(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
単撚り構造の操作用ワイヤロープは、1本の素線からなる心線、または複数本の素線を撚り合わせた心ストランドを心材として、その周囲に複数本の素線を撚り合わせたワイヤロープである。このような単撚り構造のワイヤロープとしては、たとえば
図5(a)および(b)に示されるように、一般的には、殆ど同じ太さの素線を心材の周囲に撚り合わされることにより形成されている(たとえば特許文献1の
図1、および非特許文献1参照)。すなわち、
図5(a)に示される構造は、線径がd
30の心線71の周囲に線径がd
31の素線72が6本、さらにその周囲に線径がd
32の素線73が12本、それぞれ撚り合わされることにより、外径がD
3に形成された、1+6+12のいわゆる1×19の単撚り構造の例である。また、
図5(b)に示される構造は、線径がd
40の心線75の周囲に、線径がd
41の素線76が6本、さらにその周囲に線径がd
42の素線77が12本撚り合わされ、さらにその周囲に線径がd
43の素線78が18本、それぞれ撚り合わされることにより、外径がD
4に形成された、1+6+12+18のいわゆる1×37の単撚り構造の例である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ワイヤロープは、一般的に、柔軟性や耐久性が必要である。この柔軟性を増すためには、素線の径を細くして素線の本数を増やすのが一般的である。しかし、素線の径を細くすると、耐摩耗性や耐形くずれ性が悪くなり、耐久性が低下するという問題がある。
【0006】
一方で、たとえば自動車の車内等において、曲げて配索され、引き操作されるコントロールケーブルのインナーケーブルにも用いられるような操作用ワイヤロープでは、配索スペースが限られているため、ワイヤロープの外径をあまり大きくすることができず、また、操作力に耐え得る強度が必要なために、素線径をあまり小さくすることができず、前述の
図5(a)に示されるような1×19などの素線の径をできる限り大きくし、素線の径の大きさと素線数のバランスを考慮した単撚り構造のワイヤロープを用いることが一般的になっている。
【0007】
しかし、操作用ワイヤロープとして、たとえば車両のパーキングブレーキ用コントロールケーブルのインナーケーブルとして、1×19の単撚り構造のワイヤロープを用いた場合には、耐久性とストロークロスとが十分ではないことを見出した。
【0008】
本発明は、このような問題を解決するためになされたもので、耐久性が改善され、かつストロークロスが良好な操作用ワイヤロープを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の操作用ワイヤロープは、心材と、複数の素線を、前記心材の周囲に撚り合わせて形成された第一層と、複数の素線を、前記第一層の素線と平行になるように前記第一層の周囲に撚り合わせて形成された第二層とを有する単撚り構造の操作用ワイヤロープであって、前記第一層または前記第二層の一方は、外径の異なる複数の素線を交互に並べて構成されたウォーリントン形を有しており、前記第二層の形付け率が60〜80%であることを特徴とする。
【0010】
ここに操作用ワイヤロープとは、JIS G 3540に規定されるワイヤロープを意味し、主として機械器具の操作用などに用いられる比較的細いワイヤロープであり、機械、エレベータ、建設、船舶、漁業、林業、鉱業、索道などに用いられる一般用ワイヤロープ(JIS G 3525)と区別される。また、形付け率とは、
図6に示すように、ワイヤロープをほぐしたときの第二層のうねり径をh、ワイヤロープの外径をDとすると、h/D×100で求められる。
【0011】
前記第一層または前記第二層の他方を構成する素線の外径は、前記第一層または前記第二層の一方を構成する素線の外径よりも大きい構造にすることができる。
【0012】
前記心材は、1本の心線と、複数の素線を前記心線の周囲に撚り合わせて形成された側線とを有し、前記第一層の撚り方向は、前記側線の撚り方向と逆向きであり、前記第二層がウォーリントン形を有している構造にすることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の操作用ワイヤロープによれば、第一層または第二層に線径の太い素線と細い素線とを交互に並べたウォーリントン形構造を有するワイヤロープにしているため、素線間の隙間を非常に少なくして、素線同士を密に撚り合わせることができる。その結果、操作側の操作量と負荷側の変化量との差であるストロークロスが良好であると共に、各素線を細くできるため、曲げやすく、しかも所定の外径寸法内に素線の数を多く配置することができるため、操作力を強くすることができ、耐摩耗性や耐久性も高くすることができる。また、各素線が密に撚り合わされているため、耐形くずれ性も高く維持することができる。さらに、形付け率が60〜80%にされているため、素線間の締め付け力が適度に強く、より一層ストロークロスが良好であると共に、耐久性もさらに向上する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
前述のように、たとえば自動車のパーキングブレーキ用に用いられるコントロールケーブルのインナーケーブルのように、車内等において、曲げて配索され、引き操作される操作用ワイヤロープは、ストロークロスが良好で、曲げやすく、かつ、耐久性を有することが要求される。そこで、本発明者らは、このようなストロークロスが良好で、かつ、曲げやすい操作用ワイヤロープを得るため鋭意検討を重ねた結果、操作用ワイヤロープを単撚り構造で形成し、かつ、単撚り構造でも特にストロークロスが良好で、耐久性に優れた操作用ワイヤロープ得るため鋭意検討を重ねた結果、後述する撚り構造および形付け率とすることにより、所望の特性の操作用ワイヤロープを得ることができることを見出した。
【0016】
すなわち、素線の撚り構造を太線と細線とを交互に撚り合わせるウォーリントン形構造とし、さらに、最外層の素線の形付け率が60〜80%になるように形成することにより、ストロークロスを良好にすることができ、しかも耐久性も向上することを見出した。
【0017】
ここに形付けとは、ワイヤロープを途中で切断しても撚りがほぐれないように、最外周の素線(本発明での第二層)を予め巻き形で塑性変形させることをいう。その形付けの際の直径をワイヤロープとしての直径よりも小さくして形付けするが、その小さくする直径がワイヤロープとしての直径に対して何%の直径であるかを形付け率として表す。通常は形付け率が95%程度に形成されるが、本発明では、これを60〜80%にすることにより、ストロークロスが良好となり、単撚り構造のワイヤロープとして実用的なものが得られたのである。
【0018】
次に、添付図面を参照しながら、本発明の操作用ワイヤロープについて詳細に説明する。本発明の操作用ワイヤロープ1は、
図1にその一実施形態の断面構造図が示されるように、心材2と、心材2(
図1に示される例では、心線21の周囲に素線(側線)22が6本撚り合わされた構造)の周囲に、複数の素線31を撚り合わせて形成された第一層3と、第一層3の周囲に複数の素線41、42を第一層3の素線と平行になるように撚り合わせて形成された第二層4とを有する単撚り構造である。
図1に示される例では、第二層4が外径の異なる複数の素線、すなわち外径が細い素線41と外径が太い素線42とが交互に並んで構成されたウォーリントン形構造を有しており、第二層4の形付け率が60〜80%に形成されている。なお、後述するように、第一層3がウォーリントン形構造を有するように構成してもよく、第一層3または第二層4の一方が、外径の異なる複数の素線を交互に並べて構成されたウォーリントン形を有していればよい。
【0019】
図1に示される実施形態の操作用ワイヤロープ1の構造は、いわゆる1×7+W(30)の構造で、心材2が、たとえば線径d
10の1本の素線からなる心線21の周囲に、線径d
11の側線(素線22)が6本撚り合わされた構造で形成されている。すなわち、心材2とは、ワイヤロープの中心となる材料を意味し、1本の素線で形成される場合の他、素線の周囲に一層または複数層の素線が撚り合わされたものも含む意味である。このように、心材2は、撚り合わされた構造ではなくて1本の心線で形成されていても良いが、用途により曲げやすさが要求されるような場合には、あまり太い素線を用いると曲げ難くなるため、曲げやすさを確保できる程度の細い素線を撚り合わせる構造にした方が好ましい。
【0020】
心材2を構成する素線の材料は、鋼線やステンレス鋼線など、従来のワイヤロープに用いられる材料を用いることができる。また、心材2を複数の素線により構成する場合の撚り方向も、Z撚りまたはS撚りのいずれでも採用することができる。しかし、後述するように、この周囲に巻回する第一層3および第二層4の撚り方向と逆向きになるように選択した方が自転回数を減らすことができるため好ましい。一方、第一層3などと同時に撚り合わせる場合は、撚り方向を合わせることになる。なお、素線の材料、および撚り方向の選択は、周囲に撚り合わされる第一層3、第二層4についても同様であり、素線の径は、前述のように使用目的に応じて、また、要求される操作用ワイヤロープ1の外接円の直径D
1に応じて、適宜選択され、たとえば自動車の車内等において、曲げて配索され、引き操作されるコントロールケーブルのインナーケーブルのような操作用ワイヤロープ1では、曲げやすさが要求されることから、線径が0.7mm程度以下で、かつ、前述の外接円の中にできるだけ隙間なく配置できる構造になるように選択されることが好ましい。
【0021】
第一層3は、
図1に示される例では、直径がd
12の素線31が10本、心材2の周囲に撚り合わされている。第一層3の素線31の撚り方向は限定されないが、前述のように、心材2が複数の素線から構成されている場合、その側線(素線22)の撚り方向と逆方向にすることにより、第一層3の自転の向きと心材2の素線22の自転の向きとが逆方向となって自転を打ち消し合う構造になるため、操作用ワイヤロープ1の回転力を減殺することができ、自転回数を減らすことができる。一方で、心材2の素線22の撚り方向と同じ方向であれば、心材2の素線22と共に同時に撚り合わせることができる。この第一層3の素線31の直径d
12は、後述する第二層4の素線41、42より大きい、すなわち太い素線42の直径d
14よりも大きい直径の素線31で形成されることが好ましい。
【0022】
第二層4は、
図1に示されるように、直径d
13の細い素線41と、直径d
14の太い素線42とが1本ずつ交互に第一層3の周囲に、第一層3との隙間が殆どなくなり、かつ、第二層3の外接円との隙間も非常に小さくなるように各素線41、42の線径d
13とd
14が選択されて10本ずつ撚り合わされ、いわゆるウォーリントン形構造を形成している。この第二層4は、第一層3と同じ撚り方向で、第一層3と同時に撚り合わせることにより形成される。
【0023】
この操作用ワイヤロープ1の最外層、すなわち第二層4は、予め形付けがされている。これは、第二層4を撚り合わせる前に、予め第二層4を構成する素線を塑性変形させることにより形成するものである。この形付けをするのは、撚り合わせによって素線が弾性変形するため、ワイヤロープの端部を固定していないと、たとえばワイヤロープの途中での切断等により切断端部が自由端になると各素線がバラバラになるため、それを防止するためである。この形付けの外径は、通常はワイヤロープの外径の95%程度と小さくなるように形付けされるが、本発明者らが種々検討を重ねて研究した結果、この形付け率を60〜80%程度と小さくすることにより、ストロークロスが良好となり、さらに耐久回数も向上することを見出したのである。形付け率が80%より大きいと、ストロークロスが良好でなくなると共に耐久回数も低下し、形付け率が60%より小さいと、ワイヤロープの形成の際にワイヤロープがバラケやすく、作業性を著しく悪化させると共に、耐久回数が大幅に低下するからである。前述のように、第二層4が細い素線41と太い素線42とで構成される場合、その両方に、同じ形付け率で形付けが予め行われる。また、形付け率を60〜80%にすることにより、ストロークロスを良好とし、耐久性を向上させたうえで、操作用ワイヤロープ1の自転回数を小さくすることもできるため、単撚り構造のワイヤロープにおいて生じやすいワイヤロープの自転を防止することができる。したがって、たとえば自動車の車内で操作用ワイヤロープ1の一端側と他端側とを配索する場合でも、自転により捩れて配索するのが困難になるという問題も無く利用することができる。
【0024】
図2は、本発明のワイヤロープ1の第2の実施形態の断面構造を示す図である。この構造は、第一層3がウォーリントン形となった、いわゆるウォーリントンシール形構造で1×WS(31)と略称されるものであり、心材2は、たとえば線径d
20の素線からなる心線23の周囲に、線径d
21の側線(素線)24が6本撚り合わされた構造で形成されている。
【0025】
第一層3は、
図2に示されるように、線径d
22の細い素線33と、線径d
23の太い素線34とが1本ずつ交互に心材2の周囲に、心材2との隙間が殆どなくなるように各素線33、34の線径が選択されて6本ずつ撚り合わされ、いわゆるウォーリントン形構造を形成している。
【0026】
第二層4は、
図2に示される例では、線径d
24の素線43が12本、第一層3の周囲に撚り合わされている。第二層4の撚り方向は、第一層3の撚り方向と合わせれば、第一層3および第二層4を同時に撚り合わせることができる。また、心材2の素線24と第一層3と第二層4とで撚り方向を全て合わせれば、全ての素線24、33、34、43を一度で撚り合わせることができる。この第二層4の素線43の線径d
24は、第一層3の太い素線34の線径d
23よりも大きい直径の素線43で形成されることが好ましい。
【0027】
次に、上記構造で、各素線の線径、撚り方向、撚り長さ(撚りピッチ)の具体的な実施例により形成した操作用ワイヤロープ1に関して、形付け率を種々変えたときのストロークロス、耐久回数、および自転回数を調べた。その結果を表1に示す。なお、この表1には、前述の
図5に示される従来構造の具体例の一部のデータも併せて示してある。
【0028】
なお、ストロークロスの測定の仕方は、
図3に示されるようなストロークロス測定装置5の固定台51に操作用ワイヤロープ1の負荷側端部11を固定し、操作側端部12を測定具52の一端部に接続し、測定具52の一端部には変位計53が固定されると共に、ロードセル54を介して測定用レバー55に接続されている。ロードセル54には、アンプ56を介してパソコン57およびxyレコーダ58が接続され、変位計53の出力もアンプ56に接続された構成になっている。この構成で、測定用レバー55を操作すると、その荷重Fに応じて変位量が増え、荷重Fと変位量との関係がxyレコーダ58で得られる。なお、この変位量は、固定台51における負荷側端部11の接続部と、ロードセル54における操作側端部12の接続部との間の距離L1を300mmに設定して、負荷側端部11と操作側端部12との間の距離が300mmとなるように作製された操作用ワイヤロープ1の測定用サンプルの負荷側端部11を固定台51に、操作側端部12をロードセル54に接続した状態を基準として、そこから測定用レバー55を操作して操作用ワイヤロープ1へF=2000Nの荷重をかけたときの変位量を測定した。なお、各実施例および比較例の測定値は、上述の測定用レバー55の操作を200回行った後の測定値である。
【0029】
また、耐久試験は、
図4に示される耐久回数測定装置6を用いて行った。すなわち、円筒(駆動プーリー)63の外表面と遊び車(従動プーリー)64の外表面とに2個の試験プーリー61、62を介して、試験するワイヤロープ60をループ状に掛け回し、円筒63の外周の半分にワイヤロープ60を掛け回してワイヤロープ60を1点で固定し(B点)、遊び車64に重り65を接続して、円筒63の円周上の長さで150mmの距離だけワイヤロープ60が往復運動するように円筒63を駆動し、ワイヤロープ60が切断するまでの回数をカウントすることにより行った。なお、カウントの方法は、一方向への円筒63の円周上の長さ150mmの移動で1回とし、他方向への円筒63の円周上の長さ150mmで1回、すなわち1往復で2回としてカウントし、1秒で1往復するようにした。なお、
図4に示される装置6で、試験プーリー61、62は、共にプーリーの溝底の直径が48mmで、硬度がロックウェルC60以上の材料であり、円筒63は直径が250mm、遊び車64の直径も250mmで、遊び車64に重り65をかける載荷装置66の質量をW、重り65の質量をPとしたとき、(W+P)×9.8=441(N)としてある。さらに、
図4に示されるように、試験プーリー61、62に掛け回されたワイヤロープ60のなす角度がそれぞれ90°になると共に、試験プーリー61の中心と円筒63の中心との距離Lは600mm以上になり、円筒63と試験プーリー61との間のワイヤロープ60と、円筒63と試験プーリー62との間のワイヤロープ60とが平行となり、遊び車64と試験プーリー61との間のワイヤロープ60と、遊び車64と試験プーリー62との間のワイヤロープ60とが平行となるように、円筒63および試験プーリー61、62の位置が設定されている。耐久試験は20度の環境下で行った。このような耐久試験で、ワイヤロープ60が折損するまでの耐久回数が多いということは、90°の屈曲に対する疲労が少ないことも意味し、曲げやすいことを示している。もちろん、この耐久回数によりワイヤロープ60自体の耐久性も評価することができる。
【0030】
さらに、自転回数は、操作用ワイヤロープ1を1mの長さにして、一端部を固定し、他端部に270Nの荷重がかかるような重りを吊り下げたときに、その他端部が回転する回数を測定する(回/m)方法により行った。
【0031】
[実施例1〜3]
図1に示される操作用ワイヤロープ1の構造(1×7+W(30))で、心材2の心線21の線径d
10をd
10=0.46mm、素線22の線径d
11をd
11=0.43mm、第一層3の素線31の線径d
12をd
12=0.57mm、第二層4の細い素線41の線径d
13をd
13=0.36mm、第二層4の太い素線42の線径d
14をd
14=0.49mmとし、素線22の撚り長さを15.7mmのZ撚りで撚り合わせ、第一層3の素線31を撚り長さが34.3mmのS撚りで撚り合わせ、第二層4の素線41および素線42を、第一層3と平行に撚り長さが34.3mmのS撚りで撚り合わせることにより、外径D
1=3.15mmの実施例1〜3の操作用ワイヤロープ1をそれぞれ作製した。なお、実施例1〜3の間では、第二層4の形付け率が異なるだけであり、実施例1の形付け率を60%、実施例2の形付け率を70%、実施例3の形付け率を80%として作製した。
【0032】
[実施例4〜6]
実施例4〜6は、第一層3をS撚りとした以外は、各素線の線径、操作用ワイヤロープ1の構造、撚り長さ、撚り方は実施例1と同じにし、外径D
1=3.15mmの実施例4〜6の操作用ワイヤロープ1をそれぞれ作製した。なお、実施例4の第二層4の形付け率は60%、実施例5の形付け率は70%、実施例6の形付け率は80%として作製した。
【0033】
[実施例7〜9]
前述の
図2に示される構造(1×WS(31))で、心材2の心線23の線径d
20をd
20=0.45mm、素線24の線径d
21をd
21=0.43mm、第一層3の細い素線33の線径d
22をd
22=0.35mm、第一層3の太い素線34の線径d
23をd
23=0.46mm、第二層4の素線43の線径d
24をd
24=0.64mmとし、素線24の撚り長さが29.5mmのS撚りで、第一層3の素線33、34、および第二層4の素線43も共に撚り長さが29.5mmのS撚りで撚り合わせた。すなわち、心材2の素線24、第一層3および第二層4の全ての素線24、33、34、43を一工程で撚り合わせることにより、実施例7〜9の操作用ワイヤロープ1をそれぞれ作製した。実施例7〜9の間では、第二層4の形付け率および製造後の外径D
1がわずかに異なるだけであり、実施例7は形付け率が60%、外径D
1がD
1=3.20mm、実施例8は形付け率が70%、外径D
1がD
1=3.22mm、実施例9は形付け率が80%、外径D
1がD
1=3.22mmであった。
【0034】
[比較例1および2]
前述の
図5(a)に示される1×19の構造で、心線71の線径d
30をd
30=0.65mm、素線72の線径d
31をd
31=0.60mm、素線73の線径d
32をd
32=0.60mmとし、素線72の撚り長さが20.35mmのZ撚りで撚り合わせ、素線73を撚り長さが33.6mmのS撚りで撚り合わせ、比較例1および2の操作用ワイヤロープを作製した。比較例1および2の間では、第二層(
図5(a)における素線73)の形付け率が異なるだけであり、比較例1の形付け率は60%、比較例2の形付け率は80%とし、その結果、外径D
3はいずれの場合もD
3=3.01mmであった。
【0035】
[比較例3および4]
前述の
図5(b)に示される1×37の構造で、心線75の線径d
40をd
40=0.48mm、素線76の線径d
41をd
41=0.45mm、素線77の線径d
42をd
42=0.45mmとし、素線78の線径d
43をd
43=0.45mmとし、素線76の撚り長さが15.2mmのS撚りで撚り合わせ、素線77を撚り長さが25.1mmのZ撚りで撚り合わせ、素線78を撚り長さが35mmのZ撚りで撚り合わせ、比較例3および4の操作用ワイヤロープを作製した。比較例3および4の間では、第二層(
図5(b)における素線78)の形付け率が異なるだけであり、比較例3の形付け率は60%、比較例4の形付け率は80%とし、その結果、外径D
4はいずれの場合もD
4=3.17mmであった。
【0036】
[比較例5および6]
比較例5および6は、形付け率および外径が異なる以外は、実施例1と同じ条件で作製した。比較例5の形付け率は55%とし、外径D
1がD
1=3.16mmであった。比較例6の形付け率は85%とし、外径D
1がD
1=3.16mmであった。
【0037】
[比較例7および8]
比較例7および8は、形付け率および外径が異なる以外は、実施例4と同じ条件で作製した。比較例7の形付け率は55%とし、外径D
1がD
1=3.15mmであった。比較例8の形付け率は85%とし、外径D
1がD
1=3.16mmであった。
【0038】
[比較例9および10]
比較例9および10は、形付け率および外径が異なる以外は、実施例7と同じ条件で作製した。比較例9の形付け率は55%とし、外径D
2がD
2=3.21mmであった。比較例10の形付け率は85%とし、外径D
2がD
2=3.21mmであった。
【0040】
この表1からも明らかなように、実施例1〜9の構造(1×7+W(30)、1×WS(31))では、同じ単撚り構造である1×19、1×37構造の比較例1〜4と比較すると、実施例1〜9では、ストロークロスが0.90〜1.20mmの範囲内であるのに対し、比較例1〜4のような従来の単撚り構造では、形付け率が同等であった場合でも、ストロークロスが1.40〜2.30mmの範囲内であり、ストロークロスが良好となっていることがわかる。また、実施例1〜9と比較例5〜10とを比較しても、形付け率が60〜80%の実施例1〜9では、形付け率が55%、85%の比較例5〜10と比較してストロークロスが良好となっていることがわかる。また、形付け率が55%、85%になると、ストロークロスが比較的大きくなる場合が出てくる。従って、形付け率が60〜80%になるように撚り合わせることにより、ストロークロスを0.9〜1.2mmと良好にすることができる。上記ストロークロスの性能は、実施例1〜9および比較例1〜4との比較により、
図1または
図2に示されるようなウォーリントン形構造を有するか否かの差によるものと考えられる。すなわち、ウォーリントン形構造を有することにより、各素線が密に撚り合わせられるため、ストロークロスを良好とすることに寄与しているからと考えられる。なお、実施例1〜3と実施例4〜6とは、心材2と、第一層3および第二層4との撚り方向が異なるか同じであるかの差であるが、この撚り方向の差(交差よりか否か)による特性への影響はそれほど現れていない。
【0041】
また、表1から明らかなように、実施例1〜9の構造(1×7+W(30)、1×WS(31))では、同じ単撚り構造である1×19、1×37構造の比較例1〜4と比較して、いずれも耐久回数が顕著に大きいことがわかる。したがって、従来の単撚り構造の操作用ワイヤロープと比較して、本発明の操作用ワイヤロープは、曲げやすさが非常に良いと共に、耐久性が高いことがわかった。さらに、実施例1〜3と、形付け率以外は実施例1〜3と条件を同じにした比較例5および6との比較、実施例4〜6と、形付け率以外は実施例4〜6と条件を同じにした比較例7および8との比較、実施例7〜9と、形付け率以外は実施例7〜9と条件を同じにした比較例9および10との比較から、形付け率を60〜80%にすることにより、耐久性が大きく改善していることがわかる。したがって、ウォーリントン形構造にしたうえで、さらに形付け率を60〜80%にすることにより、さらに耐久性を向上させることができることがわかる。なお、実施例7では、耐久回数はやや低下しているものの、それでも比較例1〜4に比べると遥かに勝っている。なお、形付け率が80%を超えると極端に耐久回数が低下するが、これは、形付け率が大きい、すなわち締め付けが緩いと素線間の擦れが生じて耐久性が低下するものと考えられ、また、形付け率が60%より小さくなると、逆に締め付けが強すぎて曲げやすさが悪くなることに起因しているものと考えられる。さらに、比較例1〜4は、前述のように、ウォーリントン形構造を有していないことから、素線間の密着性に劣り、素線間同士で擦れが生じるためと考えられる。また、比較例1および2は、素線の数が少ないため、各素線が太く、曲げやすさが低下していることも起因していると考えられる。なお、この耐久回数は、前述の
図4に示される耐久回数測定装置6において、重り65の質量Pを大きくすれば、この回数は小さくなり、逆にPを小さくすれば、この回数は大きくなり、同じ条件で測定した相対的な値である。
【0042】
また、本発明の操作用ワイヤロープ1の第二層4の形付け率を60〜80%にすることにより、表1からも明らかなように、自転回数を大幅に改善することもできた。すなわち、ウォーリントン形構造の単撚りワイヤロープにしているため、平行撚りで自転回数が増える撚り方であるにも拘らず、形付け率を60〜80%にすることにより、自転回数を大幅に低下させることができ、実施例1〜9に示されるように、自転回数を0.8〜1.4の範囲に抑えることができた。なお、比較例1〜4では、Z撚りとS撚りとを混ぜた交差撚りの撚り方であるが、形付け率を60%や80%にしても自転回数が多かった。これは、素線の撚り構造(ウォーリントン形構造)が大きく効いているものと考えられる。また、第一層3または第二層4のうち、ウォーリントン形を有していない側の層を構成する素線の外径が、ウォーリントン形を有している側の層を構成する素線の外径よりも大きいため、第一層3と第二層4を構成する各素線間の隙間を少なくして密着させることができ、ストロークロスを一層良好とすることができていると考えられる。
【0043】
以上の結果より明らかなように、本発明の操作用ワイヤロープによれば、ウォーリントン形構造を有する撚り構造になっているため、素線を隙間なく撚り合わせることができ、しかも形付け率が60〜80%になるように形成されているため、単撚り構造のストロークロスが良好で、かつ、耐久性の優れた単撚り構造の操作用ワイヤロープが得られた。しかも、自転回数も低く抑えることができ、たとえば自動車の車内等において、曲げて配索され、引き操作されるコントロールケーブルのインナーケーブルとして用いる場合でも、自転による端部の回転を抑制できて簡単に配索することができると共に、ストロークロスが良好で、曲げやすく、さらには耐久性の優れた操作用ワイヤロープとして利用することができる。