(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の落書き対策水性塗料を塗布した塗膜であって、前記鱗片状フィラーは塗布面に平行に積層されて配置されていることを特徴とする塗膜。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の落書き対策水性塗料(以下、単に「本発明の塗料」と云う場合がある。)について詳細に説明する。
【0021】
本発明の塗料は、少なくとも、(A)合成樹脂エマルション、(B)ポリシロキサン樹脂、及び、(C)鱗片状フィラーを含んでいることを特徴とするものである。
【0022】
また、本発明の塗料は、上記(A)〜(C)の各成分に加えて、必要に応じてその他の成分を加えてもよい。
【0024】
<(A)合成樹脂エマルション>
本発明の塗料における(A)合成樹脂エマルション中に懸濁されている合成樹脂成分は、本発明の落書き対策水性塗料のベース樹脂となる。
【0025】
このような合成樹脂エマルションとしては、塗料用として一般に入手できるものをそのまま用いることができる。本発明の落書き対策水性塗料はこのように合成樹脂エマルションを用いるので、有機溶剤を有する一般的な塗料とは異なり、人体、環境への悪影響も少なく、塗装作業時の換気、及び、火気による危険性なども格段に軽減される。
【0026】
ここで、合成樹脂エマルションが、アクリル樹脂エマルションであると、本発明の落書き対策水性塗料により形成される塗膜の耐溶剤性が高くなるので好ましい。このようなアクリル樹脂エマルションを含有する塗膜は、その表面に落書きされた場合であっても、高い耐溶剤性により塗料等の落書きの成分が塗膜内にしみ込みにくいので、その落書きを容易に除去することができるとともに、塗膜自体に高い耐候性を与えることができる。このようなアクリル樹脂エマルションとしてアクリロニトリル−アクリル共重合樹脂エマルションやアクリル−ウレタンハイブリッド型エマルション、シリコーン変性アクリル樹脂エマルション等が挙げられる。
【0027】
このようなアクリル樹脂エマルションのアクリル樹脂成分が、アクリロニトリルを含む共重合体であると、塗膜の耐溶剤性がさらに向上するのでより好ましく、さらにアクリロニトリル−スチレン−アクリル共重合樹脂であると、特に耐溶剤性、耐汚染性、耐水性、強靱性に優れた硬質な塗膜が形成されるので好ましい。
【0028】
本発明で用いられる合成樹脂エマルションにおける樹脂成分のガラス転移温度としては5℃以上であることが、形成される塗膜の強度が高くなり、被塗面への強い密着力が得られるので好ましい。さらに好ましいガラス転移温度の範囲としては30℃以上70℃以下である。該ガラス転移温度が高すぎると合成樹脂エマルション中の樹脂粒子同士の、塗布後の一体化が進行しにくいので、均一な塗膜が形成されにくく、その結果、塗膜に割れが生じやすくなるとともに、塗膜と被塗装面との密着性が低下しやすくなる。
【0029】
本発明の塗料における合成樹脂エマルションの配合量としては、本発明の塗料の固形分(溶媒・分散媒等の蒸発成分を除去したもの)に対する、合成樹脂エマルションの固形分の濃度で20質量%以上70質量%以下の範囲が好ましく、より好ましくは25質量%以上50質量%以下の範囲である。合成樹脂エマルションの配合量が少なすぎると均一な塗膜が得られにくいために空隙がある塗膜となりやすく、落書きの塗料成分等が塗膜内にしみ込みやすくなって落書き除去性が低下しやすくなるとともに、塗膜と被塗装面との密着性が低下する場合がある。配合量が多すぎると相対的に後述する鱗片状フィラーの配合量が少なくなるので、鱗片状フィラーによる落書きの塗料成分等の塗膜内へのしみ込み防止作用が不十分となり、十分な落書き対策効果が得られにくくなる。
【0030】
本発明の塗料において、後述する架橋剤の添加に代えて、あるいは、架橋剤を添加しながら、合成樹脂エマルションにおける合成樹脂成分の全部あるいは一部を自己架橋性合成樹脂とすることで、架橋剤の添加の効果と同等の効果、あるいは、
架橋剤の添加の効果をさらに高めることができる。
【0031】
<(B)ポリシロキサン樹脂>
本発明の塗料は、落書きの付着を抑制し、かつ、落書きの塗料をはじきやすくする撥水撥油付与添加剤成分として、ポリシロキサン樹脂を含有する。
【0032】
ポリシロキサン樹脂としては、有機変性したもの、エマルション化したもの、粉末状のもの等、いずれのものであっても使用することができるが、有機変性ポリシロキサン樹脂であると、ポリシロキサン樹脂成分が均一に分散した塗膜が形成されるために好ましい。このような有機変性ポリシロキサン樹脂としては、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル変性ポリシロキサン樹脂、ポリエーテル変性ポリシロキサン樹脂、アルコキシ変性ポリシロキサン樹脂、カルビノール変性ポリシロキサン樹脂、エポキシ変性ポリシロキサン樹脂、カルボキシル変性ポリシロキサン樹脂、アルコール変性ポリシロキサン樹脂、フッ素変性ポリシロキサン樹脂、アルキルアラルキルポリエーテル変性ポリシロキサン樹脂、フェノール変性ポリシロキサン樹脂、メルカプト変性ポリシロキサン樹脂、ポリエステル変性ポリシロキサン樹脂、アクリル変性ポリシロキサン樹脂、メタクリル変性ポリシロキサン樹脂、アミド変性ポリシロキサン樹脂、イミド変性ポリシロキサン樹脂、アミノ変性ポリシロキサン樹脂、高級脂肪酸エステル変性ポリシロキサン樹脂、及びメチルスチリル変性ポリシロキサン樹脂が挙げられ、特に好ましい有機変性ポリシロキサン樹脂としてアミノ変性ポリシロキサン樹脂が挙げられ、アミノ変性ポリシロキサン樹脂を用いたときに、特にエマルション塗料中での分散安定性が良くなり、かつ、アクリル樹脂のカルボキシル基との反応性を有するので合成樹脂エマルションとしてアクリル樹脂エマルションを用いた場合には塗膜形成過程で塗膜表面に撥水撥油層を形成することができ、このとき、塗膜の耐久性が向上するとともに、落書きの塗料成分等が塗膜内にしみ込みにくくなって高い落書き対策効果が得られるので好ましい。
【0033】
本発明の塗料中のポリシロキサン樹脂の含有量は、本発明の塗料の固形分に対してポリシロキサン樹脂(溶媒や分散媒など、揮発分を含む場合には固形分濃度)が0.5質量%以上20質量%以下の範囲とすることが好ましく、より好ましくは2質量%以上15質量%以下の範囲である。ポリシロキサン樹脂の含有量が少なすぎると、落書きの付着を抑制しにくく、多すぎると、塗膜にはじきやよりが発生して、外観が悪くなりやすく、また、塗料の粘度が高くなる(ゲル化)など安定性が低下することがある。
【0034】
<(C)鱗片状フィラー>
本発明の落書き対策水性塗料には、塗料の落書き成分が、塗膜内に浸透することの抑制や、塗膜の割れ防止の目的で、鱗片状フィラーを含有する。該鱗片状フィラーは、形成された塗膜内では層状に積層された状態となるので、落書き成分の塗膜内部への浸透を抑制する効果がある。
【0035】
このような鱗片状フィラー(微小な板状フィラー)としては、ガラスフレーク、マイカ、タルク、焼成カオリンクレー、水酸化アルミニウム、ケイ酸カルシウム、合成雲母等の公知のフィラーが挙げられ、これらを単独で、または2種以上併用することができる。これら鱗片状フィラーのうち、特に落書き成分の塗膜内部への高い浸透抑制効果が得られるので、ガラスフレークを用いることが好ましい。
【0036】
鱗片状フィラーとして、予めシランカップリング剤などでその表面に有機官能基を導入したものを用いることにより合成樹脂成分との密着性を向上させることができ、このとき、塗料の落書き成分の塗膜内への浸透抑制効果が高くなるので好ましい。ここで、ガラスフレークでは日本板硝子社等からシランカップリング剤で処理されたものが入手できる。
【0037】
本発明において、鱗片状フィラーは平均粒径(鱗片状フィラーを平置した際に上方から見た形の円相当径)が10μm以上2500μm以下、厚さが0.5μm以上20μm以下のものが使用できる。好ましくは、平均粒径が10μm以上200μm以下、厚さが1μm以上10μm以下の範囲である。平均粒径が小さすぎる場合には、塗料の落書き成分の塗膜内に浸透することの抑制効果が十分に得られない場合があり、大きすぎる場合には、塗膜表面が粗れた状態になり仕上りが悪くなる。また、鱗片状フィラーの厚さが薄すぎる場合には、強度的に弱くなり、塗料の調製や塗布時に細片化する懸念があり、添加の効果が得られにくい場合があり、一方、厚すぎる場合には、鱗片状フィラーが沈降しやすくなり、塗料としての取り扱い性が低下する場合があり、また、塗膜表面が粗れた状態になり仕上りが悪くなる。
【0038】
鱗片状フィラーの含有量は、本発明の塗料の固形分に対して1質量%以上40質量%以下の範囲であることが好ましく、より好ましくは5質量%以上20質量%以下の範囲である。添加量が少なすぎる場合には、落書きの塗料成分の塗膜内への浸透抑制が不十分となる場合があり、添加量が多すぎる場合には、塗料の粘度が高くなり、作業性の低下及び仕上りの悪化を招来する場合がある。
【0039】
<着色剤>
本発明の落書き対策水性塗料には、上記(A)〜(C)の必須成分の他に、有機顔料や無機顔料などの着色剤を配合してもよく、このときには上述の落書き対策効果のみならず、すでに落書きされた土木構造物や建築構造物等などの被落書き対策物に塗布することにより、その落書きを隠蔽する効果を同時に得ることができる。
【0040】
このような着色剤の種類としては塗料に用い得るものであればそのまま配合でき、着色剤の色は適宜選択する。また、上記着色剤にタルク、マイカ、炭酸カルシウム、カオリンクレー、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸カルシウム、水酸化アルミニウム、酸化亜鉛などの公知の体質顔料を併用しても良い。
【0041】
着色剤(体質顔料を併用添加する場合には体質顔料を含む)の配合量としては、本発明の塗料の固形分に対して10質量%以上50質量%以下の範囲とすることが好ましい。より好ましい配合範囲は20質量%以上40質量%以下である。配合量が少なすぎると落書きを隠蔽する効果が十分に得られにくい場合があり、多すぎると合成樹脂エマルション内の樹脂粒子同士の、塗布後の一体化が進行しにくいので均一な塗膜が形成されにくく、塗膜に割れが生じやすくなるとともに、塗膜と被塗装面との密着性が低下しやすくなる。
【0042】
<架橋剤>
本発明の落書き対策水性塗料には、形成される塗膜の耐溶剤性を向上させる目的で、架橋剤を含有させてもよい。架橋剤の添加により合成樹脂成分同士が架橋するので、一液剤でありながら、合成樹脂成分と硬化剤(架橋剤)成分とがそれぞれ異なる液に配合されてなる二液剤の塗料と同等の、化学的に堅固な構造のミクロな樹脂部分が塗膜中に形成される。このような樹脂部分内部には、塗料等の落書きに含まれる溶剤が浸透しにくい。
【0043】
架橋剤としては、用いる合成樹脂エマルションの合成樹脂成分を架橋させるものを選択する。
【0044】
このような架橋剤として、例えば、カルボジイミド系化合物、オキサゾリン系化合物、ヒドラジド系化合物、アジリジン系化合物、シランカップリング剤等が挙げられ、これら架橋剤から一種、または二種以上選択して使用する。
【0045】
カルボジイミド系化合物の例としては、日清紡ケミカル社製のカルボジライトSV−02、カルボジライトS−02、カルボジライトS−02−L2、カルボジライトV−04、カルボジライトE−01、カルボジライトE−02等が、オキサゾリン系化合物の例としては、日本触媒社製のエポクロスK−2010E、エポクロスK−2020E、エポクロスK−2030E、エポクロスWS−500、エポクロスWS−700等が、それぞれ挙げられる。
【0046】
また、ヒドラジド系化合物の例としては、大塚化学社などから入手できるアジピン酸ジヒドラジド(ADH)、セバシン酸ジヒドラジド(SDH)、ドデカンジオヒドラジド(DDH)、イソフタル酸ジヒドラジド(IDH)、プロピオン酸ジヒドラジド(PDH)、サルチル酸ジヒドラジド(SAH)、3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸ヒドラジド(HNH)、ベンゾフェノンヒドラゾン(BPH)、アミノポリアクリルアミド(APA)等が、アジリジン系化合物の例としてや、日本触媒社製のケミタイトPZ−33、ケミタイトDZ−22E等が、それぞれ挙げられる。
【0047】
シランカップリング剤としては、官能基の制限は特になく、公知のシランカップリング剤を使用することができるが、エポキシ基を有するシランカップリング剤であると高い反応性が得られるので好ましい。
【0048】
このようなエポキシ基を有するシランカップリング剤として3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0049】
上記の架橋剤のうち、シランカップリング剤であると、上記のような合成樹脂成分同士の架橋作用による塗料等の落書きに含まれる溶剤の浸透防止効果のみならず、前記の鱗片状フィラーと、塗膜の他の成分からなる部分(すなわち、ポリシロキサン樹脂からなる部分、及び、上記のようなミクロの合成樹脂部分)と、の密着性を向上させる効果が得られ、塗膜の他の成分からなる部分と、鱗片状フィラーと、の境界からの落書き成分の浸透が防止されて、塗膜の落書きをはじく効果が高くなり、また、落書きされた場合であってもその除去が極めて容易となる。
【0050】
本発明の塗料中の架橋剤の含有量は、本発明の塗料の固形分に対して0.1質量%以上15質量%以下の範囲であることが好ましく、さらに好ましくは0.5質量%以上10質量%以下の範囲である。添加量が多すぎても添加量の増加に見合った効果が得られなくなり、かつ、落書き対策水性塗料の製造コストが高くなる。また、添加量が少なすぎると十分な塗膜の耐溶剤性向上効果が得られない場合がある。
【0051】
<その他の成分>
本発明の落書き対策水性塗料には上述のようにポリシロキサン樹脂が撥水撥油付与添加剤として添加されているが、ポリシロキサン樹脂以外の撥水撥油付与添加剤を配合してもよい。このような撥水撥油付与添加剤としては、パラフィン、ポリエチレン樹脂、脂肪酸エステル樹脂、脂肪酸アミド樹脂、フッ素樹脂等が挙げられ、これらから選ばれる少なくとも1種以上の化合物を使用することができる。本発明の落書き対策水性塗料中のこれら撥水撥油付与添加剤配合量は、ポリシロキサン樹脂の含有量と合わせて0.5質量%以上20質量%以下の範囲とすることが好ましく、より好ましくは2質量%以上15質量%以下の範囲である。これらポリシロキサン樹脂以外の撥水撥油付与添加剤をポリシロキサン樹脂に代えて用いることもできる。
【0052】
本発明の落書き対策水性塗料は、屋外で用いられる場合を勘案すると、その最低造膜温度は5℃以下であることが好ましく、さらに好ましくは0℃以上3℃以下の範囲である。最低造膜温度が5℃超では、低温環境下での造膜性に劣り、形成された被膜にひび割れが生じる場合がある。造膜温度はプロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールn−ブチルエーテル、ジエチレングリコールn−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールn−プロピルエーテル、プロピレングリコールn−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールn−ブチルエーテル、トリプロピレングリコールn−ブチルエーテル、及び、プロピレングリコールフェニルエーテル等の各種エーテル類、テキサノール、及び、ベンジルアルコールなどから選ばれる1種または2種以上の造膜助剤により調整することができる。
【0053】
本発明の落書き対策水性塗料には、その他、必要に応じて顔料分散剤、造膜助剤、凍結防止剤、防錆剤、防腐防カビ剤、増粘剤、塗面調整剤、消泡剤、紫外線吸収剤、光安定剤などを含有することができる。
【0054】
本発明の落書き対策水性塗料としては、一般に塗料が用いられる分野に広く用いることができるが、特に屋外の土木構造物や建築構造物の塗装に好適である。このような応用例としては、構造物外壁、塀、橋脚、トンネル、カルバートボックス、電柱、ガードレール、歩道橋などが挙げられる。このうち、特にコンクリート製構造物に対して好適に使用することができる。
【0055】
本発明の落書き対策水性塗料の塗装方法は、一般的な塗料と同様の方法を適宜採用することができる。すなわち、ブラシ、ローラー、刷毛、スプレーなどを用いる既知の塗布方法が使用でき、塗装方法に特に制限はない。また、塗装時の作業性を改善するために、必要に応じて水で希釈し、塗装に適した粘度に調整した上で作業することもできる。また、塗布に当たって塗布面にすでに塗料による塗膜が形成されている場合であっても、プライマー処理なしで塗布することができる(但し、プライマー処理を行ってもよい)。
【0056】
本発明の落書き対策水性塗料の塗布に際し、乾燥後の膜厚が20μm以上でとなるように塗布を行うことが好ましく、さらに好ましくは60μm以上180μm以下の範囲である。膜厚が20μm未満の場合、塗料の落書きの成分の浸透抑制作用が不十分となりやすく、塗膜の保護効果が十分に発揮できずに、落書き除去時の塗膜の耐久性が低下する場合がある。20μm以上の膜厚とするために、例えば重ね塗りすることも有効である。
【0057】
本発明に係る落書き対策水性塗料の乾燥後の塗装面には、塗料による落書きを施そうとした場合にはその塗料がはじかれるので、多くの場合、落書きを描くことができない。このとき、落書きを描こうする意図を即座に挫くことができる。また、多数回繰り返すなどの行為により落書きされてしまった場合であっても、その落書きを柔らかい毛のブラシで擦る、布粘着テープの粘着面を貼り付けた後に剥がす作業を繰り返す、アルコール等の溶剤を含ませた布、紙、ブラシ等で擦る、などの方法で、塗装面を痛めることなく容易に除去することができる。
【0058】
以上、本発明について、好ましい実施形態を挙げて説明したが、本発明の落書き対策水性塗料は上記実施形態の構成に限定されるものではない。
【0059】
当業者は、従来公知の知見に従い、本発明の落書き対策水性塗料を適宜改変することができる。このような改変によってもなお本発明の落書き対策水性塗料の構成を具備する限り、もちろん、本発明の範疇に含まれるものである。
【実施例】
【0060】
以下に本発明の落書き対策水性塗料の実施例について具体的に説明するが、これにより本発明が限定されるものでないことは言うまでもない。
【0061】
[落書き対策塗料の調整]
各種原料を表1及び表2に記載の配合量(質量%)に従って混合し、攪拌して、実施例1〜実施例9、及び、比較例1〜7、計16種類の塗料を調製した。
【0062】
【表1】
【0063】
【表2】
【0064】
上記表1及び表2の注釈は以下の通りである。
(注1)(A)合成樹脂エマルション:ヨドゾールGD93、ヘンケルジャパン株式会社製アクリロニトリル−スチレン−アクリル共重合樹脂エマルション 固形分:44質量%、pH7.5、Tg(ガラス転移温度):35℃、MFT(最低造膜温度):0℃、平均粒径:0.09μm
【0065】
(注2)分散剤:DISPERBYK−190、ビックケミージャパン株式会社製多官能ポリマー系湿潤分散剤 固形分:40質量%、酸価:10mgkOH/g
(注3)着色剤(顔料)(白色):タイペークR−930、石原産業株式会社製二酸化チタン(ルチル型) TiO2%:93%、平均粒径:0.25μm、吸油量:19ml/100g
【0066】
(注4)(C)ガラスフレーク:マイクログラスGF RCF−160、日本板硝子株式会社製ガラスフレーク 平均粒径160μm、平均厚さ5μm
【0067】
(注5)(B)ポリシロキサン樹脂:テゴホーベ1500N、Evonik Tego Chemie GmbH製アミノ変性ポリシロキサン 固形分:50質量%
(注6)(D)シランカップリング剤
【0068】
(注7)消泡剤:BYK024、ビックケミージャパン株式会社製有機変性シロキサン系消泡剤 固形分:96質量%
(注8)造膜助剤:テキサノール
(注9)増粘剤:プライマルRM8W、ロームアンドハース社製ウレタン会合型増粘剤 固形分:21.5質量%
【0069】
[試験板の作製]
大きさが70mm×150mm及び厚さが10mmの長方形のモルタル板の一方の面の一部に、落書きを想定して、市販のラッカースプレー(製品名:ラッカースプレーAT(黒色)、アトムサポート株式会社。以下同じ)を塗布量が0.1kg/m
2となるように均一に塗布し、ついで23℃、50%RHの環境下で24時間乾燥したものを、試験板とした。
【0070】
この試験板のラッカースプレーによる塗布面の上(以下、「落書き塗布」とも云う)、及び、モルタル面の上((以下、「モルタル上」とも云う))のそれぞれに、実施例1〜4及び比較例1〜7の計11種類の落書き対策水性塗料を、刷毛を用いて、塗布量が0.15kg/m
2となるように、互いに異なる位置に塗布した。
【0071】
塗布後、これら試験板を23℃、50%RHの環境下で30分間放置し、その後、各塗料が塗布された場所(2箇所)に、同じ塗料を、塗布量が0.15kg/m
2となるように、重ね塗りし、さらに23℃、50%RHの環境下で7日間放置して乾燥させた。
【0072】
[試験項目]
1.塗膜の外観評価:JIS K 5600−1−1に準拠して、上記で形成された塗膜にむら、はじき、しわ、われ、はじき、つぶ等の異常の有無の判定を行った。このとき、外観に異常がない場合を十分であるとして「○」と、外観に何らかの異常がある場合を不十分であるとして「×」と、それぞれ評価した。
【0073】
2.付着性評価:JIS K 5600−5−6に準拠して、2mm間隔で縦横各5マス、計25マスのクロスカット後にセロハン製粘着テープ(ニチバン株式会社製セロテープ)で剥離試験を行い、試験結果の分類による判定を行った。付着性は分類0〜5の6段階中、分類0あるいは分類1であったとき、十分であるであるとして「○」と、分類2〜5であったときを不十分であるとして「×」と、それぞれ評価した。
【0074】
3.耐候性評価:JIS K 5600−7−7に準拠して、キセノンウェザーメーターを用いて1200時間の促進暴露試験を行った後に、塗膜外観の変色、変状の有無を確認した。このとき、外観に変色及び変状がない場合を十分であるとして「○」と、外観に変色及び変状がある場合を不十分であるとして「×」と、それぞれ評価した。
【0075】
4.耐落書き性評価
耐落書き性評価として、落書き対策水性塗料の塗装後、比較的短期間内に落書きされた場合を想定した評価(4−1)と、落書き対策水性塗料の塗装から経時後に落書きがされた場合を想定した評価(4−2)の2つの場合に分けて行った。
【0076】
<4−1 塗装後、比較的短期間内に落書きされた場合を想定した評価>
試験板に各落書き対策水性塗料を塗装し、7日後に各塗装面に再度、市販のラッカースプレーを塗布量が0.1kg/m
2となるように塗布し、落書き対策水性塗料の塗膜におけるしわ、われ、剥がれ等の変状の有無を判定した。
【0077】
<4−2 塗装から経時後に落書きされた場合を想定した評価>
試験板に各落書き対策水性塗料を塗装した後、JIS K 5600−7−7によりキセノンウェザーメーターを用いた1200時間の促進暴露試験を行った。各塗装面に再度、市販のラッカースプレーを塗布量が0.1kg/m
2となるように塗布し、落書き対策水性塗料の塗膜におけるしわ、われ、剥がれ等の変状の有無を判定した。
【0078】
これら判定において、外観が正常であった場合を十分であるとして「○」と、外観にややしわが生じた場合を不十分であるとして「△」と、われや浮きの変状が生じた場合を不十分であるとして「×」と、それぞれ評価した。
【0079】
5.落書き除去性評価
落書き除去性評価として、落書き対策水性塗料の塗膜の上に落書きされた場合、落書き後、比較的短期間内にその落書きの除去作業をおこなう場合を想定した評価(5−1)と、落書きされてから経時した後に除去作業をおこなう場合を想定した評価(5−2)の2つの場合に分けて行った。
【0080】
<5−1 落書き後、比較的短期間内に除去作業を行う場合を想定した評価>
市販のラッカースプレーを用いて各落書き対策水性塗料の塗装面に塗布量が0.1kg/m
2となるように塗布し、ついで23℃、50%RHの環境下で24時間放置した後に、布粘着テープ(オリーブテープNo.141 株式会社寺岡製作所)の粘着面の粘着性(タック)を利用し、布粘着テープをラッカースプレーによって形成された塗膜に、貼り合わせて剥がすと云う一連の動作を数回繰り返して塗膜を除去する、落書き除去試験を行って落書き除去性を判定した。
【0081】
<5−2 落書き後、経時した後に除去作業を行う場合を想定した評価>
上記5−2の判定と同様に、ただし、ラッカースプレーによる塗布後、23℃、50%RHの環境下で24時間放置する代わりに、JIS K 5600−7−7によりキセノンウェザーメーターを用いた1200時間の促進暴露試験を行った後に、上記同様に布粘着テープを用いた落書き除去試験を行って落書き除去性を判定した。
【0082】
これら判定において、ラッカースプレーによって形成された塗膜が完全に除去できた場合を十分であるとして「○」と、除去できなかった場合を不十分として「×」と、それぞれ評価した。以上の評価結果を表3及び表4に併せて示す。
【0083】
【表3】
【0084】
【表4】
【0085】
表3及び表4から、本発明に係る本発明の落書き対策塗料を用いると、コンクリートなどのモルタル面に塗布しても、あるいは、落書きされた箇所に塗布しても良好な塗装面が形成され、その塗装面は耐候性にも優れる。そして、本発明に係る落書き対策塗料の塗布直後であっても、また、塗布後経時した場合であっても、落書きの影響を受けない。さらに、本発明に係る落書き対策塗料による塗膜は、落書き直後でも、落書き後、経時した場合であっても、その落書きを容易に除去できることが理解される。
【0086】
ここで、モルタル面に、本発明の落書き対策塗料(実施例2品)を塗布量が0.15kg/m
2となるように塗布し形成した塗膜の断面写真(ガラスフィラーを見やすくなるように、明るさ及びコントラストを変更し、さらに、説明文を追加したもの)を
図1に示す。これら写真および図から理解されるように本発明の塗料によって形成された塗膜内では、鱗片状フィラーは塗布面に平行に積層されて配置されていることが理解される。
【0087】
なお、上記の試験において、実施例の塗料によって形成された塗膜面上へのラッカースプレーによる落書きを想定した塗布の際、すべての場合でラッカースプレーの塗料ははじかれ、塗布面を塗りつぶすような均一な塗布はできず、むらの大きいものとなかった。
【0088】
また、水性スプレーによる落書きを想定し、別途、実施例1〜4の塗料によってそれぞれ形成された塗膜面上に市販の水性塗料スプレー(アトム水性スプレー(黒色)。アトムサポート株式会社)を塗布量が0.1kg/m
2となるように塗布し(このときの塗布でも塗料がはじかれて均一なものとならず、むらの大きいものであった)、23℃、50%RHの環境下で24時間放置した後、イソプロピルアルコールを含ませた布で擦ったところ、実施例1〜4の落書き対策塗料による塗膜を痛めることなく、それぞれの水性塗料スプレーによる塗膜を完全に除去できた。このことより、本発明の落書き対策塗料による塗膜面は、ラッカースプレーによる落書きのみならず、水性塗料スプレーによる落書きに対してもその落書き防止効果が有効であることが確認された。