(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ポリカルボン酸が、コハク酸、クエン酸、フマル酸、イタコン酸、アジピン酸、マレイン酸、2,5−フランジカルボン酸、マンデル酸、リンゴ酸、及び酒石酸の群から選ばれる、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
該溶解したハライド塩中に存在するカチオンが、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、ナトリウムイオン及びカリウムイオンからなる群から選ばれる1以上である、請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ポリカルボン酸について、特定の問題が生じる。ポリ酸は一般に、水における低い溶解度を有する。一方で、これは、ポリ酸の大部分が、沈殿又は結晶化のような方法を用いて比較的容易に水から除去されうる。他方で、これは、薄い酸溶液の形成を結果し、当該酸溶液から、ポリ酸を除去することが、経済的な理由の故に及びHSEの理由の故に、なお望ましい。結晶化又は沈殿によっても最後の画分群を除去することも可能である一方で、これは、複数の段階の操作を含み、これは高価な装置及び操作条件を要求する。それ故に、効率的な除去と比較的低いコストの操作を合同させる、水性溶液からポリカルボン酸を除去する為の方法についてのニーズがある。
【0005】
国際公開第95/03268号パンフレットは、3〜8の炭素原子から成るモノ−、ジ−、及びトリカルボン酸を包含する有機酸を発酵ブロスから回収する方法を記載している。上記回収は、ブロスを浄化してその中の不純物の少なくとも実質的な部分を除去して浄化された供給物を製造すること、上記浄化された供給物のpHを約1.0〜約4.5に低下させるのに有効な量の鉱酸を添加することにより上記供給物を酸性化して、MHSO
4、M
2SO
4、M
3PO
4、M
2HPO
4、MH
2PO
4およびMNO
3(MはNa、NH
4およびKから成る群から選択される)から成る群から選択される少なくとも1の電解質に関して実質的に飽和された酸性化供給物を製造すること、(a)水、(b)供給物のpHを約1.0〜約4.5に維持するために有効な量の鉱酸、および(c)水と限られた混和性を有する酸素化溶媒を含む抽出混合物で上記酸性化供給物を抽出することによって行われる。上記抽出は、溶媒抽出物および第一ラフィネートを生じる。溶媒抽出物は、水性液体による逆抽出に付され、それによって、有機酸に富む水性抽出物および有機酸に乏しい溶媒ラフィネートを生じる。
【0006】
抽出そして次の逆抽出の順序による問題は、希薄液体の形成である。一般に、ある化合物が有機液体を使用して水から抽出され、次いで水を使用して有機液体から抽出されるとき、生成した水性液体中の上記化合物の濃度が、出発水性液体中よりも低い。これはもちろん不利である。なぜならば、希薄液体が生じ、これは更なる濃縮を必要とするからである。これは、比較的不溶性のポリ酸の場合におけるように、上記出発液体が比較的低い酸濃度を既に有している場合に、特に重要である。それ故に、ポリ酸の濃度が比較的低い場合でさえ、より希薄な酸溶液を形成すること無く、塩溶液からポリカルボン酸の分離を許す、ポリカルボン酸についての抽出/逆抽出方法についてのニーズが当技術分野においてある。本発明は、そのような方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、水性混合物からポリカルボン酸を回収する方法に向けられる。上記方法は、下記工程:
a)ポリカルボン酸および、水性混合物中の水および溶解した物質の合計重量に基づいて5〜30重量%の溶解したハライド塩を含む水性混合物を用意すること、
b)上記水性混合物から、ケトン及びエーテルから成る群から選択される有機溶媒を少なくとも90重量%含む第一有機液体中へと該ポリカルボン酸を抽出し、それによって、ポリカルボン酸有機溶液および、該ハライド塩を含む水性廃液を得ること、そして
c)上記ポリカルボン酸有機溶液から水性液体中へと該ポリカルボン酸を抽出し、それによってポリカルボン酸水性溶液および第二有機液体を得ること
を含
み、
前記ポリカルボン酸が、少なくとも2であるが6より多くない炭素原子を有するジ−又はトリ−カルボン酸である。
【0008】
中国特許出願公開第101979368号明細書は、塩を含む溶液からの酸の抽出を記載していることが注目される。抽出剤は、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、アセトン、エチレングリコール、ジエチルエーテル、酢酸メチルまたは酢酸エチルである。
【0009】
特開平8−337552号公報は、酸塩を酸へ転化し、次に、酸素化飽和ヘテロ環式溶媒によって抽出が行なわれることを記載する。
【0010】
上記文献はいずれも、逆抽出プロセスを開示していない。したがって、これらの文献は関係ない。
【発明の効果】
【0011】
本発明に従う方法は、特定のカルボン酸、すなわちポリカルボン酸、を特定の塩、すなわちハライド塩と組み合わせて、特定の量、すなわち少なくとも5重量%の溶解したハライド塩の量で使用することを特徴とし、順抽出および逆抽出の後に得られる水性溶液中の該カルボン酸の濃度が抽出前の水性混合物中のものよりも高いところの方法をもたらすことが見出された。この濃縮効果は、例えば、逆抽出後に得られたカルボン酸水性溶液が濃縮されるべきときに有利である。この場合には、あるカルボン酸濃度を得るためにより少ない水を蒸発させればよく、それにより、エネルギーコストが節約される。さらに、本発明に従う方法において得られる生成物は高い純度を有する。本発明の他の利点は、以下の記載から明らかになるであろう。
【0012】
理論に縛られることを望まないが、下記効果の1以上が、本発明に従う抽出法において生じ得ると考えられる。
【0013】
それは、水性混合物中のハライド塩の存在が、水性混合物から第一有機液体への該カルボン酸の抽出を高め得ることでありうる。これは、上述した濃縮効果に寄与するであろう。
【0014】
第二に、それは、溶解したハライド塩が、水中の有機溶媒の溶解度を低下させ得ることでありうる。特に、溶解したハライド塩のより高い濃度では、ケトンに基づくより少ない溶媒(例えばMIBKなど)が該水性混合物中に溶解し得る。この効果は、より高い温度、特に20〜100℃の温度範囲でより強力であり得る。したがって、順抽出および/または逆抽出が好ましくは、少なくとも25℃の温度で、好ましくは少なくとも30℃、より好ましくは少なくとも40℃の温度で行われる。この効果は、ケトンおよびエーテル全般に対して当てはまると考えられる。水中の有機液体のより低い溶解度は、順抽出および逆抽出の両方において、より高い純度を有する流れおよびより少ない溶媒損失を結果し、すなわち、より効率的な方法をもたらし得るであろう。これに対して、アルコール中の水の溶解度および水中のアルコールの溶解度は、温度を25〜100℃の範囲に高めると、増加する。
【0015】
第三に、抽出中の有機溶媒における水の溶解度はまた、溶解したハライド塩の存在により低下し得る。
【0016】
第四に、溶解したハライド塩は、エマルジョンの形成を抑制し、それによって、水性液体と有機液体との間の相分離を高め得ることが分かった。これは、水性混合物が微量のバイオマスを含むときに特に有利である。発酵プロセスに由来するバイオマスは典型的には、界面活性剤として作用し得る化合物を含む。その結果、バイオマスを含む水性混合物が有機溶媒と接触されると、典型的には、エマルジョンが形成されるであろう。そのようなエマルジョンの形成は望ましくない。なぜならば、それは、抽出プロセスおよび相分離を妨害し得るからである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の更なる好ましい実施態様が下記に記載される。
【0020】
図1は、本発明の実施態様の模式図である。
図1において、(1)は水性出発混合物であり、それは、抽出反応器(2)へ供給されると、そこで有機液体(3)と接触される。流れ(4)は有機液体中にカルボン酸を含み、抽出反応器(2)から抜き出される。水性廃液(5)も抽出反応器(2)から抜き出される。有機液体中にカルボン酸を含む流れ(4)は、逆抽出反応器(6)に供給され、そこで、ライン(7)を通って供給される水性液体と接触される。生成したカルボン酸水性溶液は、ライン(8)を通って抜き出される。有機液体はライン(9)を通って抜き出され、そして、任意的に中間の精製工程(図示せず)の後に、ライン(3)を通って抽出反応器(2)へ再循環される。
【0021】
本明細書で使用される用語「抽出」は、液−液抽出を意味し、これは溶媒抽出としても知られる。溶媒抽出は、2の異なる液体におけるある化合物の溶解度の違いに基づく抽出法である。すなわち、本発明の場合には、水(水性混合物および水性液体に存在する)におけるカルボン酸の溶解度対有機溶媒(有機液体中に存在する)におけるカルボン酸の溶解度である。順抽出は、抽出されるべき化合物が水性混合物から有機液体へと抽出されるプロセスである。逆抽出は、抽出されるべき化合物が有機液体から水性液体へと抽出されるプロセスである。
【0022】
本明細書で使用される用語「溶解度」は、ある化合物が、ある一定温度で、ある一定量の水性混合物中に溶解され得る最大重量を意味する。
【0023】
本発明の方法において使用される順抽出および逆抽出は、種々温度での水および有機溶媒におけるカルボン酸の溶解度の違いに基づく。ある化合物の1の溶媒における、別の溶媒に対する溶解度は、分配比(DR)によって表わされ得る。この比は、化合物が、平衡な2相系において、水性相(例えば水性混合物)および有機相(例えば有機液体)においてどのように分配されるかの目安を与える。分配比は、2相が互いに平衡であるとして、水に溶解されたカルボン酸の濃度([カルボン酸]
水)に対する有機相に溶解されたカルボン酸濃度([カルボン酸]
有機)の比として定義され得る。
【0024】
式(1)から、分配比が高いほど、より多くのカルボン酸が有機相に溶解すると結論付けられ得る。
【0025】
分配比は、多くの変数、例えば温度ならびに有機相および水相の特定の組成に依存する。例えば、水性混合物中の溶解したハライド塩の濃度および使用された溶媒の種類は、分配比に影響する。順抽出の際、カルボン酸は好ましくは、水中よりも有機溶媒中により溶解すべきである。その結果、順抽出での分配比はできるだけ高くあるべきである。特に、順抽出の際の高い分配比は望ましい。なぜならば、廃液になおも存在するカルボン酸が、この廃液が再生され得ずおよび/または上記方法に再び戻って再利用され得ず、または他の目的に使用されずそして廃棄されるべきであるとき、カルボン酸の合計収率の低下を直接もたらすからである。順抽出中の分配比が高い場合には、比較的少ないカルボン酸が失われるであろう。なぜならば、カルボン酸の多くが有機液体中に溶解されているからである。順抽出におけるDRはD
FEとしても示され、これは、少なくとも0.1、より特に少なくとも0.4、さらにより特に少なくとも0.8であるのが好ましい。
【0026】
逆抽出の際には上記の反対が当てはまる。カルボン酸は好ましくは、有機液体においてよりも水性相においてより溶解すべきである。逆抽出におけるDRはD
BEとしても示され、これは、高々0.5、より特に高々0.3、さらにより特に高々0.1であるのが好ましい。
【0027】
順抽出のための分配比が逆抽出のための分配比よりも高いならば、これは、逆抽出後に得られるカルボン酸水性溶液が、順抽出における出発物質として使用される水性混合物よりも高いカルボン酸濃度を有するところの濃縮効果に寄与するであろう。D
FEとD
BEとの間の比が、少なくとも1.1、より好ましくは少なくとも2であるのが好ましい。D
FEとD
BEとの間の比は一般に、10以下である。
【0028】
本発明の方法は、ポリカルボン酸および溶解したハライド塩を含む水性混合物を用意する工程を含む。水性混合物は、有機液体で抽出されるべき混合物である。水性混合物は好ましくは水性溶液である。なぜならば、固形物が存在しないとき、抽出がより容易に行われ得るからである。そのような溶液は、水性供給溶液と言われうる。にもかかわらず、水性混合物における固形物の存在は、使用される装置に依存して、ある程度まで可能であり、これは当業者に明らかであろう。すなわち、水性混合物はまた、懸濁物であり得る。そのような懸濁物に存在し得る固形物の例は、固体形態のカルボン酸、溶解していないハライド塩および不溶性不純物である。
【0029】
水性混合物はポリカルボン酸を含み、これは本明細書内においてしばしばカルボン酸と短縮される。一つの実施態様において、該ポリカルボン酸は、少なくとも2であるが、6以下の炭素原子を含むジ−又はトリ−カルボン酸(C2〜6カルボン酸)である。一つの実施態様において、該ポリカルボン酸は、コハク酸、クエン酸、フマル酸、イタコン酸、アジピン酸、マレイン酸、2,5−フランジカルボン酸、マンデル酸、リンゴ酸、及び酒石酸からなる群から選ばれる。好ましくは、該ポリカルボン酸は、コハク酸、クエン酸、フマル酸、イタコン酸、アジピン酸、及び2,5−フランジカルボン酸からなる群から選ばれる。該ポリカルボン酸は特には、コハク酸、フマル酸、イタコン酸、及び2,5−フランジカルボン酸から選ばれうる。
【0030】
該水性混合物中に存在するカルボン酸含有割合は好ましくはできる限り高い。一般に、該カルボン酸含有割合は、該水性混合物中の該酸の溶解度によって制限される。該水性混合物は、カルボン酸を固形で含んでよいが、好ましくは固形分は、できる限り低く、というのも固形物は、より困難な抽出及び相分離を作り得るからである。固形物を取り扱うことができる市販入手可能な抽出装置の種類を決定することは当業者の範囲内である。従って、該水性混合物中の該カルボン酸含有割合はより高くてよいが、好ましくは該水性混合物中の該カルボン酸の溶解度と等しく又はそれよりも低い。好ましくは、該水性混合物中に存在する該カルボン酸の99重量%超が溶解した形にある。一つの実施態様において、酸の量は、抽出条件下の塩含有水性混合物中に溶解されうる酸の最大量の少なくとも50%であり、特には少なくとも70%である。
【0031】
1実施態様では、水性混合物が2以下のpH、典型的には1より低いpH、例えば0〜1のpHを有する。該カルボン酸が酸性の形態で上記混合物中に存在することを確実にして抽出を可能にするために、上記pHが比較的低いのが好ましい。
【0032】
水性混合物は不純物、特に発酵プロセス由来の不純物をさらに含み得る。そのような不純物は、上記水性混合物に可溶性または不溶性であり得る。溶解した不純物の例は、糖、タンパク質および塩である。不溶性バイオマス(例えば微生物)および不溶性塩は、不溶性不純物の例である。これらの不純物は全て、典型的には、発酵ブロスに存在し得る。水性混合物を得る方法に関するより詳細を以下に示す。
【0033】
上記水性混合物は、少なくとも5重量%の溶解したハライド塩を含む。本明細書で使用されるときに、溶解したハライド塩は、水中での溶解した状態の、すなわち溶媒和イオンの形のハライド塩をいう。該溶解したハライド塩は、ポリカルボン塩がハロゲン酸と反応されるところの酸性化反応に由来し得る。該溶解したハライド塩はまた、ハライド塩を水性混合物に添加してその溶解したハライド塩濃度を増加させることに由来し得る。もちろん、組合せも可能である。
【0034】
溶解した塩の量に関して、以下が注目される。上記で記載された効果は、より多い量の溶解したハライド塩が該水性混合物中に存在する場合に、より顕著である。この理由の故に、比較的高い塩濃度を用いることが好まれうる。他方で、多量の塩の存在は、該混合物中の該酸の溶解度を、意味のある抽出が行われえないような低い値に低下しうる。それ故に、一般に、30重量%超の塩濃度は望ましくない。該酸の量及び性質によって並びに該塩の性質によって、塩の量は、少なくとも8重量%、又は少なくとも10重量%であることが好ましい。やはり、該酸の量及び性質によって並びに該塩の性質によって、塩の量は、最大で20重量%、又は最大で15重量%であることが好ましい。ケースバイケースで適切な塩濃度を決定することは、当業者の範囲内である。
【0035】
該ハライド塩に存在するカチオンは好ましくは、マグネシウム、カルシウム、カリウム、ナトリウム、ニッケル、コバルト、鉄及びアルミニウム並びにアンモニウムからなる群から選ばれる1以上(1又はそれより多く)である。マグネシウム、カルシウム、ナトリウム、及びカリウムの群から選ばれる1又はそれより多くのカチオンの使用が好ましい。カルシウム及びマグネシウムの使用が特に好ましく、というのもこれらのカチオンは特に大きな濃縮効果を示すからである。マグネシウムの使用が、この理由の故に特に好ましい。カチオンの混合物が用いられうる一方で、処理効率の理由の故に、該ハライド塩の該カチオンの少なくとも90%が、上記で特定された好ましさに従い、一つの種類のものであることが好ましい。好ましくは、該カチオンは、以下で説明されるとおり、マグネシウムである。
【0036】
該ハライド塩は、フッ化物、塩化物、臭化物、又はヨウ化物でありうる。塩化物の使用が好ましい。この選択は、上記で特定されたカチオンについての好ましさとの組み合わせにおいてあてはまる。好ましい塩の具体的な例は、MgCl
2、CaCl
2、NaCl、及びKClである。これらの塩が、本発明の濃縮効果に寄与することが発見された。塩化カルシウム及び塩化マグネシウムの使用が好ましいと考えられる。というのも、それらは高い濃縮効果を示すからである。塩化マグネシウムの使用が特に好ましく、というのも、以下にさらに議論されるとおり、それは高い濃縮効果と、さらなる処理についての適切な可能性とを合同させるからである。
【0037】
一つの実施態様において、該ハライド塩は、HClへ熱分解可能である。この実施態様において、該ハロゲン化物は明らかに塩化物である。HClへ熱分解可能な塩の例は、塩化ベリリウム、塩化マグネシウム、塩化チタン、塩化バナジウム、塩化クロム、塩化マンガン、塩化鉄、塩化コバルト、塩化ニッケル、塩化アルミニウム、塩化イットリウム、及び塩化ジルコニウムからなる群から選ばれる塩化物塩である。そのような塩は、以下で記載されるとおりの熱分解を用いて再利用されうる。良い結果が、FeCl
3及びMgCl
2を用いて得られた。
【0038】
水性混合物は、ハライド塩を、カルボン酸を含む水性プレ混合物に添加することにより調製されうる。しかしながら、該水性混合物は好ましくは、カルボン酸塩を酸によって酸性化することにより調製され、それによって、カルボン酸およびハライド塩を含む水性混合物が形成される。酸性化工程は典型的には、カルボン酸塩を酸性溶液と接触させることにより行われる。しかし、いくつかの実施態様では、例えばHClを用いる場合において、カルボン酸塩を気体状の酸と接触させることも可能であり得る。
【0039】
適切なカルボン酸塩は一般に、酸性化された場合にハライド塩を形成することができるもの、すなわち無機カチオンのカルボン酸塩である。適切なカルボン酸塩の例は、カルボン酸マグネシウム、カルボン酸カルシウム、カルボン酸ナトリウム、及びカルボン酸カリウムである。熱分解を用いる望ましい再循環工程の観点において及びこの化合物について得られる顕著な濃厚化効果の観点において、好ましくはカルボン酸マグネシウムが用いられる。
【0040】
カルボン酸塩は、固体形態および/または溶解した形態であり得る。1の実施態様では、カルボン酸塩が固体形態で供給される。この場合には、酸性化工程が、カルボン酸塩を酸性溶液と接触させることにより行われる。水性混合物を固体形態のカルボン酸塩から調製することの利点は、非常に高いカルボン酸濃度、例えば少なくとも15重量%、特には少なくとも25重量%で、例えば50重量%まで、または例えば40重量%までの濃度がこのようにして得られ得ることである。カルボン酸塩はまた、溶解した形態であり得、典型的には水性溶液の一部としてあり得る。この場合には、酸性化工程が、カルボン酸塩を酸性溶液または酸性ガスと接触させることにより行われ得る。この実施態様は、本発明のポリカルボン酸にとって好ましい。
【0041】
酸性化工程はまた、カルボン酸およびカルボン酸塩の混合物に対して行われ得る。そのような混合物は例えば、低pH発酵において得られ得る。上記混合物は例えば、水性懸濁物又は水性溶液であり得る。
【0042】
酸性化工程で使用される酸は典型的には強酸、例えば塩酸または硫酸である。少なくとも5重量%のハライド塩という必要な存在に鑑みて、塩酸の使用が好ましい。そのような場合には、カルボン酸および塩化物塩を含む水性混合物が得られる。HCl酸性化は例えば、カルボン酸塩をHCl水性溶液と接触させることにより、またはカルボン酸塩溶液または懸濁物をHClガスと接触させることにより行われ得る。
【0043】
カルボン酸塩の酸性化が、カルボン酸塩を酸性溶液と接触させることにより行われる場合には、それは好ましくはできるだけ高い酸濃度を有する。そのような高い酸濃度は、高いカルボン酸濃度を有する水性混合物を結果し、それは望ましい。したがって、酸性溶液は、酸性溶液の総重量に基づいて、少なくとも5重量%、より好ましくは少なくとも10重量%、さらにより好ましくは少なくとも20重量%の酸を含む。
【0044】
酸性化は典型的には、過剰の酸を使用して行われる。過剰分は好ましくは小さい。その結果、得られる水性混合物は高度に酸性ではなく、それは、そのような混合物をさらに処理する点において望ましくないかもしれない。例えば、使用される過剰の酸は、得られる水性混合物がpH2以下、好ましくは0〜1のpHを有するようなものであり得る。酸性ガス(例えばHClガス)が使用される場合には、それをカルボキシレート溶液または懸濁物と接触させることにより行われ得る。特に、HClガスが溶液または懸濁物中に吹き込まれ得る。HClガスが使用される場合には、HClが、上述したように、熱分解工程に由来し得る。
【0045】
好ましくは、酸性化が、75℃以下の温度で行われる。より高い温度では、装置を高い温度で酸性環境の厳しい条件に適応させることが不経済になる。
【0046】
酸性化後に、固体物質が、水性混合物から、例えば濾過により、除去され得る。例えば、ポリカルボン酸が水中での低い溶解度を有する場合、酸性化工程の間に沈殿するカルボン酸が濾過除去されることができ、溶解したカルボン酸及びハライド塩を含む残りの溶液が、本発明に従う方法によって抽出に付される。
【0047】
水性混合物は、酸性化後、濃縮工程への抽出前に、濃縮されうる。該濃縮工程についての上限は一般に、いずれが最初に沈殿するとしても、ハライド塩又はポリカルボン酸塩の溶解度である。これらの化合物の適切な濃度は、他の箇所で記載されている。
【0048】
1実施態様では、発酵プロセス由来のカルボン酸塩が使用される。したがって、本発明の方法は、カルボン酸を形成するための発酵工程をさらに含み得る。発酵プロセスは、炭素源、例えば炭水化物を発酵ブロス中で微生物によって発酵してカルボン酸を形成する工程、および上記カルボン酸の少なくとも一部を塩基、特にマグネシウム塩基又はカルシウム塩基の添加によって中和し、それによってカルボン酸塩を得る工程を含む。
【0049】
カルボン酸を製造するための発酵プロセスは当技術分野で知られており、ここではさらなる説明を必要としない。当業者の一般常識を使用して、製造されるべき所望の酸、炭素源および利用できる微生物に応じて、適する発酵プロセスを選択することは当業者の範囲内である。
【0050】
発酵プロセスの生成物は発酵ブロスであり、これは、カルボン酸塩、バイオマスおよび任意的にさらなる成分、例えば糖、タンパク質および塩などの不純物を含む水性液体である。
【0051】
所望ならば、発酵ブロスは、さらなる処理の前に、バイオマス除去工程、例えば濾過工程に付され得る。これは一般に、生成物の品質を改善するために好ましい。
【0052】
生成されるカルボン酸に応じて、別の中間工程は、バイオマス除去の前、後または同時に発酵ブロスから固体反応生成物、すなわちカルボン酸マグネシウムを分離することおよび任意的に、該カルボン酸マグネシウムを洗浄工程に付すことであり得る。
【0053】
生成されるカルボン酸に応じて、別の中間工程は、酸性化工程の前に、発酵ブロスを濃縮工程に付して、組成物中のカルボン酸マグネシウムの濃度を高めることでありうる。この工程は、バイオマス除去の前、後、又は同時に行われうる。
【0054】
他の中間工程、例えば精製工程は、当業者に明らかなように、所望により行われ得る。
【0055】
全体的にみて、ポリカルボン酸について、適切な処理順序の1つの実施態様は、以下のとおりだろう:
上記のとおりに、溶解したポリカルボン酸塩を含む発酵培地を形成すること、
上記のとおりの任意的なバイオマス除去、
該ポリカルボン酸塩の濃度を高める為の任意的な濃縮工程、
酸性化、該ポリカルボン酸塩をポリカルボン酸に転化するため、ハライド塩の形成を伴う、
該混合物から不溶性ポリカルボン酸を分離して、その溶解度レベルにポリカルボン酸を含有し及びハライド塩を含有する液を生じる、
該ハライド塩濃度を高める為の該溶液の任意的な濃縮(必要な場合には次に、さらに沈殿した酸の除去が行なわれる)、又は所望のハライド塩濃度を確保する為の、ハライド塩の任意的な添加、
上記で記載されたとおりの抽出。
【0056】
本発明に従う方法では、上記水性混合物が、それをケトン及びエーテルの群から選択される有機溶媒を含む有機液体と接触させることによる抽出工程に付され、それによってカルボン酸有機溶液および、該ハライド塩を含む水性廃液を得る。この順抽出では、該カルボン酸が、水性混合物中に存在する不純物から、それを第一有機液体に溶解することにより分離される。不純物は水性混合物中に残るであろう。
【0057】
好ましくは、有機液体が、少なくとも90重量%、好ましくは少なくとも95重量%、より好ましくは少なくとも99重量%の有機溶媒を含む。1実施態様では、有機液体が有機溶媒である。典型的には、少量の水が第一有機液体に存在し得、特に液体が(部分的に)、抽出後に再循環工程から再循環された有機溶媒を含む場合にはそうである。有機溶媒は、ケトンおよびエーテルの群から選択される。これらの化合物が、本発明に従う方法において良好な特性を示し、それらが良好な濃縮効果を示すことが分かった。適する有機溶媒の選択は、順抽出の際の高い分配比を確立することに寄与し得る。その場合には、比較的少量のカルボン酸だけが水性廃液において失われるであろう。
【0058】
本発明では、ケトン、特にはC5+ケトン、より特にはC5〜C8ケトンを使用することが好ましい。C5+は、少なくとも5つの炭素原子を有するケトンを表す。混合物も使用され得る。C9+ケトンの使用はあまり好ましくない。なぜならば、これらの化合物は、より低い濃縮効果を示すと考えられ、最終産物においてより多い汚染物を結果し得るからである。メチルイソブチルケトン(MIBK)の使用は、良好な濃縮効果を得るために特に魅力的であることが分かった。さらに、ケトンは実質的な程度に反応も分解もせず、すなわち汚染物をほとんど生ぜずそして安定なプロセス運転を可能にするという点においてプロセス条件下で安定であるので、ケトンの使用が好ましいことが分かった。エーテル、特にはC3〜C6エーテルもまた使用されうる。しかし、それらはより好ましくないことが分かった。特にはなぜならば、エーテルの使用は、より多くの溶媒損失および最終産物におけるより多くの汚染物を生じるからである。エーテル群内で、メチルターシャリーブチルエーテル(MTBE)及びジエチルエーテル(DEE)の使用が好ましいが、ケトンの使用よりも好ましくない。
【0059】
本発明の方法は、抽出剤、例えばアミンの使用を必要としない。実際、有機溶媒における抽出剤の使用は一般に望ましくない。抽出剤は、抽出されるべき化合物(本発明の場合にはカルボン酸)と錯体を形成する化合物である。しかし、錯体の形成(順抽出中)および破壊は、比較的多量のエネルギーを必要とし、その結果、順抽出と逆抽出との間の温度差が必要以上に大きいことが必要であろう。したがって、有機液体は好ましくは、抽出剤を含まずまたは実質的に含まず、特にアミン抽出剤を含まないまたは実質的に含まない。すなわち、本発明の方法におけるカルボン酸は好ましくは、中酸性形態で抽出され、塩または錯体の形態ではない。
【0060】
有機液体は好ましくは、アミン、エーテルおよびアルコールを本質的に含まない。これは、これらの化合物が、存在するとしても、有機液体の重量に対して計算して、各々2重量%未満、好ましくは1重量%未満、より好ましくは0.5重量%未満の量で存在することを意味する。
【0061】
順抽出において使用される水性混合物に対する有機液体の比は、下記を考慮して決定される。一方において、有機液体の量が比較的高いならば、有機液体へと抽出される水性混合物中の酸の割合(%)として表わされる抽出の効率が高いであろう。他方、多量の有機液体が使用されなければならず、そして濃縮効果が低下するであろう。逆に、有機液体の量が比較的低いならば、濃縮効果が改善されるが、抽出効率が低下するであろう。
【0062】
上記で定義された分配比(DR)は、これに関するガイダンスを与え得る。1実施態様では、順抽出で使用される有機液体の量が水性混合物の量の0.5/DR〜1.5/DR倍の範囲であり得る。順抽出のための水性混合物の量の0.5/DR〜0.8/DR倍の範囲の有機液体の量の使用は、良好な濃縮効果のために望ましくあり得る。しかし、抽出工程の収率は、この場合には、99%未満であり得る。順抽出のための水性混合物の量の1.3/DR〜1.5/DR倍の範囲の有機液体の量の使用は、99%より上の抽出収率を生じ得るが、典型的には、より顕著でない濃縮効果を有しうる。順抽出のための水性混合物の量の0.8/DR〜1.3/DR倍、特に1.0/DR〜1.2/DR倍の範囲の有機液体の量の使用が最も望ましい。なぜならば、良好な濃縮効果および99%より上の抽出収率の両方が得られ得るからである。本明細書で使用される抽出収率は、順抽出の際に有機液体へと抽出されるカルボン酸の重量%を意味する。
【0063】
順抽出は典型的には、水性混合物を第一有機液体と接触させることにより行われ、それによってカルボン酸有機溶液および、ハライド塩を含む水性廃液を得る。好ましくは、上記抽出が向流抽出である。すなわち、水性混合物および有機液体が互いに向流を使用して接触される。そのような構成において、カルボン酸の有機液体への非常に効率的な抽出が、特に収率に関して、得られ得る。
【0064】
上記抽出は好ましくは、抽出カラムにおいて行われる。使用される有機溶媒が水よりも低い密度を有する場合(例えばMIBKの場合)には、有機溶媒が好ましくはカラムの底部に供給され、一方、水性混合物がカラムの頂部で供給される。
【0065】
その結果、2つの相が形成される。有機溶媒を含む上部相と水性混合物を含む下部相である。上記2の相の界面では、水性混物中に存在する任意のバイオマスおよび/または他の固形物が蓄積するであろう。上述したように、バイオマスは、水性混合物中の塩の存在故に、乳化を引き起こさない。カラムの底部での有機溶媒の供給によって、有機溶媒は水性混合物を通って上方に移動し、それによって、カルボン酸を抽出し、そしてカルボン酸有機溶液を形成するであろう。カラムの底部では、水性廃液が、典型的には水性塩溶液(この溶液がハライド塩を含む)の形態で、得られ得る。
【0066】
順抽出は、20〜100℃の温度、好ましくは30〜80℃の温度、例えば40〜60℃の温度で行われ得る。順抽出のための望ましい温度に達するために、水性混合物および/または有機液体が、順抽出の前に加熱され得る。上述したように、20〜100℃の範囲内でより高い温度は、水中での有機溶媒の溶解度の低下に関して有利である。さらに、分配比が、上昇する温度とともに増加し得、および/またはより強力な濃縮効果をもたらし得る。酸性水性混合物のありうる腐食条件の点で、60℃より上の温度は不利であり得る。しかし、腐食は、例えば、プラスチックまたはガラスで裏打ちされた抽出装置を使用することにより回避され得る。順抽出において形成される水性廃液は、ハライド塩を含む。水性廃液は典型的には、水性塩溶液(この溶液がハライド塩を含む)の形態で得られる。この溶液は比較的純粋である。なぜならば、不溶性不純物は典型的には、抽出の際の水/有機界面に残るからである。
【0067】
上記系からの酸の損失を防ぐために、廃液におけるポリカルボン酸の濃度ができるだけ低いのが好ましい。1実施態様では、廃液におけるポリカルボン酸濃度が1重量%より下、特に0.5重量%より下、より特に0.1重量%より下である。本発明に従う方法を使用する抽出が、これらの非常に低い酸の損失を得ることを可能にすることが分かった。
【0068】
上記系からの溶媒の損失を防ぐために、およびさらなる処理における問題を防ぐために、特に熱分解工程が使用される場合には、廃液における溶媒の濃度ができるだけ低いのが好ましい。1実施態様では、廃液における溶媒濃度が、1重量%より下、特に0.5重量%より下、より特に0.2重量%より下、好ましくは0.1重量%より下である。本発明に従う方法を使用する抽出が、これらの非常に低い溶媒の損失を得ることを可能にすることが分かった。
【0069】
上記系に存在する酸の少なくとも80%、特に少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも98%、さらにより好ましくは少なくとも99%が、順抽出後の有機相にあることが好ましい。上記系に存在するハライド塩の少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも98%、特に少なくとも99%が、順抽出後の水性廃液に存在することが好ましい。
【0070】
カルボン酸有機溶液は、次いで、逆抽出工程に付される。任意的に、順抽出で得られたカルボン酸有機溶液が、中間の洗浄工程に付されて、カルボン酸有機溶液に存在する任意の不純物を除去する。そのような不純物は典型的には、水性混合物から移動し、例えば塩化物イオンまたは金属イオンである。そのような洗浄工程では、カルボン酸有機溶液が、洗浄液体と接触される。そのような工程は、不純物、例えば最終生成物、すなわちカルボン酸水性溶液における塩化物イオンおよび/または金属イオンの量を低下し得る。これらのイオンの除去は、腐食問題をさらに防ぎ得る。洗浄液体は典型的には、水性液体である。
【0071】
1実施態様では、逆抽出において生成物として形成されるカルボン酸水性溶液の一部が、洗浄液体として使用される。この実施態様では、生成物である全カルボン酸水性溶液の少量、例えば0.5〜5重量%、特に0.5〜2重量%が洗浄のために使用され得る。洗浄液体は、次いで、水性混合物へ再循環され得、順抽出に再び付され得る。洗浄中は、有機液体から酸を多く除去しすぎないように注意すべきである。なぜならば、これは、最終生成物におけるカルボン酸の濃度に悪影響を及ぼすからである。適する洗浄条件を決定することは当業者の範囲内である。
【0072】
順抽出において形成されたカルボン酸有機溶液は、任意的に洗浄された後、水性液体へと逆抽出され、それによって、カルボン酸水性溶液および第二の有機液体を得る。この工程は、本明細書では、第二抽出または逆抽出と言う場合がある。逆抽出は、カルボン酸水性溶液を生じ、これは、最初の水性混合物よりも高い純度および、特には、より低い塩濃度を有する。上述したように、本発明の生成物であるカルボン酸水性溶液は典型的には、水性混合物よりも高濃度のカルボン酸を有する。
【0073】
逆抽出で使用される酸有機溶液に対する水性液体の比は、下記を考慮して決定される。一方において、水性液体の量が比較的高いならば、水性液体へと抽出される有機酸溶液中の酸の割合(%)として表わされる抽出効率が高いであろう。他方、多量の水性液体が使用される必要があり、そして濃縮効果が低下するであろう。逆に、水性液体の量が比較的低いならば、濃縮効果が改善されるであろうが、抽出効率が低下するであろう。
【0074】
逆抽出において使用される酸有機溶液に対する水性液体の比についての適切な値は、上記で定義された分配比(DR)から得られ得る。1実施態様では、逆抽出で使用される水性液体の量がカルボン酸有機溶液の量の0.5xDR〜1.5xDR倍である。これらの比は、本発明方法の濃縮効果に関して特に重要であり得る。逆抽出のためのカルボン酸有機溶液の量の0.5xDR〜0.8xDR倍の範囲の水性液体の量の使用は、良好な濃縮効果のために望ましくあり得る。しかし、逆抽出工程の収率は、この場合には、99%収率より低くあり得る。逆抽出のためのカルボン酸有機溶液の量の1.3xDR〜1.5xDR倍の範囲の水性液体の量の使用は、99%より高い逆抽出収率を結果し得るが、典型的には、より顕著でない濃縮効果を有する。カルボン酸有機溶液の量の0.8xDR〜1.3xDR倍、特に1.0xDR〜1.2xDR倍の範囲の水性液体の量の使用が最も望ましい。なぜならば、良好な濃縮効果および99%より高い逆抽出収率の両方が得られ得るからである。本明細書で使用される逆抽出収率は、逆抽出の際に水性液体へと抽出されるカルボン酸の重量%を意味する。
【0075】
逆抽出は典型的には、カルボン酸有機溶液を水性液体と接触させることにより行われ、それによってカルボン酸水性溶液および第二有機液体を得る。上記カルボン酸水性溶液は、生成物溶液である。所望ならば、上記第二有機液体の全部または一部が、任意的に精製工程に付された後、順抽出へ第一有機液体として再循環され得る。好ましくは、上記抽出が向流抽出である。そのような構成では、カルボン酸の水性液体への非常に効率的な抽出が、特に収率に関して、得られ得る。
【0076】
上記抽出は好ましくは、抽出カラムにおいて行われる。使用される有機溶媒が水よりも低い密度を有する場合には、水性液体が好ましくはカラムの頂部で供給され、一方、カルボン酸有機溶液がカラムの底部で供給される。その結果、2つの相が形成する。有機溶媒を含む上部相と水性液体を含む下部相である。水性液体をカラムの頂部で供給することにより、水性液体はカルボン酸有機溶液を通って下方に通過し、それによってカルボン酸を抽出しそしてカルボン酸水性溶液を形成する。カルボン酸水性溶液は次いで、カラムの底部で回収され得る。
【0077】
順抽出の後にカルボン酸有機溶液から有機溶媒を蒸発させ、それによってカルボン酸を直接得ることが考えられたことが注目される。しかし、本発明に従う逆抽出を使用すると、より良好な結果が得られた。逆抽出は、より少ない不純物およびよりエネルギー効率的な方法を結果した。
【0078】
逆抽出は、20〜100℃、好ましくは80℃以下、より好ましくは60℃以下の温度で行われ得る。逆抽出は好ましくは、冷却に伴うエネルギーコスト故に、0℃より上の温度、好ましくは少なくとも10℃の温度で行われる。順抽出での温度に等しいかそれに近い温度が逆抽出のために特に好ましい。これは、エネルギーを節約し得る。なぜならば、抽出プロセスでの異なる流れの間に、より少ない加熱および/または冷却を必要とするからである。したがって、1実施態様では、逆抽出が、順抽出が行われる温度の10℃以内、例えば5℃以内の温度で行われる。順抽出および逆抽出における同様の温度の使用は、本明細書において、等温条件とも言う。順抽出および逆抽出は、ほぼ同じ温度で、例えば5℃未満の順抽出と逆抽出との温度差を使用して行われ得る。
【0079】
1実施態様では、有機液体への抽出(順抽出)が、水性液体への抽出(逆抽出)よりも低い温度で行われる。そのような抽出法は、標準温度変化抽出(regular temperature swing extraction)としても知られる。逆抽出中の温度は、この場合には、順抽出での温度よりも5〜45℃、例えば10〜20℃高い。
【0080】
別の実施態様では、有機液体への抽出(順抽出)が、水性液体への抽出(逆抽出)よりも高い温度で行われる。そのような抽出法は、逆温度変化抽出(reverse temperature swing extraction)として示され得る。逆温度変化抽出では、逆抽出工程が、順抽出が行われる温度よりも10〜50℃または20〜30℃低い温度で行われ得る。逆温度変化モードで抽出を行うことは、生成物中の酸の増加された濃度をもたらし得ることが分かった。
【0081】
本発明に従う方法における1実施態様では、カルボン酸有機溶液が、熱交換器を使用して、第二有機液体と熱接触される。これは、順抽出および逆抽出が異なる温度で行われるときに有利である。
【0082】
本発明に従って行われる逆抽出後に得られるカルボン酸水性溶液は、順抽出へ供給された水性混合物よりも高いカルボン酸濃度を有する。これはまた、下記実施例において示される。
【0083】
本発明の方法の濃縮効果の程度は、特に、順抽出で使用される有機液体と水性混合物との比、逆抽出のために使用される水性液体とカルボン酸有機溶液との比、該2つの抽出工程が行われる温度、使用される有機液体の種類、および水性混合物中に存在する溶解したハライド塩の量に依存する。さらに、高い抽出収率が得られるようにプロセス条件を選択することが好ましい。これに関して、順抽出で使用される有機液体の重量が、水性混合物の重量の1.0/DR〜1.2/DR倍であり、逆抽出で使用される水性液体の重量が、カルボン酸有機溶液の重量の1.0xDR〜1.2xDR倍であるのが好ましい。さらにより好ましくは、順抽出で使用される有機液体の重量が、水性混合物の重量の1.1/DR〜1.2/DR倍であり、逆抽出で使用される水性液体の重量が、カルボン酸有機溶液の重量の1.1xDR〜1.2xDR倍である。これらの重量比は、50〜60℃の順抽出温度とさらに組み合わされると、特に良好な濃縮効果を結果する。この場合には、使用される有機液体が好ましくはケトンであり、より好ましくはMIBKである。この場合には、逆抽出が好ましくは20〜60℃で、より好ましくは50〜60℃で行われる。すなわち、下記のパラメータの組合せが、特に良好な濃縮効果を結果し得、同時に良好な抽出収率を結果し得る:
30〜60℃、特に50〜60℃の順抽出温度、
20〜60℃の逆抽出温度、
水性混合物の重量の1.1/DR〜1.2/DR倍である、順抽出で使用される有機液体の重量、
カルボン酸有機溶液の重量の1.1xDR〜1.2xDR倍である、逆抽出で使用される水性液体の重量
有機液体が、ケトン、特にはC5〜C8ケトン、より特にはメチルイソブチルケトンである。
【0084】
本発明の方法の合計収率は、順抽出における抽出収率および逆抽出における抽出収率の両方に依存する。順抽出の収率は、順抽出を向流で行うことにより増加され得る(上記も参照)。そのような向流抽出は、1以上の容器(例えばミキサーまたは沈降機(settler))において行われ得る。上記抽出工程の収率は、容器の大きさおよび/または数を増加させることにより増加され得る。1より多くの容器を使用するとき、容器は互いに直列に連結される。この場合には、第二またはさらなる容器が、先行する容器での抽出後に得られる水性液体をさらに抽出する。しかし、好ましくは、順抽出が、所望の高い収率(典型的には99%より上)を得るために十分大きい1の容器(例えば抽出カラム)において行われる。例えば、10〜20mの高さを有する大きい抽出カラムが当技術分野で知られている。当業者は、99%以上の収率を得るために、容器の大きさおよび/または数を調整することができるであろう。
【0085】
逆抽出の収率は、順抽出に関して上述したのと同じやり方で増加され得る。1より多くの容器が使用される場合には、第二またはさらなる容器が、先行する容器での抽出後に得られる有機液体をさらに抽出する。
【0086】
本発明の方法は、生成物であるカルボン酸水性溶液を水の蒸発により濃縮する工程をさらに含み得る。この工程で蒸発された水は、それを逆抽出での水性液体として再使用することによりリサイクルされ得る。生成物であるカルボン酸水性溶液は、抽出工程からの少量の(存在するならば、例えば、カルボン酸水性溶液の合計量に基づいて0.1〜3重量%のオーダーの)有機溶媒および残渣を含み得る。蒸発工程が行われる場合には、有機溶媒も典型的には上記濃縮工程で蒸発され、それはしばしば、水のストリッピング効果により高められる。
【0087】
上述したように、逆抽出において得られた第二有機液体は、それを順抽出における第一有機液体として再使用することにより再循環され得る。
【0088】
ハライド塩が塩化物塩(例えばMgCl
2)である場合、本発明の方法は好ましくは順抽出において得られた水性廃液を、少なくとも300℃の温度での熱分解工程に付し、それによって金属酸化物(例えばMgO)およびHClを形成する工程を含む。この工程では、塩化物塩が、金属酸化物およびHClの形成下で熱加水分解される。これらの化合物は、カルボン酸製造プロセスにおける他の段階において再循環され得る。例えば、金属酸化物は、発酵プロセスにおいて、例えば中和剤またはその前駆体として使用され得る。金属酸化物は、この目的のために、水と接触されて、金属水酸化物(例えばMg(OH)
2)スラリーが得られ得る。さらに、HClは、発酵プロセスで得られたカルボン酸マグネシウムを酸性化するために使用され得る。HClは典型的には、熱分解中または熱分解後に水に溶解され、それによってHCl溶液が得られる。すなわち、熱分解工程は、廃物質が再循環され、その結果、比較的少ない廃棄物が製造されるところの方法を提供する。
【0089】
本発明の方法は好ましくは、連続法である。しかし、バッチ法として行うこともできる。
【0090】
本発明を下記実施例によってさらに説明するが、本発明は、それらに限定されない。
【実施例】
【0091】
一般的手順
【0092】
一般的手順が、連続抽出法を模倣する為に構築される。すなわち、抽出溶媒と、抽出されるべき媒体との間の体積比は、抽出されるべき媒体中の酸の濃度が抽出に有意に影響しないようなものである。
【0093】
表中に規定された量で酸及び塩を含む供給溶液が調製された。該溶液が一晩撹拌された。
【0094】
この供給溶液の1000gが、溶媒としてのメチル−イソブチルケトンの約100gと混合され、20℃で最低15分間撹拌された。該混合物が、分離漏斗に移され、そこで相が分離された。両方の相の試料が分析の為に採られた。次に、有機相の約100gが、10gの純水と混合され、そして、20℃で最低15分間撹拌された。次に、混合物全体が再度分離漏斗に移され、相が放置されて分離し、両方の相の試料が採られる。試料が、酸含有割合について分析された。
【0095】
実施例1:種々の種類の酸の抽出
【0096】
塩として塩化マグネシウムと、コハク酸、イタコン酸及びフマル酸のそれぞれとを含む複数溶液。該供給溶液の組成が、表1.1に提示される。結果が、表1.2、1.3及び1.4に与えられる。これらの表は濃縮比も与え、これは生成物中の酸濃度と供給物中の酸濃度との間の比である。
【0097】
【表1.1】
【0098】
【表1.2】
【0099】
【表1.3】
【0100】
【表1.4】
【0101】
実施例2:塩の種類の効果
【0102】
塩の性質の効果を調査する為に、コハク酸が、コハク酸と種々の種類の塩とを含む溶液から抽出された。出発溶液の組成と生成物中の酸濃度が、以下の表2.1にある。該表から、塩化マグネシウムが、特に高い濃縮比を示すことが分かる。
【0103】