特許第6084890号(P6084890)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6084890-消耗電極ガスシールドアーク溶接トーチ 図000002
  • 特許6084890-消耗電極ガスシールドアーク溶接トーチ 図000003
  • 特許6084890-消耗電極ガスシールドアーク溶接トーチ 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6084890
(24)【登録日】2017年2月3日
(45)【発行日】2017年2月22日
(54)【発明の名称】消耗電極ガスシールドアーク溶接トーチ
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/29 20060101AFI20170213BHJP
【FI】
   B23K9/29 E
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-93912(P2013-93912)
(22)【出願日】2013年4月26日
(65)【公開番号】特開2014-213359(P2014-213359A)
(43)【公開日】2014年11月17日
【審査請求日】2016年3月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(72)【発明者】
【氏名】土井 和徳
【審査官】 竹下 和志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−16158(JP,A)
【文献】 特開2003−230962(JP,A)
【文献】 実開昭56−87278(JP,U)
【文献】 特公昭46−31009(JP,B1)
【文献】 特開2011−200895(JP,A)
【文献】 特開2004−74278(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2002/0113047(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/00 − 10/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸心部にワイヤ挿通孔が形成されたトーチボディと、
軸心部にワイヤ挿通孔が形成されて、前記トーチボディの先端部に取り付けられたチップボディと、
前記チップボディの周りに設けられたインシュレータと、
前記チップボディの先端部を取り囲み、シールドガスが噴出される噴出孔が形成されたオリフィスと、
軸心部にワイヤ挿通孔が形成されて、前記チップボディの先端部に取り付けられて、溶接ワイヤに給電する給電チップと、
基端部が前記インシュレータの先端部にネジ止めされて、前記オリフィスと前記給電チップとを取り囲み、前記シールドガスが噴出されるノズルとを備えた消耗電極ガスシールドアーク溶接トーチにおいて、
前記オリフィスの基端部の外周面にテーパが形成されて、このテーパに対応するテーパが前記ノズルの内周面に形成され、
前記オリフィスの先端部の内周面にテーパが形成されて、このテーパに対応するテーパが前記チップボディの外周面に形成されたことを特徴とする消耗電極ガスシールドアーク溶接トーチ。
【請求項2】
前記インシュレータの先端部と前記オリフィスの基端部との間にガスケットが設けられたことを特徴とする請求項1記載の消耗電極ガスシールドアーク溶接トーチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シールド性が向上された消耗電極ガスシールドアーク溶接トーチ(以下、溶接トーチという)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図2は、従来技術の溶接トーチ1の断面図であり、図3は、従来技術の溶接トーチ1の部分断面図である。図2及び図3において、トーチボディ2の先端部にチップボディ3が取り付けられ、このチップボディ3の先端部に給電チップ4が取り付けられている。これらのトーチボディ2、チップボディ3及び給電チップ4は、軸心部にワイヤ挿通孔が形成されている。図示を省略した溶接ワイヤがこれらのワイヤ挿通孔を挿通して、図示を省略した溶接電源から給電チップ4と母材Wとの間に電力が供給される。溶接ワイヤが給電チップ4と内接触することによって、溶接ワイヤに電力が供給され、溶接ワイヤと母材Wとの間でアークが発生する。
【0003】
オリフィス5はチップボディ3の先端部に設けられている。チップボディ3のシールドガス噴出口3aから噴出されたシールドガスが、オリフィスのシールドガス噴出口5aを通過することによってシールドガスが整流される。オリフィス5は、セラミックスなどの絶縁材料で形成されている。オリフィス5は、チップボディ3にスパッタが付着することを防止し、ノズル6がチップボディ3と電気的に短絡することを防止していている。オリフィスのシールドガス噴出口5aから噴出されたシールドガスが、ノズル6の先端部から噴出されて、このシールドガスがアーク、溶融池及びその周辺を大気中の窒素及び酸素から遮蔽している。
【0004】
チップボディ3の周りにインシュレータ7が設けられ、インシュレータ7によってノズル6とチップボディ3とが絶縁されている。ノズル6の基端部の内周面に雌ねじが切られ、インシュレータ7の先端部の外周面に雄ねじが切られている。オリフィス5は、その基端部の外周面にフランジ5bが形成されていて、フランジ5bの下端部がノズル6の内面に設けられた突起部6bに引っ掛かる。オリフィス5はノズル6に対して固定されていない。ノズル6が給電チップ4とオリフィス5とを取り囲んで、ノズル6の基端部がインシュレータ7の先端部にねじ込まれる。(例えば、特許文献1参照。)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−071315号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来技術の溶接トーチ1は、オリフィスのフランジ5bの外周面とノズル6の内周面との間や、オリフィスのフランジ5bの内周面とチップボディ3の外周面との間に隙間が有るために、溶接トーチ1の姿勢によっては、オリフィス5の軸心部とノズル6の軸心部とが一致しない場合がある。また、オリフィス5の先端部の内周面とチップボディ3の先端部の外周面との間とに隙間が有るために、溶接トーチ1の姿勢によっては、オリフィス5の軸心部とチップボディ3の軸心部とが一致しない場合がある。
【0007】
その結果、溶接トーチ1の姿勢によっては、オリフィス5とチップボディ3との間の隙間の距離や、オリフィス5とノズル6との間の隙間の距離が片側に偏る。そのために、チップボディのシールドガス噴出口3aから噴出されたシールドガスが、オリフィスのシールドガス噴出口5aを通過し、ノズル6の先端部から噴出される過程において、偏流が生じる場合がある。その場合、ノズル6の先端部から噴出されるシールドガスが乱流となり、シールドガスによってアーク、溶融池及びその周辺を大気中の窒素及び酸素から遮蔽するシールド性が低減する場合がある。
【0008】
本発明は、ノズルの先端部から噴出されるシールドガスのシールド性を向上させる溶接トーチを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決するために、請求項1の発明は、
軸心部にワイヤ挿通孔が形成されたトーチボディと、
軸心部にワイヤ挿通孔が形成されて、前記トーチボディの先端部に取り付けられたチップボディと、
前記チップボディの周りに設けられたインシュレータと、
前記チップボディの先端部を取り囲み、シールドガスが噴出される噴出孔が形成されたオリフィスと、
軸心部にワイヤ挿通孔が形成されて、前記チップボディの先端部に取り付けられて、溶接ワイヤに給電する給電チップと、
基端部が前記インシュレータの先端部にネジ止めされて、前記オリフィスと前記給電チップとを取り囲み、前記シールドガスが噴出されるノズルとを備えた消耗電極ガスシールドアーク溶接トーチにおいて、
前記オリフィスの基端部の外周面にテーパが形成されて、このテーパに対応するテーパが前記ノズルの内周面に形成され、
前記オリフィスの先端部の内周面にテーパが形成されて、このテーパに対応するテーパが前記チップボディの外周面に形成されたことを特徴とする消耗電極ガスシールドアーク溶接トーチである。
【0010】
請求項2の発明は、
前記インシュレータの先端部と前記オリフィスの基端部との間にガスケットが設けられたことを特徴とする請求項1記載の消耗電極ガスシールドアーク溶接トーチである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の溶接トーチは、オリフィスの軸心部とノズルの軸心部とが一致し、かつ、オリフィスの軸心部とチップボディの軸心部とが一致するために、従来技術の溶接トーチのように、溶接トーチの姿勢によって、オリフィスとノズル又はオリフィスとチップボディとのそれぞれの相関位置が変化して、ノズルの先端部から噴出されるシールドガスが偏流となることがない。従って、ノズルの先端部から噴出されるシールドガスが整流となり、ノズルの先端部から噴出されるシールドガスのシールド性を向上させることができ、安定した溶接品質を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の溶接トーチ11の部分断面図である。
図2】従来技術の溶接トーチ1の断面図である。
図3】従来技術の溶接トーチ1の部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[実施の形態1]
発明の実施の形態を実施例に基づき図面を参照して説明する。図1は、本発明の溶接トーチ11の部分断面図である。本発明の溶接トーチ11のトーチボディとインシュレータと給電チップとは、図1に示した従来技術の溶接トーチ1のトーチボディ2とインシュレータ7と給電チップ4と同じである。図1において、トーチボディ2の先端部にチップボディ12が取り付けられ、このチップボディ12の先端部に給電チップ4が取り付けられている。これらのトーチボディ2、チップボディ12及び給電チップ4は、軸心部にワイヤ挿通孔が形成されている。
【0014】
オリフィス13はチップボディ12の先端部に設けられていて、オリフィス13は、セラミックスなどの絶縁材料で形成されている。オリフィス13は、チップボディ12にスパッタが付着することを防止し、ノズル14がチップボディ12と電気的に短絡することを防止していている。チップボディ12にシールドガス噴出口12aが形成され、オリフィス13にシールドガス噴出口13aが形成されている。
【0015】
オリフィス13は、その基端部の外周面にフランジ13bが形成されている。このフランジ13bの外周面に第1オリフィステーパ13cが形成されて、この第1オリフィステーパ13cに対応するノズルテーパ14cがノズル14の内周面に形成されている。図3に示した従来技術の溶接トーチ1のノズルの内周面に形成された突起部6bは、本発明の溶接トーチ11のノズル14の内周面には形成されていない。オリフィス13の先端部の内周面に第2オリフィステーパ13dが形成されて、この第2オリフィステーパ13dに対応するチップボディテーパ12dがチップボディ12の外周面に形成されている。
【0016】
チップボディ12の周りにインシュレータ7が設けられ、インシュレータ7によって、ノズル14とチップボディ12とが絶縁されている。ガスケット15が、インシュレータ7の先端部とオリフィス13の基端部との間に設けられている。このガスケット15はリング形状で耐熱性を有していて、例えばゴム材質のOリングが使用される。このガスケット15の外周面は、ノズル14の内周面と接触していて、ガスケット15の内周面は、チップボディ12の外周面と接触している。ノズル14の基端部の内周面に雌ねじが切られ、インシュレータ7の先端部の外周面に雄ねじが切られている。ノズル14が給電チップ4とオリフィス13とを取り囲んで、ノズル14の基端部がインシュレータ7の先端部にねじ込まれる。
【0017】
上述したガスケット15は、オリフィス13の基端部の内周面とチップボディ12の外周面との間の隙間からシールドガスが漏れることを防止している。また、ノズル14をインシュレータ7にねじ込むときに、ガスケット15を設けないときは、ノズル14をねじ込み過ぎると、オリフィス13が割れる可能性がある。しかし、ガスケット15を設けることによって、ノズル14をねじ込み過ぎた場合でも、オリフィス13が割れることを防止している。
【0018】
以下、動作を説明する。トーチボディ2の先端部にチップボディ12が取り付けられ、このチップボディ12の先端部に給電チップ4が取り付けられる。チップボディ12の周りにインシュレータ7が取り付けられる。ガスケット15内にチップボディ12の先端部が挿入されて、ガスケット15がインシュレータ7に当接する。オリフィス13内にチップボディ12の先端部が挿入されて、オリフィス13の基端部がガスケット15に当接する。また、チップボディテーパ12dに第2オリフィステーパ13dが当接する。
【0019】
ノズル14内に給電チップ4とオリフィス13とが挿入されて、ノズルテーパ14cが第1オリフィステーパ13cに当接して、ノズル14の基端部がインシュレータ7の先端部にねじ込まれる。これによって、ガスケット15が、インシュレータ7の先端部とオリフィス13の基端部との間に位置し、このガスケット15の外周面は、ノズル14の内周面と接触し、ガスケット15の内周面は、チップボディ12の外周面と接触している。この結果、オリフィス13とインシュレータ7との間に気密性を有することができる。また、オリフィス13の軸心部とノズル14の軸心部とが一致し、かつ、オリフィス13の軸心部とチップボディ12の軸心部とが一致するように、オリフィス13のノズル14に対する位置と、オリフィス13のチップボディ12に対する位置とが固定される。
【0020】
図示を省略した溶接ワイヤがトーチボディ2、チップボディ12及び給電チップ4のワイヤ挿通孔を挿通して、図示を省略した溶接電源から給電チップ4と母材Wとの間に電力が供給される。溶接ワイヤが給電チップ4と内接触することによって、溶接ワイヤに電力が供給され、溶接ワイヤと母材Wとの間でアークが発生する。また、チップボディ12のシールドガス噴出口12aから噴出されたシールドガスが、オリフィス13のシールドガス噴出口13aを通過することによってシールドガスが整流される。そして、オリフィスのシールドガス噴出口13aから噴出されたシールドガスがノズル14の先端部から噴出されて、シールドガスがアーク、溶融池及びその周辺を大気中の窒素及び酸素から遮蔽している。
【0021】
この結果、本発明の溶接トーチ11は、オリフィス13の軸心部とノズル14の軸心部とが一致し、かつ、オリフィス13の軸心部とチップボディ12の軸心部とが一致するために、従来技術の溶接トーチ1のように、溶接トーチ11の姿勢によって、オリフィス13とノズル14又はオリフィス13とチップボディ12とのそれぞれの相関位置が変化して、ノズル14の先端部から噴出されるシールドガスが偏流となることがない。従って、ノズル14の先端部から噴出されるシールドガスが整流となり、ノズル14の先端部から噴出されるシールドガスのシールド性を向上させることができ、安定した溶接品質を確保することができる。
【0022】
また、本発明の溶接トーチ11は、オリフィス13とチップボディ12の間や、オリフィス13とノズル14との間がテーパによって接触しているために、これらの間に隙間が無く気密性を有していて、さらに、溶接トーチ11の姿勢によってオリフィス13とノズル14との間に隙間が生じることが無い。従って、従来技術の溶接トーチ1のように、シールドガスが漏れることがなく、シールドガスの流量が不十分になることがない。また、従来技術の溶接トーチ1のように、シールドガスが漏れることを考慮してシールドガスを多く供給する必要がないので、シールドガスを節約することができる。
【0023】
本発明の溶接トーチ11は、溶接ロボットのマニピュレータの先端部に取り付けられて溶接を行う溶接トーチに適用されるだけではなく、溶接作業者が把持して溶接を行う溶接トーチにも適用される。
【符号の説明】
【0024】
1 溶接トーチ
2 トーチボディ
3 チップボディ
3a チップボディのシールドガス噴出口
4 給電チップ
5 オリフィス
5a オリフィスのシールドガス噴出口
5b オリフィスのフランジ
6 ノズル
6b ノズルの突起部
7 インシュレータ
11 溶接トーチ
12 チップボディ
12a チップボディのシールドガス噴出口
12d チップボディテーパ
13 オリフィス
13a オリフィスのシールドガス噴出口
13b オリフィスのフランジ
13c 第1オリフィステーパ
13d 第2オリフィステーパ
14 ノズル
14c ノズルテーパ
15 ガスケット
W 母材
図1
図2
図3