特許第6085229号(P6085229)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6085229MnZnフェライトコアおよびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6085229
(24)【登録日】2017年2月3日
(45)【発行日】2017年2月22日
(54)【発明の名称】MnZnフェライトコアおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/34 20060101AFI20170213BHJP
   C04B 35/38 20060101ALI20170213BHJP
   C01G 49/00 20060101ALI20170213BHJP
   H01F 41/02 20060101ALI20170213BHJP
【FI】
   H01F1/34 140
   C04B35/38
   C01G49/00 B
   H01F41/02 D
【請求項の数】4
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-145635(P2013-145635)
(22)【出願日】2013年7月11日
(65)【公開番号】特開2014-123709(P2014-123709A)
(43)【公開日】2014年7月3日
【審査請求日】2015年6月11日
(31)【優先権主張番号】特願2012-254544(P2012-254544)
(32)【優先日】2012年11月20日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591067794
【氏名又は名称】JFEケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(72)【発明者】
【氏名】後藤 聡志
(72)【発明者】
【氏名】池田 幸司
【審査官】 池田 安希子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平04−328806(JP,A)
【文献】 特開平08−104563(JP,A)
【文献】 特開2002−134331(JP,A)
【文献】 特開平10−050512(JP,A)
【文献】 特開2001−093718(JP,A)
【文献】 特開平04−321522(JP,A)
【文献】 特開平04−336401(JP,A)
【文献】 特開2006−165479(JP,A)
【文献】 特開平05−070782(JP,A)
【文献】 特開2001−085217(JP,A)
【文献】 特開2010−047438(JP,A)
【文献】 特開平05−058721(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/34
C01G 49/00
C04B 35/38
H01F 41/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Fe2O3:52〜53モル%、
ZnO :20モル%超、23モル%未満
および残部MnO基本成分組成とし、
上記基本成分に対し、副成分としてさらに、
SiO2 :0.002〜0.010質量%、
CaO :0.005〜0.060質量%および
Nb2O5:0.005〜0.020質量%
ならびに不可避的不純物を含有する成分組成からなるMnZnフェライトコアであって、
上記不可避的不純物中、炭素の含有量を0.0050質量%以下に抑制したことを特徴とするMnZnフェライトコア。
【請求項2】
前記MnZnフェライトコアの実効断面積が90mm2以上であることを特徴とする請求項に記載のMnZnフェライトコア。
【請求項3】
23℃、1kHz〜100kHz における比初透磁率が10000以上で、かつ200kHzにおける比初透磁率が9000以上であることを特徴とする請求項またはに記載のMnZnフェライトコア。
【請求項4】
基本成分組成になるように酸化物原料を秤量し、混合したのち、仮焼し、ついで副成分を添加して混合し、さらに粉砕後、成形して得た成形品を、昇温し、焼成保持温度で焼成することにより請求項のいずれかに記載のMnZnフェライトコアを得るMnZnフェライトコアの製造方法において、
副成分としてのCaOは、炭素を含有しない形態のCa化合物として添加すると共に、
上記昇温に際し、400℃から焼成保持温度に達するまでの雰囲気中の酸素濃度を5体積%超、21体積%以下とすることを特徴とするMnZnフェライトコアの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、家電機器や電子機器などに搭載するノイズフィルタとして好適なMnZnフェライトコアおよびその製造方法に関し、特に実効断面積が90mm2以上の大型形状のMnZnフェライトコアとして好適なものである。
【背景技術】
【0002】
MnZnフェライトは、家電機器や電子機器などに搭載されるスイッチング電源トランスやノイズフィルタ、チョークコイルなどのコアとして使用されている。その中でも、ノイズフィルタに使用されるフェライトコアは、ノイズを除去したい周波数帯域でノイズ電流に対する大きなインピーダンスが要求されるため、より高周波数領域まで高い初透磁率(インピーダンスは初透磁率に比例する)が維持できることが望まれる。
【0003】
このようなMnZnフェライトの初透磁率の周波数特性は、結晶マトリックスであるスピネルを構成する成分であるFe2O3,ZnOおよびMnOの組成比と、結晶粒界近傍に存在することの多い微量成分とに依存するところが大きいことが明らかにされており、この見地から初透磁率の周波数特性を改善した例が報告されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、MnZn系フェライト中に、適量のBi2O3,CaOを添加することにより、100kHzでの初透磁率を8000〜9000程度にしたものが開示されている。
また、特許文献2および特許文献3には、MnZn系フェライトに、CaO,Bi2O3およびSiO2を適量添加することにより、初透磁率を、周波数100kHzにおいて5000以上、500kHzにおいて4000以上としたものが開示されている。
さらに、特許文献4、特許文献5、特許文献6および特許文献7には、MnZn系フェライトに、MoO3,Nb2O5,K2O,B2O3,P2O5,Sb2O3,V2O5等を適量組み合わせて添加することにより、周波数1kHzにおいて初透磁率が12000以上、150kHzにおいて初透磁率が12500以上のMnZnフェライトが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公昭51−49079号公報
【特許文献2】特開平7−211535号公報
【特許文献3】特開平7−211536号公報
【特許文献4】特開2009−152256号公報
【特許文献5】特開2009−196841号公報
【特許文献6】特開2009−286665号公報
【特許文献7】特開2010−47438号公報
【特許文献8】特開2001−93718号公報
【特許文献9】特開平4−257204号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のMnZnフェライトは、NiZnフェライトに比べると、結晶粒径を大きくすることで初透磁率を10000以上まで高くすることはできるものの、高初透磁率になるに従い、100kHz以下の比較的低周波数領域では磁気緩和や共鳴現象を起こして初透磁率が急激に低下するという問題があった。
【0007】
さらに、MnZnフェライトは、NiZnフェライトに比べると、比抵抗が低く、〜103Ωcm程度と半導体並みであることから、コア形状が大きくなると、渦電流損失が大きくなり、周波数特性がやはり低下するという問題があった。なお、この渦電流損失を低減するために添加物を増やすと、こんどは初透磁率の大きさが低下する問題が生じるため、一定量以上を添加することができず、その結果周波数特性がそれほど改善できない、という制約があった。
【0008】
そのため、上掲した特許文献1に開示されているMnZn系フェライトにおいては、100kHz付近までの比較的低周波数領域では、初透磁率の周波数特性を改善することができるものの、上に述べたようなコア形状による初透磁率の劣化については考慮が払われてなく、比較的大型のコア、例えば本発明で規定しているコアの実効断面積が90mm2を超えるような大型コアでは十分な改善効果が得られないという問題があった。
【0009】
また、上掲した特許文献2および特許文献3に開示されているMn-Zn系フェライトにおいても、コア形状による初透磁率の劣化については何ら記載されておらず、比較的大型コア、例えば本発明で規定しているコアの実効断面積が90mm2を超えるような大型コアでは十分な改善効果が得られないという問題がある。
【0010】
さらに、特許文献4〜7に開示されているMn-Zn系フェライトおいては、1kHz〜150kHzまでの周波数領域で初透磁率を増大させたコアが得られているが、いずれも実施例を見ると、コア形状は標準的な外径:25mm、内径:15mm、高さ:12mm(従って、JIS C 2516に基づく実効断面積は58.7mm2)だけの記載であり、本発明で規定しているコアの実効断面積が90mm2を超えるような大型コアでは十分な改善効果が得られないという問題があった。
【0011】
このように、従来は、ノイズフィルター等の用途において、大型コアで高い初透磁率を有するフェライトコアが存在せず、その開発が望まれていた。
【0012】
本発明は、上記の要請に有利に応えるもので、実効断面積が90mm2以上の大型形状のコアで、しかも1kHzの低周波領域から200kHzの周波数領域にわたって高インピーダンス(すなわち高い初透磁率)を得ることができるMnZnフェライトコアを、その有利な製造方法と共に提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
さて、発明者らは、上記の目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、MnZnフェライトコアの基本成分組成を厳密に制御した上で、フェライト中に残留する炭素を所定値以下に抑制することによって、所望の目的が達成されることの知見を得た。
本発明は、上記の知見に立脚するものである。
【0014】
なお、フェライト中の炭素の影響については、例えば特許文献8に、残留C量と抗析強度、さらにはコアロス、透磁率との関係について、特許文献9には、C量とコアロスとの関係について記載されているが、本発明のように、残留C量と、大型コアにおける比初透磁率の周波数特性との関係については考察されていなかった。
【0015】
すなわち、本発明の要旨構成は次のとおりである。
1.Fe2O3:52〜53モル%、
ZnO :20モル%超、23モル%未満
および残部がMnOである基本成分組成ならびに不可避的不純物からなるMnZnフェライトコアであって、
上記不可避的不純物中、炭素の含有量を0.0050質量%以下に抑制したことを特徴とするMnZnフェライトコア。
【0016】
2.前記MnZnフェライトコアの実効断面積が90mm2以上であることを特徴とする前記1に記載のMnZnフェライトコア。
【0017】
3.23℃、1kHz〜100kHz における比初透磁率が10000以上であることを特徴とする前記1または2に記載のMnZnフェライトコア。
【0018】
4.前記基本成分に対し、副成分としてさらに、
SiO2 :0.002〜0.010質量%、
CaO :0.005〜0.060質量%および
Nb2O5:0.005〜0.020質量%
を含有することを特徴とする前記1に記載のMnZnフェライトコア。
【0019】
5.前記MnZnフェライトコアの実効断面積が90mm2以上であることを特徴とする前記4に記載のMnZnフェライトコア。
【0020】
6.23℃、1kHz〜100kHz における比初透磁率が10000以上で、かつ200kHzにおける比初透磁率が9000以上であることを特徴とする前記4または5に記載のMnZnフェライトコア。
【0021】
7.基本成分組成になるように酸化物原料を秤量し、混合したのち、仮焼し、ついで粉砕後、成形して得た成形品を、昇温し、焼成保持温度で焼成することにより前記1〜3のいずれかに記載のMnZnフェライトコアを得るMnZnフェライトコアの製造方法において、
上記昇温に際し、400℃から焼成保持温度に達するまでの雰囲気中の酸素濃度を5体積%超、21体積%以下とすることを特徴とするMnZnフェライトコアの製造方法。
【0022】
8.基本成分組成になるように酸化物原料を秤量し、混合したのち、仮焼し、ついで副成分を添加して混合し、さらに粉砕後、成形して得た成形品を、昇温し、焼成保持温度で焼成することにより前記4〜6のいずれかに記載のMnZnフェライトコアを得るMnZnフェライトコアの製造方法において、
副成分としてのCaOは、炭素を含有しない形態のCa化合物として添加すると共に、
上記昇温に際し、400℃から焼成保持温度に達するまでの雰囲気中の酸素濃度を5体積%超、21体積%以下とすることを特徴とするMnZnフェライトコアの製造方法。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、リング形状コアの実効断面積が90mm2以上という大型形状のMnZnフェライトコアとした場合においても、1kHzの低周波数領域から100kHzさらには200kHzの周波数領域にわたって、ノイズフィルタなどに使用するのに適した高透磁率のMnZn系フェライトコアを得ることができる。
そして、本発明のMnZnフェライトコアは、前記の構成とすることにより、従来のMnZnフェライトコアでは不可能であった、コアの実効断面積が90mm2以上の大型形状コアにおいて、1kHz〜100kHzの周波数領域における比初透磁率が10000以上で、しかも200kHzの周波数領域における比初透磁率が9000以上という優れた周波数特性を有し、ノイズフィルタのうち,特に商用電源ラインから流出入するノイズを除去するラインフィルター用の磁心として適している。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を具体的に説明する。
本発明において、MnZnフェライトの組成は限定される。
まず、本発明の基本組成について説明する。
Fe2O3:52〜53モル%
基本成分のうち、Fe2O3量が少ない場合には、比初透磁率がピークをもつ温度が100℃以上の高温側となり、その結果室温での比初透磁率が劣化する。そのため、最低でも52モル%のFe2O3を含有させるものとした。一方、Fe2O3量が多すぎる場合には、反対に比初透磁率がピークをもつ温度が零度以下の低温側となり、やはりで室温での比初透磁率の劣化が避けられないため、上限を53モル%とした。
【0025】
ZnO:20モル%超、23モル%未満
上記したFe2O3量との組み合わせで、ZnOが少ない場合には、比初透磁率がピークをもつ温度が100℃以上の高温側となり、その結果室温での比初透磁率が劣化する。そのため、最低でも20モル%超のZnOを含有させる必要がある。一方、ZnO量が多すぎる場合には、キュリー温度が通常要求される120℃よりも低下し100℃以下になってくるため、23モル%未満とした。好ましくは20モル%超、22.5モル%未満、より好ましくは21〜22モル%の範囲である。
【0026】
MnO:残部
本発明は、MnZnフェライトであるので、主成分であるFe2O3とZnOの残部はMnOでなければならない。というのは、MnOでなければ、上記Fe2O3とZnOとの組み合わせで高い比初透磁率を実現できないからである。好ましいMnO量は24〜28モル%の範囲である。
なお、Fe2O3とZnOとMnOの合計は100モル%である。
【0027】
また、本発明では、上記した基本成分からなるMnZnフェライトにおいて、不可避的に混入する炭素(C)の比初透磁率に及ぼす影響について検討し、比初透磁率の観点から規制すべき炭素量を究明した。
C:0.0050質量%以下
不純物である炭素は、MnZnフェライトの製造工程において不可避的に混入し、焼成後も残留Cとしてコア内に含まれる。この残留C量と比初透磁率との関係については、従来、知見はなかった。
そこで、発明者らは、この点に関し鋭意検討を重ねた結果、C量を0.0050質量%以下に抑制すれば、コアの実効断面積が90mm2以上の大型形状のMnZnフェライトコアにおいても、1kHz〜100kHz、さらには200kHzの周波数領域において比初透磁率の改善に効果があるとの新規知見を得たのである。
【0028】
残留C量が比初透磁率に影響する理由については、まだ十分に解明できてはいないが、Cが結晶粒内にあれば磁壁移動の妨げとなって比初透磁率を低下させることが考えられ、また結晶粒界に偏折すると導電性付与の核となり、高周波領域においてさらには形状の大きいコアにおいて比抵抗を減少させて、比初透磁率の周波数特性を劣化させることが推定される。
【0029】
ところで、MnZnフェライトの製造工程で混入するCとしては、
(1) Fe2O3,MnO,ZnOの主原料に含有されるC、
(2) 副原料の各種添加物に含有されるC、
(3) 粉砕時に使用する鋼鉄製の容器や粉砕ビーズに含有されるC、
(4) 造粒時に混合されるバインダーである有機物のPVA(ポリビニルアルコール)
が挙げられる。
【0030】
このうち、(4)の最後に添加されるPVAは、フェライト粒子の外側に接触している状態なので、焼成昇温途中で分解・燃焼してコア外部にほとんどが排出されるため、この段階で完全に燃焼する条件とすれば、フェライトへの混入を阻止することができる。(1)の主原料に含まれるCや(3)の粉砕装置から混入するCは、混入量は多いもののやはり大部分は仮焼や焼成工程で燃焼して外部に排出される。
従って、混入するCが、(1)、(3)、(4)だけであれば、焼成条件を適切に制御すれば残留C量を低減できることが判明した。
【0031】
しかしながら、(2)のうち特にCaOの添加に際し、Cを含有するCaCO3の形態で添加した場合、CaCO3は焼成工程で分解され排出されるが、分解により生成したCが結晶粒内あるいは粒界に残留することが多く、このため、最終的な残留Cが増加するということが新たに知見された。
そこで、CaOの添加を、一般的に行われているCaCO3という炭酸化物の形態ではなく、Cを含まないCaOという酸化物の形態で添加したところ、残留C量を比初透磁率に悪影響を及ぼさない0.0050質量%以下まで抑制できることが判明したのである。
より好ましい残留C量は0.0047質量%以下である。
【0032】
なお、不純物としては、上記したCの他、塩素(Cl)、硫黄(S)等が挙げられるが、これらは混入量が合計で0.01質量%以下であれば、特性上、何ら問題はない。
【0033】
次に、上記した基本成分からなるMnZnフェライトに添加する副成分について説明する。
SiO2:0.002〜0.010質量%
SiO2は、フェライトの結晶組織の均一化に寄与することが知られており、添加に伴い結晶粒内に残留する空孔を減少させることから、適量の添加によって初めて高い比初透磁率を実現させることができる。そのため、最低でもSiO2を0.002質量%含有させることとする。しかし、添加量過多の場合には反対に異常粒が出現し、比初透磁率の周波数特性を著しく低下させることから、SiO2は0.010質量%以下に制限する必要がある。
【0034】
CaO:0.005〜0.060質量%
CaOは、MnZnフェライトの結晶粒界に偏析することが知られており、この粒界への偏析によって結晶の高抵抗化が図られ、また適量の添加によって比初透磁率の周波数特性が改善されることから、最低でもCaOを0.005質量%含有させることとする。しかし、添加量過多の場合には不純物相が増大し、低周波領域で高い比初透磁率を得ることが困難になることから、CaOは0.060質量%以下に制限する必要がある。
【0035】
Nb2O5:0.005〜0.020質量%
Nb2O5は、上記したSiO2,CaOとの共存下で、比抵抗の増大に有効に寄与し比初透磁率の周波数特性の改善に寄与するが、含有量が0.005質量%に満たないとその添加効果に乏しく、一方0.020質量%を超えると低周波領域で高い比初透磁率を得ることが困難になることから、Nb2O5は0.005〜0.020質量%の範囲で添加することが好ましい。
【0036】
次に、本発明の製造方法について説明する。
本発明のMnZnフェライトコアは、通常、各粉末原料を所定の最終組成になるように秤量し、混合したのち、仮焼し、ついで副成分を添加する場合には、得られたフェライト仮焼粉に副成分を添加して混合したのち、粉砕し、ついで造粒後、圧縮成形したのち、焼成することにより製造される。
上記したような製造方法において、本発明は、特に焼成工程で昇温途中の400℃から焼成保持温度に達するまでの焼成雰囲気について、雰囲気中の酸素濃度を5体積%超から大気である21体積%以下にして焼成する点に特徴がある。
【0037】
焼成開始から400℃までの温度域で、添加されたPVAはほぼ分解・燃焼する。その後、焼成保持温度に達するまでの酸素濃度を低減すると結晶粒成長が急激に進み、その結果高い比初透磁率が得られる。しかしながら、400℃から焼成保持温度までの酸素濃度をあまり低くすると、今度は、先に述べたように各工程で混入したCが十分に燃焼・分解されず結晶内に取り込まれるため、残留C量が低減せず、かえって比初透磁率の改善効果を阻害することになる。
【0038】
そこで、この問題を解決すべく種々検討した結果、昇温途中の400℃から焼成保持温度に達するまで焼成雰囲気中の酸素濃度を5体積%超から21体積%以下の範囲に制御してやれば、粒成長と残留C量のバランスがとれ、コアの実効断面積が90mm2以上の大型の焼結体においても、1kHz〜200kHzの周波数領域で高い比初透磁率を実現できることを見出した。
なお、酸素濃度を大気中を超える高濃度にするにはコスト面で大きな問題があるので、酸素濃度の上限は大気中酸素濃度である21体積%とした。
また、上記した結晶粒成長という点では、昇温途中の400℃から焼成保持温度に達するまで焼成雰囲気中の酸素濃度は低い方が有利である。ここに、ローラーハース炉のようなガス加熱方式を使用できる焼成炉では、コスト上昇を伴わずに、酸素濃度を18体積%以下とすることが可能なため、酸素濃度の好適な上限は18体積%である。
【0039】
焼成に際しては、焼成保持温度は1300〜1400℃、好ましくは1340〜1375℃とすることが望ましい。また、焼成時間は1〜5時間が好適である。さらに、雰囲気中の酸素濃度は12体積%以下とすることが好ましい。
さらに、焼成保持温度までの昇温速度については、特に制限はないが、150℃/h以上の速度で昇温することが好ましい。
【実施例】
【0040】
以下に、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
最終基本組成がFe2O3:52.5モル%、ZnO:22モル%、残部:MnOとなるように、各粉末原料を秤量し、混合したのち、925℃で3時間仮焼した。この仮焼体を、ボールミルで8時間粉砕したのち、焼成後に外径:31mm、内径:19mm、高さ:7mmのリング状(実効断面積:42mm2)または外径:51mm、内径:31mm、高さ:13mmのリング状(実効断面積:127mm2)となるよう成形し、ついで大気中で400℃まで250℃/hで昇温し、400℃から焼成保持温度:1370℃までを、表1に示す種々の酸素濃度雰囲気下で、昇温速度:600℃/hで昇温した。その後、焼成保持温度:1370℃に達してからは、酸素濃度を10体積%以下に制御して3時間焼成した。
得られた焼結体の残留C量と1kHzおよび100kHzでの比初透磁率μir(=初透磁率μi/真空の透磁率μ0)について調べた結果を、それぞれ表1に示す。
【0041】
なお、残留C量および比初透磁率μirはそれぞれ、次のようにして測定した。
・残留C量
試料を酸素気流中で燃焼させ、発生したCO2ガスを赤外線検出器により検出し、炭素量に換算する、高周波燃焼式・赤外線吸収法で測定した。
・比初透磁率μir
リング状試料に10ターンの巻線を施し、インピーダンスアナライザにより0.5mA程度の電流を流したときのインダクタンスから、リング試料の断面積、磁路長、巻数を用いて初透磁率に換算して測定した。
【0042】
【表1】
【0043】
表1に示したとおり、昇温途中の400℃から焼成保持温度に達するまで焼成雰囲気中の酸素濃度を5体積%超から21体積%の範囲に制御することによって、残留C量を0.0050質量%以下まで低減することができ、その結果、1kHz、100kHz におけるそれぞれの比初透磁率が10000以上の周波数特性に優れたフェライトコアを得ることができた。
したがって、かかるフェライトコアをノイズフィルタに搭載すれば、たとえ実効断面積が127mm2と大きなコアの場合でも、比初透磁率の低下が小さいので、優れたフィルタ特性を発揮することができる。
【0044】
(実施例2)
最終基本組成がFe2O3:52.5モル%、ZnO:22モル%、残部:MnOとなるように、各粉末原料を秤量し、混合したのち、925℃で3時間仮焼した。この仮焼体に対し、副成分として最終組成がSiO2:0.002質量%、CaO:0.030質量%およびNb2O5:0.010質量%となるように添加し、ボールミルで8時間粉砕したのち、焼成後に表2に示す種々の外径、内径、高さを持ち実効断面積が種々に異なるリング状のコアに成形し、ついで大気中で400℃まで昇温速度:250℃/hで昇温し、400℃から焼成保持温度:1370℃までを酸素濃度:15体積%、昇温速度:600℃/hで昇温した。その後、保持温度:1370℃に達してからは、酸素濃度を5体積%以下に制御して3時間焼成した。
得られた焼結体の残留C量と1kHz、100kHz、200kHzでの比初透磁率μirについて調べた結果を、表2に併記する。
表2において、本発明の範囲内のものは発明例、また範囲外のものは比較例としている。なお、添加物のうちCaOについては、発明例では酸化物であるCaOの形態で添加したが、比較例として炭酸化物であるCaCO3の形態で添加した例も併記した。
【0045】
【表2】
【0046】
表2から明らかなように、CaO成分を酸化物であるCaOの形態で添加し、昇温途中の400℃から焼成保持温度に達するまでの焼成雰囲気中の酸素濃度を適正に制御した場合は、残留C量を0.0050質量%以下に制御することができ、その時の1kHz、100kHzにおける比初透磁率はいずれも10000以上で、さらに200kHzにおける比初透磁率は9000以上という、周波数特性に優れたフェライトコアを得ることができた。
したがって、かかるフェライトコアをノイズフィルタに搭載すれば、さらに優れたフィルタ特性を発揮することができる。
【0047】
(実施例3)
最終基本組成が表3,4に示す種々の基本組成となるように、各粉末原料を秤量し、混合したのち、950℃で3時間仮焼した。この仮焼体に対し、副成分として最終組成が表3,4に示す組成となるように各種微量添加物を添加し、ボールミルで8時間粉砕したのち、焼成後に外径:31mm、内径:19mm、高さ:7mmのリング状(実効断面積:42mm2)または外径:51mm、内径:31mm、高さ:13mmのリング状(実効断面積:127mm2)となるよう成形し、ついで大気中で400℃まで昇温速度:250℃/hで昇温し、400℃から焼成保持温度:1370℃までは酸素濃度:15体積%で、昇温速度:600℃/hで昇温した。その後、保持温度:1370℃に達してからは、酸素濃度を5体積%以下に制御して3時間焼成した。
得られた焼結体の残留C量と1kHz、100kHz、200kHzでの比初透磁率μirについて調べた結果を、それぞれ表3,4に併記する。なお、添加物のうちCaOは、発明例では酸化物であるCaOの形態で添加したが、比較例として炭酸化物であるCaCO3の形態で添加した例も併記した。
【0048】
【表3】
【0049】
【表4】
【0050】
表3,4から明らかなように、CaO成分を酸化物であるCaOの形態で他の添加物と共に添加した場合には残留C量を0.0050質量%以下に制御することができ、その時の1kHz、100kHzにおける比初透磁率はいずれも10000以上で、さらに200kHzにおける比初透磁率については9000以上という、周波数特性に優れたフェライトコアを得ることができた。特に実効断面積が127mm2と大きなコアの場合でも、比初透磁率の低下を小さく抑制することができた。
【0051】
(実施例4)
最終基本組成が表5に示す種々の基本組成となるように、各粉末原料を秤量し、混合したのち、950℃で3時間仮焼した。この仮焼体に、同じく表5に示す各種微量添加物を添加し、ボールミルで8時間粉砕したのち、焼成後に外径:31mm、内径:19mm、高さ:7mmのリング状(実効断面積:42mm2)または外径:51mm、内径:31mm、高さ:13mmのリング状(実効断面積:127mm2)となるように成形し、ついで大気中で400℃まで昇温速度:250℃/hで昇温し、400℃から焼成保持温度1370℃までは表に示す酸素濃度で、昇温速度:600℃/hで昇温した。その後、保持温度:1370℃に達してからは、酸素濃度を8体積%以下に制御して2時間焼成した。
得られた焼結体の残留C量と1kHz、100kHz、200kHzでの比初透磁率μirについて調べた結果を、それぞれ表5に併記する。
【0052】
【表5】
【0053】
表5から明らかなように、昇温途中の400℃から焼成保持温度に達するまで焼成雰囲気中の酸素濃度を5体積%超から21体積%の範囲に制御すると共に、CaO成分を酸化物であるCaOの形態で添加して、残留C量を0.0050質量%以下まで低減することにより、実効断面積が42mm2の場合には、1kHz、100kHzそれぞれにおける比初透磁率が12000以上で、かつ200kHzにおける比初透磁率が10000以上という極めて優れた周波数特性のフェライトコアが、また実効断面積が127mm2の場合でも、1kHz、100kHzにおける比初透磁率が10000以上で、かつ200kHzにおける比初透磁率が9000以上という優れた周波数特性のフェライトコアが得られている。
【0054】
(実施例5)
最終基本組成が表6に示す種々の基本組成となるように、各粉末原料を秤量し、混合したのち、950℃で3時間仮焼した。この仮焼体に、同じく表6に示す各種微量添加物を添加し、ボールミルで8時間粉砕したのち、焼成後に外径:31mm、内径:19mm、高さ:7mmのリング状(実効断面積:42mm2)または外径:51mm、内径:31mm、高さ:13mmのリング状(実効断面積:127mm2)となるように成形し、ついで大気中で400℃まで昇温速度:250℃/hで昇温し、400℃から800℃までは酸素濃度:3体積%、800℃超から焼成保持温度:1370℃までは酸素濃度:6体積%で、昇温速度:600℃/hで昇温した。その後、保持温度:1370℃に達してからは、酸素濃度を8体積%以下に制御して2時間焼成した。
得られた焼結体の残留C量と1kHz、100kHz、200kHzでの比初透磁率μirについて調べた結果を、それぞれ表6に併記する。
【0055】
【表6】
【0056】
表6から明らかなように、400℃から焼成保持温度までの温度域の一部にでも、焼成雰囲気中の酸素濃度が5体積%超という条件を満足しない温度域が存在した場合には、フェライト中の残留C濃度を0.0050質量%以下まで低減することができず、その結果、実効断面積が42mm2の場合には、1kHz、100kHzにおける比初透磁率が12000未満で、かつ200kHzにおける比初透磁率が9000未満、また実効断面積が127mm2の場合には、1kHz、100kHzにおける比初透磁率が10000未満で、かつ200kHzにおける比初透磁率が8000未満という、低い周波数特性しか得られなかった。