特許第6085110号(P6085110)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6085110
(24)【登録日】2017年2月3日
(45)【発行日】2017年2月22日
(54)【発明の名称】モールド変圧器およびモールドコイル
(51)【国際特許分類】
   H01F 27/06 20060101AFI20170213BHJP
   H01F 27/32 20060101ALI20170213BHJP
   H01F 30/10 20060101ALI20170213BHJP
【FI】
   H01F27/06
   H01F27/32 A
   H01F30/10 J
【請求項の数】15
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-156612(P2012-156612)
(22)【出願日】2012年7月12日
(65)【公開番号】特開2014-22397(P2014-22397A)
(43)【公開日】2014年2月3日
【審査請求日】2015年1月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】特許業務法人磯野国際特許商標事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100064414
【弁理士】
【氏名又は名称】磯野 道造
(74)【代理人】
【識別番号】100111545
【弁理士】
【氏名又は名称】多田 悦夫
(72)【発明者】
【氏名】小林 金也
【審査官】 右田 勝則
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭61−097817(JP,U)
【文献】 実開昭58−005331(JP,U)
【文献】 特開平09−050923(JP,A)
【文献】 特開平08−191018(JP,A)
【文献】 特開2009−147196(JP,A)
【文献】 実開昭56−34328(JP,U)
【文献】 実開昭55−126617(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 27/06
H01F 27/32
H01F 30/10
F16F 1/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁樹脂または絶縁樹脂を含んだ絶縁材でコイルがモールドされており、端面の形状が略角丸矩形または略長円形のモールドコイルと、
前記モールドコイルの一方の端面および他方の端面の少なくとも一方に、前記モールドコイルをフレーム体に固定する保持材と、を備え、
前記保持材が、前記端面における直線部に設けられており、
前記保持材と前記モールドコイルの間に、樹脂製の接続部材が設けられており、さらに
前記接続部材が、バネまたはボルトである
ことを特徴とするモールド変圧器。
【請求項2】
絶縁樹脂または絶縁樹脂を含んだ絶縁材でコイルがモールドされており、端面の形状が略角丸矩形または略長円形のモールドコイルと、
前記モールドコイルの一方の端面および他方の端面の少なくとも一方に、前記モールドコイルをフレーム体に固定する保持材と、を備え、
前記保持材が、同一の前記端面上の直線部に複数設けられており、さらに
前記保持材同士が連結材で連結されている
ことを特徴とするモールド変圧器。
【請求項3】
絶縁樹脂または絶縁樹脂を含んだ絶縁材でコイルがモールドされており、端面の形状が略角丸矩形または略長円形のモールドコイルと、
前記モールドコイルの一方の端面および他方の端面の少なくとも一方に、前記モールドコイルをフレーム体に固定する保持材と、を備え、
前記保持材が、前記端面における直線部に設けられており、さらに
前記保持材が、設置面に固定された固定材と、連結具を介して連結されている
ことを特徴とするモールド変圧器。
【請求項4】
前記保持材と前記モールドコイルの間に、樹脂製の接続部材を設けることを特徴とする請求項2または3に記載のモールド変圧器。
【請求項5】
前記接続部材が、バネまたはボルトであることを特徴とする請求項に記載のモールド変圧器。
【請求項6】
前記接続部材が、流動性を有する材料で形成されていることを特徴とする請求項に記載のモールド変圧器。
【請求項7】
前記流動性を有する材料が、シリコーンまたはエラストマーであることを特徴とする請求項6に記載のモールド変圧器。
【請求項8】
前記接続部材は、最大寸法が100nm以下のフィラーを含んでいることを特徴とする請求項1〜7のうちのいずれか一項に記載のモールド変圧器。
【請求項9】
同一端面上に前記保持材が複数設けられ、
前記保持材同士を連結材で連結したことを特徴とする請求項1、3〜8のうちのいずれか一項に記載のモールド変圧器。
【請求項10】
前記保持材が、設置面に固定された固定材と、連結具を介して連結されていることを特徴とする請求項1、2、4〜9のうちのいずれか一項に記載のモールド変圧器。
【請求項11】
単相変圧器または三相変圧器であることを特徴とする請求項1〜10のうちのいずれか一項に記載のモールド変圧器。
【請求項12】
変電所、発電機、または鉄道で用いられることを特徴とする請求項1〜11のうちのいずれか一項に記載のモールド変圧器。
【請求項13】
絶縁樹脂または絶縁樹脂を含んだ絶縁基材でコイルがモールドされており、端面の形状が略角丸矩形または略長円形であり、一方の端面および他方の端面の少なくとも一方の直線部に、フレーム体に固定する保持材が設けられており、
前記保持材と前記モールドコイルの間に、樹脂製の接続部材が設けられており、さらに
前記接続部材が、バネまたはボルトである
ことを特徴とするモールドコイル。
【請求項14】
絶縁樹脂または絶縁樹脂を含んだ絶縁基材でコイルがモールドされており、端面の形状が略角丸矩形または略長円形であり、一方の端面および他方の端面の少なくとも一方の直線部に、フレーム体に固定する保持材が設けられており、
前記保持材が、同一の前記端面上の直線部に複数設けられており、さらに
前記保持材同士が連結材で連結されている
ことを特徴とするモールドコイル。
【請求項15】
絶縁樹脂または絶縁樹脂を含んだ絶縁基材でコイルがモールドされており、端面の形状が略角丸矩形または略長円形であり、一方の端面および他方の端面の少なくとも一方の直線部に、フレーム体に固定する保持材が設けられており、
前記保持材が、設置面に固定された固定材と、連結具を介して連結されている
ことを特徴とするモールドコイル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モールド変圧器およびモールドコイルに関する。
【背景技術】
【0002】
絶縁樹脂または絶縁樹脂を含む絶縁材(以下、これらを総称して「絶縁材」という。)でコイルをモールドしたモールドコイルを備えたモールド変圧器に関する背景技術として、例えば、特許文献1がある。
【0003】
この公報には、図11を参照して説明するように、モールドコイル110のコイル軸c−c方向の端面に設けられた凹部111a、111b、111cにはそれぞれ、上部金具(図示せず)に固定され、モールドコイル110のコイル軸c−c方向の端面を部分的に押さえるコイル押さえ部材(保持材とも称されている。)112a、112b、112cがはめ込まれている。これらコイル押さえ部材112a、112b、112cは、それぞれの−Z軸方向の端部が前記凹部111a、111b、111c内にはめ込まれた状態でモールドコイル110を押さえることにより、当該モールドコイル110の剛性を増大させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−147196号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、コイルを絶縁材でモールドしたモールドコイルは、温度が急激に変化すると、絶縁材と金属の熱膨張係数の差があるため応力が発生し、絶縁材にクラックが発生する可能性がある。また、モールドコイルの絶縁材の使用量を減らし、小型化する場合も、樹脂量を少なくすることによって応力が強くなり、絶縁材にクラックが発生する可能性がある。
特に、端面の形状が略角丸矩形または略長円形のモールドコイルの場合、コーナ部に応力が集中し、絶縁材にクラックが発生する可能性がある。
【0006】
ここで、前記した特許文献1に記載のモールド変圧器においては、モールドコイル110の端面のコーナ部またはコーナ部の近くにコイル押さえ部材112a、112b、112c(特に、コイル押さえ部材112b、112c)を設けてフレーム体(図11において図示せず)に固定している。特許文献1に記載のモールド変圧器は、このような構成とすることで応力による歪みや変形の発生を抑えるととともに、装置の構造力学的な安定性の向上を図っている。
【0007】
しかし、特許文献1に記載されているモールドコイル110では、コイル押さえ部材112b、112cと絶縁材の接触する部分の境界面が、応力が集中するモールドコイル110のコーナ部の近くにある。応力は当該境界面で大きくなるため、温度が変化し、絶縁材が熱膨張や収縮すると、絶縁材にクラックが発生する可能性がある。また、特許文献1に記載のモールド変圧器を小型化する際、モールドコイル110の樹脂量を少なくすることになるが、これによって応力が強くなり、絶縁材にクラックが発生する可能性がある。
【0008】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、コイルをモールドする絶縁樹脂または絶縁樹脂を含んだ絶縁材にクラックが発生し難いモールド変圧器およびモールドコイルを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決した本発明は、絶縁樹脂または絶縁樹脂を含んだ絶縁材でコイルモールドされており、端面の形状が略角丸矩形または略長円形のモールドコイルと、前記モールドコイルの一方の端面および他方の端面の少なくとも一方に、前記モールドコイルをフレーム体に固定する保持材と、を備え、前記保持材が、前記端面における直線部に設けられており、前記保持材と前記モールドコイルの間に、樹脂製の接続部材が設けられており、さらに前記接続部材が、バネまたはボルトであることを特徴とするモールド変圧器である。
また、本発明は、絶縁樹脂または絶縁樹脂を含んだ絶縁材でコイルをモールドした、端面の形状が略角丸矩形または略長円形のモールドコイルと、前記モールドコイルの一方の端面および他方の端面の少なくとも一方に、前記モールドコイルをフレーム体に固定する保持材と、を備え、前記保持材が、同一の前記端面上の直線部に複数設けられており、さらに前記保持材同士が連結材で連結されていることを特徴とするモールド変圧器である。
さらに、本発明は、絶縁樹脂または絶縁樹脂を含んだ絶縁材でコイルをモールドした、端面の形状が略角丸矩形または略長円形のモールドコイルと、前記モールドコイルの一方の端面および他方の端面の少なくとも一方に、前記モールドコイルをフレーム体に固定する保持材と、を備え、前記保持材が、前記端面における直線部に設けられており、さらに前記保持材が、設置面に固定された固定材と、連結具を介して連結されていることを特徴とするモールド変圧器である。
【0010】
また、本発明は、絶縁樹脂または絶縁樹脂を含んだ絶縁基材でコイルモールドされており、端面の形状が略角丸矩形または略長円形であり、一方の端面および他方の端面の少なくとも一方の直線部に、フレーム体に固定する保持材設けられており、前記保持材と前記モールドコイルの間に、樹脂製の接続部材が設けられており、さらに前記接続部材が、バネまたはボルトであることを特徴とするモールドコイルである。
また、本発明は、絶縁樹脂または絶縁樹脂を含んだ絶縁基材でコイルがモールドされており、端面の形状が略角丸矩形または略長円形であり、一方の端面および他方の端面の少なくとも一方の直線部に、フレーム体に固定する保持材が設けられており、前記保持材が、同一の前記端面上の直線部に複数設けられており、さらに前記保持材同士が連結材で連結されていることを特徴とするモールドコイルである。
さらに、本発明は、絶縁樹脂または絶縁樹脂を含んだ絶縁基材でコイルがモールドされており、端面の形状が略角丸矩形または略長円形であり、一方の端面および他方の端面の少なくとも一方の直線部に、フレーム体に固定する保持材が設けられており、前記保持材が、設置面に固定された固定材と、連結具を介して連結されていることを特徴とするモールドコイルである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、コイルをモールドする絶縁樹脂または絶縁樹脂を含んだ絶縁材にクラックが発生し難いモールド変圧器およびモールドコイルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】一実施形態に係るモールドコイルを示す斜視図である。
図2図1に示したモールドコイルを用いた単相変圧器に係るモールド変圧器を示す斜視図である。
図3】モールドコイルの構造を説明する要部断面図である。
図4】端面が略長円形であるモールドコイルの平面図である。
図5A】保持材とモールドコイルの固定に関する好ましい実施形態を示す説明図である。
図5B】接続部材の一例を示す一部透視図である。
図5C】接続部材の他の一例を示す斜視図である。
図6】保持材の固定についての好ましい一例を示した斜視図である。
図7】保持材の固定についての好ましい他の一例を示した斜視図である。
図8】他の実施形態に係るモールド変圧器を示す図であって、三相変圧器に係るモールド変圧器を示す斜視図である。
図9】他の実施形態である三相変圧器に係るモールド変圧器の保持材の固定についての好ましい一例を示した斜視図である。
図10】他の実施形態である三相変圧器に係るモールド変圧器の保持材の固定についての好ましい他の一例を示した斜視図である。
図11】従来公知のモールド変圧器におけるモールドコイルの押さえ構造を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態(実施形態)について、図面を参照して詳細に説明する。
【0014】
図1は、一実施形態に係るモールドコイルを示す斜視図であり、図2は、図1に示したモールドコイルを用いた単相変圧器に係るモールド変圧器を示す斜視図である。なお、単相変圧器とは、単独で単相の電力受電を行う変圧器をいう。
図1に示すモールドコイル1は、一方の端面1aおよび他方の端面1bの少なくとも一方の直線部1c(この例では4つ)に、図2に図示するフレーム体12に固定する保持材2を設けている。保持材2を固定する位置については後に詳述する。
図2に示すモールド変圧器10は、鉄心(コアと称されることもある。)11と、図1に示すモールドコイル1と、フレーム体12と、保持材2と、を備えている。
【0015】
鉄心11は、磁束を流す役割を果たす。鉄心11は、一般的に用いられるものであればよく、例えば、巻鉄心や積鉄心を用いることができる。なお、図2での鉄心11は、O字状の巻鉄心を図示している。
【0016】
図3は、モールドコイル1の構造を説明する要部断面図である。
図3に示すように、モールドコイル1は、絶縁樹脂または絶縁樹脂を含んだ絶縁材3でコイル4をモールドしたものである。コイル4には、一般的に、電流を入力する一次コイル41と、電流を出力する二次コイル42がある。一次コイル41および二次コイル42は、導線を鉄心11の脚部(鉄心脚13と称する。)を中心に巻きつけるようにして形成されている。これにより、一次コイル41に交流電流を流して変動磁場を発生させて、それを鉄心11に伝え、鉄心11から伝えられた変動磁場が二次コイル42に伝わって再び電流に変換し、モールド変圧器10外に出力する。つまり、一次コイル41に電流を流すと、電磁誘導作用の原理により二次コイル42に誘導起電力を生じさせる。
【0017】
図3に示すように、一次コイル41と二次コイル42は、多くの場合、鉄心脚13を中心に、絶縁材3を介して順次積層したような構成となっている。つまり、中心となる鉄心脚13の外側に絶縁材3が設けられ、この絶縁材3の外側に一次コイル41が巻かれている。そして、この一次コイル41の外側に絶縁材3が設けられ、この絶縁材3の外側に二次コイル42が巻かれ、この二次コイル42の外側に絶縁材3が設けられている。なお、一次コイル41および二次コイル42は、電磁誘導作用の原理により誘導起電力を生じさせることができればよく、それぞれを1つの鉄心11の異なる鉄心脚13に配設することもできる。なお、鉄心11のうち、上下方向(Z軸方向)に伸びる部分が鉄心脚である。
【0018】
コイル4をモールドする絶縁樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、アルキド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂などを用いることができる。なお、これらの絶縁樹脂の中でも、難燃性であることおよびコストの観点からエポキシ樹脂を用いるのが好ましい。
【0019】
また、コイル4をモールドする絶縁材3は、前記した絶縁樹脂のうちのいずれかを含浸させたプリプレグシート(絶縁性シート)を用いることができる。なお、モールドコイルのモールドには、絶縁材として、ガラス繊維を編み込んで短冊状に形成された複数のガラスマット(絶縁性マット)を併用することもできる。
【0020】
モールドコイル1は、その端面1a、1bの形状が略角丸矩形または略長円形とされる。なお、図1には端面1a、1bの形状が略角丸矩形であるモールドコイルを図示している。端面1a、1bが略長円形であるモールドコイル1’の平面図を図4に示した。
ここで、略角丸矩形とは、矩形のうち、直交する辺同士がいずれも曲線で結ばれた形、つまり、矩形の4つの角がいずれも丸くなった形をいう。
また、略長円形とは、二つの等しい長さの平行線と二つの半円形からなる形をいう。
端面1a、1bの形状をこれらのようにする理由は、後記するように、保持材2をモールドコイル1の端面1a、1bの直線部1cに設けるためである。
【0021】
図1および図4に示す形態でモールドコイル1の端面1aの直線部1cに保持材2を固定した場合と、図11に示す従来公知のモールドコイル110の押さえ構造、すなわちモールドコイル110のコーナ部にコイル押さえ部材112b、112cを固定した場合とを、シミュレーションにより比較すると、図1および図4に示す形態でモールドコイル1の端面1aの直線部1cに保持材2を固定した場合の方が、従来公知のモールドコイル110のコーナ部にコイル押さえ部材112b、112cを固定した場合よりも30%以上応力を低減できることが確認された。本シミュレーションは有限要素法に基づく、一般的な熱応力計算で実施した。なお、前記した確認では、温度を変化させたときの内部応力の大きさを比較した。
【0022】
フレーム体12は、図2に示すように、保持体2を介してモールドコイル1を固定する。フレーム体12は、モールドコイル1の一方の端面1aから外部に露出した鉄心11を覆うようにして設けられる一端側フレーム体12aと、モールドコイルの他方の端面1bから外部に露出した鉄心11を覆うようにして設けられる他端側フレーム体12bと、のうちの少なくとも一方、好ましくは両方を有してなる。なお、図2にはフレーム体12として、一端側フレーム体12aおよび他端側フレーム体12bを図示している。
【0023】
保持材2は、モールドコイル1とフレーム体12の間に設けられるものであるので、フレーム体12が一端側フレーム体12aおよび他端側フレーム体12bを有している場合は、保持材2もモールドコイル1の一方の端面1aおよび他方の端面1b(図1参照)に設ける。他方、フレーム体12が一端側フレーム体12aのみである場合は、保持材2をモールドコイル1の一方の端面1aのみに設ければよく、フレーム体12が他端側フレーム体12bのみである場合は、保持材2をモールドコイル1の他方の端面1bのみに設ければよい。保持材2は、例えば、シリコーン材などで形成することができる。
【0024】
既に概略的に説明しているように、本発明においては、保持材2をモールドコイル1の端面1a、1bの直線部1cに設ける。このようにすると、応力が集中するコーナ部またはコーナ部の近くに保持材2を設けないので、応力が集中するのを抑えることができる。そのため、コイル4をモールドする絶縁材3にクラックを発生させ難くすることができる。かかる効果は、保持材2をコーナ部から離間させるほど、より確実に奏することができる。
【0025】
図5Aは、保持材2とモールドコイル1の固定に関する好ましい実施形態を示す説明図である。図5Bは、接続部材の一例を示す一部透視図であり、図5Cは、接続部材の他の一例を示す斜視図である。
図5Aに示すように、保持材2とモールドコイル1の間に、樹脂製の接続部材5を設けるのが好ましい。また、図5Bに示すように、かかる接続部材5はボルト51および/またはバネ52であるのがより好ましい。樹脂製のボルト51および/またはバネ52であれば弾性変形が可能であるので、保持材2で固定する際の応力集中を抑制することができ、急激に温度が変化した場合でも、コイル4をモールドする絶縁材3にクラックを発生させ難くすることができる。
【0026】
また、前記接続部材5の代わりに、図5C図5A)に示すように、流動性を有する材料で形成した接続部材(かかる接続部材を説明の便宜上、「接続薄膜材5a」という。)を用いることもできる。このような接続薄膜材5aでも前記樹脂製の接続部材5と同様、保持材2で固定する際の応力集中をより抑制することができる。そのため、急激に温度が変化した場合でも、コイル4をモールドする絶縁材3にクラックを発生させ難くすることができる。このような流動性を有する材料としては、シリコーンまたはエラストマーを挙げることができる。
【0027】
さらに、接続部材5および接続薄膜材5aは、その材質中に最大寸法が100nm以下のフィラー(図示せず)を含んでいるのが好ましい。このようにすると、樹脂の強度や絶縁破壊耐性を向上させることができ、また、電界集中と応力集中を低減することができる。フィラーは、例えば、シリカやアルミナなどを用いることができる。このようにすると、樹脂の熱膨張率を金属と同程度まで低減することができ、熱応力が低減されることからコイル4をモールドする絶縁材3にクラックを発生させ難くすることができる。なお、フィラーの添加量は、コイル4をモールドする絶縁材3にクラックを発生させ難くすることができればよく、特に限定されるものではないが、例えば、樹脂中20〜30質量%程度添加されているのが好ましい。
【0028】
図6は、保持材2の固定についての好ましい一例を示した斜視図である。
図6に示すように、モールドコイル1の同一端面1a、1a上に前記した保持材2が複数設けられている場合は、同一端面1a、1a上に複数設けられた保持材2同士を連結材6で連結するのが好ましい。このようにすると、モールド変圧器10の構造安定性を向上させることができる。
連結材6は、図6に示すように、直線状または曲線状とすることができるがこれらに限定されるものではなく、その他の形状とすることもできる。連結材6は、弾性部材であるのが好ましい。連結材6を弾性部材とすれば、保持材2に外部から入力があった場合や、急激な温度変化により応力が発生した場合でもこれらを和らげることができる。弾性部材としては、例えば、ゴム材などを用いることができる。
【0029】
図7は、保持材2の固定についての好ましい他の一例を示した斜視図である。
図7に示すように、モールド変圧器10が設置される面(設置面)に鉄柱やコンクリートなどの固定材14が固定されている場合は、モールドコイル1の端面1a、1aに固定された保持材2と、設置面に固定された固定材14とを、連結具7で連結するのが好ましい。なお、図7においては、保持材2同士を連結しているものが連結材6であり、保持材2と固定材14を固定しているものが連結具7である。連結材6および連結具7で保持材2を連結したり固定したりすると、モールド変圧器10の構造安定性をさらに向上させることができる。連結具7は、例えば、鉄製の棒材などを用いることができる。
【0030】
以上、図1〜7を参照して単相変圧器に係るモールド変圧器について説明したが、本発明の内容は三相変圧器に係るモールド変圧器に適用することができる。なお、三相変圧器とは、単独で三相の電力受電を行う変圧器をいう。
図8は、他の実施形態に係るモールド変圧器を示す図であって、三相変圧器に係るモールド変圧器20を示す斜視図である。この三相変圧器に係るモールド変圧器20は、略8字状の鉄心11の鉄心脚U、V、Wのそれぞれに図1に示したモールドコイル1を設けたものである。つまり、各モールドコイル1の端面1a、1a、1a(図9参照)の直線部1c(図1参照)に保持材2を設けている。
【0031】
三相変圧器に係る場合も、単相変圧器に係る場合と同様、樹脂製の接続部材5を設けたり、当該接続部材5をバネまたはボルトとしたり、また、流動性を有する材料で接続薄膜材5aを形成したり、さらに流動性を有する材料をシリコーンまたはエラストマーとしたりすることができる。また、接続部材5および接続薄膜材5aには、最大寸法が100nm以下のフィラーを含ませることもできる。これらの構成とすること、およびこれらの構成を採用することによって得られる効果については既に説明しているので、ここでの説明は省略する。
【0032】
図9は、他の実施形態である三相変圧器に係るモールド変圧器20の保持材2の固定についての好ましい一例を示した斜視図である。なお、図示の都合上、フレーム体12および鉄心11は省略している。
三相変圧器に係るモールド変圧器20(図8)の場合であって、モールドコイル1の同一端面1a、1a、1a上に前記した保持材2が複数設けられている場合は、図9に示すように、個々のモールドコイル1の同一端面1a、1a、1a上に設けられた保持材2同士を連結材6で連結すると伴に、他のモールドコイル1の同一端面1a上に設けられた保持材2同士を連結材6で連結することもできる(かかる形態は図9には図示せず。)。連結材6は既に説明しているように、直線状または曲線状とすることができ、弾性部材とするのが好ましい。このようにすると、複数のモールドコイル1を備える三相変圧器の構造安定性を向上させつつ、外部からの入力があった場合や急激な温度変化により応力が発生した場合でもこれらを和らげることができる。弾性部材としては、前記と同様、例えば、ゴム材などを用いることができる。
【0033】
図10は、他の実施形態である三相変圧器に係るモールド変圧器20の保持材2の固定についての好ましい他の一例を示した斜視図である。なお、図示の都合上、フレーム体12および鉄心11は省略している。
図10に示すように、三相変圧器に係るモールド変圧器20の設置面に鉄柱やコンクリートなどの固定材14が固定されている場合は、前記と同様、モールドコイル1の端面1a、1a、1aに固定された保持材2と、設置面に固定された固定材14とを、連結具7で連結するのが好ましい。このようにすると、モールド変圧器20の構造安定性をさらに向上させることができる。連結具7は、前記と同様のものを適用することができる。
【0034】
以上に説明したモールド変圧器10、20およびモールドコイルは、変電所、発電機、または鉄道で好適に用いることができる。
以上、発明を実施する形態により、本発明の内容について詳細に説明したが、本発明は前記した内容に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、前記した実施形態は本発明を分かり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成に一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0035】
1 モールドコイル
1a、1b 端面
1c 直線部
2 保持材
3 絶縁材
4 コイル
5 接続部材
5a 接続薄膜材
6 連結材
10 モールド変圧器
12 フレーム体
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図6
図7
図8
図9
図10
図11