(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第2のカバリング糸は、前記第1のカバリング糸に対して、ウレタン系弾性糸のドラフト率が2/3以下、かつ、前記非弾性糸の単位長さあたりの撚り数が1/2.5以下であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の下半身用衣類。
前記第1のカバリング糸における、ウレタン系弾性糸のドラフト率が2.0〜4.0であって、かつ、非弾性糸の単位長さあたりの撚り数が1200〜2800T/mであり、
前記第2のカバリング糸における、ウレタン系弾性糸のドラフト率が1.0〜2.3であって、かつ、非弾性糸の単位長さあたりの撚り数が30〜500T/mであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の下半身用衣類。
【背景技術】
【0002】
近年の生活習慣上、人が靴を履くときに足に装着する衣類としての靴下を多くの人々が使用している。そのような衣類の中で、特に、女性の下半身を覆うストッキングは、外出時における女性の脚部の保護および保温さらには脚線美の向上の観点等から、広く世間に浸透している。
現在市販されているほとんどのストッキングは、ナイロン糸、または、ナイロン糸とポリウレタン糸とで編まれている。使用している糸により、「交編」および「ゾッキ」の2種類に大別される。
【0003】
交編(交編編み)は、ナイロン糸と、サポート糸(ポリウレタン糸にナイロン糸を巻き付けたカバリング糸)を交互に使用して編成する。ある程度のサポート(弾性)力および透明感の両方を求めるときに好適である。太さの異なる2種類の糸を使用するため横縞模様が表れる。
ゾッキ(ゾッキ編み)は、一般的にはサポート糸(ポリウレタン糸にナイロン糸を巻き付けたカバリング糸)だけで編成されているものが多い。良好なフィット性を求めるときに好適である。また、いわゆる伝線(使用中に編み組織の一部に引掛傷ができ糸が切れると生成される編組織が解編されたはしご状の線)が発生しにくいという特徴を備えたゾッキ編みのストッキングが、最近では増えてきている。
【0004】
上述した伝線を防止するストッキングが実用新案登録第3155863号公報(特許文献1)に開示されている。この特許文献1は、2種類の糸を使用して編成するために伝線の発生を防止できない交編タイプのストッキングとは異なるゾッキタイプのストッキングを開示する。このストッキングは、地糸として合着ポリウレタン糸を芯糸にしたカバリング糸を使用してゾッキ編みにより編成されてなることを特徴とする。また、このようなストッキングにおいて、所定個所の編目に芯糸と組み合わせる柄糸として合着ポリウレタン糸を芯糸にした他のカバリング糸を用いることにより柄を表現する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示されたストッキングによると、合着ポリウレタン糸を用いて編成したストッキングを熱セットすることにより合着ポリウレタン糸の接触部において離れ難くなり、簡単に伝線することが防止できる。なお、このようなことは、従来(特許文献1の出願日前)から広く知られている、融着ポリウレタン糸を用いて編成したストッキングを熱セットすることにより融着ポリウレタン糸の接触部において離れ難くなり簡単に伝線することが防止できることと何ら変わりがない。
【0007】
しかしながら、熱合着糸を用いようが、熱融着糸を用いようが、このような熱合着糸または熱融着糸を柄糸に用いようが、ゾッキ編みされたストッキングは、上述したように良好なフィット性を備え、さらに伝線のしにくさも備えるが、交編編みされたストッキングのように透明感を得ることはできない。透明感と伝線のしにくさとの関係については、交編編みされたストッキングは、透明感があるが伝線しやすく、ゾッキ編みされたストッキングは、伝線しにくいが透明感がないという、透明感と伝線しにくさとがトレードオフの関係(一方を追求すれば他方を犠牲にせざるを得ないという二律背反の関係)になっている。このため、従来は、透明感と伝線しにくさとを併せ持つストッキングは、実現し得な
いのが当業者の常識であった。本出願人は、このような常識を覆すべく鋭意開発を進め、トレードオフの関係である透明感と伝線しにくさとを併せ持つ画期的なストッキング(下半身用衣類)を実現するに至った。
【0008】
本発明は、従来技術の上述の問題点に鑑みて開発されたものであり、その目的とするところは、透明感と伝線しにくさとを併せ持つ下半身用衣類を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明に係る下半身用衣類は以下の技術的手段を講じている。
すなわち、本発明に係る下半身用衣類は、ウレタン系弾性糸の芯糸に非弾性糸の捲糸を巻着させた第1のカバリング糸および第2のカバリング糸を含んで編成した下半身用衣類であって、前記第2のカバリング糸は、前記第1のカバリング糸よりも、前記ウレタン系弾性糸のドラフト率が低く、かつ、前記非弾性糸の単位長さあたりの撚り数が少ないことを特徴とする。なお、ドラフト率とは、カバリング糸を製造する場合における(ウレタン系弾性糸の)伸張倍率のことである。
【0010】
好ましくは、前記第2のカバリング糸は、前記第1のカバリング糸に対して、ウレタン系弾性糸のドラフト率が2/3以下、かつ、前記非弾性糸の単位長さあたりの撚り数が1/2.5以下で構成することができる。
さらに好ましくは、前記第1のカバリング糸における、ウレタン系弾性糸のドラフト率が2.0〜4.0であって、かつ、非弾性糸の単位長さあたりの撚り数が1200〜2800T/mであり、前記第2のカバリング糸における、ウレタン系弾性糸のドラフト率が1.0〜2.3であって、かつ、非弾性糸の単位長さあたりの撚り数が30〜500T/mで構成することができる。
【0011】
さらに好ましくは、前記ウレタン系弾性糸はポリウレタン弾性糸で構成し、前記非弾性糸はナイロン糸で構成することができる。なお、T/mは、単位長さである1mあたりの巻き数(Turn数)である。
さらに好ましくは、前記ウレタン系弾性糸は、熱融着性ポリウレタン糸で構成することができる。
【0012】
さらに好ましくは、前記ウレタン系弾性糸は、熱合着性ポリウレタン糸で構成することができる。
さらに好ましくは、前記下半身用衣類は、ストッキング(ショートタイプを含む)、パンティストッキング、タイツおよび靴下のいずれかであるように構成することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る下半身用衣類によれば、従来は実現し得なかった画期的な、透明感と伝線しにくさとを併せ持つ下半身用衣類を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態として、下半身用衣類の一例であるパンティストッキング1を、図面に基づき詳しく説明する。なお、本発明は、このパンティストッキング1のレッグ部2に好適に適用される。
[下半身用衣類]
図1に、本実施の形態に係るパンティストッキング1の概略正面図を示す。このパンティストッキング1は、腹部および臀部を被覆するパンティ部3と、脚を被覆するレッグ部2とを備えるものである。このパンティストッキング1は、筒状に編成された1対の編地を用い、パンティ部3に相当する部分に切れ目を入れて裁断縁どうしをつき合わせて股部4を縫着して一体化することにより製造される。また、足部の爪先部は周知の手段により、袋状に縫着することにより製造される。このような製造工程の最終工程において、熱セット(湿熱セット)が行われる。
【0016】
この熱セットは、後述するように、編糸であるカバリング糸の芯糸であるウレタン系弾性糸に熱融着糸または熱合着糸を用いて、熱融着糸どうしの接触部において繊維どうしが融着して離れ難くなるようにセットしたり、熱合着糸どうしの接触部において繊維どうしが合着して離れ難くなるようにセットしたりすることにより、簡単に伝線することを防止することを目的とする。この熱セットは、熱融着糸または熱合着糸に対応した所望の条件(温度、時間等)で行われる。
【0017】
なお、本発明において、対象をパンティストッキングとしているが、部分的にその機能を備えたスパッツ等を含むこと、および、厚地の編地を用いるタイツを含むこと、その他の下半身用衣類を含むことは、技術分野で上述した通りである。
[編地]
本実施の形態に係るパンティストッキング1を構成する編地は、編み糸として
図2に示すカバリング糸(SCY:Single Covered Yarn)5を用いて、編み組織として
図3、
図4および
図5に示すように平編ループ8で編成された伸縮性平編地で構成される。後述するように、編糸として2種類のカバリング糸を用いた特徴を有する編地であれば特に制限されるものではなく、平編地、ゴム編地、パール編地等の編地を好適に用いることができ、その変化組織として、タック編、浮編、パイル編、レース編とすることもできる。また、
図4と
図5との違いは、
図4におけるナイロン糸71およびナイロン糸72はモノフィラメントとして、
図5におけるナイロン糸71はモノフィラメントとしてナイロン糸72はマルチフィラメントして表している点である。しかしながら、後述するように、ナイロン糸71もマルチフィラメントであっても構わないし、ナイロン糸72はモノフィラメントであっても構わない。なお、
図5においてマルチフィラメントで表されたナイロン糸72を構成するナイロン単糸72A、72B、72Cの繊度は、現実よりも太く表されている。
【0018】
なお、
図3は軽く伸張させた状態の編み組織の拡大写真であって、
図4および
図5は、軽く伸張させた状態の編み組織を模式的に表した理想的な図である。このため、
図4および
図5(ならびに後述する
図7および
図9)は、あくまでも理想的(模式的、対称的)に記載されたものであって、平編ループ8におけるカバリング糸5を構成するウレタン系弾性糸であるポリウレタン弾性糸6および非弾性糸であるナイロン糸7の状態は、現実のもの(
図3)と異なっている。現実の編み組織におけるナイロン糸72がマルチフィラメントである点では、厳密には、
図3は
図5に対応する。
【0019】
このパンティストッキング1の特徴的な構成は、編糸として2種類のカバリング糸(ともに芯糸がウレタン系弾性糸であって捲糸が非弾性糸である)を交互に用いて編成することであって、第2のカバリング糸52は、第1のカバリング糸51よりも、ウレタン系弾性糸のドラフト率が低く、かつ、非弾性糸の単位長さあたりの撚り数が少ないことを特徴とする。特に、第2のカバリング糸52が第1のカバリング糸51(第1のカバリング糸51はパンティストッキング用の通常のSCY)に対して、ウレタン系弾性糸のドラフト率が2/3以下、かつ、非弾性糸の単位長さあたりの撚り数が1/2.5以下であることを特徴とする。
【0020】
図3、
図4および
図5に示すように、平編ループ8は、ウレタン系弾性糸であるポリウ
レタン弾性糸6を芯糸として、非弾性糸であるナイロン糸7を捲糸として巻き付けた、第1のカバリング糸51(芯糸がポリウレタン弾性糸61で捲糸がナイロン糸71)および第2のカバリング糸52(芯糸がポリウレタン弾性糸62で捲糸がナイロン糸72)の2種類で編成するという、新たな概念の交編編みで編成されている。なお、上述したように、ゾッキ編みとは編糸の構成が1種類のサポート糸(同じポリウレタン糸に同じナイロン糸を同じように(同じドラフト率で単位長さあたり同じ巻き数で)巻き付けたカバリング糸)だけで編成するものであるため、このように編糸の構成が異なる第1のカバリング糸51および第2のカバリング糸52を用いた平編ループ8は、ゾッキ編みに対して新たな概念の交編編みと記載している。
【0021】
[編糸]
以下において、編糸であるカバリング糸5(第1のカバリング糸51および第2のカバリング糸52)を構成するウレタン系弾性糸(ポリウレタン弾性糸61、ポリウレタン弾性糸62)および非弾性糸(ナイロン糸71、ナイロン糸72)について詳しく説明する。
【0022】
カバリング糸5の芯糸を構成するウレタン系弾性糸としては、熱処理(特に湿熱処理)によりこの糸どうしが離れがたくなる繊維であれば限定されるものではなく、熱融着するウレタン系弾性糸であっても、特許文献1に開示された熱合着するウレタン系弾性糸であっても構わない。ここでは、ウレタン系弾性糸として、熱セット性、伸度および耐久性の面からより好ましい、熱融着性のポリウレタン弾性糸6とする。
【0023】
さらに、このポリウレタン弾性糸6は、エーテル結合を持つエーテルタイプであってもエステル結合を持つエステルタイプであっても構わない。その繊度は、パワー(緊縛力)が強すぎることなく最適なパワーとなる範囲のものであれば特に限定されない。
なお、このポリウレタン弾性糸6のフィラメント数はモノフィラメントおよびマルチフィラメントのいずれでもよく、さらに、このポリウレタン弾性糸6の繊度およびフィラメント数は、(最適なパワーとなる範囲のものであれば)特に限定されるもでのはなく、通常パンティストッキングに用いられる繊度であれば構わない。
【0024】
カバリング糸5の捲糸を構成する非弾性糸としては、熱融着性のポリウレタン弾性糸6の周囲に被覆される非弾性糸として好適に使用できる糸であればよいが、このような非弾性糸としては、ナイロン糸7が代表的に使用できる。
後述するように、芯糸のウレタン系弾性糸としてポリウレタン弾性糸6を用いて、かつ、捲糸の非弾性糸としてナイロン糸7を用いて、本発明の特徴的な構成で第2のカバリング糸52を構成することにより、パンティストッキング1に透明感(タイツの場合には透け感)を与えつつ伝線を防止することができる。パンティストッキング1に透明感を与えることができる非弾性糸であればナイロン糸7に限定されるものではない。
【0025】
なお、このナイロン糸7のフィラメント数はモノフィラメントおよびマルチフィラメントのいずれでもよく、さらに、このナイロン糸7の繊度は、特に限定されるもでのはなく、パンティストッキングに通常用いられる繊度であれば構わない。たとえば、ナイロン糸7(ナイロン糸71および/またはナイロン糸72)としては、8dtexの5f(フィラメント)、13dtexの3〜5f、17dtexの3〜5f、22dtexの3〜7f等が好ましい。
【0026】
なお、審美性、実用性、コストの点から通常パンティストッキングにおいては、ポリウレタン弾性糸6の繊度は11〜470dtex、好ましくは11〜156dtex、特に好ましくは、11〜78dtex、であって、ナイロン糸7の繊度は上述した範囲を含む5.5〜156dtex、特に8〜78dtexとすることが好ましい。
さらに、このようなポリウレタン弾性糸6およびナイロン糸7を用いた2種類のカバリング糸5について説明する。
【0027】
上述したように、第1のカバリング糸51は、パンティストッキング用の通常のSCYであって、第2のカバリング糸52はこの第1のカバリング糸51に対して、ポリウレタン弾性糸6のドラフト率が2/3以下、かつ、ナイロン糸7の単位長さあたりの撚り数が1/2.5以下である。
さらに好ましくは、第1のカバリング糸51における、ポリウレタン弾性糸6のドラフト率が2.0〜4.0であって、かつ、ナイロン糸7の単位長さあたりの撚り数が1200〜2800T/m(特に好ましくは1400〜2500T/m)であり、第2のカバリング糸52における、ポリウレタン弾性糸6のドラフト率が1.0〜2.3であって、かつ、ナイロン糸7の単位長さあたりの撚り数が30〜500T/m(特に好ましくは300〜400T/m)である。このような範囲であると(特に好ましい範囲において)、後述するように、ポリウレタン弾性糸6どうしが熱融着して伝線することを防止できるとともに、ナイロン糸7が撚りや捲縮なくフラットな状態で露出してパンティストッキング1に透明感を与えることができる。
【0028】
[編地の詳細構造および作用効果]
以上のような第1のカバリング糸51および第2のカバリング糸52により編成された平編地の構造および作用効果について、
図3、
図4および
図5を参照して説明する。上述したように、
図4はナイロン糸72がモノフィラメントの例であって
図5はナイロン糸72がマルチフィラメント(捲縮がなくフラットな生糸(なまいと))の例である。
【0029】
なお、比較のために、従来例であるゾッキ編みされたパンティストッキングの編み組織を
図6および
図7に、従来例である交編編みされたパンティストッキングの編み組織を
図8および
図9に、それぞれ示す。
図6および
図8は
図3に、
図7および
図9は
図4(または
図5)に、それぞれ対応する。また、
図4、
図5および
図7においては、第1のカバリング糸51の芯糸であるポリウレタン弾性糸61は、他のポリウレタン弾性糸との交点(接点)において(巻着糸であるナイロン糸が巻着されているが)ポリウレタン弾性糸どうしが接して(熱融着して)いる。
【0030】
また、
図4および
図7においては、ポリウレタン弾性糸61、62およびナイロン糸71、72はモノフィラメントとして、
図5においては、ポリウレタン弾性糸61、62およびナイロン糸71はモノフィラメント、ナイロン糸72はナイロン単糸72A、72B、72Cを引き揃えたマルチフィラメントとして、
図9においては、ポリウレタン弾性糸61およびナイロン糸71はモノフィラメントとして、ナイロン糸9はナイロン単糸91を引き揃えたマルチフィラメントとして表している。
【0031】
しかしながら、ポリウレタン弾性糸61、62は、同じ構成(組成、繊度、フィラメント数等)であっても異なる構成であっても構わないし、ナイロン糸71、72も、同じ構成であっても異なる構成であっても構わない。さらに、ナイロン糸9も、ナイロン糸71、72と同じ構成であっても異なる構成であっても構わない。さらに、第2のカバリング糸52は、ポリウレタン弾性糸62に1本以上のナイロン単糸を引き揃えた芯糸に、ナイロン糸(モノフィラメントであってもマルチフィラメントであっても構わない)を、(第1のカバリング糸51よりも)低ドラフトかつ甘撚りで巻着させたものであっても構わない。
【0032】
図3、
図4および
図5に示すように、本実施の形態に係るパンティストッキング1の編地において、第1のカバリング糸51は、芯糸であるポリウレタン弾性糸61に捲糸であるナイロン糸71が巻着した状態をほぼ維持している(ただし、ポリウレタン弾性糸どうしの接点ではポリウレタン弾性糸にはナイロン糸が巻着されているがポリウレタン弾性糸どうしが熱融着している)。それに対して、第2のカバリング糸52は、芯糸であるポリウレタン弾性糸62に捲糸であるナイロン糸72が巻着された状態ではなく、ナイロン糸72(ナイロン糸72がモノフィラメントであってもマルチフィラメントであっても)がほぼフラットな状態(第1のカバリング糸51に比較して撚りがほとんどなくほぼ巻着していない状態)である。すなわち、捲糸であるナイロン糸72が芯糸であるポリウレタン弾性糸62に実質的に巻着されておらず、ポリウレタン弾性糸62とナイロン糸72とが交絡糸のような状態になっている。これは、第2のカバリング糸51が、ポリウレタン弾性糸61を低ドラフトして甘撚りでナイロン糸72を巻着していることが理由である。このようにナイロン糸72は、低ドラフト率かつ甘撚りであるために(ナイロン糸9のように)交絡糸のようであって、仮撚糸のように捲縮があるものではなく、フラットヤーンの態様を備える。
【0033】
通常、パンティストッキング1は、ポリウレタン弾性糸6ではなく、ナイロン糸7を所望の色に染色することにより発色させている。ポリウレタン弾性糸6は、通常は透明であるものが多い。ただし、近年では、原着ポリウレタン弾性糸(いわゆる原着糸)、可染ポリウレタン弾性糸も開発され、着色されたポリウレタン弾性糸も存在する。ポリウレタン弾性糸が透明である場合であっても着色されている場合であっても、パンティストッキング1を発色させるとき、染色されたナイロン糸72が重なり合っていると影になり暗くなり、透明感をパンティストッキング1に付与できない。本実施の形態に係るパンティストッキング1においては、ナイロン糸72が重なり合っておらず影にならずフラットな状態であるので、暗くならず透明感をパンティストッキング1に付与することができる。
【0034】
なお、
図4の拡大図に示すように、第1のカバリング糸51の芯糸であるポリウレタン弾性糸61と、第2のカバリング糸52の芯糸であるポリウレタン弾性糸62とが接触した熱融着糸どうしの接触部が多数存在し、それらの多数の接触部においてポリウレタン弾性糸どうしが融着して離れ難くなるようにセットされている。このように、ポリウレタン弾性糸61とポリウレタン弾性糸62との多数の接触部において熱セットにより繊維どうしが融着している。
【0035】
一方、
図6および
図7に示す従来のゾッキ編み(第1のカバリング糸51と第1のカバリング糸51とで編成された平編ループ18)においては、熱融着性を備えるポリウレタン弾性糸61どうしが熱セットにより熱融着してパンティストッキングの形態が安定して伝線することを防止できる。しかしながら、ポリウレタン弾性糸61には、通常のドラフト率で通常の撚り数でナイロン糸71が巻着されている。このようにナイロン糸71がポリウレタン弾性糸61に巻着されていることによるナイロン糸71の(見かけ上の)嵩高性により、編目の空間を埋めてしまう。すなわち、ナイロン糸71はフラットな状態ではなくパンティストッキングに透明感を与えることができない。このため、従来のゾッキ編みでは、交編編みのようにパンティストッキングに透明感を与えることができない。
【0036】
さらに、
図8および
図9に示す従来の交編編み(第1のカバリング糸51とナイロン単糸91を引き揃えたナイロン糸9とで編成された平編ループ28)、ナイロン糸9はカバリング糸ではなくナイロン糸9には撚りや捲縮がなくフラットな状態で露出してパンティストッキングに透明感を与えることができる。しかしながら、ナイロン糸9にはポリウレタン弾性糸61のような熱融着性を備えないので、ポリウレタン弾性糸61どうしが熱セットにより熱融着してパンティストッキングの形態が安定して伝線することを防止することができない。このため、従来の交編編みでは、ゾッキ編みのようにパンティストッキングに伝線が発生することを防止することができない。
【0037】
このような従来例に対して、本実施の形態に係るパンティストッキング1においては、熱融着性を備えるポリウレタン弾性糸61とポリウレタン弾性糸62とが熱セットにより熱融着して形態が安定して伝線することを防止できるとともに(ゾッキ編みの長所を活かして交編編みの弱点を克服)、ナイロン糸72が、撚りや捲縮なくフラットな状態で露出してパンティストッキング1に透明感を与える(交編編みの長所を活かしてゾッキ編みの弱点を克服)ことができる。
【0038】
なお、熱融着とは、熱融着性のポリウレタン弾性糸6が外からの熱または熱と圧力とにより、熱融着性のポリウレタン弾性糸6どうしの接触部(
図4の拡大図に示す部分)において、互いの繊維が融着し密着している状態もしくは互いの繊維の少なくとも一部が融着し密着している状態、または、融着まで至らなくても繊維どうしが接着している状態をいう。さらに、熱合着とは、熱合着性のポリウレタン弾性糸が外からの熱または熱と圧力とにより、熱合着性のポリウレタン弾性糸どうしの接触部において、互いの繊維が互いに食い込んで離れ難くなっている状態をいう。本実施の形態に係るパンティストッキング1の伝線を防止する作用効果は、上述したように、熱融着によるものであっても熱合着によるものであっても構わない。
【0039】
以上のようにして、本実施の形態に係るパンティストッキングによると、編糸として2種類の第1のカバリング糸51および第2のカバリング糸52(ともに芯糸がウレタン系弾性糸であるポリウレタン弾性糸61、62であって捲糸が非弾性糸であるナイロン糸7
1、72)を用いて編成するにあたり、第2のカバリング糸52は、第1のカバリング糸51よりも、ウレタン系弾性糸のドラフト率が低く、かつ、非弾性糸の単位長さあたりの撚り数を少なくした。このため、このような2種類のカバリング糸を用いた新たな概念の交編編みで編地を編成することにより、ウレタン系弾性糸どうしが熱セットで熱融着や熱合着して形態が安定してパンティストッキング1の伝線を防止することができるとともに、ナイロン糸72がフラットな状態で露出しているので、パンティストッキング1に透明感を与えることができる。その結果、透明感と伝線しにくさとを併せ持つ画期的なパンティストッキングを提供することができる。
【0040】
このような効果に加えて、平編ループ8を編成する全ての編糸にはポリウレタン弾性糸6を含むために、十分なサポート性および十分なフィット性を実現することができる。さらに、このような平編ループ8は、通常の編機で編成することができ、特別な編機を用いる必要がない点で生産コスト的に好ましい。さらに、編糸(第1のカバリング糸51および第2のカバリング糸52)はいずれも(ドラフト率および単位長さあたりの撚り数は異なるが)ポリウレタン弾性糸にナイロン糸が巻着されているので、ポリウレタン弾性糸そのもの(ベア糸)に比べて、編機における糸通し部での滑りが良く、編機の生産性が向上するので好ましい。
【0041】
なお、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
たとえば、パンティストッキングに柄を発現させるために、および/または、高機能なパンティストッキングを実現するために(吸汗性や保温性や消臭性を備える等)、第1のカバリング糸および第2のカバリング糸のドラフト率および単位長さあたりの巻き数とが本発明の特徴的な構成を備えることに加えて、編糸および編み組織が選択されていることも好適である。第1のカバリング糸および/または第2のカバリング糸は、SCYではなくDCY(Double Covered Yarn)であっても構わないし、芯糸および捲糸の種類(組成、太さ等)も、上述した本発明の特徴的な構成を備えれば、限定されるものではない。