(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
便座を開閉するための蓋体駆動装置として特許文献1のギヤードモータを用いれば、洋式便器の消費電力を抑制しなら、便座を自動で開閉することが可能となる。
【0006】
しかし、便座のような蓋体は、洋式便器の使用者により手動によって開閉されることがある。従って、特許文献1のギヤードモータを蓋体駆動装置として用いる場合には、出力軸の側から回転力(トルク)が入力される場合を考慮しなければならない。
【0007】
ここで、特許文献1のギヤードモータに対して出力軸の側から回転力が入力されると、機構的にギヤードモータがロック状態に陥り、動かなくなることがある。
【0008】
本発明の課題は、かかる問題点に鑑みて、小型のモータを駆動源としながら大きなトルクを得ることができ、蓋体の側から回転力が入力された場合でもロックすることがない蓋体駆動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明は、モータ、出力軸および前記モータの回転を当該出力軸に伝達する駆動力伝達機構
、前記駆動力伝達機構を搭載するフレームを有し、前記駆動力伝達機構が前記モータの回転を減速する不思議遊星歯車機構を備え、前記モータの駆動により前記出力軸に連結された蓋体を開閉する蓋体駆動装置において、前記不思議遊星歯車機構は、前記出力軸と同軸で軸線方向に離間する位置に配置された第1内歯歯車および第2内歯歯車と、前記第1内歯歯車と噛合する第1遊星歯車および当該第1遊星歯車と同軸に配置されて前記第2内歯歯車と噛合する第2遊星歯車と、前記第1遊星歯車および前記第2遊星歯車を支軸回りに自転可能に保持する遊星キャリアと、前記第2遊星歯車と噛合する太陽歯車と、を備え、前記太陽歯車は、入力要素であり、前記第1内歯歯車は、出力要素であり、前記第2内歯歯車は、固定要素であり、前記第1遊星歯車および前記第2遊星歯車は一体であり、前記第1遊星歯車と前記第1内歯歯車とが噛合して接触している第1接触部t1から前記支軸の軸線までの第1距離と、前記第2遊星歯車と前記第2内歯歯車とが噛合して接触している第2接触部t2から前記支軸の軸線までの第2距離とは相違しており、前記第1距離と前記第2距離との大小関係が変化することがな
く、前記フレームにおいて前記第2内歯歯車を保持している保持部と当該第2内歯歯車の間には、予め設定したトルク以上のトルクが前記第2内歯歯車に加わったときに、前記保持部に
対して前記第2内歯歯車をスライドさせるトルクリミッタが配置されており、前記保持部は、前記軸線方向に突出しており、前記第2内歯歯車の内周側に挿入されて当該第2内歯歯車を内周側から保持し、前記トルクリミッタは、前記保持部において前記第2内歯歯車と対峙する外周面部分と前記第2内歯歯車との間に構成されていることを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、駆動力伝達機構が大きな減速比を備える不思議遊星歯車機構を有するので、小型のモータを駆動源とした場合でも、高いトルクを得ることができる。また、第1内歯歯車および第2内歯歯車には、それぞれ別々の遊星歯車が噛合しており、第1遊星歯車と第1内歯歯車とが噛合し接触している第1接触部から支軸の軸線までの第1距離と、第2遊星歯車と第2内歯歯車とが噛合し接触している第2接触部t2から支軸の軸線までの第2距離との大小関係が、出力軸の側から回転力が入力された場合でも逆転することがなく同一の状態に維持される。従って、蓋体を手動で回転させるなどした場合でも、遊星歯車機構がロック状態に陥ることを回避できる。
また、本発明によれば、出力軸の側から過大な回転力が入力された場合などに、駆動力伝達機構の破損を抑制或いは回避できる。すなわち、蓋体を手動で高速に回転させたり、蓋体駆動装置による駆動方向とは反対向きに手動で回転させたりして、出力軸の側から駆動力伝達機構に過大なトルクが入力されると、このトルクとモータのコギングトルクの双方が駆動力伝達機構に働いて当該駆動力伝達機構を破損させることがある。これに対して、トルクリミッタを備えれば、出力軸の側から過大なトルクが入力された場合に、このトルクが、モータから出力軸に向かう駆動力伝達方向においてトルクリミッタよりも上流側に位置する駆動力伝達機構の機構部分にまで伝達されることを防止できる。従って、駆動力伝達機構の破損を抑制或いは回避できる。更に、トルクリミッタとしてラチェットを用いた機構やトレランスリングを用いることができる。
【0011】
本発明において、第1距離と第2距離との大小関係を変化させないためには、前記第1遊星歯車と前記第2遊星歯車とはピッチ円直径が相違しており、前記ピッチ円直径が小さい一方の遊星歯車の歯先は他方の遊星歯車の歯底よりも径方向の外側に位置していることが望ましい。このようにすれば、第1内歯歯車のピッチ円直径と第2内歯歯車のピッチ円直径が近い値となり、第1内歯歯車の歯数と第2内歯歯車の歯数の差を小さくすることが容易となるので、不思議遊星歯車機構の減速比を高めることができる。また、第1遊星歯車と第2遊星歯車との接合部分の面積を確保することができるので、これらの接合部分の強度を向上させることができる。
【0012】
本発明において、前記第1遊星歯車と前記第2遊星歯車とは、歯数が同一であることが望ましい。すなわち、第1距離と第2距離との大小関係を変化させないためには、第1遊星歯車と第2遊星歯車との間でモジュールを同一として歯数を変えてピッチ円直径を相違させることもできるが、歯数を同一としてピッチ円直径を相違させれば、遊星歯車機構を構成する際に歯の位置を合わせる必要がなくなるので、遊星歯車機構の組み立てが容易となる。
【0014】
本発明において、前記第1内歯歯車は、前記出力軸と一体であることが望ましい。このようにすれば、遊星歯車機構は、モータから出力軸の側に向かう駆動力伝達方向の下流端に配置される。ここで、減速比の高い不思議遊星歯車機構からなる遊星歯車機構を駆動力伝達機構における駆動力伝達方向の下流端に配置しておけば、遊星歯車機構よりも上流側に位置する機構部分にかかる負荷(トルク)を小さくすることができる。従って、遊星歯車機構よりも上流側に位置する機構部分を樹脂などの強度が低い材料から構成して、装置の製造コストを抑制できる。
【0015】
本発明において、前記第1内歯歯車、前記第1遊星歯車、前記第2遊星歯車、前記支軸、および、前記第2内歯歯車は、金属製であることが望ましい。このようにすれば、出力軸の側から過大な回転力が入力された場合に、モータから出力軸に向かう駆動力伝達方向においてトルクリミッタよりも下流側に位置する駆動力伝達機構の機構部分の破損を回避できる。
【0017】
本発明において、前記トルクリミッタは、トレランスリングであり、前記トレランスリングは、前記保持部の前記外周面部分に装着されていることが望ましい。このようにすれば、トレランスリングが装着された状態の保持部を第2内歯歯車の内周側に圧入することによって第2内歯歯車をフレームに保持させることができる。従って、蓋体駆動装置の組み立てが容易となる。また、トレランスリングを介して保持部が第2内歯歯車を保持することにより、第2内歯歯車の傾きを防止できる。この結果、トラレンスリングをバランスよく径方向に変形させることができ、スリップするトルクのばらつきを小さくすることができる。
【0018】
本発明において、前記駆動力伝達機構は、前記モータから前記出力軸に向かう駆動力伝達方向において前記遊星歯車機構の上流側に隣接配置された減速機構を備えており、前記保持部は、筒状であり、前記保持部の内周側には前記減速機構の出力要素と前記太陽歯車とを一体回転可能に連結する連結部材が貫通していることが望ましい。このようにすれば、第2内歯歯車を保持部によって内周側から保持する場合でも、減速歯車の駆動力を太陽歯車に伝達することができる。
【0019】
本発明において、前記第1遊星歯車および前記第2遊星歯車として、それぞれ3個以上の前記第1遊星歯車および前記第2遊星歯車を備えており、3個以上の前記第1遊星歯車および前記第2遊星歯車は、前記出力軸の軸線回りに等角度間隔で配置されていることが望ましい。このようにすれば、第2内歯歯車、遊星キャリアおよび第1内歯歯車を同軸状体として維持することが容易となる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、小型のモータを駆動源とした場合でも、高いトルクを得ることができる。また、蓋体を手動で回転させるなどした場合に、遊星歯車機構がロック状態に陥ることを防止できる。
更に、出力軸の側から過大なトルクが入力された場合に、このトルクが、モータから出力軸に向かう駆動力伝達方向においてトルクリミッタよりも上流側に位置する駆動力伝達機構の機構部分にまで伝達されることを防止できる。従って、駆動力伝達機構の破損を抑制或いは回避できる。また、トルクリミッタとしてラチェットを用いた機構やトレランスリングを用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面に基づいて、本発明の蓋体駆動装置の実施の形態である便座開閉装置を説明する。
【0023】
(全体構成)
図1(a)は本発明の蓋体駆動装置の実施の形態である便座開閉装置を搭載する洋式便器の斜視図である、
図1(b)は
図1(a)の洋式便器に搭載された便座開閉装置の斜視図である。
図1(a)に示すように、洋式便器1は便器本体2、便蓋3、および、便座ユニット4を有している。便座ユニット4は便座5、便座開閉装置(蓋体駆動装置)6および本体カバー7を備えている。便座開閉装置6は本体カバー7の内部に収納されている。
【0024】
図1(b)に示すように、便座開閉装置6は、ケース10の端面から突出する出力軸11を備えている。出力軸11は便座5の便器後方の端部分に設けられた回転中心軸8に同軸に連結されている。便座開閉装置6が駆動されると、便座5は回転中心軸8回りに所定の角度範囲で回転し、便器本体2上で平伏した閉位置5Aと、便器本体2に対して起立した開位置5Bとの間を変位する。開位置5Bは、
図1において二点鎖線で示す位置であり、便座5は上方に向かって僅かに後方に傾斜している。ケース10は出力軸11が突出している第1ケース12と、出力軸11の軸線方向から第1ケース12に積層された第2ケース13を備えている。第1ケース12および第2ケース13は樹脂成型品である。
【0025】
(内部構成)
図2は便座開閉装置6の縦断面図である。
図3はケース10を取り外した便座開閉装置6の分解斜視図である。
図4(a)はフレームを上方から見た斜視図であり、
図4(b)はフレームを下方から見た斜視図である。なお、以下の説明では、出力軸11の軸線Lの方向を上下方向とするとともに、
図2の上下に従って、出力軸11の突出している側を上方、出力軸11とは反対側を下方として便座開閉装置6を説明する。
【0026】
図2、
図3に示すように、便座開閉装置6は、ケース10内に、フレーム15と、便座開閉装置6の駆動源となるモータ16と、モータ16の回転を出力軸11に伝達する駆動力伝達機構17と、出力軸11の回転角度位置を検出するための角度位置検出機構18(
図3参照)を備えている。また、便座開閉装置6は、下端が第2ケース13の底面13aの内側に形成された凹部13bに圧入固定された金属製の固定軸19を備えている。固定軸19は出力軸11の軸線L上に位置しており、モータ16の回転中心軸線L1と平行に延びている。駆動力伝達機構17は、モータ16から出力軸11に向かう駆動力伝達方向の上流側から下流側に向かって、第1遊星歯車機構30、第2遊星歯車機構40および不思議遊星歯車機構50を備えている。
【0027】
(フレーム)
図4(a)に示すように、フレーム15は、長手方向の一方側部分の上面側にモータ載置面20を備えている。モータ載置面20には、モータ16の回転出力軸25を貫通させるための貫通孔21が形成されている。フレーム15の長手方向の一方側部分の下面側には、
図4(b)に示すように、貫通孔21と同軸に、第1遊星歯車機構30の内歯歯車31が形成されている。
【0028】
フレーム15の長手方向の他方側部分の上面側には、
図4(a)に示すように、不思議遊星歯車機構50を保持するための保持部22が形成されている。保持部22は円筒形状をしており、上方に向かって突出している。保持部22は樹脂からなる内側筒部23と、内側筒部23の外周側に取り付けられた外側筒部24を備えている。内側筒部23は樹脂製のフレーム15の一部分であり、外側筒部24は金属からなる。外側筒部24はインサート成形によってフレーム15に一体とされている。フレーム15の長手方向の他方側部分の下面側には、
図4(b)に示すように、保持部22と同軸に第2遊星歯車機構40の内歯歯車41が形成されている。
【0029】
(モータ)
モータ16はDCモータである。
図2に示すように、モータ16は回転出力軸25を下方に向けた状態でモータ載置面20に載置されて固定されている。より詳細には、モータ16は、モータ16本体において回転出力軸25が突出する出力側端面26をモータ載置面20に当接させた状態でフレーム15に固定されており、モータ16本体の反出力側端面27を上方に向けている。モータ16の回転出力軸25は貫通孔21を貫通してフレーム15の下面側に突出している。反出力側端面27からは一対の端子28が上方に突出している。一対の端子28は、不図示のリード線を介して外部の制御装置に電気的に接続される。
【0030】
(第1遊星歯車機構)
第1遊星歯車機構30は、
図2に示すように、モータ16の回転出力軸25に取り付けられたピニオン32(太陽歯車)と、ピニオン32と噛合する3つの遊星歯車33と、各遊星歯車33と噛合する内歯歯車31と、各遊星歯車33を支軸34回りに自転可能に保持する遊星キャリア35を備えている。ピニオン32、3つの遊星歯車33および遊星キャリア35はいずれも樹脂成型品である。
【0031】
ピニオン32は第1遊星歯車機構30の入力要素である。3つの遊星歯車33は回転出力軸25の軸線L1回りに等角度間隔で配置されている。内歯歯車31はフレーム15に形成されているものであり、第1遊星歯車機構30の固定要素である。遊星キャリア35は第1遊星歯車機構30の出力要素であり、その下側部分に平歯車36を備えている。遊星キャリア35は中心に貫通孔37を備えており、フレーム15の底面13aから上方に突出する支持突起13cが貫通孔37に挿入されることによって、支持突起13cに回転可能に支持されている。本例では第1遊星歯車機構30は減速機構であり、その減速比は1:4.5である。
【0032】
(第2遊星歯車機構)
第2遊星歯車機構40は、
図2に示すように、遊星キャリア35の平歯車36と噛合する大径歯車部分42aと、大径歯車部分42aよりも小径で大径歯車部分42aと同軸に設けられた小径歯車部分42b(太陽歯車)を備える複合歯車42と、小径歯車部分42bと噛合する3つの遊星歯車43と、各遊星歯車43と噛合する内歯歯車41と、遊星歯車43を支軸44回りに自転可能に保持する遊星キャリア45を備えている。複合歯車42、3つの遊星歯車43および遊星キャリア45はいずれも樹脂成型品である。
【0033】
複合歯車42は中心に貫通孔46を備えている。複合歯車42は貫通孔46に固定軸19が挿入されることにより、固定軸19に回転可能に支持されている。複合歯車42の小径歯車部分42bは第2遊星歯車機構40の入力要素となっている。3つの遊星歯車43は固定軸19の軸線L回りに等角度間隔で配置されている。内歯歯車41はフレーム15に形成されているものであり、第2遊星歯車機構40の固定要素である。遊星キャリア45は第2遊星歯車機構40の出力要素であり、上方に向かって一定の外径寸法で延びる筒状の突出部47(連結部材)を備えている。遊星キャリア45は、突出部47の中心孔47aに固定軸19が挿入されることによって、固定軸19に回転可能に支持されている。本例では第2遊星歯車機構40は減速機構であり、その減速比は1:4.5である。
【0034】
ここで、突出部47の先端には、樹脂成型品のピニオン52が遊星キャリア45と一体回転可能な状態に固定されている。突出部47はフレーム15の保持部22の内周側に位置しており、ピニオン52は保持部22の上端から上方に突出している。なお、ピニオン52は金属製としてもよい。
【0035】
(不思議遊星歯車機構)
図5および
図6は不思議遊星歯車機構50の分解斜視図である。
図5ではモータ16および駆動力伝達機構17を上方から見ており、
図6ではモータ16および駆動力伝達機構17を下方から見ている。
図7は第1内歯歯車53、第2内歯歯車54、第1遊星歯車55および第2遊星歯車56の平面図である。
図2、
図5、
図6に示すように、不思議遊星歯車機構50は、突出部47の先端に固定されたピニオン52と、出力軸11と同軸に配置された第1内歯歯車53および第2内歯歯車54と、第1内歯歯車53と噛合する3つの第1遊星歯車55と、第2内歯歯車54と噛合する3つの第2遊星歯車56と、同軸に配置された第1遊星歯車55と第2遊星歯車56を支軸57回りに自転可能に保持する遊星キャリア58を備えている。
【0036】
第1内歯歯車53は第2内歯歯車54の上方に位置している。3つの第1遊星歯車55は3つの第2遊星歯車56の上方に位置しており、同軸に配置されているもの同士が3本の支軸57のそれぞれに自転可能に支持されている。ここで、不思議遊星歯車機構50は、第1遊星歯車機構30および第2遊星歯車機構40に対して大きな減速比を備えており、本例では、その減速比は1:40である。
【0037】
第1内歯歯車53は、
図2、
図6に示すように、内側に歯部60aが形成された筒部60と、筒部60の上端を封鎖している封鎖部61を備えている。封鎖部61には上方に突出する出力軸11が設けられている。すなわち、第1内歯歯車53と出力軸11は出力部材62として一体に形成されている。封鎖部61の下面の中央には上方に窪む凹部61aが設けられている。凹部61aには、固定軸19の上端部分が挿入されており、出力部材62(出力軸11および第1内歯歯車53)は固定軸19により回転可能に支持されている。出力部材62は焼結金属からなる。
【0038】
第2内歯歯車54は焼結金属からなり、筒状をしている。
図2に示すように、第2内歯歯車54は、軸線L方向で第1内歯歯車53に対して僅かな隙間を開けて配置されている。また、
図5に示すように、第2内歯歯車54において、内歯54aは内周面の上端側部分に設けられている。内周面の下側部分はフレーム15の保持部22によって保持される円環状の被保持面54bとなっている。
【0039】
ここで、第1内歯歯車53の歯数は第2内歯歯車54の歯数よりも多い。また、
図7に示すように、第2内歯歯車54のピッチ円直径P2は、第1内歯歯車53のピッチ円直径P1よりも大きい。本例において、第1内歯歯車53と第2内歯歯車54の変速比は0.975となっている。
【0040】
3つの第1遊星歯車55および3つの第2遊星歯車56は焼結金属からなり、同軸に配置された第1遊星歯車55と第2遊星歯車56は軸線L方向に接するように一体に成型されている。ここで、
図7に示すように、第1遊星歯車55の歯数と第2遊星歯車56の歯数は同一であるが、第1遊星歯車55のモジュールと第2遊星歯車56のモジュールは相違している。また、第1遊星歯車55のピッチ円直径Q1と第2遊星歯車56のピッチ円直径Q2は相違しており、第2遊星歯車56のピッチ円直径Q2は、第1遊星歯車55のピッチ円直径Q1よりも大きい。さらに、第1遊星歯車55の歯先は第2遊星歯車56の歯底よりも径方向の外側に位置している。
【0041】
また、第1遊星歯車55と第1内歯歯車53とが噛合し接触している第1接触部t1から支軸57の軸線L2までの第1距離d1と、第2遊星歯車56と第2内歯歯車54とが噛合し接触している第2接触部t2から支軸57の軸線L2までの第2距離d2は、第1距離d1よりも第2距離d2の方が大きく、この大小関係は常に変化することがない。すなわち、モータ16の回転が出力軸11の側に向かって伝達されている場合と、出力軸11の側から回転が入力されている場合とで、第1遊星歯車55と第1内歯歯車53および第2遊星歯車56と第2内歯歯車54のそれぞれの噛合状態が変化した場合でも、第1距離d1よりも第2距離d2の方が大きいという大小関係は維持される。
【0042】
遊星キャリア58は3本の支軸57の下端を保持するプレート73と、3本の支軸57の上端を保持するカバー74とを備えている。3つの第1遊星歯車55および3つの第2遊星歯車56は、プレート73とカバー74の間に保持されている。支軸57、プレート73およびカバー74は金属製である。
【0043】
プレート73の中央部分およびカバー74の中央部分には、それぞれ軸線L方向に貫通する貫通孔73a、74aが同軸に形成されている(
図5、
図6参照)。遊星キャリア58はこれらの貫通孔73a、74aに固定軸19が挿入されることによって、固定軸19に回転可能に支持されている。また、プレート73およびカバー74は3本の支軸57を貫通孔73a、74a回りに等角度間隔で保持している。従って、3個の第1遊星歯車55および第2遊星歯車56は、出力軸11の軸線L回りに等角度間隔で配置されている。カバー74には周方向の3箇所に開口部74bが設けられている。各開口部74bからは、それぞれ第1遊星歯車55および第2遊星歯車56の一部分が外側に露出している。
【0044】
ここで、第2内歯歯車54の被保持面54bとフレーム15の保持部22の間には、トレランスリング76(トルクリミッタ)が配置されている。トレランスリング76は、金属製のバネ部材であり、円弧形状のリング部77と、リング部77から径方向の外側に突出する複数の突部78を備えている。トレランスリング76は、第2内歯歯車54に対して働くトルクが予め定めた設定トルクよりも小さい場合には、摩擦力によって、保持部22と第2内歯歯車54の相対回転を許容しない。一方、トレランスリング76は、第2内歯歯車54に対して働くトルクが設定トルクよりも大きくなると、保持部22と第2内歯歯車54の相対回転を許容する。すなわち、保持部22に対して第2内歯歯車54をスリップさせる。
【0045】
なお、トレランスリング76を保持部22と第2内歯歯車54の間に配置する際には、まず、フレーム15の保持部22の外側筒部24の外周環状面にトレランスリング76を取り付ける。しかる後に、トレランスリング76が取り付けられた状態の保持部22に対して、上方から第2内歯歯車54を圧入する。ここで、保持部22は上方に突出している部分なので、保持部22に対してトレランスリング76を装着する作業が容易である。また、保持部22は上方に突出している部分なので、トレランスリング76が装着されたときにトレランスリング76が露出しており、保持部22に対して第2内歯歯車54を圧入する作業も容易である。
【0046】
(角度位置検出機構)
角度位置検出機構18は、
図3に示すように、出力軸11に同軸に取り付けられて出力軸11と一体に回転する伝達歯車80と、伝達歯車80と噛合するポテンショ歯車81と、ポテンショ歯車81の回転角度位置を検出するポテンショメータ82と、ポテンショメータ82を搭載する基板83を備えている。基板83は、出力軸11の軸線Lと直交する方向から見た場合にモータ16本体の反出力側端面27よりも下方に位置しており、ポテンショメータ82は基板83の下側面に取り付けられている。ポテンショメータ82には不図示のリード線を介して外部の制御装置から電圧が印加され、ポテンショメータ82からはポテンショ歯車81の回転角度位置に対応する信号が出力され、この信号は出力軸11の回転角度位置を示すものとなる。ポテンショメータ82からの信号は、不図示のリード線を介して外部の制御装置に入力される。ポテンショ歯車81およびポテンショメータ82は第2ケース13の上端開口の縁部分から外側に広がるフランジ部13dと第1ケース12との間に保持されている。
【0047】
(便座開閉動作)
便座5が閉位置5Aにあるときに、制御装置に対してスイッチやセンサーなどからの入力があると、制御装置はモータ16へ第1極性の電力を供給してモータ16を第1方向に回転させる。これにより便座5を開く開動作が開始する。
【0048】
すなわち、モータ16が駆動されると、モータ16の回転はピニオン32から第1遊星歯車機構30に入力され、遊星キャリア35の回転として出力される。第1遊星歯車機構30の遊星キャリア35の回転は、平歯車36を介して複合歯車42に伝達され、小径歯車部分42bから第2遊星歯車機構40に入力され、遊星キャリア45の回転として出力される。遊星キャリア45の回転はピニオン52に伝達されて、ピニオン52から不思議遊星歯車機構50に入力される。ピニオン52の回転は第2遊星歯車56および第1遊星歯車55を介して第1内歯歯車53に伝達され、第1内歯歯車53の回転、すなわち、出力軸11の回転として出力される。ここで、ポテンショメータ82からの信号によって出力軸11が便座5を開位置5Bに配置する所定の回転角度位置に到達したことが検出されると、制御装置はモータ16への給電を停止する。これにより便座5は開位置5Bに至る。
【0049】
一方、便座5が開位置5Bにあるときに制御装置に対してスイッチやセンサーなどからの入力があると、制御装置はモータ16へ第1極性とは逆の第2極性の電力を供給してモータ16を第1方向とは逆の第2方向に回転させる。これにより、便座5を閉じる閉動作が開始する。モータ16が駆動されると、開動作の場合と同様に、モータ16の回転は第1遊星歯車機構30、第2遊星歯車機構40および不思議遊星歯車機構50を介して伝達され出力軸11の回転として出力される。ここで、ポテンショメータ82からの信号によって出力軸11が便座5を閉位置5Aに配置する所定の回転角度位置に到達したことが検出されると、制御装置はモータ16への給電を停止する。これにより便座5は閉位置5Aに配置される。
【0050】
ここで、便座5は洋式便器1の使用者によって手動で開閉されることがある。すなわち、出力軸11の側から回転力が入力されることがある。
【0051】
このような場合に、第1内歯歯車53および第2内歯歯車54に一つの遊星歯車が噛合していると、この遊星歯車と第1内歯歯車53とが噛合し接触している接触部から支軸57の軸線L2までの距離と、この遊星歯車と第2内歯歯車54とが噛合し接触している接触部から支軸57の軸線L2までの距離との大小関係が逆転する時点が発生して、駆動力伝達機構17がロックしてしまうという問題が発生する。かかる問題に対して、本例では、第1内歯歯車53には第1遊星歯車55が噛合し、第2内歯歯車54には第2遊星歯車56が噛合している。また、第1遊星歯車55と第2遊星歯車56のピッチ円直径Q2が異なるものとされており、第1遊星歯車55と第1内歯歯車53とが噛合し接触している第1接触部t1から支軸57の軸線L2までの第1距離d1と、第2遊星歯車56と第2内歯歯車54とが噛合し接触している第2接触部t2から支軸57の軸線L2までの第2距離d2との大小関係が、モータ16の側から出力軸11の側に向かって回転が伝達されている場合と、出力軸11の側から回転が入力された場合とで変化することがない。従って、使用者によって便座5が手動で開閉された場合でも、駆動力伝達機構17(不思議遊星歯車機構50)がロック状態に陥ることがない。
【0052】
また、便座5が洋式便器1の使用者によって手動で開閉された場合には、出力軸11の側から駆動力伝達機構17に過大なトルクが入力され、このトルクとモータ16からのコギングトルクの双方が駆動力伝達機構17に働いて、駆動力伝達機構17を破損させてしまう危険性がある。これに対して、本例の便座開閉装置6は駆動力伝達機構17がトレランスリング76(トルクリミッタ)を備えており、出力軸11の側から過大なトルクが入力された場合には、第2内歯歯車54が保持部22に対してスリップする。この結果、モータ16から出力軸11に向かう駆動力伝達方向においてトレランスリング76よりも上流側に位置するピニオン52、第2遊星歯車機構40および第1遊星歯車機構30まで回転力が伝達されることを抑制或いは防止できる。従って、駆動力伝達機構17の破損を抑制あるいは回避でき、ピニオン52、第2遊星歯車機構40および第1遊星歯車機構30を金属よりも強度の低い樹脂製として、その製造コストを抑制できる。また、モータ16から出力軸11に向かう駆動力伝達方向においてトレランスリング76よりも下流側に位置する第2内歯歯車54、第2遊星歯車56、第1遊星歯車55、遊星キャリア58の支軸57および出力部材62(第1出力歯車および出力軸11)は、いずれも金属製としているので、これらの部材の破損も抑制或いは防止できる。
【0053】
(作用効果)
本例の便座開閉装置6は、駆動力伝達機構17の不思議遊星歯車機構50が大きな減速比を備える不思議遊星歯車機構なので、駆動源として小型のモータ16を搭載する場合でも、高いトルクを得ることができ、便座5の開閉を行うことができる。
【0054】
また、本例では、第1遊星歯車55と第2遊星歯車56とは歯数を同一として、それぞれのピッチ円直径Q1、Q2を相違させているので、遊星歯車43機構を構成する際に歯の位置を合わせる必要がなく、不思議遊星歯車機構50の組み立て作業が容易である。さらに、第1遊星歯車55と第2遊星歯車56の間で歯数を同一としてピッチ円直径Q1、Q2を相違させているので、第1遊星歯車55と第2遊星歯車56を金型などにより一体に成型することが容易である。また、第1遊星歯車55と第2遊星歯車56との接合部分の面積を確保できるので、これらの接合部分の強度を向上させることができる。
【0055】
さらに、本例では、ピッチ円直径Q1が小さい第1遊星歯車55の歯先が第2遊星歯車56の歯底よりも径方向の外側に位置している。これにより、第1遊星歯車55のピッチ円直径Q1と第2遊星歯車56のピッチ円直径Q1が近い値となるので、第1遊星歯車55と噛合する第1内歯歯車53の歯数と第2遊星歯車56と噛合する第2内歯歯車54の歯数の差を小さくすることが容易であり、不思議遊星歯車機構50の減速比を高めることができる。
【0056】
また、本例では、トルクリミッタを構成するトレランスリング76が、モータ16から出力軸11に向かう駆動力伝達方向の下流端に配置された不思議遊星歯車機構50に搭載されている。さらに、トレランスリング76によって回転が制御される第2内歯歯車54は、出力軸11と一体の第1内歯歯車53との間の変速比が0.975とされている。すなわち、トレランスリング76は、出力軸11に入力される回転が大きく増速される部材とフレーム15の間ではなく、出力軸11に入力される回転とほぼ同程度の回転が伝達される部材とフレーム15の間に配置されている。従って、出力軸11の側から過大な回転力が入力されたときに、第2内歯歯車54が保持部22に対して高速にスリップしてトレランスリング76が焼き付けなどを起こしてしまうことを回避できる。
【0057】
さらに、本例では、トレランスリング76を介して保持部22が第2内歯歯車54を保持することにより、第2内歯歯車54の傾きを防止できる。この結果、トレランスリング76をバランスよく径方向に変形させることができ、スリップするトルクのばらつきが小さくなる。
【0058】
また、本例では、モータ16と不思議遊星歯車機構50がフレーム15の長手方向に並列に配置されている。そして、
図2に示すように、不思議遊星歯車機構50において第1内歯歯車53の筒部60の上端60bから第2内歯歯車54の下端54cまでの軸線L方向の長さ寸法が、モータ16本体の反出力側端面27から出力側端面26までの長さ寸法よりも短く、第1内歯歯車53の筒部60の上端60bと、モータ16本体の反出力側端面27とが軸線L方向でほぼ同じ高さ位置にある。これに加えて、角度位置検出機構18の基板83は出力軸11の軸線Lと直交する方向から見た場合にモータ16本体の反出力側端面27よりも下方に位置しており、ポテンショメータ82は基板83の下側面に取り付けられている。従って、便座開閉装置6が軸線L方向においてコンパクトとなっている。
【0059】
さらに、本例では、第1遊星歯車55および第2遊星歯車56として、それぞれ3個の第1遊星歯車55および第2遊星歯車56を備えており、3個の第1遊星歯車55および第2遊星歯車56は、出力軸11の軸線L回りに等角度間隔で配置されている。従って、第2内歯歯車54、遊星キャリア58および第1内歯歯車53を同軸に配置することが容易である。
【0060】
(その他の実施の形態)
上記の例では、第1遊星歯車55および第2遊星歯車56は、歯数を同一としてモジュールおよびピッチ円直径Q1、Q2を相違させているが、第1遊星歯車55と第2遊星歯車56との間でモジュールを同一として歯数を変えてピッチ円直径Q1、Q2を相違させてもよい。このようにしても、第1遊星歯車55と第1内歯歯車53とが噛合し接触している第1接触部t1から支軸57の軸線L2までの第1距離d1と、第2遊星歯車56と第2内歯歯車54とが噛合し接触している第2接触部t2から支軸57の軸線L2までの第2距離d2との大小関係が、モータ16の側から出力軸11の側に向かって回転が伝達されている場合と、出力軸11の側から回転が入力された場合とで変化することがないように構成することが可能である。
【0061】
上記の例では、第2内歯歯車54は、保持部22によって内周側から保持されており、第2内歯歯車54の内周面と保持部22の外周面との間にトレランスリング76が配置されているが、保持部22を筒状に形成して、保持部22の環状内周面で第2内歯歯車54の環状外周面を保持するように構成することができる。この場合には、トレランスリング76は、第2内歯歯車54の環状外周面と保持部22の環状内周面との間に配置すればよい。
【0062】
上記の例では、トルクリミッタとしてトレランスリング76を用いているが、トルクリミッタとして、保持部22の外周面と第2内歯歯車54の間にラチェットを用いた機構を構成することもできる。
【0063】
上記の例では、モータ16と第2遊星歯車機構40とは並列に配置されているが、モータ16、第1遊星歯車機構30、第2遊星歯車機構40、不思議遊星歯車機構50および出力軸11を同軸に配置してもよい。この場合には、出力軸11の軸線Lと直交する方向において、便座開閉装置6をコンパクトに構成することができる。
【0064】
なお、上記の例は、蓋体駆動装置を便座5の開閉に用いているが、便蓋3を開閉する開閉装置として用いることもできる。また、洗濯機の上面において洗濯槽へ洗濯物を投入するための投入口を開閉している開閉扉を開閉するための開閉装置として、本発明の蓋体駆動装置を用いることができる。