特許第6085220号(P6085220)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6085220ランキンサイクルシステム及びその運転方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6085220
(24)【登録日】2017年2月3日
(45)【発行日】2017年2月22日
(54)【発明の名称】ランキンサイクルシステム及びその運転方法
(51)【国際特許分類】
   F01K 25/06 20060101AFI20170213BHJP
   F01K 25/10 20060101ALI20170213BHJP
   F01K 23/10 20060101ALI20170213BHJP
   F01N 5/02 20060101ALI20170213BHJP
   F02G 5/00 20060101ALI20170213BHJP
   F02G 5/02 20060101ALI20170213BHJP
【FI】
   F01K25/06
   F01K25/10 M
   F01K25/10 G
   F01K23/10 P
   F01N5/02 F
   F02G5/00 B
   F02G5/02 B
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-97730(P2013-97730)
(22)【出願日】2013年5月7日
(65)【公開番号】特開2014-218921(P2014-218921A)
(43)【公開日】2014年11月20日
【審査請求日】2016年4月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005463
【氏名又は名称】日野自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(72)【発明者】
【氏名】田賀 文浩
【審査官】 瀬戸 康平
(56)【参考文献】
【文献】 特表2010−532393(JP,A)
【文献】 特開2012−127276(JP,A)
【文献】 特開2012−102644(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01K 23/00−27/02
F01N 5/02
F02G 5/00
DWPI(Thomson Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水と異なる沸点を持ち、且つ、水の凝固点降下作用を有する添加媒体と水を混合した作動流体を貯留する作動流体タンクと、
少なくとも一部の前記添加媒体を蒸留により前記作動流体から分離する蒸留手段と、
前記蒸留手段が分離した前記添加媒体を貯留する添加媒体タンクと、
前記蒸留手段によって少なくとも一部の前記添加媒体が分離された前記作動流体によりランキンサイクルを行うランキンサイクル装置と、
前記ランキンサイクル装置によるランキンサイクルの終了時に、前記添加媒体タンクに貯留された前記添加媒体を前記作動流体タンクに戻す戻し手段と、
を備えることを特徴とするランキンサイクルシステム。
【請求項2】
前記ランキンサイクル装置は、前記作動流体を気化させるための蒸発器を有し、
前記蒸留手段は、前記蒸発器により気化された前記添加媒体を前記添加媒体タンクに送ることで前記作動流体から前記添加媒体を分離することを特徴とする請求項1に記載のランキンサイクルシステム。
【請求項3】
前記添加媒体は、水より低い沸点を持つことを特徴とする請求項1又は2に記載のランキンサイクルシステム。
【請求項4】
車両に搭載されていることを特徴とする請求項1〜3のうち何れか一項に記載のランキンサイクルシステム。
【請求項5】
前記戻し手段は、車外環境が温暖環境である場合、前記ランキンサイクル装置によるランキンサイクルの終了時であっても、前記添加媒体タンクに貯留された前記添加媒体を前記作動流体タンクに戻さないことを特徴とする請求項4に記載のランキンサイクルシステム。
【請求項6】
水と異なる沸点を持ち、且つ、水の凝固点降下作用を有する添加媒体と水を混合した作動流体から、少なくとも一部の前記添加媒体を蒸留により分離し、
残りの前記作動流体によりランキンサイクルを行い、
前記ランキンサイクルの終了時に、分離された前記添加媒体を前記残りの作動流体に戻すことを特徴とするランキンサイクルシステムの運転方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ランキンサイクルシステム及びその運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ランキンサイクルシステムに関する技術文献として、特開平11−257025号公報が知られている。この公報には、水蒸気にて駆動される蒸気タービンを有する水蒸気系と、蒸気タービンの排気で加熱された気体状の混合媒体にて駆動される混合媒体タービンを有する混合媒体系と、を有する混合媒体サイクル発電プラントであって、混合媒体タービンの前後で混合媒体の低沸点成分の濃度が変化するものが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−257025号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、水などを作動流体として用いるランキンサイクルは高い熱効率を得ることができるが、寒冷時には凍結する恐れがある。一方で、凍結を避けるため凝固温度を下げる添加媒体を加えると、ランキンサイクルの熱効率が大幅に悪化するという背反があり、問題となっていた。
【0005】
そこで、本発明は、作動流体の凍結を抑制しつつ、熱効率を高めることができるランキンサイクルシステム及びランキンサイクルシステムの運転方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明に係るランキンサイクルシステムは、水と異なる沸点を持ち、且つ、水の凝固点降下作用を有する添加媒体と水を混合した作動流体を貯留する作動流体タンクと、少なくとも一部の添加媒体を蒸留により作動流体から分離する蒸留手段と、蒸留手段が分離した添加媒体を貯留する添加媒体タンクと、蒸留手段によって少なくとも一部の添加媒体が分離された作動流体によりランキンサイクルを行うランキンサイクル装置と、ランキンサイクル装置によるランキンサイクルの終了時に、添加媒体タンクに貯留された添加媒体を作動流体タンクに戻す戻し手段と、を備えることを特徴とする。
【0007】
本発明に係るランキンサイクルシステムによれば、凝固温度降下作用を有する添加媒体と水を混合した作動流体を用いているので、水のみを用いる場合と比べて、寒冷時における作動流体の凍結を抑制することができる。しかも、このランキンサイクルシステムによれば、水と沸点の異なる添加媒体を蒸留により作動流体から分離することで、水濃度が高く熱効率の高い作動流体によるランキンサイクルを行うことができる。従って、このランキンサイクルシステムによれば、作動流体の凍結を抑制しつつ、ランキンサイクルの熱効率を高めることができる。
【0008】
また、本発明に係るランキンサイクルシステムにおいては、ランキンサイクル装置は、作動流体を気化させるための蒸発器を有し、蒸留手段は、蒸発器により気化された添加媒体を添加媒体タンクに送ることで作動流体から添加媒体を分離してもよい。
このランキンサイクルシステムによれば、ランキンサイクル装置の有する蒸発器を利用して添加媒体を含む作動流体を気化させるので、蒸留のために専用の加熱器を設ける場合と比べて、構成を簡素化することができる。このことは、ランキンサイクルシステムの小型化にも有利である。
【0009】
本発明に係るランキンサイクルシステムにおいて、添加媒体は、水より低い沸点を持っていてもよい。
この場合、加熱時において水より先に添加媒体が気化するので、添加媒体を捕集しやすい。しかも、水より低い沸点を持つ添加媒体としては、TFE(2,2,2−トリフルオロエタノール)やエタノールなどを用いることができる。
【0010】
本発明に係るランキンサイクルシステムは、車両に搭載されていてもよい。
このようにランキンサイクルシステムを車両に搭載する場合、エンジン停止時にはランキンサイクルが行われず、作動流体が寒冷下に置かれることが想定されるため、凍結対策として本発明は有用である。
【0011】
本発明に係るランキンサイクルシステムにおいて、戻し手段は、車外環境が温暖環境である場合、ランキンサイクル装置によるランキンサイクルの終了時であっても、添加媒体タンクに貯留された添加媒体を作動流体タンクに戻さなくてもよい。
このランキンサイクルシステムによれば、水濃度の高い作動流体のままであっても凍結しない温暖環境である場合には、添加媒体を作動流体に混合させる必要がないので、添加媒体を作動流体タンクに戻さない。従って、このランキンサイクルシステムによれば、水濃度の高いまま作動流体タンク内に作動流体が貯留されるので、次のランキンサイクル開始時に作動流体から添加媒体を蒸留する必要がなく、熱効率の高いランキンサイクルを短時間で開始することができる。
【0012】
本発明に係るランキンサイクルシステムの運転方法は、水と異なる沸点を持ち、且つ、水の凝固点降下作用を有する添加媒体と水を混合した作動流体から、少なくとも一部の添加媒体を蒸留により分離し、残りの作動流体によりランキンサイクルを行い、ランキンサイクルの終了時に、分離された添加媒体を残りの作動流体に戻すことを特徴とする。
本発明に係るランキンサイクルシステムの運転方法によれば、凝固温度降下作用を有する添加媒体と水を混合した作動流体を用いているので、水のみを用いる場合と比べて、寒冷時における作動流体の凍結を抑制することができる。しかも、この運転方法によれば、水と沸点の異なる添加媒体を蒸留により作動流体から分離することで、水濃度が高く熱効率の高い作動流体によるランキンサイクルを行うことができる。従って、この運転方法によれば、作動流体の凍結を抑制しつつ、ランキンサイクルの熱効率を高めることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、作動流体の凍結を抑制しつつ、熱効率を高めることができるランキンサイクルシステム及びランキンサイクルシステムの運転方法を提供ができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】第1の実施形態に係るランキンサイクルシステムを示す概略構成図である。
図2】水に混合するTFEのモル%と凝固温度の関係を示すグラフである。
図3】水とTFEの熱効率の差を示すグラフである。
図4】第1の実施形態に係るランキンサイクルシステムの動作を示すフローチャートである。
図5】第2の実施形態に係るランキンサイクルシステムを示す概略構成図である。
図6】第2の実施形態に係るランキンサイクルシステムの動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0016】
図1に示されるように、第1の実施形態に係るランキンサイクルシステム1は、水及び添加媒体を含む作動流体を用いたランキンサイクルにより、廃熱からエネルギーを回収するためのものである。このランキンサイクルシステム1は、トラック等の車両に搭載されており、車両のエンジンなどから生じる廃熱により作動流体を加熱する。また、このランキンサイクルシステム1は、車両のECU[EngineControl Unit]としても機能する制御部13によってコントロールされている。
【0017】
このランキンサイクルシステム1における作動流体は、水より低い沸点を持ち且つ水の凝固点降下作用を有する添加媒体と水とを混合したものである。このような添加媒体としては、例えばTFE(2,2,2−トリフルオロエタノール)、エタノールなどの各種アルコールが挙げられる。なお、添加媒体は一種類である場合に限られない。
【0018】
ここで、図2は、水に混合するTFEのモル%と凝固温度の関係を示すグラフである。図2に示されるように、水に対する添加媒体としてTFEを混合することにより、凝固温度を大幅に下げることができ、寒冷時における作業流体の凍結を避けることができる。TFEの混合割合は、車両の走行する国や地域などに応じて適切に選択される。
【0019】
図3は、水とTFEの熱効率の差を示すグラフである。図3に示されるように、蒸気温度370℃、凝縮温度100℃、圧縮圧力1MPaの条件下において、水の熱効率が18.7%であるのに対して、TFEの熱効率は10.1%である。このため、水にTFEを混合するほど作業流体の熱効率は低下することが知られている。
【0020】
次に、ランキンサイクルシステム1の構成について説明する。図1に示されるように、第1の実施形態に係るランキンサイクルシステム1は、作動流体を用いたランキンサイクルを実現するためのランキンサイクル装置2を備えている。ランキンサイクル装置2は、作動流体タンク3、メインポンプ4、蒸留塔(蒸発器)5、膨張機6、凝縮器7を有している。
【0021】
作動流体タンク3は、水とTFEとを混合してなる作動流体を貯留するためのタンクである。作動流体は、ランキンサイクルを行わない場合、作動流体タンク3に貯留される。作動流体タンク3は、ランキンサイクルを行わない場合に、作動流体が流れ込むようにランキンサイクル装置2の下側に配置されていてもよい。
【0022】
メインポンプ4は、作動流体を循環させるためのポンプである。メインポンプ4は、例えば作動流体タンク3と蒸留塔5とを繋ぐパイプ上に配置されている。
【0023】
蒸留塔5は、廃熱を利用した作動流体の加熱により気化させる蒸発器である。蒸留塔5は、加熱媒体(熱源)が通る熱交換用パイプ5aを有している。なお、加熱媒体は特に限定されず、車両の排気ガスやEGRガス、冷却水などを用いることができる。
【0024】
ランキンサイクルの運転が開始されると、メインポンプ4の駆動により作動流体タンク3から蒸留塔5の下層へと作動流体が送り込まれる。蒸留塔5内では、加熱により作動流体が気化され、気化した作動流体は上昇して蒸留塔5の上層に設けられた出口から膨張機6へと送り出される。
【0025】
このとき、作動流体に含まれるTFEは水よりも沸点が低いため、蒸留塔5内で先に気化(蒸発)する。すなわち、蒸留塔5からは、沸点の低いTFE成分が先に送り出され、沸点の高い水成分が後から送り出される。
【0026】
膨張機6は、タービン,往復式膨張機,スクロール式膨張機,ロータリ式膨張機などの気化し加熱された作動流体を膨張させることによって作動流体が持つ熱エネルギーを回転エネルギーに変換する機能を有する装置により構成されている。膨張機6の回転軸は、例えば発電機に接続されており、膨張機6の回転エネルギーは電気エネルギーとして回収される。その他、膨張機6は、エンジンのクランクシャフトなどに回転エネルギーを伝達する構成であってもよい。
【0027】
凝縮器7は、膨張機6でエネルギーを回収された作動流体を冷却(放熱)して凝縮(液化)させるためのコンデンサである。凝縮器7は、作動流体を冷却するためのファン7aを有している。また、凝縮器7は、車両の走行風を導入して作動流体を冷却可能に構成されている。その他、凝縮器7は、車両のクーラントを利用した水冷を利用可能に構成されていてもよく、水冷のみで冷却されていてもよい。
【0028】
凝縮器7において液化された作動流体は、三方弁8を矢印Mの方向(作動流体タンク3の方向)に通過することで再び作動流体タンク3に戻り、ランキンサイクルが繰り返される。
【0029】
ここで、図1に示す三方弁8、フィードポンプ9、逆止弁10、TFEタンク11、及び戻り用バルブ12は、作動流体のTFE成分を蒸留により分離するための装置である。
【0030】
三方弁8は、凝縮器7、作動流体タンク3、及びフィードポンプ9とパイプを通じて接続された電磁弁である。三方弁8は、ランキンサイクルの運転開始時に蒸留塔5から先に気化したTFE成分を矢印Nの方向(フィードポンプ9の方向)に向かわせる。
【0031】
この三方弁8の切替えは、制御部13によって制御されている。制御部13は、作動流体のTFE成分(すなわちTFEを主成分とする作動流体)をフィードポンプ9へと送り、残りの水成分(水を主成分とする作動流体)を作動流体タンク3に戻すように三方弁8を切り替える。制御部13は、廃熱の温度や蒸気圧などの各種条件に基づいて、適切なタイミングで三方弁8を切り替える。三方弁8は、蒸留塔5及び制御部13と共に、特許請求の範囲に記載の蒸留手段を構成する。
【0032】
フィードポンプ9は、三方弁8を通じて送られたTFE成分をTFEタンク11に送り込むポンプである。フィードポンプ9は、逆止弁10を介して作動流体のTFE成分をTFEタンク11に送り込む。なお、このフィードポンプ9に代えて、凝縮器7と三方弁8との間にポンプを設けてもよい。
【0033】
TFEタンク11は、作動流体のTFE成分をランキンサイクル装置2から分離して貯留しておくためのタンクである。TFEタンク11では、例えばランキンサイクルが終了するまで作動流体のTFE成分を貯留する。
【0034】
戻り用バルブ12は、TFEタンク11と作動流体タンク3とを繋ぐパイプ上に設けられた電磁弁である。この戻り用バルブ12が開放されることで、TFEタンク11に貯留されたTFE成分が作動流体タンク3に流れ込み、残りの作動流体(水を主成分とする作動流体)と混合される。例えば、TFEタンク11は、作動流体タンク3よりも高い位置に設けられ、戻り用バルブ12の開放時に重力の影響でTFE成分が作動流体タンク3に流れ込む構成であってもよい。戻り用バルブ12は、特許請求の範囲に記載の戻り手段を構成する。
【0035】
戻り用バルブ12の開閉も制御部13によって制御されている。制御部13は、例えば、ランキンサイクルの終了時に戻り用バルブ12を開放して、作動流体タンク3内の作動流体にTFE成分を混合させる。これにより、ランキンサイクル後に温度が低下した作動流体が凍結することを抑制することができる。
【0036】
また、制御部13は、車外環境が温暖環境である場合には、作動流体のTFE成分を作動流体タンク3内に戻すことなく、TFEタンク11内に貯留し続けてもよい。温暖環境とは、TFE成分が蒸留され、水濃度の高い作動流体のままでも凍結しない環境を意味する。制御部13は、季節や車外の温度、現在地などに応じて、車外環境が温暖環境であると判定した場合、ランキンサイクルが終了しても作動流体のTFE成分を作動流体タンク3内に戻さない。この場合、水濃度の高いまま作動流体タンク3内に作動流体が貯留されるので、次のランキンサイクル開始時に作動流体からTFE成分を蒸留する必要がなく、熱効率の高いランキンサイクルを短時間で開始することができる。
【0037】
また、制御部13は、冬季である場合や、車外の気温が零下に近づいた場合など、水濃度の高い作動流体のままでは凍結のおそれがある場合、戻り用バルブ12を開放してTFE成分を戻すことで作動流体の凍結を回避する。制御部13は、車両の走行している国や地方、昼夜、時間帯も含めて、戻り用バルブ12の開閉を判定してもよい。
【0038】
更に、制御部13は、TFE成分を戻す際に、TFEタンク11内に貯留した全てのTFE成分を戻す必要はなく、凍結を回避するために適切な量だけを作動流体タンク3に戻してもよい。作動流体に混合しているTFE成分が少ないほど、運転初期の熱効率が上がり、蒸留の手間も少なくすることができる。
【0039】
次に、第1の実施形態に係るランキンサイクルシステム1の運転方法の一例について図4を参照して説明する。
【0040】
図4に示されるように、第1の実施形態に係るランキンサイクルシステム1では、エンジンの始動などによりランキンサイクルが開始されると、制御部13がメインポンプ4を駆動して作動流体タンク3内の作動流体が蒸留塔5に送り込まれ、作動流体の加熱が開始される(S1)。
【0041】
加熱が開始されると、作動流体におけるTFE成分の蒸留が行われる(S2)。具体的には、まず水より沸点の低いTFE成分が先に気化して膨張機6及び凝縮器7へと進む。制御部13は、TFE成分が矢印Nの方向(フィードポンプ9の方向)に流れるように三方弁8を制御すると共に、フィードポンプ9を駆動してTFE成分をTFEタンク11に送り込む。これにより、作動流体のTFE成分を水成分から分離して、ランキンサイクルを行う作動流体の水濃度を高めることができる。
【0042】
制御部13は、十分な量のTFE成分がTFEタンク11に貯留されると、残りの水を主成分とする作動流体が矢印Mの方向(作動流体タンク3の方向)に流れるように、三方弁8を切り替える。
【0043】
その後、制御部13は、ランキンサイクル装置2において、TFE成分の一部が蒸留により取り除かれた水濃度の高い作動流体によるランキンサイクルを行う(S3)。続いて、制御部13は、エンジン停止などの各種条件に基づいて、ランキンサイクルを終了するか否かを判定する(S4)。制御部13は、ランキンサイクルを終了しない場合はステップS3に戻ってランキンサイクルを繰り返す。
【0044】
制御部13は、ランキンサイクルを終了すると判定した場合、戻り用バルブ12を開放して、TFEタンク11内のTFE成分を作動流体タンク3へ戻し、残りの作動流体と混合させる(S5)。
【0045】
以上説明した第1の実施形態に係るランキンサイクルシステム1及びその運転方法によれば、水の凝固温度降下作用を有するTFEと水を混合した作動流体を用いているので、水のみを用いる場合と比べて、寒冷時における作動流体の凍結を抑制することができる。しかも、このランキンサイクルシステム1及びその運転方法によれば、水と沸点の異なるTFEを蒸留により作動流体から分離することで、水濃度が高く熱効率の高い作動流体によるランキンサイクルを行うことができる。従って、このランキンサイクルシステム1及びその運転方法によれば、作動流体の凍結を抑制しつつ、ランキンサイクルの熱効率を高めることができる。
【0046】
また、このランキンサイクルシステム1によれば、ランキンサイクル装置2の有する蒸留塔5を利用して作動流体を気化させるので、蒸留のために専用の加熱器を設ける場合と比べて、構成を簡素化することができる。このことは、ランキンサイクルシステムの小型化にも有利である。
【0047】
また、このランキンサイクルシステム1では、添加媒体として水より先に気化するTFEを用いたので、運転開始時に十分な量のTFE成分を捕集しやすい。なお、TFEに代えて、コスト的に有利なエタノールなどを用いることもできる。
【0048】
また、このランキンサイクルシステム1は、エンジン停止時にはランキンサイクルが行われず、作動流体が寒冷下に置かれることが想定される車両に搭載する場合に、凍結対策として有用である。なお、本発明に係るランキンサイクルシステムは必ずしも車両に搭載する必要はなく、その他の輸送機器(例えば船舶)に搭載したり定地用の設備として設けられてもよい。
【0049】
[第2の実施形態]
図5に示されるように、第2の実施形態に係るランキンサイクルシステム20は、第1の実施形態に係るランキンサイクルシステム1と比べて、ポンプの位置やバルブが追加されている点が異なっている。また、第2の実施形態に係るランキンサイクルシステム20は、作動流体を構成する添加媒体が水より高い沸点を持つ点が異なっている。すなわち、第2の実施形態に係る作動流体は、水より高い沸点を持ち、且つ、水の凝固温度低下作用を有する添加媒体と水を混合して構成されている。添加媒体としては、エチレングリコールやプロピレングリコールが挙げられる。
【0050】
第2の実施形態に係るランキンサイクルシステム20では、蒸留の手順が第1の実施形態と異なっている。このランキンサイクルシステム20では、添加媒体が水より高い沸点を持っているため、先に作動流体の水成分が気化し、後から添加媒体成分が気化する。このため、後から気化する添加媒体成分を蒸留により分離する必要がある。
【0051】
第2の実施形態に係るランキンサイクルシステム20の動作の一例について図6を参照して説明する。
【0052】
図5及び図6に示されるように、第2の実施形態に係るランキンサイクルシステム20では、ランキンサイクルの運転が開始されると、メインポンプ24の駆動により作動流体タンク22内の作動流体が蒸留塔25の下層へ送り込まれ、蒸留塔25内で作動流体の加熱が開始される(S11)。なお、作動流体タンク22とメインポンプ24との間にはバルブ23が設けられている。
【0053】
加熱が開始されると、作動流体における添加媒体成分の蒸留が行われる(S12)。このとき、作動流体に含まれる添加媒体は水よりも沸点が高いため、水成分が先に気化して蒸留塔25の上層の出口から送り出され、後から添加媒体成分が気化する。
【0054】
先に送り出された水成分(水を主成分とする作動流体)は、膨張機26で膨張し、凝縮器27で凝縮された後、フィードポンプ28によって三方弁29へと送られる。制御部34は、作動流体の水成分が矢印Mの方向(逆止弁30、すなわち作動流体タンク22の方向)に流れるように三方弁29を制御する。
【0055】
その後、制御部34は、三方弁29へ送られる作動流体の添加媒体成分が多くなると、添加媒体成分が矢印Nの方向(逆止弁31、すなわち添加媒体タンク32の方向)に流れるように三方弁29を制御する。制御部34は、廃熱の温度や蒸気圧などの各種条件に基づいて、適切なタイミングで三方弁29を切り替える。矢印Nの方向に流れた添加媒体成分は、逆止弁31を介して添加媒体タンク32に流れ込む。
【0056】
その後、制御部34は、作動流体の添加媒体成分が少なくなると、残りの水を主成分とした作動流体が矢印Mの方向に流れるように三方弁29を切り替える。これにより、添加媒体成分が分離され、水が主成分の作動流体による熱効率の高いランキンサイクルが行われる(S13)。
【0057】
続いて、制御部34は、エンジン停止などの各種条件に基づいて、ランキンサイクルを終了するか否かを判定する(S14)。制御部34は、ランキンサイクルを終了しない場合はステップS13に戻ってランキンサイクルを繰り返す。
【0058】
制御部34は、ランキンサイクルを終了すると判定した場合、戻り用バルブ33を開放して、添加媒体タンク32内の添加媒体成分を作動流体タンク22へ戻し、残りの作動流体と混合させる(S15)。
【0059】
以上説明した第2の実施形態に係るランキンサイクルシステム20によれば、第1の実施形態に係るランキンサイクルシステム1と同様に、作動流体の凍結を抑制しつつ、ランキンサイクルの熱効率を高めることができる。
【0060】
以上、本発明の好適な実施形態に付いて説明したが、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではない。
【0061】
例えば、第2の実施形態に係るランキンサイクルシステムは、水より沸点の低い添加媒体を用いた場合にも対応可能である。すなわち、水と沸点が異なる添加媒体であれば、蒸留により作動流体から分離して貯留しておくことができる。
【符号の説明】
【0062】
1,20…ランキンサイクルシステム 2,21…ランキンサイクル装置 3,22…作動流体タンク 4,24…メインポンプ 5,25…蒸留塔(蒸発器) 5a,25a…熱交換用パイプ 7a,27a…ファン 6,26…膨張機 7,27…凝縮器 8,29…三方弁 9,28…フィードポンプ 10,23,30,31…逆止弁 11…TFEタンク 12,33…戻り用バルブ 13,34…制御部 32…添加媒体タンク
図1
図2
図3
図4
図5
図6