(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6085172
(24)【登録日】2017年2月3日
(45)【発行日】2017年2月22日
(54)【発明の名称】熱硬化性組成物
(51)【国際特許分類】
C08G 59/68 20060101AFI20170213BHJP
B32B 5/28 20060101ALI20170213BHJP
B32B 15/08 20060101ALI20170213BHJP
C08J 5/24 20060101ALI20170213BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20170213BHJP
【FI】
C08G59/68
B32B5/28 A
B32B15/08 J
C08J5/24CFC
H05K1/03 610L
【請求項の数】12
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-511667(P2012-511667)
(86)(22)【出願日】2011年4月19日
(86)【国際出願番号】JP2011059627
(87)【国際公開番号】WO2011132674
(87)【国際公開日】20111027
【審査請求日】2014年3月27日
【審判番号】不服2015-15687(P2015-15687/J1)
【審判請求日】2015年8月24日
(31)【優先権主張番号】特願2010-97778(P2010-97778)
(32)【優先日】2010年4月21日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】馬渕 義則
(72)【発明者】
【氏名】十亀 政伸
(72)【発明者】
【氏名】有井 健治
(72)【発明者】
【氏名】大塚 一
(72)【発明者】
【氏名】深澤 絵美
【合議体】
【審判長】
小野寺 務
【審判官】
西山 義之
【審判官】
藤原 浩子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2000−239496(JP,A)
【文献】
特開2000−63496(JP,A)
【文献】
特開2009−114322(JP,A)
【文献】
総説 エポキシ樹脂 基礎編I,垣内 弘/エポキシ樹脂技術協会,2003年11月19日,初版,260、261、264、265
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 63/00
C08G 59/00
C09J 163/00
C09D 163/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で表されるイミダゾール化合物(A)と、
エポキシ化合物(B)と、
シアネート化合物(C1
)またはBT樹脂(C2)と、
を含んでなる、樹脂組成物:
【化1】
(式中、
R
1およびR
2は、それぞれ独立して、炭素数3〜18のアルキル基、炭素数3〜18のアルケニル基、炭素数3〜18のアルコキシル基、または炭素数6〜14の置換もしくは非置換の芳香族置換基を表し、
R
3は、水素、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数2〜18のアルケニル基、炭素数1〜18のアルコキシル基、炭素数6〜14の置換もしくは非置換の芳香族置換基、またはハロゲン基を表す。)。
【請求項2】
前記式(I)のR1およびR2が、それぞれ独立して、イソプロピル基、t−ブチル基、イソプロピルアルコキシル基、t−ブチルアルコキシル基、フェニル基、またはナフチル基を表す、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記式(I)のR1およびR2が、いずれもフェニル基である、請求項2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記イミダゾール化合物(A)が、樹脂の総量に対して、0.1〜10質量%含まれてなる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記エポキシ化合物(B)が、樹脂の総量に対して、25〜95質量%含まれてなる、請求項1〜4のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記シアネート化合物(C1)が、樹脂の総量に対して、5〜75質量%含まれてなる、請求項1〜5のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
前記BT樹脂(C2)が、樹脂の総量に対して、5〜75質量%含まれてなる、請求項1〜5のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の樹脂組成物を、基材に含浸または塗布してなるプリプレグ。
【請求項9】
請求項8に記載のプリプレグを積層成形した、積層板。
【請求項10】
請求項8に記載のプリプレグと金属箔とを積層成形した、金属箔張積層板。
【請求項11】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の樹脂組成物を用いた構造材料。
【請求項12】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の樹脂組成物を含んでなる注型用樹脂。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は樹脂組成物に関し、より詳細には、電気回路を形成するプリント配線板材料等に用いられる樹脂組成物、その樹脂組成物を基材に含浸または塗布したプリプレグ、およびそのプリプレグを硬化させて得られる積層板に関する。
【0002】
シアネート化合物を含むシアネート樹脂や、シアネート化合物とビスマレイミド化合物とを反応させた化合物を含むビスマレイミドトリアジン樹脂(BT樹脂)は、高耐熱性や誘電特性などに優れる熱硬化性樹脂として古くから知られている。近年、これらの樹脂は、半導体プラスチックパッケージ用などの高機能のプリント配線板用材料などに幅広く使用されている(例えば特許文献1,2)。
【0003】
上記シアネート樹脂やBT樹脂においては、硬化速度を上げて生産性を向上させるために、種々の触媒を樹脂に添加することが行われている。そのような触媒として、イミダゾール化合物が提案されている(特許文献3,4および5)。樹脂中にイミダゾール化合物を添加することにより触媒活性が発現し、プリプレグ製造の際、含浸塗工後の乾燥工程において、樹脂を低温かつ短時間で硬化させることができ、また、プレプリグの積層プレス成形も低温かつ短時間で行うことができる。
【0004】
しかしながら、樹脂中にイミダゾール化合物を添加すると、プリプレグや積層板の生産性は向上するものの、プリプレグの保存安定性が低下する等の問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−204697号公報
【特許文献2】特開2008−88400号公報
【特許文献3】特開2005−281513号公報
【特許文献4】特許3821797号公報
【特許文献5】特許3821728号公報
【発明の概要】
【0006】
本発明者らは、今般、シアネート樹脂やBT樹脂に、エポキシ樹脂と特定のイミダゾール化合物とを添加することにより、プリプレグの含浸塗工後の乾燥工程や積層プレス成形を低温かつ短時間で行うことができるとともに、プリプレグの保存安定性も維持できる樹脂組成物を実現できる、との知見を得た。本発明はかかる知見によるものである。
【0007】
したがって、本発明の目的は、プリプレグの含浸塗工後の乾燥工程や積層プレス成形を低温かつ短時間で行うことができるとともに、プリプレグの保存安定性も維持できる樹脂組成物を提供することである。
【0008】
そして、本発明による樹脂組成物は、
下記式(I)で表されるイミダゾール化合物(A)と、
エポキシ化合物(B)と、
シアネート化合物(C1)またはBT樹脂(C2)と、
を含んでなるものである。
【化1】
(式中、
R
1およびR
2は、それぞれ独立して、炭素数3〜18のアルキル基、炭素数3〜18のアルケニル基、炭素数3〜18のアルコキシル基、または炭素数6〜14の置換もしくは非置換の芳香族置換基を表し、
R
3は、水素、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数2〜18のアルケニル基、炭素数1〜18のアルコキシル基、炭素数6〜14の置換もしくは非置換の芳香族置換基、またはハロゲン基を表す。)
【0009】
本発明によれば、プリプレグの含浸塗工後の乾燥工程や積層プレス成形を低温かつ短時間で行うことができるとともに、プリプレグの保存安定性も維持できる樹脂組成物を実現することができる。したがって、優れた耐熱性および吸湿耐熱性を有するシアネート化合物含有樹脂やBT樹脂の、生産性と保存安定性とを両立させることができる。
【0010】
本発明による樹脂組成物は、特定のイミダゾール化合物(A)と、エポキシ化合物(B)と、シアネート化合物(C1)またはBT樹脂(C2)とを必須成分として含む。以下、本発明による樹脂組成物を構成する各成分について説明する。
【0011】
<イミダゾール化合物(A)>
本発明による樹脂組成物は、下記式(I)で表されるイミダゾール化合物(A)を含む。
【化2】
【0012】
上記式(I)において、R
1およびR
2は、それぞれ独立して、炭素数3〜18のアルキル基、炭素数3〜18のアルケニル基、炭素数3〜18のアルコキシル基、または炭素数6〜14の置換もしくは非置換の芳香族置換基を表す。芳香族置換基の水素原子の少なくとも1つが他の置換基で置換されている場合、このような置換基としては、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数2〜18のアルケニル基、炭素数1〜18のアルコキシル基およびハロゲン基が挙げられる。
【0013】
重合反応の硬化促進およびプリプレグの保存安定性の観点から、R
1およびR
2は、それぞれ独立して、イソプロピル基、t−ブチル基、イソプロピルアルコキシル基、t−ブチルアルコキシル基、フェニル基、またはナフチル基であることが好ましく、特に、R
1およびR
2のいずれもがフェニル基であることが好ましい。
【0014】
また、上記式(I)において、R
3は、水素、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数2〜18のアルケニル基、炭素数1〜18のアルコキシル基、炭素数6〜14の置換もしくは非置換の芳香族置換基、またはハロゲン基を表す。芳香族置換基の水素原子の少なくとも1つが他の置換基で置換されている場合、このような置換基としては、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数2〜18のアルケニル基、炭素数1〜18のアルコキシル基およびハロゲン基が挙げられる。
【0015】
本発明においては、シアネート化合物(C1)またはBT樹脂(C2)を含む樹脂組成物において、上記したような特定のイミダゾール化合物(A)を硬化触媒として添加することにより、優れた耐熱性および吸湿耐熱性を有するシアネート化合物含有樹脂やBT樹脂の、生産性と保存安定性とを両立させることができる。この理由は定かではないが、以下のように考えられる。すなわち、イミダゾール化合物中の反応活性点である2級アミン近傍に嵩高い置換基を有するような特定のイミダゾール化合物(A)は、高温時では分子運動エネルギーが高く、2級アミンによる触媒活性が発現するが、低温時では分子運動エネルギーが低く、2級アミンによる触媒活性が抑制されるため、生産性(硬化速度)と保存安定性とを両立させることができるものと考えられる。
【0016】
上記イミダゾール化合物(A)は、硬化促進効果、保存安定性および成形性の観点から、樹脂の総量に対して、0.1〜10質量%含まれていることが好ましく、より好ましくは0.2〜5質量%である。なお、特に断りのない限り、樹脂の総量とは、イミダゾール化合物(A)と、エポキシ化合物(B)と、シアネート化合物(C1)またはBT樹脂(C2)との合計質量をいうものとする。
【0017】
本発明による樹脂組成物は、上記イミダゾール化合物(A)に加えて、他の公知の硬化促進剤が含まれていてもよい。このような硬化促進剤としては、例えば、過酸化ベンゾイル、ラウロイルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、パラクロロベンゾイルパーオキサイド、ジ−tert−ブチル−ジ−パーフタレート等で例示される有機過酸化物、アゾビスニトリル当のアゾ化合物、N,N−ジメチルベンジルアミン、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジメチルトルイジン、2−N−エチルアニリノエタノール、トリ−n−ブチルアミン、ピリジン、キノリン、N−メチルモルホリン、トリエタノールアミン、トリエチレンジアミン、テトラメチルブタンジアミン、N−メチルピペリジンなどの第3級アミン類、フェノール、キシレノール、クレゾール、レゾルシン、カテコールなどのフェノール類、ナフテン酸鉛、ステアリン酸鉛、ナフテン酸亜鉛、オクチル酸亜鉛、オレイン酸錫、ジブチル錫マレート、ナフテン酸マンガン、ナフテン酸コバルト、アセチルアセトン鉄などの有機金属塩、これら有機金属塩をフェノール、ビスフェノールなどの水酸基含有化合物に溶解したもの、塩化錫、塩化亜鉛、塩化アルミニウムなどの無機金属塩、ジオクチル錫オキサイド、その他のアルキル錫、アルキル錫オキサイドなどの有機錫化合物などが挙げられる。
【0018】
<エポキシ化合物(B)>
本発明において用いられるエポキシ化合物(B)は、1分子中に2個以上のエポキシ基を有する化合物であれば特に制限なく、公知のものを使用することができる。本発明において、好ましいエポキシ化合物(B)としては、1分子中に2個以上の水酸基を有する化合物の水酸基の水素原子をグリシジル基に置換した構造のものが挙げられる。また、エポキシ化合物(B)は、芳香族基を有するものが好ましく、グリシジル基が芳香族基に直結した構造のものを好適に使用することができる。このようなエポキシ化合物としては、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールM、ビスフェノールP、ビスフェノールE、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ジシクロペンタジエンノボラック樹脂、テトラメチルビスフェノールF、ビスフェノールAノボラック樹脂、臭素化ビスフェノールA、臭素化フェノールノボラック樹脂、3官能フェノール、4官能フェノール、ナフタレン型フェノール、ビフェニル型フェノール、フェノールアラルキル樹脂、ビフェニルアラルキル樹脂、ナフトールアラルキル樹脂、ジシクロペンタジエンアラルキル樹脂、脂環式フェノール、リン含有フェノール等の水酸基の水素原子をグリシジル基に置換した構造の化合物、またはグリシジルアミン、グリシジルエステル、ブタジエンなどの2重結合をエポキシ化した化合物、水酸基含有シリコン樹脂類とエピクロルヒドリン等との反応により得られる化合物等が挙げられる。これらのエポキシ化合物(B)は、単独でまたは2種以上を適宜組み合わせて使用してもよい。また、上記したエポキシ化合物(B)は、モノマー、オリゴマーおよび樹脂のいずれの形態であってもよい。
【0019】
エポキシ化合物(B)は、吸湿耐熱性および耐熱性の観点から、樹脂の総量に対して、25〜95質量%含まれていることが好ましく、より好ましくは30〜90質量%である。
【0020】
<シアネート化合物(C1)>
本発明において用いられるシアネート化合物(C1)は、1分子中に2個以上のシアネート基を有する化合物であれば特に制限なく、公知のものを使用することができる。本発明において、好ましいシアネート化合物(C1)としては、1分子中に2個以上の水酸基を有する化合物の水酸基をシアネート基に置換した構造のものが挙げられる。また、シアネート化合物(C1)は、芳香族基を有するものが好ましく、シアネート基が芳香族基に直結した構造のものを好適に使用することができる。このようなシアネート化合物としては、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールM、ビスフェノールP、ビスフェノールE、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ジシクロペンタジエンノボラック樹脂、テトラメチルビスフェノールF、ビスフェノールAノボラック樹脂、臭素化ビスフェノールA、臭素化フェノールノボラック樹脂、3官能フェノール、4官能フェノール、ナフタレン型フェノール、ビフェニル型フェノール、フェノールアラルキル樹脂、ビフェニルアラルキル樹脂、ナフトールアラルキル樹脂、ジシクロペンタジエンアラルキル樹脂、脂環式フェノール、リン含有フェノール等の水酸基をシアネート基に置換した構造のものが挙げられる。これらのシアネート化合物(C1)は、単独でまたは2種以上を適宜組み合わせて使用してもよい。また、上記したシアネート化合物(C1)は、モノマー、オリゴマーおよび樹脂のいずれの形態であってもよい。
【0021】
上記したシアネート化合物(C1)は、従来公知の方法により製造することができ、例えば、1分子中に2個以上の水酸基を有する化合物とハロゲン化シアン等との反応により得ることができる。
【0022】
シアネート化合物(C1)は、吸湿耐熱性および耐熱性の観点から、樹脂の総量に対して、5〜75質量%含まれていることが好ましく、より好ましくは10〜70質量%である。
【0023】
<BT樹脂(C2)>
本発明において用いられるBT樹脂(C2)とは、上記したシアネート化合物(C1)とマレイミド化合物とを、無溶剤で加熱溶融混合するか、または、適当な有機溶剤に溶解させて加熱混合し、ポリマー化したものを意味する。シアネート化合物(C1)とマレイミド化合物とを混合するのに用いられる有機溶剤としては、メチルエチルケトン、Nメチルピロドリン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、トルエン、キシレン等が挙げられる。
【0024】
BT樹脂(C2)を製造する際に用いられるマレイミド化合物としては、1分子中に1個以上のマレイミド基を有する化合物であれば特に制限なく使用することができる。例えば、N−フェニルマレイミド、N−ヒドロフェニルマレイミド、ビス(4−マレイミドフェニル)メタン、2,2−ビス{4−(4−マレイミドフェノキシ)−フェニル}プロパン、ビス(3,5−ジメチル−4−マレイミドフェニル)メタン、ビス(3−エチル−5−メチル−4−マレイミドフェニル)メタン、ビス(3,5−ジエチル−4−マレイミドフェニル)メタンなどが挙げられる。これらのマレイミド化合物は、単独でまたは2種以上を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0025】
BT樹脂(C2)は、吸湿耐熱性および耐熱性の観点から、樹脂の総量に対して、5〜75質量%含まれていることが好ましく、より好ましくは10〜70質量%である。
【0026】
<その他の成分>
本発明による樹脂組成物は、さらにマレイミド化合物(D)を含んでいてもよい。マレイミド化合物(D)としては、上記したものを好適に使用することができる。マレイミド化合物(D)の含有量は、吸湿耐熱性の観点から、樹脂の総量に対して、50質量%以下であることが好ましく、より好ましくは40質量%以下である。なお、ここでの樹脂の総量とは、イミダゾール化合物(A)と、エポキシ化合物(B)と、シアネート化合物(C1)またはBT樹脂(C2)と、マレイミド化合物(D)との合計質量をいうものとする。
【0027】
また、樹脂組成物には、無機充填材が含まれていてもよい。無機充填材を添加することにより、樹脂に、低熱膨張化、難燃性およびレーザー加工性を付与することができるとともに、プリプレグや積層体の成形時の樹脂の流動性を制御することができる。本発明において用いられる無機系充填材としては、特に制限なく公知のものを使用でき、例えば、天然シリカ、溶融シリカ、アモルファスシリカ、フュームドシリカ、中空シリカ等のシリカ類、水酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム加熱処理品(水酸化アルミニウムを加熱処理し、結晶水の一部を減じたもの)、ベーマイト、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物、酸化モリブデン、モリブデン酸亜鉛等のモリブデン化合物、酸化チタン、チタン酸バリウム、硫酸バリウム、ホウ酸亜鉛、錫酸亜鉛、アルミナ、クレー、カオリン、タルク、焼成クレー、焼成カオリン、焼成タルク、マイカ、ガラス短繊維(EガラスやDガラスなどのガラス微粉末類)、中空ガラス等が挙げられる。これらのなかでも、難燃性の観点からは、水酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム加熱処理品(水酸化アルミニウムを加熱処理し、結晶水の一部を減じたもの)、ベーマイト、水酸化マグネシウム等の金属水和物、酸化モリブデン、モリブデン酸亜鉛等のモリブデン化合物を好適に使用することができる。これら無機充填材は、単独でまたは2種以上を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0028】
無機充填材は、線膨張率、難燃性および成形性の観点から、樹脂総量に対して、10〜600質量%含まれていることが好ましく、より好ましくは30〜500質量%である。
【0029】
本発明による樹脂組成物は、上記した成分以外にも、必要に応じて他の成分を含んでいてもよい。所期の特性が損なわれない範囲において、他の熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、およびそのオリゴマーやエラストマー類などの種々の高分子化合物、他の難燃性の化合物、添加剤などが添加されていてもよい。これらは、一般に使用されているものであれば、特に制限なく使用することができる。例えば、リン酸エステル、リン酸メラミンなどのリン化合物、メラミンやベンゾグアナミンなどの窒素含有化合物、オキサジン環含有化合物、シリコン系化合物、ポリイミド、ポリビニルアセタール、フェノキシ樹脂、アクリル樹脂、水酸基またはカルボキシル基を有するアクリル樹脂、アルキッド樹脂、熱可塑性ポリウレタン樹脂、ポリブタジエン、ブタジエン−アクリロニトリル共重合体、ポリクロロプレン、ブタジエン−スチレン共重合体、ポリイソプレン、ブチルゴム、フッ素ゴム、天然ゴムなどのエラストマー類、スチレン−イソプレンゴム、アクリルゴム、これらのコアシェルゴム、エポキシ化ブタジエン、マレイン化ブタジエン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン−プロピレン共重合体、ポリ−4−メチルペンテン−1、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリビニルトルエン、ポリビニルフェノール、AS樹脂、ABS樹脂、MBS樹脂、ポリ−4−フッ化エチレン、フッ化エチレン−プロピレン共重合体、4−フッ化エチレン−6−フッ化エチレン共重合体、フッ化ビニリデンなどのビニル化合物重合体類、ポリカーボネート、ポリエステルカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、ポリエステル、ポリエーテルサルホン、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリエステルイミド、ポリフェニレンサルファイトなどの熱可塑性樹脂類およびこれらの低分子量重合体類、(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ジ(メタ)アクリルオキシービスフェノールなどのポリ(メタ)アクルレート類、スチレン、ビニルピロリドン、ジアクリルフタレート、ジビニルベンゼン、ジアリルベンゼン、ジアリルエーテルビスフェノール、トリアルケニルイソシアヌレートなどのポリアリル化合物およびそのプレポリマー類、ジシクロペンタジエンおよびそのプレポリマー類、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル等の重合性二重結合含有モノマー類およびそのプレポリマー類、ポリイソシアネート類などの熱硬化性モノマーまたはそのプレポリマー類などが挙げられる。添加剤としては、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光重合開始剤、蛍光増白剤、光増感剤、染料、顔料、増粘剤、滑剤、消泡剤、分散剤、レベリング剤、光沢剤、重合禁止剤等が挙げられ、これら添加剤は、必要に応じて、単独でまたは2種以上を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0030】
<樹脂組成物の用途>
本発明による樹脂組成物は、加熱することにより硬化する。硬化条件は、樹脂組成物の組成や硬化促進剤であるイミダゾール化合物(A)の配合量などによって変化する。樹脂組成物を完全に硬化させる場合は、通常、100〜300℃の範囲で、所定時間の加熱を行う。加圧環境下で加熱してもよく、例えば、0.1〜5MPa、好ましくは0.5〜3MPaの加圧下で、樹脂組成物を硬化させる。
【0031】
上記のようにして得られた硬化物は、その優れた物性や作業性から、種々の用途に利用することができる。本発明による樹脂組成物の好適な用途としては、プリプレグ、銅張積層板などのプリント配線板用材料、構造材料、注型用樹脂などが挙げられる。
【0032】
<プリプレグおよび積層板>
プリプレグは、上記した樹脂組成物を、基材に含浸または塗布したものである。基材としては、各種プリント配線板材料等に用いられている公知の無機または有機の繊維質補強材を使用することができる。無機繊維質補強材としては、例えば、E、NE、D、S、Tガラス等のガラス繊維、石英ガラス繊維、カーボン繊維、アルミナファイバー、炭化珪素ファイバー、アスベスト、ロックウール、スラグウール、石膏ウィスカーなどの無機繊維や、その繊布もしくは不繊布、またはこれらの混合物が挙げられる。また、有機繊維質補強材としては、例えば、全芳香族ポリアミド繊維、ポリイミド繊維、液晶ポリエステル、ポリエステル繊維、フッ素繊維、ポリベンゾオキサゾール繊維、綿、麻、セミカーボン繊維などの有機繊維や、その繊布もしくは不繊布、またはこれらの混合物が挙げられる。
【0033】
上記した無機または有機の繊維質補強材は、必要に応じて、単独でまたは2種以上を適宜組み合わせて使用してもよい。例えば、ガラス繊維と全芳香族ポリアミド繊維、ガラス繊維とカーボン繊維、ガラス繊維とポリアミド繊維、ガラス繊維と液晶性芳香族ポリエステルなど混繊布、ガラスペーパー、マイカペーパー、アルミナペーパーなどの無機質ペーパー、クラフト紙、コットン紙、紙−ガラス混抄紙などの組み合わせや、これらを2種類以上組み合わせてもよい。
【0034】
上記した基材は、樹脂との密着性を向上させるため、表面処理が施されていてもよい。表面処理としては、プリプレグまたは積層板において適用される従来公知の方法を使用することができる。また、薄物用途に使用する基材として、ポリイミドフィルム、全芳香族ポリアミドフィルム、ポリベンゾオキサゾールフィルム、液晶ポリエステルフィルム等を好適に使用することができる。
【0035】
プリプレグは、上記した樹脂組成物を、基材に含浸または塗布することにより製造できる。例えば、上記した樹脂組成物と有機溶剤とからなる樹脂ワニスを基材に含浸または塗布させた後、100〜200℃の乾燥機中で、1〜60分加熱させて樹脂を半硬化させることにより製造する。基材に対する樹脂組成物(無機充填材を含む)の含有量は、プリプレグ全体に対して20〜90質量%の範囲であることが好ましい。
【0036】
上記したプリプレグを積層し、成形(硬化)させることにより積層板を形成することができる。積層板は、上記したプリプレグを1枚または2枚以上を重ね合わせ、所望によりその片面または両面に、銅やアルミニウムなどの金属箔を配置して積層し、成形(硬化)することにより製造する。使用する金属箔としては、プリント配線板材料に用いられるものであれば、特に制限なく使用することができる。また、積層成形には、通常のプリント配線板用積層板および多層板の手法を採用できる。例えば、積層成形の条件としては、多段プレス、多段真空プレス、連続成形、オートクレーブ成形機や真空ラミネーターなどを使用し、温度は100〜300℃、圧力は2〜100kgf/cm
2、加熱時間は0.05〜5時間の範囲が一般的である。また、本発明においては、上記したプリプレグと、別途準備した内層用の配線板とを組み合わせて積層成形することにより、多層板とすることもできる。
【実施例】
【0037】
以下に実施例および比較例を示し、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0038】
実施例1
2,2−ビス(4−シアナトフェニル)プロパン(CA200、三菱ガス化学(株)製)25質量部、およびビス(3−エチル−5−メチル−4−マレイミドフェニル)メタン(BMI−70、ケイアイ化成製)25質量部を混合し、150℃で溶融させて攪拌しながら6時間反応させた後、これをメチルエチルケトンに溶解させることによりBT樹脂を得た。
【0039】
得られたBT樹脂50質量部(固形分換算での部数)、フェノールノボラック型エポキシ(N770、DIC製)25質量部、ビフェニルアラルキル型エポキシ(NC−3000−FH、日本化薬(株)製)25質量部、オクチル酸亜鉛0.02質量部、および2,4,5−トリフェニルイミダゾール(東京化成工業製)1質量部を混合し、ワニスを調製した。得られたワニスを、厚さ0.1mmのEガラスクロス(E10T、ユニチカグラスファイバー製)に含浸させ、165℃でゲル化時間が90秒になるまで乾燥することにより、樹脂量が50質量%のプリプレグを作製した。得られたプリプレグを2枚重ね、その上下に厚さ12μmの電解銅箔(JTC−LP箔、日鉱金属製)を配置し、圧力3MPaで、下記の3種類の加熱条件で積層成形を行い、絶縁層厚さ0.2mmの各銅張積層板を得た。
加熱条件1:製品温度220℃で20分間保持
加熱条件2:製品温度200℃で60分間保持
加熱条件3:製品温度200℃で60分間保持
【0040】
実施例2
2,2−ビス(4−シアナトフェニル)プロパン(CA200、三菱ガス化学(株)製)60質量部を150℃で溶融させて攪拌しながら6時間反応させた後、これをメチルエチルケトンに溶解させることによりプレポリマー得た。
【0041】
得られたプレポリマー60質量部(固形分換算での部数)、クレゾールノボラック型エポキシ(N680、DIC製)40質量部、オクチル酸亜鉛0.02質量部、および2,4,5−トリフェニルイミダゾール(東京化成工業製)1質量部を混合し、ワニスを調製した。得られたワニスを、厚さ0.1mmのEガラスクロス(E10T、ユニチカグラスファイバー製)に含浸させ、170℃で8分間乾燥することにより、樹脂量が50質量%のプリプレグを作製した。得られたプリプレグを2枚重ね、その上下に厚さ12μmの電解銅箔(JTC−LP箔、日鉱金属製)を配置し、実施例1と同様の条件で積層形成を行い、絶縁層厚さ0.2mmの銅張積層板を得た。
【0042】
比較例1
実施例1において2,4,5−トリフェニルイミダゾールに代えて2−フェニル,4−メチルイミダゾール(東京化成工業製)を使用した以外は、実施例1と同様にして、絶縁層厚さ0.2mmの銅張積層板を得た。
【0043】
比較例2
実施例1において2,4,5−トリフェニルイミダゾールを使用しなかった以外は、実施例1と同様にして、絶縁層厚さ0.2mmの銅張積層板を得た。
【0044】
比較例3
実施例2において2,4,5−トリフェニルイミダゾールに代えて2−フェニル,4−メチルイミダゾール(東京化成工業製)を使用した以外は、実施例2と同様にして、絶縁層厚さ0.2mmの銅張積層板を得た。
【0045】
比較例4
実施例2において2,4,5−トリフェニルイミダゾールを使用しなかった以外は、実施例2と同様にして、絶縁層厚さ0.2mmの銅張積層板を得た。
【0046】
評価試験
上記のようにして得られた各プリプレグおよび積層板について、下記のようにして、プリプレグゲル化時間測定、ガラス転移温度測定、および吸湿耐熱性評価を行った。
(1)プリプレグゲル化時間
プリプレグを40℃の恒温環境下に0,5,10,15および30日放置し、各ゲル化時間を測定した。ゲル化時間の測定は、JIS C6521(多層プリント配線板用プリプレグ試験法)の硬化時間測定に準拠して行った(JIS C6521の5.7参照)。
【0047】
(2)ガラス転移温度
サイズ10mm×60mmのサンプルを作製し、DMA装置(TA Instrumen2980型)を用いて、昇温10℃/minの条件下でガラス転移温度の測定を行った。測定は、JIS C6481(プリント配線板用銅張積層板試験方法)のDMA法B法に準拠して行った(JIS C6481の5.17.2参照)。
【0048】
【表1】
【0049】
表1からも明らかなように、上記式(I)で表されるイミダゾール化合物以外のイミダゾール化合物である2−フェニル,4−メチルイミダゾールを含む樹脂組成物を用いた積層板(比較例1および3)では、プリプレグの硬化時間は短いものの、プリプレグゲル化時間の経時的変化が大きい。また、効果促進剤であるイミダゾール化合物を含まない樹脂組成物を用いた積層板(比較例2および4)では、プリプレグゲル化時間の経時的変化は少ないものの、プリプレグの硬化時間が長い。これに対し、上記式(I)で表されるイミダゾール化合物である2,4,5−トリフェニルイミダゾールを含む樹脂組成物を用いた積層板(実施例1および2)では、プリプレグの硬化時間が短く、かつプリプレグゲル化時間の経時的変化が少ない。