特許第6085096号(P6085096)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱日立パワーシステムズ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6085096-燃料ガス圧縮機の動翼取り外し方法 図000002
  • 特許6085096-燃料ガス圧縮機の動翼取り外し方法 図000003
  • 特許6085096-燃料ガス圧縮機の動翼取り外し方法 図000004
  • 特許6085096-燃料ガス圧縮機の動翼取り外し方法 図000005
  • 特許6085096-燃料ガス圧縮機の動翼取り外し方法 図000006
  • 特許6085096-燃料ガス圧縮機の動翼取り外し方法 図000007
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6085096
(24)【登録日】2017年2月3日
(45)【発行日】2017年2月22日
(54)【発明の名称】燃料ガス圧縮機の動翼取り外し方法
(51)【国際特許分類】
   F04D 29/34 20060101AFI20170213BHJP
【FI】
   F04D29/34 C
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-86406(P2012-86406)
(22)【出願日】2012年4月5日
(65)【公開番号】特開2013-217220(P2013-217220A)
(43)【公開日】2013年10月24日
【審査請求日】2015年2月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】514030104
【氏名又は名称】三菱日立パワーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100134544
【弁理士】
【氏名又は名称】森 隆一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(72)【発明者】
【氏名】細川 明信
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 剛
【審査官】 松浦 久夫
(56)【参考文献】
【文献】 特公平02−004798(JP,B2)
【文献】 特開2004−003493(JP,A)
【文献】 特公昭56−14844(JP,B2)
【文献】 特開2009−019629(JP,A)
【文献】 特開平07−077008(JP,A)
【文献】 特開2008−095176(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0061858(US,A1)
【文献】 特開2007−064220(JP,A)
【文献】 特開平10−009192(JP,A)
【文献】 特開2012−193682(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 29/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸に設けられたディスクに組みつけられた動翼を、前記ディスクから取り外す燃料ガス圧縮機の動翼取り外し方法において、
前記ディスクに形成された翼溝と、該翼溝に嵌合された動翼の翼根との隙間に充填された、使用温度に対する耐熱性を有した充填材の少なくとも一部を溶解させる溶解工程と、
該溶解工程の実施後に、前記翼根を前記翼溝から引き抜く引き抜き工程と、
引き抜かれた後の前記翼溝の表面および前記翼根の表面に残存する充填材を除去する除去工程とを備えることを特徴とする燃料ガス圧縮機の動翼取り外し方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、燃料ガス圧縮機の動翼取り外し方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、気体に含まれる腐食性成分によって腐食が生じないように、腐食性成分を含む気体に接触する翼などの部材にポリイミド層による防食コーティングを施した蒸気タービンが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−211600号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ガスタービンの燃料ガス圧縮機は、図6(a)に示すように、回転軸に取り付けられたディスク126の翼溝158に動翼122の翼根155が嵌合されて、動翼122がディスク126に取り付けられており、設計上、翼溝158と翼根155との間には僅かな隙間dが形成されている。そして、上記ガスタービンの燃料ガス圧縮機にあっては、定期検査の際に動翼122をディスク126から取り外して検査を行っている。
【0005】
一方、上記ガスタービンで用いる燃料ガスは硫黄分を含有する場合がある。そのため、動翼122とディスク126とに含まれる鉄と硫黄とが接触することで、図6(b)に示すように硫化鉄を主成分とする腐食生成物の層300が、動翼122およびディスク126の互いに対向する面156,166に形成されてしまう。特に、動翼122の翼根155とディスク126の翼溝158との互いに対向する面156,166に硫化鉄を主成分とする腐食生成物の層300が形成された場合、翼根155と翼溝158との間の隙間dが埋まって固着してしまう場合がある。そのため、定期検査で動翼122をディスク126から取り外す際に、上記隙間dに潤滑油を浸透させて衝撃を加えるなど、無理矢理ディスク126から動翼122を取り外していた。さらに、この方法を用いても動翼122を取り外すことができない場合には、機械加工を行ってディスク126から動翼122を取り外していた。そのため、傷つきや変形が生じて動翼122への負荷が大きくなってしまうという課題がある。
【0006】
また、上記定期検査は、その実施間隔の延長が要望されており、仮に実施間隔が延長された場合には、ディスク126から動翼122を取り外さない期間が長くなるため、動翼122とディスク126間における固着度がより進行してしまうことが懸念されている。
【0007】
この発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、動翼の翼根とディスクの翼溝との固着を防止して、取り外し作業にかかる作業者の負担を軽減するとともに、ディスクや動翼にかかる負荷を軽減することができ、さらには、作業時間の短縮によりガスタービン等の稼働率向上を図ることができる燃料ガス圧縮機の動翼取り外し方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
の発明に係る燃料ガス圧縮機の動翼取り外し方法は、回転軸に設けられたディスクに組みつけられた動翼を、前記ディスクから取り外すガスタービンの動翼取り外し方法において、前記ディスクに形成された翼溝と、該翼溝に嵌合された動翼の翼根との間に充填された、使用温度に対する耐熱性を有した充填材の少なくとも一部を溶解させる溶解工程と、該溶解工程の実施後に、前記翼根を前記翼溝から引き抜く引き抜き工程と、引き抜かれた後の前記翼溝の表面および前記翼根の表面に残存する充填材を除去する除去工程とを備えることを特徴としている。
このように構成することで、溶解工程によって翼溝と翼根との隙間に充填した充填材のみを溶解するとともに、充填材の少なくとも一部を溶解させることができるため、充填材による動翼とディスクとの固着力を弱めて、引き抜き工程でディスクから動翼を円滑に取り外すことができる。さらに、翼根が翼溝から引き抜かれた後に、除去工程によって翼溝の表面および翼根の表面に残存する充填材を除去することで、充填材を容易且つ確実に除去することができる。そして、翼溝と翼根との表面に充填材が残存するのを防止することができるため、再度翼溝に翼根を嵌合する際に、充填材の充填不良が発生するのを防止することができる。
【発明の効果】
【0011】
この発明に係る燃料ガス圧縮機の動翼取り外し方法によれば、動翼の翼根とディスクの翼溝との固着を防止して、取り外し作業にかかる作業者の負担を軽減するとともに、動翼にかかる負荷を軽減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施形態における燃料ガス圧縮機を備えるガスタービン設備の概略構成を示す半断面図である。
図2】上記燃料ガス圧縮機の動翼およびディスクの斜視図である。
図3】上記動翼の翼根およびディスクの翼溝の断面図であり、(a)は全体図、(b)は隙間dの部分拡大図である。
図4】充填材に酸性溶液を滴下させている状態を示す図3(a)に相当する図である。
図5】充填材が溶解された状態の図3(b)に相当する図である。
図6】従来の図3に相当する図であり(a)は全体図、(b)は部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、この発明の実施形態における燃料ガス圧縮機について図面を参照して説明する。
図1は、この実施形態における燃料ガス圧縮機を備えるガスタービン設備の概略構成図である。
同図に示すように、ガスタービン設備10は、ガスタービン11と、ガスタービン11へ送る燃焼用の空気を吸気フィルタ12経由で取り込んで圧縮する空気圧縮機13と、ガスタービン11の回転駆動力で発電する発電機14と、ガスタービン11から排出されるガスの排熱回収を行う排熱回収ボイラbとを備えている。また、ガスタービン11は、タービンを有するタービン本体15と、タービン本体15に燃焼ガスを送り込む燃焼器16とを備えている。タービン本体15と、空気圧縮機13と、発電機14とは、共通のロータ軸17にて接続されており、ロータ軸17の端部には、ロータ軸17の回転を増速する増速ギヤ18が設けられている。
【0014】
上記ガスタービン設備10には、さらに、製鉄所の複数の高炉からBFG(Blast Furnace Gas)をガスタービン11に送るBFGガスライン19が敷設されている。このBFGガスライン19には、BFG中のダストなどを除去する集塵器(E/P)20を介して、燃料ガスを圧縮する燃料ガス圧縮機21が接続されている。ここで、集塵機20とBFGガスライン19との間には、燃料ガスのカロリー調整用の増熱ガスであるCOG(Coke Oven Gas)が合流可能となっている。このCOGは、同じ製鉄所内の複数のコークス炉から供給され、上記燃料ガスは、主にBFGとCOGとからなる。
【0015】
燃料ガス圧縮機21は、いわゆる軸流式の圧縮機であって、上記集塵器20によりダストなどが除去された燃料ガスを、上記増速ギヤ18を介して伝達された回転駆動力を用いて圧縮する。燃料ガス圧縮機21により圧縮された圧縮燃料ガスは、ガスタービン11の燃焼器16に供給されて燃焼される。一方で、燃料ガス圧縮機21によって圧縮された圧縮燃料ガスのうち、余剰分は、ガス冷却器22によって冷やされた後に、BFGガスライン19に戻されることとなる。
【0016】
次に、軸流圧縮機である燃料ガス圧縮機21の動翼とディスクとの嵌合構造について図面を参照して説明する。
図2図3に示すように、動翼23は、動翼本体52のディスク26側の基端部に、翼根55を備えている。翼根55は、ディスク26側の端部に向かうほどその厚さが増加する断面略台状に形成されている。より具体的には、翼根55は、その厚さ方向両側に、その端部側ほど厚さ方向外側に延びる傾斜面56と、これら傾斜面56の端部同士を繋ぐ底面57とを備えている。
【0017】
一方、ディスク26は、その外周部に、ロータ軸17の略軸方向Dに沿って形成された複数の翼溝58を備えている。これら翼溝58は、ディスク26の周方向Rに等間隔で形成され、上述した翼根55よりも僅かに大きい断面形状を有している。即ち、上記傾斜面56に対向する2つの傾斜面66と、底面57に対向する底面67とを備えている。
【0018】
上記翼根55と翼溝58とは、いわゆるダブテール構造であり、翼溝58に対して翼根55を軸方向Dからスライド挿入することで、ディスク26に対して動翼23が嵌合可能とされている。この構造により、圧縮機2のロータ軸17が回転して動翼23に比較的大きな遠心力が作用したとしても、翼根55の傾斜面56が傾斜面66に突き当たり、動翼23の遠心方向への変位が規制されるようになっている。なお、翼根55と動翼本体52との間には、周方向Rに延出するプラットフォームp(図2参照)が形成されている。上述した動翼23およびディスク26を形成する材料は、鉄、クロム、コバルトを含む合金や、鉄、クロム、モリブデンを含む合金等が主に用いられている。
【0019】
図3(a),(b)に示すように、翼根55の外面と翼溝58の内面との間には隙間d(最大100μm程度)が形成されている。そして、この隙間dには、充填材200が充填されている。充填材200は、圧縮機2の使用温度(例えば、400℃程度)に対して十分な耐熱性を有している。充填材200としては、上記使用温度に対する耐熱性に加えて、酸性溶液により溶解可能であればよく、例えば、炭酸カルシウム、アルミニウム、亜鉛などを用いることができる。
【0020】
上記充填材200を溶解する酸性溶液としては、クエン酸や塩酸などの溶液を用いることができる。特に、上記動翼23やディスク26を溶解させることなく、充填材200のみを選択的に溶解可能であることが望ましく、特に、充填材200としては弱酸でも溶解する炭酸カルシウム、酸性溶液としてはクエン酸溶液を用いるのが好ましい。
【0021】
上述した充填材200は、例えば、炭酸カルシウム、アルミニウム、亜鉛の微粒子をそれぞれ溶媒に混練又は分散により混ぜて隙間dに充填してもよい。この場合、翼根55を翼溝58に嵌合させた後に流し込んだり、含浸させたりして充填してもよい。また、翼根55を翼溝58に嵌合する前に、翼根55の外面および翼溝58の内面に、噴霧、はけ塗り等により充填材200を塗布してから翼根55を翼溝58に嵌合させるようにしてもよい。また、上記微粒子を混ぜる溶媒としては、水や有機溶媒などを用いることができる。さらに、有機溶媒としてはアセトンなどを用いることができる。
【0022】
この実施形態における燃料ガス圧縮機21は、上記構成を備えており、次に、上述した動翼23とディスク26との組み付け方法について説明する。なお、この実施形態においては、翼溝58に翼根55を嵌合した後に、隙間dに充填材200を充填する場合を一例にして説明する。
まず、ディスク26に形成された翼溝58に動翼23の翼根55を嵌合する工程として、翼溝58に対して翼根55を軸方向Dからスライド嵌合させる。
【0023】
次いで、充填材200を充填する工程として、翼溝58と翼根55との隙間dに、充填材200を充填する。この際、充填材200が、ディスク26の外周面の位置まで満たされるのが好ましい。ここで、硫化鉄を主成分とする腐食生成物が翼溝58と翼根55との隙間dに僅かに生成されたとしても、翼根55と翼溝58との固着は非常に弱いものとなる。そのため、充填材200は、必ずしも隙間dを全て埋め尽くすように充填しなくてもよい。以上で、動翼23のディスク26への組み付けが完了する。
【0024】
次に、上述した動翼23をディスク26から取り外す方法について説明する。
まず、図4に示すように、溶解工程として、酸性溶液をディスク26に形成された翼溝58と、翼溝58に嵌合された翼根55との隙間dに充填された充填材200上に滴下等により接触させる。すると、充填材200だけが徐々に溶解して、隙間dの充填材200が除去される(図5参照)。その後、充填材200による翼根55と翼溝58との固着力が翼根55をスムーズに取り外し可能な程度なるまで酸性溶液による充填材200の溶解を継続する。即ち、充填材200が全て溶解される必要はなく、翼根55をスムーズに取り外し可能な程度に充填材200の少なくとも一部を溶解させればよい。
【0025】
次いで、引き抜き工程として充填材200が十分除去されたところで、翼根55に対して軸方向Dの力を加えて、翼根55を翼溝58から引き抜く。
翼根55が翼溝58から引き抜かれると、翼溝58の表面および翼根55の表面には充填材200が残存しているため、除去工程として、この残存している充填材200を削り取ったり、酸性溶液を用いたりして全て除去する。以上で、動翼23のディスク26からの取り外しが完了する。なお、この翼根55から充填材200を除去した動翼23は、定期点検による検査などに供される。
【0026】
したがって、上述した実施形態の燃料ガス圧縮機21によれば、耐熱性を有した充填材200により、互いに対向する動翼23の翼根55の傾斜面56、底面57、および、ディスク26の翼溝58の傾斜面66、底面67が、それぞれ燃料ガスに接触するのを防止することができるため、翼根55と翼溝58との隙間dに硫化鉄を主成分とする腐食生成物の層が形成されるのを防止することができる。その結果、動翼23の翼根55とディスク26の翼溝58との固着を防止して、取り外し作業にかかる作業者の負担を軽減するとともに、動翼23にかかる負荷を軽減することが可能となる。
【0027】
さらに、ディスク26に動翼23を組み付けた後に、翼溝58と翼根55との隙間dに充填材200を充填すればよいため、容易に充填材200を充填することができると共に、燃料ガスが翼溝58および翼根55に接触するのを防止することができる。そのため、翼溝58および翼根55に硫化物を主成分とする腐食生成物の層が形成されるのを防止することができる。
【0028】
また、翼溝58と翼根55との隙間dに充填した充填材200のみを溶解するとともに、充填材200の少なくとも一部を溶解させることができるため、充填材200による動翼23とディスク26との固着力を弱めて、ディスク26から動翼23を円滑に取り外すことができる。さらに、翼根55が翼溝58から引き抜かれた後に、翼溝58の表面(内面)および翼根55の表面(外面)に残存する充填材200を除去することで、充填材200を容易且つ確実に除去することができる。そして、翼溝58と翼根55との表面に充填材200が残存するのを防止することができるため、再度翼溝58に翼根55を嵌合する際に、充填材200の充填不良が発生するのを防止することができる。
【0029】
なお、この発明は上述した各実施形態の構成に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で設計変更可能である。
例えば、上記実施形態においては、翼根55が断面略台状の場合を一例にして説明したが、動翼23に遠心力が作用した際に、動翼23のディスク26径方向への変位を規制できる形状であれば上記形状に限られるものではない。
【0030】
また、上述した実施形態においては、動翼23を一例にして説明したが、動翼23に限られず、タービン動翼6の翼根(図示せず)とディスクの翼溝(図示せず)との隙間に酸性溶液により選択的に溶解可能な充填材を充填するようにしても良い。
【符号の説明】
【0031】
17 ロータ軸(回転軸)
23 動翼
26 ディスク
52 動翼本体(翼本体)
55 翼根
58 翼溝
200 充填材
図1
図2
図3
図4
図5
図6