを示す炭素材料を電極材料として用いることにより、静電容量の高い電気化学素子が得られることを見出し、本発明を完成させた。即ち、本発明は、下記(1)〜(9)を提供する。
【0009】
(1)比表面積が、750〜3000m2/gであり、
メチレンブルー吸着性能が、150ml/g以上であり、
励起波長532nmのレーザーラマン分光測定により求めたスペクトルが、1250〜1700cm-1の範囲に少なくとも3つのピークを示す、炭素材料。
(2)ゼータ電位の等電点が、pH3.0〜pH5.5の範囲内にある、上記(1)に記載の炭素材料。
(3)多孔質炭素材料と導電性高分子との複合体からなる、上記(1)または(2)に記載の炭素材料。
(4)上記導電性高分子が、窒素原子を有する導電性高分子および/または硫黄原子を有する導電性高分子である、上記(3)に記載の炭素材料。
(5)上記窒素原子を有する導電性高分子が、ポリアニリン、ポリピロール、ポリピリジン、ポリキノリン、ポリチアゾール、ポリキノキサリンおよびこれらの誘導体からなる群から選択される少なくとも1種である、上記(4)に記載の炭素材料。
(6)上記硫黄原子を有する導電性高分子が、ポリチオフェン、ポリシクロペンタジチオフェンおよびこれらの誘導体からなる群から選択される少なくとも1種である、上記(4)または(5)に記載の炭素材料。
(7)上記導電性高分子が、ポリフルオレンおよびこの誘導体からなる群から選択される少なくとも1種である、上記(3)に記載の炭素材料。
(8)上記(1)〜(7)のいずれかに記載の炭素材料を用いた電極材料。
(9)上記(8)に記載の電極材料を用いた電気化学素子。
【発明の効果】
【0010】
以下に説明するように、本発明によれば、静電容量の高い電気化学素子を得ることができる電極材料および電極材料に用いる炭素材料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例1および標準例で調製した炭素材料のラマンスペクトルを示すチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
〔炭素材料〕
本発明の炭素材料は、比表面積が750〜3000m2/gであり、メチレンブルー吸着性能が、150ml/g以上であり、励起波長532nmのレーザーラマン分光測定により求めたスペクトル(以下、単に「ラマンスペクトル」ともいう。)が1250〜1700cm-1の範囲に少なくとも3つのピークを示す炭素材料である。
ここで、「比表面積」とは、JIS K1477:2007で規定された試験方法に従い、窒素吸着によるBET法を用いて測定した測定値をいう。
ここで、「メチレンブルー吸着性能」とは、JIS K1474:2007で規定された活性炭試験方法に従い、メチレンブルー溶液の吸着量から算出される値をいう。
また、「ラマンスペクトル」とは、ラマン効果によって散射された光について、どの波長の光がどの程度の強さで散射されたかを示すスペクトルをいい、本発明においては、顕微レーザーラマン分光分析装置 Holo Lab 5000R(Kaiser Optical System Inc.製)を用いて、532nmの励起波長で測定したスペクトルをいう。
【0013】
このような炭素材料を電極材料として用いることにより、静電容量の高い電気化学素子が得られる。
これは、詳細には明らかではないが、本発明者らは以下のように推測している。
まず、本発明の炭素材料の比表面積の範囲(750〜3000m2/g)は、活性炭等の多孔質炭素材料の比表面積と同程度であることを示す規定であり、後述する実施例および比較例に示す通り、特許文献1に記載された電極材料の比表面積とは異なることを示す規定である。
また、本発明の炭素材料のメチレンブルー吸着性能の値は、比表面積と同様、多孔質炭素材料の値と同程度であることを示す規定であり、後述する実施例および比較例に示す通り、特許文献1に記載された電極材料のメチレンブルー吸着性能とは異なることを示す規定である。
また、本発明の炭素材料のラマンスペクトルの規定(1250〜1700cm-1の範囲に少なくとも3つのピークを示すこと)は、約1350cm-1と約1600cm-1に現れる公知の炭素材料(例えば、活性炭、カーボンブラック等)で見られるSP2結合カーボン由来のピークの他に少なくとも1つのピークを示すことを意味し、本発明の炭素材料が、多孔質炭素材料のみから構成されるものではないことを示す規定である。
以上のことから、本発明の炭素材料は、表面性状は多孔質炭素材料と同程度であるにも関わらず、その内部(例えば、多孔質炭素材料の細孔内)に選択的に有機材料(例えば、後述する導電性高分子)が存在していることになるため、接触抵抗にならず、電解質中に存在する支持塩の吸着(取り込み)を阻害することなく、静電容量の向上を図ることができたと考えられる。
【0014】
本発明の炭素材料の比表面積は、支持電解質の吸脱着の観点から、750〜2800m2/gであるのが好ましく、800〜2600m2/gであるのがより好ましい。
また、本発明の炭素材料の等電点は、pH3.5〜pH5.0の範囲内にあるのが好ましい。
【0015】
また、本発明の炭素材料は、より高い静電容量の電気化学素子を得ることができる電極材料となる理由から、メチレンブルー吸着性能が150〜300ml/gであるのがより好ましく、160〜300ml/gであるのが更に好ましい。
【0016】
また、本発明の炭素材料は、より高い静電容量の電気化学素子を得ることができる電極材料となる理由から、ゼータ電位の等電点が、pH3.0〜pH5.5の範囲内にあるのが好ましい。
ここで、「ゼータ電位の等電点」とは、JIS R1638:1999で規定された等電点測定方法に従い、電気泳動レーザー・ドップラー法によって測定されるゼータ電位がゼロになるpH値をいう。
また、ゼータ電位の等電点の範囲(pH3.0〜pH5.5)は、比表面積と同様、多孔質炭素材料の等電点と同程度であることを示す規定であり、後述する実施例および比較例に示す通り、特許文献1に記載された電極材料の等電点とは異なることを示す規定である。
【0017】
また、本発明の炭素材料は、半永久的な充放電特性や高速充放電特性を維持することができ、より高い静電容量の電気化学素子を得ることができる電極材料となる理由から、後述する多孔質炭素材料と導電性高分子との複合体からなるのが好ましい。
ここで、「複合体」とは、一般的に、複合して(二つ以上のものが合わさって)一体をなしているものをいうが、本発明においては、導電性高分子の少なくとも一部が、多孔質炭素材料の細孔内部に吸着されている状態をいう。
【0018】
<導電性高分子>
上記複合体を構成する導電性高分子は、ドーパントを導入することで導電性(例えば、電導度が10-9Scm-1以上)を発現する高分子であれば特に限定されず、ドーパントによりドープされた高分子であってもよく、それを脱ドープした高分子であってもよく、例えば、窒素原子を有する導電性高分子(以下、「含窒素導電性高分子」という。)、硫黄原子を有する導電性高分子(以下、「含硫黄導電性高分子」という。)、ポリフルオレン誘導体等が挙げられる。
これらのうち、電気化学的に安定であり、かつ、入手し易いという理由から、後述する含窒素導電性高分子および含硫黄導電性高分子であるのが好ましい。
【0019】
上記含窒素導電性高分子としては、具体的には、例えば、ポリアニリン、ポリピロール、ポリピリジン、ポリキノリン、ポリチアゾール、ポリキノキサリン、これらの誘導体等が挙げられ、これらを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
また、上記含硫黄導電性高分子としては、具体的には、例えば、ポリチオフェン、ポリシクロペンタジチオフェン、これらの誘導体等が挙げられ、これらを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
これらのうち、含窒素導電性高分子であるのが好ましく、ポリアニリン、ポリピリジンおよびこれらの誘導体であるのが、原料が安価であり、合成が容易であるという理由からより好ましい。
【0020】
このような導電性高分子の平均分子量は、多孔質炭素材料の細孔を塞ぐことなく、かつ、安定的な充放電特性を示す理由から、1000〜2000000であるのが好ましく、3000〜1500000であるのがより好ましく、5000〜1000000であるのが更に好ましい。
ここで、平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いて測定し、分子量が既知のポリスチレンで換算した値、または、光散乱法(静的光散乱法)を用いて測定した値をいう。
【0021】
また、このような導電性高分子の調製方法は特に限定されず、対応するモノマー(例えば、アニリン、ピリジン等)を非極性溶媒や非プロトン性溶媒中で化学重合(例えば、酸化重合、脱ハロゲン化重合等)させることにより、導電性高分子の分散液として製造することができる。
ここで、上述したドーパントや、化学重合のための添加剤(例えば、酸化剤、分子量調整剤、相間移動触媒等)については、いずれも特許文献1に記載されたものを適宜用いることができる。
【0022】
また、このような導電性高分子としては、市販品を用いることもできる。
市販品としては、具体的には、例えば、日産化学産業製のポリアニリン有機溶媒分散液(商品名:オルメコン)、日産化学産業製のポリアニリン水分散液、化研産業製のポリアニリン分散液(トルエン分散液、水分散液)、アルドリッチ社製のポリアニリンキシレン分散液、信越ポリマー製のポリチオフェン分散液(商品名:セプルジーダ)、アルドリッチ社製のポリチオフェン分散液(製品番号:483095、739324、739332など)、日本カーリット製のポリピロール分散液などが挙げられる。
【0023】
<多孔質炭素材料>
上記複合体を構成する多孔質炭素材料は、比表面積が750〜3000m2/gの炭素材料であるのが好ましい。
【0024】
上記多孔質炭素材料としては、具体的には、例えば、活性炭、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、ホウ素含有多孔質炭素材料、窒素含有多孔質炭素材料等が挙げられ、これらを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
これらのうち、入手が容易である理由から、活性炭、カーボンブラックおよびカーボンナノチューブからなる群から選択される少なくとも1種であるのが好ましい。
ここで、活性炭は、特に限定されず、公知の炭素電極等で用いられる活性炭粒子を使用することができ、その具体例としては、ヤシ殻、木粉、石油ピッチ、フェノール樹脂等を水蒸気、各種薬品、アルカリ等を用いて賦活した活性炭粒子およびファイバー状のものが挙げられ、これらを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
また、カーボンブラックは、特に限定されず、公知の電気二重層キャパシタの電極材料で用いられる微粒子炭素を使用することができ、その具体例としては、ファーネスブラック、チャンネルブラック、ランプブラック、サーマルブラック等が挙げられる。
また、カーボンナノチューブは、特に限定されず、公知の電気二重層キャパシタの電極材料で用いられる繊維状炭素を使用することができ、グラフェンシートが1層の単層カーボンナノチューブであってもよく、グラフェンシートが2層以上の多層カーボンナノチューブであってもよい。
【0025】
〔炭素材料の製造方法〕
本発明の炭素材料の製造方法は特に限定されないが、例えば、上述した導電性高分子および多孔質炭素材料からなる複合体の調製方法としては、以下に示す各種方法が挙げられる。
【0026】
<複合体の調製方法(その1)>
多孔質炭素材料を溶媒(例えば、トルエン等の非極性溶媒)に分散させた分散溶液(以下、「多孔質炭素材料分散液」という。)を調製し、90〜130℃程度に加熱して溶媒の粘度を低減させた後、予め導電性高分子を溶媒(例えば、トルエン等の非極性溶媒)に分散させた分散液(以下、「導電性高分子分散液」という。)を添加し、これらを混合させた後、必要に応じて脱ドープによりドーパントを取り除くことで、導電性高分子と多孔質炭素材料とを複合化させることができる。
なお、脱ドープする方法としては、例えば、ドープされている導電性高分子を脱ドーピングし、ドーパントを中和できる塩基処理を施す方法や、ドーパントに対して導電性高分子が壊れない温度で熱処理を施す方法等が挙げられ、具体的には、特許文献2および3に記載された方法を採用することができる。
【0027】
<複合体の調製方法(その2)>
調製方法(その1)に記載した多孔質炭素材料分散液および導電性高分子分散液をそれぞれ調製し、予め高圧ホモジナイザーで処理した導電性高分子分散液と、多孔質炭素材料分散液とを、高圧ホモジナイザーで混合させた後、必要に応じて脱ドープによりドーパントを取り除くことで、導電性高分子と多孔質炭素材料とを複合化させることができる。
【0028】
<複合体の調製方法(その3)>
多孔質炭素材料を溶媒(例えば、メタノール等の極性溶媒)に分散させた分散溶液と、導電性高分子を溶媒(例えば、トルエン等の非極性溶媒)に分散させた分散液とを混合させた後、必要に応じて脱ドープによりドーパントを取り除くことで、導電性高分子と多孔質炭素材料とを複合化させることができる。
【0029】
〔電極材料および電気化学素子〕
本発明の電極材料は、上述した本発明の炭素材料を活物質として用いる電極材料であり、例えば、電気化学素子(例えば、電気二重層キャパシタ、リチウムイオン二次電池、リチウムイオンキャパシタ、ナトリウムイオンキャパシタなど)の電極材料として好適に用いることができる。
具体的には、本発明の電極材料は、電気二重層キャパシタの分極性電極、リチウムイオン二次電池の負極、リチウムイオンキャパシタの負極等の電極材料に好適に用いることができる。
なお、本発明の電気化学素子は、電極材料に上述した本発明の電極材料を用いる以外は、従来公知の構成を採用することができ、従来公知の製造方法により製造することができる。
【実施例】
【0030】
以下、実施例を示して、本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0031】
<ポリアニリントルエン分散液の調製>
トルエン3000gにアニリン135g、ドデシルベンスルホン酸330gおよび分子量調整剤(末端封止剤)として2,4,6−トリメチルアニリン0.15g(アニリンに対して0.001当量)を溶解させた後、6N塩酸250mLを溶解した蒸留水800gを加えた。
この混合溶液にテトラブチルアンモニウムブロマイド30gを添加し、5℃以下に冷却した後、過硫酸アンモニウム315gを溶解させた蒸留水1200gを加えた。
5℃以下の状態で6時間酸化重合を行なった後、メタノール水混合溶媒(水/メタノール=2/3(質量比))を加え撹拌を行なった。
撹拌終了後、トルエン層を水層に分離した反応溶液のうち、水層のみを除去することによりポリアニリントルエン分散液を得た。
ポリアニリントルエン分散液を一部採取し、トルエンを真空留去したところ分散液中に固形分13質量%(ポリアニリン含有量:4.3質量%、ポリアニリン数平均分子量:100000)が含まれていた。
また、この分散液を孔径1.0μmのフィルターでろ過したところ目詰まりすることはなく、分散液中のポリアニリン粒子の粒子径を超音波粒度分布測定器(APS−100、Matec Applied Sciences社製)で解析した結果、粒度分布は単分散(ピーク値:0.19μm、半値幅:0.10μm)であることが分かった。
さらに、この分散液は室温1年間経過した後も凝集、沈殿することはなく安定であった。元素分析からドデシルベンゼンスルホン酸のアニリンモノマーユニット当りのモル比は0.45であった。得られたポリアニリンの収率は95%であった。
【0032】
<ポリピリジン水分散液の調製>
脱水ジメチルホルムアミド50gに、2,5−ジブロモピリジン5g、分子量調整剤として2−ブロモピリジン0.5g(ピリジンモノマーに対して0.15当量)、重縮合剤としてビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル9gを溶解させた後、窒素下60℃で16時間重合反応を行った。
反応終了後、以下の操作によりポリピリジンの精製を行った。
まず、反応溶液を0.5mol/Lの塩酸水溶液200mLに注ぎ、室温下で2時間撹拌した後に、沈殿物をろ別し、回収した。
次いで、回収した沈殿物を、再度、0.5mol/Lの塩酸水溶液200mL中で、室温下で8時間撹拌した後に、沈殿物をろ別し、回収した。
次いで、回収した沈殿物を、0.1mol/Lのアンモニア水溶液200mL中で、室温下3時間撹拌することにより、ポリピリジンの単離精製を行った。
得られたポリピリジン粉末を、真空下で乾燥した。収量は、1.72g(収率92%)であった。
予めポリピリジン粉末0.8gを88%ギ酸9.2gに溶解させて調製したポリピリジンギ酸溶液と18%ポリスチレンスルホン酸水溶液15gとを混合撹拌した後、175gの蒸留水を加えてポリピリジン水分散液(ポリピリジン含有量:0.4質量%、ポリピリジン数平均分子量:10000)を調製した。
分散液中のポリピリジン粒子の粒子径を超音波粒度分布測定器(APS−100、Matec Applied Sciences社製)で解析した結果、粒度分布は単分散(ピーク値:0.25μm、半値幅:0.12μm)であることが分かった。
【0033】
<ポリピロールトルエン分散液の調製>
トルエン150gにピロール3g、ドデシルベンゼンスルホン酸12.0gおよび分子量調整剤(末端封止剤)として2−メチルピロール0.15gを溶解させた後、6N塩酸5.36mLを溶解した蒸留水75gを加えた。
この混合溶媒にテトラブチルアンモニウムブロマイド0.9gを添加し、0℃以下の状態で6時間酸化重合を行った後、トルエン100g、ついでメタノール/水混合溶媒(メタノール:水=2:3(質量比))を加え撹拌を行った。
撹拌終了後、トルエン層と水層に分離した反応溶液のうち、水層のみを除去することによりポリピロールトルエン分散液を得た。
ポリピロールトルエン分散液を一部採取し、トルエンを真空蒸留したところ分散液中に固形分4.1質量%(ポリピロール含有量:1.2質量%)が含まれていた。また、この分散液を孔径1.0μmのフィルターでろ過したところ目詰まりすることはなかった。更に、この分散液を室温で1年間経過した後も凝集、沈澱することはなく安定なままであった。元素分析からドデシルベンゼンスルホン酸のアニオンモノマーユニット当りモル比は0.95であった。得られたポリピロールの収率は94%であった。
【0034】
<ポリチオフェントルエン分散液の調製>
ポリ(3−ドデシルチオフェンー2,5−ジイル)(アルドリッチ社製、平均分子量60000)をトルエンに分散させて使用した(固形分1.2質量%)。
【0035】
<ポリフルオレントルエン分散液の調製>
ポリ(9,9’−ジドデシルフルオレニルー2,7−ジイル)(アルドリッチ社製)をトルエンに分散させて使用した(固形分1.2質量%)。
【0036】
<実施例1〜7(調製方法A)>
最初に、トルエン1000g中に、活性炭(NY1151、比表面積:1325m2/g、1次平均粒子径:5μm、比抵抗:1.5×10-1Ω・cm、クラレケミカル社製)300gを分散させた活性炭トルエン分散液を調製した。
次いで、100℃に加熱した活性炭トルエン分散液に、先に調製したポリアニリントルエン分散液(ポリアニリン含有量:4.3質量%)をポリアニリンの配合量が下記第1表に示す値(括弧内の数値)となるように添加し、これらを混合した混合分散液を調製した。
この混合分散液にトリエチルアミン30mLを添加した後、5時間撹拌混合行なった。
撹拌終了後、沈殿物を濾別回収し、メタノールで洗浄した。この時の濾液および洗浄液は、無色透明であった。
洗浄精製された沈殿物を真空乾燥することによりポリアニリン/活性炭複合体からなる炭素材料を調製した。
【0037】
<実施例8(調製方法A)>
ポリアニリントルエン分散液に代えて、先に調製したポリピリジン水分散液を用いた以外は、実施例1と同様の方法で、ポリピリジン/活性炭複合体からなる炭素材料を調製した。なお、後述するように、実施例8で調製した炭素材料については、評価用電極を負極に配置して電気二重層キャパシタを作製した。
【0038】
<実施例9(調製方法A)>
ポリアニリントルエン分散液に代えて、先に調製したポリピロールトルエン分散液を用いた以外は、実施例1と同様の方法で、ポリピロール/活性炭複合体からなる炭素材料を調製した。
【0039】
<実施例10(調製方法A)>
ポリアニリントルエン分散液に代えて、先に調製したポリチオフェントルエン分散液を用い、トリエチルアミンを用いた脱ドープ処理を施さなかった以外は、実施例1と同様の方法で、ポリチオフェン/活性炭複合体からなる炭素材料を調製した。
【0040】
<実施例11(調製方法A)>
ポリアニリントルエン分散液に代えて、先に調製したポリフルオレントルエン分散液を用いた以外は、実施例1と同様の方法で、ポリフルオレン/活性炭複合体からなる炭素材料を調製した。
【0041】
<実施例12〜14(調製方法B)>
最初に、メタノール1000g中に、活性炭(NY1151、比表面積:1325m2/g、1次平均粒子径:5μm、比抵抗:1.5×10-1Ω・cm、クラレケミカル社製)300gを分散させた活性炭メタノール分散液を調製した。
次いで、活性炭メタノール分散液に、先に調製したポリアニリントルエン分散液(ポリアニリン含有量:4.3質量%)をポリアニリンの配合量が下記第1表に示す値(括弧内の数値)となるように添加し、これらを混合した混合分散液を調製した。
この混合分散液にトリエチルアミン30mLを添加した後、5時間撹拌混合行なった。
撹拌終了後、沈殿物を濾別回収し、メタノールで洗浄した。この時の濾液および洗浄液は、無色透明であった。
洗浄精製された沈殿物を真空乾燥することによりポリアニリン/活性炭複合体からなる炭素材料を調製した。
【0042】
<実施例15〜17(調製方法C)>
最初に、トルエン1000g中に、活性炭(NY1151、比表面積:1325m2/g、1次平均粒子径:5μm、比抵抗:1.5×10-1Ω・cm、クラレケミカル社製)300gを分散させた活性炭トルエン分散液を調製した。
次いで、活性炭トルエン分散液に、予め高圧ホモジナイザー(スギノマシン製スターバーストラボ、圧力:150MPa、チャンバーノズル径:φ0.75mm)で処理したポリアニリントルエン分散液(ポリアニリン含有量:4.3質量%)をポリアニリンの配合量が下記第1表に示す値(括弧内の数値)となるように添加し、これらを混合した混合分散液を更に高圧ホモジナイザー(スギノマシン製スターバーストラボ、圧力:150MPa、チャンバーノズル径:φ0.75mm)で処理して調製した。
この混合分散液にトリエチルアミン30mLを添加した後、5時間撹拌混合行なった。
撹拌終了後、沈殿物を濾別回収し、メタノールで洗浄した。この時の濾液および洗浄液は、無色透明であった。
洗浄精製された沈殿物を真空乾燥することによりポリアニリン/活性炭複合体からなる炭素材料を調製した。
【0043】
参考例18>
活性炭とポリアニリンの配合量が下記第1表に示す値(括弧内の数値)となるように添加した以外は、実施例1と同様の方法(調製方法A)で、ポリアニリン/活性炭複合体からなる炭素材料を調製した。
【0044】
参考例19>
活性炭とポリアニリンの配合量が下記第1表に示す値(括弧内の数値)となるように添加した以外は、実施例12と同様の方法(調製方法B)で、ポリアニリン/活性炭複合体からなる炭素材料を調製した。
【0045】
参考例20>
活性炭とポリアニリンの配合量が下記第1表に示す値(括弧内の数値)となるように添加した以外は、実施例15と同様の方法(調製方法C)で、ポリアニリン/活性炭複合体からなる炭素材料を調製した。
【0046】
<比較例1〜7(調製方法D)>
下記第1表に示す量のポリアニリントルエン分散液に、下記第1表に示す量の活性炭(NY1151、比表面積:1325m2/g、1次平均粒子径:5μm、比抵抗:1.5×10-1Ω・cm、クラレケミカル社製)を添加することにより混合分散液を得た。
この混合分散液に2モル/リットルのトリエチルアミンメタノール溶液120mLを添加した後、5時間撹拌混合行なった。
撹拌終了後、沈殿物を濾別回収し、メタノールで洗浄した。この時の濾液および洗浄液は、無色透明であった。
洗浄精製された沈殿物を真空乾燥することによりポリアニリン/活性炭複合体からなる炭素材料を調製した。
【0047】
<標準例>
標準例として、活性炭(NY1151、比表面積:1325m2/g、1次平均粒子径:5μm、比抵抗:1.5×10-1Ω・cm、クラレケミカル社製)を炭素材料として用いた。
【0048】
<表面性状等>
調製した各炭素材料について、比表面積、ゼータ電位の等電点、ラマンスペクトルおよびメチレンブルー吸着性能について、以下に示す方法により測定した。これらの結果を下記第1表に示す。
(比表面積)
JIS K1477:2007で規定された試験方法に従い、高精度ガス/蒸気吸着量測定装置(BELSORP−max、日本ベル社製)を用いて、窒素吸着によるBET法を用いて測定した。
(ゼータ電位の等電点)
JIS R1638:1999で規定された等電点測定方法に従い、ゼータ電位測定システム(ELSZ−1000ZS、大塚電子製)を用いて、電気泳動レーザー・ドップラー法によって測定されるゼータ電位がゼロになるpH値を測定した。
(ラマンスペクトル)
ラマンスペクトルは、顕微レーザーラマン分光分析装置 Holo Lab 5000R(Kaiser Optical System Inc.製)を用いて、532nmの励起波長で測定した。なお、実施例1および標準例で作製した炭素材料のラマンスペクトルのチャートを図1に示す。
(メチレンブルー吸着性能)
JIS K1474:2007で規定された活性炭試験方法に従い、分光光度計(UH5300、日立社製)を用いて、メチレンブルー溶液の吸着量を算出した。
【0049】
<静電容量>
調製した各炭素材料、導電助剤(アセチレンブラック)、および、結着剤(ポリフルオロエチレン樹脂)を、質量比で85:10:5の比で混合分散させた後、加圧ロールでシート状へと成型した。得られたシートからディスク状(直径1.6cm)に切り出し、各評価用電極(25mg)を作製した。
作製した各評価用電極を正極に用いた電気二重層キャパシタについて、東洋システム株式会社製3極式簡易型評価セルを用いて静電容量を測定した。電解液は、テトラエチルアンモニウム四フッ化ホウ素のプロピレンカーボネート溶液を濃度1.0モル/リットルで用いた。なお、参照電極は、銀線(vs.Ag/Ag+)を用いた。
負極は、活性炭、導電助剤(アセチレンブラック)、および、結着剤(ポリフルオロエチレン樹脂)を、質量比で85:10:5の比で混合分散させた後、加圧ロールでシート状へと成型し、得られたシートからディスク状(直径1.6cm)に切り出した電極(30mg)を用いた。なお、正極と負極との間には、セパレーター(ガラス繊維紙、日本板ガラス社製)を介在させた。
一方、上述したとおり、実施例8については、上記と同じ方法で作製した評価用電極を負極として用い、正極として、活性炭、導電助剤(アセチレンブラック)、および、結着剤(ポリフルオロエチレン樹脂)を、質量比で85:10:5の比で混合分散させた後、加圧ロールでシート状へ成型し、そのシートからディスク状(直径1.6cm)に切り出した電極(30mg)を用いた以外は、上記と同じ方法で電気二重層キャパシタを作製し、静電容量を測定した。
【0050】
【表1】
【0051】
【表2】
【0052】
【表3】
【0053】
上記第1表に示す結果から、ラマンスペクトルのピーク数が3本であっても、比表面積が小さく、メチレンブルー吸着性能が150ml/g未満となる炭素材料(電極材料)、すなわち、活性炭の表面にも導電性高分子が吸着したと考えられる炭素材料は、3電極法により評価した静電容量が標準例と同程度となることが分かった(比較例1〜7)。
これに対し、ラマンスペクトルのピーク数が3本であり、かつ、比表面積およびメチレンブルー吸着性能が所定の範囲内にある炭素材料(電極材料)は、3電極法により評価した静電容量が標準例や比較例と比較しても15〜30%程度向上していることが分かった(実施例1〜17および参考例18〜20)。
特に、実施例4等と参考例18との対比、実施例13等と参考例19との対比、実施例16等と参考例20との対比から、ゼータ電位の等電点がpH3.0〜pH5.5の範囲内であると、静電容量がより向上する傾向があることが分かった。
図1